RIDDLE JOKER ハーレムルート   作:恋熊

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Chapter 4-1

星幽発表祭も無事終了し、しばらくして平穏な生活に戻った。

 

俺、在原暁は特班のメンバーとして無事三司さんを守り切り、特班のことを誰かに知られることもなく、何事もなかったかの様に生活している。

 

いや、発表祭の後、茉優先輩に服の血を見られ心配されたり、貧血で倒れて三司さんを筆頭にみんなに心配をかけたりもしたけれど、いつも通りの日常に戻れている。

 

「暁、おはよう」

 

声を掛けて来たのは友人の恭平だ。

 

「おはよう、恭平」

「今日の朝ご飯聞いた?もうお腹ペコペコだよ〜」

 

そんなことを言いながら恭平の腹が勢いよく鳴る。

こいつは女の子の様な見た目をしているがれっきとした男で、とんでもない食欲を持っている。

こいつのどこにそんなに入るのかと思わなくはないが、もうそんな生活にも慣れた。

 

「確かに俺も腹が減ったな。食堂へ急ぐか」

 

朝は二条院さんと軽くランニングをするのが日課になっている。

 

眠気覚ましには丁度いいし、軽く運動をするため、朝飯前にいい具合に腹が減る。

 

そんな訳で、ほぼ常時腹を空かせている恭平とランニングの後で腹を空かせている俺の体は食事を求めていた。

 

「あ、暁くん、おはよう」

「先輩!おはようございます!」

 

静かな声と、大きく元気な声が聞こえてくる。

妹の七海と壬生さんだ。

 

「おはよう、二人共」

「おはよう。というか二人共、僕のこと忘れてない?」

「「そんなことないです」」

 

挨拶をしてもらえなかった恭平が尋ねると2人は揃って首を振る。

そんなバカみたいなやり取りをできるのも仲のいい証拠だ。

 

俺達は揃って食堂に向かう。

 

ふと、七海の足取りが重いことに気が付いた。

 

「大丈夫か?七海」

「えっ?別に、なんともないよ?」

「本当か?足元、フラついてるぞ」

「お兄ちゃん・・・」

 

七海が感動でもした様に俺を見詰める。

 

「キモいよ」

 

上げて落とされた。

 

「もうっ!暁くんってば心配し過ぎだってば!このシスコン」

「俺はシスコンじゃない。妹のことが心配なだけだ」

「シスコン」

 

弁明を試みたが余計傷付いた。

 

「でも暁はこれくらいシスコンじゃないと暁じゃないよね」

「そうそう、このシスコンっぷりを見てると先輩って感じがします」

 

恭平と壬生さんに追い打ちをかけられた。

 

「というか、俺は壬生さんのことも心配だぞ」

「へっ?」

 

このままやられっぱなしも癪なので、反撃することにした。

 

「壬生さんだって可愛い女の子なんだから、危険な目に合わないか心配だ。困ったらすぐ俺に頼ってくれ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

壬生さんは顔を真っ赤にして俯く。

 

あれ。

思ってた展開と違う方向に向かってしまっている。

 

「セクハラ。キモっ」

「ぐふっ!」

 

妹に罵倒され傷付く俺。

 

「暁くん。私の親友に変なことしないで」

「変なことはしてない。心配してただけだ」

 

ジト目を向けてくる妹に弁解する俺。

 

「親友・・・ふふっ」

 

そんな俺達のやり取りを見て壬生さんが頬を緩ませる。

 

「七海ちゃん、会ったばかりの時は誰も寄せ付けない〜みたいな雰囲気出してたのに、今では私とすっかり仲良しだね〜」

「ああぁぁぁあああ!何言ってるの千咲ちゃん!変なこと言わないでよぅ!」

 

壬生さんの言葉に七海はあたふたする。

 

本当に仲が良い。

 

そんな様子に俺は少し安心する。

 

前の学校でも仲のいい友達はいた七海だが、人見知りするタイプのため学校に馴染めるか不安だった。

でも壬生さんがいるからもう安心だろう。

 

