『川柳少女』です。
悪夢だ…………
俺、『上杉風太郎』は絶望のどん底の2歩ほど手前まで来ていた。
何が悪夢かって?連載4話目まで原作主人公の俺が全く登場しなかったからというわけではない。いや、それはそれで悪夢なのではあるが……そんなこと以上の悪夢が降りかかっていた。
妹の『らいは』から薦められた家庭教師のバイト。『アットホームで楽しい職場!相場の5倍の給料』と聞いた時から不穏な空気がしていた。実際想像していた『白いコナ』や『タマが発射される鉄の塊』などを取り扱う人たちではなかったのだが、ぶっちゃけそっちの方がマシにも思えてくる程に事態は深刻だった。
先日から受け持った家庭教師のバイトの生徒は、五つ子の転校生の女子だ。まあここまではいい。問題はここからだ。バイトの初日に、その女たちから『家庭教師はいらない』と拒否された上、睡眠薬的な薬を飲まされて強制的に追い出された。
まあここまでもいい。いや、本来ならいい訳無いのだが、それでも無事卒業させることが出来ればと、目を瞑る事にした。勉強ができる奴が何人かいれば、そいつにはあまり付かなくていいと思ったからだ、
ところがだ。そいつらの学力を見るために実施した実力テストを見て、俺はもう絶望感に苛まれた。何故なら……
五人全員が赤点候補だったからだ…………
更にこの五人、極度の勉強嫌いと来ている。一昨日実施したテストの復習すらしていない。更に俺の事も嫌いっぽいし……
そして今となり俺は、学校の廊下をその五つ子たちの後ろで歩いていた。かなり遠い。これが俺とあいつらの距離感だというのか……
まずは信頼関係を気づくところから始めなきゃいけないのか……俺の最も苦手な分野だ……しかし、どうにか打開せねば……
と、俺が作った『五つ子卒業計画ノート』を開こうとした時、他に廊下を歩いていた生徒達がこんな会話をしていた。
「テストももうすぐあるからなー。勉強してる?」
「ぼちぼちだなぁ。2年になって難しいとこ多くなったし……」
「だよなぁ。……あ、そういや知ってる?」
「何?」
「別のクラスだけど、『勉強を教える天才』がいるんだよ。そいつ、自分の成績は普通なのに、人に教えると教えたやつの成績結構上がるんだって」
「まじでか⁈なんだよその微妙な天才。そんなのがいるのかよ?」
「本当だって!俺、一年のとき、そいつと一緒のクラスでさ、2.3回そいつに教えてもらったら、そこの部分すんなり覚えれて、テストでもいいとこいったんだぜ!」
「まじかよ………で、そいつって誰なんだよ?」
「えと、『浅倉』ってやつ。メガネかけたノッポの。ほらあの大門寺と一緒のクラスの」
「ふーん。じゃあ俺も教えてもらおっかな………」
勉強を教える天才………
俺はそれを聞いて一瞬考えた………
そいつにちょこっと、ほんのちょこっとだけ、こいつらの面倒見てもらえれば、と……
誰かに頼る事は普段は良しとはしない俺だが、流石に今の状況は最悪だ。赤点候補五人、信頼度ゼロ、自分の勉強との両立……
このままでは身が持たなくなってしまうのは、学年1位の俺の頭脳をもってすれば簡単に想像できる。このまま1人で崩壊してしまうくらいなら、助手、補佐、代理、何でもいい。そいつに頼んで手伝ってもらうしか無い。らいはのことも考えると、このバイトを投げ出すわけにもいかないし、金の事もあるが、それは後で相談しよう。
何より命と妹が大事だ!
