エンディングのアニメーションで、雨の中対峙する銀時と次郎長が、この作品での総介と『マルオ』に見えた故に、数ヶ月前にこの話を構想している段階から、いつもこの曲を聴いていました。
それでは、総介の正体を刮目してくださいませ。
少し前、総介が『マルオ』の経営する病院に到着した時の話。彼は受付にて、医院長室の場所を聞いただけなのに、何故か怪しまれて、オマケに警備員が2人やって来て、挙げ句の果てに警棒を出されてしまうものだから、危ないから叩かれてしまう前に、見えない速さで刀を抜いて警棒を輪切りにした。その後に改めて医院長室の場所を聞くと、何かに怯えながら教えてくれたので、そこまで向かうことにした。受付の人は総介が医院長室へ向かったのを見ると、「誰か、誰か〜!!」と悲鳴をあげながら、何処かへ走っていった。警備員達も、腰を抜かして立てないようだ。一体何なのだろうか?……………
………って、そりゃまあ病院にいきなり日本刀持った黒パーカーの陰キャ風の男が、「すんません。医院長先生に会いたいんスけど、医院長室の場所ってどこスか?」って聞いてきたら、怪しまれるのも当然ですわな………
てな訳で、回想は終えて、話は前回の直後へと進み、この病院の医院長であり、五つ子の義父『マルオ』と対面した総介。
………どっかの調査兵団の兵長に似てるな
彼が『マルオ』の容姿を見て抱いた第一印象は、これだった。椅子に座っているので、身長は確認できないが、少なくとも兵長よりは遥かに高いだろう。髪型は真ん中でキッチリとセンター分けされており、表情は絵に描いたような無表情だったが、苛立ちが募っているのか、眉間に皺が寄っている。まあその原因は総介なのだろうが。
「………俺の声に聞き覚え、あるかねぇかで答えてください、旦那?」
「………浅倉……総介」
忌々しさを込めた視線を、『マルオ』は目の前の少年へと向けた。本来ならば、彼には即お帰り願う筈だった。それをこの男は、まるで知った事かと言うように、目の前に現れた。
無造作な黒髪に、長く目元まで伸びた前髪。黒縁眼鏡の奥には、まるでこちらの全てを見透かしているかのような、死んでるかのような重たい目。嘲笑を含んだやる気のない気だるげな雰囲気。それに準じて、口元も不気味な笑みを浮かべている。
体格の方は、若干細身で、180cm程の高身長。黒いファスナー付きのパーカーに学生ズボン。デザインを見る限り、娘と同じ高校の生徒であるに間違いは無い。
そして一際目立つのは、彼の左腰に差された、黒の鞘に、赤い柄の日本刀。
駆けつけた医師によれば、警備員の警棒を飴細工の棒を切るが如くバラバラに切り刻んだと聞く。おそらく、いや、確実に本物だろう。更に、そのような繊細な剣戟を行えるということは、真剣の扱いが達人の域に達していることを表している。
(……何者なんだ)
『マルオ』は更に苛立ちを募らせた。側近であり秘書の江端や、部下の者達を使って調べさせても、『浅倉総介』という男の情報は一切出てこなかった。偽名かと疑い、その線も調べたが、国籍や本籍地、在学校はいとも簡単に見つかったため、本人は実在することは証明されている。しかし、それ以外の情報が、一切合切無くなっているのだ。こんな事があるのだろうか……
マルオが頭で考えを巡らせていると、総介がゆっくりと話し出した。
「名前を言ってくるってこたぁ、話が早えようだな。
正解だ。俺が3日前に、電話越しで話をした、上杉風太郎の家庭教師の助っ人の『浅倉総介』だよ、中野センセー」
「………その喋り方、どうやら年上に対して敬意を払うことを知らない様だな、貴様は」
「アンタに敬意を払えってか?悪いが、それは俺が決めさせてもらうことだ。対応によっちゃ、敬語に戻してやらなくもねぇぜ?」
どこまでも食えない男。そう思った。考えが読めない。まるで『あの男』、上杉風太郎の父、勇也を見ているようだと『マルオ』は思い出す。ただ、あの男と違うのは、目の前の少年の方が、遥かに底が知れないということだ。実際に目の前の総介を見ても、全く見透かせない。こんな男に、『マルオ』は出会ったことなど一度も無い。
