まあ原作は原作として、『嫁魂』世界の三玖は総介と幸せになりますんで
そういえば、随分前に『二乃の出番を増やしてほしい』というご要望を感想でいただいてたんですが………フフフフフフ(意味深)
時は流れて、林間学校を明日に控えた日の放課後。総介と三玖、さらには風太郎、二乃、四葉、五月の6人は、以前に総介と三玖がデートをしたショッピングモールへと足を運んでいた。
理由は、林間学校へ着ていく服や備品を買い揃えるためである。なお、既に買い物を終えているはずのこの場にカップル2人がいるのは、以前のデートで大体のものは揃えていたので、買い忘れたものを買うためについてきたのだ。
一花は……撮影じゃないスか?
そして、姉妹たちは私服に乏しい風太郎に似合う服を、彼に着せながら遊んで……もといコーディネートしていくのだった。
「上杉さんが林間学校に着ていく服を見繕いました。地味目なお顔なので、派手な服をチョイスしました」
「多分だけど、お前ふざけてるよな?」
のっけから風太郎に失礼なことを言う四葉。彼女が選んだ服は小さな子供が描いたような動物がたくさんプリントされた上着と、つばを後ろにかぶったキャップである。なんかこう………ガキ大将っぽい。
「フータローは和服が似合うと思ってたから、和のテイストを入れてみた」
「和そのものですけど!」
そんな三玖が選んだ服は、ご想像の通り、和服。完全に和服。圧倒的和服である………動き辛そう。そして三玖はかわいい。
「私は男の人の服がよくわからないので、男らしい服装を選ばせてもらいました」
「お前の男らしい像はどんなだ」
五月が選んだ服はドクロの描かれたノースリーブのインナーシャツに、パンク風のノースリーブのレザージャケットにレザーのパンツ、指出し手袋……なんかもう、これで頭をモヒカンにしたら某世紀末である。
「ヒャッハァァア!!五つ子だぜぇ!!」みたいな……んでお次は、
「もうコイツはこれでいいだろ。さっきゴミ捨て場に落ちてたのを切って作った。感謝しろ」
「オマエ、俺ノ服ヲ真面目二選ブ気ナイダロ?」
三玖がいるからという理由だけでついてきた総介は、ここまで来る途中に先程ゴミ捨て場に置いていた段ボールの山を切り取りくっつけて、段ボールのスーツ、段ボールのパンツ、ネクタイはその辺に落ちていた季節外れの七夕の短冊をチョイスした。……てかこれ、『銀魂』でマダオ………長谷川さんが着ていたヤツそのまんまである。
さて、最後は二乃なのだが………
「………」
「あ、二乃本気で選んでる」
「ガチだね」
「ホント空気読めよ。ラーメンばっかり食いやがってよぉ」
「誰が『ラーメン大好き小泉さん』よ!あんたたち真面目にやりなさいよ!」
唯一、ちゃんと服を選んだ彼女が浮いてしまい、皆から悪態をつかれる始末である。
とまぁ、そんなこんなで、風太郎は1人の男と4人の女にオモチャにされながら、買い物は進んでいくのだった。
………………………………
まぁそんなこんなで(2回目)、風太郎で遊ぶのに飽きた一行は、真面目に買い物をして、次の店へと移動していた。
「ふー、買ったねー」
「三日分となると大量ですね」
「お前ら洋服に一万二万って……俺の服40着は買えるぞ」
「こんなの安い方よ」
「40ってお前、1着500円前後じゃねーかよ……(そういや海斗の服、あのコート確か1着で15万したっつってたな)」
総介がどっかの金持ち幼馴染を思い出していた時、三玖が風太郎に紙袋を渡した。中には先程皆で選んだ服が入っている。……いや、ちゃんと選んだヤツだからね。
「はい、フータロー。お金はいいから」
「……しかし……」
渡そうとする三玖に風太郎は難色を示すが、総介がそれに押しを入れる。
「受け取ってやれよ。流石に古着ばっかはクラスの奴らの前でカッコつかねぇだろ?」
「……すまん」
ひと言言って、風太郎は紙袋を受け取った。そんな周りの様子を見た四葉の言葉で、周りにいた5人がピタッと止まった。
「うーん、男の人と服を選んだり、一緒に買い物するって……
デートって感じですね!」
「………」
「………」
「………」
「女4対男2のコレがデートだったら、俺と上杉はどんだけ甲斐性なしなんだろうな?」
「……私は現在進行形でソースケとデートしてる」
流石に恋人同士の2人は、一瞬止まったものの、動揺することなく口を開いて再び歩き出す。これぞ風格!カップルの風格!!圧倒的カップル!!!
