東京喰種:re Le mat   作:瀬本製作所 小説部

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He's Joker

人だかりの少ない夜の街に歩く、私。私がこの街に訪れた時は明かりがあったのだが、今ではサビがちょこちょことあるシャッターで閉まっていた。

 

私の名前は田中摩美々(たなかまみみ)。夜の13区に歩いていた高校生だ。ふつーの高校生が歩いていけない時間帯にも関わらず平然と歩いていた、私。そしたら当然誰かが声をかけてきた。その人はナンパをしてきたチャラい男ではなく、よく補導してくる警察の人ではなかった。その人は東京保安委員会(TSC)の保安官で、名前はじゅーぞと言う。

 

(じゅーぞってなんであんなに女の子ぽかったんだろう?)

 

じゅーぞと出会った時を国語で読んだ小説の言葉で表すなら、私は不思議でたまらないと使いたくなる。初めじゅーぞを見た時は同じ女の子だと思った。保安官とか警察の人って公務員だからめんどくさい人が思い浮かぶけど、じゅーぞは他の人違って独特な服で、男の人にも関わらず女の子ぽい高い声で私に声をかけたのだ。じゅーぞーとファミレスに行く前まではじゅーぞーが本当に東京保安委員会(TSC)の人だと全く信じなかった。

 

(まぁ、話してて面白い人だなぁっと思ったなー)

 

じゅーぞと別れた私は駅へと続く道に歩いていた。什造からそのまま家に帰るよう言われたんだけど...

 

 

 

 

 

しかし私は、じゅーぞの言葉をそのまま受け入れるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

(私は悪い子ですからねー)

 

私ははじゅーぞに軽蔑するかのように嘲笑い、歩いていた歩道から抜けて人気(ひとけ)のない建物の裏に歩いていた。そこは街の光が行き届かない暗い小道で、生ゴミの嫌な匂いが立ち込めれおり、換気扇の音が怪しさを顕れていた。じゅーぞはここに私が行っていることは思ってはいないだろう、と考えていた私。

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

突如、後ろから誰かの手が私の口を塞ぎ、そのまま暗闇へと引き摺り込まれた。闇に引き込まれたと同時に私は視界を失い、意識も同じく消え去ってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...?」

 

意識が徐々に取り戻した、私。

目をゆっくりと開けると先ほどいたはずの狭い小道ではなく、薄暗い高架橋の下に倒れていた。周りを見渡そうとしたその時

 

「お、やっと目覚めたか」

 

すると私の後ろから誰かの声が聞こえた。私は後ろに振り向くと何人かの男が私を見下ろすように冷たい視線で見ていた。

 

「.....っ!!」

 

「おや?俺たちに驚いたあまり話す気はないようだな?」

 

一人の男が地面に倒れる私に近づき、私の顎をぐいっと上げた。私は周りの男たちの顔を見て言葉を出すことができなかった。彼らの目をよく見るとその男たちの両目は赤黒く染まっていた。この男は人間ではなく、前まで散々テレビで取り上げられていた喰種だとわかったのだ。まさか自分の目で出会うとは考えもしなかった。

 

「さっきいた店でお前をマークして正解だったな。今まで喰ってきた馬鹿と同じ道に進んでよかったなあ」

 

男はそういうと、周りの男たちは冷たくあざ笑う。私は喉に何かかが詰まっているかのようにしゃべれない。私の目の前にいる男は赤黒い目で私をまっすぐと見る。

 

「さてと...ただ喰うだけじゃ物足りねぇな?なにせお前はいい女だ。体も顔も他の女のよりいいもんだ。普通に殺しちゃもったいない」

 

男はそういうと私の顎を掴んでいた手を、そのまま私の腕を掴んだ。

 

「...いやっ!」

 

私は自分の手を掴んだ男の手を振り払う。

 

「おっと、やっと声が聞けた。そう怖がんなよ。ただ痛めつけて死ぬより快楽を得て死んだほうがいいだろ?俺はこういうの最高に好きなんだよ」

 

男の下劣な顔を見た時、怯える私は胸の中でこう思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はここで死ぬんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りにいる男たちは私を殺す以外に何をやるかは、目の前の男の瞳で結果がわかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで私は言う通りにしなかったんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時じゅーぞの言葉をそのまま従えばよかったのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔と死への恐怖を抱いていた、私

