世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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もうすぐ林間学校〜♪






おや、原作の様子が……?(焦)


34.知らない人の名前とかいちいち覚えてらんない

 

林間学校……

 

 

 

 

それは、二学期の中間試験の後に開催される、総介の在学する高校の二年生が参加する一大イベントである。

総介や海斗にアイナ、風太郎と中野家の五つ子たちは皆二年生なので、それぞれがこのイベントに思いを馳せていた。特に四葉は、鼻歌を歌いながらスキップするほど楽しみなようで、ウキウキ気分のまま、風太郎主催のプチ勉強会をする図書室へと入った直後に、林間学校の中で実施される肝試しの担当となったクラスで、実行委員を押し付けられた風太郎の金髪ピエロの仮装に驚いて叫び、図書室の人に注意されてしまった。

その後、その場に一緒にいた三玖と3人でしばらく話をしている中で、風太郎は林間学校にあまり乗り気ではない様子を見た四葉が、風太郎のテンションを上げようとこんなことを言い始めた。

 

 

 

「では林間学校が楽しみになる話をしましょう。

クラスの友達から聞いたんですが、この学校の林間学校にはこんな逸話が……

 

 

 

 

 

 

 

最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス

 

 

 

 

 

 

 

そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは

 

 

 

 

 

 

 

 

生涯を添い遂げる縁で結ばれる、というのです

 

 

 

 

 

どうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「非現実的だ、くだらないな」

 

 

 

四葉の話を、風太郎はバッサリと切り捨てた。

 

「冷めてる!現代っ子!」

 

そんなドライな風太郎に四葉は非難を浴びせる。

 

 

「学生カップルなんてほとんどが別れるんだ。時間の無駄遣いだな」

 

「う、上杉さん。それ、三玖の前で言っちゃ……」

 

「あ……」

 

目の前にその『学生カップル』の片割れがいるにもかかわらず、つい口を滑らせてしまった風太郎。四葉とともに、2人に緊張を走らせながらそちらの方を見る。すると、ハイライトの無い冷めたジト目で風太郎を睨む三玖の姿があった。

 

「い、いや、ほ、『ほとんど』ってだけで、全部が全部別れるわけじゃない!中には本当に四葉の言った通りになるって可能性も……」

 

必死に弁解しようとする風太郎だったが、三玖の冷たい視線は変わらず、そのまま口が開かれる。

 

 

「……別に、フータローに言われても、何も思わないから」

 

「う……」

 

三玖はそう突き放すと、プイと横を向く。口では気にしてないと言われたが、言い方にトゲがあるあたり、かなり根に持ったようだ。風太郎は彼女の地雷を踏んでしまったことを後悔するが、もう遅いためどうすることもできない。もし今の発言が総介に知られてしまったら、彼に何をされるか分からない。風太郎は一ヶ月ほどの付き合いだが、総介の人となりは大まかに掴んだつもりでいた。

あの男は、三玖の事となると人が変わったように彼女に甘くなるが、それ以外には全く無関心、または敵対するものには一切容赦はしない。無論、あまり気分を害さなければ、普段は気怠げな雰囲気を持つ人畜無害の少年だ。しかし、もし総介の気を損ねてしまえば、その限りではない。彼は見掛け倒しとかではなく、本物の恐ろしさをその中に秘めている。風太郎は幾度か、彼の底の知れない『何か』を見て、本気で恐怖を覚えた事がある。そんな核弾頭を抱えた外道モンスター(風太郎目線)に睨まれたら最後、多分命は無いんじゃないかと大袈裟に思えるほど、彼は怒った時の総介を偏見と言えるほど恐れていた。

 

 

 

 

 

 

まぁ『鬼童(おにわらし)』って呼ばれてるぐらいだしね。仕方ないね。

 

と、ここで、冷や汗をかく風太郎を見た四葉が、すかさず彼のフォローに入る。

 

「み、三玖!もしかしたら、浅倉さんも林間学校すごく楽しみにしてるかもしれないよ!」

 

「え?」

 

「今言ったキャンプファイヤーのことも、三玖と踊りたいな〜って絶対考えてるって!」

 

「そ、そうかな……?」

 

四葉が総介の名前を出した途端、今まで冷めた表情だった三玖の顔が、徐々に綻んで、頬が少しずつ赤くなってゆく。チョロい。

 

「そうだよ!きっと浅倉さん、三玖にキャンプファイヤーでダンスを踊ろうって誘うはずだよ!三玖のこと『愛してる』って言ってたんだから、間違いないよ!」

 

「そ、ソースケが、私と……」

 

