先生と先輩達と春   作:青火

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初春

 

 

 

『宝石の国』という漫画を知っているだろうか。

 

何億といた人間達が滅んで幾星霜、周りが海に面した孤島に住む宝石達の物語である。

この世界には人間という存在は伝説でしかなく、その存在を詳しく知る者はおらず、“人間”という種族名すら記憶されてない。そして何故か人間と似た姿を持つ宝石と、月人、そしてラミ……何とかが静かに暮らし、そのうちの二つ月人と宝石達は争っている。

理由としては月人が宝石達を装飾として欲しがり、宝石達はその身を守る為。そんな攻防を何千年と繰り返しているそうだ。それが日常なのだからなんだかやるせない。

 

 

そしてこの物語はこの世界の主人公である宝石最弱のフォスフォフィライトが、凡ゆる難関に立ち向かい、自分の気持ちと葛藤しながらも未来を掴み取る物語。

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

本作は何故か宝石として生まれ変わってしまった元人間ホワイトサファイアが、フォスフォフィライトの隣を歩くことを目標とするストーリーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の事だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界の端を何かが通り過ぎた。それが薄荷色だとわかると、またかという気持ちになる。

俺よりは遅い、それでも人間よりは速いその宝石は大量の色とりどりな宝石たちを引き連れて走っていた。

大変だなぁと他人事のように思う。三百年ぶりの新たな仲間よりも、この冬だけで急激に見た目が変わったフォス先輩の方が彼らにはお気に召したらしい。大人気な彼に少し不満を持ったりするけど、自分からあの中に飛び込んでいく勇気もなく……ただジッと金剛さんの隣にいた。

 

「あれ、いつまで続くんでしょうね」

「あの子達が満足するまでだろう。だが、お前もあぁなると思った方が良い」

「あそこまでに執拗に追いかけられるのはちょっと……」

 

俺の言葉に金剛さんは黙って頭を優しく撫でてくる。俺もそれに苦笑を返して、真っ正面からやってきたフォス先輩を見た。

必死な表情でこちらに走ってくるフォス先輩はちょっぴり珍しくて、ついつい噴き出しててしまう。

 

「笑ったな!?じゃなくて、匿って!先輩命令!」

「ちょ!こういう時だけ先輩特権使わないでくださいよ!フォス先輩!!」

 

俺の肩を掴んでスピードを落としてUターンしたフォス先輩は、金剛さんの近くへ退避した。慌てて振り返りフォス先輩を見るが、彼は前!前!と促すだけで助けようとしない。いや、助けられようとしてるんだから当たり前だが。

はぁとため息を吐き、彼がやってきた方向を見やる。そこには色とりどりな宝石達が朝日に照らされ輝いていた。真っ白な俺には眩しい方達だな。

 

「ストーーーーーーップ!!」

 

両手を広げて彼らを制する。大きな声と俺の広げた両手に驚いて走ってきた人達全員が止まった。素直なのだろう、少しフォス先輩に見習って欲しい部分だ。

俺の方を見た彼らは口々に新しい子、新しい子と隣の人達と話す。どうやら名前は覚えられてないらしい。悲しいことだなぁと思いながらも息を吸った。吸える機関があるのは謎だけど。

 

「朝にも言ったけど、覚えてない人多すぎなんで自己紹介もう一回します!ホワイトサファイアです!皆さんの後輩になる、というかもうなった宝石でーす!」

 

んで、と続ける。

 

「皆さんの興味がこの新しい後輩くんよりもフォス先輩にあるのはわかりました。けど彼が困ってます。個人個人意味があって追いかけてるんだと思いますけど、彼の意思を尊重させてあげてください」

 

フォス先輩がいくら強くたってこの数相手に敵うはずもなく。仲間だから傷つけてという選択肢はない。彼らも半分本気で半分冗談なのだろう、こちらの話を聞いていた。鼓膜ってあるのかね。

 

「だから一列に並んで一人ずつ用件を、俺が聞きますんで!」

 