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその時だった

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、マミミは本当に悪い子ですねえ」

 

「っ!!」

 

緊迫した空気の中、女の子とに似た高い声が空気を一掃するように声が響き、私の周りにいた男たちは声がした方向に振り返った。私はその声を耳にした時、ピンっと気がついた。まさかと思い声がした方向を向くと、先ほどファミレスで別れていたはずのじゅーぞが右手に銀色のアタッシュケースを持ちながら立っていた。

 

「なんだてめぇ?俺たちに殺されてぇか?」

 

何人かの男は突然現れたじゅーぞに睨みつけるが...

 

「全く目つきの悪い喰種ですねー。僕をそんなに見つめても何変わらないですよ?あとその子を離してください、嫌がってますよ?」

 

じゅーぞは睨みつける喰種たちを怖がることなく笑い、私に指をさした。

 

「悪いなぁ、この女は俺らのもんでね」

 

私の目の前にいた喰種がじゅーぞにそう言うと、私の肩に腕を回した。

 

「まるで夜の繁華街にうろつくチャラ男ですか。そんな強引にやってもすぐに逃げられますよ?彼女の肩から離れないなら、僕が離れさせますよ」

 

「なんだと..?」

 

「だから、僕がこの手で離させましょう」

 

じゅーぞは恐怖を抱く様子もなくそのまま私の元に近づき、私を触れようとしたその時。

 

「おい!てめぇ!!」

 

私を掴んでいた喰種は私の肩に置いていた手でじゅーぞの胸元に掴んだ。

 

「ありゃりゃ。とっても沸点が低い喰種ですね〜」

 

「さっきから調子こいた態度で喧嘩売ってんのか?!おい!」

 

じゅーぞは怖がる様子もなく、「はははっ」とただ笑っていた。

 

「それにしても僕を知らないのですか?もしかしてあなたはまだ東京(ここ)に来たばかりの喰種ですね」

 

「てめぇを知ったことか。お前みてぇな白鳩(ハト)はすぐに死ぬ雑魚だろ?」

 

「おお、いい度胸ですね〜。最近ここで喰種の捕食事件が連続して続いていたのは、あなたたちのようですね。確か女性をターゲットにした喰種集団というの正解でしょうか?」

 

「それがどうしたんだよ?あの動乱後の東京(ここ)はヒトを喰うにはうってつけだろ?」

 

「せっかく人間と喰種が一緒に生きようしようとしているのに、あなたたちが問題を起こしたらダメじゃないですか?まったく迷惑なヤツは嫌ですねー。ああ、そうか、あなたたちはそんな能力はない低能ですね、あってますか?」

 

「うっせぇな....ヒトだったら、なんでも喰えりゃいいだろ!!くそガキが!!」

 

怒号が耳に痛いほど響き渡る。まずい、私よりも先にじゅーぞが死んでしまう。でも怖いあまり動けない。それに私は喰種と戦う能力はない。

 

「まず先におめぇからぶっころしてやるよ!!」

 

ああ、まずい。じゅーぞが殺されてしまう。殺されるのにじゅーぞー自身は怖がる様子もなく煽るように笑っていた。何しているの?

 

「...まったく、おバカな喰種ですね」

 

じゅーぞがそう言った瞬間、動かなかった私の目を見ると、私に向かってこう言った。

 

『マミミ、逃げてください』

 

じゅーぞがそう言った瞬間だった。

 

「がぁぁああ!!!」

 

するとじゅーぞを掴んでいた男が急に叫び出した。先ほどじゅーぞの胸元をがっしりとしていた腕が、じゅーぞーの左手にいつの間にか現れた小さなナイフであっという間に切断された。胸元を掴まれたじゅーぞはすたっと地面に着地し、左手にあったナイフをくるくると回した。

 

「これであなたは女の子の肩に腕を回せないですね」

 

「痛ぇぇなぁぁクソが!!!」

 

じゅーぞを掴んでいた喰種は切断された腕を片手で抑え、声をあげる。

 

(...今だっ!!)

