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「なーに情けない顔してんのよ、丈くん」
あれは、いつのことだったろうか。
きっかけは忘れてしまった、どうせ碌なものではない。
鈍くさい丈はいつも面倒な役割を押し付けられては、損な役回りを務めることになる。
みんなが面倒臭がるから、学級委員なんて誰もやりたがらないから、みんな丈に押し付けたのに、丈がその役割をきちんと全うしようとすると、みんな白けた眼差しを向けてくる。
空気読めよって顔をする。
騒がしいから静かにしろって、授業中なんだから先生の話に耳を傾けろって、とても当たり前のことを注意すれば、いい子ぶるなと先生のいないところで囲んでくる男子。
宿題を集めるように先生に言われていたのに、なかなか提出しない子がいるからちょっと強い口調で言えば莫迦にしてくる女子。
みんなが嫌がって丈に押し付けた学級委員を、ここぞとばかりに責め立ててくる。
そういったものが積み重なって、イライラがどんどん増長していって、とうとう丈は爆発してしまった。
何を言ったのかは覚えていない。
ただ我に返った時には、みんながポカンとした眼差しで丈を見つめていた。
注目されていることに気づいた丈は、顔を真っ青にさせて教室から出て行った。
校舎の横の、非常階段。項垂れて座っていたら、声をかけられた。
爆発したような髪型と、小学生が着るには少々派手な、パンク系の服。
「……本宮くん」
「ジュンでいいって言ってんでしょ」
隣座るよ、と丈の了承も聞かずに腰を下ろす。
丈は、彼女がどうも苦手だった。
転校してきたその日から、自分の思っていることを隠さずずけずけとした物言いをし、小学生には不相応なパンクファッションを着て教師を仰天させた、自己主張の激しい子だ。
目立つことを良しとしない丈とは、正反対の立ち位置にいる子。
転校してきた日に、隣の席に座って学級委員として面倒を見る羽目になったのが、運の尽きか。
とても失礼なことを考えている丈の心情など知らず、ジュンは丈に話しかけてくる。
「そんな顔するぐらいなら、いつもからちゃんと発散させてればよかったのに」
「……僕はいつだって平穏無事でいたいんだよ。さっきみたいのは……ちょっとタイミングが悪かっただけさ」
「ふーん?」
自分から話を振ってきたのに、返ってきたのは興味がなさそうな生返事。
何だよ、と思いつつも丈の口から飛び出していく愚痴が止まらない。
「みんなやりたくないって、面倒だからって全部僕に押し付けてきたのに、いざ僕がその役目を全うしたらこんなはずじゃなかったって顔してさ。だったら自分達でやればいいのに、意味が分からないよ。責任は負いたくないって、全部放棄したのは自分達だっていうのに」
「ホーキ?何でそこで掃除の道具が出てくんの?」
何を言っているんだ、と返そうとしてその前に思い出した。
このクラスメートは、つい最近までアメリカにいたのだ。
3歳ぐらいからずーっとアメリカに住んでいたらしいから、日本語もままならないのだと先生も言っていた。
だから丈が少しずつ日本語を教えてやっている最中なのだ。
要領と物覚えがいいジュンは、丈が教えることをあっという間に吸収するから、ここ最近は日本語での会話も問題なかったのだが、さすがに難しい言い回しは理解できないらしい。
「箒じゃなくて、放棄、ね。自分に与えられた責任を背負いたくないって、要するに捨てちゃうことさ。ああ、そう言った意味では箒と一緒かもね。いらないものや捨てるものを集めるのが箒なんだから」
「あはは、丈くんでも冗談言うんだ」
「僕だって冗談ぐらい言うよ。時と場合によるけどね」
さて、彼が言いたいのはそういうことではない。
「学級委員はクラスメートに何かあれば、真っ先にやり玉に挙げられる、何も得することなんかない役回りだよ。その癖、責任だけは重いんだ。だからみんながやりたがらないのも、一定の理解はできる……でも、だからって、無責任すぎる」
「そーよねぇ。自分はやりたくないって丈くんにぜーんぶ押し付けたんだから、だったら丈くんの言うことやることに口出すケンリはないわよねぇ」
普通こういうクラス委員は、立候補制である。
誰も立候補がいなかった場合、どの委員にも所属していない、余った者がじゃんけん等で決めるものだろうが、丈のクラスは堅物で融通の利かない、真面目な丈がいるからと、クラスメートはこぞって丈に押し付けた。
それなのに、丈が学級委員を真面目に務めれば、面倒臭そうな表情を浮かべる。
何と自分勝手なクラスメートの多いこと。
「もう1回、さっきみたいに怒鳴ってみれば?流石にやりすぎたって反省するんじゃない?」