そう言えばずらりっと並ぶ宝石達。おぉ壮観だなー。

最初の宝石は茶色と赤茶の髪を持つ白衣を着た宝石。確か名前はルチルだったか。医者のような役割をしているらしく、今回追いかけたのはフォス先輩の内部がどうなっているのか解剖したくて追いかけていたらしい。レントゲンとかあれば解剖しなくて済みそうで、そもそも危うい均衡で保っているフォス先輩を暴いてしまったらどうなるかわからんのに。

ま、受けるか否かはフォス先輩に任せるけども。

 

「フォス先輩、どうしま……ってあれ?」

「フォスならさっき出て行ったけど?」

 

どうするか聞こうとして振り返ると既に居なかった。名前がわからない先輩が指差したのは外へ繋がる廊下。ウッソだろアイツ……俺に丸投げしやがった。

怒りが湧き上がるが逃げたのはあちらだ。まぁみんな面白半分でしているのだろうけど、中には本気な奴がちらほらいるからなぁ。殺気が漂ってきてる……。

 

仕方なないか……丸投げされたんだし、丸投げするか。

 

注目集める為に手を叩く。皮を叩く音ではなく、石同士がぶつかり合う音が響いた。

 

「はいはーい、フォス先輩行っちゃったんで、俺が用件まとめてフォス先輩に伝えるんで、一人ずつ名前と趣味と普段の仕事と、あとついでにフォス先輩へと用件を教えてくださいね」

 

先生、紙くださいと手を出すと一瞬迷ったような雰囲気を醸し出してから緑髪の子から真っ白な紙を貰っていた。それをくれたのでお礼を言ってからペンで簡単に罫線を書く。

宝石達は俺とフォス先輩を除き、確か四十八人だったはず。大まかに五十個ぐらいの枠組みを作り出し、一番上に名前、趣味、仕事、用件と書いて机の前に整列している宝石たちに見えるように掲げた。

因みに用件以外の項目は俺が彼らを覚える為だけにある。

 

「ここに書いてください。書いてなきゃ伝えないので、そこんところよろしく」

 

はーい!と手を上げて返事する宝石達。うむ、元気があってよろしい。何百何千と生きている者達じゃない様に見えるけど。子供かな?

宝石達がスラスラと必要事項を書いて行く。その書き方にも癖が出ており、個々の性格が窺い知れる。それを眺めながら、顔と名前を一致させて行く。これでも人間だった時は教師職をしていた。そこそこ大きな学校なのでこれぐらいの人数はクラスにいたもんだ。なので顔と名前を覚えるのは比較的得意な方と言える。

にしても本当にみんな見た目が若い。少年少女という枠を出る者はおらず、皆が皆キラキラとしている。目が痛い。

 

「(鉱石だから見た目の変化はないんだろうけど……それでも雰囲気で何となく年取ってるかどうかわかるな)」

 

フォス先輩曰く、彼が一番最年少なのでここにいる全員が年上ということになる。まぁ今年から俺が最年少なんだけどね。俺今一歳にも満たない零歳児だし、バブバブー。

しかし、こうして見ると明らかに一番年上だろう金剛さんが異色だ。先生と子供達と言う見た目の話なら可笑しくもないが……宝石達は生まれた時からこんな姿をしている訳じゃない。尖ったような角ばった姿で、下書きをしてようやく掘り始めた石膏像みたいな形だ。そこから金剛さんの手で整えられ、更には目玉も作られる。見る、という行為は目玉に委ねられている。あれがなければ鮮明に見ることは出来ず、無かったら宝石越しに見るような感覚だからだ。俺は透明だからか、目玉なくても比較的見えるんだけどね。

そんなこんなで宝石達は生まれる。それもこれも金剛さんのお陰であるけれど、その金剛さんはどうやって生まれたのだろうか。

 

フォス先輩曰く、その硬度はダイヤモンド属よりも高いとかなんとか。

 

金剛とは金剛石の事であり、金剛石とはダイヤモンドだ。だからダイヤモンド並みならいざ知らず、それを超えるとなると違うものなんじゃないのか?って常々思っている。

まぁ宝石の事なんてあまり知らない俺だ。もしかしたらダイヤモンドの中でも特別なのあるのかもしれないし。

 

「(お、おぉ……)」

 