「………」
そんな2人の背中を、二乃は閉じた口の中で歯を噛みしめながら眉間に皺を寄せる。
「……これはただの買い物です」
異性に対して潔癖な五月も、四葉のデート発言をバッサリと切り捨てる。
「学生の間に交際だなんて不純です」
「悪かったな肉まん娘」
「五月は古風な考え方の子だから」
「な〜るほどね〜」
その交際している学生が目の前にいるというのに、ズバッと斬り込む五月だが、総介は意に介していないようで、三玖の補足に耳を貸す。
「あ、上杉さんみたいなこと言ってる」
先日風太郎が言ったことをまんまコピった発言に、四葉が反応するが、五月は無視して何故か風太郎に向かって迫って行く。
「一緒にしないでください。あくまで上杉君とは教師と生徒、一線を引いてしかるべきです」
「言われなくても引いてるわ!」
五月の言ってる事が正しいのなら、一線どころか、もうなんか色々な城壁を悠然と跨いでいった総介と三玖の関係はどうなってしまうのだろうか……
「「………」」
2人はジーっとジト目で五月を見るが、彼女はややこしい事態は避けたいのか、プイッと目を逸らし、見て見ぬ振りをしてその場をやり過ごす。
「ほら、そんなヤツほっといて、残りの買い物済ますわよ」
そんな時に二乃が、五月へと声をかけた。
「……そうですね。あなたはここで待っていてください」
「……は?」
そう言い残して、その場を去ろうとする二乃と五月。だが何故か、風太郎は2人の後と追おうとする。
「なんでだよ」
「いいから待ってなさい!」
「そうはいくか、俺の服を勝手に選ばれたんだ。お前らの服も選ばせてもら……」
「下着!」
「買うんです!」
「……待ってまーす」
しつこく追いかけてこようとする風太郎を2人は振り向いてひと言で止めた。
「デリカシーの無い男ってほんとサイテー!」
全くだ。そんなのは五月が待っていろと言った時点で少しぐらい察して欲しいものである。二乃の言う通り、風太郎は本当にデリカシーの無い男である。
「お前ら〜ほどほどにエロくないパンツ買えよ〜」
「地獄に落ちろクソ陰キャ!!!!!」
「変態!!!最低です!!!」
……もっとデリカシー無い奴がいた。
………………………………
2人の姿が見えなくなったところで、総介と三玖は別方向へと向いて歩き出す。
「んじゃ、俺と三玖も、そこら辺ブラブラしてから帰るわ」
「はーい」
「四葉、フータローをよろしくね」
「まかせて!」
「俺は子供扱いかよ」
少し会話を交わしてから、総介と三玖は手を繋ぎ合って、その場を去っていった。……このカップル、だんだんと自重しなくなってきている……
そしてこの場に残されたのは、風太郎と四葉の2人きりとなった。
「はー……じゃあ、俺も帰る」
「上杉さん!」
四葉に背中を向けて、ため息をつきながら帰路につこうとする風太郎を、四葉が名前を呼んで止めた。
「明日が楽しみでもしっかり寝るんですよ」
「言われなくても寝るよ」
「しおりは一通り読みましたか?」
「読んでねーよ」
「サボらずに来てくださいね」
「あーわかったわかった」
「うん偉い!最高の思い出を作りましょうね!」
小学生の親子のようなやりとりをした後に、四葉は満面の笑みで風太郎に言った。そんな時に、風太郎の携帯から電話の着信音がする。それをポケットから取り出して、耳へと当てる。
「はい、上杉です…………え?