「無理無理。何か喚いてる、ぐらいの認識しかないと思うよ?責任から逃れたくて僕に責任を押し付けてくるような連中だもん。さっき僕が怒ったことだってもう忘れてるか、何で僕が怒ったのか分かってないか、どっちかだよ」
溜息を吐きながら、丈は立ち上がった。
「丈くん?」
「……ん、何か愚痴ったらちょっとすっきりした。ごめんね、本宮くん。世話をかけちゃったよ」
「だからジュンでいいってば。気にしない、気にしない。話聞くだけでいいんなら、幾らでも聞いてやるわよ」
「はは、ありがとう。じゃあ次は爆発する前に聞いてもらおうかな。さぁって、また明日から頑張るかぁ」
どうせ教室に帰ったところで、あのクラスメートがこれまでのことを反省しているはずがない。
それどころかきっと、学級委員が何してたんだよ、なんていちゃもんつけてくるだろう。
丈の話を聞かずに莫迦にしていたことを棚に上げて。
「ごめんなさい」
だから翌日、クラスメート達全員が頭を下げて謝罪してきたことに、丈は驚愕した。
教室に入ると、いつもなら遅刻ギリギリのクラスメート複数人も既に教室にいて、丈が入ってくるなり顔を真っ青にしながら丈に頭を下げてきたのである。
丈に学級委員を押し付けたいじめっ子、授業中に騒いでいた男子、宿題をなかなか出さなかった女子、丈が真面目を貫けば貫くほど莫迦にしていた、他多数のクラスメート達。
暖かな春の日差しから、差すような夏の日差しに差し掛かるような季節だったはずなのに、クラスメート達は真冬に裸でプールに放り込まれたのではと思わせるほど、顔が真っ青で歯もガチガチ鳴らして、ブルブル震えていた。
昨日まではあんなに丈のことを莫迦にして、丈の言うことなんか知らんぷりって対応だったクラスメートの、突然の豹変ぶりに、丈は目を白黒させるしかない。
「おはよう、丈くん」
お葬式にも似たような雰囲気になっている教室で、場違いなぐらい明るく、そしていつも通りの声色で声をかけてきたのは、帰国子女の本宮ジュンである。
彼女に割り振られている席の背もたれに腕を回して、椅子の重心を後ろに傾けるようにして座っている。
危ないからやめなよ、と溜息を吐きながら彼女の下に歩み寄り、一体何があったのか訪ねれば、
「さあ?」
とだけ返された。
しかしニヤついている口元を隠さないところを見ると、確実にこの状態を作り出したのはジュンだろうということは、簡単に予測できる。
多分問いただしても、のらりくらりと躱されるだろうな、とジュンの様子から悟った丈は、これ以上は追及せず、未だに頭を下げているクラスメート達にも、もういいよと面倒くさそうに返した。
それを聞いたジュンは、ケラケラ笑いながらクラスメート達に声をかける。
その際、クラスメート達全員の身体が一斉に跳ねたのは、恐らく気のせいではない。
「よかったねぇ、みんな。丈くんが優しいやつで。アタシだったらぜぇったい許さなーい」
その言葉を聞いたクラスメート達全員が、これまた一斉に、ひっ!?と悲鳴をあげる。
恐らくクラスメート達は、少し前に起こったことを思いだしているのだろう。
今年アメリカから転校してきたジュンは、このクラスで蔓延っていた、先生ですら気づかなかった問題を転校してきて2ヵ月で解決してしまった人物だ。
学校中を巻き込む大騒動に発展してしまったため、クラスメートの男子は勿論、他学年の男子に至るまでジュンのことを恐れているし、下級生の女子達はジュンを尊敬と憧れの眼差しで見つめていた。
ちなみにクラスメートの女子も、半分はジュンを恐れており、半分は尊敬している。
……だからこそ、今こんな状態になっているんだろうなぁ、と丈は飽くまでも冷静であった。
ちなみに丈がジュンのことを苦手としている割に、冷静に判断できるのは、丈はクラスの問題に巻き込まれた被害者であり、問題解決に導いてくれたジュンに一応感謝をしているからである。
「……ありがとう、ジュンくん」
未だにびくつきながらも、ジュンから解放されたクラスメートが焦るように散り散りになっていくのを見ながら、丈が小さい声でそう言うと、ジュンは目を丸くした後にどういたしまして、と返してくれた。
早朝の空気は薄く、吸い込む度に冷えた空気で肺が凍りそうになる。
は、は、は、と繰り返し吐き続けた息は、吸い込むのも辛い。
しかし、目標まであと100メートルだ。
丈は鉛のように重い足を必死に動かしながら、目印にしていた場所まで懸命に走った。
「はあ、はあ……ゴマモン、大丈夫、か」
『ひっ、へっ……へんっ、ジョウと、比べりゃっ、何てことっ、ないやいっ』
「っ、言ったな?」
相変わらず憎まれ口を叩くパートナーに、丈はにやりと笑って、わざと走るペースを上げる。
待てよっ!って焦るパートナーの声に、待たない、と返して丈は何とか走り切った。
「はぁ、はぁ、はぁー……!」
『づ、づがれだ……!』