四葉のおだてに、総介とダンスを踊る自分を想像してしまい、ますます顔を赤くして照れる三玖。そして両手を頬に当てて、口角を上げて控えめに笑う。どうやら彼女も乗り気になってきたようだ。チョロかわいい。

その様子を見て、ようやく機嫌が戻ったと、風太郎もとりあえず安堵した。そもそも風太郎は、恋愛というものについてはあまり良い印象は持ってはいないが、総介と三玖の2人を見ていると、僅かだが、ホントに僅かながらではあるが、認めていいのでは?と思えてしまう。

2人が異常にイチャイチャしているのはどうかと思うが、その甲斐もあって、三玖は前回の試験で唯一赤点を回避できた。単に総介から一番勉強を教わっていたからというのもあるが、やはり一番の要因は、三玖のモチベーションの上昇だろう。総介から教わったおかげで、勉強に対する姿勢も良くなり、教わるだけでなく、自分から進んで勉強をするようにもなった。風太郎からすれば、これは嬉しい誤算の一つであり、総介を助っ人として連れてきて良かったと、心の中で彼に感謝した出来事だった。そのことを思えば、今の発言は本当に申し訳なかったと思える。

 

「……三玖、今のはすまなかった。あまりに軽率すぎた」

 

なので風太郎は自分の非を認めて、三玖へと謝罪した。

 

「う、ううん。私も、少しムキになっちゃったから……ごめんね、フータロー」

 

三玖も、彼の謝罪を受け入れて、自分も悪かったところを素直に謝った。2人がすぐに仲直りした様子を見て、四葉は一安心する。が、今自分が『総介も楽しみにしている』と言ったことを思い出して、ちょっとだけ不安になる。

 

(だ、大丈夫だよね?三玖と踊れるんだから、浅倉さんも楽しみにしているよね……)

 

三玖の機嫌を戻すため、口から出まかせで出た言葉だったが、あの総介のことだ。三玖のこととなると、一気にテンションを上げて、きっとキャンプファイヤーのダンスを心待ちにしているはずだと、四葉はそう思って不安を消し去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらねぇ」

 

「あれ?今の君になら、この言い伝えには食いつくと思ったんだけど」

 

 

同じ頃、学校の屋上で手すりにもたれてジャンプを読んでいる総介は、久々登場の『容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、190cm越えの超高身長、実家は超大金持ち、誰にでも優しく社交的、女子からモテモテ』という全てのリア充要素を兼ね備えた完璧超人『大門寺海斗』から、四葉が言っていたことと同じ“結びの伝説"の話を聞いていたのだが、四葉の思惑とは裏腹に、総介は風太郎と同じく、キャンプファイヤーのダンスの話をバッサリと切り捨てた。それを海斗は、少し眉を上げて驚く。

 

「なーにが『最後に踊っていたペアは生涯を添い遂げる』だ。よくある『学校行事特有のテンションで異性と触れ合って意識しあった結果、付き合い始めたけど日常に戻ったらあの時となんか違うって気付いて結局別れる勘違いリア充パターン』じゃねぇか。そんなもんどうせ誰でもいいからズッコンバッコンしてぇ性欲にまみれたアホな男子どもが調子乗って作った噂に決まってんだろうが。そのイベントで彼女作って帰ったら家で『アハーン♡ウフーン♡』的な事が出来ると舞い上がった思春期特有の何かキメたようなテンションで出来た伝説(笑)だろうが」

 

死んだ魚のような目のまま、風太郎以上にボロクソに毒を吐く総介。彼は林間学校に何か恨みでもあるのだろうか?

 

「彼女持ちの君が言うことかい?」

 

「俺はちゃんと日常の中で三玖と恋人関係になっただけですぅ〜。イベント限定の舞い上がったテンションでの付き合いじゃないですぅ〜」

 

「中間試験はイベントに入らないのかい?」

 

「あれがイベント?ならテンション高い思春期の男子は皆満点だろうな?保健体育の実技は」

 

「まったく君は……その辺りは恋人が出来ても変わらないよね」

 

嫌味ったらしい総介の言い分に、海斗はゆっくりと首を振りながら呆れてしまう。総介も三玖という大切な人ができて、全てがガラリと変わった訳ではないのだと、彼を見てきた海斗は思い知った。と同時に、彼に現れた変化にも気づき始めていた……

 

「だいたい俺ァそんなイベントや言い伝えってのをダシに告白して彼氏彼女ゲットってのがいけすかねぇんだよ。本気で好いた相手がいるってんなら、普段の生活からちゃんとアピールしとけってんだ。『いつも話さないあの男子が、たまたま一緒の班になって過ごしてただけなのに、私のこと色々分かった風なよくわからないテンションのまま告白されました』とか、女子からすりゃいい迷惑だコノヤロー。んなもんで普段からコツコツ頑張ってる奴にゃ敵わないの。ちゃんと日々を過ごす中で段々と仲良くしてようやく意識するレベルに上がるの。裏技使ってステージ飛ばせる初期のマリオブラザーズじゃねーんだよ。ここ、テストに出るからな。しっかり覚えとけよ」

