西住姉妹の弟―西住流の島田―   作:如月 霊

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第二十四話 死に急ぎの我が弟よ

「よし、ここで決着を着ける!エンジンが潰れても良い!!全開にして敵フラッグの後ろに回り込め!!」

 

ポイントPd-2──試合場の最北端にある朽ち果てたアパートが乱立する地点に着くと真霧はそう指示をし、アパート後の公園やら小さな倉庫やらの影を使い、まほの乗るティーガーⅠに肉薄し、敵に一発の砲弾を叩き込む。─が、ティーガーⅠの100mmものある前面装甲に弾かれて明後日の方向に飛んでいく。

 

「クソッ!…次弾装填いs」

 

「隊長!!」

 

次弾装填を指示しようとするがティーガーⅠの主砲がお返しだと言わんばかりに砲弾を放ってきた。急旋回で何とか砲弾の直撃は免れたが真横にあったアパートの壁に命中し、瓦礫が宙を舞った。そして、その瓦礫の破片が真霧に当たり、真霧の仮面を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…真…霧…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていたのか!!真霧!!」

 

敵フラッグから不意にその声が聞こえた。内心しまった。そう思いながらも敵に向け叫んだ。

 

「─ん─知らん、名だ!私は…私は島田だッ!!」

 

その叫びを向け、真霧はキューポラから車内に戻り、砲手から席を変わる。

 

「これで…」

 

「これで終わりだァ!!西住ィ!!」

 

エンジンが燃え尽きそうな勢いのまま車体を傾かせ、キャタピラーや転輪が吹き飛ぶがお構い無しにティーガーⅠの後部に見事なドリフトをかませつつ滑り込ませる。

 

「撃てッ!!」「撃てッ!!」

 

瞬間、ティーガーⅠからシュポという音と共に白旗が出された。そして、そのすぐ後、チトも後部にあるエンジンが爆発、こちらも白旗を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────ピーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黒森峰学園フラッグ車、走行不能。よって、鈴創学園の勝利!』

 

その高らかな笛の音によって今日、鈴創学園戦車隊は王者黒森峰を練習大会とはいえ下したのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

───────

 

 

「真霧君、よく勝ってくれたね」

 

大会が終わり、撤収にかかっているとデュランダルが現れてそう言ってくれた。

 

「ああ、勿論だ。西住を叩き潰すのは島田の俺の仕事だからな」

 

「真霧!!」

 

「黒森峰の…」

 

そこに姉であるまほが現れ、真霧は仮面を無くして素顔でまほに向き直した。

 

「…何の用?まほ姉さん」

 

「ま、真霧!戻ってきてくれ!!お前は、私の…「弟だね」」

 

まほの言葉を手で制し、口を開く。

 

「…だけど、俺は勝利という名の悪魔に魂を売った西住の名に戻る気はないよ」

 

「ま…き、り…」

 

真霧の言葉にまほが膝を落とした。

 

「俺はさ、島田に変わって本当の自分が見つけられた気がするんだ。だから、戻らない」

 

そう言い切り、膝を落としているまほへ手を伸ばした。

 

「だけど、俺がまほ姉さん達の弟なのは変わりないからね」

 

そう言ってまほの腕を引き、立たせると後ろから急に名前を呼ばれた。

 

「真霧」

 

ハッとして振り返ると絹代が西住流家元、西住しほが立っていた。

 

「何の用です。お母様」

 

「あら、まだ私を母と呼んでくれるのね」

 

「…あなたはくさっても私の母に違い無いでしょう」

 

視線をそらし、そう吐き捨てる。

 

「…どうせ、今の今まで千代お母様からでも聞いてたんでしょう?同期のあなた達の事ですから」

 

「まぁ、そうね。真霧、あなたはあなたの生きたい道を行きなさい。そのためにチヨキチに養子の許可を出したんですから」

 

「お母様がやりそうな事は理解してますよ。…でも、五年前のあの演習、忘れはしませんよ」

 

そう言ってしほを睨む。

 

「…真霧はわからなかったのかも知れませんがあの時、あの部屋の横には西住流の上、重鎮達が多数来ていたのよ。だからああ言うしか無かったの。…ごめんなさいね、真霧」

 

そう言ってしほが頭を下げてきた。いきなりの事に混乱してしまった。

 

「え、演技?あれが…演技だって?嘘だッ!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!なら、何で…あの後お母様から何も…言われ、無かった!!なら、わかるの!?門下生からのあの視線が!!あの冷たい、あの視線がさぁ!!」

 

それを聞いた後、自然に自分の頭を掴み、叫んでいた。

 

「すまなかった…真霧」

 

横から急にまほに抱き締められた。

 

「姉さん!!姉さんもわかっていた筈でしょう!あの皆からの視線が!!僕は…僕はあの視線が…怖かっ、たんだ…」

 

「真霧!!」

 

「ま、ほ…姉、さん…」

 

真霧は正気に戻るとまほに抱き締められ、声を殺しながらも涙を流すのだった。

 

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