ナイン・レコード   作:オルタンシア

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破壊の使者

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突如として膨れ上がった濃厚な闇の気配は、大輔達最年少の3人だけでなく、他の子ども達やパートナー達にも襲い掛かった。

 

 

ぞわりとした空気は、今まで感じたことのないものだった。

先程のように地の底からじわりじわりと這い上がってくるようなものではなく、喉元に鋭いナイフの鋒を突きつけられたような感覚。

身体中に氷をかけられたような寒気と悪寒。背後から唯ならぬプレッシャーを感じた。

振り返りたくない、しかしこのプレッシャーの正体を確かめないといけない。

そうじゃないとパートナーである子供達を護ることが出来ないからだ。

だからデジモン達は勇気を振り絞って、震える身体を叱咤して、背後を振り返る。

がちがちに固まった身体は、なかなか言うことを聞いてくれなかったけれど、それでも振り返って正体を確かめないことには、何も始まらない。

冷や汗が次々と流れてくる中、デジモン達は背後を振り返る。

コロッセオの真ん中に、グレイモンが佇んでいた。

それは、太一のグレイモンだった。何故なら敵の証である首輪をしていない。

プレッシャーの正体はグレイモンだったようだが、何故?

 

『……っ!?』

 

そう認めた途端、子ども達は息を飲み、デジモン達は全身の毛を逆立てた。

喉の奥を鳴らすように唸り、先ほど悍ましいピンク色のデジモンが現れた時よりも警戒心を抱いている。

コロッセオに充満していた闇を全部かき集めて1つに凝縮したような、濃厚な闇の匂いと先程とは比べ物にならないほどの威圧感が、デジモン達にのしかかっている。

視覚できるほどの強く濃い闇が、グレイモンの周りを漂っており、不気味さを更に強調していた。

 

『……グレイ、モン?』

 

恐る恐ると言った様子で、代表して声を上げたのは、拳を握って戦闘体勢を取っているブイモンだった。

何も言わず、動かず、悍ましい闇の気配を漂わせながらただそこに佇んでいるだけのグレイモンは、違和感しかない。

いつも勇ましく、パートナー達の先陣を切って戦闘に身を投じていくグレイモンと違う雰囲気と様子に、パートナー達は狼狽えることしかできなかった。

 

 

轟……!

 

 

その時だ、止まっていた時が動き出したのは。

嵐のような風が吹きすさんで、コロッセオの砂が舞い、子ども達の視界を奪う。

うわ、と子ども達は腕で顔を覆って庇ったり、うずくまったりして目を護った。

モウモウと舞い上がる砂煙に、げほげほと誰かが咳き込んでいた。

舞い上がった煙が晴れていく。

 

『……あ、』

 

最初に“そこ”にいる存在に気付いたのはガブモンだった。

赤い目が見開かれて、全身がブルブル震えている。

どうした、って治が声をかけるけれど、ガブモンは答えない。

ドライアイスの煙のように地面を這い、滑っている闇の気配が、子ども達の足元から忍び寄ってくるような寒気を覚えた子ども達がそちらに目を向けると、視界の先にいたのは全身が剥き出しの骨で出来たデジモンだった。

人体や動物を支えている骨が、剥き出しになっているのである。

胸の辺りにはその骨に護られているようにデジモンの心臓…デジコアが見える。

大きさはグレイモンの1.5倍はあった。

 

──あれは一体……?

 

治は目を細めて凝視する。他の子ども達も、困惑していたが、パートナー達は違った。

ゆっくりと振り向いた骨のデジモンに、顔を真っ青にさせながら引きつったような短い悲鳴を上げる。

 

『あ……あかん……!何でや!?何であんなんが……!?』

「?テントモン?どうしたんだい?」

 

剥き出しの骨に怯えているテントモンに、光子郎が詰め寄ると、テントモンは震える声で答えた。

 

『スカルグレイモンや!最悪や!何でよりによって……!』

「え?ど、どういうことですか?」

『ス、スカルグレイモンは戦いに執着したデジモンが、骨になってまでも戦いたいという強い思いで、あのような姿になったと言われております!背中に背負っているミサイルは、そこら辺のもの全部吹き飛ばしてしまうのです!』

「何だって!?」

 

