ナイン・レコード   作:オルタンシア

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そして花は咲き誇る

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地面が揺れる。

離れたところから聞こえてきた爆音に、痛みで荒くなっている息を整えようと、ゆっくり呼吸しているピヨモンを労わっていた空は、何事かと咄嗟にピヨモンを庇うように抱きかかえた。

その際、動かさないようにしていた翼が揺れ、激痛が走ったピヨモンが呻く。

ごめん、と謝っている暇はない。

爆音はこちらに向かって何度も響き渡り、音のする方から砂埃や黒煙が噴き上がっているからだ。

爆発物があって爆発したのではない、ということはここが何処なのかを分かっていれば明白であろう。

デジモンが技を放って攻撃しているのだ。

しかも爆音が聞こえている方角は、先ほど空が頼んでミミとパルモンが添え木になるような枝を探しに行った方角である。

最悪の展開が頭を過った空が、ピヨモンを岩にもたれかからせて、ミミの様子を見に行こうとした時だった。

 

どぉおおおおおおおおおんっ!!

 

一際大きな爆発音。

きゃ、と空は目を閉じ耳を塞ぎ、伝わってきた衝撃から身を護る。

直後に、砂煙を纏いながら何かが転がってきた。

 

『うぅ……!』

「トゲモン!?」

 

濛々と舞い上がる砂煙が晴れ、中から姿を現したのは緑色のサボテン。

両手にはめられた赤いグローブを地面につき、身体を震わせながらも立ち上がろうとしているトゲモンに、一体何があったのだと空は混乱するばかりだった。

 

「トゲモォン!」

「!ミミちゃん!」

 

少し遅れて走ってきたミミに、空は何があったのか訪ねようとしたのだが、事態はまだ終わっていない。

再度爆発音が聞こえて、空は再び目と耳を塞ぐ羽目になる。

近距離での爆発だったためか、爆風が叩きつけられ、空の身体が後ろによろめいた。

ソラ、と力なくピヨモンの声が、僅かだが聞こえた気がした。

 

『ガハハハハハハッ!!』

 

噴き上がる黒煙の向こう側。

黒煙を割るように、ぬっと姿を現したのは、見たこともないデジモン。

その身体はまるで漫画やアニメに出てきそうなサイボーグだった。

上半身は緑色で生身の身体なのだが、両腕の前腕は機械化されている。

右腕は丸鋸になっていて、所々赤く錆びついているように見えた。

左腕も手の形にはなっているものの、ロボットの手のように指先まで金属になっている。

何より特徴的なのは、下半身だ。

バイクのように大きく太い車輪がついており、背中から見える3本のパイプは排気口だろうか、仕切りにエンジンを吹かしているような音が聞こえる。

シュウシュウ、と何かを擦るような音は、生身の顔の口元を覆っているマスクから聞こえてきた。

雄鶏の鶏冠のように立派なモヒカンが、風に揺れている。

あれは、と空が思う前に、そのデジモンが名乗りを上げた。

 

『来いよ、ガキ共!テメェらまとめて全員、このリベリモン様が捻り潰してやる!』

 

曰く、死の淵に追い込まれたデジモンが、周囲のジャンクデータを取り込み進化したと言うデジモンらしい。

自分の身体を改造して、更にパワーアップを図るために、他の機械系デジモン達からパーツを略奪する無法者で、かなり厄介がられているそうだ。

だが今の空達にとって厄介なのは、そのことではない。

最初ミミ達に襲い掛かってきたのは、オーガモンというデジモンで、トゲモンとラッシュの打ち合いをしていたところで、更に進化をしたのがリベリモンだ。

オーガモンは成熟期。そのオーガモンが進化をしたということは……。

 

「完全体……」

 

危ないから下がってて、とトゲモンに言われて空の下に逃げてきたミミが、息を切らしながら教えてくれた。

空は息を飲む。

吹かしたエンジン音を響かせながら、満身創痍気味のトゲモンと対峙をしているリベリモンから目が離せない。

ヴァンデモン様の命令で、選ばれし子ども達を倒しに来た、とも言っていたということで、あのリベリモンは間違いなく敵だ。

しかしこの2週間、次なる進化を果たすために修行をしていたとはいえ、空もミミも進化の兆しは見られなかったし、紋章の意味もまだ理解できていない。

体力だけはついたとは思うが、成熟期と完全体ではどれだけ数を揃えようともレベルの差は埋まらないことは、太一のアグモン(スカルグレイモン)で実証済みである。

更に、リベリモンは見るからに機械やサイボーグと言った風貌で、植物型のトゲモンとは相性が悪すぎる。

右手の丸鋸を振るわれればお終いだ。

そして最悪なことに、空のピヨモンは翼を折ってしまい、戦闘に加勢することが出来ない状態である。

トゲモンがリベリモンの相手をするしかないのは明白だった。

 