「・・・暁くんがまたキモい顔してる」

 

また唐突に傷付けられた。

 

 

…………………

〈Another View〉

 

彼女、在原七海は在原暁の血の繋がらない妹である。

子供の頃からだらしない兄の世話を焼き、兄の将来が心配だとぼやいていた。

 

(大丈夫、と思ったんだけどなぁ・・・)

 

七海はため息を吐く。

 

七海は幼い頃から暁のことを異性として好きだった。

 

だが、兄妹だから、暁は自分のことを妹として大切にしてくれているから、と自分の気持ちを押し殺して妹として接していた。

 

「誰か女の人とくっついちゃえば、この気持ちも治ると思ったんだけどなぁ・・・」

 

しかし実際は、暁は不特定多数の女性とイチャイチャし、誰とも付き合う気配がない。

 

そんなイチャイチャを見せつけられ、嫉妬を抱き、暁が誰かのものになってしまうことに不安を感じてしまうくらいには、兄への想いが膨らんでいた。

 

『大丈夫か?七海』

『本当か?足元、フラついてるぞ』

 

「誰のせいだと思ってるのよぉ〜」

 

暁への気持ちを抑え込もうとして、暁が他の女の子とイチャイチャしてることにヤキモチを焼き、そんな暁を好きという気持ちと妹としての気持ちが頭の中でぐるぐるして、七海は最近眠れない日々を過ごしていた。

 

「う〜。この気持ちをどうにかできないものか〜」

 

七海はどうしようもできない気持ちを抱えて悶々とするのだった。

 

「というか、暁くんも暁くんだよぉ」

 

いくら本当の気持ちを隠してるとはいえ、暁はあまりにもデリカシーがない。

 

女の子に言うには酷いことも平気で言うし、恥ずかしいシスコン発言も多過ぎる。

 

それなのに他の女の子とイチャイチャするのだから、七海は振り回されっぱなしである。

 

「暁くんのバカ、アホー・・・」

 

七海の嘆きが空に響いた。

 

…………………

 

 

朝食を終え、HR前。

 

「昨日の荒くれ大将軍の再放送も良かった・・・!弱きを助け、強きを挫く・・・!将軍様はまさに私の理想像だ・・・!」

 

俺、恭平、二条院さんの3人で他愛ない話をする。

 

「確かに将軍様はいい人だよな。自分で足を運んで市井を守る。上に立つ人として立派だ」

「わかってくれるか在原君!」

 

俺の意見にとても熱く感動してくれる二条院さん。

 

そんな俺と二条院さんを恭平は辟易とした様子で見守る。

 

「む。すまない、少し熱くなり過ぎたみたいだ。周防も折角話に加わってくれていると言うのに」

 

恭平の様子に気が付いた二条院さんが気落ちする。

 

「気にしなくていいよ。確かに自分のわからない話題だと話に着いていけないけど、2人が楽しそうに話してるのはこっちも楽しいんだ」

「お前は俺の母親か何かか?」

 

友達に対して『友達が楽しそうにしてるのが楽しい』という感想はどうなんだろうか。

 

「何それ。僕が女っぽいって言いたいの?」

 

母親と言ったのを根に持ったらしい恭平。

 

「・・・・・」

 

俺は静かに目をそらす。

 

「サ〜ト〜ル〜!」

「すまない。悪気はないんだがつい口が滑ったんだ」

「滑ってる!今も十分滑ってるよ!」

 

恭平が俺に怒りの気持ちを向けてくる。

 

「まったく、失礼しちゃうよっ」

 

女扱いされたくなかったらその可愛い怒り方をなんとかした方がいいと思う。

 

バカみたいなやり取りをしてる俺達を二条院さんは微笑ましそうに見ている。

 

こうして友人同士で楽しく話せているのが思いの外悪くないと思っている俺がいる。

 

「しかし、在原君が時代劇に興味を持ってくれたのだから、折角なら周防にも興味を持って欲しいものだ」

「それは遠慮しておくよ。全く見たくない、ってわけじゃないけど、勧められてまで見たいとは思わないかな」

 

