世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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ここから原作に戻ります。


なお、原作の流れに戻ったからといって、総介と三玖のイチャイチャは止まりませんので、続けてブラックコーヒーをご用意いただくことを推奨します(笑)
楽しい楽しい(意味深)林間学校まで、今しばらくお待ち下さい。


33. 暗黒物質(ダークマター)は永久に不滅です!

「……………何これ?」

 

「コロッケ」

 

 

中野四葉は目の前の皿の上に置かれている3つの黒い物体を見て、テーブルの向こうにいる姉の三玖へと尋ねた。すると、彼女は何の躊躇もなくその黒い物体の名前を言って見せた。

 

昨日のデートから遡ると、三玖は恋人の総介の家にもう一泊し、翌日の昼前に総介を連れて帰宅。昨日行われるはずだった家庭教師の日は、風太郎の用事の影響で今日へと流れてしまったので、2人がリビングに到着した時には風太郎はすでに来ていた。三玖はそんなことには目もくれず、荷物を部屋に置くや直ぐにキッチンへと向かい、冷蔵庫から食材を取り出して料理を始めた。

実は総介の家を出る前に、三玖は彼に料理を帰ったら振る舞うと約束をしていた。それを聞いた総介は、三玖の手料理を食べれると朝からテンション爆上がりであり、リビングに着いてからは、エプロンを着て料理に勤しむ彼女をテーブルに座りながらずーっとにやけが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

この後に悲劇が待っているとも知らずに………

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、完成した料理が、見ての通りの黒い物体である。その物体を、四葉の隣で見た総介は……

 

 

 

 

 

 

 

 

(だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒物質(ダークマター)ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

心の中で絶叫していた。

 

 

 

 

 

 

 

(イヤイヤイヤイヤ待って待って待って待ってぇぇぇ!!?何これ?なにこれ!?ナニコレ!!?どう見てもアレだよね、暗黒物質(ダークマター)だよね!?

ウソーーーン!!!三玖ってもしかしてお妙さんだったの!?)

 

恋人の作った料理を、無表情ではあるが冷や汗を流しながら凝視する総介。目の前の黒い物体は、『銀魂』で『志村妙』が作ると言うか、錬成する自称『卵焼き』もとい『かわいそうな卵』こと暗黒物質(ダークマター)に酷似していた。

 

 

銀魂を見ている人にはご存知の通り、志村妙の作る料理は尽く黒焦げの何かができてしまう。それを食した者は、下痢の症状から即気絶、果てには食べた者の記憶の全てがどこかにフライアウェイしてしまうという近代兵器も真っ青な効果を発揮する代物なのだ。

そんな兵器にそっくりなものが今、総介と四葉の前に置かれているのだ!何故かトマトケチャップが横に添えられて……

 

 

「石じゃなくて?」

 

さりげなく失礼な四葉。しかし三玖は気にしない。

 

「味は自信ある。食べてみて」

 

確かに料理は見た目では無いというが、これは流石に、結末が見えているのでは……と、総介は心の中で思い、チラッと四葉を見る。すると彼女も、同じ考えだったのか、こちらをチラッと向き、うん、と少し頷いた。

 

(え、何今の?…行くの?コレ食うのマジで?)

 

四葉は箸を持って、皿の上にあるそれをひとつ挟んで持つ。

 

「ほら、浅倉さんも」

 

そう名前を言われて四葉に催促された総介。『かわいそうな卵』の威力を知っている分、余計に躊躇ってしまうのだが、三玖の手料理という手前、食べないわけにはいかない。現に三玖の方へと目を移すと、不安と期待の混じった表情で総介を見ていたのだ。

 

 

 

もはや彼に逃げ場など無かった。

 

「……じゃあ、いただきます」

 

そしてさようなら、と、念のために心の中で別れを告げて箸を持ち、自称コロッケを掴む。

 

「じゃあ食べるよ」

 

四葉もソレを口元へと運び、2人は一斉に食べようとした、その時……

 

 

 

 

 

「おはぎ作ったのか、いただき」

 

「あっ」

 

どこからともなく現れた風太郎が、残りの一つを手に取って、何の躊躇も無く暗黒物質(ダークマター)を口の中へと入れた。

ちなみに2人は、突然現れた風太郎を気にする余裕もなく、ただただ目の前の黒い食物を口の中へと入れ、むしゃりむしゃりと咀嚼するだけだった。

 

 

 

「普通にうまい!」

「あんまりおいしくない!」

 

 

まず風太郎と四葉の2人が、感想を言って、綺麗に意見が分かれた。

 

「何だ四葉、お前意外とグルメなんだな」

 

「上杉さんが味おんちなだけですよ。あんち!」

 

(…どっち…?)

