世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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おはようございます。早朝投稿です。
今回から原作2巻に移行です(ようやく)。
ところで、原作のキャラブックが出ると聞いて喜んでいます。





登場人物の身長が判明するので(身長厨)



13.自分の弁護が出来てこそなんぼ

どうして………こんなことに…………

 

 

 

 

 

 

上杉風太郎は今、絶望のどん底にいた。彼の周りには五人の顔のそっくりな女子。皆風太郎を見ている。そして自らは床に正座をしている。つい先ほどまでは、二名を除いて助っ人の死んだ魚のような目の黒縁メガネの男子と勉強の指導に励んでいた。だいぶ落ち着いた雰囲気だったのだが、今はもう、殺伐とした空気が周りを包んでいた。

 

 

 

何故こんな事態になったのかというと、時は少し遡る……

 

 

 

以下回想……

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ俺たちは帰るけど、ちゃんと次回までに宿題終わらせておけよ」

 

 

勉強会を終え、それぞれに次までやる宿題を提示した総介と風太郎。三玖は総介から、四葉と五月は風太郎、彼が空いたときに総介から教わっていたのだが、まあそれぞれひどかった。

 

三玖は理数系の問題が壊滅的だったし、五月も化学や物理の基礎が少し出来ていた程度で、その他が全然ダメ。四葉に至っては、もう中学生が出来て当たり前程度の国語以外は全部アウトオブアウトである。

そういった3人の現状を改めて思い知った2人。風太郎は頭を抱えてしまい、総介は『ここは3年Z組かよ』と、分かる人には分かる酷評をするほどの惨状だった。

それにもめげず、レベルを数段下げて限られた時間でなんとか教え込み、3人にそれぞれに合った宿題を2人で作成して今回の授業は終わった。

 

 

「わ、わかりました………」

 

四葉がいかにも疲れたかのような口調で答える。普段体を動かすのは姉妹の中で一番得意なのだが、頭を動かすのは一番苦手な彼女のことだ。疲れも恐らく相当なものだろう。と、総介が口を開いてこんな事を言った。

 

「おい『妖怪みどリボン』、テメーは次の宿題やってこなかったらこう呼ばせてもらうからな」

 

「妖怪!?そ、そんな、あんまりですぅ……」

 

「テストと違って、自力で調べられるんだ。それに、ほぼ中学レベルの問題なんだからあれぐらいこなしてみろ。でねーと赤点回避なんて夢のまた夢だぞ」

 

「は、はい……頑張ります……」

 

総介なりに四葉へ激励の言葉を口にすると、彼女は疲れながらもやる気のある言葉で答えた。次に彼は五月へと顔を向ける。

 

「肉まん娘、お前の場合は『中身がカラシだけの肉まんの刑』な」

 

「鬼ですかアナタは!?ていうか肉まん娘って何なんですか!?」

 

総介の言葉に、五月は声を荒げてしまう。彼女は食べるのは好きだが、こういった罰ゲーム系の食べ物は例外なのである。

 

「やってこなかったらの話だ。期限まで時間あんだし、作ったのはお前に合わせた優しい問題なんだから、出来ねーとシャレになんねーぞ。……肉の入った肉まんか、カラシの肉まんか、2つに1つだ」

 

「…………わかりました」

 

不服そうな五月だったが、返事をするしかなかった。出来なければカラシの肉まんが待っている。それは絶対に避けなければならない。普通の美味しい肉まんのために!と、彼女は内心で決意を新たにした。

 

 

 

 

そして総介は、最後の1人、三玖へと目を移す。

 

「そ、ソースケ、私は………」

 

一体何をされるのだろうと、不安丸出しで聞いてきた三玖に、総介は表情を無にしてこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだね。じゃあ宿題をやってこなかったらこれから苗字で呼ばせてもらおうか。……『中野さん』」

 

「!!!!!」

 

「ま、待ってください!浅倉君、いくらなんでも三玖を贔屓しすぎです!苗字呼びなんて、1人だけ明らかにレベルが低いじゃないですか!」

 