周防がそんなことを言う。

 

「それは違うだろ。自主的に見ようとしないから、勧められて見てみてその面白さを知るんだろ?」

「さすが暁。人から勧められ慣れてる」

「伊達に無趣味歴は長くないさ」

 

言ってて悲しくなる。

 

「しかし在原君はたとえ無趣味でもいい人だ。私の趣味にも寛容だし、わたーーーー」

 

二条院さんがゴホンと咳払いをして言葉を止める。

 

「?」

 

恭平が目を丸くして首を傾げる。

 

男に見られたいならそう言う可愛い仕草をやめればいいのに。

 

二条院さんはおそらく『私の将軍様』と言いたかったのだろう。

 

俺は過去に、二条院さんが大人3人に絡まれているのを助けたことがあるらしい。

 

ある一件のお陰で、二条院さんにそのことがバレてしまった。

 

しかし、過去のことは実際は助けようとして助けたわけじゃない。

俺自身、アストラル使いとして周りから疎まれ、自分自身の存在意義も分からずストレスを感じていた。

その鬱憤を発散していたに過ぎない。

 

そんな情けない姿を周りにバレるのは避けたい。

 

何より、俺自身がそんな昔の俺を思い出したくない。

 

だから俺は、二条院さんを口止めしたのだ。

 

口止め、といっても頼んだだけだが。

 

「無趣味だからこそ、他人に勧められた趣味を吸収しやすいだけだよ。実際やってみると面白い、っていうことは結構多い」

 

今まで仕事が忙しく、まともな趣味も作らなかった俺だが、今は仕事も少なくなり、暇を持て余している。

そんな暇を潰せる趣味は結構重宝している。

 

「じゃあさ、今度僕と一緒に食べ歩きしない?美味しい店探すの楽しいよ」

「誘いは嬉しいが食べ歩きを趣味にするのはやめておきたいな」

 

恭平がそんな提案をしてくれるが、俺はそれを断る。

 

食べ歩きばかりしていたら体型やら財布の中身やらが大変なことになりかねない。

できるなら趣味は生活に支障のない範囲に抑えたい。

 

「おはようございます、皆さん」

 

他愛ない話をしていたところへ三司さんがやってくる。

 

「おはよう、三司さん」

「今日は随分と重役出勤だね」

 

二条院さんと恭平が三司さんに声をかける。

 

「今日は生徒会の用事で朝から忙しかったんです」

 

軽く欠伸をする三司さん。

 

「少し働き過ぎじゃないか?手伝えることがあれば手伝うぞ」

 

俺はそんな社交辞令を三司さんに送る。

 

「ありがとうございます。でもお気持ちだけで結構です。私はこういうことは慣れてますし、手伝って頂く方が気を使っちゃいますから」

「やはり三司さんは偉いな。皆の見本の様な人だ」

「でも辛くなったら言ってね?三司さんが倒れちゃうと僕達だって心配なんだから」

 

三司さんの見事な猫被りっぷりに騙されている二条院さんと恭平が三司さんに労いの言葉をかける。

 

・・・本当は寝坊しかけただけなんじゃないだろうか。

 

「・・・何よ」

 

皆に見られない角度で三司さんが睨んでくる。

 

「別に何も言ってないだろ」

「その目!目が口程に語ってる!」

 

どうやら顔に出ていたらしい。

 

とにかく、俺達は猫被りの三司も加え、HRまで他愛ない話をするのだった。

 

…………………

〈Another View〉

 

「二条院さんってさ、暁のこと好きだよね」

「なっ‼︎なな、な・・・!」

 

いきなり恭平に図星を突かれ、わなわなと震える羽月。

 

「なぜそう思うんだ⁉︎」

「いや、めちゃくちゃわかりやすいけど・・・」

 

今でも顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っている。

恥ずかしがっているのがわかる。

 

「告白とかしないの?」

 

恭平がストレートに訊く。

 

「な、ななな!なぜそうなるんだ⁉︎」

 

