Co-dependence   作:不皿雨鮮

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Actor was defeated by the boy

 有紀が『家族』になって三日目の朝。

 順調に進んでいる冬休みの宿題をリビングでしていると、有紀が危なげな足取りで近付いてくる音が聞こえた。

「……有紀、大丈夫?」

 何かに足を引っ掛けて転んだりしないだろうかと心配になる。一応、それなりには整頓したのだが、有紀にとって何が危険なのか分からない。

「ありがとう雅兄ちゃん。ボクの為に最初の日、お母さんとお掃除してくれたんだよね? えっと、すっごく嬉しかったよ!」

「それは姉さんがいる時に言ってあげて。僕は姉さんを手伝っただけだから」

「……あれ? お母さんいないの?」

「うん。冷蔵庫の中が空っぽになっちゃったんだって。だから、スーパーに買い物に行ってるよ」

「そうなんだ。――じゃあ、丁度いいや」

 一気に、有紀の雰囲気が変わった。背筋を思わず伸ばしてしまうような、冷たい雰囲気が有紀の周りを包む。

「……何が、丁度いいの? お母さんに内緒の話?」

「うん! だって、雅兄ちゃんがお母さんに吐いてる嘘(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)のことだもん!」

「……ッ、何のこと?」

「あははっ、雅兄ちゃんはボクと同じだね。お母さんを騙してる。そして、お母さんを騙している自分に依存してる」

 まるで何もかも分かっているかのように話す有紀は、今まで以上に楽しそうだった。

「有紀、大丈夫? 何だか様子がおかしいよ?」

「じゃあ、こう言ったらいいのかな? ――雅兄ちゃん本当は頭がいい(ヽヽヽヽヽヽヽ)のに、ずっとお母さんに隠してる(ヽヽヽヽ)よね?」

 ――落ち着け。

自分にそう言い聞かせた。ここで取り乱したら、ますます露呈する。

「あっ、お母さん帰ってきた!」

 突然、いつもの雰囲気に戻って有紀は元気よく駆け出していく。

 緊張の糸が解けて、安堵の息が漏れる。

 有紀に何となく感じていた親近感。どこか似ている、と初めて会った時から思っていた。

それがようやく分かった。

 有紀は僕と、自分を偽っている。自分を偽って、誰かから愛されようとしている。

その為に、ずっと、ずっと自分を偽っている。愛される為に、自分を狂わせている。

「……君は何の為に、姉さんを騙すの……?」

 玄関の方を見つめながら、僕は呟いた。有紀も『何か』の為に、姉さんを騙しているのだろう。

 僕と同じか、僕よりもずっと根深くて、狂気的な『何か』の為に。

「あれ? 雅、どうしたの? 何か顔色悪いよ?」

 僕の顔を見るなり、姉さんはそう言った。上手く笑えていると思ったのだけど、やっぱり動揺しているみたいだ。

「だ、大丈夫! ちょっと宿題が難しくて……」

 少し大げさに笑ってみる。

綺麗で、無垢な笑みを、今までに何度も練習して『記憶』した笑顔ではない、ぎこちのない笑みを。

「……? そっか、分かった。宿題頑張ってね」

 少し怪しまれたけど、何とか信用してくれたみたいだ。姉さんをこうして騙すのは、やっぱり気が引ける。

僕を絶対的に信用してくれている姉さんを騙す僕は最低だ。

いつかはバレる嘘を僕はその時まで吐き続ける。その時、姉さんは僕を許してくれるのだろうか。

 ――それに。

事故の日から、姉さんは何かを悩むような仕草をよくしている。いつもなら、何でも僕に相談してくれるというのに、今回はひたすらに隠そうとしている。

もし、姉さんが僕に話せないことで――僕自身のことで悩んでいるとするなら、僕の嘘に気付くのも時間の問題なのかもしれない。

 それでも僕は、理想の弟を演じることしか出来ない。それがむず痒くて、狂いそうになる。

「……ねぇ、お母さん。しゅくだい、って何?」

 脇道に逸れていた僕の思考を引き戻したのは、有紀のそんな一言だった。

「有紀、もしかして学校に行ったことないの……?」

 宿題を知らない、というのはつまりそういうことなのだろう。姉さんは僕よりも早くその結論に至っていた。

「がっこう……?」

 初めて聞く言葉を繰り返すように、有紀は呟く。

本当に有紀は学校や宿題を知らないのだろうか。裏の顔を見せつけられた僕には、有紀の言動は怪しく思えた。

「同じ歳の人達と、色々なことを学ぶところだよ。――でも、有紀は行かなくてい。分からないことは、私が教えてあげるから」

 そう言って、姉さんは有紀の頭を撫でる。

「そっか。お母さんがそう言うなら、いいや」

 撫でられ終わると、有紀はそう呟く。自分を納得させたのだろう。

 全てが丸く収まった。

それが有紀の思惑通りだったかのように思えて、酷く腹立たしかった。

「ねぇ、姉さん。どうして、学校に行かせないの?」

だから、僕はあえてソレを口に出す。

「雅だって『完全記憶能力』がバレた時に体験したでしょ? 『普通じゃない』ことを、悪いことだって決めつける人が大勢いて、みんながソレに流されちゃうのを」

「……うん」

「有紀は目が見えない。それがどんなに大変なことなのかは、正直私も分からない。でも、それを悪いことだって決め付ける人がいる。雅の時は私が守れたけど有紀の場合はそうは

