世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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前回の話を投稿した後、日間ランキングで最大22位までランクインしました!
ご評価してくださった皆様、誠にありがとうございます!
ランキングに載れば、沢山の読者の皆さんに読んでくださる機会が増えますので、本当に感謝しております。
ちなみにその後案の定低評価がついてランク外……まぁ好き嫌い分かれる作品を書いてる自覚はあります……orz


49.嫌な予感ほどよく当たる

試験本番まで、あと4日。

 

 

そんな時期にもかかわらず、風太郎はとある池の辺りで、1人佇んでいた。

 

「試験まで後4日……どうすればあいつらがまとまってくれるんだ……」

 

彼は池の水面をぼ〜っとみつめながら、試験1週間前から今日までの出来事を振り返っていた。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

あの五月のビンタ事件の翌日、風太郎は三玖と一緒に二乃を探して、そう遠くはないホテルに居ることを突き止めたものの、彼女に取り合ってもらえず、追い返されてしまった。

その後、幾度かエンカウントすることには成功したのだが……

 

 

 

 

「試験なんて……合格したからなんなの?

 

 

 

 

どうでもいいわ」

 

 

……その言葉を最後に、後は徹底的に無視を決め込まれるばかりであった。

 

 

次に五月なのだが、なんと、風太郎が帰宅した時に、なぜか家にいたのだ。財布も無く、野宿しているかもしれないと心配していたのだが、考えたら自分の家を知っているのは姉妹では五月だけなので、上杉家はうってつけの隠れ家なのだろう。とはいえ、行方不明が続くよりかはマシだったので、現在は風太郎の家に泊まりながら、試験勉強を続けている。

彼女も前回、1人で勉強すると大口を叩いた結果、試験で見事に撃沈。挙句、総介にそのことを、しばらくの間トラウマになるまで咎められたのが効いたのか、今は風太郎の妹のらいはの遊び相手をこなしながらも、ひたむきに机に向き合っていた。

五月のことは不幸中の幸いだったが、彼女から聞いた情報により、風太郎はもう一つ、予想外の出来事に見舞われることになった。それは……

 

 

 

「四葉!試験週間に入ったら辞めるんじゃなかったのか!?」

 

「すみません〜〜!」

 

なんと、試験週間にも関わらず、四葉が未だに陸上部の助っ人を続けていたのだ。

曰く、一度は断ったのだが、このままでは駅伝に出られないと食い下がってきたので、困っている人を見過ごせない四葉の性格が裏目に出てしまい、やむなく助っ人を続けていたのだ。

そのことを、すぐに総介に相談すると……-

 

 

 

 

 

「うし、あのバカリボンを陸上部ごとシメに行くぞ」

 

と、彼ならば本当にやりかねない物騒なことを言い出したため、慌てて止めた。

 

その際、一花と三玖の勉強を見ることに集中してほしいと頼み込んで、どうにか納得はしてもらった。しかし……

 

「けどよぉ、肉まん娘はどうにかなるとして……残った2人はどうするよ?」

 

「……俺の方で説得を続ける」

 

これ以上、総介に頼るわけにはいかない。彼に負担をこれ以上かけるわけにもいかないが、いかんせん自身の家庭教師としてのプライドもある。給料を全額こちらが貰っている以上、自分自身でもなんとかしなければなるまいと、風太郎はあえて総介の助けを拒否したのだ。

 

(………無理しやがって)

 

勿論、そんなことは彼に筒抜けだったのだが、風太郎は気付いていない。

 

 

そこからは、彼の孤軍奮闘だった。

 

「俺はいいから、浅倉に教えてもらっておいてくれ」

 

一花と三玖の勉強を総介に任せ………

 

「ここはこの公式を……いや違うこっちだっての」

 

「は、はい……」

 

五月には時間がある限り勉強に付き合い、

 

「よ、四葉……待て……ゲホッ……」

 

必死に四葉を追いかけるも、彼女の高い運動能力に、非力の自分が追いつけるわけもなく……

 

「二乃!話を聞いてくれて!」

 

「………」

 

「また来る!

