世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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お待たせしました!最新話です!
長らく更新出来ず、大変申し訳ございませんでした。
7月は大変忙しく、執筆の時間がほとんどありませんでした。
8月は最低でも週1回ペースで更新出来たらなと思います。


20.『リスクマネジメント』って言葉、人生で一度は使ってみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖に電話をして、話をするために『PENTAGON』を訪れた総介。

到着してすぐに、三玖へと『ついたよ』とメッセージを送ると、『私ももうすぐつく』という返信がきたため、少し待つことに。

 

 

数分後、

 

 

「ソースケ!」

 

三玖が一人、小走りでやってきた。

 

「三玖、ごめんね。急に話があるって呼び出す形になっちゃって」

 

そう言って謝る総介。先ほど、海斗に言われたセリフを、今度は自分が言うことになってしまうとは何とも皮肉な話である。

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

「…………そういえば、2人と一緒にいたんじゃなかったの?」

 

総介は、三玖は電話で一花と四葉といると聞いていたのだが、後ろを見た限り2人の姿は遠くにも見当たらなかった。

 

「代金を置いて、私だけ抜けてきた」

 

「そうなんだ……何か言われなかった?」

 

「………別に。『デート楽しんでね』とか、『2人きりで話とか、三玖もやるようになったね!』とか言われてないもん」

 

三玖はほっぺたを膨らませながら、プイと顔をそらす。かわいい。

 

 

てか絶対言われたなコレ。

からかわれたのは明白なので、その原因を作ってしまった総介は、

 

「…………(かわいい)今度抹茶ソーダおごります」

 

モノで解決を図った。

 

「………なら許す」

 

そう言って三玖は顔を元に戻した。チョロい。

 

「よかった………」

 

「それで、話って何なの、ソースケ?」

 

「それなんだけど、ここじゃ他の連中が来たときに聞かれちゃうから、この前の公園まで行かない?そこで話すよ」

 

「うん、いいよ」

 

花火大会の日に、皆で集まって手持ち花火をした場所。マンションから近く通学路とは逆の場所のため、そこで話をすることにした。万が一にも、姉妹の誰かに聞かれてはならない。特に二乃にはバレたらお終いのレベルだ。

 

そのことを先ほどの電話でのやりとりで理解している三玖も、特に反対はしなかったし、何より総介と公園デートのような気がしたので、即了承することにした。

 

 

というわけで、二人は公園へと移動することに……

 

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

 

目的地の公園に到着した総介と三玖は、以前風太郎が妹を膝枕をして寝させていたベンチへと腰掛けた。

 

 

「ソースケ、話って……」

 

三玖は先ほどからずっと気になっていたようで、着席して直ぐに話しかけてきた。

 

「……じゃあ早速話すね。実は………」

 

本音を言えば、総介はあまり三玖に話をしたくなかった。風太郎には何とかするとは言ったが、彼が言ったように、三玖にはもしかしたら相当なプレッシャーとなるかもしれない。彼女は五人の中で一番二人から、特に総介に勉強を教わっている。このまま教わり続ければ、赤点回避は大した問題ではないだろう。しかし、この話をして彼女がもしも動揺で勉強に手が回らなくなってしまえば、赤点も出してしまう可能性もある。そうなれば、三玖自身の自信の喪失のきっかけともなってしまう。リスクも非常に高い。

 

しかし、今この場で話をしなければ、後に事実を知った時の動揺も大きい。全く何も言わずに赤点回避が出来なければ、三玖に相談すればよかったかもしれないという後悔も後で襲ってくる。 終わってからいくら嘆いても所詮は後の祭りだ。ならば、『やらない後悔』より『やる後悔』………いや、後悔は絶対しない。少なくとも三玖の赤点回避は絶対不可避だ。それは必ず成し遂げてみせる。

言ってしまえばリスクも高くなるが、五人の赤点回避の確率も僅かだが減る。ここは個人的な感情を優先している場合ではない。少々動揺もしてしまうだろうが、そこは総介が上手くフォローを入れればいい。むしろ、今回の彼の最大の役目はそこにある。いかに三玖に平静を保たせるか、それによって今後の対応も大きく変わってくる。 事態をこれ以上ややこしくするわけには行かない。そのために、三玖へと協力を仰ぐのだ。言うしかない。ここまで来たならば………

 

 

 

 

 

 

「………さっき、上杉から電話があってね」

 

「フータローから?」

 

「うん。それで、あいつはその前に、上杉の雇い主、つまりは君達の父親から電話があったんだ」

 