「………好きにしろ」
「そうさせてもらわぁ。じゃあ中野センセー。早速本題にいきましょか。アンタは俺に『覚悟を示せ』っつった。違うか?」
それは3日前、電話越しに会話をした時の事。総介と娘の1人『三玖』が男女交際をしていると知った『マルオ』は、怒りを抑えきれずに、『風太郎を家庭教師として継続させたければ三玖と別れ、今後一切近づかない』か、『三玖と付き合うなら風太郎は家庭教師をクビ』といういかにも悪役の男が提示しそうな二択を、総介に突きつけた。これに対して総介が『3日で決める』と言ったため、『マルオ』は今日まで待った次第だ。
もっとも、『マルオ』は決めようが決めまいが、どの道総介と風太郎は淘汰する予定だったのだが……
「………そうだ。その話に持ち込むということは、覚悟を決めてきた、と?」
「ああ」
総介はどうやら、どちらかを決めてここに来たと、『マルオ』は思い込んだ。それを今すぐ聞こうとしたが、邪魔者がいることを思い出した。
「………君は下がってくれないか?」
『マルオ』は呆然と立ち尽くしていた中年医師に医院長室から出ていくよう指示する。
「し、しかし先生……」
「大丈夫だ。もしもの時は江端がいる」
「………はい、わかりました」
中年医師は頷くと、そのまま部屋を後にした。これでこの医院長室には、総介、『マルオ』、江端の3人だけが残った。
「待たせてすまない。では聞こうか
君の答えを」
相変わらず無表情の『マルオ』だが、その話し方はまるで『勝者』のような振る舞いだ。例え総介がどちらかの選択をしようとも、総介も風太郎も、潰す算段は整っているのだ。風太郎は独断で助っ人を連れて来たことに、総介は勝手に娘達の住む家に上がり込み、そのうちの1人を落として恋人にした事に、いい加減『マルオ』も限界だった。それも今日、終わる。この得体の知れない少年とも、二度と顔を合わせないで済む。そう思った。しかし……
「じゃあ、俺の覚悟を、示そうか」
そう言って、総介は、パーカーのファスナーを半分開けて、右手を胸元に突っ込んだ。何かを取り出すつもりだ。
……まさか、拳銃!?
江端が身を構えるが、総介は冷静だった。
「安心しなジイさん、危ねーモンじゃねーよ。ほらな」
そう言って総介が取り出した物は、一つの薄茶色い書類封筒だった。どうやらパーカーの内側にしまっていたものは、これのようである。
「アンタへの土産だ。自分で確認してくれや」
そう言うと、総介は封筒を『マルオ』の前にある机へと投げ捨てた。バサ、と、紙の束が落ちる音が部屋に響く。
「………江端、確認を」
「かしこまりました」
『マルオ』に指示された江端が、封筒を拾い上げ、中の書類を取り出し、確認作業を行う。
その途中から、江端の顔色が徐々に変わっていった。年期の入った壮年の男性の顔は、みるみるうちに青白くなっていき、額からは汗が流れ落ち始める。。
「………こ、これは……」
「………どうした?」
明らかに様子が変わった秘書に声をかけるが、手を震わせる江端には、聞こえなかったようだ。彼は『マルオ』の側まで近づいていき、書類を差し出す。
「………だ、旦那様、これを……」
江端はそのまま、書類を『マルオ』に渡そうとする。『マルオ』は、一瞬総介に目を向けるが、彼はプイっとわざとらしく目線を逸らす。
『自分で確かめてみたらどうだ?』
そう言っているように見えた。堪らず、彼は江端から書類を受け取り、内容を確認していく。
そこに記されている内容に、言葉を失ってしまった。
「ったく、3日徹夜して、ようやく全部潰したんだぜ、おい。アンタどんだけ敵作ったんだよコノヤロー」
その書類の内容は、報告書だった。その内容を簡単に説明するとこうだ。
[『マルオ』にちょっかいかけようとしていた5つの悪〜い組織を、総介が単独で全部潰しちゃいました]
え?簡単過ぎる?詳しく説明?わかりましたよ、もう………