緑が敷き詰められている地面に横たわり、ぐったりと身を任せる丈とゴマモン。
置いておいた荷物を取りに行く余裕もないが、喉の渇きと空腹は疲労を訴えてくる足を急かしている。
仰向けになっていた身体をゴロンと俯せにして、匍匐前進の要領で荷物が置いてある箇所まで移動しようとした。
『はい、どうぞ』
「んぇ?」
す、と差し込まれる陰。
植物の蔓のようなものが、丈が取りに行こうと思っていた荷物を持って、丈の目の前に置いてくれる。
「ありがとう、ベジーモン」
ここ数日で顔見知りになったデジモンの優しさに、感謝をしながら受け取った。
丈がいるのは、湖の畔に建てられているレストランである。
太一とアグモンが現実世界に飛ばされ、翌日に治とガブモンが太一達に追いつくべく修行の旅に出ると言って出て行ったのが1週間前だ。
それに触発されるように、ミミとパルモンも修行の旅に出ると言い、光子郎とテントモン、丈とゴマモンもそれに乗る形でピラミッドを離脱することになった。
治とガブモンが出て行ってからの1週間、丈は1人でずっと考えていた。
自分はまず、何をやらなければならないのか。
何のためにここにいて、何のために戦っているのか。
2つ以上の選択肢があると選ぶのに時間がかかる上に、多数決を求められるとパニックに陥って何も考えられなくなってしまうのだが、ナノモンの手伝いで忙しくて、残った仲間達と会話を交わすことが少なかったお陰で、1人でじっくりと時間をかけて考えることが出来た。
生意気なことや辛辣なことは言ってきても、基本的に丈の決めたことに関して何も言わないゴマモンも、口を出してこなかったこともあり、逆に考えが整理できたようだ。
1度こう、と決めたら、目的さえ定まれば、丈はそこに向かってしっかりと歩いていくことが出来る。
残していく最年少が心配だった丈だったが、ミミが修行の旅に出ると聞いた時にゲンナイが助っ人が呼んでいてくれたので、安心して旅立つことが出来た。
──僕らがしなきゃいけないのは、まずこの世界を救うこと。そのためには力をつけなくちゃいけない
メタルグレイモンとエテモンの戦いを見るに、丈達が対峙する相手は一筋縄ではいかない。
デビモン相手でもあれだけ手こずったのだ、イッカクモンを次のレベルに引き上げなければならないのは必須である。
デジモンの進化を促すのは、子ども達の強い想い。
ゴマモンがイッカクモンに進化した時のことを思いだしながら、丈はここを拠点にしてから考えたメニューを思い出す。
成熟期に進化するのにもかなりのパワーを消費していたから、その次のレベルはそれ以上にパワーを消費することは間違いない。
その時のために、力をつけておこうと、丈は毎日その付近をジョギングしているのである。
根っからの勉学少年である丈は、体育の成績はあまりよろしくない。
部活で走り回って体力がある5年生は勿論、パソコンオタクでありながらサッカー部に所属している光子郎や、同じくサッカー部に入っている大輔、大輔くんやお兄ちゃんと走り回っているお陰で意外と体力があるヒカリや、勉強だけでなくスポーツもそこそこ熟している賢にすら劣っている。
ミミが頭数に入っていないのは、丈と同じだからだが、それは置いておこう。
上の兄2人が早起きをしてジョギングをしているのを知っていた丈は、それぐらいなら運動音痴の自分でもできるだろう、と言うことで体力づくりの一環として毎日ジョギングをしているのだが、これが意外に奥深かった。
たかがジョギング、と侮っていたのだが、ペース配分に気を付けなければ、あっという間に気力が尽きてしまうのである。
最初の頃はそれを間違えてしまい、500メートルも走れなかった。
ゴマモンも、丈の決めたことならと黙ってついてきてくれたが、水中のデジモンであるため陸上でのジョギングは200メートルも持たなかった。
しかしやると決めたことは、最後までやり通す丈は、それぐらいではへこたれなかった。
毎日、毎日、走り込んだ。
走って、体力をつけた。
要領は悪いが、コツコツと努力するタイプの丈は、やがてコツを掴んでいく。
どのように走るか、息の仕方は、姿勢は、足の運び方、自分のペースはどんなものか、等々、太一達部活組が聞いたら、何を言っているんだと言われるようなことを、丈は毎日の鍛錬で知っていく。
そして少しずつ、距離を伸ばしていくこと、1㎞。
次の目標は1100メートルかな、と思いながら、丈はゲンナイがくれたミニパソコンからペットボトルのスポーツ飲料水と水、タオルを取り出す。
スポーツ少年達の助言をしっかりと聞いていた丈は、水でタオルを濡らして、汗をかいた身体を拭いた。
ゴマモンにスポーツ飲料水を飲ませてやる傍ら、自分も一口二口飲む。
「おーい、ベジーモン!これぐらいでいいかな?」