「お父さん、から………」

 

三玖は父と言う言葉を聞いて、顔を少し強張らせた。

 

「そのお父さんから、上杉はこう言われたんだ

 

 

 

 

 

 

『次の中間試験で五人の内の一人でも赤点をとれば、家庭教師を辞めてもらう』ってね」

 

 

 

「や、辞める?」

 

総介の話を聞いて、三玖は驚きを隠せなかった。と同時に、彼女の中で一つの疑問も湧いた。それは三玖の中で、一番重要で、聞きたいことで、同時に聞きたくないことでもあった、何故なら三玖は、その答えが何なのか、なんとなく察していたから。

 

 

しかし、口が勝手に動いてしまった

 

 

「………じゃあ、ソースケは……どうなっちゃうの?」

 

 

 

 

 

 

「………俺は上杉に依頼で助っ人として家庭教師をやっているからね………上杉がクビになれば俺も一連托生、つまり辞めることになる……」

 

 

 

「そんな………」

 

それを聞いた三玖は、薄々分かってはいたが、やはり驚き、そして悲しみが彼女の中で大きくなってしまう。今、総介と三玖を繋いでいるものは、表面上は家庭教師と生徒という関係のみだ。いくら恋人同士に近い仲とはいえ、日本という国は、口約束で互いに確認し合って交際する文化が強いので、二人からその関係をとってしまえば、ただの知り合いとなってしまう。

総介の場合、それほど気にするようなことでは無いのだが、問題は三玖の方だ。今まで、彼女が真剣に勉強が出来たのは、浅倉総介という男子への恋慕の感情があってこそなのだ。彼から勉強を教わり、彼が作った宿題をこなし、彼と一緒に机に向かって、勉強してきた。

 

 

それがもう、出来なくなってしまう………

 

 

 

 

 

「…………」

 

「……三玖、もう一つ、言わなきゃいけないことがあるんだ」

 

「………何?」

 

段々と、目から光を無くしてゆく三玖にとっては、追い討ちとなるのかもしれないが、それでも言わなければ話が進まない。

 

「………上杉が電話の後、肉まん娘……五月と喧嘩したらしい」

 

「……え?」

 

「どうやら、互いに感情的になって、『勉強を教えない』『教わらない』って仲違いしたそうなんだ」

 

その言葉を聞いて、三玖の瞳から完全に光が消えてしまった。彼女も理解したのだろう。全員の赤点回避が、この時点で絶望的になったということに。

 

「うそ………そんな………」

 

もうそんな言葉しか、三玖は出てこなかった。もう総介から、勉強を教わることが出来ない。あんなに楽しく、かけがえのない時間を過ごしていたのに、もう後一週間で終わってしまう。彼女の中には真っ黒な絶望が、全てを覆い尽くしそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな三玖の心情を、察せない総介ではない。

 

「三玖、そこで、君に協力して欲しいんだ」

 

 

 

いちかバチか、最後の希望を掴み取るためには、総介と風太郎だけではない。三玖の力も必要なのだ。

 

 

 

 

 

「…………協力?」

 

光を失くした目で、総介を見る。

 

 

「うん。君の協力があれば、みんな赤点回避出来るかもしれない」

 

総介の言葉に、希望を見出したのか、三玖はバッと総介を見て、慌てて彼の両肩を掴み、迫ってきた。

 

「な、何、ソースケ!?何でもするから、教えて!」

 

「お、落ち着いて三玖!今から言うから!」

 

三玖の手首を掴んで、自信の肩から離し、説明を始める。

 

「ふぅ……三玖、協力といっても、君は今まで通り、俺や上杉から勉強を教わっていればいいんだ」

 

「え?でも……」

 

それがどう協力することになるのか……そう言いたげな三玖だったが、総介は説明を続ける。

 

「でも一つだけ、一人で勉強するときは、出来るだけ『みんながいる場所』で勉強して欲しい」

 

「みんなが、いる場所?」

 

「そう。三玖が勉強しているところを、リビングとか、なるべく姉妹の目につく場所で見せてやればいい。それだけだよ。一人が勉強をしていれば、自然と周りもそれにつられていく。試験も来週に迫っている分、より勉強を意識しやすい環境が出来ているから、効果は大きいんだ。四葉と長女さんなら、それに上手く乗ってくれるし、そうなれば、あの二人も必然的に勉強を意識する筈だよ」

 