五月が罰の内容の差にたまらず異議を申し立てる。しかし、総介はこれでいいと思っていた。何故なら……

 

「いや、でもほら、見てみろよ?」

 

「見てみろって、何を………なっ!?み、三玖!?」

 

「……………」

 

そこには目の光を無くし、どこを見てるかもわからず、口をぽかーんと開けて、背景に『がーん』と言う文字が世界で一番似合う、真っ白な姿をした三玖がいた。彼女にとって総介からの苗字呼びは、この世の終わりと呼ぶにふさわしい絶望的な罰なのである。

 

「……………」

 

「み、三玖!しっかりしてください!戻ってきてください!!」

 

「三玖ーーーー!起きてーーーー!!!」

 

「……………」

 

五月と四葉の必死の呼びかけにも、三玖は答えるどころか一切動かない。もはや石像である。と、ここで総介が動く。さすがの彼も、三玖がここまでになることは想定外だったらしく、急いで彼女の目の前まで移動し、名前を呼んだ。

 

「三玖!」

 

「………はっ⁉︎そ、ソースケ!……い、いや!それだけはいや!」

 

三玖の名前を呼ぶと、瞬く間に彼女の全身に色が戻り、再起動した。すると、苗字呼びがよっぽどトラウマになったのか、目を潤ませておもちゃを買ってもらえない小さな子どものようにイヤイヤと首を横に振る。かわいい。

 

「お、落ち着いて三玖!宿題やってこなかったらの話だから!ちゃんとやってきたら苗字で呼ばないから!ね?」

 

「………ホント?」

 

目をウルウルとさせて不安な表情をしながら総介を見上げる。

 

「(かわいい)大丈夫だから。宿題も今の三玖に合わせたやつだから。無理な問題は出してないし、ちゃんと調べたら答えにたどり着けるよ」

 

「……………なら、がんばる」

 

三玖は涙目になりながらも、プルプル震え両手の握りこぶしを前に出して決意を露わにする。……ほんとかわいい。

 

「どうしてもわかんないとこがあったら聞いてもいいよ。やりやすい覚え方教えるから、一緒にやってこう」

 

「………うん、ありがとう、ソースケ!」

 

「どれだけ三玖に優しいんですか!?やっぱり贔屓してるじゃないですか!!」

 

「ぶーーーー!!ぶーーーー!!」

 

ようやく元気を取り戻した三玖を見て、一安心する総介だったが、五月の非難と四葉のブーイングで2人の時間は強制終了させられた。

 

 

 

(…………本当に大丈夫なのかコレ?)

 

唯一会話に入らず見守っていた風太郎は、3人の馬鹿さ加減と助っ人のなかなかの暴君具合に、これからの家庭教師生活に不安を募らせていた。これであと2人加わったらどうなってしまうのだろうか……

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

2人が帰る直前に、三玖は総介に二乃のことについて話しをしていた。結局、あれから二乃は一度も部屋から出てこなかったのだ。

 

「ソースケ、二乃のことなんだけど………」

 

「………どうしたの?」

 

二乃の名前を聞いて、総介は気だるそうな表情を少し引き締めて三玖に尋ねる。

 

「…………私に、任せてほしい……」

 

「三玖に?」

 

「うん………二乃は、本当は優しい子なの、知ってる……でも、うまく自分が出せないから、あんなこともしちゃうのも、わかるの……だから……」

 

「…………」

 

総介は少し考えたが、彼女からのそう無理でもない頼みということもあり、聞き入れることにした。

 

「……わかった。三玖がそう言うなら、アイツのことは任せるよ」

 

「ホント?」

 

「アイツのことを一番理解しているのは、君たち姉妹だから、任せてと言われたら、任せるしかないからね……」

 

「………ありがとう」

 

「………でも、今日のことに関しては、あれは俺の責任だから、そこは俺にとらせてもらいたい。いいね?」

 

「………うん、わかった」

 