怯えているデジモン達に変わってピコデビモンがしてくれた解説に、子ども達に動揺が広がった。

足元から忍び寄ってきて、子ども達の喉を締め付けてくるような、悍ましい闇の気配を漂わせているスカルグレイモンは、まさに死の象徴である。

どんな完全体も、スカルグレイモンと正面からぶつかることは避けたがるのだと、パートナー達は震える声で教えてくれた。

それは単(ひとえ)に、背中に背負っている魚のようなシルエットのミサイルのせいだ。

グラウンド・ゼロ、という英語で「爆心地」という意味を持つ必殺技は、1度放たれてしまえば周りの物を全て消滅させる威力を持っている。

その後100年は、草木も生えず生き物も暮らすことが出来ない、荒れた土地へと成り果てるのだそうだ。

それを聞いて子ども達は更にぞっとした。

何だそれは。同じ完全体でも勝負したがらないなんて、ただのチートではないか。

子ども達はパートナー達から目を離して、スカルグレイモンの方を見る。

ほぼ同時に、ゆっくりと振り返ったスカルグレイモンは、完全に子ども達とパートナー達を視界に入れた。

パートナー達が教えてくれたスカルグレイモンの恐ろしさを聞いて、尚もぐずぐずとこの場に留まっているほど、子ども達も莫迦ではない。

このままここにいるのは危険だと、警鐘を鳴らし続けている本能に、しかし子ども達は逃げ出すことはできなかった。

 

「太一!太一は何処!?」

「お兄ちゃん!」

 

空とヒカリが、観客席から身を乗り出して太一を探す。

太一のグレイモンがいた場所に、突如として現れたスカルグレイモン。

それがどういうことなのか、誰も何も言わないが分かる。

あれは、間違いなく太一のグレイモンが進化したデジモンだ。

いつだって他の子ども達やパートナー達の先陣を切って、勇敢に敵に立ち向かっていた太一とグレイモンだったのに、一体どうしてあんな悍ましいデジモンに進化をしてしまったのか、子ども達には分からなかった。

だが今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「…………いた!あそこだ!」

 

目を凝らして丈が指差したのは、スカルグレイモンの手元だった。

スカルグレイモンの白い骨の手に、太一が横たわっているのが辛うじて見えた。

 

「太一!」

『タイチィ!!』

 

治とガブモンが声を張り上げて太一を呼ぶが、スカルグレイモンの掌に横たわっている太一が、起き上がる気配はない。

子ども達の脳内に、言い知れぬ嫌な予感めいたものが横切った。

 

《…………キシッ》

 

ピンク色のデジモンが、コロッセオの上からその様子を眺め、不気味な笑い声を上げるとその場から姿を消したことに、子ども達は気づけなかった。

 

『どっ、どうしよう、ソラ……!』

「……何とかするしかないじゃない……!」

 

スカルグレイモンを見てすっかり怖気づいてしまった様子のピヨモンが、不安そうに空に話しかける。

空は一瞬躊躇したものの、それでも自分の使命を全うすべく腰に手を伸ばした。

ジーンズに引っかけている、パートナー達の力を爆発的に引き出すデジヴァイス。

グレイモンが進化をしたということは、スカルグレイモンは完全体だ。

丈以外の子ども達はまだ紋章を手に入れておらず、成熟期以上の進化も果たしていない。

成熟期7体が完全体に挑むとどうなるのか、治や光子郎でも分からなかった。

数の暴力で圧し勝つことができるのか、それともレベルの差は埋まらないのか。

……どちらにしても、スカルグレイモンの手に横たわっている太一を助け出さなければ、話にならないことだ。

あのままでは、太一がいつスカルグレイモンに握りつぶされてしまうか分からない。

上級生達は覚悟を決める。そんな子ども達を見て、パートナー達も腹をくくった。

相手は同じ完全体のデジモンですら恐れると言われている、闘争本能の塊であるスカルグレイモンだが、この際そんな泣き言など言っていられない。

怖くても、デジモンとしての本能が早く逃げろと囁いてきても、子ども達が戦うと決めたのならそうするしか道は残されていないのだ。

何より……相手は、大切な、共に戦う仲間だ。

スカルグレイモンに進化したというのは、見捨てる理由にはならない。

基本的に子ども達至上主義のパートナー達でも、アグモンを見捨てるなんて選択肢は最初からなかった。

 

『よし……行こう、みんな!』

 

いつもならアグモンが言う台詞を、ガブモンが言って進化の準備をしていた時だ。

敵のグレイモンが動き出した。

今の今まで時が止まっていたかのように、不自然なほどに静かに待機していたのに、突然咆哮を上げて、スカルグレイモンに突進していったのだ。

恐らくあちらのグレイモンも、スカルグレイモンが醸し出していた闇のオーラに圧倒され、身動きが取れなくなっていたのだろう。

しかし太一のグレイモンのように護るべきものを持たないグレイモンは、いわば野生動物そのものだ。

ただ目の前にいる敵を倒す、という本能のみが脳内を支配している状態の敵のグレイモンは、相手がスカルグレイモンであることもきっと分かっていない。

大きな口を開けてスカルグレイモンに噛みつこうとしたが、スカルグレイモンは気にする素振りも見せず、鬱陶しい蝿でも払うかのように片手でグレイモンを吹っ飛ばしてしまった。