親父?知らね。
俺はその瞬間だけは無駄に高いプライドを放り出して、その会話をしていた生徒に聞いた。
「な、なあ、その『浅倉』って人のクラス、知ってるか?」
「サンキュー浅倉!バッチリ覚えれたぜ!!また教えてくれよな!」
「その前にてめーで覚える努力ぐらいしやがれ斎藤。ホクロちぎるぞコノヤロー」
「いや、俺ホクロ無いんだけど……」
場所と時間は変わり、午前中の休み時間、総介は上で会話されていた『人に勉強を教える天才』としての役割をやる気なさげに全うしていた。
あのヘッドホンの美少女との2回目の邂逅『セカンドインパクト(笑)』から3日が過ぎた。総介はことの事情を海斗へと話し、少女の名前を聞くことを忘れたことに対して大笑いされた。あまりにうるさかったので、頭にゲンコツを食らわせてやったが……
そんな幼馴染とのじゃれ合いはさておき、総介の中ではこんな思いがあった。
「明日も来るって言っちまったのにな……」
「その日金曜日だった事を忘れて言っちゃった君が悪い」
週末だということがすっかり頭から飛んでいたのである。
あの後、家で何度後悔して身悶えしたことか……
普段は女子との会話に慣れていないのか変な口調で話しかけ、某銀髪天パー侍のような説教じみたことを言い、時間を忘れてしまったせいで会話も中途半端に終わってしまい、最終的には『また明日』とか言っときながらその翌日は学校が休みというマヌケっぷり………
黒歴史……圧倒的黒歴史!!!!
ざわ………
ざわ………
「まあまあ、次に会う約束も取り付けたんだから良かったじゃないか」
海斗がすかさずフォローする。
「ああ、そこんところは作戦成功って感じだ。後は今日の昼にあの『ヘッドホンさん』が昨日の場所にいてくれれば上出来だ。ゆっくりとお近づきになって行きゃいい。その後は成るように成るだろ。ケセラセラ〜♩」
名前がわからないので、とりあえず『ヘッドホンさん』と呼ぶことにした総介。黒歴史は作ってもタダでは転ばない。意外と周到なのである。彼はマンガとかラノベとかの主人公みたいに鈍感ではないし、恋愛に対して臆病でもない。思春期特有のテンションをうまく活用しつつ、策を練って対象を落としにかかる強かさも持ち合わせていた。なお、今のところあまり発揮されていないが……
いいか?俺たちゃ現実生きてんだ。漫画とかアニメとかみてーに、奥手な主人公とか、難聴とか、唐変木とか、両想いなのにくっつかないとか、そんなもんはもううんざりなんだよ!!!!!!
んで何?2人が結ばれたらそれで終わりってか⁈付き合ったらゴールってか⁈んなわけねーだろ!!恋愛は成就してからがスタートなんだよ!!それに昨今のラブコメもんは、ハーレムにするだけして焦らすだけ焦らしてテキトーな設定追加して打ち切り怖さに伸ばし続ける………まさに愚の骨頂だよコノヤロー!!
誰かを好きになって、アプローチして、思いきって告白して、それが何故か成功して、存分にイチャイチャパートするだけでもいいじゃねーか!!それをお前、単行本をもっと出したい〜、とか、魅力的なキャラをもっと描きたい〜、とか、ハーレムエンドまでやりたい〜、とか………
バッキャロォォオ!!!!こちとら一対一の甘酸っぱい青春モノが好きなんだよ!お前らもう付き合っちまえよ!とか、あいつらもう夫婦だな、とか、他の奴が入る余地のない2人だけの甘い空間みてーなもんが欲しいの!それを何⁈最近の恋愛もんは⁈ハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムちょい三角関係ハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレム…………
シャラァァアーーーーップ!!!!!どこもかしこも同じもんばっかじゃねーかぁあ!!!!そんなじれってーもん見せられたら読む気も失せるわ!ネタ切れかよ!?って思うわ!!無駄にハーレムにしたシワ寄せキターー♪───O(≧∇≦)O────♪とかなるわ!
そんなんで稼ぐくれーなら矢吹先生みたいに割り切ってちく」
「オーケーそこまでだ、ブレーキだよ総介、殆ど声に出てるから」
「………」
いつの間にか片足を椅子の上に、もう片方を机の上にして大きなアクションで自分のラブコメモノに対する思いをを熱弁していた総介にまた一つ、黒歴史が加わってしまった。しかし、海斗に止められなければ、どこまで言っていたのやら……
圧倒的、暴走的黒歴史!!!!
