世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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第四章最終話です。
なんとか6月中に更新できました。
それではどうぞ!

かぐや様が終わっちゃった……かぐや様が終わっちゃった……かぐや様が終わっちゃった……かぐや様が終わっちゃった……かぐや様が終わっちゃった……

毎週の楽しみが……バイバイ殺法〜〜〜!!


54.鬼と、人と

第二回、中野家五つ子、試験結果発表ーーーーー!!!!!

 

パチパチパチパチ

 

わー!わー!

 

 

 

 

 

 

というわけで、早速それぞれの試験結果を見ていきましょう、こちら!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・中野一花

国語……35

数学……60

理科……48

社会……39

英語……41

五計……223

 

 

・中野二乃

国語……19

数学……22

理科……38

社会……27

英語……45

五計……151

 

 

・中野三玖

国語……51

数学……45

理科……45

社会……79

英語……36

五計……256

 

 

・中野四葉

国語……40

数学……19

理科……25

社会……32

英語……23

五計……139

 

 

・中野五月

国語……45

数学……30

理科……70

社会……28

英語……36

五計……209

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

「それで……」

 

「何か私たちに言い訳や弁明はあるかな?」

 

 

ところ変わり、五つ子が暮らすマンション『PENTAGON』の一室。

そのリビングでは、テーブルの上に5人の試験結果の用紙が置かれており、そのソファには、今回赤点を回避できた一花、三玖の2人、そのテーブルを挟んだ正面には、赤点をとってしまった二乃、四葉、五月の3人が正座をさせられていた。

なお、一花は初めて赤点を回避できて嬉しいのか、腕と足を組みながらしたり顔でソファに座っている。

 

「………ないわよ。強いて言うなら一花、あんたのドヤ顔がムカつくわ」

 

「あ、あはは、前より下がっちゃった……」

 

「……あと2点だったのですが」

 

3人はそれぞれ悪態、自身への呆れ、あと一歩で届かなかった悔しさを表情に出していた。

 

「結果は結果。反省して」

 

「……三玖、あんた段々浅倉に似てきたわね」

 

「え!?……そ、そう?」

 

「多分、褒めてませんよ」

 

「い、いや〜、この悔しさは駅伝で晴らすよ…」

 

「いや次回の試験で晴らさないと……ま、丁度家庭教師の日だし、今日は今日は期末試験の反省がメインだろうね」

 

姉妹たちがそれぞれに話をしていると、『ピンポーン』とインターホンが鳴った。

 

「お、噂をすれば……」

 

五月が、玄関へと迎えに行く。

 

「三人とも、ソースケとフータローにしこたま怒られそうだね」

 

「だねー」

 

「うっさいわね……てか四葉、なんで嬉しそうなのよ」

 

二乃は赤点を取ったにも関わらず、何故か笑顔の四葉。

 

「あはは……結果は残念だったけど、またみんなと一緒に勉強できるから楽しみなんだ」

 

そう言いながらにこやかな笑顔を浮かべる四葉を見て、二乃はムスッとした顔をする。

 

そんな時だった。

 

「あれっ?」

 

五月が、玄関の方向を指差しながら言う。

 

「上杉君じゃありませんでした」

 

「?」

 

彼女が指を差した先にいたのは……

 

 

 

 

 

「失礼いたします」

 

 

フォーマルな格好をした優しそうな雰囲気の壮年の男性、普段は五つ子の父の運転手をしている『江端』がいた。

 

「なんだー、江端さんか」

 

「今日はお父さんの運転手お休み?」

 

「小さい頃から江端さんにはお世話になってるけど、家に来るとか初だよね」

 

「ホホホ、何を仰る。私から見たらまだまだ皆様小さなお子様ですよ」

 

江端も結構年齢がいっている身なので、17才の女子高生はまだまだ子供も子供なのだろう。

 

だからこそ、彼女たちと同じ17才で異様な雰囲気と殺気を出していた総介には、彼も驚いていたのだが……

 

「フータロー君と浅倉君遅いねー」

 

「そうだね」

 

江端が来たことに、何一つ違和感を持ってない姉妹たち。そんな中、五月が江端に尋ねる。

 

「江端さんはどうしていらしたのですか?」

 

それを聞かれた江端は、何も動じることなく、淡々と答えた。

 

 

 

 

 

「本日は臨時家庭教師として参りました」

 

 

 

 

 

「………」

 

「そ、そうなんだ」

 

「江端さん、元は学校の先生だもんね」

 

「あいつら、サボりか?」

 

「体調でも崩したのかな?」

 

どうやら、姉妹は誰一人として、まだこの事態の理由に気づいていないようだ。いや、本能的にそれを避けようとしているのか……それを見た江端が、ゆっくりと口を開く。

 

 

「……お嬢様方にお伝えせねばなりません

 

 

 

 

 

 

 

上杉風太郎様は家庭教師をお辞めになりました」

 

 

 

 

「………え?」

 

姉妹全員が、一瞬固まる。

 

 

 

「……そこで新しい家庭教師が見つかるまで、私が務めさせていただきます」

 

「待って待って」

 

「な、何かの間違いだよね」

 

「もー、ずれた冗談やめてよー」

 

「……事実でございます」

 

未だ事の重大さを受け止められないのか、三玖と一花は江端の言うことを信じられないと言わんばかりには否定するが、彼の口から出てきたのは非情な宣告だった。

 

「旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験で契約を解除なされました」

 

