ナイン・レコード   作:オルタンシア

13 / 65
ムゲンマウンテン

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丈は3人兄弟の末っ子である。

小学6年生の丈と違い、上2人はもう高校生と大学生、大人として見られる歳だ。

だいぶ遅くに生まれた末っ子は、それはもう兄2人からも母からもたっくさん構われた。

丈が生まれた頃には兄2人は既に母親の庇護から離れていたせいか、母親が丈に付きっ切りになったとしても羨んだり妬んだりすることなく、それどころか積極的に面倒を見てもらったものだ。

勉強面でもそうだったし、将来の夢に関しても、兄2人は丈にとって目標であった。

丈の一家は医者の家系で、代々大手の病院でそれなりの地位についている。

母も看護師だし、大学生の兄は医大、高校生の兄も大学生の兄と同じ大学に通うべく、日々勉強している。

丈も、漠然とではあるが医者を志していた。

しかしそれは、親が強制したものでも、丈が自分で決めたことでもなかった。

ただ何となく、家族みんなが医者だから医者になろうと思っているだけだ。

だが末っ子としてみんなに可愛がられてきた丈は、自分自身のことであるはずなのに、そんなことにすら気づいていない。

ただこの6年間真面目に、真っすぐに、がむしゃらに勉強していた。

勉強していたせいで、周りを見る余裕もなくなっていた。

一心不乱に、自分を追い込むように勉強していた我が子を心配し、無理やりサマーキャンプに参加させたのは、母親の親心というものであろう。

丈からすれば、勉強する時間を取られるから余計なお世話なのだが、まさに親の心子知らずである。

丈は気づいていないが、丈が医者を志しているのは上2人に対するコンプレックスからだ。

2人とも優秀で、自慢の兄だ。

勉強だけでなく、スポーツの方面でもいい成績をたたき出している。

だからこそ、丈は劣等感を無意識に抱いていた。

末っ子でありながら真面目に振る舞うのは、そんな劣等感の裏返しである。

何の取り柄もなく、ただ2人の兄の後を追う形で医者を志している丈は、真面目に振る舞うことしかできなかった。

 

 

いつしかその振る舞いは気質として丈を形成する1つの個性となり、それがゆえに異質なものを受け付けられなくなっていく。

“AはAである”という固定概念から抜け出せず、クラスメートからも“真面目だけどとっつきにくい”という印象を抱かれてしまい、遠巻きにされていることにも気づいていなかった。

夕飯時の会話からも、それが見て取れる。

しっかりしようと、みんなを導こうと振る舞えば振る舞うほど、空回りしてしまうのである。

無理もなかった、最年長であっても丈は末っ子として育ってきた。

上2人の兄を手本として、兄達がやっているように振る舞ってきたはずなのに、なのにどうしてみんな言うことを聞いてくれないのだろう。

どうしてあんなにも簡単に割り切れるのだろうか。

 

 

丈は気づいていない。

どれだけ兄達のように振る舞ったところで、しょせんは末っ子が行う真似っこ行動の延長戦に過ぎないことを。

丈は知らない。

そんな付け焼刃の“兄としての振る舞い”など、“本当の兄や姉”達ならすぐに見破ってしまうことを。

 

 

 

 

 

空とピヨモンがシャワー用のテントに入ったのを見送り、丈は夕飯を食べる際に椅子として使用していた手ごろな小岩に腰かけた。

 

『……ジョウ?』

「……ゴマモン、君は寝ておいで。疲れただろう?僕に付き合って夜更かしすることはないよ」

『そういうわけにはいかないよ』

 

そういってゴマモンは丈の足元に座り込む。

 

『……あのさ、ジョウ。もうちょっと肩の力、抜いてもいいんじゃないか?』

 

遮るものが何もない夜空は、見たことのない星座を描いた星が散りばめられている。

何となしにそれをぼんやりと眺めていた丈は、不意にゴマモンに話しかけられて弾けるように足元を見た。

 

『ジョウはさ、自分が年上だからーとか言ってみんなの面倒見ようとしてるみたいだけど、オイラから見ても慣れてないんだなって分かるよ。どうして慣れてないことを、無理やりやろうとするんだ?何を焦ってるんだ?』

「……慣れてないからやらないっていう選択肢は、僕には最初からないんだよ。6年生は僕しかいないんだ。全部が終わって無事に帰ってこれたとしたら、まず真っ先に叱られるのが僕なんだよ。6年生の貴方がついていながら、何をしていたのってね。理不尽だと思わないかい?」

『年上ってだけで?ジョウは何もしてないのに?ジョウが連れてきたわけじゃないのに?』

「そ。大人ってそういうもんなんだよ。しかも異世界に飛ばされました、なんてぜーったい信じてくれないさ……君たちは、現にこうしてここにいるのにね」

 