ざわ………ざわ…………
ざわ…………
……………
キーンコーンカーンコーン
時は過ぎて昼休み、総介は再び『ヘッドホンさん』に会うべく、食堂へと向かうために席を立ったその時、
「おーい浅倉ー!お前に客だぜ〜!」
「あ?客?」
「ほら、あそこにいるメガネの………そうそうあいつ……」
こんな時に誰だよ?と、総介は内心5回ほど舌打ちしてクラスメイトと会話をしている客を見た。どうやら男子のようだ。だが、見たことがない。と、ここで海斗が客を見ながら総介に言う。
「彼は……確か『上杉風太郎』君だね」
「上杉風太郎?んだお前、知ってんのか?」
「知ってるも何も、『唯一、僕の成績の上をいく人』だからね」
「学年一位?てか?んなガリ勉野郎が俺みてーなのに何の用あんだよ?」
この学年の成績は、一位『上杉風太郎』二位『大門寺海斗』と、入学時から一つも変わらない。最も、海斗は全てのテストで本気を全く出さずに二位という超天才なので、本気を出せば風太郎は同率一位が関の山だが……
ちなみに総介は50位半ばを行ったり来たり……
「しゃーねー、ちゃっちゃと要件終わらせて食堂いかねーとな」
「断る選択肢は無いんだね」
「向こうからわざわざ来てくれてんだ。無下にすんのも寝覚めがわりーからな」
「だと思った」
何だかんだ言いつつも、自分に用のある人にはきっちりと対応するのが、総介であった。
廊下に出て、互いに向き合い、相手の容姿を確認する。
頭頂部にある二つのアホ毛、眉まで隠れて横に流れる前髪、悪い目つき、シャツイン、170半ばほどの華奢な体格。
『なるほど、ガリ勉だな』
総介の風太郎に対する第一印象は、そんな感じだった。
一方で、無造作な髪型、目元を隠すほどの前髪、黒縁眼鏡、気だるげな表情、180cmはある長身、しかし痩せ身、薄手の黒パーカー。
『暗そうなヤツだな』
風太郎の総介に対する印象は、こういったものだった。
ぶっちゃけどっちもどっちである……
と、ここで、口を開いたのは総介だった。
「………んで、学年一位のチミがこんな俺に何の用かな、上杉クン?」
「え、し、知ってるのか、俺の事?」
「さっき知り合いから聞いた」
「そ、そうか……」
総介は頭をわしゃわしゃとかきながら言った。
「まぁ手短にいこーや。俺もこの後予定あるからよ」
「あ、ああ、そうだな。本題に行こう。一つ頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ、浅倉が勉強を教えるの上手いって聞いて、それで来たんだ……」
総介は考えた。学年一位の上杉が、俺に勉強を教えてほしいというのはまず無い、となると、誰か別の人の勉強を教えてほしいと言ったところか……
「………聞こうか」
総介は話を聞くだけ聞いてみることにした
……………………
風太郎が総介に頼んだこと、それは『家庭教師の手伝い』をして欲しい、ということだ。何でも相場の5倍の給料で家庭教師ができるといううまい話に飛びついたところ、人数も5倍だったらしい。しかも赤点もしくは寸前の成績というオマケ付きで……
「………5人も?お前一人で?その雇い主頭大丈夫かマジで?」
総介は呆れた口調で言った。
「……なんかの金持ちらしいんだが……俺も流石にそれは……」
しんどい。と言いかけてしまう風太郎。
「そりゃそうだわな。ただでさえ赤点候補なのに、5人もいるなんてやってらんねーわ。………ったく、金持ちの言う事やる事はつくづくぶっ飛んでてわかんねー」
総介はどっかの銀髪イケメン腐れ縁野郎を思い出しながら呟く。いくら学年一位の成績を持つ風太郎とは言え、それは無理があるだろう。しかも全員卒業させなければならないとか、ブラックバイト以外の何者でもあるまい。
「………しかも全員、俺の事嫌いらしくて、まともに勉強しようともしないんだ……」
「詰んでんじゃねーか。全員赤点間近で、お前のこと嫌いとか、一件一件そいつらの家回るだけで時間取られるのによ〜」
「………いや、家は一緒なんだ。五つ子だから、一応一箇所で勉強出来るようにはなってる」
「余計タチわりーな。その五つ子仲良く揃って赤点候補とか笑えねーよそこまでいくと。てかそれもはやリアル『おそ松さん』だよ。もういっそのことそいつら全員………
お前、今なんつった?」
軽快なリズムで喋っていた総介が、言葉を止めた。
「え?」
「何て言ったんだ?答えろ」
「い、五つ子で、家は一緒だから、一箇所で勉強出来るって……」
「………」
五つ子……………まさか………
「その五つ子ってさ、この前転校してきたとかいう」
「あ、ああ。黒薔薇女子から転校してきた、五つ子の姉妹たちだ!………浅倉?」
…………………………
近々違うクラスに転校生が来るらしいよ。
それも五人。
…………………………
え?黒薔薇女子ってあの黒薔薇女子⁉︎
うん、五人みんな、そこから転校してきた。
…………………………
………それで、君らは何でここに転校してきたの?