淡々と告げられた事実。姉妹がそれを理解するには、十分だった。

 

 

 

いや、十分過ぎた。

 

 

 

 

 

「え、つまり………

 

 

 

 

 

フータロー君、もうこないの?」

 

「………」

 

 

江端はそのまま、沈黙する。それが、何者でもない、答えそのものだった。

 

 

 

「………じゃあ、ソースケは」

 

三玖が、一番気になる風太郎の助っ人であり、恋人でもある総介について尋ねる。

 

「……浅倉様は上杉様の助っ人いう身であります故、彼も同じ形となります」

 

 

 

 

 

 

「………嘘……」

 

三玖の目から、光が失われていく。そして追い討ちと言わんばかりに、江端は告げた。

 

「なお、旦那様は浅倉様に新しい家庭教師になるよう要請されたのですが、浅倉様は『5人も自分一人では面倒を見れない』とお断りしたとのことです」

 

 

 

「………ソースケ……そんな……」

 

三玖が、下を向いたまま彼の名前を呟き続ける。すると、二乃が江端にあることを尋ねた。

 

 

「………もしかして、前のパパが言ってた赤点の条件が生きてたの?」

 

「!」

 

「そ、それじゃ……」

 

「それは違うと思われます」

 

前回の中間試験で、風太郎は『姉妹全員が赤点を回避できなかったらクビ』という宣告をされていたが、それは総介にやって阻止された。もしかしたら、今回も同じ条件を出されたのでは?と二乃は疑問に思うが、それは江端によって否定される。

 

 

 

 

「上杉様は、ご自分からお辞めになられたと伺っております」

 

 

「……自分からって……」

 

「フータロー、どうして……ソースケも……」

 

「……そんなの納得できません」

 

姉妹が落ち込む中、五月が毅然とした表情で江端に言う。

 

「彼を呼んで、直接話をします」

 

スマホを取り出して、この場に風太郎を呼び出そうとするが……

 

「……申し訳ございません

 

 

 

 

"上杉様のこの家への侵入を一切禁ずる"

 

 

 

 

旦那様よりそう伺っております」

 

 

「……なぜそこまで」

 

そこまでして風太郎を拒絶する父の意図は何なのか……そう五月が疑問に思っていると、

 

 

「………ソースケは」

 

三玖が何かを見つけたかのように、立ち上がる。

 

「ソースケはこの家には入っちゃいけないことはないんじゃ……」

 

「……生憎浅倉様のことは、私は聞いてはおりませんので」

 

「じ、じゃあ……」

 

「電話してみる!」

 

三玖がそう言うなり、慌ててスマホを取り出し、若干震える総介に電話をした。

 

 

 

しかし……

 

 

trrrr………trrrrr………trrrrr………ブツッ……ただ今電和に出ることが出来ません、『ピー』という……

 

「………出ない」

 

「そんな……」

 

「もう既に家庭教師の時間を過ぎていますから、寝てるということは無いはずですが……」

 

その後も、三玖は3回ほど電話をかけてみたが、同じように、総介は出なかった。

 

「……ソースケ……」

 

三玖が、何よりも頼りにしている恋人と連絡がつかず、悲しみに暮れていると、突然手に持ったスマホが鳴った。

 

『〜〜♪』

 

「!!」

 

それは、メールの着信音。差出人は………

 

 

 

 

「……ソースケからだ」

 

「「「「!!」」」」

 

今まで電話にでなかった総介からのメール。一体なぜこのようなことを?と疑問に思う姉妹たちだったが、三玖が恐る恐る彼から届いたメールの内容を開き、それを後ろや横から姉妹たちも見た。

 

その内容とは………

 

 

 

『三玖、君と、ついでに姉妹を足した5人で答えを出しなさい。それが出たら、もう一度俺に電話をしてほしい。それまでは俺は君とは連絡を絶つ。

 

それじゃ、待ってるよ』

 

「………」

 

「『ついで』って何よ『ついで』って!」

 

「あ、あはは……浅倉さんらしいね」

 

「浅倉君からすれば、私たち四人は『三玖の姉妹』だからね〜」

 

「……でも、答えとは一体……」

 

 

 

「ホホホ、それでは時間もございません、授業を開始しましょう」

 

「「「「「!」」」」」

 

姉妹が総介のメールに疑問を浮かべていたところで、江端が彼女たちに声をかけた。

 

「臨時とはいえ家庭教師の任を受けております。最低限の教育を受けていただかなければなりませんよ」

 

そう言われて、このままでいたのでは何も始まらないと、姉妹はひとまず江端の授業を受けることにした。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

それから、姉妹は江端が用意した問題を解いていた。

 

「これ終わったら自由にしていいのよね」

 

「ええ、ご自由になさってください」

 

「……まったく、あいつらどういうつもりよ」

 

「私はまだ信じられないよ………」

 

「本人の口からちゃんと聞かないとね……誰か終わった?」

 

「私はもうすぐです」

 

「私も」

 

話合いながら、問題を解き続ける5人。

 

「この問題、比較的簡単だよ」

 

「きっと江端さんも手心加えてくれてるんだよ」

 

「そうね、でも前の私たちなら危うかった。自分でも不思議なほど問題が解ける………悔しいけど、ほんっっっとうに悔しいけど……9割上杉、1割浅倉のおかげだわ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

そう言う二乃を、他の4人がジト目で睨む。

 

 

 

 

 

 

「…………そうね。間違ってたわ。9割9分は、海斗君が私を励ましてくれたおかげ、残りは実力よ」

 