自嘲気味に笑いながら、丈は足元のゴマモンを抱き上げ、膝に乗せた。

海洋生物特有のぺったりとした毛に覆われた身体をぎこちなく撫でる。

ここは異世界であると治が推理してくれたお陰で、助けは求められないことは分かっていたから、そういった意味では余裕はあったのだ。

自分達の世界ではないから、ゴマモン達のことも受け入れることができた。

もしも治が言ってくれなかったら、丈は今でもここは自分達の世界の何処かにいて、助けを求めることを諦めていなかっただろう。

 

「何を焦っているのかっていうのは……僕達の旅は、きっとこれからもっと過酷なものになると思う。だって世界を救うなんて、そんな簡単なものじゃないだろう?この世界がどれだけ広いのか、世界を救うのにどれぐらいの時間がかかるのか、それは夏休み中に終わるのか……そういうことかな。僕達の都合なんかお構いなしなんて、あんまりじゃないか?」

『それで怒ってたのか、ジョウは?』

「怒ってたっていうより、愚痴かな。うーん、何て言うか、世界なんて規模の大きなものを救わなきゃいけないし、どれぐらい時間がかかるのか分からないのに、みんな暢気すぎるよ。世界の危機はすぐ目の前まで急かっているのかもしれないのに……」

 

そういったことが積み重なって、焦りを感じていた丈は目玉焼きの件がきっかけになって爆発してしまったらしい。

すぐに大輔と賢が不思議そうに質問を重ねてきて、更にゴマモンに宥めてもらったお陰で、すぐにその爆発は収まったのだけれど、今考えると本当に申し訳ない。

目玉焼きごときでメンバーの輪を乱すなんて、6年生としてあってはならないことである。

 

「……それにさ、太一も治も、お互いのことすごく信頼し合ってる。太一は僕がどれだけダメだって言っても言うことなんか聞かないのに、治の言うことならあっさり聞いて、治は治で何をするのか聞く時は真っ先に太一を頼るし……」

 

むしろそちらの不満の方が大きいのだろう。

自分はメンバーの中で1番年上なのに、しっかりしなくては、他の子ども達をしっかりとまとめて、守らなければならないのに、太一は丈の言うことなんかに耳も傾けず、1人で突っ走ってしまう。

そして、迷った時は治か空からの助言を乞うのである。

年上の丈ではなく、同い年の治か空なのである。

確かに丈の目から見ても、治は冷静だし頭も要領もいい。

太一と治は親友同士だから、太一が治を頼りにするのも理解はできる。

だが何かを決める際に、丈ではなく治や空を頼るなんて、年上としてのメンツが丸つぶれだ、あんまりではないか。

そして治は、そんな丈がないがしろにされていることに気づいているようで、丈が意見を出しやすいように話を振ってくれる。

突っ走り気味の太一に対して頭ごなしになってしまう丈を、太一は鬱陶しがっているから年上なのに扱いがかなり雑なのだ。

そんな太一に気づきつつも、真正面から言えば間違いなく拗ねるか意地を張るだろう、ということは容易に想像できた。

なので太一と丈の機嫌を損ねることなく円滑に物事を進めるには、みんなから意見を聞き出すという体で丈に振るという方法しか、治は思いつかなかった。

5年生に舐められ、気を遣われているなんて、丈としてはプライドも何もあったものではない。

自分は1番年上だからと必死に言い聞かせて、下級生達を導こうと頑張った。

しかしどれだけ頑張っても全てが空回りし、気がつけば子ども達を先導しているのは1つ下の5年生達。

4年生の2人も、最年少の3人も、そしてデジモン達も、みんな5年生3人の後をついていく。

……自分は、何のためにいるのだろうか。

 

 

それが、丈は悔しいのだ。

一目で頼りないと察して早々に丈を切り捨てた太一と、頼りなくも年上であるということで丈に気を遣っている治と空。

確かに丈には太一のような判断力や決断力もなければ、治や空のように気配り上手でもない。

光子郎のように何かに特化しているわけでも、ミミのように場を和ませられるような性格でもない。

それでも、丈は6年生だ。1番年上なのだ。年下しかいない状況で、頼りにされたいと思うのは当然だし、8人分の責任が伸し掛かって、プレッシャーを感じているのも、仕方がない。

 

『……ジョウ?どうしたんだ?』

 

抱き上げていたゴマモンを地面に下ろした丈は、何かを決意した表情を浮かべながら立ち上がる。

シャワー用のテントをちらりと見やった。

空とピヨモンは、まだ上がってくる気配はない。

それを確認した丈は、男子が寝ているテントの前に移動すると、手ごろな石ころを手に持ち、地面に何かを書いた。

 

「……これでよし、と」

 

満足げに頷いた丈は、テントに背を向け歩き出した。

 

『ジョウ?』

「ゴマモンは、ここで待ってて。僕はあの山に行ってくるから」

『はあ?何言ってんの、1人で行くなんて無茶にもほどがあるって!あの山は……』

「知ってるよ。気性の荒いデジモンが住んでるんだろう?」

『じゃあ、何で……!』

「僕が、行かなきゃいけないからさ」

 