元々、二乃がああして部屋に閉じこもってしまったのは、総介の言葉がとどめとなった事が原因である。いや、それ以前に、彼女が家庭教師の邪魔をしなければよかっただけの話なのだが、二乃の行動の根底には、彼女なりの姉妹への思いやりがあり、それが良くない形で出てしまったことが、今回の騒動の始まりであった。

総介に自分の用意していた策を悉く打ち破られ、その場で三玖からきっぱりと否定され、更には総介からも追い打ちをかけられたことは、彼女にとってはショック以外の何者でもないだろう。

と、同時に、二乃はそのことについて必ず考える。自分のこと、風太郎と総介のこと、姉妹のこと………その考えの先に彼女がどのような答えを出すのか、それは二乃自身しか分からない。最低でも、今のままじゃいられないことは、彼女だって気づくはず……

 

「………心配かい?」

 

「うん………だって、姉妹だもん」

 

そりゃそうだと、総介は自分が愚問を聞いてしまったことに少し笑ってしまう。五人は同じ(はら)から生まれた、一部分身のような存在。今も五人が一緒に暮らして同じ学校に通っているあたり、相当仲が良いのだろう。総介には一人っ子なので彼からすれば推測に過ぎないが、おそらく年違いの姉妹でも心配なはずなのに、五つ子、出生を共にした肉親だ。それぞれのことはまるで自分の事のように気がかりなはずだ。

 

(……何聞いてんだ、俺は……)

 

当たり前のことを聞いた総介。心の中で反省する。

 

「………ごめん、変なこと聞いちゃって。長居しちゃったね」

 

「ううん、大丈夫。また勉強、教えてね」

 

「………ちゃんと宿題やってくるように」

 

総介がジト目で三玖を見る。

 

「は、はい……」

 

冷や汗をかいてやや自信なさげな返事をしてしまう三玖だったが、総介とのその日の別れの方が重要なのか、すぐに元に戻る。

 

「………またね、ソースケ」

 

「またね、三玖」

 

そうお互いに言葉を交わして、二人は玄関で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ場にいた風太郎を完全に無視して。

 

「おーい、俺はー?」

 

「あ、いたんだフータロー。……またね」

 

「…………もしかして、これからずっとこんな感じ?」

 

本当にどうなってしまうのかと、忘れ去られた風太郎は今後の家庭教師生活に不安をさらに募らせていった……

 

 

 

 

 

がんばれ上杉風太郎!!

 

 

 

 

 

 

 

負けるな上杉風太郎!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

影が薄いぞ!上杉風太郎!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

「あ……財布忘れた」

 

マンションを出てすぐに、風太郎は自身のポケットに財布がない事に気づく。

 

「すまん、浅倉。部屋に戻って財布取ってくる」

 

「おー、じゃ、先帰るわ〜。………あ、風呂場覗くんじゃねーぞ上杉」

 

「覗くか!」

 

「あそ。じゃ、おつかれ〜」

 

「まったく……お疲れさん」

 

そう言ってから、風太郎はマンションの入り口に向かって走って行った。

 

 

(………あいつオートロック大丈夫か?)

 

 

少し心配になった総介だったが、まいっか、と、あまり気にせずに1人で帰る事にした。

 

 

「………あ、今日ジャンプ発売日じゃねーか」

 

今週が土曜発売だったのを完全に失念していた。すぐ近くにコンビニがあるから、そこで買っていこう。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

[ありがとうございました〜]

 

 

 

 

 

総介は予定通りジャンプをコンビニで購入し、鞄にしまって帰宅の途につこうとした。すると、

 

 

 

〜〜〜♪♪♪

 

 

 

総介のスマホが振動して、電話のメロディが鳴り響いた。

 

 

(誰だ?アイツか?)

 

彼は先程、四葉の助っ人の代理を頼んだ人物からの電話かと予想したが、それは大きく外れてしまう。なぜなら電話をかけてきた人物は……

 

 

(………三玖?)