 

 

 

俺は諦めねぇぞ!」

 

 

相変わらず、二乃には無視され続けた………

 

ちなみにこの間も風太郎は自身の勉強を欠かしていないのである。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

そんな事があっての今だ。

 

 

「………俺なんかより、浅倉の方が家庭教師やってるじゃねーか」

 

あの時、無駄に高いプライドを跳ね除けて、総介に頼み込んで連れてきたことは、結果的に間違いでは無かった。

彼に元々好印象を持っていた三玖は、見事に赤点を回避し、それに続いて一花もそれに限りなく近い点数を出した。四葉は3科目で赤点だったが、最初のテストとは違い、確かな成長が見てとれたし、前回自身を五月も、総介の叱咤で今は勉強に集中するようになっている。

二乃は……相変わらず2人を拒絶したままだ。しかも事もあろうに、次は彼らに味方をする姉妹に対して反抗的な態度をとり始めた。その説得もできずじまい……総介のように、彼女を黙らすことも出来ずに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………俺、いらねーんじゃねーか?」

 

そんな事が、彼の頭をよぎってしまう。

足を引っ張っているとは言わずとも、自分の予想外の動きをする姉妹たちを、強引にでもまとめ上げているのは、総介の助けがほとんどだ。

自分はただ、こうして慌てて走り回っているだけ……彼なら、二乃は容赦なく切り捨て、残った姉妹たちで赤点を回避するだろう。前回の試験で、五月を切り捨てたように……

 

「……いや、駄目だ」

 

あいにく、自分は彼ほど器用ではないし、何より彼らの父親から彼女たち『5人』を預かっているのだ。1人も欠かしてはならない。それが家庭教師としての責任なのだ。何より、それでは二乃が本当に一人ぼっちになってしまう。1人だけ成績は取り残されて、もうあの場所に、あの家に本当に戻れなくなってしまう。

 

是が非でもどうにかしなければ……しかし………

 

 

 

 

『あんたなんて来なければよかったのに!!』

 

 

 

 

「………」

 

涙を溜めながら、彼を拒絶した二乃の顔を思い返す。

 

 

(……やっぱり、勉強ばかりしてきた俺じゃ、何の役にも立てない)

 

人間関係を疎かにして、勉強しかしてこなかったツケが、ここに来て回ってきたのだ。それや教えることについては、総介の方が何枚も上を行っている。勉強だけじゃ、彼女たちを導くことは出来ない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あいつらに俺は、不要だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また落ち込んでる」

 

 

 

 

ふと、横から声をかけられた。

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

「やっぱり君は変わらないね

 

 

 

 

 

 

上杉風太郎君」

 

 

 

 

顔を上げて、声のした方をみると、そこには、ツバの広い帽子を被り、長いストレートの赤髪をした、自分と同じくらいの年代の少女がいた。

 

 

 

そしてその子は、自分に向かってこう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペチョッ……ペチョッ……

 

 

 

 

それから数時間後、風太郎は全身ずぶ濡れとなり、道を歩いていた。すれ違った人に後ろ指をさされても、道ゆく子供に笑われようとも、彼には何かを言い返す気力もなく、トボトボと歩き続けていた。

彼に一体何があったのだろうか……

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

〜数時間前〜

 

 

 

 

風太郎が池のほとりで出会った少女……名前を『零奈(れな)』と名乗ったその子は、風太郎が5年前、京都で出会った少女だった。

それを知り、その場を逃げようとした風太郎だったが、彼女に生徒手帳を取り上げられ、逃げられないようにと彼女の提案で、池の桟橋泊まっていたボートに一緒に乗ることになった。

そこで、風太郎は自身のことについて話をした。何故か彼女の方は、自分が学年1位となり、家庭教師をしていることを知っていたのだが……それはとりあえず置いとこう。

 

彼が話をしたのは、教える生徒が五つ子であること。

その5人が、自分の想定していた以上に馬鹿だったということ。

それに耐えかねて、助っ人を頼んだこと。

その助っ人が、1人を除いて容赦の無い外道モンスターだったということ。

しかし、その助っ人のおかげで、自分も助かっていること。

そしてその助っ人が、姉妹の1人と交際したいること。

 

自然と口から言葉が出るわ出るわ……

 

束の間の逢瀬を過ごした2人だったが、ボートが桟橋に到着すると、先に桟橋に移った『零奈』は生徒手帳を返してくれた。

 