 

「上杉さんと浅倉さんが完全に消滅した!!?」

 

とまあ、何やかんやで問題は解かれていき……

 

 

「終わった」

 

「……私も〜」

 

先に三玖が、少し遅れてて一花が、全ての問題を解き終わった。

 

「うう、私はまだ……」

 

「私は、あとは最後だけです」

 

五月は最後の問題、四葉と二乃はまだ終わらずというところだったので、一花と三玖は3人を待つことにした。

 

 

 

 

 

「ホホホ、その程度も解けないようであれば、特別授業に変更いたしますよ〜」

 

「「「〜〜〜っ!!!」」」

 

「!じゃあ、私採点してもらおっと〜」

 

「一花、ずるい。先に終わった私が先」

 

「なっ!?アンタら卑怯よ!」

 

「う、裏切り者〜!」

 

「………」

 

二乃と四葉が、残りの問題に苦戦する中、一花と三玖は江端に解いた問題を渡し、こちらに戻ってくる。そんな中、五月が2人に小さな声で話しかける。

 

 

「……あの」

 

「「?」」

 

 

 

 

「………カンニングペーパー、見ませんか?」

 

「!」

 

「それって期末の?」

 

姉妹は試験の前、風太郎から細長い紙をを筒状に丸めたカンニングペーパーを渡されていた。五月の言っているのは、そのカンペのことである。

 

「はい。全員筆入れに隠したはずです」

 

そう言って3人は、筆入れからカンペを取り出す。

 

「面白そう、私も見よっと」

 

「私も」

 

一花と三玖も、筆入れからそれを出す。

 

「い、いいのかな……」

 

四葉がカンニングすることを心配するが………

 

 

「有事です。なりふり構ってられません。浅倉君も言ってたでしょう?『要はバレなきゃいい』と」

 

「五月が2人みたいに!?」

 

「あんたも変わったわね」

 

五月の変わりように四葉は驚き、二乃は呆れるが、2人も同意して、江端がこちらへの注意を逸らした隙に……

 

「今だよ!」

 

「はいっ」

 

五月が最初に、カンペをめくった。すると……

 

「………」

 

「どうしたの?」

 

「?これ……どういうことでしょう……?」

 

カンペをめくった五月が、何故か固まる。

 

「なんというか……私のはミスがあったみたいです」

 

「じゃあ私の使お」

 

五月のカンペがダメならばと、次は既に問題を終えた一花がカンペをめくる。すると……

 

「えーっと……安?」

 

最初に出てきた文字が『安』。これでは何も分からないため、一花はそのままめくり続けた。それてカンペに書かれていたのが……

 

 

『安易に答えを得ようとは愚か者め』

 

 

「………」

 

カンニングしようとする者への強烈な罵倒だった。

 

「なーんだ」

 

「初めからカンニングさせるつもりなかったんじゃない」

 

「うん。でもフータローらしい」

 

「だね〜」

 

「……ですが、どうしましょう……」

 

結局、カンペは意味の無いものだったと知り、暗礁に乗り上げてしまうが、カンペを見ていた一花が何かに気付く。

 

「!待って。まだ何かが……」

 

そのメッセージには、続きが記されていた。

 

『→②』

 

「『②』って……」

 

「私のかしら?」

 

②ときたのだから、次は二乃だろうというのが姉妹の定石。ならばと、次は二乃のまたカンペをめくる。そこには………

 

『カンニングする生徒になんて教えられるか→③』

 

「自分で言ったんじゃない」

 

「繋がってる……!」

 

二乃のカンペを見ていた四葉が、気づいた。

 

「これ、上杉さんからの最後の手紙だよ」

 

次は③なので、三玖のカンペをめくる。

 

『これからは自分の手で摑み取れ→④』

 

続いて四葉。

 

『やっと地獄の激務から解放されて清々するぜ→⑤』

 

「……あはは……やっぱり辞めたかったんだ……私たちが相手だもん、当然といえば当然だよね……」

 

書かれていたメッセージを見て、落ち込む四葉だが、まだ五月の分が残っていた。

 

「最後、五月だけど……?五月?」

 

二乃が五月の方を見ると、彼女は顔を赤くしながら俯いていた。その視線の先には、最後のメッセージが書き記されていた。

 

『だが、そこそこ楽しい地獄だった じゃあな』

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

「………私」

 

姉妹が沈黙する中、四葉が口を開く。

 

 

「まだ上杉さんや浅倉さんに、教えてもらいたいよ……」

 

「………」

 

「……私も、ソースケだけじゃない。フータローにも、まだちゃんと勉強教えてもらってない」

 

四葉と三玖が、そう口にするが……

 

「そうは言っても、あいつはもうここには来られないの。どうしようもないわ……」

 

二乃の言う通り、風太郎がこの家に入ることが出来なくなった事実は変わらない。ならば、どうすればいいのか………

 

 

 

 

「………ねぇ」

 

そんな中、一花が沈黙していた口を開いた。

 

 

「みんなに……私から提案があるんだけど……」

 

そう言って、一花は姉妹に説明を始めた。そして、全てを言い終えてた後、姉妹は驚きの表情をする。

 

「え……」

 

「それ、本気?」

 

「うん、ずっと考えてたんだ」

 

その後も、姉妹全員と相談をし、5人全員の意志が一致したのを確認して、姉妹は立ち上がって。

 

「おや?どうなされましたか?」

 