モニターに激突して、バチバチと火花が散る。

どおおおおおおんという爆発音が響いて、黒煙が舞い上がった。

爆風が前から襲い掛かってきて、子ども達は咄嗟に腕で顔を庇う。

砂埃がまるで嵐のように巻き上がって、子ども達に降り注いだために、子ども達は全身砂まみれになってしまった。

 

「な、何て奴だ……!」

「くっ……!ピヨモン、お願い!」

『任せて!』

 

デジヴァイスから光が漏れ、ピヨモンを包み込み、火の巨鳥となったバードラモンは、大きな翼を羽ばたかせながら、力強く空を舞う。

バードラモンに続けと、他のデジモン達も進化の光に包まれながら、次々と飛び出していった。

ブイモンとプロットモンも進化をすべく、大輔とヒカリの方を見たのだが、上級生達ほど気をしっかりと持てなかったのか、その場で呆然と立ち尽くしているだけだった。

 

「まずはスカルグレイモンの気を引こう!あのままじゃいつ太一が潰されるか分からない!」

『分かった!』

 

治の指示を聞いたガルルモンは、まずスカルグレイモンの下に疾りだした。

スカルグレイモンの視界に入れば破壊衝動のスイッチが入り、相手が何者であろうとも戦いをやめない。

それでもガルルモンはスカルグレイモンへと直進していく。

太一をスカルグレイモンから引き離せって、治にお願いされたから。

スカルグレイモンの左手が振り上げられた。

 

『この……!』

 

空からバードラモンが急降下し、鋭い爪が付いた足でスカルグレイモンの左手を掴んだ。

一瞬動きは止まったが、スカルグレイモンはバードラモンを一瞥しただけで、振り上げた左手を振り下ろそうと力を込める。

 

『ぐう……!』

『バードラモン!』

 

カブテリモンがバードラモンに加わってスカルグレイモンの腕を掴む。

スカルグレイモンが更に左腕を振り下ろそうとして、“太一を乗せている右手に僅かに力が込められたのを”、地上にいたイッカクモンは見逃さない。

 

『ガルルモン!いったん離れろ!バードラモンとカブテリモンも、離せ!タイチが潰される!』

『っ!』

 

イッカクモンの言葉に、太一を奪還すべく奮闘していたガルルモン達は咄嗟にスカルグレイモンから距離を取る。

しかしスカルグレイモンはそれを許さず、左手をぐわっと伸ばして空に逃げようとしたバードラモンを掴んだ。

空の悲鳴が聞こえる。

スカルグレイモンは空の悲鳴なんか聞こえていないように、掴んだバードラモンを放り投げる。

勢いが強く、もみくちゃにされながら放り投げられたバードラモンは体勢を整えることが出来ずに、そのまま砂埃をあげながら地面を滑った。

空に逃げたカブテリモンが、投げられたバードラモンの先回りをして受け止めていた。

 

『ちくちく……』

『莫迦!タイチに当たるぞ!』

 

トゲモンが必殺技を放とうとしたが、トゲモンの技は広範囲にわたって無数の針を放つものである。

スカルグレイモンには大してダメージは入らないだろうが、その手に横たわっている太一のことを考えると、迂闊に放っていい技ではない。

イッカクモンに怒鳴られたことで、そのことを思い出したトゲモンは、一瞬動きを止めた。

バードラモンとカブテリモンから興味を無くしたスカルグレイモンは、足元でうろちょろしているイッカクモンとトゲモンに気づき、徐に見下ろす。

やばい、とイッカクモンとトゲモンは咄嗟に離れたが、イッカクモンは海洋生物であるために、素早く動けない。

ガルルモンが奔る。

動きが鈍いイッカクモンから、スカルグレイモンの気を逸らすために視界を横切るように跳躍した。

闘争本能の塊であるスカルグレイモンは、“動くもの”に反応するのだ。

その目論見は正しかったようで、スカルグレイモンの視線がトゲモンとイッカクモンからガルルモンに移る。

ぶん、と振り上げた左腕が、ちょこまかと動き回るガルルモンを叩き潰そうと狙っていた。

成熟期と完全体という差はあるものの、身体が大きくて重いスカルグレイモンに捕まるほど、ガルルモンは鈍間ではない。

しかし逃げ回るだけでは、太一を助けることが出来ない。

どうしたものか、とガルルモンは冷や汗を流しながら考えていると、トゲモンが何かを喚いた。

 

『……がっ!』

 

ばしん、と視界がぶれて全身が地面に叩きつけられる。

考え事をしていたせいで動きが一瞬遅くなってしまい、スカルグレイモンが振り下ろした手に捕らわれたのだ。

 

『くっ……メテオウィング!』

 

ガルルモンを叩き潰そうと、再度左腕を振り上げたので、何とか回復したバードラモンが炎の雨をスカルグレイモンの左腕にぶつける。

ぶつけられたスカルグレイモンは一瞬動きをとめ、ゆっくりとした動きで炎の雨がぶつけられた腕を見上げる。

その隙にガルルモンはその場から離れ、カブテリモンが太一を救い出そうと高速で翅を動かし、スカルグレイモンに接近していったが……。

 

《グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!》

 

一際大きな咆哮を上げたスカルグレイモンが、接近してきたカブテリモンを左腕で振り払う。

それが合図だったかのように、スカルグレイモンは暴れ出した。

左腕を出鱈目に振り回し、太一を乗せている右腕は懐に仕舞うように胸の位置で固定し、ガルルモン達を追い立てるように足で地面を踏み鳴らす。

コバエのように周りを飛んでいるバードラモンやカブテリモンを叩き落そうとし、足元をうろついているガルルモン、トゲモン、そしてイッカクモンを踏みつぶそうとしている。

出鱈目に振り回した左腕が、コロッセオの壁や座席を破壊する。

地面を踏み鳴らしている足が、敷き詰められた煉瓦に穴を開けていく。

 

「くそ、あれじゃ太一達に近づけないぞ!」

「どうすれば……!」

 

離れたところで戦いを見守っている子ども達は、やきもきしながら戦況を見守ることしか出来ない。

このまま戦いが長引けば、パートナー達の体力を消耗するだけだ。

何とかスカルグレイモンに気づかれずに近づいて、太一を助け出さなければ……。

 

その時である。

 

 

ぼう……

 

 

子ども達の知らないところで、ある異変が起きていた。

それは、気を失ってスカルグレイモンの右手に横たわっている、太一からだった。

ズボンに引っかけているデジヴァイスが、薄らとオレンジ色に発光する。

そのオレンジの光が、デジヴァイスから飛び出していったかと思うと……“光はブイモンに向かって飛んだ”。

 

『え……?』

 

ブイモンが気づいたのは、ギリギリのところだった。

自分もガルルモン達に加勢すべく、大輔に進化をさせてくれるよう懇願していたから、ギリギリまで気づかなかったのだ。

大輔はどういう訳か、ブイモンの呼びかけに反応せず、ずーっとスカルグレイモンのことを見つめていたために、進化をすることが出来なかった。

一体どうしたんだろう、どうして大輔は自分を見てくれないのだろう。

そんなことを考えていたら、反応が遅れてしまったのである。

 

『うわっ!!』

『ブイモンッ!?』

 

パァン、と何かが弾けたような音がして、ブイモンがオレンジの光に包まれる。

眩い光で子ども達は目をぎゅっと瞑って、腕で顔を庇った。

 

『……え、こ、れ……』

 

光が収まる。

目を閉じていた子ども達は、恐る恐る目を開けた。

光に包まれたはずのブイモンは何処にもおらず、炎のように赤い鎧をまとった竜人が、そこにいた。

 

「え……」

「だ、誰!?」

 

光子郎はぽかんとし、ミミは叫んだ。

赤い鎧をまとった竜人は、慌てて弁解した。

 

『お、俺だよ!ブイモンだよ!』

「ええっ!?」

 

子ども達は驚愕したが、言われてみればどことなく面影がある。

ブイモンが進化をするとエクスブイモンになるのだが、そのエクスブイモンよりもブイモンの面影が強く残っていた。

 

『それ……進化?』

 

デジモンであるが故に、ブイモンに起こった異変を何となく察したプロットモンだが、だからこそ不自然だった。

ブイモンが進化した姿は、エクスブイモンと言うもっと逞しい姿をした、白い翼を持ったデジモンだ。

目の前にいるような、華奢な姿はエクスブイモンとは似ても似つかない。

そもそもエクスブイモン以外に進化したこと自体が謎だ。

子ども達は、デジモンは決められた姿にしか進化しないと思っていたし、パートナー達もきっとそう思っていただろう。

というか、こんなデジモンいたかしらん?ってプロットモンは首を傾げている。

デジモンとして、生きるために必要な他のデジモンの知識はあるのだが、脳内の辞書をめくってみても目の前にいるデジモンに関する知識が見当たらないのだ。

だからプロットモンは同じく唖然としているピコデビモンに目を向けるが、その視線に気づいたピコデビモンもプロットモンの意図を察して、慌てて首を振る。

ピコデビモンも知らないようだ。

あのデジモンは一体……。

プロットモンとピコデビモンが思考の海に沈んでいるのを尻目に、治が口を開く。

 

「……身軽そうだし、その姿なら上手くいけば太一を助けられるかもしれない。ブイモン!太一を助けてくれないか!?」

 

スカルグレイモンの脅威はまだ去っていない。

パートナー達が必死になって応戦しているが、まだ太一に近づけていなかった。

それどころか更に暴れてしまって、手が付けられなくなっている。

右手に持った太一を奪われまいとしているかのように。

バードラモンやカブテリモンは空から奇襲して気を引かなければならないし、イッカクモンやトゲモンでは身体が重すぎてスカルグレイモンの右手に乗っている太一の下まで跳躍することはできない。