『はいはい!いつも、ありがとうございます!今日はいつもよりお客さんが多いので、もう少し持ってきてもらえますか?』
『オッケー!』
リヤカーに詰められているのは、先ほど畑でとったばかりの、新鮮な野菜と骨付き肉だ。
初めて骨付き肉が畑にぶっ刺さっているのを見た時は、目の前がくらくらしたものだが、ここはデジタルワールド、自分達の常識が一切通じない異世界である。
ここは異世界、ここは異世界、と何度も自分に言い聞かせるように暗示をかけたお陰で、何とか受け入れることができたのは、成長の賜物だろう。
ピラミッドの周りは砂漠であるため、ゴマモンの力を10分の1も引き出せないから、何処かいい修行場所はないかと歩き回って見つけたのは、広い広い湖だった。
ここならゴマモンの修行場として最適だろう、と言うことで、拠点を何処にするかと湖の外周を歩いていた時のことである。
1匹のデジモンが、背中に籠を背負って何処かへ向かって行くのが見えた。
この辺のデジモンだろうか、何処かいい場所知っているかな、という期待を込めながら丈とゴマモンはそのデジモンの跡をついて行くことにした。
足がないにも関わらず、意外と移動速度が速かったので、丈はへばったゴマモンを抱えながら、何とか見失わない程度の距離を保ってついて行った先にあったのが、この畑である。
森を開拓して作られたであろう広い畑に生っていたのは、新鮮な野菜達。
思わず手を出してかぶりつきそうになるのを、畑のおかしな光景で抑えることが出来た。
大根や人参、ジャガイモなどの根野菜や、レタス、キャベツなどの葉野菜が生えているのは別におかしくはないのだが、季節がバラバラ、所謂旬の野菜が1つの畑に総て収められているのである。
野菜ごとに1番美味しい時期と言うのがあり、その季節に合わせて種をまいたり収穫したりするものなのだが、この畑に生っている野菜は春夏秋冬総ての野菜があるのだ。
食事はもっぱら和食中心である城戸家は、医者の家系ということもあって、そういった食育も欠かさない。
だから小学6年生にしては季節の野菜というものを知っている丈は、首を傾げる。
更に驚いたのが、骨付き肉の存在だ。
少年漫画で連載中の海賊王を目指している少年の漫画に出てくるような、骨の周りに肉がついている肉がそのまま、畑の土の中に埋まっていたのだ。
骨だけが出ていて、犬か何かが埋めたのだろうか、と思っていたのだが、デジモンが両方の触手を骨に巻き付けてずぼっと引っこ抜いたのを見て、それが肉だと分かった。
顔を真っ青にさせて、何が起こっているのか分かっていない丈とは裏腹に、デジモンであるゴマモンは目を輝かせてそれを見ていた。
野菜を引っこ抜いているのはベジーモン、というデジモンらしい。
性格はなかなか陰険なのだが、野菜作りのプロだそうで、彼が作る野菜はどれも一級品、特に骨付き肉は涎が出るほど美味しいのだそうだ。
食べてみたい、とごねるゴマモンを、ここでのお金は持っていないし、ゲンナイから食事のデータをもらっているのだから我慢しろ、と宥めながら、丈は作業しているベジーモンを見やる。
広い広い畑を彼方此方移動しながら、野菜を1つ1つ丁寧にとっていく様は、とても手慣れていた。
それでも、やはり1人(1体)で畑を回るのは重労働なのだろう、その内野菜を取っては休憩する時間が少しずつ長くなっている。
いい修行場所も聞きたいし、ここはちょっと恩を売っておくのも悪くないか、とちょっとだけ下心が働いた丈は、それを上手く隠してゴマモンと共にベジーモンに声をかけた。
それが、ベジーモンとの出会いである。
最初こそ見慣れないニンゲンという生き物にびっくりして、警戒していたベジーモンだったが、よかったら手伝わせてほしいという申し出に、ミケモンの手も借りたかったベジーモンは喜んで受け入れてくれた。
鈍臭いが故に少々手間取ったものの、人手が増えたことでいつもよりは収穫できた野菜に喜んだベジーモンは、お礼にと連れて行ってくれたレストランで、食事をご馳走してくれた。
お金を持っていないから、と断る丈を遮って、骨付き肉を所望したゴマモン。
こら、って慌てて諫めるも、ベジーモンは賄いでよければと快諾してくれ、レストランの裏口に連れて行ってくれた。
レストランの中でただ飯をもらうのは、他の客に失礼だという丈の言い分を理解してくれたので、簡易のテーブルを出してそこに賄い食を持ってきてくれたのである。
一口食べただけで、とても美味しいことが伝わり、お腹が減っていたこともあって丈もゴマモンも夢中になって食べた。
ベジーモンもよっぽど嬉しかったのだろう、修行をする場所を探していると丈が言うと、営業の邪魔をしないのなら、この辺でやればいいとオーナーであるデジタマモンから許可をもぎ取ってくれた。