それ以外に理由なんてない。

自分は年上だから、6年生だから。

何かあったときに責任を取らなければならないのは、丈だから。

確かに丈は優柔不断である。

2つ以上の道があって、どちらかしか進めないと言われたら、散々悩んで選択して、やっぱりあっちにすればよかったって後悔することは、多々ある。

だが丈は、やると決めたことは必ずやり遂げる、という意志の強さも持ち合わせていた。

短所は、長所である。頑固者と言われるほど頭の固い丈だが、それは逆に言えば意志の強さを表しているのだ。

決めるのに、やり始めるのに時間がかかるだけなのだ。

 

「じゃあね、ゴマモン。みんなのことよろしく」

『……ふざけんな!』

 

夕飯後に見せていた情けない顔は、同一人物とは思えないほどの決意に満ち溢れている。

そんな丈を、ゴマモンは腹立たしく思って、叫んだ。

声を荒げたゴマモンに、みんなが起きたらどうするんだ、と丈は焦ったが、そんなのゴマモンの知ったことではない。

今、言わなければいけないことは。

 

『うだうだ悩んでたと思ったら、勝手に1人で決めちゃってさ!何だい、何だい!オイラはそんなに頼りないのかよ!』

「ゴマモン……?」

『ふざけんなよ、ジョウ。オイラはジョウのパートナーで、ジョウのパートナーはオイラなんだ!オイラも行く!頼りないジョウを1人になんかさせるかよ!』

 

前のヒレをばたばたさせながら言うと、ゴマモンは唖然としている丈を尻目に歩き出した。

他のデジモン達と違って丈にはずけずけと意見を述べるけれど、それでもゴマモンだって他のデジモン達と同じだ。

ずーっとずーっと、気が遠くなるような長い年月を、ゴマモンは待っていたのだ。

みんなで身を寄せ合いながら、いつ来るのかな、明日かな、明日だといいなってみんなでわくわくしながら、ゴマモンは丈を待っていたのだ。

それなのに勝手に1人で悩んで、勝手に1人で決めて、勝手に置いていこうとして、何て自分勝手なんだろう。

 

『タイチとオサムのこと、あれだけぐちぐち言ってたくせに、自分もオイラに同じことするなんて、酷いよ、ジョウ』

「……ごめん」

 

太一達が最年長の自分を差し置いて、勝手に突っ走ることに対して怒っていたのに、それなのに自分が同じことをするなんて本末転倒である。

ゴマモンに言われて気づいた丈は、素直に謝罪した。

あれだけ嫌だって、年下達が言うことを聞いてくれないって地団駄踏んでいたのに、されて嫌だったことをゴマモンにしようとしていた。

年下達はみんな、自分のパートナーだと名乗っているデジモン達を頼りにし始めているのに、丈はゴマモンに対して警戒心は解いているけれど、それは完全に信頼しているというわけではなかったのだ。

パートナーを信じていない者が、年下達から信じてもらえるはずがないのに。

 

『ねえ、オイラそんなに頼りない?ジョウの力になれない?』

「……いや、そんなんじゃないよ。僕だ、僕が僕を信じていなかった。頼りにしていなかったんだ。自分でも情けないって気づいていたのに、気づかないふりして、心に蓋をしてしまった……お前に対しても、心を閉ざしてしまっていたみたいだ、本当にごめんね、ゴマモン」

『ん、いいよ。連れてってくれるんなら、許してあげる』

「分かった。行こう、ゴマモン。僕は、僕らは僕らにできることをやろう」

『そーこなくっちゃ!』

 

 

 

 

 

 