必然的に素早く動けるガルルモンが、太一の奪還役を担っているのだが、ガルルモンも身体が大きいためにすぐに気づかれて阻止されてしまう。

だが今のブイモンなら、大人の背丈ほどの大きさしかない今のブイモンなら、他の身体が大きい仲間達に囮になってもらえば気づかれずに近づくことが出来るはずだ。

 

『っ、で、でも、俺……』

 

ブイモンは、しかし躊躇する。

ブイモンは最年少3人と、そのパートナー以外に触れられることを怖がっている。

誰かに触れられると、全身が震えて冷や汗が止まらなくなって、呼吸が荒くなって、目の前が真っ暗になってしまうのだ。

太一のことは助けたいけれど、でもそれはつまり太一に触れなければならず、太一も自分に触れてくるかもしれないということで……。

 

「それなら大丈夫じゃないかな?ブイモン、今腕に鎧はめてるから、太一に触れられても大丈夫だと思うよ」

『え……あ、ほ、ホントだ!』

 

気づいていなかったようだ。

躊躇していた気持ちは吹っ飛び、ブイモンは仲間達に加勢すべく走り出した。

 

『ガルルモン!』

『っ!?』

 

何度目かの太一奪還に失敗し、息が上がり始めているガルルモンに、ブイモンは駆け寄った。

聞き慣れた声で、見慣れない姿にガルルモンは驚いていたが、事情を話せばすぐに理解してくれた。

 

『それで、どうするんだ?』

『俺がタイチを助ける。俺の大きさなら、スカルグレイモンに気づかれないように近づくことはできると思うから、ガルルモンは援護に回ってくれないか?』

『分かった』

 

ガルルモンは息を整えると、デコボコになっている地面を蹴って走り出した。

スカルグレイモンを翻弄するような形でイッカクモンやトゲモン、バードラモンとカブテリモンにブイモンのことを伝える。

そのことに全員頷き、ブイモンの援護をすべくスカルグレイモンの周りを飛び回り、うろつき始めた。

スカルグレイモンは更に暴れ始める。

ブイモンは進化した跳躍力を使い、スカルグレイモンの骨を伝って右手に向かって行った。

途中で何度か気づかれそうになったが、その度に仲間達が気を引いてくれたお陰で何とか気づかれずに済んだ。

やはり身体が小さい分、気づかれにくいようだ。

 

『タイチ……!』

 

何とか太一がいるスカルグレイモンの右手に辿り着く。

そこには目を閉じてぐったりと横たわっている太一がいた。

スカルグレイモンに気づかれないように呼びかけてみたが、反応はない。

額に赤いものがべったりとついているし、何処か怪我でもしたのかもしれないと思ったブイモンは、両腕を覆っている鎧に、慎重に太一を乗せてスカルグレイモンの右手から飛び降りる。

気づかれていないようなので、後は仲間達に任せて太一を子ども達の下まで運んで行った。

直後に、ブイモンの姿が元に戻り、ブイモンはその場にへたり込む。

 

「太一!」

「太一さん!」

 

ブイモンに助け出された太一は、その場に下ろされて子ども達に囲まれた。

ぎゃあ、と丈が顔を真っ青にさせて悲鳴を上げる。

太一の額に乾いて黒ずんでいる血がついていたのだ。

何処かに頭をぶつけたのだろうか、血は止まっているようだが、血が出るほどの衝撃というのはまずい。

 

「みっ、みんな、あの、何かタオルとか!ハンカチでもいいんだけど!持ってない!?」

 

医者の息子である丈が、顔を真っ青にさせながら子ども達に指示を出す。

子ども達はわたわたしながらも自分の荷物を探る。

光子郎は、パソコンを開いてゲンナイからもらったアイテムに何かいいものがないかと探していたら、ピコデビモンがあっ!と声を出した。

 

『そうでした!ゲンナイ様から預かっていたものがありました!』

 

ピコデビモンが蝙蝠型の鏡から、救急箱を取り出した。

最後に通信をした後、ゲンナイは救急セットの復元に成功したのだが、その後通信が出来ない場所に行くことになったために、ピコデビモンに預けてくれたらしい。

ピコデビモンから救急箱を預かり、開けると、包帯やガーゼや絆創膏など、一通り必要なものが揃っている。

丈は必要なものを救急箱から取ると、光子郎にパソコンから水を出すように頼み、それを空に渡してハンカチを濡らして乾いた血を拭うように指示する。

言われた通りにやり終えると、丈は顔を真っ青にさせたまま処置を施す。

手元が震えていたが、テキパキとした手つきで包帯を巻いた。

この包帯には傷を治す成分があるので、巻いているだけで人間が本来持っている再生能力を補助してくれるのだという。

頭を打ったことで丈は戦々恐々としていたのだが、それを聞いて少し安堵した。

太一が目を覚ましたのは、その直後だった。

 