らいはが……?」
物事はいつも上手くはいかない。五つ子の家庭教師を始めてから風太郎は、それを嫌というほど味わってきた。そしてまた、それを再び味わうこととなる………
………………………………
一方、風太郎、四葉と別れ、2人で軽いショッピングを楽しんだ総介と三玖は、一足先にショッピングモールを後にし、仲睦まじく指を交互に絡ませて手を繋ぎながら帰路についていた。残してきた2人の事情を知る由もないバカップル2人は、明日から始まる林間学校の話をしながら、三玖の自宅へと総介が送っていく形となっていた。
「……明日だね、林間学校」
「うん、そうだね」
「あまり、ソースケに会えなくなっちゃうの、寂しい……」
林間学校は普段とは違い、クラスや班で行動することとなり、拘束される時間の方が多い。2人はクラスが違う分、余計に疎遠になってしまうのは自然と見えて来る。唯一許された自由時間も、クラスメイトの好奇の目や、先生達の監視がある分、どうも長い時間話をするのは難しいだろう。
そのことを改めて感じた三玖は、自然と握り合うての力を強めてしまう。総介も、少し斜め下を向いて俯く彼女の思いを察し、歩きながら話を進めた。
「そんなことないよ。自由時間に2人きりの場所を探して会えばいいし、実習の時もなにかと動いたりするから、その時に三玖に会いにいくよ」
「……うん、ありがとう」
優しくフォローしてくれる総介に、三玖は顔を赤くしながらお礼を言う。この男、さっきまで三玖の姉妹にセクハラしてた時とは大違いである。まぁ今に始まったことじゃないんだけれども……
「……ねぇ、ソースケ」
「どうしたの?」
三玖は顔を上げて、頬を赤く染めて総介を見ながら、先日話題になったことの話をした。
「さ、最後の日の、キャンプファイヤーのダンス……私と、踊ってほしいの」
ドキドキしながら、三玖はその願いを口にする。四葉に言われた時は、そんなに気にはしていなかったが、多串君(前田)との一件から、三玖はキャンプファイヤーのことを考えるようになった。
もし最後に一緒に踊っていれば、その後一生を添い遂げられる。
でももし、総介に別の踊る人がいたなら……
まぁ三玖大好きな総介が別の女子とペアになるなんてあり得ない話なのだが、一応万が一のこともあると、三玖の中に一抹の不安が残っていた。
「……三玖はあの言い伝え、信じてるの?」
「……分からない……でも、2人が結ばれるのが本当なら……私は、ソースケと踊りたい、から……」
三玖は今の気持ちを、総介に正直に伝えた。すると、総介が小さくため息をついてから、話し始める。
「はぁ……俺は正直、あんな噂は信じてない」
「え……?」
「たかがダンスひとつでその後の人生決められるとか、アホらしくて仕方ないからね。もしそれで結ばれても、結局あのダンスのおかげってなるのは、俺はちょっと後味悪いかな」
「……そう」
三玖は下を向いて、なんとも言えない複雑な表情となってしまう。せっかく勇気を振り絞って言ったというのに、アホらしいの一言で片付けられてはそれは落ち込んでしまうものだ。たかが言い伝えでも、恋する乙女からしたら、一回ポッキリの、好きな人とのかけがえの無い時間なのである。それを恋人に冷たく跳ね返された……
いつの間にか、強く握っていた手の力が抜けていく。
それが離れようとしたその時、総介はしばしの沈黙の後、三玖の俯く頭を少し見て、言葉を続けた。
「……三玖、聞いてほしい」
「……何?」
少し、いやかなり不機嫌な返事が、三玖から返ってくる。総介にとっては想定内である。彼は歩みをとめ、三玖と手を繋ぎあいながら向かい合う。いつの間にか2人は、五つ子の住むタワーマンションである『
そして……
「……俺はそんな言い伝えを理由にして、三玖と踊りはしない」
「……え?」
その言葉は、三玖にとっては非情な宣告のように聞こえた。目の前がブラックアウトしかけるが、総介はそのまま言葉を続ける。