 

 

画面に表示された『中野三玖』の文字。何故彼女が電話を?と少し思ったが、少し前まで話をしてたとはいえ、想い人からの初めての電話に心躍らせた。通話ボタンをタップして、耳に当てる。

 

 

「もしもし、三玖?どうしたの?」

 

 

すると、三玖からは、普段は聞き慣れない慌てたような声が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソースケ!大変なの!今すぐ戻ってきて!……フータローが……フータローが!……』

 

鬼気迫るような彼女の声に、総介は思わず身体を動かし、姉妹のマンションへと走り出した。

 

 

 

 

 

「何があったかは着いてから話して!今すぐ向かう!」

 

そう言い残した総介は、電話を切ってダッシュする。

 

幸いマンションまでそう遠くはない。風太郎に何があったかは、そこに戻ってから聞けばいい。今は早く現場に行くことが先決だと判断して、総介は走るスピードを少し上げて『PENTAGON』へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想終わり

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

で、総介が5分足らずでマンションへ戻り、部屋まで通してもらうと、リビングで冒頭のような状況が広がっていた。彼と風太郎が先ほどまで勉強を教えていた3人はもちろん、バイトから帰宅した一花、更には先ほどまで部屋に閉じこもっていた二乃もいた。彼女だけは何故か、下を向いて表情は伺えなかった。

 

「ソースケ………」

 

「三玖……一体何があったの?」

 

総介は三玖に説明を仰いだ。すると三玖は、総介だけに聞こえるように、一団から少し離れたところまで彼を連れて行って説明を始めた。

 

 

だいぶ端折って説明するとこうだ。

 

 

 

 

〜『財布を取りに来た風太郎が、リビングで風呂上がりでバスタオル姿の二乃と遭遇。二乃はコンタクトをしていないため気付かず、どういうわけか、風太郎が二乃を押し倒していた状況を部屋から出てきた五月に撮影された』〜

 

 

 

 

 

そのことを聞いた総介は………

 

 

「………なんじゃそら。わけわからん……」

 

そりゃそうだ。意味不明だ。彼の人となりは、会って一ヶ月も経っていないので全ては知らない。知っててもシスコンなことぐらいだ。しかし、無防備な姿の女を襲うような肝っ玉をしているような奴には、少なくとも総介には見えなかった。それを込めての『わけわからん』である。

 

「うん、だから、今から裁判が始まる」

 

「………は?裁判?」

 

そう、裁判である。審判である。ジャッジである。ジャッジメントですの!………言いたかっただけである。

 

どういうことだ?と疑問に思う総介を、三玖は再びリビングの中央へと連れて行く。

 

 

「裁判長、弁護側の証人を連れてきました」

は?何?証人?しかも弁護側?俺上杉の味方って設定なの?

 

「よろしい。ではこれより、『上杉風太郎君痴漢裁判』を始めます。」

 

と、裁判長こと一花が開廷の宣言をした。

 

(てかお前が裁判長かよ。この時点で上杉不利な気もするが……)

 

「でははじめに、検事は被告の罪状と、証拠の掲示をお願いします」

 

「はい」

 

と、五月が返事をして立ち上がった。あ、ちなみに四葉は傍聴人ね。

 

「裁判長、ご覧ください」

 

そう言って五月は、風太郎が二乃を押し倒している動かぬ証拠の画像を皆に見せた。彼と彼女の周りには、本が散らばっている。

 

(……うわ、見た感じ完全にアウトだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※一旦総介以外の時を止めます。

 

総介をはじめ、全員がバスタオル姿の二乃の上に、風太郎が覆いかぶさりそうになったのは紛れも無い事実だということを確認する。争点はこうなった事態までの経緯だ。もし風太郎が二乃を襲う目的で押し倒したなら、完全に有罪だ。原告側は家庭教師のクビを要求するだろう。そして芋づる式で俺もクビだ。そうなっては元も子もない。せっかくスタートしたのだからここでパーになるわけにはいかない。何より……

 

 

(コイツが負けちまえば、三玖との勉強の時間がなくなっちまうじゃねーか!)