考え事をやめてふと前を見ると真っ黒い髪がさらりと揺れた。長ったらしいそれを持った少年?少女?は書くことが決まっているらしく、躊躇なくペンを紙に当てた。

にしても真っ黒なんて珍しい……あぁいや、二人ぐらいさっきもいたか。確か名前はネプチュナイトとオブシディアン。少し覚え辛い名前だ。あと言いにくい。

フォス先輩並に背が高い彼の旋毛がない頭部をぼんやりと見てから、手元へ視線を移した。ふむふむ、名前はボルツ……あ、ボルツさんか!戦闘狂の。思い出したわ。

一時期フォス先輩と組むことになる宝石、だったかな。だからこそだろうか、忘れていたのに何故か思い出せた。ストーリー的にはフォス先輩が絡む人物は章ごとに変わると言っていい。最初がシンシャ、次にアンターク、その次にボルツだ。うむ、見事に問題ありきな奴らばかりだと思う。そのうちの一人は月に連れていかれた。それがあったからこそ、フォス先輩はあんな風になったんだが。

……暗いなぁ。ストーリーがくらい。お気楽な彼からフォス先輩になるまでが暗い。俺には悟らせようともしてなかったのに、知ってしまっている罪悪感が募る。隠し事をしてる分、余計に。

 

「(人間だったというのはフォス先輩にバレてるけど……)」

 

この世界の事を知っていた、ということは未だバレてはいない。これは知識ありの転生者のサガと言っても良いだろう。未来を知っている、それを伝えるか否かで対応が変わる。

何故言ってくれなかった?何故知っていたのに何もしなかったんだ。何故、もっと早く生まれてくれなかったの、なんて……言われるかもしれない。

死ぬのは怖い。でも、この小さな島で存在を拒否されるのは死ぬのと同義だ。集団生活において無闇に敵を作る事だけはしてはいけない事である。

ま、俺が知ってる未来はあと少しで終わるのだけど。

 

「これで全員か。んじゃこれ、フォス先輩に伝えときますねー!」

 

もう一回手を叩き注目させてから告げた。はーい!と元気の良い返事が聞こえる。うむうむ元気な石たちだ。クール系な子達は返事しないのはわかっていたので無視して、後ろで待機しているはずの金剛さんへ振り返る。本来の朝会を行う為だ。フォス先輩のせいで台無しになってしまったのを、落ち着いてから仕切り直そうと話していたので、ここからは金剛さんのターンである。

 

「って事で先生、よろしく」

 

いやー、俺の仕事終わり終わり♪と上機嫌で振り返えりながらそう言えば、いつまでたっても来ない返事。いつもならすぐさま返答するので時間を置くというのは珍しい。訝しげな視線を隠しもせず、斜め後ろで立っているはずの金剛さんを見上げた。

フォス先輩の裁縫で整えられた法衣がゆらゆらと揺れて、それに合わせて金剛さんの頭もゆらゆらと揺れていた。

 

「ま、まさか……」

 

少し近づいて声を聞く。宝石には内臓はないが呼吸の真似事はする為に寝ているときは息遣いが少し聞こえてくるものである。つまり、ここで、冬に何度も聞いた金剛さんの息遣いが聞こえてきたのなら……。

 

「……zZZ」

 

寝ている事に……って。

 

「立ちながら寝るなよ!?!?」

 

危ないだろ!!

金剛さんが寝ぼけている時が一番身の危険を感じる時なのは冬で何とも経験したもので、立つはずのない鳥肌を摩りながら金剛さんから離れようと紙を持って後退する。

 

「じゃ!俺、フォス先輩にこれ伝えるって役目あるから!金剛さんの事、よろしくぅ!」

 

近くにいた緑髪の、えっとジェードに金剛さんを任せる。戸惑うような声を発していたが、それよりも金剛さんと離れるのが先だ!とクラウチングスタートして逃げる準備をする。向かう先はもちろんフォス先輩のところ。逃げるように去って行った彼なら今頃外だろう、と当たりをつけて脚に力を込めた。

 

「あっぶね!?」

 

スタートを切ったと同時に俺の横にあった柱に金剛さんがめり込んだのだが、それは余談というものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺にとってこの世界で初めての春が始まった。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです!
春が来たのでタイトルを変えて再開です。よろしくー!
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