浮上した意識は、暗闇に閉ざされた視界の向こうに、淡いオレンジ色の光を捕らえる。

ぐっすりと眠りこんでいたはずの大輔だったが、尿意を催して意識が引っ張られてしまった。

眠気と尿意が一緒に襲ってきて、ベッドの中で落ち着きなく何度も寝返りを打っている。

そういえば寝る前にトイレに行っていなかったことを思い出し、渋々起き上がった。

このまま眠気に負ければ、翌日間違いなくベッドが大洪水を起こしているだろう。

小学2年生にもなっておねしょなんて、目も当てられない。

大輔はゆっくりと身体を起こすと、その振動がベッドに伝わって、一緒に寝ていたブイモンも起きてしまった。

どうしたの、って聞かれたから、トイレだって素直に言ったら、自分も行くと言ってブイモンもベッドから降りる。

しぱしぱする目を軽く擦りながら、最小限の明かりが灯されているテントを真っすぐ歩いた。

何となしに辺りを見回すと、太一と治、光子郎と賢がそれぞれのベッドで寝ているのがうっすらと見えた。

丈がいない。テントをもらった初日、下級生達が寝るベッドを選んでいるのを見守って、余ったベッドで寝ることになった丈の姿が、なかった。

明日をどうしようかと議論していた上級生の会話を知らない大輔とブイモンは、大輔の前にトイレにいるのかな、ってぼんやり考えるだ。

それよりも早く尿意をどうにかして、身体と脳が完全に覚醒する前にベッドに戻らなければならない。

お家でも時々尿意が勝って夜中にトイレに駆け込むことがあるのだが、トイレが終わると必ずと言っていいほど目が冴えてしまう。

眠いうちに戻りたいのに、トイレが終わると頭がすっきりしてしまい、再び眠るのに時間がかかってしまう。

結果的に、翌朝寝坊してしまう。

よくお姉ちゃんに遅くまでゲームしてるんでしょ、ってからかわれているが、とんだ風評被害である。

……確かに止め時が分からなくて、夜中までゲームをして遊んでしまうこともあるけれども、たまにだ。いや、時々?週に1回ぐらい?

 

 

テントを出る。濃紺の空はいつの間にか白んでおり、もう夜明けが近いことを報せていた。

大きな欠伸を1つ落とすと、それを拾ったブイモンも一拍遅れて大欠伸。

シャワーとトイレが1つになっている、3つめのテントに向かうと、同時に誰かが出てきた。

空とピヨモンだった。

 

「あら、大輔。おトイレ?」

「ふぁ~い……」

 

そして、あれ?って気づく。ぱっちりと目を覚ます。

トイレに行きたくて覚醒しかけて大輔の中でふらついていた意識が、ぴったりとはまる。

 

「丈さんは?」

「え?」

 

眠たかったけれど、テントの中の丈のベッドに丈とゴマモンがいなかったのは、ちゃんと覚えている。

もしかしてトイレにいるのかなってぼんやりと考えていたから、覚えている。

だが実際トイレから出てきたのは空だ。

だから大輔はそのことを空に伝えた。空は困ったような表情を浮かべる。

 

「見間違いとかじゃ、ない?」

「そんな、絶対見間違いじゃないっすよ!な、ブイモン!」

『そうだよ!そりゃ、確かに眠かったけど、ぜーったい見間違いじゃないって!疑うなら来てよ!』

「そうだ、見てもらえばいいんだ!空さん、来て!」

 

疑っているわけではなく、確認のために聞いたのだが、大輔とブイモンはそうは捕らえなかったらしい。

大輔が空の腕を引っ張って、男子のテントに連れていく。ピヨモンとブイモンが後を追う。

空は一瞬躊躇したが、大輔が構わずぐいぐい引っ張るので、仕方なしにテントに足を踏み入れた。

太一や治に何か言われたら、大輔に引っ張られたのだと言い訳しよう。

しかしそんな空の思考は、彼方へと吹っ飛ぶことになる。

 

 

ここ、ここ!って大輔が指さしたベッドはもぬけの殻であった。

どうやらこのベッドが丈とゴマモンのものらしい。

触ってみると冷たい。つまり丈とゴマモンはベッドに入っていないということだ。

……ならば丈は、何処に?

 

『ソ、ソラ!ちょっと来て!』

 

テントの入り口で、ピヨモンが空を呼ぶ。

大きな声だったので太一達が起きてしまう、と空は注意しようとしたのだが、テントの入り口で待機していたピヨモンとブイモンが、視線を地面に向けている。

どうしたのだろう、と空と大輔がテントの入り口に行くと、これ、とピヨモンとブイモンが地面を指さす。

そこには、几帳面な字でこう書かれていた。

 

 

──すぐに戻る。

  この場を動かず待っていてくれ

 

               丈

 

 

 

 

 

家族に引きずられる形で医者を目指している丈は、勉強こそできるもののスポーツはてんでダメという、典型的ながり勉くんである。

暇さえあれば机にかじりつき、教科書や参考書と睨めっこをしていることが多いものだから、国語や算数の成績はいいが、体育は5段階評価中1以上を取ったことがなかった。

別に医者になるのに体育は必要ないし、などと強がったものの、今ほどそのことを後悔したことはないだろう。

運動はできないでも、せめて体力はつけておくべきだった。

だが勉強の息抜きとして参加したサマーキャンプで、誰が誰も知らない大冒険を繰り広げることになるなんて思おうか。

ごつごつとした岩肌の山道は当然、舗装なんて親切な手入れはされているはずがなく、デコボコとしていてとても歩きにくい。

キャンプのプログラムでも山登りはあったが、飽くまでも人の手が加えられた安全な山道のハイキングであり、1歩歩いただけで足を取られるような岩の道ではない。

子ども達が履いている靴も、長距離の移動に適した靴ではあるものの、こんなごつごつした岩肌の道なんか歩いて、耐えられるだろうか。

自分達の世界に帰ったときにボロボロになっていたら、母に何と言い訳をすればいいのだろう。

 

「ぜぇ、ぜぇ、うぇ……」

 

運動不足、慣れない山道、その他もろもろ積み重なってまだ4分の1も登っていないのに、丈の息は切れ始めている。

少し休んでは歩き、また少し休んでは歩きの繰り返しで、前に進んでいる感覚がなかった。

この調子では、頂上にたどり着く前に丈の書置きに気づいた子ども達が追いかけてきて、追いついてしまうだろう。

 