「トゲモン!アタシ達で何とかしましょ!」

『ええ!』

 

トゲモンは気合を入れ直すように、バシバシと両手のグローブを叩く。

雄叫びをあげながらオーガモン……リベリモンに向かって技を放とうとしたが、リベリモンの方が早かった

 

『爆ぜろやぁ!ヴァンキッシュミサイル!』

 

左腕を掲げ、そして振り下ろす。

ガシャン、という音がして、左手首がハッチのように開き、そこから大量のミサイルが、トゲモン目掛けて放たれた。

トゲモンは走るのを辞めず、飛んできたミサイルを両方の拳で処理していきながら、リベリモンを殴り飛ばそうとしたが……。

 

どぉおおおおおおおおおおおおおんっ!!

 

「きゃあああああああああっ!!」

『ッ、ミミッ!?』

 

爆発音とともに聞こえてきた、パートナーの悲鳴。

振り返ると処理し損ねたミサイルが、ミミ達がいる付近に落ちたようで、空はピヨモンを抱えながら、ミミも帽子を押さえるように頭を抱えて吹っ飛ばされていた。

目の前の敵から目を離してしまったトゲモンの隙を、リベリモンは見逃さない。

 

『マキシマムデモリッシャー!』

『ぎゃああああっ!!』

 

右腕の丸鋸を高速回転させ、真横に振るって切りかかる。

まともに食らってしまったトゲモンは、植物の身体が切断されることはなかったものの、完全体からの攻撃は思っているよりもトゲモンに大ダメージを与えた。

勢いを殺せず、トゲモンは紙屑のように地面を転がっていく。

ミミが悲鳴をあげながら駆け寄ってくるのを、トゲモンは制した。

リベリモンがエンジンを吹かしながら、トゲモンを追撃しようとしてきたからだ。

トゲモンは切りつけられて激痛が走る身体を何とか叱咤して起こし、ファイティングポーズを取る。

しかしリベリモンのスピードは速く、トゲモンが構えたと同時に懐に潜り込まれる。

 

『おらぁっ!!』

『あぐっ!』

「トゲモンッ!!」

 

機械仕掛けの拳に、トゲモンの最大の武器とも言える棘など通用しない。

殴りつけられ、歪む顔。

体勢を整える隙すら与えられず、トゲモンはリベリモンに蹂躙される。

ミミは悲鳴をあげることしかできなかった。

 

『………………い、かなきゃ……』

 

打撃音とミミの悲鳴だけが絶え間なく響く中、ぽつりと落とされるように呟かれた言の葉。

それを拾ったのは、近くにいた空だけだった。

トゲモンが蹂躙されているのを見ていることしか出来ない空は、翼を折って戦線離脱してしまっているピヨモンを抱きしめていた。

ぐったりとしている四肢に、僅かに力が込められている。

 

「ピヨモン……?」

『行かなきゃ……アタシも……たたかわ、なきゃ……!』

「っ、何言ってるの!?」

 

打ち付けて、折れたせいで力を入れられない翼を庇いながら起き上がろうとするピヨモンを、空は信じられないものを見るような目で見下ろす。

立ち上がろうと地面に折れていない方の翼をついて、震えるピヨモンを、空は抱き寄せて阻止しようとした。

無茶だ、そんなの。

だってピヨモンの翼は折れてしまい、羽ばたくことが出来ないのである。

少し力を入れただけでも激痛が走って、呼吸することすらままならなくなっているのに、進化なんてできるはずがない。

よしんば出来たとしても、折れた翼が治癒されるわけではないから、空を飛ぶことだって出来ない。

ピヨモンが進化するのは、空を飛んでこそ意味を成すデジモンなのだ。

翼が折れたバードラモンなど、足手まといにしかならない。

そう空はピヨモンに言うが、ピヨモンは空の腕から這い出ようと必死にもがく。

その際、折れた方の翼に力を入れてしまったため、何度目かの激痛が走った。

 

『ぅあ゛っ……!』

「ほら、もう!アンタ、自分の身体が今どうなってるか、分かってるの!?」

『でも……っ!』

「でももだってもないっ!お願いだから止めて!」

 

空だって分かっている。

ピヨモンは、デジモン達はパートナーを護るためにここにいることも、進化をすることも。

蹂躙されても尚、ミミを護ろうと何度でも立ち上がろうとするトゲモンも。

でも、それでも。

 

「折れてるのよ!?そんな折れた翼でどうしようって言うの!!そんなんで戦うなんて、莫迦なこと言わないでっ!!」

『っ……!!……どうしてっ!』

 

そして初めて、空とピヨモンは向き合った。

 

 

『どうして分かってくれないのっ!!』

 

 

「………………っ!!」

 

強い風が、空に纏わりつく。

お気に入りの青い帽子の紐が揺れる。

突風が空の髪を乱暴に撫でつける。

音が消える、視界が白く染まる。

それは、その言葉は──。

 