中に入ってた2つの写真を抜いて……

 

「これは返してあげない」

 

「は?……どうして」

 

 

 

 

 

 

 

「私はもう君に会えないから」

 

 

そう言って、彼女は去る間際に、5年前清水寺で買ったお守りを彼に渡した。

 

 

 

「自分を認められるようになったらそれを開けて」

 

「なっ!?どういう……」

 

理由について、答えない彼女を追いかけようとしたが、ボートから上がろうとして、足を滑らせてしまった。池に落ちるまでの一瞬、『零奈』はこちらを振り向いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、何とか桟橋にしがみついて、陸に上がった風太郎だったが、もうそこに『零奈』の姿は無かった。

 

途中で、たまたま四葉に会ったが、彼女はどうやら陸上部の練習中だったらしく、そのまま陸上部の部員らしき人と走り去ってしまった。

 

「よ、四葉………」

 

彼女の後ろ姿が段々小さくなっていき、やがて完全に見えなくなる。

 

 

 

「……んそうだ……二乃……」

 

身も心もボロボロになりつつある風太郎だったが、それでも諦めまいと、全身ずぶ濡れのまま二乃のいるホテルへと歩き出した。

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

「………で、そいつは俺の前から消えた。それで終わりだ」

 

 

それからしばらく時間が経ち、彼はとある浴室でシャワーを浴びながら体を洗っていた。なんでって?そうだね、いきなり浴室だもんね。しかも結構高級感あふれる浴室だから、何があったのか気になるよね。よし、とりあえず彼のここまでの経緯を簡単にまとめたので、それを話そう。

 

 

全身ずぶ濡れのまま、二乃の泊まるホテルへと到着した風太郎。そこでいつものように警備員に追い返されそうになった彼だが、さすがに今日は抵抗する気力もなく、そのまま帰路につこうとしたのだが……

 

 

 

「邪魔よ……早く部屋に入りなさい」

 

 

その現場をたまたま目撃してた二乃が、さすがに居た堪れなくなったなのだろうか、風太郎を部屋へと入れた。

 

その後、池の水に全身浸かってしまったので、二乃からシャワーを浴びろと言われ、強制的に浴室に連れて行かれた。

そこで、入口のドアを挟みながらしばし雑談をする2人。今までとは違い、二乃と普通に話せていることに、風太郎は少しおかしく思ってしまう。そんな中、風太郎が初めて落ち込んでいるところを見た二乃が(本人は否定)、彼に何があったのかを聞き、仕方なく風太郎は、5年前に会った少女の話から、今日の『零奈』との邂逅までのことを話した。

 

話し終わったのだが………

 

「…………」

 

「………寝てる?」

 

二乃からの反応が返ってこなかった。聴きながら寝てしまったのかと思い、風太郎は浴室のドアの前に座っている二乃を確認しに行くとそこには……

 

「悪いな、つまらない話しちまって……!」

 

「…………」

 

 

そこには、瞼に溜まった涙をポロポロとこぼす二乃の姿があった。それを見た風太郎のリアクションはというと……

 

 

「えっ………えぇ〜……」

 

どうすればいいかわからない反応をした。

 

「……なんで泣いてんの?」

 

とりあえず、聞いてみる。

 

「た、だって……あんた5年もその子のこと好きだったんでしょ……切なすぎるわ」

 

「す……好きとかじゃ……感謝と憧れがあっただけだ」

 

「それ、好きなんだって!」

 

「だから違うって……だが、俺のためにそこまで……」

 

自分のために泣いてくれた二乃に少し感謝しようとした風太郎だったが……

 

「あーちょうどいい泣ける話!めっちゃちょうどいい!!」

 

「最低」

 

自分の感謝を返してほしい…………

 

 

「……でもさ、元気出して。あんたみたいなノーデリカシー男でも、好きになってくれる人が地球上に1人くらいいるはずだから」

 

「………」

 

励ましているつもりだろうが、余計に元気が無くなるのようなことを言う二乃。と、ここで、彼女は風太郎の顔から視線を外し、下を見てみると……

 

 

 

「………って何出てきてんのよ!!露出魔!!」

 

そりゃ、目の前には腰にタオル巻いただけの風太郎がいるわけで……ってか気づくのおっそ!