それ以来、丈は修行の合間を縫ってはベジーモンの手伝いをしている。
体系のせいで使うことが出来ずに放置されていたリヤカーを使っているお陰で、ベジーモンの半分の労力で野菜を運ぶことが出来ている。
最初は丈がレストラン付近で修行することに難色を示していたデジタマモンも、修行の合間とは言えリヤカー一杯に野菜を詰め込んで運んできてくれるお陰で、ベジーモンもレストランの方に集中できるし、在庫切れで客を待たせることも少なくなったから、丈を歓迎するようになった。
あからさまだなぁ、と思いつつ、自分も下心があって近づいたので、苦笑に留めておく。
それが終わったら昼ご飯だ。
ベジーモンと知り合った時に食べた骨付き肉が忘れられないゴマモンは、今日もあの肉が食べたいと丈にねだるのだが、デジタルワールドの金の単位はアメリカドルであるため(ピラミッドを出る前にゲンナイさんが教えてくれた)、日本円しか持っていない丈ではレストランのお金を払えない。
そもそもゲンナイから食事のデータをもらっているのだから、それでいいではないか、と骨付き肉には及ばないものの、それなりに味のいい肉を渡してやれば、あっという間に機嫌が直る。
我がパートナーながら単純だ、と思いながらも、丈もお握りを頬張った。
食事が終われば、午後はゴマモンのトレーニングを中心に修行を再開させる。
レストランの営業の邪魔にならないよう、ある程度距離を置き、ゴマモンを進化させて技の精度や、泳ぐスピードを上げる特訓だ。
海洋のデジモンとは言え、イッカクモンの身体はかなり大きく重い。
これまでの敵勢力は陸上で戦うデジモンが多かったので、得意の水中戦に持ち込むためにも、水中でのスピードは必須である。
時々湖に住むデジモン達にも手伝ってもらいながら、イッカクモンを鍛えているのだが……これが正解なのかどうか、いまいち分からない。
「どう、ゴマモン?」
『どうって言われても……』
休憩を挟みながら、丈はゴマモンに訊ねてみるも、ゴマモンも強くなれているのかという自覚は、ピンと来ていないらしく、困ったように首を傾げるだけだった。
それじゃ困るよ、と丈はどっかりと座り込む。
「君が進化をするのに僕の力が必要なんだとしても、実際戦っているのは君なんだから。例えば前より泳ぐスピードが速くなったな、とか前より疲れなくなったな、とかさ」
『ん~、言われてみれば……そうだなぁ、陸で走れる距離が伸びたとか?』
おいら的には何の意味もないけど、と付け加える。
確かにゴマモンは水生のデジモンで、進化をしたイッカクモンも水中に適した身体をしている。
ということは十中八九、更なる進化を遂げたゴマモンの姿も、同じように水中のデジモンのはずだ。
陸上での動きに力がついたからと言って、それが水中で生かされるとは限らない。
少なくとも体力はついたから、イッカクモンの姿をもう少し長く維持することは出来るだろうが、やはり決定打に欠ける。
丈は呻きながらゴロン、と後ろに転がった。
「……誠実、かぁ」
丈達の世界とほぼ同じように構成されている太陽は、ほぼ真上に昇っており、眩い光をギラギラと照らしている。
それを遮るように、丈はズボンにつっかけていたデジヴァイスを手に取り、翳す。
ボタンを適当に押せば、ぴ、ぴ、と言う電子音が響き、小さなディスプレイに十字架と、その周りに小さな三角形が浮いているデータが映し出された。
砂漠のコロッセオで見つけた、“誠実”と呼称されている紋章である。
自分が知っている限り、誠実とは文字通り誠の心、正しい心、嘘を吐かない人のことを言うと認識していた。
丈はじっくりと考えてみる。
誰かがいると、その意見に引っ張られて自分の意見を言えないことが多いのだが、1人だと周りの声に惑わされずに没頭することが出来るのである。
嘘を吐かない人、と言う意味なら丈も当てはまる。
しかし丈の場合は嘘を吐かない、と言うよりも嘘を吐けないと言った方が正しいだろう。
医者の家系と言うこともあり、父も母も息子達を厳しく育ててきた。
末っ子が故に、父と母の言葉を真っすぐ受け止めてしまい、丈は嘘を吐くことが出来ない子に育った。
嘘を吐こうとしても、嘘を吐いたことがないからどうしても顔に出てしまったり、矛盾点を突かれてしどろもどろになったりしてしまう。
これは果たして、“誠実な人”と言えるのだろうか。
クラスメート達から厄介な役割を押し付けられることも、押し付けられた役割を熟して煙たがれることも、“誠実”と言えるのだろうか。
自分がやりたいと言ったわけではないことを全うしようとするのは、“誠実”と言っていいのだろうか。
「……はぁ~駄目だ。全然分からない」
どさり、とデジヴァイスを掲げていた手を投げ出すように、緑の絨毯に置く。