江端が全員が立ち上がったことに、疑問を持つが、すぐさま一花が話しかける。

 

 

「江端さんもお願い………協力して」

 

 

「!」

 

 

 

姉妹たちを見た江端が、その力強い目を見つめ、昔、『マルオ』が彼女たちを引き取った時のことを思い出していた。5人とも、全く同じ容姿をしていたあの頃と比べて……

 

 

 

 

 

「……大きくなられましたな」

 

 

 

 

その表情は、どこか嬉しそうでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

それから、日にちはどんどんと過ぎていき、四葉も駅伝の大会を無事にやり遂げ、気が付けば2学期の終業式を迎えた、12月24日のクリスマスイブの夜。この日は雪も降っており、文字通りホワイトクリスマスだった。

 

 

「メリークリスマス!ケーキはいかがですかー?」

 

風太郎はサンタの格好をして、新しくバイトを始めたケーキ屋『REVIVAL』の前で、客引きを行なっていた。クリスマスイブという日なので、町中カップルや家族で多くの人が道を歩いている。

 

「ケーキいかが……はぁ」

 

中々客が来ないことにため息をつきながらも、寒い中もうひと頑張りと自身を鼓舞したその時だった。

 

 

 

 

「すんませ〜ん」

 

「はい!………!!!!!」

 

風太郎が振り向いた先にいた、目の前にいた人物に、彼は驚きを隠せなかった。そこにいたのはいつもの黒パーカーに、赤いマフラー、無造作な髪型、相変わらずの黒縁メガネの死んだ魚の目をした長身痩身の男……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店で1番高いケーキ、1ホールくださ〜い。あ、もちろんお前の奢りで」

 

 

 

 

 

 

 

「……目の前に、浅倉総介(暴君外道丸)が現れた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「んめぇな、コレ、やっぱりケーキは苺ショートに限るわぁ。そしてその後に、コーラ!くぅぅう!体に悪い組み合わせがやめられねぇなぁ!!」

 

「………」

 

あの後、店に入った総介は、さすがに1ホール食べきるのは無理だったので、数切れとコーラを頼み、席で食べていた。それを見ている風太郎が、さすがに我慢出来ずに総介に尋ねる。

 

「………何しにきたんだよ、浅倉」

 

「ん?ケーキ食いにきたんだが?」

 

「そうじゃなくて!今日クリスマスイブだろ……その……いいのかよ……」

 

 

「……んああ、そうだな。いいんだ。もう。

 

「え?」

 

風太郎の言いたいことを理解した総介は、次の瞬間、彼の耳が疑うようなことを言い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、三玖と別れたから」

 

 

「はぁぁあ!!!!?」

 

あまりの驚きに、バイト中であるにも関わらず、大きな叫び声を上げてしまう。

 

「別れたって、浅倉……ええっ!?」

 

「落ち着け上杉。いいか、よーく聞け。こっからが重要だ」

 

「!……な、なんだよ?」

 

取り乱す風太郎を、総介が落ち着かせる。そして少し間を空けて、総介は風太郎にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ」

 

「嘘なのかよっ!!!」

 

食い気味に風太郎は総介にツッコんだ。

 

「改行と太文字で完全にマジっぽかっただろ?騙されたな〜、そもそも俺が三玖と別れるわけねーだろ。別れてたらこんなとここねーわ」

 

「別れてねーのかよ!こりゃ一本取られたよ、ヒーハー!」

 

色々と衝撃を受け過ぎて少しおかしくなった風太郎だった。

 

 

 

………………………………

 

 

「で、わざわざケーキ食いにきただけじゃないんだろ?何の用だよ一体……」

 

「まぁテメーのバイト終わりまで待ってやっから、話は帰りながらだ。今はケーキ食わせろコノヤロー」

 

「ったく……」

 

 

 

………………………………

 

 

その後、風太郎は話を遠くから聞いていた店長に男2人でいることに同情され、早めに返してもらった。その際今の分からないサムズアップをされ「辛いこともあるけど、頑張れよ……メリークリスマス」と言われ、「あ、このバイト辞めよう」と思った風太郎(冗談)。そんな彼は、サンタの格好をしたまま、総介と帰り道を歩き、やがてとある公園へとたどり着く。そこで、近くにあった自販機で、総介の奢りでホットのコーヒーとカフェオレを買い、公園内のベンチに座った。

 

「で、何の用だよ?」

 

「んなもん聞かなくても、テメーにゃ心当たりがあんだろ?」

 

「………」

 

心当たりしかなかった。期末試験の際、総介には告げずに、一方的に家庭教師のことを押しつけて風太郎は姉妹と彼の前から姿を消したのだ。

 

「………」

 

「ま、逃げんなとは言わねーけどよ。まさか俺に全部来るとは思ってなかったぜ、完全に予想外だったわ……」

 

「……悪かったとは思ってるさ。だが、正直この数ヶ月で、俺なんかよりも、浅倉の方が家庭教師に相応しいって思ったから、ああするしかなかったんだ。もし相談してたら、止められたかもしれないしな……」

 

「そりゃ5人も1人で面倒見んのは俺もごめんだわ。っつーわけで、その連絡があいつらの父親から来たが、俺もそれは断らせてもらった」

 

「なっ!?」

 

風太郎は総介が家庭教師の件を断ったことに、目を見開いて驚く。

 

「断ったって……じゃあお前、あれからあのマンションに行ってないのか!?」

 

「ああ、何なら三玖以外とは、ほとんど会っちゃいねーな。俺のクラスに誰もいねーし」

 