『っ!』

「ピヨモンッ!!」

 

頭の中が一瞬真っ白になってしまった空の手が緩む。

ピヨモンはその隙を逃さず、空の庇護から逃れるように飛び出していった。

しかし、

 

『あ゛あ゛っ!!』

「ピヨモンッ!」

 

進化をしようとしたピヨモンを、腕の痛みが阻む。

脚の先から頭の先まで、ビリビリと電流のような痛みが走り、一瞬にして力が抜けたピヨモンはその場で倒れこんでしまった。

慌てて抱きかかえる空。

瞬間、どぉんという爆発音が聞こえてくる。

まだ戦闘は続いているのだ。

狙い撃ちにされてはたまらないので、空はピヨモンを抱えてその場から離れる。

 

『う゛ぅ……!』

「ピヨモン……!」

 

痛みで震えるピヨモンを、空はきつくきつく抱きしめる。

 

 

《どうして分かってくれないのっ!!》

 

 

先ほどのピヨモンの言葉が、しつこいぐらいに脳内を駆け巡り、再生される。

 

 

《どうして分かってくれないのっ!!》

 

 

じわり、と空の視界が滲んだ。

ピヨモンの輪郭がぼやけ、ピンク色だけが映し出される。

 

 

《どうして分かってくれないのっ!!》

 

 

ぽたり、と溜まった涙がピヨモンの目尻に落ち、まるでピヨモンが泣いているように流れる。

痛みで呻くピヨモンは気づかない。

折れている翼に、空は震える左手をそっと添えた。

 

「…………お母さん……っ!」

 

やっと分かった。

やっと理解(わか)った。

どうしてあの時、お母さんはあんな酷いことを言ったのか。

どうしてあの日、ジュンはお母さんの味方をしたのか。

分かっていなかったのは、自分の方だったのだ。

 

「ごめんなさい……!お母さんっ」

 

母の愛情が、やっと分かった。

 

 

 

 

 

ばき、と肉を殴りつけるような音。

砂埃をあげながら、トゲモンは倒れこむ。

 

「トゲモンッ!」

『きちゃ……ダメ……!』

 

ミミは駆け寄ろうとするが、トゲモンはそれを阻み、満身創痍の身体を気力だけで起こす。

ファイティングポーズは解かない。

トゲモンの役目は、ミミを護ることだ。

いつの頃からか、生まれた時からなのか、それすら分からないほど遠く、気が遠くなるほど長い時間、トゲモンはミミを待っていた。

一緒にパートナーとなる子ども達を待っていた仲間達と共に、どんな子が来るのかな、仲良くなれたらいいなって毎日のように話し合いながら、トゲモンはミミを待っていたのである。

ようやく会えた当初は、泣き喚いたり我儘を言って他の子ども達を困らせたりと、本当にこの子が自分のパートナーなのかと表情を顰めたこともあったが、初めてパルモンがトゲモンに進化を果たしてから、少しずつ変わっていった。

最年少の3人に対してお姉さんぶるようになったし、今回だってミミは自分から修行の旅に出ると言い出した。

現実世界ではパパやママに可愛がられ、甘やかされていたお姫様だったのに。

ブイモンの悍ましく、哀しい過去を見て、髪を振り乱す程に泣き喚いて、頭を抱えることしか出来なかったお姫様は、自分の足で立ち上がり、ここまで来た。

自分の役目を、自分の力を理解しようと、前を向いて歩き始めた。

 

──だったら、自分の役目は。

 

『ココナッツ……アッパー!』

 

ふらつく足を何とか踏み出し、トゲモンはリベリモンにアッパーを食らわせようとする。

力が上手く入らず、そのアッパーが当たることはなかったが、トゲモンは諦めない。

ミミを護るために、ミミが望んだ世界を作るために……ミミの、武器になるために。

 

『ちくちく、バンバァン!』

 

トゲモンはふらつく身体を利用して、その場で高速回転をし出した。

無数の棘がリベリモンに向かって放たれるも、リベリモンは下半身のタイヤで縦横無尽に駆けながら、飛んでくる棘を悠々と避けている。

 

『マキシマムデモリッシャー!』

『ぎゃあああああああっ!!』

「トゲモォンッ!!」

 

右腕を振るい、高速回転させた丸鋸でトゲモンに切りかかる。

避けられなかったトゲモンは吹っ飛ばされ、砂埃をあげながら地面を滑る。

駆け寄ってきたミミを、今度は止めなかった。

 

『ガハハハッ!!何だ、何だ!?もう終わりか!?張り合いがねぇなぁ!!』

 

リベリモンの嘲笑う声が聞こえる。

うるさい、と言えたらどれだけよかったか。

しかし今のミミの目には、痛ましく転がっているトゲモンしか映っていない。

 

「トゲモン、しっかりっ!」

『…………ぅ、ぅ……』

 

呻く気力も、最早残っていないらしい。

立ち上がる体力も、総て使い果たしてしまった。

トゲモンはもう戦えない。

それを悟ったミミの目尻に、涙が浮かぶ。

 

「……………ん、で」

 

どうして、どうして?