 

「誰に言ってるんだい………はぁ」

 

海斗は訳のわからないことをのたまう総介にため息をついてしまう。この男、彼女が出来たからと言って完全に調子に乗っている。それも一目惚れした子を自力で落として恋人同士になったが故に、今の彼には根拠の無い何でも出来る万能感に支配されている。その結果、回り回って総介もそのテンションの上がった思春期の男子高校生の1人であることに気が付いていないと、 海斗はぺちゃくちゃぺちゃくちゃと愚痴の出てくる幼馴染みを見ながら思った。

 

(これはちょっとブレーキが必要かな?)

 

海斗はクールダウンと、少しばかりのお仕置きも兼ねて、総介の変な方向に上がっているテンションを抑えることにした。

 

「じゃあそれなら、もし君の愛しの三玖ちゃんが、誰かにダンスに誘われてOKしたとしても、君は『くだらない男子高校生の俗事』という事で黙って見ているのかな?」

 

海斗はイジワルそうに総介尋ねてみた。中野家の五つ子の姉妹は全員、赤系統の髪色に青い瞳、そして顔立ちの整った美少女である。その中でも堂々とした他の4人とは違い、三玖は控え目な性格で、前髪で顔の大半は隠れてはいるものの、美少女であることに変わりはなく、クラスの何人かの男子から好意に近いものを向けられている。もしかしたら、総介の知らないところでダンスの誘いを受けているかもしれない。海斗がそんなイジワルな質問をすると、今の今まで毒を吐きまくっていた彼の口が、瞬時に止まり、読んでいたジャンプを閉じて黙り込んでしまった。

 

「…………」

 

「……総介?」

 

さすがの海斗も、いきなり黙り込むとは思っていなかった。何かしら変な理屈で反論してくると予想していたので、想定外の出来事に、彼は突然黙ってしまった幼馴染を少し心配する。と、その瞬間に総介も口を開いた。

 

「……いや、もし三玖が本気でそうしたのなら、俺は止めるつもりはねーよ」

 

「……まさかの答えだね」

 

海斗は総介が『いやその誘った奴の両腕チョン斬る』や、『ふざけんな!ぜってーそんなことさせねーぞクソッタレ!』みたいな反応をすると予想していたのだが、意外と冷めた答えが帰ってきたことに驚いた。

 

「客観的に見りゃ、恋人なんて、所詮は口約束だけなもんだしな。結婚みたいに正式に書面に書くようなもんじゃねー。そんな拘束力もねぇ口約束程度の関係で、あの子の意思を阻害することなんざ俺ァしたかねぇし、何より三玖が心の底から考えてることは極力尊重してぇんだ。それがたとえ、俺を本気で拒絶したとしてもな……」

 

 

「………」

 

海斗は黙って、総介の次の言葉を待つ。

 

「ただ……」

 

 

「……ただ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個人的な感情を言や

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖を誰にも渡したくないし

 

 

 

俺のそばに一緒にいて欲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

尊重したいっつーのもあるが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はそっちの方が本音だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ったく、醜い独占欲持っちまって、あの子のおかげで色々とむちゃくちゃだよチクショー」

 

 

 

 

 

ははっ、と自虐を含んで笑う総介。それを見た海斗は、自嘲する彼に向けて、真剣な眼差しで言った。

 

 

 

 

 

「………醜くあるもんか」

 

「………」

 

「誰だって、好きな人と一緒にいたいという気持ちはあるし、愛する人のそばにいたいという想いは存在するんだ。

 

 

それが、醜いはずがない。

 

 

総介、僕は……僕らはそんなのが霞むほどの『醜い人間』をたくさん見てきているだろう?そんな連中に比べれば、愛する人を独占したいと思う気持ちなんか、ちっとも醜くないよ。

君が三玖ちゃんの意思を尊重したいという気持ちも、独り占めしたいと思う心も、どっちもそれほどまで大切に思っているってことだよ。それは普通の、いや、何よりも綺麗で汚れのない、本当の意味で信頼し合っている恋愛関係だと思うよ?」

 

「………」

 

海斗の話に、総介は黙ったまま聞き入る。彼はまさか海斗が、こうも自分に熱く彼に語りかけるとは思わなかった。こうして彼に励まされるのも、いつぶりだろうか……少し過去を振り返って懐かしみながら、総介は少し笑う。すると、海斗がさらに言葉を続けた。