「うう、それにしても、ぜぇ、大きな山だな、はあ、はあ……」

『何だい、はあ、もう根を、へぇ、上げたのかい……ぜぇ』

「……君にだけは、うえ、言われたくないよ」

 

まだ頂上は遠い。見上げると眩暈がしてきそうだが、ぐっとこらえる。

 

『ま、いざとなったら、よいしょ、オイラが手を貸してやる、よっと!』

「……それ手だったの?」

 

思わずと言った様子で呟けば、ゴマモンがじとりと睨みつけてきたので、慌てて冗談だと弁解した。

海洋生物のゴマモンの“ソレ”は手というよりはヒレである。

だからこそ、違いを正さないと気が済まない丈は、ヒレを手と称するゴマモンに疑問を抱いたのだが、ゴマモンにとってヒレは人間の手であることに相違ないので、間違ってはいない。

また、ゴマモンの“ゴマ”はゴマフアザラシから来ているのだろうが、アザラシというよりはアシカかオットセイの方が近い気がする。

アザラシは地上では腹ばいになって移動するが、ゴマモンは前ヒレを動かして移動しているのだ。

それはアシカやオットセイの歩き方に酷似していた。

 

「君はアシカなの?オットセイなの?」

『?オイラはゴマモンだよ?』

 

何となく気になって聞いてみるが、返ってきたのはいつものように不毛な答えである。

 

「いや、そうじゃなくて。それは知ってるけど、そのゴマモンは何科なの?」

『???』

「……ごめん、僕が悪かった」

 

ここは異世界だ。だからもしかしたら、丈の世界のように何々類何々科という分類がないのかもしれない。

ちなみにアシカは鰭脚類アシカ科である。

 

 

 

先に進む。岩肌の間を抜けるような小川を飛び越え、誰がかけたのか丸太の橋を危なげに渡り、洞窟を抜ける。

丈の足幅ぐらいしかない崖先を、背中を岩肌にくっつけて慎重に進む。

行き止まりになっている岩壁をよじ登り、道なき道を真っすぐ突き進んでいく。

登り切ったところで、流石に息が切れてきた丈とゴマモンは、その場に座り込んだ。

見上げたムゲンマウンテンは、先ほどよりは距離が近づいてはいるものの、まだまだ遠い。

だがやると決めたのだ。やっと半分近くまで登ってきたのだから、途中でやめるなんて選択肢は始めからない。

切れた息が整ってきたらまた歩き出そう、とゴマモンと並んで星空を眺めていた時である。

 

「……う、わ!な、何だ!?」

『じ、地震!?』

 

突如として揺れ始めた地面。下から突き上げるような振動に、丈とゴマモンは何事だと焦った。

近くでガラガラと岩が転がり落ちるような音がしたから、岩肌に背を預けていた丈達は慌ててその場から離れた。

地震大国と呼ばれる日本で生まれた丈は、避難訓練の時を思い出して持っていた鞄で守るように頭に乗せ、更にゴマモンを自分の傍に引き寄せた。

日本が地震大国と呼ばれるのは、地震を引き起こす原因とも呼べる“プレート”と呼ばれる真上に日本列島が位置しているから、というのは、本で得た知識だった。

ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレート、そして北米プレートという、世界でも珍しい4つのプレートがぶつかり合っている真上にあるのである。

プレートは可視化できないほどゆっくりとした速度で動いており、一方のプレートの下にもう一方のプレートが沈み込み、そのプレートの境目で断層が生じ、地震が発生するのが主な原因なのだが、火山大国でもある日本には火山性地震というマグマの移動などの火山活動によって発生する地震も存在している。

だから丈は、ムゲンマウンテンが火山なのではと推測した。

同時に、最悪の事態が頭を過った。

もしもムゲンマウンテンが火山なら、この地震は火山性地震である。

ということは、いつマグマが噴き出てもおかしくない。

種類にもよるが温度が1000度前後の高温である、熱いなんて言葉では済まされない。

これは避難をした方がいいのか、ゴマモンを抱えて元来た道を戻り、下級生達に知らせなければ……。

 

 

 

その時である。

岩肌の一部がまるで切り取られたかのように真っ二つになり、そして地響きを立てながらゆっくりと横にスライドした。

そしてその不自然に綺麗に切り取られた割れ目から、悍ましい闇の気配を漂わせた大量の歯車が飛び出してきたのである。

背後から綺麗な星空を漂う濃厚な闇の気配を醸し出している歯車を見た丈とゴマモンは、歯車が飛んできた方向に顔を向けた。

二つに分かれた岩肌が、またゆっくりと下に戻っていくのを見た丈とゴマモンは、その場に向かうことにした。

この山は、何かおかしい。

 

 

 