ミミには分からない。

 

「……なん…………で…………」

 

傷つけられるのも、傷つけるのも厭うお姫様には、何も分からない。

 

「………………なんでぇ……っ!」

『あ?』

 

キッ、と目尻に浮かんだ涙を散らせながら、ミミはリベリモンを睨む。

 

「何でよっ!何でこんなことするの!?ヴァンデモンって奴は、何がしたいのよっ!誰かを傷つけて、何かを奪って、色んなものを壊そうとして、戦って、戦って、戦って、戦って……っ!それで何が得られるのよっ!!」

 

こんなこと、間違っている。

ミミは叫ぶ。デビモンも、エテモンも、この世界を支配しようと企んで、闇の力を利用しようとして、逆に意志を乗っ取られて、最後にはその命を散らしてしまった。

ヴァンデモンも、間違いなくデビモンやエテモンのように、世界を乗っ取ろうとしていることは容易に想像できた。

だってヴァンデモンの手下だというリベリモンがやっているのは、デビモンやエテモンと同じなのだ。

世界を救うために奮闘している選ばれし子ども達と、そのパートナーデジモン達の邪魔をして、子ども達に襲い掛かっている。

デビモンは、自分の目的を果たすために、子ども達は邪魔だと言っていた。

ならばヴァンデモンにとっても、子ども達は邪魔な存在のはずだ。

だからこうして、リベリモンがミミ達と対峙するのは分かる。

でも、理由が分からない。

何故、デビモンもエテモンも、ヴァンデモンも、世界を支配しようとしているのか。

何故、誰かを蹴落として、傷つけてでも、頂点に立とうとするのか。

みんなで仲良く暮らせればいいではないか。

この世界は、誰のものでもない。

ここに住んでいるデジモン達、みんなのものなのに。

 

「何で独り占めしようとするのっ!?ここに生きてるのは、貴方やヴァンデモンだけじゃないのにっ!トゲモンやピヨモンとか、アグモン達にとっても大事な場所なのに!!何で奪おうとするのっ!!」

『……ケッ、くっだらねぇ』

 

ミミの渾身の悲鳴を、しかしリベリモンは吐き捨てるように一蹴する。

 

『いいか、この世界は弱肉強食。強い奴だけに生き残る権利があんだよ。弱ぇ奴に生きる資格はねぇ。それがまかり通る世界なんだよ、ここは』

「だからって……!」

『甘ったれんなっ!!』

「っ!」

『弱いくせに、理想論ばっかりほざいてんじゃねぇ!!何度も言わせんなっ!ここは!“そういう世界”だっ!!テメェら人間の世界がどんなもんか知らねぇが、自分達の世界の常識を押し付けんなっ!弱い奴は逃げるか、這い蹲って泥水啜るしかねぇんだよ!!だからこそ、強くならなきゃいけねぇ!自分が死なねぇために、相手を殺して、奪い取る!!ここは“そういう世界”なんだっ!!いい加減、現実を見ろっ!』

「………………」

『現にそのトゲモンはもう動けねぇだろっ!!何故か分かるか!?弱ぇからだっ!!覚悟がねぇからだっ!!さっきの戦いで、俺が気づかねぇと思ったのか!?そいつ、俺を殺そうとしねぇじゃねぇかっ!殺そうとしてねぇじゃねぇかっ!!殺気がねぇんだよ!俺は完全体だぞっ!?成熟期のデジモンが、完全体の俺を殺す気で戦わないなんざ、あり得ねぇっ!!どうせテメェが殺すなとか抜かしたんだろっ!!』

「………………」

『そんな甘っちょろい覚悟で、闘気で、俺様に敵うわけねぇだろうがっ!!俺に勝てないなら、ヴァンデモン様にだって勝てやしねぇっ!俺を殺すつもりがねぇんなら、黙って殺されろっ!!』

「………………」

 

耳を塞ぎたくなるほどの暴論に、しかしミミは反論できなかった。

だって、リベリモンの言った通りなのだ。

ここは、ミミ達のいる世界ではない。

トゲモン達の世界、ミミ達の世界でいうところの、人の手がついていない自然の世界なのだ。

強者だけが生き残り、弱者は淘汰されていく。

反抗することも、抵抗することも出来ず、ただ強者の糧として屠られていく。

ミミだってそうだ。

生きていくために、ミミ達人間だって色んなものを犠牲にしている。

食べ物、住むところ、お勉強だって、犠牲になったものがいたから、ミミは今を生きている。

……デビモンも、エテモンも、ミミ達が生き残るために、犠牲にしてしまった。

手を差し伸べることは、出来たかもしれないのに。

正面から話し合う道だって、あったかもしれないのに。

今なら、あの時何故賢が拒絶をしたのか、理解できる。

あの時のミミは、死にたくない、お家に帰りたいっていう気持ちでいっぱいだった。

さっき喚いたミミの言葉も、リベリモンの言った通り甘ったれの綺麗事に過ぎないのだって、分かっている。

何も言い返せない自分が悔しくて、ミミはトゲモンにしがみつくように縋りながら、両手の拳を強く握り……。

 