日本という国は、多数派を正義とする傾向にある。極端な話、例えそれが犯罪でも、大多数の人間が、『仕方ないことだった』と言ってしまえば、自ずと『仕方ないこと』となり、時には大きな力をも味方につける事態を起こしてしまう。そういった『多数派こそ正義』という空気を作り出すことが、圧倒的に日本は多い。それは、小さな家族間の出来事でも通ずる。

 

今は三玖一人でも、それに風太郎と総介に協力的な四葉、一花が共感すれば、残った二乃と五月も、意識せざるを得ない状況が出来てしまう。五月の場合は、成績はともかく自分で勉強しているみたいなので、効果は薄いかもしれないが、総介と風太郎に反抗して全く手付かずの二乃には、効果は絶大だ。何より、一人だけはぶられてしまっている状況をあの実は繊細な女が気にしない筈がない。総介は、二乃の弱点を完全に見抜いていた。

 

「空気を作ってしまえば、あとは乗らざるを得ない。特にアイツは、流行モノみたいな周りの空気に敏感な女だ。必ず最後は折れる」

 

もっとも、それは二乃に事情がバレなければの話だ。勉強する理由がなくなった途端、いくら周りの空気に敏感な二乃でも、絶対に勉強はしないだろう。

 

一通り説明を終えた総介は、三玖を見る。彼女は未だに不安な表情のままだ。そんな彼女が、口を開く。

 

「………うまく、いくかな……」

 

「………」

 

それを聞いた総介は、自然と右手を三玖の頭へと持っていき、撫でる。

 

以前、二人きりで話をした状況と、全く同じだ。

 

「信じて欲しい。俺を。三玖自身を………前と同じだね」

 

「………ソースケ……」

 

「あの言葉は、あの時から何一つ変わらないよ。三玖はこれまで、ちゃんと勉強してきたし、それに応じて知識もつけてきた。正直、君は今回の試験で赤点を回避できる。俺が保証する」

 

「………そ、そんなこと……」

 

「出来る。君なら」

 

そう断言して総介は頭を撫でていた手を離した。

彼にとっての嬉しい誤算は、三玖が思っていた以上のペースで知識を身につけていってることだった。これまで、何人かの人間に勉強を軽く教えてきた総介だったが、本格的に面倒を見るのは、三玖、ひいては五つ子が初めてだった。その中でも三玖は、総介が、想定していたより早いスピードで、勉強を進めていった。今となっては、もうすぐで普段の授業に追いつくレベルだ。

総介は人に勉強を教えるのが上手い。しかしそんな彼にも、大きな弱点がある。

 

 

 

それは、教わる側に全くやる気がない場合、効果は半減どころか、ゼロになってしまうのだ。覚える意欲が無い人間に教えても、全く効果を発揮しない。それは普通の家庭教師でもそうなのだが、総介の場合は彼の人間性含め、余計に効果大となってしまう。顕著な例で言えば、二乃がそうだ。彼自身がマイナス印象となってしまい、勉強を教わりたいという意欲すら無ければ、それは全く意味を成さないのである。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、逆に、教わる対象がやる気に満ちていれば、効果は絶大なものとなる。三玖の場合、信頼を超えて総介に恋愛感情を持っているので、それが普段の倍に近い効果が出ているのだ。彼の言うことを忠実に守り、宿題をこなし、分からない箇所があれば聞く。ひと月程の間でそれらを繰り返していき、試験一週間前で赤点回避はよっぽどのことが無い限り大丈夫だろうと総介に言わしめたのである。そして……

 

 

 

「三玖はこのまま勉強し続ければ、間違いなく赤点はとらない。もう少し進めば、君が他の姉妹に勉強を教えることも出来るようになるんだ」

 

「わ、私が、勉強を?」

 

三玖は自分が教える立場になると聞き、少し驚いてしまう。

 

「まぁそれにはもう少し時間がかかるけどね。もしそうなれば、俺と上杉の負担も減るし、その方が効率も良くなる。それに三玖のいうことなら、アイツや五月も俺たちなんかよりずっと素直に言うことは聞けるかもしれない」

 

花火大会の日、三玖は一瞬二乃に本気で怒ったときがあった。その時の会話からして、二乃はすぐに言うことを聞いた。つまり、姉妹から勉強を教わる分には、アイツも動くことがあるということだ。そこから光明が見えてくる。しかし、全てを彼女に期待しすぎてもいけない。

 

「………三玖、ごめん。色々と押し付けてしまうようになってしまって………いっぱい頼んだけど、それでもまずは、君自身のテストに集中して欲しい。君が勉強している姿勢を見せれば、自ずと他の4人も動くはずだから」