 

 

 

 

「ま、それもちゃんと限度というものがあるけどね。それを考えたら、今の君はギリギリセーフかな?」

 

「………ぬかしやがれ」

 

そう返した総介も、少しは本音を喋って重い荷が取れたように、楽で落ち着いた顔つきに戻った。気怠げな表情はあまり変わらないが。

 

「じゃあ質問を変えようか。もし彼女の方からダンスのお誘いがあったら、どうするんだい?」

 

「喜んで踊らさせていただきます」

 

「驚きの切り替えの早さだね……」

 

海斗の質問に間を置かずに即答する総介。もはや最初の方と言ってることがめちゃくちゃである。

 

「なら、テメェはどうなんだよ?どうせ一緒にダンス踊ってくれって女子どもの連中から誘われてんだろ?」

 

「ああ、既に36人から誘われてはいるけど、あまりそういうのは乗り気じゃないから、今のところは全員断っているよ」

 

「死ねクソリア充モンスターが」

 

ちゃっかりと総介の斜め上を行くリア充アピールをしてくる海斗に辟易しながらも、彼らはその後もいつものようにバカ話に花を咲かせて(いや咲いてねぇし、花咲いてんのコイツらの頭)、時の流れる屋上から見える空の下でダベりながら過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、海斗と階段で別れた総介は、帰りに風太郎のプチ勉強会に行ってる三玖のもとに足を運んでいた。もうすぐ勉強会も終わる頃だと予想して、出来れば途中まで一緒に帰れればなと、風太郎や他の4人の事は全く考えずに、恋人との下校デートの妄想をしながら図書室へと向かって歩いていると、廊下の途中で見慣れた男子生徒と遭遇した。というか風太郎だった。

 

「あっ……」

 

「お前何してんの?勉強会終わったのか?」

 

「あ、ああ。もしかしたら浅倉がいるかな〜って今から教室に行こうとしてたところだ」

 

そうイマイチ理由になってない風太郎の返答に疑問を持ちながら、総介は彼が後ろの方をチラッチラッとしきりに気にしていることに気付く。

 

 

 

 

 

 

「……何だ?後ろになんかあんのか?」

 

「あ、いや、そこは……」

 

どうも歯切れが悪い風太郎を無視して、総介は風太郎の後ろを覗いた。すると、そこにはショートヘアの女子が、教室の前に立っていた。そして窓後ろのドアの小窓から中を覗くと、1人の男子生徒がどうもよそよそしい感じで向き合っている。女子の方は教室の壁との境界で顔は確認できないが、男子の方は染めたオールバックの髪に眉毛の薄い厳つい顔にシャツ出しの格好と、いかにもチャラ男というかヤンキー風の男だった。そして総介は、もう1人のショートヘアの女子の後ろ姿に見覚えがあった。

 

 

(長女さんか?………だが……)

 

後ろ姿だけを見れば、三玖の姉の五つ子の長女『一花』だが、総介は彼女に強烈な違和感を覚えた。

 

 

 

 

 

(何だ………この気持ち悪い感覚っつーか……嫌な予感は……)

 

このシチュエーションは、おおかた告白の流れだろう。もしくは、キャンプファイヤーのダンスパートナーへと誘いの申し出だろうか。いずれにしても、男の方が女の方に好意を持っているのは間違いない。恐らく一花をここへ呼び出して、ここで自分の想いを告げるつもりだ。その事は総介にとってはどうでもいいことだ。たとえ三玖の姉だとしても、彼には興味の外の筈だ。

 

 

 

 

 

 

しかし、総介は今のこの状況を看過できなかった。それは何故か。今の彼には分からなかった。何故自分には関係無いはずの一花が告白されるというのに、こんなにも複雑な感情が湧いてくるのだろうか、もっと言えばこんなにも嫌に思えてくるのだろうか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この直後、総介はその答えを知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

「な……中野さん来てくれてありがとう」

 

ヤンキー風の男が口を開いた。その様子を、総介は後ろの小窓から確認する。

 

「あれ?えーっと……クラスのみんなは?」

 

「悪い、君に来てもらうために嘘ついた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その女子の声を聞いた瞬間、総介は自分の血が全て冷たくなる感覚がした。

 

 

 

 

 

 

(………三玖⁈………)

 

 

 

 

今の彼女の声で、彼は一発で分かった。

 

 

 

 

 

 

彼女は一花ではなく、恋人の三玖だということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒にキャンプファイヤーを踊ってください」

 

男が一花(三玖)にそう申し出る。

 

「え?私と?何で?」

 

 

 