「俺が三玖を好きになったのは、俺自身の意思だ。もし、万が一他の女と踊ったとしても、俺は三玖への想いは変わらないし、その女が言い寄ってきても、それに応えるつもりは毛頭ない」
「……ソースケ…?」
「三玖、君がその言い伝えを信じたい気持ちも、分かるよ
でも俺は、そんな言い伝えひとつで揺らいだりなんかはしない
俺が好きなのは………愛してるのは、三玖だけだから
そう、俺自身が決めたから
君が願い続ける限りは、君を愛し続けると
俺の魂に誓ったんだから
そんなどこの誰が作ったかも知らんくだらん伝説で、俺の魂は折れやしない
だから俺は、どんなことがあっても、三玖以外を好きになることなんてないよ
安心して
俺が三玖のそばにいたいと思う限り
三玖が俺にいてほしいって想う限り
そんな言い伝えに頼らなくても、俺は君のそばにいるから」
ね?と、話を区切って、総介は三玖を引き寄せ、胸の中へとすっぽりと収めた。三玖も、自分に真剣な眼差しでそう言ってくれた彼がとてつもなく愛おしく、彼の自分へと愛に胸が一杯になり、顔を赤くさせて全てを受け入れる。他の人間が聞けば、総介の言ったことはイタいセリフに聞こえるだろう。だがそれでも、三玖にとっては自分への不動の愛を誓ってくれる、愛する人の言葉なのだ。嬉しくないはずがない。
「……ソースケ……」
「……俺は、伝説とかそんなの関係なく、三玖と踊りたい。ただ単純に、好きな人と踊りたい。でも、三玖がどうしても他の人と踊りたいって言うなら、俺は引くけど」
「そ、そんなことない!」
総介の胸に顔を埋めていた三玖が、上を向いてブンブンと首を横に振る。
「私は、ソースケと踊りたい。ソースケじゃなきゃやだ」
「三玖……」
「ソースケは私に、大事なものたくさんをくれたから。勉強も、一緒の時間も、料理も、愛も……だから、何も関わって無いような他の人と踊るのなんて考えてない……その、伝説が理由じゃなくても、私はソースケと……一緒に過ごしたいの……たった一回の、林間学校だから……」
「………三玖」
「きゃっ」
三玖は自分が言える言葉で、総介に伝えたいことを精一杯伝える。無論、それが届かない訳がなく、総介はもう一度、三玖を力一杯抱きしめた。その際、三玖は驚きの声を発するが、あまり気にせずに総介の背中に手を回す。
「……ありがとう。すごく嬉しいよ」
「……うん。私も、嬉しい……」
片方の手を三玖の頭へと置いて、優しく撫でる。柔らかい髪の間を指が通る感触が、このままずっと撫でていたいと思わせるほどに、総介に癒しをもたらし、三玖も、頭を撫でられる感覚がとても心地良く、いつまでも愛する人の胸元で抱きしめられていたいと願うほどに、安らぎを与えてくれる。
しかし、冬も近い季節の風がその場を通り過ぎたことで、2人は寒気を感じとり、マンションの中へと入ることにした。
「エントランスまで見送るよ」
「うん、ありがとう」
……何気ない会話で、こんなに幸せになれるのは、自分の心の内の全てを、この人にさらけ出せたからかもしれない。自分の好きなものを褒めてくれて、自分に勉強をたくさん教えてくれて、成績も上げてくれて、5人の中から瞬く間に自分を見つけてくれて、身を投げ出して悪い人達から守ってくれて、自分の嫌いな部分を優しく包み込んで受け入れてくれた。
私は今、生きている中で、ソースケより好きな人に会えるのだろうか。
いや、考えるだけ無駄だった
答えはもうわかっている
そんな人は、永遠に現れない
私がこの世界の中でこんなにも愛したのは
私を『中野三玖』として見てくれた
『浅倉総介』ただ一人なのだから……
「ここでいいよ」
「……そっか」
「ありがとう、ソースケ」
エントランスのオートロックの前まで到着した2人は、本日はここでお別れとなる。カードキーを通して、スライドしたドアを通るその前に、三玖は総介の方へと振り向いて、目を閉じた。総介も、もはやいつものことのように、下に屈みながら、身長差を埋めて、顔を近づけていく。やがて、2人の唇の距離は0となり、触れるだけの口づけを数秒交わした後、ドアが閉まる前に通過して、最後の挨拶を交わした。