ゴマモンも、丈の真似をして仰向けに寝転がったが、身体の構造的に少々無理があったのか、すぐに俯せの体勢になった。
『どうしたんだ、ジョウ?』
「……うん、いや、うん……誠実って何なんだろうなって」
『うにゅ?』
「……僕のいいところって、何なんだろうなって」
『ジョウのいいところ?………………………………うーん』
「うん……分かってた……分かってたよ……」
自分で自分のいいところなんて、分かるはずがない。
考えれば考える程、思い浮かんでくるのは自分の嫌いなところや、嫌なところ。
大人に足を突っ込みかけているとはいえ、丈はまだ小学6年生だ。
自分を客観視できるほど冷静沈着でもないことは自覚しているので、パートナーのゴマモンに訊ねてみるも、帰ってきたのは沈黙と唸り声。
分かっていただけに、落胆も一押しだ。
視界が滲んでいるのは、きっと気のせいではない。
『まあまあ、ジョウ。そう落ち込むなって』
そんな丈に対しても、相変わらずゴマモンはマイペースだった。
これがピヨモンとかパタモンだったら、ごめんねとか泣かないでって慰めてくれていたであろうに、友達甲斐のない奴め、とちょっぴり恨めしくなる。
「誰のせいだよ」
『誰のせいだろーねー』
「お前だよっ!」
『うぎゃっ!』
しらばっくれるゴマモンに、少々イラっとした丈は俯せになっているゴマモンの方に転がると、伸し掛かるようにゴマモンの上に乗っかって、頬を引っ張ってやる。
ぎゃあっ、と悲鳴をあげながら、くすぐったさでゴマモンはケラケラと笑った。
『ごめん、ごめんってば!くすぐったい!』
「僕は真剣に悩んでるんだぞ!」
『分かってるけどさぁ。なるようにしかならないって!明日どうなるかなんて、誰にも分からないのに、今から未来のこと考えててもしょうがないじゃん?』
「っ、あのなぁ」
丈の眉間の皺が、先ほどより深くなる。
ゴマモンの楽観的な発言は、丈の神経を逆なでするだけだった。
「僕達には時間がないんだよ!?今こうしている間にも、この世界にも僕達の世界にも異変は広がっていってる……僕達は早く力をつけて、次の進化をしないと……!」
『ジョウ』
起き上がり、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ丈を遮るように、ゴマモンは丈の名を呼んだ。
その声色がいつになく真剣だったため、丈は言葉を詰まらせるように黙り込んだ。
『そうやって焦ると前しか見えないのは、ジョウの悪いところだと思う』
「…………そう、だね」
真っすぐ丈を見つめながら言い放たれたのは、丈の弱点とも言える悪癖。
自分の意志ではなく、家族に引っ張られるように医者になるという夢を抱いている丈は、優秀な兄達へのコンプレックスもあり、自分の考えをなかなか曲げられない頑固者だ。
その頑固な性格のせいで、ファイル島を回っていた時は、仲間達にかなり迷惑をかけた。
卵焼きにかける調味料の話は、その最たるものだ。
思い出して顔から火が出そうになるが、今は黒歴史で身もだえている場合ではない。
ゴマモンの言う通り、頑固者の丈は自分の常識外の出来事が目の前で起こるとパニックに陥りやすく、冷静な判断が出来なくなる。
そうすると普段は見えている幾つもの横道が消えて、前しか見えなくなってしまう。
“あれをしなきゃ”という考えでいっぱいになってしまい、視界を狭めてしまうのである。
最優先でやらなければならないことは何か、とじっくり1人で考えて出した結論だったのだが、それが今裏目に出ていたようだ。
丈は大きく深呼吸をする。
靄がかかりかけていた丈の脳みそが、晴れていく。
「……そうだ、焦ってたって仕方ない。見えるものだって見えなくなっちゃうんだ。まずは強くならなくちゃね」
『そーそー!まっ、そもそも戦うのはおいらだけどねぇ』
「それを言っちゃあ……」
『お~い!』
胸を張るゴマモンに苦笑していたら、背後の方から呼びかけてくる声。
振り返る。ぴょこん、ぴょこん、と跳ねるようにやってきたのは、黄色い野菜のようなデジモン、ベジーモンだ。
蔓のようになっている手に、何かをぶら下げながら、愛想のいい顔を浮かべてこちらに来ている。
眼鏡をかけても視力が悪い丈は、それが何なのか分からなかったが、ゴマモンは目ざとかった。
『飯っ!?』
「いや、何で分かるの。って言うかさっき食べたよね?足りなかった?」
『何言ってんの!進化して泳ぎまくって、湖に住んでる奴らと修行してたんだから、いつもより減るに決まってるだろっ!』
だから最近は普段より食べているのか、と呆れるもデジモン達の特性だからそれも致し方なし、である。
湖の畔にあるレストランに迷惑が掛からないように、レストランからだいぶ離れたところで修行をしていたために、脚を持っていないベジーモンはここまで来るのに少々苦労したようだ。