 

「何を言うんだ、俺とお前は裸の付き合いだろ」

 

「忘れろーっ!」

 

かなり前の、二乃の風呂上り姿に出くわしたことを言ってるのか……にしても風太郎、女の前でほぼ全裸で立ち尽くすってどうなのよ……

と、二乃がその場を離れた拍子に、彼女の肩掛けカバンがパタンと横に倒れ、バサッと中身が出てくる。その中には……

 

 

「ん?これは……」

 

「あ!」

 

風太郎は出てきた一枚を手にする。それは、この前、二乃が破ったはずの風太郎お手製の問題集の一枚だった。破られた箇所は、丁寧にセロハンテープで止められている。

 

「やってたのか……」

 

「……これ……個別で問題を分けてたんでしょ。

 

 

あの時だって……本当は……

 

 

い、一応は……悪いとは思ってるわよ……

 

 

 

ごめん」

 

 

ほとんど下を向いたままだったが、最期の一言を、二乃はちゃんと風太郎の目を見ながら謝罪した。

それを見た風太郎は、ようやく一安心する。

 

「……ああ、いいぞ。この調子で五月にも謝ろう」

 

「それは嫌!」

 

「なぜ!?」

 

その一安心も、一瞬のうちに消えてしまったのだが……

 

「叩かれたことまだ根に持ってるのかよ……」

 

「昔はあんなことする子じゃなかった……なんだか、五月が知らない子になったみたい……」

 

「……知らない子って……お前ら元々どんな姉妹だったんだよ?」

 

「………」

 

風太郎の質問に、二乃は少し下を向いて黙ってしまうが、やがて立ち上がり、顔を上げた。

 

「そうね……さっきあんたが話したんだから、今度は私の番……」

 

そう言って二乃は歩き出し、デスクの上に置いてあった羽ペンを取り、それをいじりながら話し始めた。

 

「私たちが同じ外見、同じ性格だったころ……

 

まるで全員の思考が共有されているような気でいて居心地がよかったわ……

 

でも、5年前から変わった……

 

みんな少しずつ離れていった……

 

一花が女優をしていたなんて知らなかったし……

 

三玖に彼氏ができたなんて、今でも信じられないわ……

 

四葉と五月もそうよ……

 

 

 

 

 

 

まるで五つ子から巣立っていくように……

 

私だけを残して……

 

 

私だけがあの頃を忘れられないまま

 

髪の長ささえ変えられない……

 

 

 

 

 

 

でも、一応分かってるわよ……

 

私も無理にでも巣立たなくちゃいけないって……

 

1人取り残されるために……」

 

「………」

 

これが、俺の掬い取れなかった、姉妹を大切にするが故の二乃の心理……

 

誰よりも姉妹思いではあるが、誰よりも姉妹のあるべき形にこだわる二乃の叫びだった。

同じ外見、同じ服装、同じ性格、それはまるで、自分が5人いるかのような感覚……それに心地良さを感じていた二乃。しかし、姉妹それぞれが髪型、アクセサリー、好きなもの……各々に個性が出始めてきたことに、彼女は戸惑った。そして悩み……最後には、拒絶した。

その結果が、今の二乃なのだろう。おまけに、自分たち五つ子のいた場所、巣には、新たに2人の男が入ってきて、1人はかつて自分の生き写しのようだった姉妹の1人と男女の関係にまでなっている……それがたまらなく嫌だった。自分たちの巣を荒らされ、無理やりに5人がバラバラになっていく……それが耐えられなかったからこそあの日、二乃は爆発してしまったのだ。

しかし、彼女にとっても五月のビンタは想定外だったようで、それが二乃自身の考えに影響を与えていることも事実である。そして思い出すのは、かつて総介に言われた言葉……

 

 

『変わらねぇ日常が永遠に続くと思ったか?』

 

 

あれから、彼女も彼女で、色々と考えていたのだ。変わらない日常など無い……全ては過去の産物となり、それらを乗り越えて大人となる……

 

「……それでいいのか?」

 

話を聞いた風太郎が、二乃に尋ねる。

 

「……いいのよ、過去は忘れて、前を向かなきゃ……あとは……そうね……あ!」

 

二乃が、何かを思い出たようで、風太郎へと振り向いて、尋ねてきた。

 