 

周囲の喰種がじゅーぞに注意を向いた瞬間、私はすぐさま立ち上がり物置の奥に逃げた。

 

「おい待て!!クソアマ....っ!!!」

 

何人かの喰種は私が逃げたことに気がつき、追いかけようとした時、突如声が止まり、ばたりと倒れる音がした。

 

「僕を置いて背を見せるとは経験が浅い喰種ですね」

 

私の後ろで一体何が起きたのかわからないが、多分じゅーぞが何かをしてくれた。私は焦る思いを抱えながら、急いで物置の奥に逃げていった。

 

 

「...さてと、マミミが離れたのでお仕事を始めますか」

 

 


 

 

薄暗い高架橋の下にいた、僕。僕は早速喰種と戦うことになりました。

 

(喰種は...今は6体ですね)

 

先ほどマミミを追いかけようとした喰種2体を倒し、あとはリーダーと思われる喰種の腕を切り落とし、今に至っています。

 

僕がどうしてこの状態になったのかはマミミの行動を見ればわかります。彼女を追った男はただの社会のお荷物の人間ではなくやっぱり喰種でした。彼をマークしたのはマミミが席に立ち上がりお店に出た時、その男はちょうど同じく席に立ち上がり、僕の横を通った時に血の匂いがふと鼻に感じました。それで僕は男の跡をついて行ったら、高架橋下という喰種の溜まり場にぴったりな場所にたどり着きました。

 

「て、てめぇ...!よくも俺たちの仲間をぉ!!!」

 

そのマミミを追いかけた男は僕を掴んでいた腕を失い、強い口調で言っているとわりにあっけない姿になっていました。状況を見る限りこの喰種はリーダーだと思われますが、案外弱いかもしれません。

 

(それよりも先ほどマミミに嫌なものを見せましたが....状況的に仕方ないですね)

 

さっきマミミに腕を切断するところを見せてしまいましたが、喰種に殺されるよりはマシです。マミミには申し訳ありませんですが、僕は今戦いに集中しないといけません。

 

「おいっ!お前ら!さっさとこのガキをぶっ殺せ!」

 

リーダーの喰種がそう言うと僕の周囲にいた下っ端の喰種たちはそれぞれ違う形の赫子を体から表し、一斉に僕に襲いかかった。襲いかかってきた喰種は5体。新米の保安官だったら状況が読めずに攻撃されるかもしれません。だけど、僕は違います。

 

「一気に来るとは、面白い喰種ですねえ〜」

 

僕は包囲される前にすぐに前から脱出し、手前にいた喰種の手足を僕が持っていたナイフ型クインケ"サソリ”で順番に切り落とし、最後に頭首に突き刺しました。通常喰種は人間と違い体が丈夫なため、ただのナイフや鉄砲の攻撃を受けても無傷です。しかし僕が持っているものはクインケと呼ばれる保安官が持つ対喰種武器で、喰種の体に傷を与えることができ、殺すことができます。

 

「あぁがぁ...!」

 

「はい、一匹目」

 

僕がそう言うと首を突き刺していたナイフを抜きとり、手足を切断され首に大きな深傷を負った喰種はばたりと倒れ、体に生えていた赫子が消え去りました。

 

「調子のんじゃね、ガキ!!」

 

1人が尻尾のような赫子で僕を突き刺そうとしましたが、僕は体を瞬時に避け、左手にもう一本サソリを取り出しナイフを頭に命中させました。

 

「僕をガキと言っても、おそらく僕はあなた達より大人ですよ。これはある意味補導ですよ、補導」

 

これはどんな時もそうですが、感情的になるのではなく楽しめなきゃダメです。彼らはおそらくは10代後半か20代前半の若い喰種ばかり集まった集団。先ほど戦っている喰種たちの攻撃は感情に任せっきりで先を考えていません。まさに若気の至りですね。

 

「こ、こいつ....マジで強えぇ..」

 

僕を襲ってきた三人の喰種はあっという間に2体を倒した僕を見て圧倒されたのか攻撃をやめ、のそのそと後ろに下がった。

 

「あなたたちぐらいだったらサソリだけで十分でーーー」

 

僕はくるくるとサソリを手で回し、余裕が入った声を言ったその時だった。くるくると回していたサソリが突然吹き飛びました。

 