 

真っ向から意見が食い違う2人を見て、三玖は戸惑ってしまうが、ここで四葉がまだ何も言ってない総介に聞くことを提案した。

 

「それなら、浅倉さんに聞いてみましょうよ!」

 

「ああいいぞ。三玖の彼氏の浅倉なら、うまいと言うに決まってるからな!」

 

「浅倉さん、お味はいかがですか?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総介はなんて言っていいのか、この上なく迷っていた。

 

(………どうしよう、うまくねぇ……なんならまずい…)

 

結果から言うと、この自称コロッケはとても美味しいと言えるものでは無かった。さっきまで想像していたお妙さんの暗黒物質(ダークマター)のように、気絶や下痢、記憶障害の症状が現れるような化学兵器では無かったのは、何よりの幸いだろう。てか現実にそんなもんあったらたまったもんじゃないわボケ!

しかし、この自称コロッケは、料理と呼ぶには最低点の味だった。

 

(上杉は何でコレがうまいって言えるんだ……貧乏性か?)

 

風太郎の味覚に疑問を覚えつつも、総介は三玖にどう言おうか迷ってしまう。コレを単純にマズイと言ってしまえば、彼女の心は深く傷ついてしまうだろう。それが恋人の総介から出た言葉なら、ショックは何倍にもなってしまうこと間違いなしだ。とは言え、嘘をついてうまいと言うのも、彼は出来なかった。仮にここでうまいと言ってしまえば今後、三玖は自分にますます手料理を振る舞ってくる。気持ちはとても嬉しいが、流石にこの低クオリティの料理が今後も出てくるとあっては、こちらもいくらなんでも耐えられなくなる。もっと言えば、総介はこういった大事なことで三玖に嘘をつきたくなかった。

 

三玖に正直に話すか、それともうまいと嘘をつくか……

 

 

 

 

 

「浅倉?おーい、浅倉〜?」

 

「……ソースケ……どう?」

 

心配してくる三玖と風太郎の声に反応して、総介は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、アレだ。独創的な味というか……他の誰にも真似できないモノを作ったというか何だ……料理はオリジナリティが必要な時もあるから……アレだよね、いい意味で、イイ意味で伸び代が期待できる逸品だよね〜って……」

 

 

 

 

チキった。この男、恋人を傷つけるか嘘をつくかのどちらかを決められずに、盛大にチキりやがった。どっちつかずの感想が、総介の口からベラベラと出てくる。

 

「……………」

 

そんな煮え切らない恋人を見て、三玖は体中から青いオーラを出して、頬をプクーっと膨らませる。かわいい……いや、今回は怖い。

 

「どっちだよ?……まあいいや、うまいってことで、そしたら試験の復習を……」

 

 

 

「待って」

 

風太郎の言葉を、未だ不機嫌な様子の三玖が止めて、驚きの一言を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「完璧においしくなるまで作るから

 

 

 

 

食べて」

 

そう言って、三玖はキッチンへと踵を返した。幸い(?)、コロッケのタネや衣はまだ沢山残っているので、今から作ろうと思えばいくらでも作れる。

と、なるとマズイ展開になってくるのは総介と四葉で、彼の方は頭から冷や汗をドバッと流しながら、三玖に慈悲を求めていった。

 

 

 

「いや、ちょ、まって。三玖さん、俺アレだ、もうお腹いっぱいって言うか〜、気持ちだけで胸がいっぱいで、入るとこなんてもう無いんで……だから待って!お願い!頼むから思いとどまって!今はもういいから!今度いっぱい食うから!悪かった!俺が悪かったから許して!助けて、助けて下さ〜い!!三玖、三玖ーーーーーー!!!」

 

 

総介の悲しき絶叫を、三玖は全く聞く耳持たずに、コロッケ、もとい暗黒物質(ダークマター)もどきを錬成し続け、3人に、主に総介に食べさせ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総介、ざまぁメシウマwwwww

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅるるるる……

 

「う〜、う〜…だ、だーくまたーが、だーくまたーがこっちにくるよ〜」

 

「くっ……せっかくの家庭教師の日だってのに、不覚……」

 