『マルオ』もそれなりの資産家であり、金持ちだ。そしてそう言った人間には、必ずと言っていいほど商売敵や、敵が存在する。その中でも、海外の違法な薬品や、ドラッグ、医療機器等、日本では使用を認められていないものばかりを医者達に斡旋して、売りつけてくるような連中もいた。『マルオ』は医者としての誇り故に、そのようなモノには一切手をつける事は無く、そう言った勧誘を軽く流して来ていた。しかし、最近では、脅迫に近い形で交渉を迫って来ていたため、彼も焦りつつあったのだ。
総介が海斗に調べさせていた、『最も重要な情報』はまさにこれだったのである……
「中にはアンタの娘達誘拐して、人質として交渉に持ち込もうとするアホまでいやがった。奴ら、たとえアンタが条件を飲んだとしても、娘は何人か裏で人身売買で売りつけようとまでしやがったんだからな。その大元まで全部ぶっ潰すのに、どんだけ時間のかかったことやら……」
「………」
信じられない、いや、信じたくなかった。この連中の中には、少ないが銃などの武器を海外から国内に密輸している組織もいることを、『マルオ』は知っていた。それも、規模は決して小さくない。暴力団のように、それを専門とする輩もいるはずだ。それを彼は、たった1人で、それも見た様子では、"無傷"で潰したのか……
「………しかし、これほどまでの組織が一度に崩壊したら、新聞やニュースになる筈なのだが……」
『マルオ』は冷静さを保ちながら、疑問を投げかけた。彼は新聞を欠かさず読む。その中でも、これらの組織のニュースが上がる事は、一度たりとも無かった。それは何故か……
その答えも、総介が持っていた。
「ああ、そりゃ、新聞社やテレビ局に、今日の夜まで報道しないように指示したからな……」
「………何だと……」
メディア媒体に指示して、報道規制をする……このような事が出来るほど、目の前の男は、権力を有しているとでも言うのか……
『マルオ』は、いつぶりだろうか、全身をあるものが包み込み始めた。それは、得体の知れない目の前の少年に対する、『恐怖』に他ならなかった。それを知りたく、自然と口が動いていた。
「貴様は………君は………
一体何者なんだ………」
その問いに総介は、しばらく黙り込み、大きく息を吐いて、腰に差していた日本刀をゆっくりと抜いた。出てきたものは、白く輝く銀色の刃。
その抜いた日本刀の切っ先を、『マルオ』に向けて、彼は自らの正体を明かした。
「大門寺家対外特別防衛局『
以後、お見知り置きを」
…………………………
「………ソースケ……」
三玖は、自宅のリビングから、激しく雨の降りしきる降りしきる外を見ていた。
もう3日も、彼と連絡をしていない。父に直談判に行くと言ったきり、彼は一切連絡を絶っており、学校にも姿を現さなかった。
「三玖」
そんな様子を心配しているのは、姉妹皆そうなのだが、長女である一花は、誰よりも彼女を気にかけてていた。三玖の肩に手を置いて、優しく励ます。
「大丈夫。浅倉君は帰ってくるよ」
「一花………」
「言ってたでしょ。必ず帰ってくるって。彼、三玖との約束は絶対に守る人だと思うよ?」
「………でも……」
そう言われても、やっぱり心配だ。あの父の怒り様は、今まで聞いた事が無かっただけに、不安は拭いきれない。
どうか、無事であってほしい。
どうか、自分の元へ帰ってきてほしい……
「………今は信じよう、浅倉君を。三玖の大好きな人を、信じないと」
「………一花……ありがとう」
一花に励まされて、少し不安が解けた三玖。こういう時に、長女の力は発揮されるものなんだなぁと、妹は改めて一花に心の中で礼を言った。
そうして2人は、共に窓の外にある灰色の雨雲を見ながら、遠くにいる男の無事を願うのだった。
…………………………
こちらも、外が激しい雨が降る中、2人の対決が佳境を迎えていた。
「………『大門寺』………『刀』……」
その言葉を聞いた瞬間、『マルオ』は今日初めて、いや、何年かぶりに驚愕の表情を浮かべて、目の前の少年に目を見開いた。