「俺を忘れんじゃねぇよ」

 

「おやおや、あなたは口だけではないようですね」

 

先ほど片腕を落としたリーダの喰種の背中から羽の形をした赫子が現れていました。その赫子のタイプは羽赫で射撃型の赫子です。リーダーの喰種は「おらおらおら!!」と背中に生えた赫子で僕に赤い弾幕を放ちます。

 

(...少しやるようですね、この喰種は)

 

僕はすぐに攻撃を避けるが、反撃のタイミングが見つからずにただ避けていました。羽赫のめんどくさいところは攻撃範囲が広いところです。他の赫子だとタイミングは掴めれますが、羽赫だとわずかながら掴みづらい。あとこのリーダーは先ほどの態度とは違い、この強さはおそらくレートS以上。この集団の中では一番強いはずです。

 

「これでどうだ!!」

 

するとリーダーの喰種は逃げていく僕に一度弾幕を放つのをやめ、そして逃げ回る僕を追いこすように集中的に弾幕を放ちました。一応その弾幕は頑張れば避けれますがーーー

 

「ーーー仕方ないですね」

 

僕はそう言うと弾幕の弾着地点にわざと入り、持っていたアタッシュケースで弾幕を防いだ。アタッシュケースに赤い宝石の形をした弾幕が被弾、ケースの取手に弾幕が着弾した振動が伝わりました。

 

「なんだよ?俺の攻撃に耐えきれないのか?」

 

「いえいえ、確かにあなたの攻撃は強いのですが、今この箱の中に強いクインケがあるんですよ」

 

「....は?」

 

だいたいナイフ型のクインケ"サソリ"だけで済ますことが多い普段の捜査では使うことのないクインケ。よっぽど相手が強くない限り使用しないのだが、どうやら今回はその使用する場合のようです。

 

『おいで、ジェイソン』

 

僕は誰かに囁くように呟きアタッシュケースの取手にあったボタンを押すと固く閉ざしていたケースがパカっと開き、取手を持っていた手には長い棒が現れ、棒の先には大きな赤い鎌の刃がぎらりと姿を表しました。

 

「これでよし」

 

そのクインケの名前は13`s ジェイソン。僕が高レートの喰種を倒し作ったクインケで、"あの時"以来久しぶりに手にできて気持ちが湧きあがります。

 

「あ、あれは...!」

 

すると一部の喰種が什造が持っているクインケに何か気がつき、好戦的な顔が一気に真っ青になった。

 

「な、なんだよ、お前ら!!」

 

リーダーの喰種は怯え始めた仲間に異変を感じ、怒りが混じった声で士気を整えさせようする。周りの下っ端喰種は気がついているが、どうやらリーダーは僕の正体に気づいていない。

 

「ぼ、ぼ、ボスっ!!この白鳩(ハト)は死神ですよ!あの有馬の...!!!」

 

「死神...?...っ!」

 

リーダの喰種は少し考え、そしてやっとハッと目が開いて気がついた。

 

「...やっと気がつきましたか」

 

「おめぇが....あの死神の鈴屋か?」

 

「ええ、理解するのに遅かったですね。でも残念ながらさっさと死んでもらいます。あなた方は彼女に良からぬことし、殺そうとしたのですから」

 

 

僕は死刑判決を告ぐ裁判官のように静かにそう言うとジェイソンをぎゅっと握り、リーダーの喰種に急接近をし、ジェイソンを大きく振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

この喰種は大きな大罪を犯しました

 

 

 

 

 

大人になっていないマミミに危害を加えたのだから

 

 

 

 

 

そんな喰種は殺されても問題ないですよね?

 

 

 

 

 

 


 

 

つい先ほどまでただ暗かった高架橋は、數十分後には赤い血肉が散乱する殺人現場と同様に光景へと変わっていった。

 

「一仕事を終えましたね...」

 

周囲にいた喰種を一掃した僕は頭を少しかき、一息つきました。いつもなら一体か二体程度の喰種と戦いますが、今回は久しぶりに大人数の敵と戦いました。

 

(久しぶりにちょっと本気を出してしまいましたね...)