高い岩山の向こうから顔を出した太陽の光で、もう朝なのだと知った丈達。

そろそろ下級生達が目を覚ますころだろう。

そして、丈とゴマモンがいないことに気づいて、みんなで何処に行ったのだと探し回るだろう。

目立つところにメッセージを残したつもりだったが、テントの入り口ではみんなが出入りする間に消されてしまう恐れがあったのを、丈は今頃になって思い立った。

どうかみんなが気づいてくれますように、と願いながら、丈とゴマモンは先ほど歯車が飛び出してきた辺りに到着した。

パッと見渡したところ、切れ目のようなものは見当たらない。

まるでナイフで切ったかのように、不自然なぐらいに綺麗に真っ二つにされていたのに、その切れ目が何処にも見当たらないのである。

おかしいな、ここではなかったのかな、と訝しみながらも丈がもっとよく探してみようと1歩踏み出した時。

 

『待って!』

 

ゴマモンが真剣な声色で丈を止めた。

見れば、険しい表情で辺りを伺っている。

どうしたの、って問いかければ、何かが聞こえると返ってきた。

耳を澄ませてみると、確かに何かが聞こえてきた。

何か、布のように柔らかいものが何度も空中に叩きつけられるような音。

岩山からすっかり顔を出した白く丸い光の向こうに、丈とゴマモンは天馬を見た。

朝の涼やかな風の中、美しいとはいいがたいものの、丈の世界では想像上の生物として神話などに描かれている、背中に翼の生えた馬が、今まさに目の前を悠然と空を駈けている。

角が生えている赤いヘルメットを被り、翼は少々ぼろい黒、名前はユニモンというらしい。

神話などに全く興味がない丈は知らないのだが、ユニモンのモデルはユニコーンであって、ペガサスではない。

ユニコーンは頭部に1本の角が生えているのが特徴で、日本では一角獣と呼ばれている。

獰猛だが清らかな乙女が好きで、その懐に抱かれると大人しくなるという。

角には蛇などの毒で汚された水を清める力があるそうだ。

対するペガサス、あるいはペーガソスはギリシア・ローマ神話に登場する翼を持つ馬で、日本語では天馬である。

海の神・ポセイドンとゴルゴン3姉妹の三女・メデューサの子で、英雄ペルセウスによって首を落とされたメデューサの首の切り口から生まれた。

そのペガサスを元にしたデジモンは、およそ3年後に登場することになるのだが、それは後に語ることになるだろう。

 

 

 

今までデジモン達の情報を信じていたら酷い目にあった結果しかなかった丈は、ユニモンは大人しいから大丈夫だというゴマモンの言葉を信じることが出来ず、彼を抱きかかえて近くにある岩壁の窪みに身を隠した。

だが丈の心配とは裏腹に、ユニモンは優雅に着地を決めると、岩山を伝って流れ落ちている小さな滝に首を近づけ、水を飲み始めた。

どうやらユニモンの水飲み場らしく、丈はほっと胸を撫で下ろす。

ほら見ろ、とゴマモンは鼻を鳴らしたので、苦笑しながら謝罪した。

本当に大人しいデジモンなので、恐らく丈が近づいて撫でたりしても怒らないだろう、とゴマモンは言いながら静かに歩み寄る。

流石にそんな勇気は持てないので、ゴマモンを止めようとした時。

 

一難去ってまた一難、というのはこのことだろう。

 

空気を擦るような微かな音を聞きつけ、水を飲んでいたユニモンは顔を上げ、耳を忙しなく動かした。

ゴマモンの耳もそれを捕らえたようで、ピタリとその動きを止める。

“ソレ”が良くないものだとゴマモンの本能が警鐘を鳴らし、警戒心が一気に膨れ上がった。

 

 

悪意が、山の眼下に広がる森の間を駆け抜けている。

 

 

ユニモンとゴマモンだけに聞こえていた微かな音は、やがて大きくなっていき、食物連鎖の頂点に立ってしまったことで敵に対する本能などが鈍くなっている人間の丈の耳にも、それは聞こえてきた。

不安そうに辺りを見回す丈とは裏腹に、ゴマモンは一点を見つめている。

音がする方角が正確に分かっているようだったが、丈は気づかない。

静まり返っている空間が、一層不気味だった。

 

 

 

空気を擦るような音が近づいてくる。

それは、上の方から聞こえてきた。すっかり昇りきった朝日が眩しくて、腕で影を作りながら目を細めて上を見上げた時、丈は“ソレ”を見た。

 

「あれは……!」

『黒い歯車だ!さっき飛び出していったやつか!?』

 