いかない。だから、行かせないのが一番なの」

「そっか。……ごめんなさい、姉さん。僕、何にも分からなくて……」

 正直、自分でも白々しいと思うような台詞を呟く。演じ続けたせいで、そうするのが癖になっているらしい。

「気にしないで雅。それより、宿題は終わったの?」

「うん、さっき終わったよ!」

「そっか、お疲れ様」

 もう、ほとんど無意識なのだろう。何かが出来た時のご褒美という意味で、姉さんは僕の頭を撫でてくれる。

 こういう性格を演じているせいか、よく友達にも撫でられるのだが、やっぱり姉さんが一番上手だ。

 有紀の裏を知って変に入っていた力が抜けて、体が楽になる。

 ごちゃごちゃしていた頭の中が整理される。

そうだ、僕が一番に考えるのは姉さんのことだ。有紀のことではない。

 三年前、僕のせいで姉さんは酷く傷付いた。

 だから、僕は嘘を吐いてでも姉さんの笑顔を守らないといけない。

 もし、有紀が姉さんの笑顔を奪おうとするなら、僕は有紀を『敵』と見なす。

 どんな手を使ってでも、有紀と姉さんを引き剥がす。それが、姉さんの為だと信じて。

 

 その後、久しぶりに姉さんが作ったお昼ごはんを食べて、三人で遊んだ。

 買い物にいったついでに、姉さんが目の見えない人でも遊べるトランプを買ってくれたおかげで、病院にいる時よりもいくつか遊べるゲームの種類が増えた。

 途中から三人とも大富豪なら、それなりだということが分かり、何回も繰り返して遊んでいた。

「……あの、姉さん?」

「何?」

 ラスト一枚の姉さんが、勝ちを確信した表情で答える。

 それとは対称的に二枚しかカードを減らせていない僕と有紀。

俗にいう、姉さんの圧勝だった。

 病院で有紀に圧勝した時、大人げないと言ったのは誰だっただろうか。

「お母さん、強すぎ……」

「まぁね。あ、三で『あがり』」

 そう言いながら、姉さんが最後のカードを場に出す。

五回連続で、大富豪の中で最弱の三のカードを『あがり』の時に出すという勝ち方で姉さんが終わった。

「もういい! 今日は(ヽヽヽ)大富豪おしまい!」

 そう言って有紀は自分の手札を放り投げて、その場に大の字になる。

 姉さんとは反対の方を向いて「ふーんだ」と、定番のような台詞を漏らす。

「……拗ねた子は晩御飯抜きね」

「お母さん、もっとやろう!」

「変わり身早っ!?」

 姉さんの呟きを聞き終わるよりも早く起き上がり、慌ててカードを掻き集める。

カードがどこにあるのか分かっていないので床を乱暴に撫でているだけなのだが、そこはあえて触れないでおこう。

「冗談、冗談。私が疲れたから、やるなら二人で出来るゲームね。私はちょっと部屋で、したいことがあるから、お腹空いたら呼んで」

「「はーい」」

 

 「――有紀、提案があるんだけど」

 姉さんが部屋入ったのを確認してから、僕は有紀にそう言った。

「何、雅兄ちゃん?」

 有紀はいつもの雰囲気を崩さないまま、答える。でも、口調が変わったことは分かった。

「『お互いの全て』を、知っておこうよ」

「――どうして?」

 半ば食い気味に、有紀が尋ねてくる。

「僕と有紀は今のところ、『敵』じゃない。それは確かだよね?」

「……うん、そうだね」

「でも、いつ『敵』になるかは分からない。――そして、そうなった時、一番強い『敵』になるよね? お互いが一番隠していたいことを知っているんだから」

「……そうだね」

「そして、その嘘は姉さんを悲しませることになる。だって、僕らは姉さんの信用を、嘘という形で騙しているんだから」

「……ッ、そうだね」

 一瞬、有紀が反応する。やっぱりそうだ。有紀も姉さんが一番なのだ。

「僕らは仲良くするべきだ。お互いの嘘がバレないように助けあって、協力すべきだ。それが、姉さんが一番傷付かない方法だと思わない?」

「……うん」

「だから、お互いが裏切らないように、全てを知るべきだと思うんだ。全てを知っていれば『敵』になった時、それはもう『敵』どころじゃない。相手も姉さんも傷付ける最低な人間だ。そんなことはしたくないよね?」

 つまり、お互いの『全て』を武器にすることで、お互いの裏切りの抑止力にしようという意味だ。

「……うん。――分かった。全部話す」

 有紀はそれを理解してくれたらしく、小さく頷いた。

「ありがとう」

 有紀の手を握る。すぐに有紀も握り返してくれた。

これで、僕と有紀は『共犯』だ。――最も大切な人に、一生嘘を吐き続けることになる。

 『お互いの全て』という抑止力によって、絶対に協力しあう|ことになる特殊な関係が結ばれた。

 これで有紀が僕の本当の姿を姉さんにバラすことはなくなったし、有紀を同じ土台に引きずり下ろすことが出来た。

 そう僕は確信した。

「……じゃあ、ボクから話すよ。だから、雅兄ちゃんもお母さんに吐いている嘘、ちゃんと話してね?」

「勿論」

 有紀から全てを聞き出し、僕も話す。それで全てが安全に進む。――そう思ったのに。

「だって、――お母さん」

 ――有紀は既に、僕を裏切っていた。

「雅、――嘘って何?」




はい、展開一気に進みました。

()()()()仲の良い、平和な、少し変わった、新しい『家族』になった三人でしたが、実は……というやつです。

某友人に「お前の小説って途中で見る気失せるよなwww」って言われて、激しく納得したこともあり、もしかすると一話から改稿するかもしれません。

よければ感想どうぞ。
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