 

 

「今思い出したわ。あんたに聞きたいことがあったのよ」

 

「俺に?何だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『大門寺海斗』君、知ってるでしょ?」

 

風太郎は、二乃の口から出てきた名前を、少し考えた。すると、その名前にふと思い当たる節があった。

 

「だいもんじかいと………ああ、名前は聞いたことはあるぞ。有名人らしいが、俺は見たことないな」

 

「……あっそ。聞いた私が馬鹿だったわ」

 

「お前は元々馬鹿だろ」

 

「うっさいわね!」

 

どうやら聞くだけ無駄だったようだ。学校で交友関係が絶望的に無い風太郎に聞いたところで、他人の事について、想定していた答えが返ってくるワケが無かった。

 

「で、その『だいもんじ』って奴がどうしたんだよ?」

 

「もういいわ……あんた知らないみたいだし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………言ってないのね」

 

「え?」

 

「何でもないわ」

 

最後の一言は、風太郎には小さくて聞こえなかった。

 

「………いいわ。じゃあ次」

 

「次?何だよ?」

 

先ほどから、風太郎は二乃の言ってることが少し分からなくなってきた。そんな彼を尻目に、彼女は指を差して指示を出す。

 

「アイツに連絡しなさい、今すぐよ」

 

「アイツ……浅倉か?何で?」

 

「他に誰がいるのよ。いいから!聞きたいことがあるのよ!」

 

そう言い切る二乃に、風太郎はしぶしぶ従った。池に落ちてもなんとか無事だったスマホを取り出して、総介へと電話をかけた。

 

 

 

prrrrr………prrrrr………prrrrrガチャ

 

 

『……上杉か、どうした?』

 

「あ、浅倉、悪い。今何してるんだ?」

 

『お前に言われた通り、三玖と長女さんの勉強を見てる最中だが』

 

「そ、そうか……」

 

『んで、何の用なんだよ?』

 

「あ、ああ、実はな、二乃がお前に聞きたいことがあるらしいんだ」

 

『そうか、じゃあな』

 

「待て待て待て!!切るな浅倉!」

 

二乃の名前を出した途端に、総介は電話を切ろうとしたが、慌てて風太郎がそれを止める。

 

『悪いが、今はワガママ女の鳴き声なんざ聞いてる暇はねぇんだ。試験が終わってからにしてくれ』

 

「ちょ、待ってくれ、浅倉!気持ちは分かるが、今は待ってくれ!せめて電話でいいから!」

 

風太郎がここまで食い下がるのも、二乃が紙に『切らせたら家には戻らないわよ』と書いて見せているからである。

 

『やだね。聞きてえことがあるなら人なんざ介さずに向こうから来やがれコノヤローとでも伝えとけ』

 

「そ、それはそうだが……そうだ!」

 

と、風太郎はここで何か思いついたようだ。

 

「二乃が聞きたいことに答えてくれたら、家に戻るかもしれないって言ってるぞ!これで全員で勉強できるんだ!安いもんだろ!」

 

「!?」

 

突拍子も無い嘘だったが、今はこれしか、総介を留める手はなかった。と、彼の方から返事が返ってきた。

 

『はあ……そんなスッケスケの嘘が、俺に通ると……え?』

 

無論、総介にそんな付け焼き刃が通じるはずもなく、直ぐに看破されたのだが、ここで、電話の向こうの彼の方にも何かが起こったようだ。

 

『え?マジで……でも勉強は……そりゃ、そうだけど……分かった。三玖を信じるよ……あ、でも今日のはさすがに……うん、わかった。そうするよ』

 

何やら、電話の向こうで話をしたようだ。彼の口調から察するに、相手は三玖だろう。ていうか、名前おもいっきり言ってたし。

 

『あー、上杉、よーく聞けコノヤロー』

 

「お、おう」

 

『今日は大事な部分教えてるから無理だ。その代わり、明日そっちに行ってやる。そん時にお前も来い、いいな?』

 

「き、来てくれるのか!?」

 

『三玖が「行ってほしい」っていうもんだから、仕方ねぇ。明日彼女が長女さんに勉強教えるって言ってるから、そこまで言うなら、任せて行くっきゃねーだろ。あと、俺をおびき出して勉強を妨害するのが目的なら、今度ばっかりは容赦しねー。痛い目見ることになるからな、覚悟しとけよって伝えとけ』