不気味な音をかき鳴らし、濃厚な闇の力を漂わせた黒い歯車は、丈とゴマモンなどには目もくれず、真っすぐユニモンの下へと急降下していった。

警戒しながら事態を見守っていたユニモンは、自分めがけて急降下してきた黒い歯車に反応することが出来ず、黒い歯車はあろうことかユニモンの背中に突き刺さった。

半分ほど埋まった歯車に、丈は自分のことのように表情を顰めたが、今はそれどころではない。

闇の気配をまとった歯車から漏れ出す邪悪なエネルギーに浸食されたユニモンの、ヘルメットの奥にある目が怪しく光った。

ゆっくりと、その首をもたげ、丈とゴマモンを視界に捕らえたユニモンは、地響きを鳴らしながら丈達に近づいてくる。

大きく口を開けると、水色のエネルギーが収束・放出された。

丈とゴマモンの頭上を通り過ぎて、岩壁に当たると派手な爆音を轟かせながら崩れていく。

丈は咄嗟に覆うようにゴマモンを庇った。

背後を見れば、自分達のすぐ後ろの道が抉れている。

あんなものを溜まったら一たまりもない、と丈は息を飲んだ後ゴマモンを抱えたまま走り出した。

ゴマモンはまだ進化が出来ない。何とかしてほしくとも、何とかしてやりたくとも、今の2人ではどうすることもできないのだ。

再びユニモンがエネルギー弾を撃ち出してきた。

走っている丈のすぐ上を狙って撃ち出されたエネルギー弾は、岩を抉って幾つもの破片が雨のように降り注がれる。

丈は、ゴマモンを抱えて慌てふためきながらも懸命に走る。

ゴマモンが降ろせと喚いているが、走っていることに夢中な丈は気づいていない。

早く逃げないと、ユニモンはすぐそこまで追いかけているのだ。

しかし運動不足に加え、不運体質の丈はとことんついていなかった。

再び放たれた技によって、丈達が走ってきた道が崩れてしまったのだ。

何とか瓦礫を乗り越えたものの、ユニモンは翼を悠然と羽ばたかせながら、丈とゴマモンの前を塞ぐように降り立つ。

行く道も来た道も塞がれた丈。逃げ場はない。

急速に集められたエネルギーの塊。眩さと絶体絶命という絶望に、丈とゴマモンは咄嗟に目を瞑る。

だが、ユニモンの技が2人を包み込むことはなかった。

2人の頭上を圧縮されたエネルギーが通り過ぎるのを感じ、恐る恐る目を開けると、そこにはユニモンに体当たりをして岩山に押しつぶしている火の鳥がいたのである。

 

「バ、バードラモン!?」

 

空のピヨモンが進化したデジモン、バードラモンだった。

その足には、太一とアグモン、そして空がしがみついていた。

 

「丈先輩!」

「助けに来たぜ!」

「太一!空くん!」

 

駈けつけようとしたと同時に、バードラモンがユニモンから離れると、お返しとばかりにエネルギー弾を放つ。

近距離から技を放たれたバードラモンは、まともに食らってしまい、岩肌を滑り落ちるように墜落していってしまった。

空が悲鳴を上げながら、墜ちていったバードラモンの後を追って崖を滑り落ちる。

今度はアグモンがグレイモンに進化し、ユニモンと対峙したが翼があるユニモンは空へと逃げてしまった。

地上戦なら負けなしのオレンジ色の恐竜だが、これでは手も足も出ない。

更に進化した後の隙をつかれ、背後から思いっきり体当たりされてしまった。

もろに食らったグレイモンは、バランスを崩して岩肌に叩きつけられる。

崩れた岩壁と道の窪みに落ちた太一だったが、幸いお椀のように湾曲になっていたために、滑り落ちることはなかった。

 

『メガフレイム!!』

 

大きな火の塊を吐き出したグレイモンであったが、空を飛んでいるユニモンは嘲笑うかのように悠然と宙を舞いながら、それを避ける。

エネルギー弾を岩山に吐き出し、振り注がれる岩の雨。

グレイモンは太一を守るので精一杯だった。

空中戦ならやはりバードラモンの方に分がある。

叩き落されたバードラモンは、何とか空へと舞い戻ると、炎の雨をユニモンに向けて撃ちだしたのだが、進化を果たしたばかりのバードラモンと、それよりもずっと前に天馬として空を駈けていたユニモンとでは、経験の差は歴然としていた。

炎の雨を軽々と避けながらバードラモンに近づき、ユニモンは体当たりをする。

再び落とされたバードラモンは、あろうことか空の下に落ちていき、空を巻き込む形で更に下へと転がり落ちていってしまった。

何もできない丈とゴマモンは、助けに来てくれた仲間達をただ見ていることしかできない。

 

 

何て、無力なんだろう。

 

 

太一と治と空に上級生としてのお株を奪われ、光子郎のように何かに特化したわけでもなく、ミミのように空気を変える才能があるわけでもなく、ただ“ここ”にいるだけの6年生。

それは、それだけは嫌だったから、だからこそ丈は自分に何かできないかと思ってゴマモンと2人だけでこの山に登ったのに、結局ユニモン相手に逃げることしかできず、助けに来てくれた仲間達を助けることもできず、指をくわえて見ているだけ。

 

 

──いや、そんなことはない。

 

 