 

「………わかった」

 

三玖は目に光を戻し、何かを覚悟したような表情で、総介の提案を受け入れた。初めて好きになった人が、自分を頼ってくれている。自分わ信じてくれている。それだけで、すごく嬉しい。それに応えたい。彼女は自分のため、姉妹のため、そして何より、総介のために頑張ることを決意した。

 

 

「………ありがとう」

 

そんな彼女を見て、総介は素直に礼を言った。もしかしたら、動揺して勉強どころじゃなくなってしまう可能性も懸念していたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 

「………がんばる」

 

 

「……無理しないでね。何かあったら、相談にのるから」

 

「うん………」

 

三玖の返事に少し安心した総介。しかし彼はこの時気付かなかった。三玖がほんの少しの不安を抱えていたことに……そしてその小さな不安は、今は三玖すらも知らない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが後に、ある出来事の種となることを、2人はこの時は全く思いつきもしなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、話を終えて、三玖をマンションまで送った総介は、特に何も話すことは無かったので、エントランスの前で別れることになった。

 

「またね、ソースケ」

 

「またね、三玖」

 

いつもする別れの挨拶。そして、また会おうという約束をして二人は背を向け合い、帰路についた。

 

(…………三玖………すまない……)

 

総介は別れる際、三玖に心の中で先ほどの会話について謝罪した。

 

 

 

 

期待はしているし、彼女にはそうするほどの力もある。しかし、念には念を入れておいて損はない。最悪の事態に陥ったとき、初動が遅れてしまうと対処のしようも無くなってしまう。だからこそ、結果が出る前から動いておかなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノルマが達成出来なかった際の最後の一歩前の手段として。

 

 

 

 

(………明日にでもあたってみるか)

 

総介は早速、行動に移すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日昼休み、食堂にて

 

 

 

 

 

 

 

「おっす、邪魔するぞ」

 

「…………珍しいですね、浅倉君。何故あなたがいるのですか?」

 

総介は、五月が1人で食事をしている場所に現れた。対面の空いている椅子に座り、まず彼女の本日の昼食の献立を見て苦笑いする。

 

『トンカツ定食大盛り』

『味噌ラーメン』

『さばの塩焼き』

『サラダの盛り合わせ』

『プリンアラモード』

 

………大の大人でも食べるのに苦労するような量を、五月は普通に口へと運び、咀嚼して飲み込んでいく。ペースは全く落ちない。

 

 

「よく食べるなお前。朝、何も食べなかったのか?」

 

「食べましたよ。ちゃんとハムエッグと、味噌汁二杯とご飯三杯、いつも通りですね」

 

「………どんな内臓してんだ一体?」

 

モキュモキュと、リスのように頬を膨らませて食べる五月。それを見て、四葉よりコイツの方が神楽に近いのでは?と考えを改めかける総介だった。

 

「それで、どういった御用ですか?」

 

五月は総介がここに来た理由を再度尋ねた。思えば、総介がこうして五月と二人で話をするのは、初めてのことだった。三玖は無しにしても、二乃は電話、一花、四葉とはちょくちょく話をするのだが、五月とはあまり接点が無かった。

 

 

まあ今そんなことは総介にとってはどうでもいい事なので、早速本題へと入る事にした。

 

「上杉と喧嘩したんだって?」

 

「!?………」

 

風太郎の名前を出した途端、五月はそれまで動かしていた箸を止めて、総介を睨む。

 

「………上杉君に聞いたんですか?」

 

「他に誰がいる?」

 

「………あなたも、私に一緒に勉強させようとするのですか?そう上杉君に頼まれたんですか?」

 

どうやら五月は、総介が風太郎に頼まれたからここに来たと考えているようだ。しかし、それは不正解である。

 

「違えな。俺は上杉から相談を受けただけ。俺がここに来たのは俺自身の考えのためだ」

 

「考え……とは?」

 

総介の言い方に疑問を持つ五月。それに答えるかのように総介が話を続ける。

 

「上杉から絶対教わらないっつったんだ。じゃあ俺から教わるのはどうなんだ?」

 

「…………はぁ、何を言うかと思えば、そういうことですか……」

 

五月はない肩を落として、呆れたようにため息をつく。総介はそれで何か感じ取ったのか、ポケットからある物を取り出す。

 

「もちろんタダでとは言わねーよ。この前の558の肉まん無料券と、41アイスの無料券もつける。それでどうだ?」

 