羽月は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「まぁ、考え方は人それぞれだけど、好きって言ったら告白じゃない?」

「そういうものなのか?」

 

恭平の言葉に羽月が疑問を感じる。

 

「だって、好きなら付き合いたいとか思うものじゃない?」

 

恭平が羽月に共感を求める。

 

「た、確かに私も在原君と一生を添い遂げたいとは思うが・・・」

「重いね・・・」

「在原君は人のために動けるとても素晴らしい人だ。私が在原君にふさわしいのだろうか・・・」

「だから重いよ・・・」

「それに在原君の周りには三司さんや式部先輩の様な素晴らしい女性ばかりだ。私の入り込む隙など・・・」

「だから重いって!」

 

ぐちぐちと言い訳を続ける羽月の言葉を恭平が無理矢理に遮る。

 

「暁が、とか、他の子が、とかじゃなくてさ、二条院がどうしたいのさ?」

「私が・・・?」

 

恭平の言葉に羽月は考える。

 

「私は・・・在原君と一生を共にしたい。他の人なんて考えられない。在原君には私以外にいたとしても、私には在原君しかいないんだ・・・」

 

この学園で再会を果たした、自分を助けてくれた人。

暁が彼だとわかった時運命を感じたけれど、暁は「自分はそんないいものじゃない」と一蹴した。

それから羽月は暁がどんな人物なのか観察し、彼が立派な人だと、自分が尊敬するに足る人物だと、一層暁のことを好きになっていった。

 

だから、羽月は暁に相応しい人間になりたいと、暁の隣に立てる様な人間になりたいと考え、努力している。

 

「いや重くない?」

 

恭平は思わず突っ込んだ。

 

…………………

 

「在原君」

 

声をかけられ、振り向くと廊下の角から三司さんが顔を出していた。

 

・・・何をやってるんだろうか。

 

見ると、何やら手招きをしている。

 

「?」

 

変に思いながらも俺は三司さんの方へ向かう。

 

「どうしたんだ?」

 

俺は三司さんに声をかける。

 

「そもそも、さっきのは相当怪しかったぞ」

 

三司さんは周りに自分の性格やら胸のサイズやらを隠しているのに、怪しい行動を取ったら目立って台無しじゃないだろうか。

 

「この辺りは人通りも少ないし、周りに人がいないのも確認したからいいの」

 

怠そうに三司さんが答える。

 

「それで?何か用があったんだろ?」

 

三司さんが俺を呼ぶということは、俺と彼女が共有してる秘密に関して何か支障があったということだろう。

 

「まさかパッドを落としたのか?」

「喧嘩売ってるのねそうなのね?」

 

三司さんが人を殺しそうな顔になる。

 

そもそも三司さんの胸は見てわかるくらい巨大だ。

なら中身はそのまま入ってるってことか。

 

「悪い。見ればわかることなのに気付かなかった」

「ねえ気付いてる?自分がどんどん言わなくていい余計なこと言ってるの気付いてる?」

 

三司さんが満面の笑みで訊いてくるが、目は一切笑ってない。

 

「もういいわよ」

 

三司さんは諦めた様に溜息を吐く。

 

「それより用件よ、用件」

 

真剣な目で見つめてくる三司さん。

 

「今日の放課後、私の部屋に来れない?」

「・・・用件ってそれか?」

「そうよ、悪い?」

 

少し恥ずかしそうに顔をそらす三司さん。

 

何か恥ずかしがる様な用件があるのだろうか。

もしかしてまた猫と仲良くする特訓だろうか。

 

別に俺でよければ付き合うことにやぶさかではないが、悪いが今日は答えられない。

 

「悪いが、先約があるんだ」

「何?女?」

 

何だその浮気男を問い詰めるみたいな言動。

 

「茉優先輩の研究に付き合うって約束してるんだよ」

 

ここ最近、茉優先輩はやたらと俺を気に掛けている。

おそらく昔のことを気にしてくれているんだろうが、俺としては昔のことを引き合いに出されるのはむず痒い。

 