「またね、ソースケ」
「またね、三玖」
その言葉の直後に、ドアが閉じ、総介は三玖の姿が見えなくなったところで、振り向いて自宅への道を歩き始めた。
「……林間学校か……何もなきゃいいが……
やべ、フラグ立てちった」
そんな総介の心配はもう遅く、フラグはその発言の前に既に立っていた。そんなこと、今の彼には知るはずもないことだ。とりあえず、彼にはこの言葉を贈ろう。
総介爆発しろ。
………………………………
林間学校当日の朝。
生徒たちが出発するバスの前で待機する中、総介も例外ではない。彼は海斗と共にバスの出発時間を待っていた。
「ふぁ〜、とっとと出ねーかな〜。もう待ちくたびれちまったぜコノヤロー」
「あと10分ほどで出るみたいだね。そうなれば、バスの中で寝放題だよ」
「てか、もう中入っても良くね?中で待たせてくれよ」
「そう思うんだけどね………ん?」
何気ないいつもの会話をしていた2人だったが、ここで海斗が、別の方向を見て、再び総介へと顔を向けた。
「……総介、どうやら君の退屈な時間は無くなったみたいだ」
「あ?何でだよ?」
ほら、と海斗が指さした方向を見ると、そこにはこのバスの前にいるはずの無い人物がいたからだ。それは………
「……浅倉君」
………………………………
一方、風太郎はというと、前日に体調を崩した妹のらいはの看病をしたまま、自宅でバスの出発時間を迎えていた。そこに急いで帰ってきた父『勇也』が、看病を継いて、風太郎を林間学校へ行かせようとするが、彼は諦めてしまったのか、虚な目で答えるしかなかった。
「一生に一度のイベントだ。今から行っても遅くないんじゃないか?」
「……バスも無いし、別に大丈夫だ」
もうどうでもいいかと、思ったその時だった。
「あー!!お腹空いた!」
らいはが、元気な姿で飛び起きたのだ。
ピィー!ピィー!
「え…らいは?……熱は?」
「治った!」
ピィー!ピィー!ピィー!
「なんでお兄ちゃんまだいるの?ほら早く行った」
「お前!俺の気遣いを返せ!!」
らいはは風太郎の背中を押す。
ピィ、ピィ、ピ・ピ・ピ!ピ・ピ・ピ・ピ・ピィピィー!!
「うるせぇなさっきからピィーピィーピィーピィー!ちょっと注意してくる!」
勇也は外へと出て行き、先ほどからするクラクションの音を注意しにいく。
その途中でも、らいはは気にせずに兄を林間学校へ行かそうとする。
「お兄ちゃん、ありがとう!私はもう大丈夫だから、林間学校行ってきて」
「だから、バスが……」
もう行ってしまったバスを今更戻してもらうわけにはいかないと、考えていたところで、勇也が戻ってきた。
「おい、風太郎、お前に客だぞ」
「客?」
「外出てみろ」
勇也の言葉に、風太郎は外へと向かって客とやらを確認しにいく。それにらいはもトコトコとついて行った。
玄関を開けて、彼は自分の視界に飛び込んできたものに、目を疑った。
「なっ!お前!?」
そこには……
「どうも〜、万事屋銀ちゃんで〜す」
銀色の『ベスパ』に跨ってヘルメットを被った総介がいたからだ。
「あ、浅倉!?何で、お前……」
「あ〜!!『あさくらさん』だ〜!」
風太郎はここにいる彼に呆気にとられるが、後ろからヒョコッと姿を見せたらいはが、総介を指差して彼がいることを喜ぶ。
「ようらいはちゃん。元気か?」
「はい!昨日寝込んでたけど、もう元気です!」
「……なるほど、妹の看病でずっと家にいたっつーわけか。シスコンは腐ってもシスコンだなぁオイ?」
「いや意味わかんねぇよ……ていうか、何でここに……バスは?」
「バスならもう行った」
「……じゃあ何で」
風太郎はどうして総介がここにいるのか、気になってしゃあないようだ。それをきかれた総介は、肩をすくめながらここに来た理由を説明する。
「……まぁ言うとアレだ、どっかの肉まん娘のお節介の結果だよ」
「い、五月が?!」