その言葉に、五月の頭頂部そびえ立つアホ毛がピーンと反応し、続けて表情も変わって行き、総介がヒラヒラと見せびらかす半券へと目が泳いで行く。しばらくは目がそればかりに向いていたが、慌てて首をブンブンと大きく振って邪念を払う。そうした後、五月は総介へと目を向けて、口を開いた。

 

「………あいにくですが、私はあなたからも教わりません。私一人でも、勉強はできます」

 

「…………」

 

五月が食べ物に食いつかなかったのは予想外だったが、総介は動揺せずに彼女の話を聞く。

 

「上杉君にも言いましたが、私たちはあなた達の金儲けの道具ではありません。浅倉君のことは彼ほど嫌いではありませんが、私は私で勉強しますので、どうかお引き取りください」

 

丁寧な言い回しだが、つまりは「話を聞くつもりは無いからさっさと帰れ」ということだ。どうやら今回ばかりは、五月も譲るつもりは無いらしい。これ以上は時間の無駄のようだ。

 

「そうか、わかった。そこまで言うなら、もう何も言わねーよ」

 

「え?」

 

驚いたのは、五月の方だった。彼女は呆気に取られた表情で総介を見つめる。

 

「………んだよ?」

 

「い、いえ……もう少し食い下がってくるのかと思ったのですが……」

 

「食いもんで釣れねー時点で、いくら話しても時間の無駄だからな。お前は頑固そうだから、これで無理だったら他のもんで釣っても無理だろーよ」

 

総介は何が何でも五月に一緒に勉強させるために話をしに来たわけでは無い。物で釣ろうとしても、頑なに断れば、最初から彼女の意思を尊重するつもりでいた。それがそのまま事が運んだだけである。何より、無理矢理勉強させても、成績はそう簡単に上がるものでは無い。

 

「じゃあ、お前は1人で勉強するって事でいいんだな?」

 

「………はい。足手まといにはなりたくないので」

 

「………分かった。悪かったな、食事中に。詫びと言っちゃなんだが、これやるよ」

 

そう謝って、総介は立ち上がり、手に持っていた無料券の束を五月の前の机に置いた。

 

「い、いいんですか?」

 

「別に俺はいらねーし、期限は今月末までだから、好きに使ってくれ。礼は次のテストの赤点回避で返してくれりゃいいさ」

 

「………分かりました。ありがとうございます」

 

五月から礼を言われたタイミングで、総介はその場から離れようとするが、五月は彼に声をかける。

 

 

 

 

 

 

「………浅倉君は、優しいんですね。上杉君とは大違いです………」

 

 

「……………」

 

 

 

「私の思いをちゃんと尊重してくれて、きちんと意見を聞いてくれて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたが、

 

 

 

 

 

浅倉君が、

 

 

 

 

 

 

私たちの家庭教師だったら良かったのに」

 

 

 

 

 

五月の話をそこまで聞いた総介は、一言だけ言ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃあな」

 

 

 

 

そこから、総介は五月に振り向く事なく食堂をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………めでてー女だな」

 

 

 

 

 

教室に帰るまでの廊下で、歩きながらそう呟く総介。その言葉は、とてつもない冷気を帯びて、人通りの少ない廊下へと響く。彼は五月に呆れていた。ポジティブというか、都合が良いというか、とにかく呆れ果てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい?

 

 

 

 

 

 

意見を聞いてくれる?

 

 

 

 

 

 

 

総介が家庭教師だったら?

 

 

 

 

 

 

 

 

勘違いも甚だしい。上杉の方がよっぽど優しいし、五月のことを考えてくれている。

 

 

 

 

 

五月は、総介の真意に全く気付いてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼女は思いもしなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ありゃもうダメだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人の姉妹の中で、一番最初に総介に見限られてしまったことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総介」

 

 

後ろから声がして、振り向くとそこに海斗がいた。

 

「海斗、どうだった?」

 

彼がこのタイミングで総介に声を掛けてきたということは、『調べさせていた事』が解ったという事だろう。

 

「ああ。その件だが、放課後に話をしよう。昼休みも直に終わってしまうからね」

 

「わかった。屋上でいいか?」

 

「うん。なるべく人のつかない場所に」

 

「りょーかい」

 

 

 

この放課後、総介は姉妹の父親について知ることとなった。

テストまであと少し。彼は何を思い、どの道を進んで行くのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして週末、事態は急展開を迎えることとなる。

 

 




この次の話で、ついに2人は………!?


今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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