 

 

やはりというか何というか、彼は三玖のことを考えていた。今自分が合法的に三玖と一緒にいれる時間は、家庭教師をしている時間だけである。これが無くなってしまえば、今後2人を繋ぐものはほとんど無くなってしまう。下手すれば二乃は、俺にとんでもないくらいにアンテナを張るだろう。三玖にももう会えないかもしれないほどに………それは緊急事態だ。この立場を失う訳にはいかない。ならば、総介のすべき事は一つ。

 

(上杉を無罪にして、三玖との家庭教師の関係を維持する!)

 

 

総介の腹が決まった。絶対に負けられない裁判が、そこにはある!!

 

 

※それでは時を動かします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被告は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生を目の前に欲望を爆発させてしまった……」

 

五月が罪状を読み上げながら(読み上げるもの無いんだけどね)風太郎へと体を向け、彼に画像を確認させる。

 

「この写真は上杉被告で間違いありませんね」

 

風太郎は証拠の画像を前に、目を逸らしてしまう。そして顔を青くしながら、小さな声で呟くだけだった。

 

「え……冤罪だ……」

 

(オイコラ、テメーもっと強く否認しろやボケ。テメーがそんなんじゃ、アイツに付け込まれるだけだっての!今のお前隙だらけだぞ上杉!しっかりしやがれ!)

 

無茶苦茶だが、総介の言うことも一部は正しい。あんなあからさまに目を逸らして、いいどもってしまえば、相手に隙を与えてしまう。そして二乃のような、自分が有利と見るや一気に叩き込むような奴にとっては、今の風太郎は格好の餌。まな板の上の鯉状態なのだ。

 

「裁判長」

 

「はい、原告の二乃くん」

 

(そらきた)

 

やはりこの女、上杉がしどろもどろと見るや否や、自分も直接参戦してきた。現状はあちら側が一歩リード。あの女は有利な立場をさらに固くするつもりだ。

 

「この男はマンションから出たと見せかけて私のお風呂上がりを待っていました。悪質極まりない犯行に、我々はこいつと、もう1人のメガネ野郎の今後の出入り禁止を要求します」

 

総介の予想していた通り、やはり二乃はたたみかけてきた。彼女は風太郎はもちろんのこと、これをチャンスと見て総介も一緒に追い出す魂胆だ。

 

「お、おい、それはいくらなんでも!浅倉は何もしてねーのに……」

 

(いくらお前が俺を庇ったところで、この女は口八丁で俺ごとお前を追い出すだろうよ)

 

「たいへんけしからんですなぁ」

 

と一花が笑いながら口を挟む。

 

(笑ってんじゃねーよ。てかテメー楽しんでるだろこの状況を)

 

そんな一花に総介はジト目を向けるが、彼女はまるでどこ吹く風。それがさらに彼をイライラさせる。

 

「………スピ〜……クカ〜……」

 

四葉はつまらなさそうなのか、座ったまま鼻ちょうちんをたてて寝てしまった。

 

(お前に関しては真剣さとか緊張感とかゼロだなオイ)

 

青筋を立てて、よだれを垂らしながら寝る四葉に目を向ける総介。しかし、今はバカリボンにイラついている場合ではない。

 

(イカンイカン。冷静にならねーと)

 

「一花、俺は財布を忘れて……」

 

「…………」

 

一花はぷーんと、顔を膨らませて顔を逸らしてしまう。

 

「………さ、裁判長」

 

そう聞いた一花は顔をにっこりとさせた。

 

(……なんか、ぶっ飛ばしてぇんだけど、コイツ……)

 

一花の好き勝手な態度に軽い殺意を覚える総介。ぶっちゃけお前も似たようなもんだぜ?

 

と、ここで、弁護側の三玖から手が挙がる。

 

「異議あり」

 

全員が三玖へと注目する。

 

(三玖!)