 

 

 

「それは………好き……だからです」

 

 

 

 

 

 

 

男の告白を耳にした瞬間、総介は吐き気がするほどの強い嫌悪感に襲われた。変装しているとはいえ、三玖が告白されている状況に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれに激しく動揺する『自分自身』にも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………)

 

 

自分自身の動揺に、総介はまったくもって辟易してしまう。あの男は『一花』が好きで、本人だと思って告白したというのに、それが何かの理由で三玖が一花と入れ替わり、三玖が代わりに告白された。間違えて告白されただけで、これほどまでに心が揺れてしまうとは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………ガキだね、俺も……)

 

 

嫉妬というか、危機感というか……一瞬でそれに包まれた自分に呆れ果ててしまう。と、同時に、自分がどれほどまで三玖を独占したいというかということを思い知り、頭の中を自己嫌悪が覆い尽くしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……束縛激しいな、俺……)

 

この程度の事で危機感を持ったら、この先どうすればいいのだと、総介は眉間にシワを寄せて自己嫌悪の沼に陥っていくのだった。

 

 

 

総介のその様子を見た風太郎も、焦りを露わにする。どうやら、総介が三玖が一花に変装していることに気付いたようだ。

 

(み、三玖……)

 

風太郎は後ろを振り返り、彼女を心配する。すると、しばらく黙ったままの三玖が、男に対して答えを返した。

 

 

 

「告白してくれてありがとう………

 

 

 

 

 

 

 

 

でもごめんなさい。大事なことだから、少し考えさせてくれないかな?」

 

「今答えが聞きたい!」

 

「えっ」

 

男が一花(三玖)に食い下がる。

 

(やめろおおお!今は引いてくれ!頼むから!浅倉の顔が凄いことになってるから!)

 

風太郎は心の中で、男に向かって絶叫する。目の前には眉間にシワを寄せた、物凄い形相をした総介がいる、これ以上三玖に食い下がろうものなら、総介は何をするか分からないと、風太郎もある意味での危機感を募らせた。

 

「ま、まだ悩んでるから……」

 

「ということは可能性があるんですね!」

 

「いやあ……」

 

まだ食い下がっては自分に都合よく解釈する男。それに一花(三玖)も動揺してしまう。と、ここで男が何かに気づいた。

 

「おっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

中野さん、雰囲気変わりました?」

 

 

男が一花(三玖)に近づいていき、間近で顔を凝視する。この男……見かけによらず感は良い方のようだ。一花(三玖)はそれに固まってしまい、冷や汗を流す。

 

 

「髪………ん?なんだろ……」

 

 

 

マズイ。このままではバレてしまう……

 

 

「中野さんって、五つ子でしたよね……

 

 

 

 

 

………もしかして」

 

もうダメだと、一花(三玖)がたかを括ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一花、こんなところにいたのか」

 

 

「「!?」」

 

突然横から風太郎が現れた。彼はこのままいけばさらにややこしいことになるだろうと思い、事態を収集するために渦中へと飛び込むことにしたのだ。そんな彼の唐突の登場に、男と一花(三玖)、そして総介までも驚いた。

 

(………上杉……)

 

風太郎の行動に、総介は自己嫌悪のループから一旦抜け出した。下手をすれば自分に火の粉が飛んでくるかもしれないというのに、彼はそれを一身に引き受けることもやむなしと、一花(三玖)へと声をかけたのだ。

 

(………すまねぇ、上杉)

 

それを見て、総介は心の中で風太郎に礼を言った。タダでさえ彼には『大きな借り』があるというのに、これ以上借り作っちまってどうすんだと、総介は心を落ち着かせながらそう考えた。彼の行動が、自分を取り戻させてくれた。いつか、違う形で、必ず礼はする。だから………

 

 

(俺も出歯亀するとしますか、コノヤロー)

 

自己嫌悪に陥ってる場合では無い。今はまず、『三玖』に食い下がるあの男を何とかしなくては……総介も、この場に参戦する事を決めた。

すると既に、フータローと男の間で、少し小競り合いが起こっていた。

 

「お前の姉妹4人が呼んでたぞ。早く行ってやれ」

 

「ふ、フータロー……」

 

「何勝手に登場してんだコラ」

 

「誰だよお前コラ?気安く中野さんを下の名前で読んでんじゃねぇよコラ。お、俺も名前で呼んでいいのかコラ?」

 

何だか語尾みたいにコラコラ言ってるが、彼は決してアルコバレーノの赤ん坊の1人ではない。

 

「返事くらい待ってやれよ。少しは人の気持ち考えろ」

 

「フータローが言うと説得力ない……」

 

