完全無欠なアタシのヒーローアカデミア 作:とある世界のハンター
続きません。
「今日は俺のライブへようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
━━━━━━━━...ライブ?
筆記試験を終えた受験生達は、千人単位の人間が席に着けそうな程闊大な講堂に集められていた。それぞれの席には次の試験──実技試験──に関するものと思われる資料が配られており、司会の雄英教師──プロヒーロー:プレゼントマイク──による入試説明がたった今開始された。
「セイヘーイ!!!」
筈だった。
「サンキュー八千代!今日のMCは来年ヒーロー科2年の八千代!ヒーローネーム:千代女にも来てもらってるぜ!!」
「いぇーーい!!!」
━━━━━━━━師匠!!?
講堂中の視線が注ぐ舞台上、プレゼントマイクの横にはバニーガール姿の命が同じようにマイクを握って立っていた。
何故、という楓の視線を感じた命はウインクを投げてみる。自分に投げられたと勘違いした女に飢える野郎の黄色い声を他所に、ジト目で返す楓。心做しか妬んでるように見える彼女の視線は不意に下へと落とされる。
━━━━━━━━仮想
楓が物思いに耽ける傍ら、試験説明は進んでいく。円滑に、とは言い難いが無事に説明が終わると、受験生達はプレゼントマイクによって指定された更衣室へと向かう。
━━━━━━━━なんですか師匠...
楓も更衣室へ向かおうと席を立ったが、命のアイコンタクトに気付き目を配る。
『頑張ってね、我が愛弟子。』
『言われなくとも分かってます。師匠。』
一秒にも満たない僅かな時間。朝の「行ってきます」にも近い感情の言葉を投げかけた彼女達は、既に師弟なのだ。
相模楓は、もう修行を積んでいるのだ。
━━━━━━━━問題は仮想
講堂を後にした楓は、更衣室で動きやすい服装に着替えていた。
「個性発動に必要な機器等を予め申請していた方は、バスに乗車される前に受験票を持って受付までお越しください。」
取り付けられたスピーカーから流れた報せを受け、楓は軽いストレッチを熟しながら受付へと向かう。多種多様な個性が存在するこの世界、食物をトリガーとした個性や機器を媒介に発動する個性もあるのだ。
楓もそんな個性の持ち主。彼女の個性は『スパイスドープ』。その中身はスパイスを服用することによって身体能力を上昇させるといったもの。スパイスにも様々な種類があるが、楓の1番相性が良いスパイスはローレル。スパイスの種類によって上昇率が変わるため、彼女が個性を発動させる時はいつも決まってローレルだ。因みに上昇率だが、予め特訓していた影響か通常の5倍だ。ローレル以外を服用すると、上昇率が著しく落ちてしまう。
「すいません、予め申請していた相模です。」
「はい、受験票お預かり致しますね。...はい、相模楓さんですね。こちら、お預かりしていた物です。どうぞ。それでは頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
スパイスを受け取った楓は受付を後にして、それが入った小包をハーフパンツすぐ下の太腿のベルトに装着する。すぐに取り出せる位置にある事を確認した彼女は、そのまま複数ある試験会場行きのバスの一つへと歩を進めた。
「...デカ」
試験会場に着いた楓は、その会場の大きさに驚きの言葉を零してしまった。50mを超える巨人ですらくぐれてしまいそうな程巨大な門。そしてそれが不自然な大きさに見えない程の会場。中にはビジネス街とも見紛う程のビル群がある。こんな試験会場が複数個あり、さらに会場として使われていない施設がまだまだあると考えるとこの雄英高校は一体どれほどの敷地があるのか...どれほどお金を持っているのかと気が遠くなってしまう。
「はい、スタートー!!」
━━━━━━━━ッ!
試験会場に設置された巨大スピーカーから発せられた試験開始の合図。楓と同じ会場の者は思考停止、恰も豆鉄砲を喰らった鳩の様にしてスピーカーを仰いだ。
だが楓は違った。
彼女の視線の先には仮想
楓は素早くローレルを一つ取り出すと、口に加えて一口噛みきる。瞳は紅く染まり、脳が、身体が、みるみる活性化していくのが感じられる。
「今のアタシは、一味違う!」
右足に力を入れて踏み込むと、脱兎の勢いで仮想
「今のが2ポイントね...さぁ次!」
「はぁ...はぁ...」
39ポイント目となる仮想
そんな楓を遠くから眺める影が三つ。会場の壁の上部にあった。
「あちゃーやっぱり体力不足か〜。」
「私達の時もそうだったよね。やっぱり受験勉強に気を取られちゃうからかな...」
「しょうがないよ。ここ偏差値高いから。」
「いや〜、でもやっぱりヒーローなんだから体力付けなきゃ!勉強なんてその次だよ!」
「メイちゃんは勉強しなきゃダメだよ。毎回毎回初芽さん特製ドリンクに頼って...テストの後とかいっつも楓ちゃんがお世話してるじゃん。あれ使うと反動凄いんだから。」
「ドリンクに頼ったからお世話されたんじゃないよ!メイは常にフーにお世話されてるの!!」
「それ反論になってるの...?」
「ま、とにかくこれが終わったらフーにはみっちりと修行だね。」
「...さすがにそれ師匠に押し付けたりしないよね?」
「え?えへへーまっさかー。」
「あ、見て見て。0ポイント出てきたよ。」
「ホントだ!フーちゃん倒せるかな〜。」
「いや私のフーはそんな化け物じゃないから。ユッキー系列じゃないと倒せないって。」
「私あれ死ぬかと思ったんだよ!?師匠に0ポイント倒せって言われて!!」
「そういえばどうやって倒したの?」
「あーそれメイも聞きたい。」
「えっと...まず仮想
「うん?」
「その後電源スイッチになってるとこ探して...見つけられなかったけど回路はあったからそこ壊して。」
「...次元が違うね。」
「違わないよ!師匠と師匠の師匠は普通に倒したんだから!!」
「...うーん。」
「まぁ、スパルタ教育されてたらそうなるよね。あ、時間切れだ。」
「誰も倒せなかったね〜。」
「あ、あっちの会場のは壊されてるよ!ってかめっちゃ吹っ飛んでる!?すご!」
「よく双眼鏡無しで見えるね、モモち。」
「えへへ〜。」
「んじゃ帰ろっか。
三つの影は立ち上がると、恰も猫がブロック屏から飛び降りるかのように巨大な壁から降り立った。
影の一つは八千代命。現代のツキカゲの一員である半蔵門雪からの指示で、楓の試験の動向を伺っていたのだ。そしてあと2つ。桃色のショートヘアをした彼女は源モモ。黒色のロングヘアは石川五恵。共に雄英高校1年で、現代のツキカゲのメンバーだ。
「じゃあ2人とも。またね〜。」
「うん。メイちゃんもまた、学校で。」
「宿題やってくるんだよ〜?」
「は〜い。」
2人と別れた命は、心身ともに疲れたであろう弟子の姿を思い浮かべながら、今日の夕飯は私が作るのだと心に決めた。
━━━━━━━━やれやれ、また小言を言われるのかねぇ
どこか面倒臭がってる素振りを見せながらも、弟子が校門を出てくるのを今か今かと待っている。
その顔は、混沌とは真逆のように透き通る様な笑顔だった。