「……………………違う」

 

振り絞るように、ミミは言った。

強く握った拳が震える。

あ゛?とリベリモンは、小さく呟いたミミの言葉を聞き返した。

 

「違う…………こんなの、間違ってる……っ!」

 

この世界は、弱肉強食。

それは、リベリモンの言っていた通りだろう。

強くなければ、生き残れないのは、ミミ達の世界だって一緒。

……いや、違う。

そんなの、おかしい。

そんな世界は、おかしい。

 

「生き残るために戦うのは、否定しないわ。アタシ達だって、そうだもの……死にたくない、お家に帰りたい……!でもっ!!」

 

脳裏に過ったのは、ブイモンの過去。

ただ生きていただけなのに、生きて、生きようとしていただけだったのに、ブイモンは一瞬にして仲間を、友達を、居場所を、総て奪われた。

あれは、弱肉強食なんかじゃ、絶対にない。

あれを、弱肉強食と呼ぶのは、認めない。

 

「貴方達の言ってることも、やってることも間違ってる!!こんなの、弱肉強食じゃないっ!!ただの暴力よっ!!侵略よっ!!そこに生きてるデジモン達の命を、居場所を、生きてる世界を無視して一方的に奪うことを、弱肉強食で片づけないでっ!!言い訳にしないでっ!!」

 

ミミは叫ぶ。ミミは泣く。

そして真っすぐ、リベリモンを見つめる。

こんなのは間違ってると、ミミは恐れない。

 

 

だからこそ、紋章は輝く。

 

 

「きゃあっ!?」

『ぎゃっ!なっ、何だっ!?』

 

ミミが握りしめていたデジヴァイスから、黄緑色の光が漏れる。

暖かくて、優しい光だった。

デジヴァイスに収納されていた紋章が、デジヴァイスと連動して黄緑色に変色する。

トゲモンの身体が光り輝いた。

 

「っ、トゲ、モン?」

 

ゆっくりと宙に浮かび上がる、トゲモンを包んだ光の卵。

やがてその卵から、新しい命が生まれてくる。

二足歩行のサボテンだったトゲモンに、美しい花が咲いた。

ピンク色のチューリップのような帽子、棘が生えた蔦のような髪と、ピンクのワンピース。

羽ばたく羽は葉っぱで出来た、まるで花の妖精のような女の子。

 

「あ、れって……」

「嘘……ミミちゃんの、トゲモンが……」

『……進化、した……?』

 

ミミも、空も、そしてピヨモンも、光から生まれた妖精を茫然と見上げる。

背丈はミミよりも少し大きいぐらいでしかないものの、同じデジモンのピヨモンには分かった。

2週間前、モニター越しで見かけた、グレイモンが進化を果たしたあのデジモンと同じ、凄まじいパワーを感じたのである。

 

「……トゲモン?」

『違うわ、アタシはリリモン』

「リリモン……?」

『そうよ、ミミ。アタシが進化したのは、貴方の純真な涙のお陰。その気持ちを、アタシはいつまでも大事にしたい』

 

リリモンは空に舞い上がり、何処からともなく大きな花を取り出した。

 

『フラウカノンッ!』

 

打ち出されたのは、高エネルギー体。

リベリモンに真っすぐ飛んでいく。

しかし機動力のあるリベリモンは、それを簡単に避けてしまった。

 

『チッ!進化したか……だが、同じ完全体だからって、進化したての奴に負けるかよっ!ヴァンキッシュミサイルッ!』

 

空を飛ぶリリモンに、もう右手の丸鋸は届かない。

必然的に技が1つ封じられ、しかしリベリモンはそれで引くことはなく、左手から再びミサイルを何発も放った。

 

『うふふ』

 

不敵に笑うリリモンは、舞うように空を飛び、ミサイルを総て躱していく。

苛立たし気に、リベリモンはミサイルを何発も放つが、リリモンはフラウカノンで相殺したり、ミサイル同士で爆発させながら、いなしていった。

そして、

 

『……んがぁっ!?しまった、弾切れ!?』

 

幾らサイボーグ型のデジモンとは言えど、打ち出されるミサイルも無限ではない。

リリモンはその隙を逃さず、身軽さを利用した素早い動きで、一気にリベリモンに詰め寄った。

 