「お腹の調子はどうですか?三玖がすぐにお薬買ってきますからね」

 

 

 

あの後、三玖が次々と錬成させていった暗黒物質(ダークマター)もどきを食べさせられ続けた総介と風太郎は、完全にダウンしてしまった(風太郎は食べ過ぎて満腹、総介は暗黒物質(ダークマター)の過剰摂取(笑)により)。

主に被害に遭ったのは、恋人の総介であり、ポンポンと作られていく自称コロッケのほとんどを三玖から与えられ、口に運んで行った。もうダメだと思い何個か口にして流石に拒否しようとしたが、三玖のウルウルとした目を見てしまい、もはや歯止めが効かなくなって、黒焦げに量産された自称コロッケを食べ続けるしかなったのだ。マジざまぁw。そして総介が限界を迎えたところで、味音痴な風太郎がここで腹一杯になるまで食べて、四葉もその流れ弾をくらい、彼女は倒れるまでとはいかなかったものの、風太郎はが食べすぎのせいでダウンしてしまった。さすがの三玖も、緊急事態と察したようで、急いで薬局に胃薬を買いに出かけたのだった。

 

「倒れるまで食べさせられるとは思わなかったぞ」

 

「私も、お腹パンパンです……」

 

「えへへ、だーくまたーがひとーつ、だーくまたーがふたーつ……」

 

「……浅倉、完全に壊れたな。なんだよダークマターって……」

 

「あはは、まぁ、一番多く食べてましたからね……」

 

ハイライトを無くした瞳で、うわ言のように呟く総介。もはや正気は残っていなかった。

 

「お前が文句言い続けたせいだ! 俺は本当にうまいと思ったが、嘘も方便だろうが」

 

「私の嘘なんて三玖に気づかれちゃいます!」

 

四葉に当たるものの、コイツは嘘つけないタイプだなと思い、風太郎はため息をついてしまう。

 

「はぁ……好きな味とでも答えておけば誤魔化せるだろ」

 

風太郎の一言に、四葉のリボンがピコーンと伸びる。てかどうなってんのこのリボン……

 

「好きな味……なるほど、勉強になります」

 

「はぁ……そんなこと教えに来たんじゃないんだけどなぁ」

 

「三玖〜、あいしてるよ〜、頼むから帰ってきてくれ〜、でも料理はやめてくれ〜」

 

少しはマシになったのか、総介はここにいない恋人を求めるが、彼女は未だ帰ってこず。しばらく待つしかないのであった。

 

 

 

 

 

 

代わりに、総介にとってめちゃくちゃややこしい人物がやってきた。

 

 

 

 

 

 

「あれー?

 

 

 

 

 

 

 

 

人ん家でお昼寝ですかー?薬でも盛られたのかしら?」

 

 

二乃と五月が、風太郎の元へとやってきた。

 

「二乃…五月…皮肉なもんで、今日は逆に薬が欲しいくらいだ」

 

「ふーん、どうでもいいけど

 

 

 

 

 

それにしても……」

 

二乃は風太郎には目もくれずに、もう1人、倒れている人物に目を向けて、ニヤニヤしながら近づいていく。

 

「あんなにあたし達に色々言ってきたのに……ザマァないわね〜♪」

 

二乃は総介の頭の前に立つと、ゆっくりと足を総介の額に持っていって、踏みつけてグリグリとする。総介うらやま……ゲフンゲフン!かわいそうに(笑)。

 

「ずーっとアンタをこうしてやりたかったのよね〜♪。どうかしら、三玖の姉妹に見下されながら顔をふまれる気分は?場合によっちゃお金取るほどのご褒美じゃないかしら♪」

 

「に、二乃、流石にそれはマズいんじゃ……」

 

四葉が止めようとするが、二乃は恍惚の表情を浮かべたまま聞く耳を持たない。

 

「いいじゃないの〜。今まで散々コイツに引っ掻き回されて、色々と溜まってたのよ。コイツから受けた屈辱を、何倍にもして返すチャンスじゃないの♪」

 

 

そう嬉々として言いながら、かかとで総介の額をグリグリとする二乃。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな。自分から進んでそんなパンツ見せて返してくれんなら、踏まれる価値はあるよなぁオイ」

 

「なっ!!!?」

 

 