三玖が小さくツッコむ。この前にそのせいで五つ子の末っ子と仲違いしたのはどこの誰だったのだろうか。と、ここで……

 

 

 

 

 

「そうだぞ上杉。お前ついこないだ肉まん娘にさっき言ったような事したばっかじゃねーかよ」

 

「!?」

 

「!!ソ、ソースケ!!?」

 

「あ、浅倉……」

 

総介がここで参戦した。すると、一……いや、三玖は突然の恋人の登場に思わず名前を呼んでしまう。そして男の方も、黒パーカーを着た長身痩身のメガネな容姿をした総介の突然の登場に三玖と同じく驚きを見せるが、どうも様子がおかしい。

 

 

 

「お、お前は……あん時の!」

 

どうやら総介を知ってる様子のようだ。

 

「あ、浅倉、知り合いなのか?」

 

風太郎が総介に尋ねた。実をいうと、総介と男は、一年ほど前に面識があった。それは、男が総介と学校で人気の学食メニューを争った話だ。と言っても、総介がそれを頼んだ直後に、それが売り切れになって男が買えなかっただけなのだが……それに総介の見た目を見てイケると判断したのか、「テメェ割り込んだだろコラ」と難癖つけて絡んできた男を、当時ギラギラしてた頃(『刀』に所属していてバリバリ現役だった頃)の総介が男をあまりにもしつこくウザったいと思ったため、わざと挑発して一発顔を殴らせてから(頬にあざが出来ただけでビクともしなかったが)、カウンターで渾身の『鼻フックデストロイヤーファイナルドリーム』を喰らわせて、総介が一週間の停学処分(大門寺のコネで減刑、男はお咎め無しで手打ち)を受けたという、あまりにもくだらない話である………

 

男はあれから、総介に復讐しようと心に誓ったのだ。だが、探しても探しても、どこにいるのか見つからない。一花に恋をしてからもうそんな事どうでもいいくらい忘れかけていたときに、目の前に因縁の相手が現れたのだ。場は悪いが、今ここで復讐を果たさなければ、次はいつ会うかわからない。男は自分の力を誇示するため、彼にここで復讐しようと打って出た。

 

 

「よぉ、あん時以来だな、コラ。コイツと知り合いなのか知らねぇが、ここであん時の仮り、返させてもらうぞコラ」

 

そう言って両手の指をポキポキと鳴らす男。三玖、風太郎も合わせて、辺りに緊張が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……君、誰?」

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

「……え?」

 

 

 

総介は全く覚えていなかった。カケラも覚えていなかった。それどころか……

 

 

「あ……もしかして多串(おおぐし)君か?アララ、すっかり立派になっちゃって。何?まだあの金魚デカくなってんの?」

 

総介は男の肩に手を置いて、顎に指を添えて喋るが、男を何と間違えたのだろうか、よく分からない『多串君』の話をする。すると、男が総介の態度にキレたのか、肩に置いた手を払って大きな声で怒鳴り出した。

 

 

「お、俺は『前田』だコラ!間違えてんじゃねぇぞコラ!」

 

「名前も知らん奴のことなんかいちいち覚えてるかよ。あとお前はコロネロか?コラコラコラコラ、うっせーよさっきから。アレか、コラ画像漁んのが好きなのか?コラージュ大好き野郎ですかコノヤロー。んなもんはグラビアだけでやっとけ。ま、俺はああいうの嫌いだけど」

 

「お前何言ってんだコラ!意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞコラ!」

 

「お前他の誰かと間違えてんじゃねぇのか?知らんもんは知らんから、この話は終わりったことで。じゃな、多串君。じゃ、『長女さん』、遅れたら他の連中に心配されっから、とっとと行こうか。ほら、いくぞ上杉」

 

そう言って総介は三玖と風太郎を連れてこの場を去ろうとするが、男……『前田』がまだ食い下がる。しつこい。

 

「ま、待ちやがれ!まだ中野さんとの話が残ってんだろうがコラ!」

 

どこまでも一花(三玖)にこだわる前田に、総介は呆れてため息をついてしまう。

 

「はぁ……お前な、それは『この子』が『考えさせてほしい』って言ったんだ。好きな女の頼みも聞けねぇのか?え?」

 

「そ、それは、答えが今聞きたいだろうがコラ」

 

「そりゃテメーの都合だろうが。『この子』には『この子』の事情もあんだ。それを聞き入れずに無理やり迫るような真似しやがって……本気で好きなら、『長女さん』がちゃんと考えた答えを待ってやるもんが男ってもんだろうが。

 

 

 

 

それにな、本気で恋人同士になりてぇなら、キャンプファイヤーの言い伝えなんかんダシにしてんじゃねー。そんなくだらねぇもんにかこつけて彼女手に入れようと考える奴ぁ腹立つんだよ。