「う…………」

「太一っ!」

 

薄らと目を開け、小さく呻いた太一に気づいた治が太一の顔を覗き込む。

ぼんやりとしていた目で空を背景にした治を見上げる太一に、治は何度か呼びかけるとようやく我に返って上半身をがばりと起こした。

 

「おい!頭を打ってるんだから、頭を動かすなって!」

「お、俺……!グレイモンは!?」

 

丈が怒鳴ったが、太一は聞いておらず、辺りを見回してパートナーを探している。

子ども達は一瞬言葉に詰まったが、黙っていても状況は変わらない。

治は、話した。指を指した。

治が指を指した先に視線を向けると、全身が骨になったデジモンが暴れている。

あれは、グレイモンだと、治は言った。

 

「………………」

 

絶句する太一。

悍ましい咆哮を上げながら暴れまわっている、全身骨だらけのデジモンが、グレイモン?

丈が止めるのも聞かず、太一は足元を震わせながら立ち上がり、フラフラとした足取りで客席の階段を降りようとする。

がくん、とその場に膝をつきそうになったので、治が慌てて駆け寄って自分の肩を貸した。

その表情は、いつもの太一からは信じられないほど、憔悴しきっていた。

 

「……グレイモン」

 

呟いたのは、パートナーの名前。

いつも仲間達の先陣を切って戦闘でも勇敢に戦うグレイモンが、太一を護るために逞しい四肢で力強く戦うグレイモンが、何処にもいない。

全身が骨になって、仲間達を襲っている。

 

「…………グレイ、モン」

 

再度呟くも、太一の声は崩れる瓦礫にかき消され、スカルグレイモンに届くことはない。

 

崩れる。

 

 

崩れる。

 

 

 

 

崩れる。

 

 

 

 

 

「………………」

 

そんな上級生達から少し離れて、大輔は、ヒカリは、そして賢は、コロッセオが崩れていく様を呆然と見ていた。

大きな音を立てながら崩れて、瓦礫と化していくコロッセオの壁。

子ども達が住んでいる世界にあるものとほぼ同じ形をしており、それは人類の栄華を象徴する1つとされている。

その栄華を象徴するコロッセオが、スカルグレイモンによって呆気なく崩れていく。

 

壊れていく。

 

「……あ」

 

最初に声を漏らしたのは、ヒカリだった。

見開かれた赤い目に映る、崩れていくコロッセオの煉瓦の壁が、一瞬マンションの外壁に変わった。

呼吸がどんどん浅くなる。乱れていく。

スカルグレイモンが大きく咆哮する。

その姿が、嫌に見慣れたオレンジの怪獣に見えた気がした。

 

「………………いや」

 

ぽつり、とヒカリは呟く。

あまりにも小さな、囁くような声だったために、隣にいたプロットモンは気づけなかった。

 

「…………い、や」

 

また呟く。

ヒカリの目にはもう、“目の前の景色は映っていない”。

脳内の奥から浮かび上がってくる泡の1つ1つの中に、アニメやドラマの一場面のような絵が閉じ込められていて、記憶の水面に到達するたびに壊れた泡からヒカリの目の前に再生されていく。

まるでバラバラだったジグソーパズルが、あるべき形に戻ろうとしているように。

 

「……いやぁ」

 

景色が再生されていくと同時に、匂いが、感触が、音でさえも、ヒカリを包み込んだ。

背景が真っ暗になる。ヒカリの足元から、データの粒子が溢れてきて景色を塗り替えてしまう。

そこはもう、コロッセオではなかった。

よく見知った、日本の風景だった。

けれどそこはヒカリが住んでいるマンションではない。

ヒカリは、“ここ”を知らない。

 

「いや」

 

はっきりと、ヒカリは言った。

今度こそ、その声はプロットモンに届いた。

 

 

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

 

喉をぶち破るような悲鳴が、スカルグレイモンの咆哮に負けないぐらいの大きな悲鳴が、コロッセオに響き渡った。

ぎょっとなった上級生は、そこでようやく最年少達の異変に気付く。

頭を抱えてうずくまっているヒカリと、呆然とした様子でスカルグレイモンを見ている大輔と賢。

 

『ヒカリっ!?』

「ヒ、ヒカリちゃん!?」

「どっ、どうしたの!?」

 

空とミミがヒカリに駆け寄る。

頭を抱えて小刻みに震えているヒカリは、駆け寄ってきてくれた空とミミに気づかない。

 

「いやぁああああああっ!やめて!もうやめて!コロモン、やめて!!」

「ヒカリちゃん!?」

「やめてぇ!お家壊さないでぇ!!帰ろうよ、コロモン!!お家帰ろうよぉおっ!!」

 

髪を振り乱し、全てを拒絶するように目を閉じ耳を塞ぎ、ヒカリは叫ぶ。泣き叫ぶ。

スカルグレイモンを、コロモンと呼びながら。

 