そんな茉優先輩の心配性を和らげるため、そしてあわよくばあの研究室から情報を引き出しやすくするため、俺は足しげく茉優先輩の研究室に顔を出している。

 

妹からは『任務を言い訳にして女に貢いでる』とあらぬ疑いをかけられた。

 

そもそも金を渡して入ってるわけではないんだが。

 

「ぐぬぬ」

 

三司さんが何やら唸っている。

 

「研究と称してこんなことやあんなことしてるんじゃないでしょうね」

 

なんだよあんなことやこんなことって。

 

「するわけないだろ。茉優先輩はあんなんだけどちゃんと立派な研究者だぞ。俺から何かしようとしてもちゃっかり対策してるに決まってる」

「・・・本当に?」

 

疑ぐり深いな。

 

「そんなに言うなら三司さんの部屋に行かなくていいんだな?俺は信用ないみたいだし」

「あ〜!ダメ!来て!来てください!お願いします!」

 

俺が行かないと言うと慌てふためく三司さん。

 

可愛いな。

 

「・・・いじわる」

「さて、何のことやら」

 

ジト目で睨んでくる三司さんに俺は視線を逸らして答える。

 

「じゃあ放課後1時間後に」

「よろしく、在原君」

 

何の用かはわからないが、俺と三司さんは約束を交わした。

 

…………………

 

「ふむふむ。前も思ったけど、結構鍛えてるね〜」

「・・・」

「あっ。腕とか腹筋だけじゃなくて、背中もすごーい」

「・・・あの」

「どうしたの?」

「何してるの?」

 

俺は現在、上半身を裸にされ、全身を触られている。

もちろんこの研究室の主人である茉優先輩に。

 

何のためにそんなことをするのか、俺には皆目見当もつかない。

 

「何って、研究だけど」

 

茉優先輩がキョトンと首を傾げる。

 

「何の研究だよ・・・」

 

さっきからペタペタ体触られるだけで特にアストラルと関係ありそうにない。

 

そんな俺の疑問に茉優先輩が答える。

 

「男の子の体の研究」

「帰る」

 

俺は上着を着ーーーー。

 

「待って待ってほんの出来心だったのごめんなさい〜!」

 

茉優先輩が帰ろうとする俺に追い縋る。

 

冷たくする男に縋る女。

 

なんだか嫌な絵面だ。

 

「本当は暁君の筋肉量を計測して、能力使用前後での変化を見たかったの」

「何・・・?」

 

俺のアストラル能力は身体強化ーーーと、学園側には伝えているが、俺の本当の能力は脳のコントロール。

脳のリミッターを外すことで身体能力を上げた様に見せたのだ。

 

つまり、俺の能力では身体能力を強化しようが筋肉量は変わらない。

 

「・・・そんなものを調べて何をするつもりだ?」

 

俺は茉優先輩の真意を探る。

 

まさか、俺が能力を偽っているのがバレたのか?

 

「何をって、ちょっとした興味本位だよ」

 

やだな〜、と茉優先輩が笑う。

 

「ひとえに身体強化って言っても、同じ能力じゃないんだよ」

 

アストラル能力には解明されていない点が多い。

アストラル能力は、同じ系統の能力はあっても全く同じ能力はないと言われている。

 

「筋力を増強してるのか、力場に干渉してるのか、はたまた全く別のアストラルなのか。同じ身体強化でも、過程が違えば全然違う能力なんだよ」

「それはわかるが・・・なんでわざわざ俺の能力を?」

「だからそれは興味本位。能力の結果だけじゃなく、その根幹の部分も知りたいって、研究者として思ったのさ」

「そうですか」

 

若干面倒くさいと思わなくもないが、俺の本当の能力がバレたわけじゃなくて良かった。

 

「触らせてくれたお礼にお姉さんの体も触ってみる?」

「・・・・」

 

なんて事を言うんだこの人は。

 

「冗談でもそういうことは言うものじゃないぞ。何をされるか分かったものじゃない」

「今考え込んだでしょ?」

「・・・ノーコメントで」

 