「………」

 

あれから総介は、恋人の三玖とは定期的には会ってはいたが、他の姉妹とは全くと言っていいほど遭遇しなかった。本来何かのきっかけがなければ、総介は他の姉妹に連絡を取ろうとはしないので、当然といえば当然だが……

 

「じゃあ、あいつらの家庭教師は………」

 

「………さあな、三玖には個人的に勉強を教えちゃいるが……他は知らねー」

 

「………」

 

風太郎は、総介が家庭教師を継いで姉妹に教えているものだと思っていた。自分よりも、姉妹たちのコントロールに長け、勉強を教えることも得意な彼ならば、うまく次の試験で赤点回避してくれるはずだと……しかし、彼はもう既に三玖以外との姉妹とは会ってはいないと言ったのだ……

風太郎は缶コーヒーを両手で握りながら、その缶を見つめる。

 

「………」

 

「心配するぐれーなら、何で辞めちまう結論に至るかねぇ……」

 

「うっせぇ、心配なんか……」

 

「ほ〜う………」

 

「………くそっ」

 

総介を誤魔化すことは、この数ヶ月でほぼ不可能だと理解したため、今更嘘を言っても無駄だと感じて。風太郎は心の中で舌打ちする。そして、彼は口を開いた。

 

「……俺は二度のチャンスで結果を残さなかったんだ。次の試験だって上手くいくとは限らない。だったらお前に任せた方が、あいつらもついていくだろうって思って……」

 

「………」

 

「……俺は2回も失敗した。本来なら最初の失敗でクビになってたんだ。それを浅倉、お前が繋いでくれた。本当に感謝してるさ……でも、俺がいたら、また………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……テメーは失敗なんかしちゃいねーよ」

 

「………え?」

 

それまで黙って聞いていた総介が、隣に座った風太郎を見ずに、ボソッと呟く。

 

「テメーの本来の仕事は『5人の成績を上げて、無事卒業に導く』ことだろ?程度は違えど、あいつらの成績は上がってるし、赤点回避なんざ目安に過ぎねぇ。要は後1年ちょいで、5人が卒業出来ていれば『成功』、無理だったらそこで初めて『失敗』だ。まだ何も決まっちゃいねーだろ?」

 

「………簡単に言ってくれるな、お前は」

 

「ああ簡単だ。言うだけタダだ。好きだろ?タダって言葉」

 

「………」

 

「……それにな、上杉。俺から言わせれば、お前が言う失敗なんざ、失敗のうちにすら入らねーよ」

 

「………?」

 

「あんな小せぇ石に躓いた程度なんか、いちいち気にしちゃいられねーぞ。年取ったらあんなのがしぼりカスに思えてくるほどの苦難が待ってる。あの小せえ規模でいちいち腐ってたら、世の中命がいくつあっても渡れねぇ。もうちょい強えメンタルつけねぇとな」

 

「やっぱりお前高校生じゃないだろ。何歳だよ?」

 

「うっせー。住民票突きつけて殴るぞ」

 

そう言って、総介は持っていたカフェオレの缶に口をつけて飲む。その様子を横目で見た風太郎は、総介にこんなことを尋ねた。

 

「浅倉」

 

「ん?」

 

「……お前は失敗したこと無いのかよ?」

 

「………」

 

「俺はお前が、結構なことを経験してるのは、なんとなく分かるけどよ……浅倉が、何か失敗するとか、正直想像出来ないし、失敗に見せないよう誤魔化すのが、すげー得意そうだし……」

 

「いや最後失礼じゃね?」

 

「……お前は、もしかして今回の試験よりも大きな失敗とかを経験してるのか?そう思ったんだ……試験のことをあんな規模って言うぐらいの失敗をしたことがあるんじゃないかって……」

 

「………」

 

それを聞かれた総介は、少しの間、考えにふけった。しばらくして、彼は重い口を開く。

 

 

 

 

 

 

「上杉、お前、母ちゃんいるか?」

 

「え?………いや、6才の時に死んだ」

 

「病気か?」

 

「いや、交通事故で………」

 

「……そうか。悪いな、辛えこと聞いちまって……」

 

「いや……なぁ、いったいどういう」

 

 

 

 

「俺はな、大事な人を護れる男になりたかったんだ」

 

「?」

 

突然そう言い出した総介に、風太郎は少し戸惑ってしまうが、彼はそのまま話を続ける。

 

 

 

「まだクソガキの頃だ。

 

 

 

『銀魂』に出会って

 

 

 

 

その主人公に憧れて

 

 

 

真似しようとして、道場にも通った。

 

 

 

そこで強くなって

 

 

 

大切だと思う人を護れるように強くなりたいって思った

 

 

 

 

それから、何年か経って

 

 

 

 

10才の頃だ

 

 

 

 

 

7年前

 

 

 

 

 

 

あの事件が起こった」

 

「?事件?……」

 

 

 

「上杉、7年前に起きた、隣町のショッピングセンター爆破事故、知ってるか?」

 

「あ、ああ……俺もニュースで聞いたことがある」

 

7年前、風太郎たちの住む町の隣町で、大規模な爆発事故がショッピングセンターで起こった。建物の一部が爆発で吹き飛び、100名近い犠牲者、数百人規模の重軽傷者を出す大惨事となった。事故原因はガス管から漏れたガスに引火したことによる大規模な爆発が起きたということで処理され、現在はショッピングセンターは取り壊され、その場所には慰霊碑が建てられている。