「ヒカリ、ちゃん……?」

「……あ、おい!ちょっと、大輔くん!」

 

尋常ではないヒカリの様子に、空とミミ、プロットモンも唖然とすることしかできなかった。

丈の焦ったような声に、空達は反射的にそちらを振り向いた。

フラフラとした足取りで、大輔が客席の階段を降りていく。

ブイモンが慌てて後を追って、その手を掴んだが、大輔は振りほどくこともせずにそのままフラフラと先に進んだ。

 

『ダイスケ!危ないってば!何処行くんだよ!』

 

ブイモンの制止の声も、大輔には届いていない。

何かに怯えているかのように、スカルグレイモンを真っすぐ見ながら大輔は言った。

 

「コロモン……」

『え?』

「コロモン……!」

 

大輔は、スカルグレイモンを見てコロモンと言った。

 

「コロモン!」

「賢!?何を言っているんだ!」

 

それは、大輔とヒカリだけではなかった。

同じく異変が起きていた賢も、スカルグレイモンをコロモンと言いながら、駆け寄ろうとしていたのだ。

太一を支えていた治が、太一が客席の背もたれを支えにして立っているのをちゃんと見て、賢の下に駆けよって後ろから抱きかかえるように阻止したが、賢はその腕から逃れようともがいている。

大輔も賢も、スカルグレイモンしか見ていない。

ブイモンはこんな事態だというのに、それが面白くなくてムッとしながら大輔の腕を掴んでいる手に、更に力を込めた。

 

『ダイスケッ!どうしたんだよ!あれはコロモンじゃなくて、スカルグレイモンだよ!?退化すれば確かにコロモンだけど……』

「コロモン!なあ、コロモン!やめろってば!」

「コロモン!僕達の声が聞こえないの!?」

 

しかしブイモンが呼びかけても、治が羽交い絞めにして止めても、大輔と賢はその歩みを止めない。

スカルグレイモンをコロモンと呼びながら、駆け寄ろうとしている。

……一体、どうしたというのだ。

ヒカリは錯乱したようにコロモンの名を口にしているし、大輔と賢もスカルグレイモンしか見ていない。

 

「こ、これは一体……」

『わ、ワタシにも何がなんだか……』

 

光子郎とピコデビモンも、下級生達を止めるやり取りに参加こそしていないものの、その光景を遠巻きに見て唖然としている。

 

「コロモン……!」

 

ブイモンに止められても尚、大輔は歩みを止めない。

同じく、唖然としながらスカルグレイモンを見つめている太一の隣に並んで、大輔はようやくその歩みを止めた。

 

「コロモン……」

 

大輔には何が見えているのだろうか。

どうして大輔はスカルグレイモンを、コロモンと呼び続けているのだろうか。

上級生達は訳が分からなくて、ただ大輔を、ヒカリを、賢を見つめることしか出来なかった。

 

 

カラン……

 

 

その時だ、大輔の首から下げているホイッスルの合成コルクが、ホイッスルにぶつかって軽くて小さな音を立てたのは。

スカルグレイモンが暴れて崩れていく瓦礫の派手な音の中でも、はっきりと太一の耳に届いた。

は、とスカルグレイモンから目を逸らして、隣に佇んでいる大輔に目を向ける。

その表情は、太一と同じように恐怖や困惑や悲哀など、色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざっていた。

きらり、と太陽の光を反射して鋭く輝くホイッスル。

初めて会った時からそれを首から下げており、それは何だって聞いたら大切なものなんですって答えてくれた。

その時はふーんて流して、普段も特に気にしていなかったのだが、今日は、今は、どうしてかとても気になって仕方がなかった。

 

──“あれ”を吹かないといけない。

 

太一は、唐突にそう思った。

大輔が持っているホイッスルを、今すぐ吹かなければ。

そう考えた太一の行動は早かった。

頭の鈍い痛みを無視して、太一は大輔の首から下がっているホイッスルを乱暴に掴むと、

 

 

 

 

ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

 

 

 

大きく息を吸い込んで、そしてホイッスルを口に咥えて思いっきり吐き出す。

合成コルクが中で細かく振動して、甲高い音が鳴り響いた。

崩れた瓦礫にも負けないぐらいの、大きな音だった。

静まり返る空間。子ども達はみんな太一を見る。

ファイル島にてデビモンとの最終決戦時に、大輔がエクスブイモンを起こそうとした時と同じだった。

スカルグレイモンと戦っていたパートナー達も、そしてスカルグレイモンも動きを止める。

尻すぼみになっていくホイッスルの音。

ぷは、と肺の中の息を全て吐ききって、太一は肩を大きく上下させながら酸素を取り込む。

 

《……………………………………………グ》

 

スカルグレイモンが小さく呻く。

終わりは、唐突だった。

 