 

「フータローは悪人顔してるけどこれは無罪」

 

「………」

 

さりげなく毒を吐く三玖に、風太郎は怪訝な顔をする。

 

「私がインターホンで通した。録音もある。これは不慮の事故」

 

「三玖〜」

 

まるで救世主を見るかのような目で三玖を拝む風太郎。

ちなみに三玖の心の中はこうである。

 

(フータローが負けちゃえば、ソースケに会えなくなっちゃう。……そんなのは嫌)

 

………総介と全く一緒なので、別に言わなくても良かったのであった。

 

(ほんと心から感謝しろよテメー。しなかったらマジブッ殺すぞ)

 

一方、もはや身も蓋もない暴言となりつつある総介。この男はほんとメチャクチャである。と、ここで彼も挙手して口を開く。

 

「俺もいいすか?工場長?」

 

「裁判長ね。私工場持ってないから。どうぞ、証人の浅倉君」

 

「上杉と俺はマンションを出てすぐに、財布を忘れたのに気づきました。それはオートロックのドアが閉まりきった後です。普通最初から盗撮する気なら、オートロックのドアを通る前に忘れ物したと嘘をついて戻ります。しかも上杉はオートロックが苦手なんで開けんのに時間がかかります。これから盗撮する奴が、そんなややこしい真似するわけないでしょーが。」

 

「ふむふむ、なるほど」

 

「あ、浅倉〜」

 

風太郎が総介を三玖と同じく救世主を見つけたような目で見てくる。

 

(別に、アンタのために弁護したんじゃないんだからね!三玖との関係を維持するためにやってるんだから、勘違いしないでよね!(裏声)…………やべ、気持ち悪……)

 

テンプレなツンデレキャラを演じてみたが、どうやらハマらなかったらしい……

 

「……………」

 

と、弁護側が有利となると、面白くないのは二乃の方である。一気に男2人を追い出す算段が整ったというのに、これではすぐに瓦解してしてしまう。何かいい手は無いものか……そうだ!

 

 

「三玖、アンタそいつらの味方する気?」

 

二乃は総介には口喧嘩では勝てないとみて、三玖にターゲットを絞った。

 

「こいつはハッキリ『撮りに来た』って言ったの。盗撮よ!」

 

(ハッキリ言うのは盗撮じゃねーよ)

 

「忘れ物を『取りに来た』でしょ」

 

「……………」

 

二乃は黙ってしまうが、もちろん策がないわけでは無い。

 

「裁判長〜、三玖はそこのメガネと一緒にいたいがために、被告を庇っていま〜す。完全な個人的感情で〜す」

 

そう暴露された三玖の顔が、ゆでダコのように真っ赤になった。

 

(……そう来たかぁ……)

 

いや、バレてるとは思ってたよ。あれだけ贔屓して、あれだけ2人だけの世界に何度も入ってたら、そら周りにもバレるわ。でもそれ今言うかね……

 

「ち、違……」

 

三玖は否定もできずに(したくないけど)顔から煙を出してしまう。こりゃダメだ。見事に一本とられたが、総介はここで負けるわけにはいかん。と大きく手を挙げ反論する。

 

「異議あり!看守長、今の原告側の発言は本件には全く関係ない発言です!」

 

「裁判長ね。ここは刑務所じゃないし、裁判の後の話だからそれ」

 

「何が関係ないよ?アンタだって三玖と離れたくないからコイツを庇ってるだけなんでしょう?」

 

二乃がニヤニヤしながら総介に聞いてくる。正解だ。大正解だ。彼が風太郎を庇う理由は三つ、

①三玖と一緒にいたい

②三玖に勉強を教えたい

③三玖の成績を改善したい

 

である。ワン、ツー、スリーで三玖、三玖、三玖の三連単である!