アレか?チキってんのか?イベントを利用しなきゃ好きな女にも告れないニワトリ君ですかコノヤロー。だったらテメーのそのトサカみてーな頭も納得だな。ホレ、『コケコッコー!』つってみ?」

 

「んだとコラァ!」

 

総介の物言いに、前田もブチ切れ寸前、まさに一触即発の状態だ。三玖と風太郎の2人が慌てて2人を止める。

 

「や、やめろ多串君!浅倉も!これ以上挑発するな!余計ややこしくなるから」

 

「だから前田だって言ってんだろコラァ!」

 

「そ、ソース……浅倉君も落ち着いて。悪口言っちゃダメ」

 

総介は三玖が止めたことで、喧嘩腰になりそうだった態度を落ち着かせるが、前田はそうはいかない。

 

「テメー何中野さんとイチャついてんだコラ!」

 

そりゃ恋人同士なんだからイチャつくわな……三玖、総介が来た時嬉しそうだったし……と、ここで、三玖が総介に小声で話しかける。

 

「(ソースケ、私に任せてほしい)」

 

「(………いいの?)」

 

「(うん、うまくやるから……)」

 

「(……わかった)」

 

そう三玖の言葉を信じた総介。三玖は前田へと振り返り、彼へと話しかける。

 

「………話を聞いてほしいの

 

 

 

 

 

 

 

多串君」

 

 

 

「いや中野さん、俺前田だってば……」

 

その前田の気の抜けたツッコミを無視して、一花(三玖)は話を続ける。

 

「私とダンスを踊りたいってことは、私と付き合いたいってことだよね?」

 

「……お、おう」

 

「……じゃあ、やっぱり今は答えられない。男の人と交際するのは、小さなことじゃ無いし、本当に信頼できる人でも、友達としての付き合いと恋愛感情は違うから……ちゃんと考えて、ちゃんと答えを出したい。それまで、待っててほしいの……」

 

「………」

 

「それに……まだここに転校して来て、少ししか経ってないし……『よっぽど信頼できるような人』がいない限りは、私は誰とも付き合うつもりは無いから……」

 

三玖はその言葉と同時に、総介の方に少し振り向いた。彼も、少し口を緩めて微笑む。すると、彼女の話を聞いた前田は何を勘違いしたのか、急に「くそーっ!」と叫び出した。

 

「林間学校までに彼女作りたかったってのに、結局このまま独り身かーっ!」

 

そう残念がる前田を、総介は「あーいるいる、こういうイベントまでに彼女作って一緒に楽しんで、あわよくばヤるところまで持って行こうとする奴な」と嫌味ったらしく毒づいて汚物を見るような目で見下すが、三玖は彼に気になったことを尋ねる。

 

「あの……私が今聞くことじゃないと思うんだけど

 

 

 

 

 

 

なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

 

 

「……中野さんがそれを言うか?

 

 

 

 

そーだな、とどのつまり

 

 

 

 

 

 

 

相手を独り占めしたい

 

これに尽きる」

 

 

 

 

 

 

「……それは思う」

 

それに何故か総介が答えた。そのまま総介は話を続ける。

 

「テメーの言うように、好きな人を独り占めしたいってのは当然の感情だ。それは否定しねぇ。

 

 

 

 

でもな、それがテメーだけの感情かもしれねぇってことを忘れんな。相手がどう思ってんのか、それを考えた上で好きって想いをぶつけやがれ。さっきテメーは『考えさせてほしい』っていう『この子』の思いを無視して、自分が独り占めしたいって考えを最優先させた。んなもんで好きな人が振り向くわけねぇだろ。テストで言えば赤点も赤点だ。少しでも相手の考えを尊重できるようにしやがれ」

 

総介の話を黙ったまま聞く風太郎と三玖。すると、前田が総介を睨みながら口を開いた。

 

「……んだよ、テメェ分かったような口聞きやがって。まるでテメェが彼女いるみてぇにじゃねーかよ……」

 

そう吐き捨てた前田に、総介はとんでもない爆弾を投下した。

 

「そりゃ少なくともテメーよりは分かるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって俺の彼女、この『長女さん』の妹だもん」

 

 

 

「えっ!!?」

 

「なっ!!?」

 

 

三玖と風太郎が口を開けて絶句した。

 

そして

 

 

 

「え………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日1番の前田の絶叫が、校舎全体にこだまするのだった。

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

あの後、前田に色々と説明をして、ようやく下校することになった総介、三玖、風太郎の3人。三玖は既に一花の変装を解いており、首に彼女のトレードマークの青いヘッドホンをかけている。