 

 

 

 

 

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは事故なんかじゃねぇよ」

 

 

「!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「爆発が起きてから、俺は母さんを見つけようと必死に当たりを探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、やっと見つけたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、母さんは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいた母さんは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前で、刀で刺されて殺された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

風太郎からは、一切言葉が出なかった。

 

 

 

「女手ひとつで、俺を育ててくれた唯一の肉親を

 

 

 

 

 

 

この世で1番大切な人を

 

 

 

 

 

誰よりも護りたいと思ってた人を

 

 

 

 

 

 

 

目の前で殺されたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがどんなもんか

 

 

 

 

 

 

 

お前に分かるか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

「何のために、強くなったんだ

 

 

 

 

 

 

 

誰を護るために、強くなろうと必死こいてやってきたんだ

 

 

 

 

 

 

この時のためだったっつーのに

 

 

 

 

 

何も出来ず、ただ刺された母さんを見ることしか出来なかった

 

 

 

 

 

 

助けが来てくれるまで、俺はその場から動くことも出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

これが、俺の失敗だ」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

風太郎は絶句する他なかった。当時、隣町で起きた大規模な事故ということで、小学校でも話題になった。多くの人が死んだ事故だったため、翌日には緊急集会が行われ黙祷が捧げられた。彼も、父親も衝撃を受けたことを覚えている。

 

 

 

その被害者の1人が、目の前にいる総介と、その母親……

 

 

 

そして、母親が、日本刀で刺されて殺された?

 

 

彼の言っていることが、どういう事なのか……何を示しているのか、風太郎には分からなかった。

 

 

 

 

 

そしてこの事件が、総介の中の『鬼』が覚醒するきっかけとなったのだが、それはまた別のお話……

 

 

「……………俺の失敗はもう取り返しはつかねーが、お前のなんざ俺のに比べりゃ、いくらでも取り返せんだ。もうしばらくは粘ってもいいんじゃねーのか?」

 

 

「……浅倉」

 

「重い話になっちまったが、同情なんかいらねーよ。俺がこうしているってこたぁ、そーゆーこった。心配ならあのバカどもにしてやれ」

 

「いや、そうだが……その」

 

「?なんだ?」

 

「その……お前の母親を刺したやつって……」

 

 

「………さあな、死んだんじゃねぇのか?」

 

「………」

 

 

「とまぁ、俺の過去の話はここで終わりだ。いくら話しても変えることは出来ねぇ。いい加減前に進まねぇと、あっちにいる母さんに怒られちまうからな」

 

「………ああ」

 

そう言って、総介は自身の話をそこでやめた。と同時に、彼はポケットからスマホを取り出して、しばらく操作しながら話をする。

 

「だからよ、お前はまだ何も成し遂げちゃいねぇが、何も失敗しちゃいない。少しぐらいの躓菊なんか、これからいくらでも取り返せるだろうが」

 

「……だが、俺はもうあいつらに会わせる顔が……」

 

「……なら、本人たちに聞いてみたらどうだ?」

 

「え?」

 

「ほら、ちょうどお出ましだぜ」

 

「……!!!」

 

総介が正面を見ながら言うので、風太郎は彼と同じ方向を見る。すると、そこから、自分たちのもとに向かって歩いてくる5つの姿があった。その人物たちが、やがて2人のベンチの前まで来て、歩みを止める。

 

 

「お前は勝手に辞めたかどうか知らねーけどよ……

 

 

 

 

こいつらの意見もちっとは聞いてやれよ」

 

 

「……お前ら……」

 

「上杉君……」

 

「やっほー、久しぶり」

 

「上杉さん、水臭いです!」

 

「っ寒!……たく、こんなとこでウジウジしてんじゃないわよ」

 

「フータロー……私たちはまだ諦めてない……

 

 

だから、フータローも、たった二回で諦めてないでほしい

 

 

 

 

成功は失敗の先にある、でしょ?」

 

「!」

 

 

三玖が言った言葉は、少し前、風太郎が菊に言ったセリフだった。総介が先程、スマホをいじっていたのは、三玖に来るようにと合図のメールを送っていたのだ。

 

 

『いけないぞ菊。失敗を恐れてはいけない。諦めず続けることで報われる日がきっとくる。

 

成功は失敗の先にあるんだ』

 

「………」

 

未だ悩んでいる風太郎に、総介が姉妹に声をかける。

 

「さて、これだけでもまだ悩んでんなら、とりあえず家まで行きながら考えるか?」

 

「うん、そうだね〜」

 

「さっさと帰りましょう。寒くて叶わないわ」

 

「帰ってみんなでケーキ食べましょう」

 

 

「……だが、俺はお前らの家に入るのは禁止されて……」

 

「いいからいいから、ほら、いこ!」

 

「こうなっなら、引っ張って行きましょう!」

 

「お、ちょ!お前ら何すんだ!」

 

「上杉君が未だ覚悟を決められないので、私たちの覚悟を見せるんです!」

 

「はぁ!それってどういう」

 

「いいから歩きなさい!寒いんだからとっとと行くわよ!」

 

二乃に先導され、一花が風太郎の右手、四葉が左手を持ち、五月が背中を押す。

 

それを、総介と三玖が後ろで見ながら、手を繋いで歩き出す。

 

「……ありがとう、ソースケ」

 

「ん?俺は何もしちゃいないよ?君や、あいつらが決めてやったことなんだ。俺は少し手を添えた程度だよ」

 