そこから総介は、ここまで来た経緯を簡潔に説明し始めた。まぁ読者の皆さんには時間を戻して一部始終をご覧いただこう。
………………………………
「……上杉が来てない?」
「はい……連絡もまだ……」
「……それで、俺にどうしろってんだよ……?」
「……お願いです!上杉君を迎えにいくのを、手伝ってくれないでしょうか?」
総介の前に現れた五月は、状況の説明をして、総介に頭を下げて頼み込んだ。総介はしばらく黙り込んだ後、頭を下げたままの五月に向かって
尋ねる。
「………それはお前からの『依頼』って事でいいんだな?」
「……はい。そう思ってもらって構いません。ですからry」
「やだよ、めんどくせぇ」
「……え?」
総介の発言に、五月は信じられないような顔をして、頭を上げた。
「なん……で?」
「今更迎えに行ったって、めちゃくちゃ手順かかんじゃねーか。そんなしんどい依頼頼んでこられても、俺ァごめんだね。つか、早く寝てーし」
「………」
「……そんな……」
総介が五月の依頼を冷たく断るのを、彼の後ろにいた海斗は黙って聞いている。そして五月は、自分が風太郎のために頭を下げてまで頼み込んだことを死んだ魚の目のままあっさりと断る彼を見て、怒りと軽蔑のような感情が湧いてきた。
「そんなに……他人に興味が無いんですか?」
「ああ無いな。どこで不幸に会おうが、どこでのたれ死のうが、俺には関係ねぇ。どうぞ好きにしてくれっての」
「……そんなに、三玖だけが大事なんですか?」
「ああ大事だね。それ以外はどうでもいい。言っとくが、お前らもそうだ。三玖以外のお前ら姉妹は、俺にとっちゃただの教師と生徒、一線を引いてしかるべきだ。そうだろ?」
「っっっ!!!!」
昨日、自分が風太郎に言った言葉をそのまんまの形で自分に返された。屈辱以外のなにものでもない。五月はもうあらゆる感情が交錯して、涙が出てきてしまった。今目の前にいる男に、この上なく怒りが湧いてきたからだ。
「あなたは……」
「……」
「あなたは人間じゃありません!鬼です!悪魔です!!人の気持ちを知ろうとせずに踏みにじる化け物です!!!」
息を荒げてしまうほどの声量で大きく叫んだことにより、周りにいた生徒が五月達の方を向く。それを総介は、知ったことかと全く気にせずに、口を開く。
「……分かってんじゃねーか」
「……」
「……けどな、肉まん娘……お前はまだ知らねーみてぇだな」
「……何がですか?」
軽蔑の眼差しを総介に向けたまま、五月は総介に問いかける。
「鬼だろうが、化け物だろうが、どんな生き物でもな、『借り』はぜってー返さなきゃいけねーんだよ」
「……?」
総介の言っていることを、五月はイマイチ理解できていない。しかし
総介の後ろにいる海斗は、今の発言ですべてを察したようで、口元に笑みを浮かべる。
「お前の依頼なんざ知ったこっちゃねー。いくら頼んでこようが、めんどくせぇから、やるわけねーのは変わらねぇ。
けどな、それがデカイ借りを作っちまった相手なら、話は別だ。
オイ肉まん娘。お前さん上杉の住所知ってんだろ?」
「……は、はい」
「今すぐ教えろ。それと、お前も頼みにきたってこたぁ、お前も遅れる覚悟があるってことだよな?」
「………はい」
五月の答えに、総介は笑って返した。
「上出来だ。車の用意頼むぜ。俺ァ上杉を迎えに行ってくる」
「!!そ、それじゃあ!!」
「上杉を今から迎えにいく。言っとくが、お前の依頼じゃねーぞ。ヤローのために動くのはあくまで俺の個人的感情だ。そこんとこ間違えんなよ?」
「か、構いません!住所は……」
五月が総介に風太郎の住所を教えている間、海斗は総介を見ながらこう思っていた。
(どんなツンデレだよ)と……
風太郎の現状を聞いた時点で、海斗は総介が彼の元へ行くと確信していた。彼はなんだかんだで面倒見が良い、『断わらない理由』を探す男だからだ。最初は少し心配したが、結局は彼の嫌いなツンデレで事を済ますとは、なんという皮肉だろうか……