なお、二乃は今回①を当てたんで単勝なんですけどね……

 

んなことよりだ。二乃は風太郎を責め立てることから、このカップルモドキ弁護団へとベクトルを動かしてきた。無論それに気づかない総介ではない。こんな事など、想定の範囲内である。

 

「これは上杉の行為に対する裁判だ。俺が三玖にどんな感情を持っていようが、今この状況とは全く関係ねぇじゃねーか。そこまで言うなら、俺と三玖の関係と、上杉の今回の件がどう関係してるのか、それを提示していただきたいもんだね俺ぁ?」

 

「………」

 

総介の返しに、二乃は少し考える。すると、何かぴーんと来たのか、一気に顔が嫌な笑い顔になった。

 

「…………三玖、あんたインターホン出た後、お風呂に入ったわよね?」

 

「…………それが何?」

 

「それ、コイツに言った?」

 

二乃は風太郎を指差す。

 

「言ったけど?」

 

「…………決まりね。謎は全て解けたわ!」

 

 

そう言って二乃が何かを結論づける。明らかに勝算があるような顔だ。すると彼女は、某名探偵の如く、豪快に総介を指差して高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタは三玖の裸を見るために、上杉を使ってお風呂場を盗撮させようとした!つまり、この事件は上杉とそこのメガネの共謀。実行犯は上杉、そしてその首謀者は………浅倉総介、アンタよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!もうちょいマシな推理しろやぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

こじつけにもほどがある、二乃のアホアホな推理に思わず立ち上がってシャウトする総介。ガバガバだ。アホアホのガバガバ過ぎる風通しマックスの推理だった。まあ落第寸前の成績なんだから、こんなんになるよね。しょうがないよね。ってなるわけない!

 

「おい係長代理補佐!コイツどんな頭してやがんだ!脳みそババロアでも詰まってんじゃねーのか!?」

 

「何ですって!?キモ陰キャのくせに、うっさい声出してんじゃないわよ!」

 

「裁判長ね。ていうか、どこまで行くのそのボケ?」

 

「ば、ババロア!?ババロアが食べれるんですか!?」

 

ババロアという単語に、食いしん坊の五月が反応してしまう。

 

「テメーは黙ってろや万年食い意地女!今は相手してる場合じゃねーんだよコルァ!」

 

「てか、アンタもその写真消しなさいよ!」

 

総介と二乃、2人が五月に対してとんでもない威圧感で恫喝する。

 

「ヒィ!!」

 

当然、怖がりの五月がそれに耐えれるわけもなく、

 

「裁判長〜」

 

一花に泣きついた。一花はそれを豊満な胸で受け止める。もにゅんって感じで。

 

「よ〜しよし。頑張ったね〜」

 

五月の頭を撫でながら彼女をあやす一花。なんだかんだで彼女も長女である。きっちりと姉属性は持っている。

 

「うーん、でも、三玖や浅倉君の言う通りだとしてもこんな体勢になるかな〜?」

 

「…………」

 

2人は改めて画像を見直す。五月の方は何か腑に落ちない部分があるようだ。

 

「一花、やっぱあんた話がわかるわ!コイツは突然私に覆い被さってきたのよ!」

 

二乃は総介との口喧嘩の勢いのままに風太郎を指差しながら畳み掛ける。

 

「滑って転んだってのもあんだろーが?勝手にコイツが故意に覆い被さってきたって決めつけてんじゃねーよ高坂桐乃」

 

「ツンケンしてるくせに本当は兄貴大好きな妹じゃないわ!アンタは黙ってなさいよ!あとあやせ…….じゃねーや三玖に近づくなバカ兄貴!」

 

「影響丸々受けてんじゃねーか!クリソツじゃねーか!!」

 

総介と二乃の言い争い(?)が続く中、風太郎は己が状況をどうにか打破しようと頭の中で考えていた。

 

(や、やばい。否定しないと……このままじゃ家庭教師ができなくなる。信じてくれるだろうか……)

 

不安になりながらも、彼は二乃を押し倒してしまった時の状況を説明しようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「棚……」

 

「………棚から落ちた本から二乃を守った?」

 

「え?」と風太郎が反応する

 

「は?」続いて二乃。

 

「ら?」と総介。

 

「………マサヒロ?」と三玖。

 

「いや、モノマネ芸人じゃないから。三玖も乗らないで。それで、どう言う事、五月ちゃん?」

 