 

僕がここまで本気で戦ったのはあの竜の動乱以来です。もちろんあの人との戦いも同じく含みます。

 

(....マミミのことを忘れていけませんね)

 

本気で戦ったあまり守るべき人を忘れてしまった、僕。僕はマミミが逃げた方向に振り向きました。

 

「マミミー?出てきてくださいー?」

 

僕はおそらくマミミが隠れているだろう物置の方向に名前を呼びましたが、返事がまったく返ってきませんでした。

 

(...怖がっているんでしょうか?)

 

先ほど腕を切ってしまった光景をみてしまったのか、この喰種どもに何か怖いことをされたのかマミミは真っ暗な物置から顔を出してくれません。返事も全く聞こえなかったため僕は仕方なく自分から探しに行くことにしました。

 

(どこにいるんですかねえ?)

 

パタパタと履いていたスリッパを鳴らしながら一歩一歩進むたびに段々と暗くなっていく視界。マミミは僕が戦っている時一人で隠れていたと思います。まだ18の女の子が危険な目に出会うとなると心に深い傷を負うのは間違いありません。

 

「...っ」

 

しばらく歩いていた僕はピタリと足を止めた。

 

「見つけましたよ、マミミ」

 

「...........」

 

物置の間に人影を見つけました。そこには両耳を手で塞ぎ、しゃがんでいた紫色をした女の子。その子はマミミでした。

 

「...?」

 

マミミは僕の声を耳にするとゆっくりと目を開いた。

 

「...じゅーぞう?」

 

「ええ、そうですよ?」

 

僕はそう言うとにこりと笑いました。場を和らげようとしたのですが、今考えてみれば少々怖い行為をしてしまいましたね、僕。

 

「......うん」

 

薄暗いながらマミミは小さく頷きました。見た感じ体には傷はなく、態度は落ち着いていました。

 

「マミミはここにいてください。僕は応援を呼びますのでーーー」

 

僕はそう言い立ち去ろうとしたその時だった。

 

「...待って」

 

マミミは突然僕のシャツを掴み、応援を呼ぼうと立ち去ろうとした僕を止めました。

 

「あの、マミミ。これじゃ応援が呼べないんですが...」

 

「お願い、ジューゾ。そばにいて」

 

小さな声でまっすぐと僕の目を見る、マミミ。顔では怖がっている様子はなかったものの、マミミの瞳は恐怖で怖がっているように見えました。僕は「仕方ないですねえ」とため息をつき持っていたジェイソンを床に置き、マミミの横に座りました。物置の間ということもあり少し窮屈でしたがマミミは不満の声は上げず黙っていました。

 

(...何もしゃべりませんね)

 

マミミの隣に座ったものの沈黙がただ続いていました。僕は早く現場処理をしなければなりませんですが、マミミはそうはさせてくれません。早く他の保安官に報告したくても携帯などの連絡手段がありません。まさにお手上げな状態です。

 

(それにしても...マミミは僕と同じ身長なんですね...)

 

暇であまりに僕は横で静かにしているマミミを見ると、マミミは僕と同じ身長だと気づきました。初めマミミと会った時は自分と同じ身長であると意識しなかったものの、体がかなり密接しているせいか今更ながら気がつきました。それにマミミの髪はまるで紫の綿あめが2つついているように見えて、マミミはふつーの子ではないことも同じく気がつきました。

 

「....どーしたんですか?」

 

僕がマミミをあまりにもジロジロと見ていたせいか、ついにマミミは口を開いた。

 

「いや...マミミは不思議な子ですねえっと思ったんです」

 

「...そお?じゅーぞの方が不思議だと思うケドー?」

 

「ええ、そうですねえ。少し特殊ですけど」

 

先ほどまで硬かった空気が徐々に和やかになってきました。昔から僕は変な人と言われてきたせいか冗談が言えます。

 

「ねぇ、じゅーぞ」

 

「ん?」

 

「その首にある糸ってどうなってるの?」

 

マミミは僕の首についてあった赤い糸に気になった様子で指を指しました。

 

「ああ、これはボディステッチと言って体に縫うヤツです」

 

「ボディステッチ?」

 

「体に糸を通して縫うヤツで、もちろん痛いですけどピアスをつける感覚だったら問題ないですよ」

 