ふと下から声がしたかと思ったら、顔を踏まれていた総介が、ニヤニヤとしながら目を見開いていた。彼の視線は当然、真上にある二乃のスカートの中なわけで……

彼女はそれを理解した瞬間、足をどけて、顔を真っ赤にしながらスカートを手で押さえて隠す。が、ガッツリと見られたので、もう遅いが……

 

 

「しっかしお前、逆ナンでもしにいくのか?どうやったらそんなエロいパンツ履こうと思うんだよ?」

 

「ッッッ!!!死ね!!!」

 

二乃は再び、今度は踏み潰す勢いで総介の顔面目掛けて足を下ろすが、彼は首をヒョイっと曲げて避ける。その結果、二乃の足は総介の首の横へと思いっきり着地した。ダンッ!という音が、リビングに響く。

 

「はい、また見えた。お前いくら男に飢えていても、流石にそれはヤバいだろ〜。なんたって……」

 

「うっさい!!!潰れろ!!!」

 

二乃はまたパンツを見られ、さらに今度は特徴を言おうとした総介を本気で踏み潰そうとするが、再び首を曲げられて避けられた。

 

「はい、ざ〜んねん」

 

「くっ!!このぉぉ!!!」

 

その後も、二乃は総介の顔面を踏もうとしても、それらを全て避けられる。端から見れば、二乃が悔しさのあまり地団駄を踏んでいる構図にしか見えない。そんな光景がしばらく続いた。

 

 

………………………………

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

「はいは〜い、もう終わりですか〜?」

 

数分間踏み続けてさすがに疲れたのか、二乃は膝に手をついて息を荒くしている。そんな彼女を、総介は相変わらず死んだ魚の目で見上げながら、仰向けのまま動こうとしない。二乃はそう言って余裕をかます総介を、非常に憎たらしく思った。

 

「はぁ、はぁ……くそっ…なんで、アンタみたいな奴に……三玖が……」

 

「…………」

 

二乃は恨み節を吐きながら、息を整える。そんな様子を見ていた彼は、無言のまま彼女を見上げていた。しばらく二乃を見た総介は、彼女へと口を開く。

 

 

 

「お前が俺に何を言おうがどうでもいいし、何をしようが構やしねぇが、そのことで三玖を恨むんじゃねぇぞ。あの子に落ち度は一つもねぇんだ。恨むなら俺だけにしとけ」

 

「ッッッ!!!」

 

総介の言葉に、二乃は何も返せなくなってしまった。彼女は危うく、三玖への文句も出てきそうになったからである。

総介をここに入れたのも、花火大会に誘ったのも、試験で風太郎の家庭教師の継続に貢献したのも、遠回りとはいえ、三玖のせいである、と。オマケにこの男は、父からの交際の公認も得て、さらには三玖を男の家にお泊りまでさせた。そのおかげで、色々とトラブルも起きた。もう、二乃は当初の2人を追い出す計画からは程遠いところまで来てしまっていた。彼女は強く実感していた。もう、あの頃の5人だけのような生活は出来ないことも。

 

 

 

 

 

 

総介に当たったところで、何も変わりはしないことも……

 

 

「………アンタ達は……」

 

「………」

 

「アンタ達は、どこまで……あたし達を、引っ掻き回せば、気が済むのよぉ……」

 

二乃は総介を見下ろしながら、涙を溜めた目で吐き出すように言った。

 

「二乃……」

 

そんな彼女を見て、四葉は心配そうに名前を呼んだ。他の2人も、今は黙って見続けていたが、そんな中、総介が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「変わらねぇ日常が永遠に続くと思ったか?」

 

「………」

 

総介の言葉に、目を閉じかけた二乃が、再び開いて総介へと瞳を向けた。

 

 

「いずれ来るかもしれねぇが、お前らもそれぞれ別の男と結婚すんだ。まあそれはどうかわかんねぇが、少なくとも、就職なりなんなりで、お前らはバラバラになる時は来る。そん時が来たらお前はどうするんだ?」

 

 

「……そんなの、わかってるわよ。いつか5人がバラバラになることぐらい……でも、アンタ達は違うじゃない……いきなり家庭教師とか、助っ人とか……三玖の恋人とか……そんなの……」

 

 

 

 

「そうだな、俺が今言ったのは、いずれ必ず起こる『決められた変化』だ。だが、お前で言う俺や上杉はその中に無い、本来起こりうるはずのなかったはずの変化、いわば『イレギュラー』だ。そんな『イレギュラー』が人生で何回起こるのか、どんな『イレギュラー』が起こっちまうのか、んなもん分かったもんじゃねぇ。