と、五月から住所を聞き終わったのか、総介は海斗の方へと向かってきた。
「すまんな、ちょっくら上杉迎えに行ってくるらぁ」
「……わかった。先生には伝えておくよ」
「サンキュ。あとは頼んだぜ、相棒」
「まかせろ、相棒」
2人は拳をコツンと合わせて、逆の方へと向かっていく。そうして総介は、最低限の荷物を持ったまま一旦帰宅して、愛車である銀色の『ベスパ』に乗って、五月から教えてもらった住所へと、愛車を走らせるのだった。
………………………………
「………てな訳だ、ほら、とっとと行くぞ」
「………浅倉、俺、お前に何も」
簡単に説明した総介は、風太郎に後ろに乗るように催促するが、風太郎は貸しを作った覚えはないと言いたいのだろうか、未だ渋っている。
「……貸したさ。テメーは、俺にデケーもんをな」
「……それって、一体……」
風太郎が聞いた瞬間、少し強めの風が、2人の間を突き抜ける。それと同時に、総介は彼に向かって、借りたものを伝えた。
「上杉………
お前がもしあん時、『助っ人』を頼んでくれなかったら、
俺は今、三玖と恋人になってねーんだ。
お前が来てくれたから、俺は三玖とまた会うことが出来た
それだけの話さ」
「…浅倉……」
「ほら、説明したんだ、行くぞ。『みんな』待ってる」
「え?」
総介の発言に疑問を覚えた風太郎だが、直後に予備のヘルメットを渡されて、強制的に後ろに乗せられる。
「んじゃ、上杉借りてくな。3日後に返すからよ」
「はーい!いってらっしゃーい!!」
らいはに軽く挨拶をしてから、総介はエンジンをブンブン言わせて走り出した。
「つかまってろ。飛ばすぞ」
「は?ちょっまっ!?」
そう言って、法定速度ギリギリ、時にはちゃっかりオーバーしてる時もあったりな感じで、総介が『ベスパ』を走らせた先は、姉妹の住むマンションの『PENTAGON』だった。そこに到着した総介と風太郎。
ベスパから降りた風太郎を待っていたのは……
「ソースケ!フータロー!」
「おそよー」
「上杉さん!浅倉さん!こっちこっち」
「ったく、何してんのよ」
「急いでください、もうすぐ出発します」
その光景を見た風太郎は、絶句してしまう。そんな彼に総介がこの状況の補足を入れる。
「……まさか全員残るとは俺も思わなかったわ。あの黒リボンも、みんな残るならって言って行かなかったみてぇだけどな」
「……五月……」
風太郎は、この状況を作ったうちの1人の五月に声をかけてる。
「……肝試しの実行委員ですが、暗い場所に一人で待機するなんてこと、私にはできません。
オバケ怖いですから、あなたがやってください」
どう見てもツンデレのテンプレです。本当にありがとうございました。
(本当は試験で上杉に迷惑かけた罪滅ぼしのくせに……)
総介はそう心の中で思いながらも、めんどくさいので言うことはしなかった。そのまま『ベスパ』を手で押して、四葉に止める場所を尋ねた。
「これ、どこ止めりゃいい?」
「あっちに来客用の駐車スペースがありますから、そこを使ってください!」
「うい〜」
「……ソースケ、今度私も、乗せて欲しい」
「うん、いいよ。運転は流石に駄目だけど、後ろならいつでも乗せるから、また言ってね」
「うん。……やった」
三玖は小さく両手でガッツポーズをする。かわいい。
「にしても浅倉君、バイクの免許持ってたんだね〜」
「原チャだけだけどな。夏休みにとった」
そんな会話を姉妹と交わしながら、総介は愛車を駐車スペースに駐めに行った。一連の様子を見た風太郎は、少し安心して、首を回しながら呟いた。
「……仕方ない、行くとするか」
(……ありがとな、浅倉、五月)
心の中で、いつか本人に言うつもりも含めて、礼を言う。すると、生徒手帳を落としてしまったようで、二乃がそれを拾った。
「……もう、見られたくない写真が入ってるなら慎重に扱いなさいよ」
「あ、悪い」
二乃は手帳を開き、挟んであった写真に写るクソガ……もとい金髪の少年を見つめる。