「へー、今度私もやろうかな?」

 

「ダメですよ。マミミの肌はとても綺麗ですので、傷がついたら大変です」

 

「えー、私ピアスしてるのにそのボディーなんちゃらはダメなの?」

 

「失敗したら血が出ますからね。あとこれはボディーステッチですよ」

 

「それだったらピアスと同じじゃん」

 

マミミはそう言うとファミレス以来の笑顔を出した。暗い物置でしかも一歩前に出てしまえば喰種の死体が転がっている場所にも関わらず僕たちは楽しく会話をしていました。マミミとしばらく会話をしているとーーー

 

「鈴屋先輩!!」

 

すると奥から一人の男性が息を切らしながら僕たちの元にやってきました。その男は黒い長髪をし高身長の男で僕が知っている人でした。

 

「あ、はんべーじゃないですか」

 

彼の名前は阿原半兵衛(あばらはんべえ)。僕と同じ保安官であり、僕の部下です。

 

「鈴屋さんがご無事でよかったです。現場で鈴屋さんの姿がなく喰種の遺体だけあったものなので私阿原半兵衛は大変心配しておりました」

 

「僕は簡単に死にませんよ。あとこの喰種たちは東京以外にやってきた者共です。僕を見ても怖がることもなく襲いかかったので、駆逐しました」

 

ぼくは立ち上がり床に散乱する喰種の死体に指をさし、悲惨な光景を反するかのようにはんべーににこりと笑顔で言葉を返しました。はんべーは怖がる様子を出すことなく、「また県外からの喰種ですか..」と僕の返事を重く受けっとった。

 

「それにしてもどうしてはんべーは僕がここにいるとわかってんですか?」

 

「ちょうどやるべきことが終わった時、周辺住民から13区の高架橋付近で何やら喰種の争いが置きているとのご報告を耳にし、もしや鈴屋先輩ではないかと私阿原半兵衛はすぐに向かいました」

 

「さすがはんべーですねえ」

 

はんべーは僕の部下というよりかなりの世話焼きさんです。しばらくはんべーと話していると、はんべーは僕の後ろで座っているマミミにやっと気がつきました。

 

「あの鈴屋さん?」

 

「ん?」

 

「...えっと、そちらの方は?」

 

「ああ、この子はこの喰種たちに襲われだったんですよ。僕はこの子を家に返すので、はんべーは現場処理をお願いしますね」

 

「...え?ちょっと、鈴屋先輩?それはどういーーー」

 

「さあ、マミミ。目を閉じてくださいね」

 

「え?あ、うん...」

 

僕はマミミがちゃんと目を閉じたことを確認するとマミミの手を引っ張り、はんべーを残して現場をあとにしました。はんべーとの会話はいいのですが、まずはマミミを早く帰らせることが大切です。

 

 


 

じゅーぞに手を引っ張られ、高架橋下から出た、私。外に出たあと、じゅーぞは私を道路の縁石を座らせ、「ここで待ってください」といい、先ほど『この子を家に返すので』と言ったのにも関わらずじゅーぞは再び高架橋下へと向かった。

 

(...行っちゃった)

 

ついさっきまではじゅーぞとくっついていたせいか一人に取り残されても恐怖心が生まれなかった。あんなにおびえていたのになんでだろう?そう考えていると東京保安委員会(TSC)の保安官の人たちが続々とやってきて、さっきまでいた高架橋下はブルーシートで封鎖された。

 

(じゅーぞって一体何者だろう?)

 

じゅーぞは確か東京保安委員会(TSC)の保安官だと知っているのだけど、あんなに強そうだった喰種の集団をたった一人でやっつけたのだ。流石にふつーの保安官だなんて言えるわけがない。そう考えているとーーー

 

「お待たせしました、マミミ」

 

「あ、じゅーぞ」

 

ブルーシートで被された入り口からじゅーぞがヒョイっと顔を出し、私が座る縁石の元に戻ってきた。

 

「お待たせてしまって申し訳ないです」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

私がそう言うとじゅーぞは「それはよかったです」と私が座る縁石の横に何気なく座った。

 

「...どうだったの、さっきの喰種って」

 