………………
あー、ごめん、今の無し。今の質問は無しって事で
…………………………
……………
………
間違いない。今話題に上がっている赤点候補の五つ子の姉妹たち……
1人は完全に『ヘッドホンさん』のことだ……
(………こんな事ってあんのかよ、本当に……)
偶然という言葉は、時に異常な程の力を発揮する。
総介はまさに今、それを直に体感していた。
「…………少し考えさせてくれ」
「?あ、ああ……」
嘘だ。もう既に総介の中で答えは決まっていた。
こんなチャンスは二度とはやってこないだろう。彼はそれにしがみつくことにした。
では何故考える時間が欲しいと言ったのか?
頭を冷静にさせるというのもあるが、本命は『悟られてはいけない』のだ。誰が今日初めて会った男に『初恋の人がその中にいるから手伝わせてほしい』なんて言えようか。言えるはずがない。
よしんば言ってしまったとして、ドン引きで済めばいいが、最悪断られる可能性もある。そう言った邪な考えは、家庭教師をする上で大いに邪魔だと思われてしまうからだ。
ましてや相手は学年一位の優等生。見た感じ彼女もいなさそうだし、堅物そうなので、余計に拒絶反応を起こされてしまう。
さらにここで即決をしてしまえば、何か変な考えのもとに決めたと思われなくもない。
ここはいかに『悩んだけどとりあえずやってみよう感』を出せるかが肝となる。
「…………ちなみに、それはいつからだ?」
「ああ、できるだけ早いほうがいい。浅倉を紹介したいから、今日からでも行ければいいんだが………」
「今日か……」
それっぽい質問をしてみるのも、一つの手段だろう。
「……………とりあえず、だ。そいつらがどんなものか、見極めさせて欲しい。判断はそれからでも構わねーか?」
「………ああ!それで構わない。今日の放課後でも、アイツらを集めるから、一緒に来てくれないか!?」
「ああ、それでいい。でもな、もしそいつらが俺の気にそぐわねーことしたらすぐ帰るからな」
「…………だ、大丈夫だ。問題ない」
(おい、今の間は何だ?)
「じゃあ、放課後に俺と一緒にそいつらの家に行くということで、いいか?」
「……わーった。放課後は空いてるからそれでいい」
「助かる。ありがとう」
変な空いた間があったとはいえ、どうにか勘ぐられることもなく、自然に話をうまくもっていくことが出来た総介は、心の中で一安心した。そして、これからの事態がどうなろうとも、『ヘッドホンさん』と仲良くなるには手段は選んでいられないと、決意を新たにするのであった。
(………棚からぼたもちどころか、棚から女の子が降ってきやがった。これを逃すわけにはいかねー。是が非でも掴み取ってやらぁ)
総介の初恋は、ここで急展開を迎えた。しかし彼は、その急展開をモノにしようとここで勝負に踏み切った。
そしてこの放課後、『ヘッドホンさん』と呼ばれる子の人生を決定づける足掛かりとなる3度目の出会いが待っていることを、彼女は未だ知る由もなかった………
……………………
親方!棚から女の子が!!
いい子じゃないか、誘っておやり………
嵐はやみ、雲は晴れた…………
ペンタゴンは本当にあったんだ!!!!
天空のペンタゴン
〜〜〜今夏公開〜〜〜
「大嘘ついてんじゃねぇぇぇええええええええ!!!!!!」
ようやく、ようやくだよ………
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださって本当にありがとうございます!
次の投稿は日曜日の予定です。