『んなっ!』

『この距離なら、避けられないでしょ』

 

可愛らしく笑いながら、リリモンは花からエネルギー弾を打ち出した。

まともに食らったリベリモンは、溜まらず吹っ飛んでいく。

 

『んがぁああっ!!』

「やった!リリモン!」

 

リリモンに駆け寄り、ミミは抱き着く。

進化した、次なる進化を、果たしたのだ。

ミミの悲痛な思いに、誰かを思って流した涙に反応して、紋章が輝いたのだ。

やっと分かった気がした。

純真とは、綺麗な心と言う意味ではない。

誰かのために頑張れる心を、純真と言うのだと。

自分のためだと、ミミは自分を甘やかしてしまって、頑張れない。

でも他の誰かのためなら、ミミはいっぱい頑張れるのだ。

誰も傷ついてほしくないから、誰にも傷つかれたくないから。

 

「リリモン、ありがとうっ!ホントにありがとうっ!」

『いいのよ、ミミ。アタシこそ、ありがとう』

 

抱き合って、喜びを分かち合うミミとリリモン。

そんな1人と1体を微笑ましく見つめ、歩み寄ろうとした空は、はっと険しい表情を浮かべた。

 

「ミミちゃんっ!リリモン!」

 

空の言葉と視線の方向で、ミミとリリモンは異変に気付く。

濛々と上がっていた白い煙の向こうに、バチバチと火花を散らし、息絶え絶えながらもリベリモンが佇んでいた。

倒したわけではなかったのか、と空はピヨモンを抱きかかえながら、ミミの下に駆け寄る。

リリモンも、ミミと空を背後で庇うように前に出た。

 

『チッ……!ホントに、とんだ、甘ちゃん、だぜ……!喜んでる、ごふっ、暇が、あんなら……とっとと、トドメ、さしゃ、よかった、のに、よ……!』

「………………」

 

そう、リベリモンの言う通り。

リベリモンがミミ達の敵である限り、ミミはトドメを差さなければならない。

この世界を奪おうと、支配しようと企んでいる敵の手下だと言うのならば、猶更。

リリモンが至近距離で技を放った時、もう1発すかさず撃てばよかったのだ。

そうすればリベリモンは、間違いなく息絶えていただろう。

たとえ進化したてであっても、デジヴァイスと紋章の恩恵を受けたパートナーデジモン達は、通常の完全体と比べれば強いのだ。

この世界の掟である、弱肉強食のルールに従うのなら、ミミはリベリモンをここで倒さなければならないのだが……ミミは、じっとリベリモンを睨み、衝撃の言葉を口にする。

 

「いやよ」

『……何?』

「それじゃ、貴方達と同じじゃない。アタシ達の邪魔になるから倒すなんて、そんなの、貴方達と一緒じゃない!」

 

ミミは決めたのだ。

ブイモンの哀しく忌まわしい過去を見た時から、この修行の旅に出た時から、ミミは決めていたのだ。

 

「アタシは誰も殺さないっ!誰も殺させないっ!護るために戦っても、殺すために戦わないっ!貴方達と一緒にしないでっ!」

「……ミミちゃん」

『ミミ……』

 

もう2度と、あんな哀しい争いは起こさせない。

誰かが傷ついて、奪われる戦いなんか、あっていいはずがないのだ。

繰り返してはならないのだ。

リベリモンはマスクで隠れている歯を、食いしばってギリッと鳴らす。

 

『……殺さない、殺させない、だぁ?ふざけんなっ!そんな甘っちょろい覚悟が、この世界で通用すると思ってんのかっ!!お前みたいのが真っ先に死ぬんだよっ!!この世界はっ!!』

『煩いっ!!』

 

ドンッ!と、リベリモンのすぐ隣で、小さな爆発が起こる。

花の武器を構えたリリモンが、技を放ったのだ。

 

『この世界、この世界って、総てのデジモンの代表みたいに言わないでっ!助け合って生きているデジモンだっているのっ!貴方の見た世界だけが、この世界のルールみたいに言わないでっ!!』

 

リリモンは、パルモンはそうやって生きてきたのだ。

子ども達を待っている間、仲間達と身を寄せ合って生きてきたのだ。

確かにこの世界は生き残りや競争に関しては、シビアかもしれない。

でもリリモンは、信じている。

ミミがそんな世界でいてほしいと願っているのなら、その願いを叶えたい。

リリモンだって、争い合うばかりの世界は嫌だ。

色んなデジモンと手を取り合って、共に生きていきたいと願うことの、何が悪いのか。

 

『ミミが殺さないと言うのなら、アタシも殺さない。誰の命も奪わない、奪わせない。アタシは、ミミの思い描く世界を生きたいのよっ!』

『………………チッ』

 

武器を構えたまま、しかしリリモンはこれ以上の戦う意志を示さずに、リベリモンを睨みつける。

たかが人間の小娘に、殺傷能力を持たないデジモンに啖呵を切られたリベリモンの戦意は、すっかり喪失していた。

 