 

「あ、ああ、わかった。本当に済まない」

 

『じゃあな。切るぞ』

 

「ああ。じゃあまた」

 

その言葉を最後に、風太郎は通話を切った。そして、二乃の方を向き、結果を伝える。

 

「どうだった?」

 

「来てくれるってよ……明日」

 

「明日!?」

 

「しょうがねぇだろ。今浅倉には三玖と一花の勉強見てもらってんだ。断られるところだったが、なんとか明日にまでこぎ着けたんだ」

 

「……そう。まあ仕方ないわね……」

 

明日という話に二乃は驚いたが、あの総介が自分の呼びかけに応じること自体奇跡的なので、ここは彼女もその条件でなっとくすることにした。

 

「あと、勉強の邪魔が目的なら容赦はしないとも言ってた」

 

「それなら大丈夫よ。本当にアイツには聞きたいことがあるから……ていうかあんた!どさくさにまぎれて何私が家に戻るって嘘ついてんのよ!」

 

「い、いや、あれを言わないとすぐに切られちまうだろうが!ってか、すぐに嘘だってバレたし」

 

というような小さな言い争いはありつつも、 2人はどうにか明日に総介を連れてくることができるようになったので、大きな喧嘩に発展することはなく、そのままお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

そして翌日

 

ホテル前……

 

約束した時刻に、総介と風太郎は集合した。

 

「すまん浅倉、試験前なのに、わざわざ来てもらって」

 

「ったく、あの女、今更俺に何の用があんだ?土下座して謝ろうってか?何か聞いてねぇのか上杉?」

 

「い、いや、それが、俺も詳しいことは聞いてないんだ。二乃は何か浅倉に聞きたいことがあるって言ってて……」

 

「………」

 

2人は話をしながらホテルの中へと入り、エントランスを通ってエレベーターへと入る。その中で総介は、頭の中で思考を巡らせていた。

 

(あの女が俺に用………まさかな、いくらなんでも……)

 

考え有る最悪の事態を想定した総介。しかし、さすがにそれはいくら何でも早すぎると思いながらも、どこかでそれが引っかかり続けていた。

 

 

(………嫌な予感がする)

 

 

人は嫌な予感ほど、よく当たるもの。そしてこれも然り。

 

 

 

彼に過ぎった悪寒は、この後現実のものとなる……

 

 

エレベーターが目的の回に到着し、風太郎は総介を連れて、二乃の部屋の前まで来て、扉をノックした。

 

コンコン

 

「上杉だ。浅倉を連れてきたぞ」

 

『いいわよ、開いてるから入って』

 

扉の向こうから、二乃の声が聞こえてくる。それを合図に、風太郎は扉を開けて、先に入る。総介もそれに続いて部屋に入った。

 

部屋には、椅子に座りながら足を組む二乃の姿がいた。入って早々、総介は二乃を睨みながら言う。

 

「何の用だ。こちとらテメーの都合ばかり吠えるジャリンコワガママ娘の話なんざとっとと済ませて、素直に勉強をしてくれる三玖のところに行きて〜んだが?」

 

「っ!……ええいいわよ。私の質問に答えてくれたら、どこに行っても」

 

自分を見下しながら、『三玖』の部分を強調した総介の言葉に、二乃は一瞬、歯を噛みしめたが、今日はそうは行くまいと、心を冷静にして言い返す。そんな不穏な様子を、風太郎は心配そうに見つめる。

 

 

 

 

「……本題に行くわ……アンタ……」

 

 

 

そして、二乃の口から、総介が想定していた限りの最悪の言葉が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海斗君の幼なじみなんでしょう?彼に会わせてくれないかしら?」

 

 

 

 

試験まで、あと3日。

 

 

 

 

 

 




5巻と6巻を跨ぎました。次回から6巻の話となります。
この辺の風太郎の話を書いてたら、あまりに彼が不憫すぎてもう途中泣きそうになりました。
頑張れ風太郎!負けるな風太郎!明日はある……はずだ風太郎!!
ってか、総介全然出てこないの、書いててつまんね〜!
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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