 

 

けどな、どんな奴にも必ず人生で『イレギュラー』ってもんに直面する。俺が言うのもなんだが、お前達にとっての俺と上杉がそうであるように、その逆もまた然りだ。今後それ以外にも、色々と『イレギュラー』は待ってるだろうな。いいモンか悪いモン、もし悪いモンだとしても、うまくいけば回避できるモンと自分じゃ到底回避できないモン、どっちが待っているか分からねぇ。もし回避できないモンが来たら、初めは戸惑っちまうだろうし、怖くてたまらねぇ。今のお前みたいにそれに八つ当たりしたくなるだろうが、それでもどうしようもねぇ時は、受け入れていくしかねぇんだよ。それが人生ってやつだ。

 

 

そんなどうしようもねぇ『イレギュラー』を受け入れて、人間ってやつぁ少しずつ大人になってくんだよ。難しいがな……」

 

自嘲するように乾いた笑みを浮かべながら、総介は長い話を締めくくった。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「……浅倉……」

 

皆が総介の話を黙って聞いている中、風太郎は彼の名前を呼んだところで、思わず言いかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『お前本当に17歳なのかよ?』と……

 

 

 

さすがに口にしてしまったら、前みたいに拳骨されるので言わないが、今の総介は、高校生では普通思わないようなことを、易々と言ってのける。思えば、この男と出会った時からいつもそうだった。

 

 

 

初めてここに来て、二乃の姉妹への思いを言い当てた時、

 

二乃の家庭教師の妨害を、総介が有無を言わさない言葉で黙らせた時、

 

独りよがりで失敗してしまった五月に説教をした時、

 

五つ子の義父『マルオ』と対峙した時、

 

マルオの元へ行こうとするのを妨害した二乃に向けて言葉を発した時、

 

 

 

 

 

 

(浅倉、お前は………一体何者なんだよ……)

 

横になりながら、風太郎は同じ体勢で横になっている総介を見ながら、そう思った。

彼は未だ知る由もない。総介が、とても辛く、悲しく、何物にも例えられない半生を送ってきたことを。

その齢にして、敵味方から『鬼』と呼ばれるほどに畏怖され、血にまみれた修羅の道を歩いてきたことを……

 

 

 

もしかしたら、二乃に向けた今の話は、彼女だけでなく、『総介自身(・・・・)』にも言った言葉なのかもしれない。

 

 

 

母を亡くした時の自分自身に対して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここで、二乃がこの沈黙を唐突に破った。

 

 

「……あたし達の……三玖の人生を変えた……アンタに言われたくないわよ……」

 

絞り出すような言葉を、総介へとぶつける。彼はそれを聞き、口角を上げて笑いながら、返した。

 

「ま、まだ分からんでもいいさ。いずれ気付く時がくらぁ。そん時は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと受け入れて、今お前が履いているパンツが似合うぐれーの大人にならなきゃいけねーわな」

 

 

「なっ!!!」

 

二乃の顔が、再び真っ赤っかに染まる。いい話をしていたのに、台無しである。プルプル震えて、今にも爆発しそうだった二乃だったが、ここでまさかの伏兵が……

 

 

 

 

「へ………へ………」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変態!!!!!!!!」

 

 

ゴスッ!!!

 

 

 

「アピャッ!?」

 

 

 

ガンッ!!!!

 

 

 

「ヘスティアッ!!!」

 

 

 

チーン………

 

 

 

 

 

 

「あ、浅倉さーーーーーーーん!!!!」

 

 

今の一連の動きを説明すると、それまで全く動かなかった五月が、総介のセクハラ攻撃に耐えられなくなり、総介の側頭部をフリーキック!そして蹴られた頭が向かった先は、テーブルの脚であり、そこに額を思いっきり激突。某ダンまちのボクっ娘巨乳女神の名前を断末魔に叫びながら、額から煙を出して気絶してしまった。

意識を失う間際、聞こえてきたのは自分を心配して名前を叫ぶ四葉の声だった。薄れゆく意識の中、総介が最後に思ったことは……

 

 

 

 

 

 

(もう一度、三玖に会いたかっ……た………

 

 

 

 

 

でも暗黒物質(ダークマター)はもう勘弁)

 

 

 