 

下校する最中、総介が三玖へと声をかけた。

 

「いやほんと驚いたよ。どういうわけか、三玖が長女さんの変装して、男に告白されてんだもん。一瞬パニックになったまである」

 

「……ごめんね。一花が、『クラスの子に林間学校で決めてないことがある』って言ってたから、油断してた」

 

あの後、三玖と風太郎から大体の事情を聞いた。どうやら一花は撮影とクラスの子の呼び出し(実際は前田の告白)がバッティングしてしまい、三玖を代理として送ってあのような状況になったようだ。

 

「ややこしいことしてくれやがって。長女さんは今度『OSHIOKI(オシオキ)♡』が必要だな」

 

「あ、あはは、そうだね……」

(一花、ご愁傷様……)

 

不可抗力とはいえ、かなりややこしい事態にまで発展させた一花には後日、三玖からの説明とともに総介のきつ〜い『OSHIOKI(オシオキ)♡』が執行された。あまりにも酷く、羞恥に溢れたものだったため、この場では記載しないでおく。そのまた後日、一花(本物)が前田へと正式に断りの返事をしに行ったのは別の話……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう、ソースケ」

 

3人で三玖は総介に礼を言った。すると、総介は少し考えて三玖の方を向き、こう答えた。

 

「……俺じゃないよ」

 

「え?」

 

総介が後ろを振り向く。そこには、2人の後に続いて歩く風太郎の姿があった。

 

「あの時、上杉が三玖に声をかけながら、俺はパニック状態のままから抜け出せなかった。あの時、上杉がにの一番に行動を起こしてくれたから、俺も続いて行けたんだ」

 

「……そうなんだ」

 

2人が立ち止まって風太郎を見つめる。それを等の本人は、前を歩くカップルにそう言われて、少し戸惑ってしまった。

 

「……ど、どうしたんだ?」

 

その少し困ったような声に、総介が頭をかきながら最初に答えた。

 

「上杉……一回しか言わねーぞ、ちゃんと聞きやがれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとな、三玖を助けようとしてくれて」

 

 

 

 

 

 

 

「……お、おう」

 

普段はミク以外に礼などほとんど言わない総介が、少し照れて目を逸らしながら感謝の意を示した。風太郎も、誰かに感謝をされるのも久々なので、それに釣られて頬を赤くしてしまう。

 

 

 

 

今BLタグ入れろとか言った奴、廊下に立ってなさい!

 

 

 

 

総介に続いて、三玖も風太郎に礼をする。

 

 

 

 

 

 

「私も、

 

 

 

 

 

ありがとう、フータロー。

 

 

 

 

 

 

あの時、私を助けてくれて」

 

 

「………お、おう」

 

 

 

三玖のニンマリと微笑んで礼を言う姿に、風太郎はますます顔が赤くなってしまう。

 

 

(や、やべ……浅倉が三玖に優しくする理由、少し分かった気がする)

 

風太郎は今の笑顔で、三玖の女としての魅力が、出会った時より格段に上がっていることを感じた。初恋を経験したからだろうか?恋人ができたからだろうか?

 

 

 

 

 

それとも、名実共に総介に『女』にしてもらったからだろうか?

まあそれを風太郎が理解するときは相手が現れるまで来ないんですが……

 

 

「さて、帰るか」

 

「うん」

 

そう2人が掛け合うと、総介と三玖は自然と手を近づけて繋いだ。遠慮なくガッチリと手を握りあいながら帰る2人を、風太郎は少し見惚れてしまう。

 

 

(………はっ!………お、俺は今、何を……)

 

 

一瞬、ほんの一瞬、思ってしまった。『恋人関係って、いいものだな』と。そして目の前にいる2人を、かつての自分と京都で出会った女の子(・・・・・・・・・・)と重ねてしまった。あの日、自分の初恋となった女の子……

 

(………会いたいな………)

 

総介と三玖の仲睦まじい様子を見てたら、そう思えてきてしまう。そして三玖を見てたら、その女の子を何故か思い浮かべてしまう。

 

(………まさかな……)

 

あり得ないことだなと、風太郎は首を振りながら、2人の数メートル後ろを歩き続けた。もう今の自分には無理なんだと、諦めをつけて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その女の子が少し前から、すぐそばにいることを未だ知らぬままに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は経ち林間学校前日、一つの事件が起きてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




総介とて決して万能ではありません。
嫉妬ぐらいしますし、三玖が告白されたら、焦りもします。
ただ彼の場合は、ほんの少し特殊です(これ以上は続きを乞うご期待)。
あと、総介×風太郎は無いっスよ(笑)



今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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