この人は楽しんでる。

絶対人のことからかって楽しんでる。

 

「でもこんなおばさんの体触りたいなんて人いるわけないよね〜。肌は張りがないし、潤いがないし・・・。言ってて悲しくなってきた」

 

唐突に泣き始める茉優先輩。

情緒不安定だな。

 

「俺は少なくとも魅力的だと思うぞ」

「あはは。ありがと♪お世辞でも嬉しいな」

 

お世辞じゃないんだけどな。

 

「しかし嬉しいねぇ♪お姉さんに会いに来てくれるなんて」

「・・・約束したしな」

 

数日前、俺がここに来た時、茉優先輩にこの時間に来て欲しいと言われ、俺は特に用事もなかったので了解した。

 

「でもその約束関係なく、このところちょくちょくここに来てくれるじゃない?お姉さん嬉しいな〜」

 

嬉しそうに顔を綻ばせる茉優先輩。

 

「やっぱり幼馴染のお姉さんに癒されたくなっちゃった?」

「お願いだからやめてくれ」

 

俺は昔の話をされるのは嫌なんだ。

 

「ははっ。ごめんね〜」

 

茉優先輩は俺に拒否されたのに楽しそうだ。

 

「昔は何もできなかった、ううん・・・しなかったけど・・・今は私達、こんな風に笑い会えるんだね」

「・・・・」

 

茉優先輩は、どこか寂しそうな、満たされた様な、複雑な表情で笑った。

 

「俺は笑ってないけど」

「も〜!つれないな〜!」

 

でも、俺もこの人といる時間を心地良く感じてるのは事実なので、少しだけ悔しくなった。

 

その後も俺達は他愛ない話を続けた。

その間、実験とか研究はおざなりだったが、茉優先輩はその事には触れず、楽しそうにしていた。

 

…………………

 

〈Another View〉

 

暁が帰った後しばらくして、茉優は思わずため息を吐く。

 

「今日も頼れるお姉さん、できたかなぁ」

 

オロオロ、というほどではないが、茉優は少し狼狽えている様に見える。

 

暁が同じ孤児院にいたあの問題児だと分かってから、茉優は暁にちょっとした絆の様なものを感じていた。

でもそれ以上に、罪悪感も抱えていた。

 

その感情もあって、茉優は暁に対して必要以上に世話を焼いている。

少なくとも、他の人よりも暁の事を気にかけているのは確かだ。

 

最近では暁もよく研究室に顔を出してくれ、会う機会も増えている。

 

暁と話す度に、懐かしさと共に楽しさを感じる。

それは昔の後悔からくるものだと思っていた。

 

でも、暁のことが放っておけなく思ったり、ふとした瞬間に暁がかっこよく思えたり、暁のことばかりを考える様になっていた。

 

「・・・不自然じゃなかったかな?」

 

今回ベタベタと暁の体に触れていたのも、研究を言い訳にして暁の体に触れてみたかっただけだ。

実際触れてみたら、とてもドキドキして変に思われないかと心配になった。

 

それくらい、茉優は暁のことが好きになっていた。

 

「う〜・・・暁くん、今日もかっこよかった・・・」

 

茉優の顔がとろけ切る。

 

「暁くん・・・細身なのに筋肉がしっかりついてて、うへへ・・・」

 

茉優の口からよだれが出る。

 

「おっと。こんなんじゃ先輩としての威厳がないよね」

 

そもそも研究をダシに後輩男子とイチャイチャしようとしている時点で威厳もへったくれもないと思う。

 

「暁くん、いちいち反応が可愛いし、ふとした瞬間にはかっこいいし、男の子なんだな〜って実感させられるし・・・」

 

茉優は唸りながら頭を抱える。

 

「どんどん・・・好きだなって実感する・・・」

 

言葉にすると、わかっていなかったことがはっきりとする事がある。

 

茉優は途端に頬を赤らめる。

 

「好き!暁くん大好き・・・!うぁぁぁぁぁあ・・・!好き・・・」

 