「でも、ソースケがいなくちゃ、出来なかった………それに……」

 

「?」

 

「お母さんのこと、フータローに話したんでしょ?」

 

「……なんで分かったの?」

 

「……私に話した時も一緒……辛そうな顔してる……」

 

「………」

 

「……ソースケ」

 

三玖はそのまま立ち止まり、振り向いた総介に向かって背伸びし、彼の唇に軽く、優しい口付けをした。一瞬で離れたが、互いを見つめ合いながら、三玖が彼に向かって言う。

 

 

 

 

「私……私も、ソースケを護りたい」

 

「……三玖……」

 

「ソースケが好き。愛してるから、何もしないままじゃ嫌。私だけ何かされたままじゃ嫌

 

 

ソースケが辛いときは、私をもっと頼ってほしい

 

 

 

ソースケが弱ったときは、今度は私がソースケを護りたい……だめ?」

 

 

三玖は総介を見上げ、瞳を揺らしながら彼に尋ねた。そんな彼女を見て、総介は改めて、自身の中の三玖の大きさを思い知る。

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

 

この子だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が護る人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにいる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この子こそが、俺の………

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖に出会えたから、俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、あんな思いは………

 

 

 

 

 

 

自然と総介は、三玖に歩み寄り、彼女を抱きしめ、胸元に引き寄せた。そして、彼女の耳元で、優しくささやく。

 

 

「……三玖

 

 

 

 

 

君に出会えて、本当に良かった」

 

 

 

「……ソースケ

 

 

 

 

私も、ソースケに会えてよかった」

 

 

三玖は、総介の胸に埋めていた顔を上げ、今度は彼から、最愛の恋人へ口づけをした。

 

「……ん」

 

「ん……はぁ、冷たい」

 

「ふふっ、そうだね」

 

ほんの数秒のキス。それでも、互いの想いを確かめるのには充分で、唇を離した後に微笑み合う。

 

「ありがとう、三玖。もし俺が、どうしようもなくなったら……そのときは、三玖のそばにいたい。いいかな?」、

 

「うん。私も、ソースケに頼れるような恋人になりたい」

 

「……もうなってるよ。

 

 

 

こんなにも、三玖のそばにいて幸せなことなんてないんだから」

 

 

 

 

「………ソースケ」

 

 

 

「愛してる、三玖」

 

 

「私も、ソースケを愛してる」

 

抱き合ったまま、互いに想い合う言葉を交わした2人は、再び指を絡めて手を繋ぎ合い、先を行った4人を追うのだった。

 

 

 

 

 

さすがにこの話であのセリフは言えない。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「はい、着いたよ」

 

「………へ?」

 

 

 

 

「ここが、私たちの新しい家」

 

 

その後、姉妹に連れてこられたサンタ姿の風太郎は、目を見開いた。そこにあったのは、小さなアパート。一花はこれを『私たちの新しい家』だと言った。

 

「………どういう意味だ?」

 

「借りたの。私だってそれなりに稼いでるんだから」

 

女優業でそれなりの収入を得ている一花が、今回の発案をし、このアパートの一室を借りることになったのだ。

 

「といっても未成年だし、契約したのは別の人だけど、事後報告だけど、お父さんにはもう言ったから」

 

別の人とは、もちろん江端である。

 

「今日から私たちはここで暮らす

 

 

 

 

これで障害は無くなったね」

 

一花が言っている事は、つまり『マンションに入るのが禁止ならば、他の場所ならOK』という理屈だ。それを理解した風太郎が、驚愕する。

 

「嘘だろ……たったそれだけのために……あの家を手放したのか?」

 

「……それだけのため、じゃないかな。細かく言えば……」

 

「?」

 

「前に、浅倉君が言ってたことが、頭の中で引っかかっちゃっててね……『いつまでも父親に頼ってないで、一人で生きていかなきゃならない』って。

 

 

 

私たちがあそこで生活出来たてたのも、全部お父さんのおかげだし

 

 

 

私たちも、それに甘えてばっかりだったから

 

 

 

ちょうどいい機会だから、お父さんの力を極力使わないで

 

 

 

 

一人じゃまだだけど、とりあえず五人だけの力で暮らしてみようって

 

 

 

 

それで、こうなったの

 

 

 

 

これが、私たちの覚悟だよ」

 

 

かつて総介が、これまた菊に向けて言った言葉を、一花は忘れることが出来なかった。そして、彼と喫茶店で話をしたときも、それが頭にこびりついていた。果たして自分たちは、父に、立派な環境を与えてくれるあの人に何をしてあげているのだろう……

 

それを思っていた矢先、先の出来事があった。一花は、ここがいい機会かもしれないと思い、マンションを離れて暮らすことを提案した。風太郎のこともそうだが、父に示さなければならない。甘えているばかりでは、何も変わらない。自分たちも前に進むということを。

 

その結果が、これである。

 

 

「前に言いましたよね。大切なのはどこにいるかではなく

 

 

 

 

『五人でいること』なんです」

 

風太郎は勤労感謝の日に四葉とデートした際、そう言ってたことを思い出した。彼女たちに、環境は問題ではない。どのような環境でも、五人が共に支え合うこと。それこそが大切なのだと。

 

すると、風太郎が……

 

「……ははっ、はははっ!」

 

風太郎は、驚きを通り越したのか、その場で笑ってしまう。

 

「ははははっ……お前ら、どうしようもない馬鹿だな……馬鹿過ぎて困る………」

 