『やあやあ、修行の成果はいかがですか?』
「んー、ぼちぼちってとこかな?ベジーモンは、レストランは大丈夫なのかい?」
『ええ。お昼時は過ぎてますし、この時間帯は客も殆ど来ませんから、実質休憩時間みたいなものですので』
これどうぞ、とにこやかに差し出したのは、蔓に下げていたバスケット。
パカ、と蓋を開ければ、美味しそうなサンドイッチが綺麗に詰め込まれていた。
ベジーモンが働いているのは、デジタマモンが経営する店で、所謂大衆食堂と言うところだ。
安くてパパっと出来る料理が多く、サンドイッチなんて洒落たものは置いていなかったが、丈がゲンナイからもらったミニパソコンから取り出したサンドイッチを見て、最近作るようになったらしい。
デジタマモンはあまりいい顔をしなかったが、物珍しさから客が増えたので、特に何も言われなかったのは、完全に余談である。
『これ、賄いで作ったサンドイッチです。よろしければ食べてくださいな』
「え、でも」
『いいのかっ!』
ベジーモンの申し出に、丈は戸惑ったが、ゴマモンは丈の台詞に被せるように前のめりになる。
こら、って丈はゴマモンを窘めるけど、ベジーモンは気にした様子はない。
むしろどうぞどうぞ、とバスケットを差し出してきた。
ゴマモンはバスケットに顔を突っ込む勢いで、サンドイッチにかぶりついたので、丈は咎めるのを諦めて、バスケットからサンドイッチを1つ取り出した。
瑞々しい野菜と、ハムがサンドされた、シンプルなサンドイッチ。
専ら和食中心である丈だが、洋食が嫌いなわけでも苦手なわけでもないので、遠慮なくかぶりついた。
「……うん、美味しい」
『それはよかったです!』
素直に感想を述べれば、ベジーモンは嬉しそうに笑った。
『沢山食べて、力をつけてください。何せ貴方方は我々の救世主なんですから』
何の曇りもなく言い放ったベジーモンに、丈はサンドイッチを喉に詰まらせそうになる。
ファイル島でゲンナイやアンドロモンが言っていたが、いつの頃からかデジモン達の間で、《デジタルワールドが闇に覆われ、危機に陥った時、異世界から“選ばれし子ども達“がやってくる》という噂が流れた。
その時はファイル島内だけの話だと思っていたのだが、ベジーモンと初めて会った時に、選ばれし子どもかと訊ねられた。
デジモンの中には丈達人間のような人型のデジモンも存在するが(エンジェモンがいい例だろう)、デジモン特有の匂いや気配を感じなかったので、ベジーモンは丈が前々から噂として流れていた“選ばれし子ども”という奴なのでは、と判断したそうだ。
この辺りは一見平和ではあるものの、やはり闇の力の影響というものが徐々に広がりつつあるようで、長年の常連だったデジモンが突然来なくなったり、食べにくる客が減ってきていたり、と少なからず影響が出てきているらしい。
だからベジーモンは、丈とゴマモンのことを最初から歓迎していたのだ。
デジタマモンの方は商売あがったりで、最近少しピリピリしているらしいが……。
『……でもね、あのレストランで働くのが夢だったんです。初めてあのレストランで食事をした時、こんなに美味しいものがこの世にあるのかと、衝撃を受けましたよ。ワタシの種族はあまり強いデジモンとは言い難くて、技も弱いし、何処に行っても煙たがれるし……幸い野菜作りの才能があったから、デジタマモンはワタシを雇ってくれたんですがね』
「……そっか」
『………………』
ゴマモンによれば、ベジーモンはウイルス種。
成熟期だがアグモンやガブモンぐらいの強さがあれば、成長期でも勝てるぐらいには弱いデジモンらしい。
ただ必殺技であるウンチ投げが厄介なので、誰も相手にしたがらないとのことだ。
それは、ある意味種が生き残るための生存本能とも言えよう。
生物というのは、人間が思っているよりもシビアなのだ。
ベジーモンという種族も、好きでそうなったわけではないはずである。
そうしなければ生き残れないような環境にいたからこそ、ベジーモンはベジーモンとして成り立ったのだろう。
もしそうなら、ベジーモンを責めたり邪険に扱うのは、お門違いというものだ。
少なくとも丈は人間であるため、ゴマモン程ベジーモンに偏見はない。
「……危ないとか、辞めようとは、思わなかったの?」
『んー……いやぁ、思わないですねぇ』
「どうして?」
『そりゃねぇ。今はこんな状態ですし、正直いつ自分が危ない目に合うかって冷や冷やしてはいますよ。ワタシのように、戦う力が弱いデジモンは特に』
でもやっぱり、あのレストランを離れようとは考えなかったようだ。
少なくなっていっても、1人でも食べに来てくれる客がいるのなら、ギリギリまでレストランを開いていきたい。
デジタマモンも同じ考えのようで、口にはしないものの、店を閉店する気配は見せない。