気持ちが溢れて止まらない。

 

「うぅ・・・」

 

しばらくして落ち着いた茉優は項垂れる。

 

「こんなんじゃダメだ・・・。私はお姉さんなんだから・・・」

 

どうやら茉優の中では自分はみんなの頼れるお姉さんポジションらしい。

 

「暁くんが好き。だけど暁くんは私のことお姉ちゃんとして甘えてくれてるんだから!ちゃんと大人の女としてリードしてあげないと・・・!・・・あれ?」

 

自分の言ったことの支離滅裂さに首を傾げる茉優。

 

「まぁ、いっか」

 

今度はどんな話をしようかと、次に暁が来てくれるのを楽しみにする茉優であった。

 

…………………

 

「やっ、はっ、とっ!」

「・・・」

 

カタカタカタカタ。

 

「あっ、うわっ、きゃっ!」

「・・・」

 

ボチポチポチポチ。

 

ここは三司さんの部屋。

 

俺と三司さんはゲームをしていた。

 

最大4人対戦が可能な格闘ゲームだ。

初心者でも楽しめる親切設計らしく、今は2人対戦の真っ最中だ。

 

「うわぁ〜!また負けたぁ!」

 

三司さんがコントローラーを手放しガックリと項垂れる。

 

「おかしい。いくらなんでも勝てなさすぎる・・・」

 

三司さんはジロリと俺の方を睨む。

 

現在、俺は30戦中30連勝中だ。

 

あまりにもあんまりな結果だったので途中手を抜いたが、それでも三司さんは負けてしまった。

 

「何かイカサマ使ったでしょ!」

「ひどい言いがかりだ」

 

三司さんの文句に俺は抗議する。

 

「そもそも三司さん相手にズルをする必要性を感じない。本当に今までゲームやってたのか?」

「むきぃー!」

 

俺の挑発じみた言葉に三司さんの堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

きっかけは少し前、俺が三司さんに助けを求められて部屋を訪れた時のことだ。

 

その時、三司さんはゾンビのゲームの先が気になるのに進められなくて困っていた。

仕方ないから俺が代わりに進め、2人でゾンビゲームをやっていたのだが、それ以来、俺と三司さんは頻繁に一緒にゲームをやる様になった。

 

2人で進めるRPGやADVなんかもやった。

 

そして今日は対戦ゲーム、というわけだ。

 

「悔しい・・・!ほんっと腹立つ・・・」

「そう言われてもな・・・」

「在原君本当にゲームやったことないの?この前のゲームも結構簡単にやってたし」

「簡単に操作できるゲームだからな」

 

本当に俺はゲーム初心者だ。

今までの人生の中でゲームなんてやる余裕もやる気もなかったからな。

だから俺はそんなに上手くないはずなんだが、三司さんはそんな俺相手に負け続けてる。

1人用のゲームばかりやってたみたいだし、そんなもんなんだろうか。

 

そんなやり取りをしつつもう1対戦。

 

「あっ!あぁっ!ダメっ!それずるいっ!」

「ずるいと言われても勝負だからな」

 

俺は攻撃を繰り返し、三司さんのキャラが行動不能から立ち直る前に攻撃を入れる。

 

いわゆるハメ技というやつだ。

 

「ちゃんとゲームのルールにあるものを卑怯と言うのはどうかと思うぞ」

「楽しく遊びましょうって場でハメ技で一方的にボコボコにするのもマナー的にどうかと思うんだけど!」

 

それは確かに三司さんの言う通りだ。

 

「くぅ・・・っ!さっきまでこんなことしてこなかったのに・・・」

 

確かにさっきまでは手を抜いていた。

しかし、あまりにも三司さんの反応が面白いから意地悪をしてしまった。

 

これがいじめっ子の気持ちというやつか。

 

「あ!あぁっ・・・!」

 

そうこうしている内に、三司さんのキャラのHPは0になり、三司さんの負けとなった。

 

「もう1回!もう1回!」

「はいはい」

 