『くっだらねぇ……やめだ、やめ。萎えちまった……やれるもんなら、やってみろよ。そんな甘っちょろいもん、すぐに踏みにじられるに決まってら。この世界はテメェらが思うほど、お優しくできてねぇんだ。それで自分の命を落とすことになったとしても、テメェらが撒いた種だ。そん時になって後悔したって、取り返しがつかねぇんだよ』

「そうなる前に、アタシ達が止めてみせるわ」

 

リベリモンの吐き捨てた言葉に、反論したのは空だった。

腕の痛みで顔を顰めているピヨモンを抱きながら、空はリベリモンを真っすぐ見つめる。

空の表情に、先ほどまでの迷いはなかった。

 

「護ってみせる。この世界も、ここに生きるデジモン達も、みんな。アンタ達になんか、負けないっ!」

「……空さん」

『………………ケッ、勝手にしろ』

 

何の力もないはずの、デジモン達がいなければとっくに死んでいたはずの人間は、真っすぐリベリモンを見つめて逸らさない。

その力強さに、リベリモンは一瞬押し黙った後に、吐き捨てるようにそう言い放ち、ギシギシと軋む機械の身体を何とか起こして、その場から立ち去った。

後に残ったのは、戦闘の跡が残って、穴ぼこだらけになった河原や、薙ぎ倒された木々、黒煙が舞い上がる森、そして立ち去っていくリベリモンの背中を、呆けながら見守っている空とミミとリリモンである。

ピヨモンは、疲労からかいつの間にか眠りに落ちていた。

 

「…………あ」

 

完全にリベリモンの気配がなくなった時、リリモンはようやく緊張が解けたのか、光り輝いて小さくなる。

しかしそこにいたのは、頭部に花を咲かせたパルモンではなかった。

 

『つ、つかれた……おなかすいたぁ』

「タネモン!」

 

ファイル島で以来、久しぶりに見かけたのはパルモンが進化する前の姿、タネモンだった。

成熟期に進化する時でも膨大なエネルギーを消費し、普段よりも更に食欲が増すのだから、より上の世代である完全体に進化すれば、成長期の姿を維持できないのは当然だろう。

 

「お疲れ様、タネモン……本当に、ありがとうね」

『ふふ……』

「ミミちゃん」

 

空腹と疲労でぐったりしているタネモンを拾い、労わりを込めて抱きしめてやれば、タネモンは嬉しそうに笑う。

そんなミミとタネモンを見て、空は一息ついてから声をかけた。

 

「おめでとう、ミミちゃん。タネモンが完全体になったわね……紋章の意味、理解できたんだ?」

「空さん……はい、何となくですけど……」

『コツはなんとなくつかめたから、これからはかんぜんたいがきても、ちゃんとたたかえるわっ』

「ふふ、そっか……じゃあ、ミミちゃん。一旦ゲンナイさんのとこに帰りましょうか」

「え?」

「ピヨモンが翼の骨折っちゃったし、タネモンも今は疲れてて進化できないでしょ?ゲンナイさんのとこでちょっと休んで、それでまた修行のし直ししましょ」

「……はい、そうですね!」

 

昨日までとはまるで別人の空の様子に、ミミは首を傾げるも、いつもの空に戻ってくれたことが嬉しかったので、それ以上は言及しないでおいた。

 

 

 

 

 

『イッデェ────────ッ!!』

『煩い、これぐらいで騒ぐな、みっともない』

 

とあるエリアの、森の奥。

選ばれし子ども達が感知できないぐらいまで、遠くに逃げていたリベリモン、基オーガモンは、思いっきり力を込めて巻きつけられた包帯に、悲鳴をあげていた。

その治療をしているウィザーモンは、あまりの煩さに顔を顰めている。

その態度が気に入らないのか、オーガモンは治療をされている身でありながら、ウィザーモンに怒鳴りつけた。

 

『そうは言うけどなっ!あの餓鬼ども、マジで容赦なかったんだぞっ!?ゼロ距離からカノン砲って、何考えてんだっ!その癖、誰も殺さねぇとか甘っちょろいことほざきやがるし……っ!』

『容赦ないのは、むしろ大歓迎じゃないか。子ども達には強くなってもらわなければならないのだから』

『テッメェは直接餓鬼どもと対峙してねぇから、んな呑気な事言って、イッデェエエエエエエッ!!』

『その口閉じないと、次は消毒液直接ぶち込むぞ』

『俺!一応!怪我人!』

 