『だからワタシもデジタマモンが辞めない限り、ついて行こうと決めたんです』
「……そっか」
ウイルス種特有の、少々意地の悪そうな顔に浮かぶのは、キラキラとした素晴らしい笑顔。
今の仕事が本当に楽しいのだと言うのが、痛いほどに伝わってきた。
きゅ、と丈の唇が結ばれる。
がさり
『んむ?』
茂みが揺れた音に反応して、サンドイッチを頬張ったままゴマモンが振り返る。
がさ、がさがさ、と葉っぱが擦れる音に、丈とベジーモンも背後を振り返る。
ひょこ、と顔を覗かせたのは、手のひらサイズの小さな饅頭のようなデジモンだった。
黒い牡丹餅みたいなのと、白い大福みたいなのと、それからクラゲのような半透明なデジモン。
ボタモンは見たことがあるので知っていたが、白いのとクラゲのような半透明のデジモンは知らなかったのでゴマモンに訊ねてみると、白いのはユキミボタモンと言う、ボタモンの亜種のようなもので、クラゲのような半透明のデジモンはポヨモンだと教えてくれた。
幼年期Ⅰと呼ばれている、プカモンよりも前の世代の赤ちゃん達で、戦う力もないから大体お世話好きの成長期や成熟期のデジモン達に面倒を見てもらうことが多いそうだ。
どうしてこんなところに赤ちゃんが、と思う前に、ベジーモンが動く。
『ああ、お前達。腹が減ったのか。よしよし、連れてってやろうな』
「ベジーモン、知り合いかい?」
『まあ、面倒を見ているのはワタシなので、知り合いと言えば……』
おいで、とベジーモンは優しい顔で、空っぽになったバスケットを示してやれば、赤ちゃんデジモン達はきゃあきゃあと可愛らしく騒ぎながら、蓋が開いているバスケットに次々飛び込む。
それじゃ、とベジーモンは頭を下げて、来た道を戻っていった。
「………………」
ぴょこん、ぴょこん、とバスケットを極力揺らさないようにしながらレストランの方へと戻っていくベジーモンの背中を、丈は黙って見護る。
──強いなぁ
小さくなっていくベジーモンの背中を、丈は目を細めながら見つめた。
いつ闇の脅威が降りかかってくるかも分からないのに、ベジーモンもデジタマモンもここから逃げずに、いつも通りの日常を送ろうとしている。
やると決めたから、やりたいと思ったから。
突然この世界に呼び出されて、右も左も分からずがむしゃらに突き進んで、やっと事情を知っている人に出会えたと思ったら、世界を救うために力を貸してほしいと言われて、言われたままに世界を巡っている自分とは、大違いだとも。
ベジーモンは、自分で道をちゃんと決めたのだ。
あの赤ちゃん達だって、デジタマモンの態度を見れば分かる通り、きっとベジーモンの独断で世話を焼いているのだろう。
経営者としてはデジタマモンが正しいから、第三者である自分が口を出すことではないが……それでもベジーモンは強いなと、丈は湖の方に向き直った。
澄んだ青空と、その青空に浮かぶ太陽、太陽の光を反射して煌めく湖。
とても闇がこの世界を覆いつくそうとしているとは思えない程の、平和な光景だったが、それでも暗黒の勢力は確実にこの世界を侵している。
並みのデジモン達では歯が立たないほどの、強力で驚異的な力。
それに対抗するために、自分達は呼ばれた。
泣き言を言う暇なんか、子ども達にはなかった。
ただただ、自分達の世界に、家に、居場所に帰りたかった。
そのためだけに、子ども達は頑張っていた。
……でも、それでは、それだけでは駄目だと思い知らされた。
闇に食らいつくされたデビモン、あのピラミッドで目にしたブイモンの悍ましい過去、そして暗黒の力で壊れてしまったエテモン。
これまで丈は、他の子ども達に流される形でこの世界を旅してきた。
1番年上なのに、最年長なのに、子ども達を引っ張っていたのは自分ではなく、1つ下の5年生3人。
情けない姿しか見せてこなかった丈が、初めて自分で考えて、自分から行動した。
じっくりと、ゆっくりと自分と向き合いながら考えて、歩き出した。
……だったら、やることは決まっている。
──僕もやらなきゃ。やるって決めたんだから
「ゴマモン」
『んむ?』
ベジーモン自慢の野菜で作られたサンドイッチを、お腹いっぱい食べてご機嫌なゴマモンは、満足そうに俯せになっている。
丈はにやり、と笑った。
「もう少し休憩したら、また修行だからね」
『えーっ!?』
「言っただろ。僕達には時間がないんだって」
『そうだけど、焦ったら何も見えなくなるだろとも言ったじゃん!』
「でも出来ることはあるさ。考えて無駄なら行動しなくちゃ。太一ならそうするよ」
『むあーっ!ジョウのオーガモン!』
何だよそれ、と丈はむくれているゴマモンの頬を突いてやった。
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