「アンタぐれーの階級の人間なら分かるだろ?『刀』の存在を……ジイさん、アンタも分かるよな?」
総介は日本刀を『マルオ』へ向けたまま、横に控える江端へと質問をする。勿論、江端も信じられないと言わんばかりの様子で、総介に目を向けていた。
「………大門寺家専属の、特殊防衛部隊……」
「そうだ。俺は一年半ほど前から、そこに所属して世話になってる」
「………馬鹿な……そんな……」
2人は、どうやら完全に頭が真っ白になってしまっているようだ。
そこまでして2人が驚く『刀』とは、一体何なのか………
…………………………
〜大門寺家対外特別防衛局『刀』とは〜
日本、ひいては世界屈指の財閥グループである『大門寺』。その経済力は、都市伝説で語られる『ロックフェラー財団』や、『ロスチャイルド一族』にも匹敵する、超巨大勢力である。勿論、傘下の企業も多ければ、敵対する企業や組織も多い。中には暴力、武力などの強硬手段に出るものも少なくなく、幹部や役員はもちろん、現総帥である『
そこでそういった要人、総帥家族の護衛、敵対勢力からの防衛又は排除、そのための情報の収集、作戦の立案及び実行を任されている実働部隊が『刀』である。
メンバーは100名程と少数だが、大門寺に忠誠を誓った各分野のスペシャリストが配属されるエリート中のエリート部隊。
総介は昔、剣術を主流とした護身術道場に通っていたのだが、実はそこは、将来の『刀』の局員の育成も兼ねていた道場だった。そこで、親友となった海斗と切磋琢磨し合い、道場を卒業する頃には『神童』と呼ばれる海斗を倒せる程腕が上がっていたので、そこに来ていた局長である『
ちなみに息子である海斗も「武を鍛えぬものに譲る座など無し」という父の言葉を受けて、総介と同じタイミングで入局。メンバーで局長の娘であり、2丁拳銃と格闘術を自在に操る『"
そして『刀』の中でも、特に戦闘能力が高い者は、『異名』を与えられ、それは部隊の中でも、10人にも満たないほどに特別な存在となる。この異名を僅か十代にして与えられた『鬼童』の総介、『神童』の海斗、『戦姫』のアイナ、『夜叉』の明人、この4人は『新世代の刃』と呼ばれ、剛蔵から将来を期待されている。
メンバーの個人情報は大門寺の最高レベルのセキュリティよって保護されており、世界でも総帥や一部の幹部クラスでしか閲覧することが出来ない。
組織の情報力は世界でも指折りであり、『switchの俺たちと比べりゃCIAなんざゲームキューブ並みのスペックよ』と剛蔵は豪語しているほど。
実績も多く、その名声は裏の世界で知らない者はおらず、局員の殆どが日本刀を武器に扱うことから、それなりの富豪たちや裏の世界の住人からは畏敬の念を込めて『現代に生きる侍たち』、『大門寺の懐に刀あり』と呼ばれている。
隊服は銀魂の銀ノ魂篇での真選組の隊服で、上は黒のロングコートで、下は黒のズボンを着用している(発案者は総介)。改造も可能で、総介はロングコートの中に黒パーカーを着ており、海斗はロングコートの代わりに、上に大門寺の家紋を背中にあしらった白い羽織を羽織っている(銀時の白夜叉の様な感じ)。アイナはジャケット風の上着にベストとカッターシャツにネクタイ、下はホットパンツとロングブーツを着用して、両腰に銃を収納するホルダーが付いている。
そして半年前に、とある巨大組織との抗争の末に、『大門寺』は勝利して世界で最高峰の財閥グループへとのし上がり、『刀』も非公式ながら、『世界最強の特殊部隊』という称号を手にしたのだ。その抗争の末に、総介と海斗は、最低一年間の休養をとることになるのだが、それは別の話としよう。
つまり何が言いたいかというと、
総介は『世界最強の特殊部隊の中でも、10本の指に入るほどの強い侍』ということである。
わーい、『ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこう』の完成だぜキャッホォォォオオオオ!!!!