こんな感じで、今日の総介はまさしく踏んだり蹴ったりの一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいこと言ってカッコつけたのに……マジざまぁww

 

m9(^Д^)ぷぎゃー

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん……あれ、俺は……」

 

「あ、ソースケ、良かった起きてくれて。大丈夫?」

 

「三玖……どうして……」

 

「お薬買って帰ってきたら、ソースケが気を失ってて、四葉から理由を聞いた」

 

 

「そうか……」

 

「また二乃をいじめたんでしょ?」

 

「アイツが突っかかってくるのが悪い。俺は自分から喧嘩を売りはしない」

 

「ふふっ、もう……」

 

「……それはそうと、三玖」

 

「ん、何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はなぜ、君のふとももの上にいるのだろうか?」

 

 

総介が目覚めて、はじめに見たのは、自分の上にいる三玖の顔だった。状況を見るに、自分は仰向けになって、三玖のストッキング越しのふとももの上で寝ている。これぞ通称『膝枕』である!膝枕なのに頭を乗せるのがふとももなのはこれいかに………

 

 

「嫌だった?」

 

「嫌ではないし、出来ればしばらく堪能したいです」

 

「もう、ソースケったら……」

 

三玖は総介の額から髪へ向けて頭を撫でながら、四葉から聞いた経緯を説明した。

 

あの後、正気に戻った五月は、自分がしでかしたことにパニックとなってしまったが、四葉がなだめてどうにかなった。総介のセクハラ発言が原因とはいえ、人の頭を蹴って気絶させた事実に変わりはなく、多大な罪悪感を感じてしまったが、二乃が五月を宥めてこう言った。

 

 

「五月、よくやったわ!むしろせいせいしたわよ!三玖が帰ってくるまでそこで寝てなさい、この変態セクハラ男!」

 

と吐き捨てて、三玖が帰ってくるまで総介と風太郎を四葉に任せて、2人はランチへと出かけたのだった。

 

「……それで、そこからは、私が帰ってきて、ソースケが帰るまで膝枕してた」

 

「……そうか……」

 

総介が何より気になったのは、二乃が自分たちを追い出さずに、そのまま家に残したこと。それは、自分の話が彼女の何かを少しでも響かせたのか、それとも……と、ここで総介はふと三玖を見上げる。すると、彼女は少し不機嫌な様子で、総介を見下ろしていた。

 

 

「……二乃のパンツ、見たんだ?」

 

どうやらそれが、彼女の不機嫌な理由らしい。総介は嘘をつけないなと思い、正直に弁明することにした。

 

「むしろアイツから見せに来た、が正解。スカートで人の頭踏んづけてきたら、そりゃ見えるに決まってる」

 

「何回も見たんだ?」

 

「何回も見た」

 

と、ここで、三玖がとんでもないことを聞いてきた。

 

「………興奮した?」

 

「正直ドン引いた。アレは男に飢えすぎだろ〜って思った」

 

「……なら、許す」

 

そう言って、ようやく三玖から不機嫌な表情が消え、頭を撫でる頻度も増えた。総介は彼女の細長い指を頭で感じながら、安らぎの時間を過ごした。

 

しばらく堪能すると、三玖が口を開いた。

 

 

「………ごめんね」

 

「ん?」

 

「私の料理が、ダメだったから……ソースケが、こんなことに……」

 

「………」

 

 

三玖は頭を撫でる手を止めて、総介へと謝る。彼がこうなったのも、自分がマズい料理を何回も総介に食べさせてしまったせいで、と。

 

総介は無言のまま三玖を見ていたが、ここで、彼の顔に、滴が一つ落ちてきた。それは、三玖の青い瞳の目から出てきた、少ししょっぱさを含んだ悲しい液体だった。それは、時を追うごとに、ますます彼の顔へと落ちてくる。

 

 

 

 

「………私……やっぱりなにもできない……勉強も……運動も……料理も……みんな、何もできない…うぅ……みんなより……ぐすっ……いちばん…うう…おちこぼれだから……ソースケに……よろこんでほしかったのに……ひっく……」

 