そして俺は今日、三司さん相手に50連勝するのであった。

 

 

 

「ふう、遊んだな」

「そんな爽やかに言われた私の気持ち考えてる?ねぇ、考えてる?」

 

三司さんが恐ろしい顔をする。

 

「冗談だ。確かに2人で遊べるものを、とは言ったが、今回はゲームが悪かったな」

「ゲームは悪くないもん!あのゲームは今1番の人気で、シリーズも沢山出てるいい作品だもん!」

「俺にどうしろって言うんだ・・・」

 

以前、ゲームをしに三司さんの部屋にやって来た時、俺はこう言った。

 

『今度は2人で遊べるゲームにしよう』

 

今までは三司さんの状況もあって1人プレイ用のゲームばかりだったから、2人で遊ぼうとするとどうしても1人は鑑賞、ということになっていた。

 

だからこその提案だったが、三司さんは律儀にそれを守ってくれたのだ。

 

その結果、俺が三司さんをボコボコにして終わってしまったが。

 

「今日は悪かった。今度は2人で協力できるゲームにしてほしい」

「・・・わかった」

 

不機嫌そうな声を出す三司さんは、不機嫌そうなはずなのにどこか嬉しそうだった。

 

…………………

 

〈Another View〉

 

「じゃあまた」

「うん」

 

部屋から出て行く在原君を見送る。

彼が去って行く後ろ姿に少し寂しさを感じつつ、私こと三司あやせは部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 

「はぁ〜〜〜っ」

 

少しの間余韻に浸る。

 

在原君がいなくなった途端、部屋ががらんと空いた様で寂しくなる。

 

「楽しかった・・・」

 

最近、彼と遊ぶことがとても楽しい。

 

ただ一緒にいるだけで安心するし、2人で何かしてるだけで嬉しさが込み上げてくる。

 

「私、どうしようもなく在原君のことが好き、なんだなぁ〜」

 

言葉にしなくてもわかっていた。

 

この気持ちは恋なんだ。

 

ただ一緒にゲームをしてるだけでこんなにも楽しい。

 

「まぁ、今日はボコボコに負かされたけど」

 

一瞬仏頂面になる。

 

でもまぁ、それでも楽しかった。

悔しくても楽しかったんだ。

 

「ふぅ・・・」

 

ベッドの上を転がる。

 

さっきまで楽しかった反動だろうか。

 

動くのが本当に面倒くさい。

 

この後ご飯もお風呂もあるのに、全部無視して寝たい。

 

そんな虚脱感に襲われる。

 

「だる・・・」

 

ついに声まで漏れてしまった。

 

誰も聞いてないだろうけど。

 

だるいついでに考える。

 

「在原君、今日は楽しんでくれたかな・・・」

 

正直なところ、最近ゲームに誘ってるのは下心がある。

 

いや、別にいやらしいことを考えているわけじゃないんだけど。

 

単に好きだから一緒にいたい。

好きだから一緒に遊びたい。

 

そんな気持ちから、ついついゲームに誘っている。

 

一緒にいられるなら別にゲームじゃなくてもデートでもいいくらいだ。

 

むしろデートの方がしたい。

 

「デート・・・」

 

ふと、私の心がその言葉に揺れる。

 

そもそも、在原君は私と遊んで楽しいのだろうか。

私は楽しんでいるけど、在原君とはどうも距離を感じる。

 

在原君が楽しんでくれてるかわからない。

 

一緒にゲームをするだけじゃ、在原君との距離が一向に縮まらない気がする。

 

「デート・・・」

 

在原君の事が好きな人は他にもいるみたいだし、ここでもたついていたら在原君は他の女の子と付き合うかもしれない。

そう考えるとモヤモヤしてきた。

 

だったら、やるべきことは1つ。

 

「デートに誘おう・・・!」

 

付き合ってもいない男女でデートのお誘いなんて実質告白の様な気もするけど、ここで引いたら女が廃る!

 

「よし!誘うぞー!」

 

私は気合を入れる。

 

・・・なんて切り出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 


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