――どうして、こんなことになったんだろう。
本当に、もう、嫌になる。自分の醜さと、拙さが、本当に露呈している。
「姉、さん……」
私の表情を察してくれたのか、雅はすぐに口をつぐんだ。
「失敗しちゃった」
出来るだけ笑おうと努力する。だが、自分でも痛感するぐらいには、笑えなかった。
「……ッ、でも、……大丈夫、だよ。……また、一緒に考えようよ。いつもみたいに、僕と姉さんの二人で」
「そうだね。だけど、ごめんね、今はそんな気持ちにはなれないかな。……流石にちょっと堪えてるみたい」
相談しようとここに来た訳だが、どうも、それを避けようとしてしまっている。もう二度と、失敗なんてしたくないのかもしれない。
「そっか、分かった。それじゃあ、どうしよう? 何か、気晴らしになることとかあったかな……? えぇっと……」
「そういえば、話すことがある、とか言ってなかった? よかったら、聞くよ?」
「うぅ……、突然過ぎて、ちょっと困るんだけどなぁ……。うん、いや、いいや、それで姉さんの気晴らしになるなら、それぐらい構わないよ。どうせ、くだらないお話だし」
軽く、何でもないように言う割に雅は目を逸らしていた。どう考えても嘘だ。冷静な判断が出来るときでないと、いけないような重要な話なのかもしれない。
だけど、それを私の為に優先してくれている。いつも雅は無理をしていて、それに気付けていなかった。――気付いていないフリをしていた。
「……ありがと。……ごめんね」
自然と、雅の頭を撫でていた。こんなもので詫びになるなんて思っていない。だけど、そんなことしか、私には出来ないのだから、仕方がない。
「僕ね」
小さく、だけどはっきりと聞こえる凛とした声で、雅は小さく呟いた。それにつられて、頭を撫でるのをやめる。
「今まで、僕はずっと嘘を吐いていた。姉さんに好かれようと、僕は姉さんのことをずっと考えていた。だからなんだと思う。――考えて、考えて、考えすぎて、いつまでも、僕の頭の中に、姉さんがいた」
冷静に、自分を表現していく雅。落ち着いた声音だからこそ、雅の言葉は心に響く。
「姉さんの笑っている顔や、喜んでいる顔を思い出す度に……――」
右手を左胸――心があるとされている場所に――触れる。
「――……ココが、むず痒くて、でも嬉しくて……――」
照れているような、恥ずかしかっているような、どちらにでも取れる少し赤く染まった笑顔を見せて。
大きく、そして――
「――……僕ね、姉さんが好きなんだ。誰よりもずっと、一人の女の人として、大好き」
「…………」
驚き。
理解していたはずなのに、それを、遥かに超える、別の悩み。雅はそれを打ち明けた。
「それは、つまり。……恋――恋愛感情を、私に抱いてる、ってことで、いいの?」
「……うん」
そう言って、雅は照れくさそうにはにかむ。
「あはは……、そんなこと言われるの初めて。そっか、そこまで、想ってくれてたんだ」
「でも、おかしいよね。本当の姉弟なのに、こんなこと。……間違ってるよね」
そう、俗に言う禁断の愛とやらだ。
確か、血縁関係が近いと、何らかの障害を持った子が生まれやすいとか、なんとかだった気がする。
それに、従兄弟ならば可能らしいのだが、姉弟では結婚は受理されない。
そんな二つの理由が、雅の言動――『間違っている』という根拠なのだろう。
「はい、ストップ。雅は素でも一度思い込むと信じて疑わないんだね」
純粋で、一途で、だからこそ、発想が綺麗なのだ。ルールがあるから、駄目。そんな単純で綺麗な思考しかできない。
「確かに、姉弟の間で生まれてくる子は障害児が多いらしいし、役所も結婚を受理してくれない――」
「……だよ、ね。……こんなの――」
「――でも、それだけなんだよね。ちゃんとした理由って」
「どういう、こと?」
障害児が生まれやすい。結婚を受理されない。たったそれだけなのだ。
「別に結婚する理由なんてないでしょ。だって、元から『家族』なんだし」
「……あ」
結婚は、血の繋がっていない二人が夫婦という関係――つまり、『家族』になるという契約だ。
それに対して、姉弟という関係はその二人が生まれた時点で既に『家族』なのだ。結婚などという契約、する必要がない。
「それに、子供の件も、可能性が高いだけで、普通に生まれてくるかもしれないし、障害児だから、何なの。確かに苦労は多いだろうけど、その程度で諦めるのなら、その程度だってことでしょ」
「…………」
呆然と、瞬きすらしない雅。
「だから、雅がソウイウことしたくなっても、大丈夫な訳」
そう言って、額を軽く突く。
「ね、姉さん! 僕はそんなこと……!」
やっぱり、雅
「まぁ、私も似たような感じだからね。恋愛感情かは分からないけど、雅は特別。弟としてではなく、一人の男の人として」
――そして、勿論、私も、雅に負けないぐらいには思春期だ。
「……え? ね、姉さん!? ど、どういう、こと!?」
「たまには私を頼らずに、自分で、一人で考えなさい」
まだ、私にもコレが何なのかは分からない。恋愛感情なのか、それとも別の何かなのか。
――これは単なる時間稼ぎだ。自分の気持ちを理解するまでの。
さて、姉弟の問題は、無事に解決しました。(解決させました)
残るは、親子の問題です。今回に負けないぐらい、ご都合主義&呆気無く終わりそうです。