三玖の目から、涙が止めどなく溢れ出てくる。同時に、自分が抱えていた他の姉妹への劣等感が、全面に押し出されて、彼女は自身への嫌悪を募らせてしまう。総介はここで初めて知った。初めてちゃんと話をした時、自分に自信がなさそうに感じたのは、他の4人に対する劣等感だった。勉強は当初は皆同じくらいだったのでアレとしても、彼女は誰よりも運動が苦手で、料理も下手。得意なのは、戦国武将の知識と、他の姉妹への変装。が、前者は周りに言えるようなものでは無いし、他の4人でもできると思っており、後者にいたっては、その特技は諸刃の剣だ。なぜなら、他の4人に変装するのが上手いということは、『自分自身が無個性』だと暗に表しているようなものだからだ。他の人からはそうは見えなくても、三玖自身は、どこかでそう感じているのだろう。

自分に出来ることは、他の4人にも出来る。絶え間なくついてくる個性的な4人から霞んでゆく自分、それが、三玖の劣等感の正体だった……

 

それを今知った総介。彼は三玖が劣等感に押し潰されてしまうと懸念した。そうはさせまいと、ゆっくりと彼女の頬へと手を伸ばす。

 

 

「………三玖」

 

「……ソースケぇ……わたし……ぐすっ、やっぱり……ダメな子だから……」

 

「前にも言ったでしょ?料理なんて、後から覚えればいいって。正直、あのコロッケはとても食べれたものじゃなかったけど、それだけ伸び代はあるってことだよ」

 

彼女の頬へと流れる涙を拭い取りながら、総介は体を起こして、三玖と向き合い、優しく声をかけて続ける。

 

「それに、勉強も料理も同じだよ。今はまだ、やり方を教わって無いだけで、ちゃんとしたやり方さえ覚えれば、三玖だって美味しい料理を作れるようになるよ」

 

「ぐすっ……でも……わたし……」

 

「何なら、今度泊まりに来たとき、勉強と一緒に、料理も教えるから、一緒に作っていこう。俺だって、初めは料理なんて全くしないで、失敗ばかりだったけど、三玖がおいしいって言ってくれるぐらいまで出来たんだ。三玖だってそうなれるよ」

 

総介は右手で三玖の頭を優しく撫で、左手は背中へと回してポンポンと優しく叩きながら、彼女を宥める。それが功を奏したのか、三玖の流れていた涙が、徐々に止まってゆく。

 

「……ソースケ……」

 

三玖の自分を呼ぶ声に、総介はどこかで優越感にも似た何かを感じたのは。この声で、このすがるような甘えた声で、名前を呼んでもらうのは、自分だけだ、と。中野三玖にとっての特別が、浅倉総介だけである、と……

そしてそこから生まれた優越感を、自分自身の特別を、三玖へと分け与えるために、総介は三玖へと話し始めた。

 

 

 

 

「三玖、聞いて欲しい………」

 

「……うん」

 

「俺が初めてここに来て、最初に他の4人に会った時、正直何も感じなかった……

 

 

君に会ったのが最初だからかも知れないと思ったけど、

 

 

それも違う

 

 

もし三玖に最後に会ってたとしても

 

 

俺は三玖を好きになってた

 

 

それは三玖が、他の4人には無い特別なものを持っているからなんだよ」

 

 

「特別な……もの?」

 

「魅力とか、オーラとか、言葉に表すのは難しいけど、それは三玖を知れば知るほど増して

 

 

俺を釘付けにするんだ

 

 

 

それは、今後姉妹がどうあがいても、持つことができない

 

 

三玖しかないものなんだ

 

 

他の4人がいくら三玖を真似ても

 

 

 

そんなのは偽物で、何の価値を持たない

 

 

 

三玖だからこそ、この上なく愛おしくて

 

 

大切だって、特別だって思うんだ」

 

「………私が……特別……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん……三玖、俺は今まで、ずっととか、永遠にとか、そんな言葉、好きじゃなかったけど

 

 

 

 

 

今なら言える

 

 

 

 

 

君が持っているものは、ずっと俺を夢中にさせてくれるし

 

 

 

 

 

 

君への想いは、永遠だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、もう苦しまないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君は他の4人とは違う

 

 

 

 

 

 

他の4人じゃ君の足元にも及ばない

 

 

 

 

 

 

 

 

何より俺にとって、浅倉総介にとってこの世界でたった1人の特別な存在

 

 

 

 

 

 

 

俺の恋人の

 

 

 

 

 

 

中野三玖なんだから」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、三玖は再び、涙を溢れさせた。しかし、この涙は、前のようなものでは無い。

 

 

自分を愛してくれる、特別だと想ってくれる、愛する人の言葉。

 

 

 

その愛を、自分だけが独占できると約束する誓い。

 