「いつ見てもタイプの顔だわ。親戚って言ってたけど、いつ撮ったの?」
「えっと、5年前……かな……」
「ふーん、5年前ね……やっぱりこの子……
どこかで見たような……」
『中野二乃』は知らない。そのタイプの少年が、目の前にいることを……そして、そんなことがどうでもよくなる『とんでもない出逢い』が、この林間学校で待っていることを……
「三玖、キャンプファイヤーは浅倉君と踊るの?」
「うん、昨日、ソースケと約束したから……」
「んふふ〜♪青春してるね〜。羨ましいぞ、コノコノ〜♪」
一花が三玖を肘でつっつく。
「……もう、一花、それ以上言うとまた総介にお仕置きされるよ?」
「さーて、じゃあ私は先に車に乗るかな〜」
「……逃げた」
『中野三玖』は愛する人を待つ。彼と共に過ごす最初で最後の林間学校、一つも無駄にしたくはない。彼との最高の思い出を作りたいと、切に願う。そしてあわよくば隙を見つけてイチャイチャしたいと、欲望も湧いて出てくる。総介爆発しろ………
「……いいなぁ」
『中野一花』は妹を羨む。初恋の願いを叶え、まさに『青春』を謳歌する妹。そんな彼女が、この上なく羨ましい。嫉妬ではなく、あのように自分もなりたいと言う、憧れを抱いて、今日も彼女は『女優』であり続ける……
「おまた〜」
「あ!浅倉さん!どうぞ、乗ってください」
「おう、サンキュー」
総介が車に乗り、これで全員車へと乗った。助手席には三玖、中部座席には正面から見て左から二乃、四葉、総介。後部座席には左から風太郎、五月、一花、の順番である。
(……先の試験で指導してくれる人の必要性は感じました。浅倉君から言われたように、私一人じゃ何も出来ないことを思い知らされました。
ですが上杉君、あなたは私の理想とする教師像からかけはなれすぎている……
上杉君、あなたの家庭教師としての覚悟、この林間学校で確かめさせていただきます。
浅倉君は……怖いのでいいです)
『中野五月』は見極める。彼が自分の理想の『教師』としての資格があるかどうか……そして怯える。もう一人の助っ人の、底の知れない人間性に……『母』という理想を追い求めながら……
「ようこそ上杉さん。どうですか、乗り心地は?」
「ああ、ふわっふわだ!」
風太郎はシートの感触を堪能しているようだ。
「浅倉さんはどうですか?」
「隣がお前じゃなくて三玖だったらよかったのに」
「ガーン!ヒドイです!」
そう落ち込みながらも、すぐに元気を取り戻し、決意を新たにする。
(私がこの三日間を、上杉さんの思い出の1ページにしてみせます!)
『中野四葉』はどこまでも『彼』を想い続ける。家庭教師としての『彼』、5年前、京都で会った時の『彼』。どちらも同じ男だが、それを隠して、自分の想いも隠して、ただただ『彼』のために尽くすことを誓うのだった……
「それでは……
しゅっぱーつ!」
かくして、男2人と女5人(うちカップル1組)の、遅れて走り出した林間学校の幕が、今ここに上がり、激動の林間学校編が始まるのだった。
「あ!ジャンプ持ってくんの忘れた!」
「それなら、私が持ってる。今週号」
「うおー、ありがとう三玖!大好きだ!」
「だ、大好き……/////」
「あんたらのっけからイチャイチャすんな!ってかこの小説の原作、マガジン連載よ!そんなにジャンプネタ出しまくってていいの!?」
「いいんじゃね?土方もジャンプ連載中にマガジン読んでたし」
………終われ
『彼女』が選ばれる事は大体予想してました。
これで色々と設定を変更せずにすみました(安堵)。
これで風太郎が「ごめん、お前じゃないんだ」って言いに来ただけならもうアレだ、今度この作品中で裁判を起こしたいと思います(笑)
まぁ万が一の場合の予備プランもちゃんと用意してますが……
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださりありがとうございました!
ついに林間学校が始まります!