「ええ、久しぶりに本気を出したほどですので強かったですね」

 

「久しぶりって、どのぐらい?」

 

「だいたい去年ぐらいですね」

 

「去年って...それまでは本気で戦ってなかったの?」

 

「ええ、そうですよ」

 

ジューゾはそう言うとにこりと笑った。ちなみに言うけどじゅーぞは先ほどまで喰種と戦ったばかりだ。それにも関わらずどうして笑顔が出せるのかわからない。どうしてそこまで笑顔を出せるのか、ふと考えているとーーー

 

「それよりも、マミミ」

 

すると笑顔を出していたじゅーぞがそう言うと空気が一変した。

 

「マミミはなんで僕の言うことを聞かなかったんですか?」

 

じゅーぞはまっすぐと私を見ながらそう言った。ずっと同じトーンで私に話していたにも関わらず、今じゅーぞが話している感じはどこか厳しく聞こえる。

 

「....」

 

私は口を閉ざしてしまった。私がじゅーぞの従わなかったのは事実だ。でもどう返せばいいのかわからない。

 

「...ごめんなさい」

 

私はどんな言葉を言えばいいのか考えた末、私はじゅーぞに単純な謝りしか思い浮かばなかった。明確な理由を言うべきなんだかけど、じゅーぞには通用するかわからなかったから、結局そうなってしまった。あと一人で多くの喰種を倒したじゅーぞなら私に何かするのか少し怖かった理由もあるけれど...

 

「...マミミが無事だけでもよかったです」

 

じゅーぞは落ち着いた声でポンっと私の頭に手を置いた。

 

「...うん」

 

「喰種に命を奪われなくても、手足を奪われてしまった人がいるんですよ。今回マミミが無傷でいられたのは、たまたま運が良かったかもしれませんね」

 

通常の私ならば耳に入らない言葉だけど、今の私は本気で死ぬんじゃないかと思ったためか深く感じられる。

 

「....」

 

「まあ、流石の今回の"いたずら"は度が過ぎていますのでやめてください」

 

じゅーぞの言葉を耳にした私はにやりと口を少し歪ませ、あることを思いついた。

 

「そうだね...今度じゅーぞに会ったらいたずらをしますよー」

 

「え?今度ですか?またマミミに会えるんですかねえ?」

 

「またどこかで会えるんじゃないかな?」

 

私はそう言うとふふんっと鼻で笑った。

 

「とりあえずTSC(うち)の車をでマミミの家まで送るのでーーー」

 

「自分で帰れる」

 

「...え?」

 

私はじゅーぞの言葉を遮り、じゅーぞは突然私の口から出た言葉にぽかんと口を開いた。

 

「本当にマミミ一人で帰るんですか?」

 

「うん、また喰種に襲われるのは勘弁だからこのまま駅に帰る」

 

「....」

 

先ほどファミレスで嘘ついて家に帰らなかったためかじゅーぞは私の言葉に疑うような目でじっと見ていたが....

 

「...マミミの態度を見る限り、本当に帰るっぽいですね」

 

「ぽいって、まみみは本当に自分の家に帰るよ」

 

じゅーぞは結局私の言葉を信じたらしい。流石にまた同じパターンに入ろうとは思わない。次こそはじゅーぞの助けがなくて間違いなく死ぬ。

 

「まぁとりあえずマミミがそう言うならば帰ってくださいね。えっと時間的には...頑張ればすぐ電車に乗れて帰れますね」

 

「時計ないのにどうしてわかるの?」

 

「...勘ですよ」

 

「勘って、じゅーぞってやっぱり変だね」

 

「マミミも同じく変では?」

 

「それはどうかなぁー?」

 

私はじゅーぞをからかうように小さく笑った。さっきまで喰種に拐われたのに、じゅーぞと楽しく話ができたせいか怖かった記憶が思い出さずに笑ってられる。

 

「さてと...マミミは本当に帰ってくださいよ?」

 

「うん、このまま帰るねー。さよーならぁ」

 

私はふらりと立ち上がり、そのままじゅーぞの望み通りに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

その時の私はまた会えるとは本気で思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その時の私も、きっとじゅーぞも同じくそう思っていたはず

 

 

 

 

 

 


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