「お前もな、上杉」

 

「ふっ……なんだかお前らに配慮するのも馬鹿らしくなってきた

 

 

 

 

 

俺もやりたいようにやらせてもらう」

 

「!」

 

「俺の身勝手に付き合えよ

 

 

 

最後までな」

 

「ふふっそうかなくっちゃ」

 

「じゃあ、上杉さん!」

 

「ああ、最後まで、卒業できるまで面倒見てやるよ!」

 

そう言われた姉妹は、一様に明るい表情が戻ってきた。そして風太郎は、総介の方を向いて言う。

 

「浅倉、あれだけ俺に行ったんだ。最後まで付き合ってもらうぞ!」

 

「上等だガリ勉野郎。今度弱音吐いたら生皮剥ぐぞコノヤロー」

 

「あ、いや、すいませんでした。それは勘弁してください……」

 

「じゃあ、これは浅倉君に預けるね」

 

「?それは……」

 

一花がポケットから取り出したのは、前に住んでた『 PENTAGON』のカードキーだった。きっちり5枚あり、それを総介に渡す。

 

「あいよ。いつでも使いたかったら言ってくれな」

 

「うん」

 

「言っとくけど、勝手に使って入ったら住居侵入で逮捕してもらうわよ!いいわね!」

 

「安心しな。誰もテメーの部屋なんかに入りゃしねーよ。あんな男がドン引きするほどのエロいパンツがしまってある部屋にはな」

 

「何ですって!!!一花!だからコイツに預けんのやめなさいって言ったのにーー!!」

 

二乃が喚いているが、いつものことなのでもう誰も気にしないでいる。

 

「言っとくけど、私は海斗君がアンタの近くにいるから利用させてもらうだけよ!別にry」

 

「『 別にアンタらのためなんかじゃないんだからね!勘違いしないでよね!』ってか?うわー教科書通りなツンデレ女のテンプレセリフ。中の人を釘◯理恵にしてから出直してこいコノヤロー」

 

「ムキャーーー!!!」

 

猿の如き奇声をあげながら、総介に襲い掛かろうとする二乃だが、四葉がそれを抑える。そんな状況を無視して、総介はそのまま言葉を続けた。

 

「んじゃ、俺ァ三玖連れて帰るわ」

 

「はぁ!?何勝手なこと言ってんの!?」

 

「何って、今夜はクリスマスイブだぜ。何で恋人がいんのに大勢で過ごさなきゃなんねーんだよ」

 

「私はさっき、ソースケの家に入りきらなかった荷物を置いてきた。これからはいつでもソースケの家に泊まれる」

 

「なんなら一緒に住む?」

 

「えっ………いいの?」

 

「うん、どうせ遅かれ早かれ、そうなるんだし、今のうちに予行練習をry」

 

「いいわけあるかぁ!!」

 

せっかく同棲の流れだったのに、やはり二乃に止められた。

 

「さ、さすがに同棲は……」

 

「だねー、三玖の分の布団もこっちに入れちゃったし」

 

「同棲……は、ハレンチです!」

 

「お前の同棲のイメージはどんなんだよ……」

「……ちぇっ、チャンスだったのに……」

 

「むぅ〜……」

 

この後、三玖をめぐる総介と二乃の攻防があったものの、三玖本人が望んだことと、一花が許したことで、アパートで皆でケーキを食べた後、総介は三玖を連れて帰っていった。

 

 

 

 

そして総介は、ケーキを食べた後、自宅で三玖を食べちゃいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

総介雪に埋もれてしまえ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私だって………海斗君にお持ち帰りされたいわよ」

 

「嫉妬してんじゃねーか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「江端、今日は遅かったね」

 

「申し訳ございません、旦那様」

 

「まぁいい……」

 

江端の運転する車の後部座席で、『マルオ』はスマホを握りしめながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

「上杉、やってくれたね……しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君のような男に娘はやらないよ」

 

 

 

 

その顔は、無表情ながらも、確かな怒りを滲ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「浅倉様にも同じことを言えますかな、旦那様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………江端」

 

 

 

 

「ホホホ、冗談ですよ」

 

 

 

 

彼ら二人が乗る車は、そのまま夜の街を走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、五つ子と風太郎と総介

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖と総介の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人』と『鬼』の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい年が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の年が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男

 

 

 

 

 

第四章『人の過去なんざシャボン玉のように儚い』完

 

 

 

 

 

 

 

 

第五章『世はまさに大恋愛時代』に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験結果発表〜番外編

 

・上杉風太郎

国語……100

数学……100

理科……100

社会……100

英語……100

五計……500

 

 

・浅倉総介

国語……80

数学……59

理科……61

社会……96

英語……68

五計……364

 

 

・大門寺海斗

国語……100

数学……99

理科……99

社会……100

英語……100

五計……498

※備考……試験勉強一切行わず

 

 

・渡辺アイナ

国語……98

数学……95

理科……91

社会……97

英語……100

五計……481

 

 




第四章、完結しました!
試験は三玖と一花が赤点回避することに成功しました!
そして姉妹がマンションから離れ、アパートに引っ越したら理由が、父への反発→少しの反発+父に甘え切っている現状への負い目に変わりました。
そして、総介の凄惨な過去……詳しくは後々、明らかになっていきます。
次回の更新は7月中旬〜下旬を予定しております。
それまでご感想、メッセージ等お待ちしてます!この小説が良かったなら、お気に入り登録、高評価よろしくお願いします!
ここまでこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!

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