じゃなくて!色々あったの!総介も苦労したの!はい、説明終わり!
戻るよ!
………………………
「………君が、その『刀』の一員、だと?」
「だからさっきからそう言ってるじゃねーか。あれか、アンタの耳には毛がボーボー生えてんのか?耳毛の森ですかコノヤロー?」
総介はようやく日本刀を下げて、頭をかきながら喋り出す。
質問をした『マルオ』の声が、明らかに震えだした。
「………どうして、君は『刀』に……」
「総帥の息子の大門寺海斗は、俺の幼馴染で、ずっと剣の腕を磨き合ってきた。そんな時にスカウトされて入ったのさ。一応俺は、海斗の護衛役も兼ねている。奴も今、俺やアンタの娘と同じ学校に通っているぜ」
「!!」
『マルオ』は総介から出てくる言葉に、もはや思考が追いつかなくなっていた。
海斗には先日、パーティで会ったことがある。彼と少し話をしたが、とても17歳とは思えないほどに、余裕と信念に満ちた男だった。彼が今後の日本、世界を引っ張って行くのなら、それも悪くないなと、『マルオ』は感心した。その護衛役が、目の前にいる少年だと……
その少年が、娘である三玖と交際しているだと……
「………何故、三玖くんに……娘たちに近づいた?」
彼の質問に、総介は想定内だな、と、余裕綽々に対応した。元々、正体を明かせば、この質問は必ずされると確信していたのだ。
「だから言ったろうが。一目惚れだって。そこに組織の打算なんざ、ひとつもねー。
あの子に、三玖に、目も心も全部持ってかれたんだよ」
恥ずかしいことを惜しげも無く暴露する総介。それは、彼が本当にそう思っているからで、そこに大門寺の陰謀なんか一つも絡んでいないことを表す。
「んでなんとか仲良くなりてーなぁ、って思ってたら、上杉から助っ人の依頼が来て、三玖がいる事を知ったから、受けたまでだ」
「………そう、か」
どうやら『マルオ』は、これ以上考える事を放棄したらしい。自分が喧嘩を売った相手が、世界でも有数の巨大権力を持つ財閥の防衛部隊、その中でも最強クラスの実力を持つ男………そりゃ思考も放棄したくなるわさ……
「………茫然としてるとこ悪いが、俺はこうして覚悟を示したんだ。
さて、アンタはどんな覚悟を示すんだ?」
「!!!!?」
唐突や総介の質問に、肩をビクっと震わせた『マルオ』。さっきまでの勝者の様な態度は何処へ言ったのやら……
「………」
「俺ばっかりに覚悟とかほざいといて、いざ自分の番となったら、用意してませんでした、ってこたぁねーだろう?ほら、見せてみろよ。アンタの覚悟を」
総介はいつもの死んだ魚の目で、『マルオ』へと言葉を投げ掛ける。しかし、『マルオ』はその言葉を、一切返す術を持っていなかった。
「………」
「………どうやら、アンタは一方的に自分が殴れるとタカ括って、なんも用意してなかったらしいな。
こんな状況、全く想定してなかったらしいな」
総介はそう言うと、『マルオ』へとゆっくり近づいていき、右手に持った日本刀を左側へと振り上げた。
そして、『マルオ』の右側の首めがけて、日本刀を振り払った。彼は椅子に座ったまま、ピクリとも動こうとはしなかった。いや、動けなかった。
「旦那様!!!!!!!」
江端の叫びが、部屋中に響いた。
日本刀は、『マルオ』の首の数ミリ手前で止まっていた。
「テメーに一つ、言っとくことがある。
人の努力を知らねー奴が、上からその努力を嘲笑ってんじゃねー
殴り返される覚悟もねぇ奴が、上から拳振るってんじゃねーぞ
タコ助」
総介は、今までにないほどの殺意を、静かに『マルオ』へとぶつけた。
それに当てられた『マルオ』は、見た。彼の後ろにある[ソレ]を。
[ソレ]は、赤黒い肌に、鋭い牙を剥き出しにし、禍々しく逆立った髪に、頭に生えた二本の角を持つ、途轍も無い怒りの形相をした………
『鬼』