完全体で機械仕掛けのサイボーグ型デジモンだったとはいえ、ゼロ距離で発射された高エネルギー体をもろに食らえば、ダメージは計り知れない。

皮膚は彼方此方焼け爛れ、自慢の髪も少し焦げ付いている。

消毒液をしみ込ませた綿を慎重に傷口に当て、慣れた手つきで包帯を巻いてやれば、まるでミイラデジモンのようだ。

……髪が焦げて少ーしだけ短くなっていることは、子ども達のためにも黙っていよう、とウィザーモンは襟で隠れている口元を歪ませた。

 

『よし、これで一応の手当は済んだ。あとはアジトにでも戻って、療養しておくんだな』

『おう……んじゃ、当初の予定通り、俺ぁこれで離脱するぜ』

『ああ。ヴァンデモンも今は遠くに出ていて、こちらのことには気づいていない。偽装は私とピコデビモンでやっておくから、お前はその怪我をきちんと治せよ』

『へいへい』

 

持ってきた包帯を殆ど使ってしまったことに、冷や汗をかきながら、ウィザーモンは救急セットを仕舞い、置いておいた杖を手に取って、くるんと回転させる。

ふわり、とウィザーモンの姿は、風に乗って消えた。

オーガモンはだいぶマシになった痛む腕を抑えながら、よっこらせと立ち上がる。

ヴァンデモンは今近くにはいないはず、とは言っても、いつ何処から現れるのか分からないため、早めにこの場を移動しなくてはならないのだ。

事後処理やその他諸々は、ピコデビモンに押し付ければいい。

 

このオーガモンは、確かにヴァンデモンの手先として子ども達の前に立ちはだかったが、ヴァンデモンに忠誠を誓っているわけではない。

ピコデビモンやウィザーモンと同じく、ゲンナイに雇われたスパイデジモンだ。

元々はファイル島に住んでいたのだが、様々な理由があってゲンナイと共にサーバ大陸に渡った経緯がある。

その経緯が何なのかは、オーガモンの口から語られることはないだろう。

自分の役目は、これで終わりなのだ。

ヴァンデモンは、失敗した者やしくじった者には、容赦ない罰を与える。

最悪の場合殺されてしまうこともあるし、実際に何度かその光景を目の当たりにしたこともあった。

部下や手下となった者達への、見せしめの意味もあったのだろう。

このまま帰れば、オーガモンは間違いなくヴァンデモンに殺される。

いつ思い出しても胸糞悪い、とオーガモンは舌打ちをした。

ウィルス種には3通りのデジモンがおり、1つは強さを求めて色々なデジモンに片っ端から喧嘩を売る者、1つは他のデジモンを跪かせて支配しようとする者、そしてもう1つが狡猾な手で強者に取り入り、お零れを狙う者だ。

最初の1つは純粋に力を求め、1体だけの力で上に伸し上がろうとするのに対し、後の2つは他者を蹴落としてでも、卑怯な手を使ってでも目的を達成しようとする。

どちらかと言うと1つ目のタイプであるオーガモンは、同じウィルス種であっても、他の2つのタイプのウィルス種を毛嫌いしていた。

力は誇示したいが、弱い者を甚振るためではない。

生涯のライバルと決めた“アイツ”よりも上に行きたいがために、オーガモンは強くなりたいのだ。

弱い者虐めが楽しいのは否定するつもりはないし、オーガモンもその気がないとは言わないが、それよりも強いデジモンと戦う方が楽しいのだ。

相手が強ければ強いほど、張り合いがある。

そいつを倒せば、自分は強いと実感できる。

だがヴァンデモンのように、得体のしれない“何か”を利用してまで、強くなりたいとは思えなかったし、思わなかった。

純粋に、鍛えた自分の力で伸し上がりたいオーガモンにとって、ヴァンデモンのやっていることは理解できないし、したくないのである。

だからミミに言い放ったあの言葉は、半分は本心で半分は不本意だった。

強くなければ生き残れない、と言うのは本当に思っているが、弱い者に生きる資格はないなどとは思っていない。

弱い奴を見るとイライラしたりはするものの、基本的にオーガモンというデジモンは、強者にしか興味がないのだ。

弱者は見向きもしないだけだ。

弱いのなら、強くなればいいだけの話である。

少なくとも、このオーガモンはそうやって生きてきた。

自分が生きるために、強くなって力をつけてきた。

この世界は、“そういう世界”だ。

ミミにそう言ったあの言葉は、間違いなく本心である。

しかし……。

 

《アタシは誰も殺さない!》

 

そう堂々と言い放った、あの子どもの言葉が、オーガモンの頭から離れない。

 

《アタシは、ミミの思い描く世界を生きたいのよっ!》

 

ミミの言葉に賛同した、リリモンの凛と佇む姿が忘れられない。

 

『……………………ケッ』

 

この世界は弱肉強食だ。

その持論を、オーガモンは変えるつもりはない。

……でも、

 

『……せいぜい足掻いてみせろ、クソガキども』

 

そう悪態を吐いたオーガモンの口元は、知らず知らずつり上がっていた。

 

 

 

 

 

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