 

もう、他の4人とは、比べなくていい。ただ、君は、唯一の存在として、愛されて欲しい。

その意味を、体の奥、心臓の中心部まで染み渡らせた結果、涙腺がどうにもなく壊れてしまい、涙を流し続けた。

 

それを見た総介は、自身の偽りの無い想いが通じたと安堵し、三玖を自身の胸元へと迎え入れる。三玖もその流される体に逆らうことなく、総介の黒パーカーを着た胸元で、歓喜の涙を流し続けた。

 

 

「……料理、一緒に頑張ってうまくなろうね」

 

 

「……うん……ぐすっ、うん…」

 

総介の優しかかられる声に、すすりながらも何度もうなずく。

恋人同士になっても、残っていたわずかにして最大の不安が、彼女の中から全て消え去った。それらは全て、目の前の愛する人が、受け入れて、それらを彼の中で消し去って、愛へと変えてくれたのだ。もう彼女にも、迷いは無い。ただ、目の前の愛する人に、自身の愛を心ゆくまでぶつけるのみ。

三玖は顔を上げて、未だ溢れる涙を拭きながら、総介の目を見つめ、自身の気持ちを、たった一言で彼へとぶつけた。

 

 

「ソースケ……愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺もだよ、三玖………愛してる」

 

 

 

 

何も言っていないのに、2人は同時に目を閉じて、顔を近づけて、やがて唇が重なった。今までとは違う、涙の味がするしょっぱい口付けに、互いに笑みが溢れてしまう。

 

「しょっぱ」

 

「ふふっ……口の中にまで入ってきた」

 

「……三玖……」

 

「あっ……んっ」

 

再び、総介が三玖の頭を抱えて、顔を近づける。何をされるのかは、三玖は一目瞭然だったので、それをされるがままに受け入れ、瞳を閉じて長く、溶けそうになるほどの甘いキスを交わした。

想いを通わせ、体を重ね、不安と恐怖を吐き出し、それらを受け入れて消した。

 

 

 

 

 

この2日間は、総介と三玖にとって、大変意味を持つ特別な休日となり、後世にまで語られる、2人の忘れられないエピソードの一つに刻まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その隣で同じく膝枕をされてる風太郎と、膝枕している四葉も含めて。

 

「……なぁ、四葉」

 

「……何でしょうか、上杉さん」

 

「あの2人、俺らがいるの忘れてね?」

 

「忘れてますね」

 

「めっちゃキスしてんだけど……これからずっとこれ見させられるの?」

 

「私は一度見てますよ?」

 

「……マジで?」

 

 

 

 

 

 

 

「何なら、私たちもキスしちゃいますか?」

 

四葉がそう言って、段々と顔を近づけてくる。

 

「え?ちょ、まっ、マジ……え、……」

 

「上杉さん………」

 

「ち、ちょっと待て四葉!お前もこういうのは好きな人と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き、ですよ?」

 

「!!!?」

 

告白と同時に目を閉じた四葉と、もうすぐ唇同士が当たる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘」

 

……瞬間に四葉がニンマリと風太郎の顔の上で笑った。

 

「やーい、引っかかりましたね!私だってやればできるんです!」

 

そう言い残して四葉は、トコトコと歩いて何処かへと消えていった。

 

「……もう誰も信用しない」

 

風太郎の心が少し閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、昼間から公然とイチャつくとは、最近の若者は盛ってんな〜おい」

 

「TPOを弁えて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らに言われたくねぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

作者と一部読者の皆様が思ったであろう心の叫びが、風太郎の声となってリビング全体に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ、キィ、バタン

 

 

 

「……もう、三玖ったら

 

 

 

 

 

 

風太郎君の前であんなの見せられたら

 

 

 

 

 

 

 

私も我慢できなくなっちゃうよ……」

 

 

 

 

顔を真っ赤にしたリボンの少女が、自室のドアを閉めて呟いた一言は、誰にも聞こえることなく部屋の中へと消えていった。

 

 

 

 

 




ギャグ先行だったはずが、結局甘々な展開に……この2人ホントどうなってんだ……
最後に四葉がってなりましたが、風太郎とくっつくのは誰か、それは今後のお楽しみです!

苦しいひと月でしたが、今回は久々に書いてて楽しかったです。クオリティとかの話じゃなくて。やっぱ自己満足はまず自分が楽しまなくちゃね!と思いました。
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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