「アグモン!!」

 

太一が叫ぶ。笛の音を聞いて動きを止めたスカルグレイモンが、音の出どころの方に目を向けていた。

ああ、こっちを見てくれた。そう思った太一は、足元をふらつかせながら歩き出す。

賢を押さえつけるのに忙しい治に変わって、光子郎が駆け寄って太一を支えた。

 

 

「アグモン!俺だよ!太一だよ!聞こえてるんだろ!?」

 

声を張り上げて、太一はアグモンに必死に呼びかけた。

スカルグレイモンの下へ歩み寄ろうとしている太一に、光子郎は恐怖を抱くも、逃げれば太一が歩けなくなってしまうと思い、震えながら太一と一緒にスカルグレイモンに近寄って行った。

 

「なあ、アグモン!もうやめろよ!ここにはお前を傷つけようとする奴はいないんだ!こいつらがわかんないのかよ!?お前の、俺達の仲間だろ!?ずっと俺達を待っていた時に、一緒にいた仲間達だろ!?」

 

頭の痛みも忘れて、太一はアグモンに呼びかける。

例え返事が来なくったって、太一はアグモンを信じて何度も呼びかける。

 

「……戻ってこいよ、アグモン。誰もお前を責めないよ。怖くないから、だから……!」

 

涙を浮かべながら手を差し伸べる太一。

そして、

 

 

《グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!》

 

 

ビリビリと空気が震える。スカルグレイモンを中心にして、波紋のように広がっていく空気の圧に、子ども達は咄嗟に顔を庇った。

サーバ大陸中に響くような咆哮をあげ、スカルグレイモンの身体中から黒い靄のようなものが溢れ出した。

苦しそうに唸りながら、スカルグレイモンはのたうち回って、コロッセオの壁を破壊して外へと出る。

後を追う太一と光子郎とデジモン達。

黒い靄の量が多くなって、スカルグレイモンの身体が光に包まれ、小さくなって行く。

太一は覚束ない足取りで、光子郎に支えられながらスカルグレイモンの後を追った。

 

「ど、どうしたんだ?」

「多分……エネルギーを使い果たしたんじゃ……」

 

丈が唖然としていると、空がそう返した。デジモンは進化をすると莫大なエネルギーを消費する。

そしてそのエネルギーを使い切ると、退化をしてしまうのである。

成熟期でも進化を果たせばいつもの倍以上は空腹を覚えるのだ、完全体になれば成熟期以上にエネルギーを消費するだろう。

丈とミミが、太一と光子郎の下へ走る。

治と空も下級生3人を伴って後を追おうとしたのだが、それは叶わなかった。

何故なら3人とも、示し合わせたようにその場に倒れてしまったからだ。

 

『ダイスケッ!?』

『ヒカリッ!!』

「賢っ!?どうしたんだ!?」

 

ブイモンとプロットモン、そして治が倒れた3人の名を呼びながら揺り起こそうとするが、3人はぐったりとしたまま動かない。

ヒカリに至っては、涙を流していた。

先程の、尋常ではない様子と言い、一体何があったというのだろう。

……スカルグレイモンのことをコロモンと言っていたことも気になる。

 

「……ゲンナイさんに問いただした方がいいな」

「…………そう、ね」

 

 

 

 

 

退化したパートナー達と合流して、丈とミミは太一と光子郎に追いつく。

スカルグレイモンがぶち壊して、新しい入口になってしまったコロッセオの壁の瓦礫の向こうで、力尽きて幼年期にまで退化していたコロモンを、太一が抱き上げていた。

 

「……ごめん、ホントにごめんな、コロモン……!」

『……ちがうよ、タイチはなにもわるくない……ボクのほうこそ……みんな、ごめんね……』

 

その場に座り込んで、コロモンを胸に抱きながら、泣きながら太一は何度も謝罪していた。

コロモンも、今にも泣きそうになりながら太一の頬にすり寄っている。

ごめん、ごめんって、ずっと言い合っていた。

それを光子郎は傍らで見下ろしていることしか出来ず、唇をぎゅっと結んでいた。

ミミは駆け寄って、座り込んでいる太一の隣に膝をついて背中を優しく擦る。

そんな太一達を見て、丈は思うのだ。

誰も悪くないんだって。誰のせいでもないんだって。

太一とアグモンは、仲間達のために囮を買って出てくれたのだ。

それがどうしてか、グレイモンがスカルグレイモンになってしまって、コロッセオはめちゃくちゃに破壊されてしまったけれど、でも太一の怪我の具合等を見て丈は何となく察した。

デジモンは、パートナー達は子ども達のピンチに進化をする。

太一の怪我を見て、グレイモンは暴走してしまったのだろう、というのが丈の見解だ。

そしてそれは、概ね当たっていた。

 

直後に、太一は限界を迎えたのか、ばったりと倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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