幻かもしれないが、彼は見た。総介の具現化された殺意を。その『鬼』に、首を食い千切られるビジョンを。
裸一貫で、『鬼』の罠にかかった『マルオ』が今、残された力を振り絞って出来ることは、平静を装って喋ることだけだった。思考は全て、そちらへと持っていかれていった。
「………何が……望みだ……」
「望みだぁ?んなもんねーよ」
その様子に総介は殺意を緩め、マルオの首に添えていた日本刀を離してから答えた。これ以上は会話にならない。一方的なイジメになってしまうからである。
「電話で言ったろ?考え直してくれと。アンタが上杉の家庭教師を解雇すんのを、もうちょい待ってくれと」
総介は先程とは違い、真剣な眼差しで、『マルオ』へと向きながら話をする。
「アンタがもし、じっくりと考えて、娘たちからも意見を聞いて吟味した結果、上杉は家庭教師として相応しく無いっつーんなら、俺は何も言わねーさ。
でもな、たかが電話でしか喋らねー会話で、全てを決めてんじゃねーよ。んなもんはアンタの部下にでもしてろ」
そう言い終えると、総介は日本刀を鞘へと納めた。『チン』と言う音が、静かに部屋にこだまする。
しばらくして、『マルオ』が口を開く。
「………三玖くんのことは、いいのか?」
「それはアンタの許可なんざ要らねー。交際なんざ勝手にするさ。
ったく、そんなに娘が心配なら、今度一緒に飯でも食ってやれっつーんだ」
呆れた口調で総介がはぁ、と溜息をつくと、彼は何か思い出したようで、ポケットから紙切れを取り出して、話を始めた。
「………それと、これは業務連絡だが
アンタ、『大門寺』と同盟を組まねぇか?」
「………同盟、だと?」
総介の『マルオ』の顔が再び、驚きの表情へと変わる。
「ウチは今、専属の医者の人数が少なくてね。出来れば大病院を経営している人物と、同盟を組んで、治療とか見て欲しいって、探してたところなんだ。
アンタの事を調べさせてもらったが、中々に腕の立つ医者だって聞くぜ?それを知って、上の連中はついでに俺に『おつかい』を頼んだわけだよ」
そこで一旦話を切って、彼はふぅ、と一呼吸入れてから、再び話し出す。
「同盟を組めば、アンタや、娘たちの護衛も任務に入る。今回、アンタにしつこく迫っていた連中が、娘たちを誘拐しようとしたが、それを潰したのは、完全な俺個人の事情だ。もう二度とやらねぇぞ?それで娘がどうなろうが、俺は三玖だけを最優先で助けるつもりだ。他は場合によっちゃ………そうなるかもな。
だが、正式に同盟を結べば、仕事として、アンタの娘全員を護衛出来る。
そういうアホなことを考えている組織を、今回のように事前に潰す事もできる。
さあどうする?くだらんプライド捨てて、娘たちを助けるか、自分自身のために、アンタが惚れた人の娘の変わり果てた姿を見るか……
じっくり考えるこったな」
そこまで話を進めると、総介は手に持った紙切れを机に置いた。
「………コレ、ウチの『局長』の番号だ。答えが決まったら、5日以内に、ここに連絡してくれ。
それと、今日の夜、娘に電話をして、答えを聞かせてくれ。上杉も俺も、そこで待ってるからよ」
そこまで話をして、総介は踵を返し、ドアの方を向いた。
「………んじゃ、俺は帰るとするわ。報告もあるしな」
そう言って、総介は歩き出し、医院長室から出て行こうとしたが、『マルオ』が最後に、声をかけた。
「………待て」
総介はその言葉を聞き、無言でドアの前で立ち止まって振り向いた。
「………君にとって、三玖くんは……」
知りたかった。彼の真意を。転校してから、2ヶ月も経っていない。にも関わらず、彼は他の娘を見捨ててでも、三玖だけは護ると言った。そこまで言い放つ男の想いを、確かめたかった。その父親としての思いを悟った総介が、口元を緩めながら口を開いた。
「………全てさ。今の俺にとっての。