一花が軽く突っ込むが、あまり気にせずに五月の発言に疑問を投げる、

 

「いえ、2人の周りに、本がいっぱい落ちているんです。それが気になって……」

 

そう言って再度画像を皆に見せる。

 

「………確かに」

 

「散らばってんな」

 

「こ、これは……」

 

三玖、総介、二乃、それぞれが2人が写った周りの本を見て反応を示す。

 

「つまり、何らかの拍子に本棚から落ちてきた本がコイツに直撃しようとしたのを、上杉が身代わりになるために覆い被さったと?」

 

「よく見ればそうとも受け取れますが………違いますか?」

五月が写真から風太郎へと目を移して問いかける。

 

「そ、その通りだ!ありがとな、五月!」

 

風太郎は真実を代わりに明らかにしてくれた五月に礼を言った。その礼を言われた彼女は、ムスッとした表情のままだが……

 

 

 

「………お礼を言われる筋合いはありません。あくまで可能性の一つを提示したまでです」

 

「確かに」

 

「やっぱりフータロー君にそんな度胸はないよねー」

 

「あったらとっくにアンタなんか食われてるかもしんねーな長女さん?」

 

「あはは、それは褒められるてるのかな?」

 

「好きに受け取れ。………うし、真相も判明したことだし、そろそろかえry」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!」

 

事態が解決したかのように振る舞う一同を見て、二乃がたまらず口を挟む。

 

「何解決した感じ出してんの!?適当なこと言わないで!」

 

「俺ごと上杉犯人に仕立て上げる方がテキトーなんじゃねーの?」

 

「二乃、しつこい」

 

「!!……あんたらねぇ……」

 

鋭い目で三玖と総介を睨む二乃。しかし一花が彼女を諌めた。

 

「まあまあ、みんなそうカッカしないで」

 

「いや、コイツだけなんだけど……」

 

総介が軽くツッコむも、一花は無視。

 

「私たち、昔は仲良し五姉妹だったじゃん。浅倉君も言ってたよね。二乃は私たちが大好きだって」

 

「………っ!!」

 

「…………」

 

「……いや、とはいえ、俺の注意不足が招いた事故だ。悪かったな。浅倉も、戻ってきてもらって、本当にすまない」

 

「全くだぜチクショー。ジャンプ買って家でじっくり読もうと思ってたのによ〜」

 

 

 

 

 

「………昔はって……私は……」

 

そう呟いたあと、二乃は走り出して部屋から出て行った。

 

「………あーあ、今度は部屋から出て行きやがった。ま、これで裁判はお開きってことで」

 

「………おかげで助かったが、いいのか?」

 

「………さーな」

 

「………ほっとけばいいよ。いずれ話はするから……」

 

三玖の言葉を最後に、総介と風太郎は再び帰る準備を始めた。

 

 

 

 

こうして『上杉風太郎痴漢裁判』は、原告側である二乃の逃亡により、風太郎の逆転無罪が確定して閉廷となった。

 

 

 

 

 

しかし、2人はまだ、帰宅の途につくには少し早かったことを、この時は知る由もなかった……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁぶっちゃけ、総介は薄々感じていたんですけどね。

 

(あれ、これでこの話終わらなさそうな気がする……)

 

 

 

気がするじゃなくて、終わらないのである。

 

(……………マジかよ………)

 

 

次回へ続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

「四葉、起きて。終わったよ」

 

「……んぁ?……あれ、三玖?……どうしたの?」

 

「裁判、終わったよ。風太郎の無罪で」

 

「ふぁ〜、そうなんだ〜。良かった〜、上杉さんは最低な変態野郎じゃなかったんだね〜」

 

「……何気に四葉も酷いよね……」

 

「ん、何が?」

 

「何でもない。それより、そんなに眠たかったの?」

 

「ん〜、なんだか私は、あの場には居ないような気がした瞬間に、いきなり眠くなったんだよね〜。なんでだろ?」

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また10000字超えちゃいました。……文字数に応じて、書く時間も長くなっちゃいます。


今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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