やると決めたら必ずやり遂げる、意志の強い子どもは諦めない。

何か、何かあるはずだ。

パートナーを進化させることが出来ない自分でも、何かやれることがあるはずだ。

この山に登ろうと決めた時のように、何か……。

 

 

 

不意に、ユニモンが視界を横切る。

丈の目に飛び込んできたのは、その背に半分ほど埋まった黒い歯車。

 

「……あれだ!」

 

丈は叫んだ。

大人しく、水を飲みに来ただけのはずのユニモンがおかしくなったのは、あの黒い歯車が突き刺さったすぐあとだ。

あれがユニモンをおかしくさせているんだ。

思えばデジモン達が賢くて大人しいと教えてくれたにも関わらず襲い掛かってきたのは、黒い歯車が原因ではないか。

アンドロモンももんざえモンも、あの黒い歯車が身体から抜けてから正気に戻っていたではないか!

やると決めたら、必ずやり遂げる。

丈の行動は、早かった。

 

『ジョウ!?何してんの!!』

 

立ち上がったかと思えば、丈はユニモンが視界を横切るタイミングを見計らって崖から飛び出していった。

驚きのあまりゴマモンが声を張り上げるが、丈は聞いていない。

危なげに飛び降りた丈は、黒い歯車にしがみつく形でユニモンの背中に乗る。

 

「これを……!これさえ外せば……!」

 

やると決めたら必ずやり遂げる子は、もう歯車を外すことしか考えていない。

深く突き刺さった棘を抜くためには痛みを伴う。

邪悪に心を染めてしまったユニモンは、歯車が突き刺さっている痛みなどきっと感じていない。

だが引き抜こうとする痛みは、どうだろうか。

へっぴり腰になりながらも、丈が腕に力を入れて歯車を抜こうとした時、激痛がユニモンを襲う。

嘶きながら空中を暴れまわるユニモンだが、丈は引き抜くのをやめない。

痛いかもしれないけれど、これが外れなければユニモンはずっとこのままだし、仲間達も危ないのだ。

 

『ジョウ、止めろ!!無理だよ、幾ら何でも!!』

「ダメだ!僕が、僕がやらなきゃいけないんだ!!」

 

ゴマモンが制止するが、丈は止まらない。

歯車を外すということしか、今の丈の頭の中にはないのだ。

一番面倒なこと、大変なことは年上が率先してやらなければならない。

丈の2人の兄達は、いつもそうだった。

自分は兄だからって、面倒なことも笑顔で引き受ける姿を、丈はいつも見てきた。

だから丈も、この無謀な冒険の中で最年長として、面倒なことを、大変なことを引き受けようと決めた。

それが年上としての務めだから。みんなを守らなければならないから。

 

「うわあっ!!」

 

奮闘空しく、丈の身体が空中に放り出される。

重力に逆らうことも許されず、放り出された丈の身体は悲鳴を置いてけぼりにして落下していった。

 

 

『ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

目の前で落ちていく、守るべきもの。

ゴマモンの悲鳴にも似た咆哮が、ムゲンマウンテンに響いた。

 

子ども達が危機に陥った時、デジヴァイスは光り輝く。

 

 

『ゴマモン進化!!』

 

 

光に包まれたゴマモンの身体に、0と1が降り注がれていくのを、丈は見た。

光の卵から生まれたのは、白い毛に覆われ、大きな牙を生やした、巨大なトドだった。

 

『イッカクモン!!』

 

灰色の地面に死を覚悟した丈だったが、白い地面が突如として現れ、そして柔らかく受け止められる。

岩に叩きつけられる痛みではなく、クッションのような柔らかさ。

少々ごわついた毛の触感に、助かったのだと安堵したと同時に、上空を睨みつける。

イッカクモンのすぐそばまで高度を下げていたユニモンに、イッカクモンは鋭い角が生えた頭部で頭突きをお見舞いしてやった。

取るに足らないと思っていた成長期が突如として成熟期に進化したことに驚いていたユニモンは、その頭突きをまともに食らって空中に飛ばされた。

だが途中で何とか踏ん張り、エネルギー弾をお返ししてやる。

それを難なく躱したイッカクモンは、頭部の角をユニモンに向けた。

 

『ハープーンバルカン!!』

 

まるでロケットのように火を吹きながら発射された角は、真っすぐユニモンに向かっていったが、それを嘲笑うかのようにユニモンはフラフラと避けてしまう。

悔しそうに顔を歪めた丈だったが、イッカクモンはにやりと笑った。

飛んで行った角が真っ二つに割れ、中から更にミサイルが出てきて、先ほどよりも早いスピードでユニモンに向かって飛んで行ったのである。

完全に油断していたユニモンは、背後からミサイルを何発も食らって、白煙を上げながら落ちていった。

同時に、背中に突き刺さっていた歯車が抜けて、細かい粒子になって消滅した。

闇をまとった黒い歯車が外れたことにより、邪悪に染まっていたユニモンの心は正気を取り戻し、慌ててその場から飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

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