三玖が俺を心の底から拒絶すれば、
俺は潔くあの子から身を引くし、
三玖が俺にそばにいて欲しいと心の底から願ったなら、
どんな事があったとしても、あの子の元へ帰るさ。
どんな奴だろうが、あの子を悲しませるなら俺は………
国の一つや二つ、喜んでぶっ潰してやらぁ」
本気だった。本気の目で、総介は言った。
目から、言葉から、彼自身から、娘への想いを聞いた『マルオ』は、まるで憑き物が取れたかのように、肩の力を抜いて、一言呟いた。
「………そうか……」
「………じゃあな。家庭教師と同盟の件、賢明な判断を期待しとくぜ、中野センセー………あ、俺が『刀』に入ってるって事、娘たちや上杉には内緒にしといてくれ。根気強く交渉したってことで話合わしといてくれや。そんじゃ」
その言葉を最後に、総介はドアを開けて、退室した。ドアが閉まり、10秒ほど経った瞬間、『マルオ』は一気に緊張を解き、全身から汗を吹き出し、呼吸を荒くした。
「はぁ…はぁ、はぁ、はぁ……」
「だ、旦那様!ご無事ですか!」
江端も総介の殺気に当てられていたのか、一歩も動けずにいたが、彼の退室を見てから、主人である『マルオ』へと寄り添う。彼は手も、足も、体も、顔も、余す事なく、小さくではあるが、ガタガタと震えていた。意識しているものではない。総介の殺気が、『マルオ』の根源的な恐怖、つまりは『死』の恐怖をこの上なく刺激したのだ。こうなってしまうのも無理はない。
「………何なんだ」
「………は?」
震えた声で小さく呟く『マルオ』に、江端は聞き返す。
「………何なんだ、あの男は……本当に、娘と同じ高校生なのか……」
「………」
答えられなかった。江端もそう思ったからだ。一般の高校生とは、明らかに逸脱した佇まい、常軌を逸した『殺気』、日本刀を操る達人級の『剣術』……全てが規格外だ。とても高校生とは思えないが、それを調べることは出来ない。大門寺家の最高峰のセキュリティの前では、自分たちはただの砂つぶだ。抗うことすら許されない。
「今すぐ、お水を用意します」
「………ああ、頼む」
今は、ただ、あの強大な武力の前に、世界をも変える巨大な権力の前に、ひれ伏すしかない。2人の思考は、皮肉にもここで共通してしまっていた。
………………………………
「………雨、メッチャ降ってんじゃねーか」
ヘルメットをかぶり、スクーターを走らせながら、総介は呟いた。彼はこう見えて、原付の免許持ちである。持っている車種は『銀魂』で銀時が乗っているのと同じ、『ベスパ』である。色も銀色だが、後輪カバーには『銀』の字は入っていない。
「歩いてくりゃよかった……風邪ひきたかねーしよ」
先程まで殺気ムンムンだったとは思えない、誰でもいいそうな独り言を言いながら、雨に打たれる総介。彼は雨の中、スクーターをある場所へと走らせていた。
それは、彼が半年以上前から行っていない場所。
「『局長』元気にしてっかな〜……『副長』は………どうせ愚痴るんだろうな〜めんどくせ〜………明人の奴、俺のあげた『沖田のアイマスク』捨ててねーだろうな……」
誰に向かって言ってるのか分からないことをブツブツ呟きながら、総介は『大門寺家本邸、対外特別防衛局『刀』屯所』へと『ベスパ』を走らせていった。
次回、第二章最終回
『
『鬼』は、人を愛せるのか
お気に入り300件突破しました!!!
登録してくださった皆々様、本当にありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします!
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
次回、遂に第二章最終回です。総介と三玖、いよいよ2人が真の恋人同士になりますので、ブラックコーヒーをご用意してお待ちください(笑)