全然悪ふざけが書けないのってすんごいめんどくさい………
時を遡ること昼休み
総介から『ヘッドホンさん』と呼ばれている少女、中野三玖は食堂に来ていた。
目的は昼休みなので、そりゃお昼ご飯がメインなのだが、三玖の場合はもう一つあった。
「三玖〜、どうしたの?さっきからキョロキョロして」
「……なんでもない」
一緒にお昼を食べに来た四葉が聞いてくるも、適当にあしらう。
「フータロー君でも探しているのかなぁ?」
そう聞いてくるのは五つ子の長女の中野一花。ニヤニヤしながら三玖に聞いてくるあたり、彼との色恋沙汰を気にしているのか……
「違う」
「ありゃりゃ、即答……こりゃ脈なしかな?」
残念、と手を広げながら肩を落とす一花。何の脈なのかと思ったが、突っ込むのも面倒なので三玖は聞き流すことにした。
「あははー、せっかく共学の学校なのに、恋愛したくても、相手がいないんだよねー」
「そうだねー。四葉もやっぱり?」
「うん、まだー。」
そんないかにも女子高生みたいな会話をしていると、四葉が、
「三玖はどう?好きな男子とかできた?」
「えっ?」
何気なく三玖へと聞いた質問。直後、三玖は頬を赤く染めてながら
「……い、いないよ」
そう言い残してタタタっと空いてる席に行ってしまった。
「おやおや〜、四葉さん、これはもしや〜?」
「そうですねぇ一花さん、これはもしかするともしかするかもですよぉ〜?」
わざとらしい敬語を使ってニヤニヤと笑い合う一花と四葉。
その場に三玖がいないのをいいことに、姉妹の色恋沙汰を勝手に考え始める2人であった。
三玖は適当な席について、黙々とお昼のサンドイッチと抹茶ソーダをお腹へと入れて行く。
先ほどの四葉の質問を考えながら…………
(…………どうして……)
四葉から聞かれたとき、真っ先に思い浮かぶ姿があった。
それは先日から自分たちの家庭教師だと名乗っている上杉風太郎という男子………
ではない。
確かに彼は姉妹に関わってくる数少ない、いや唯一の男子と言ってもいい。一花が真っ先に風太郎の名前を出したのも、この学校で知ってる男子が彼しかいないからだろう。
しかし、他の姉妹はどうなのか知らないが、三玖は風太郎以外に話をした男子がただ一人だけいた。
(………あのひとの顔が……)
それは転校してきた初日、自販機で抹茶ソーダを買おうとしていたところ、売り切れてしまっていたそれを『転校祝い』と言って譲ってくれた人。すぐさま走り去って行き、名前は聞けなかったので、三玖はその男子を『メガネのひと』と心の中で呼んでいた。
最初は『優しい人』、それだけだった。今度会ったらお礼でもしよう。そうして恩を返すだけの人、その程度の認識だった。
ところが翌日、事態は急変した。
昼休みに食堂にその『メガネのひと』がいた。誰かを探しているのか、歩き回ってキョロキョロしている。ふと彼の手元をみると、左には赤い缶のコーラ、右手には緑色の見慣れた缶、抹茶ソーダが握られていた。それを見て三玖は気づいた。もしかして今彼が探しているのは……
(………私?)
そんなことを思っていると、彼が近づいてきた。しかし、こちらには気づいていない様子。どうしたものか、と三玖は考えた。
(…………行こう)
少なくとも、昨日もらった抹茶ソーダのお礼はしたい。その思いが、彼女を『メガネのひと』のすぐそばまで身体を導いた。三玖が彼の背後についたその直後に、彼が振り向いて二人は二回目の出会いを果たした。
三玖はその『メガネのひと』に再び抹茶ソーダを渡されたが、先にお礼をしなきゃ受け取らないと言った。すると彼が言ってきたのは、『お昼ご飯を一緒に食べること』だった。
それだけでいいのか?と三玖は思ったが、別に変なお願いではなかったので、了承することにした。
三玖は四葉たちとお昼ご飯を食べる予定だったが、スマホで連絡すれば大丈夫だと思い、連絡を入れてから、彼が見つけた席に向かい合って座り、その後は彼とのトークに興じていた。その途中に事件は起こった。
ひょんなことからスマホを落としてしまい、『メガネのひと』に画面を見られてしまった。
誰にも、姉妹にすら言っていない三玖だけの秘密を、会って2日しか経っていない人に知られてしまった。彼女自身、変なことは自覚していた。みんなはイケメンやモデルを好きになってるのに、自分は髭の生えた暑苦しそうなおじさん達が好き。受け入れてもらえるわけがない。そうしたネガティブな感情が彼女の中で渦巻いていた。
ところが彼は、全く気にしなかった。それどころか、彼は不器用な言葉で三玖を勇気付け、さらに三玖のことを尊敬するとまで言った。
『メガネのひと』の言葉の後で、彼が好きなものも知った。彼も似たような趣味を持っていた。もしかしたら話が合うかもしれない。新しいことを知れるかもしれない。そして彼のことも………
そんな時にチャイムが鳴って、彼はまた去っていった。
(名前、また聞けなかった…………それにまた明日って言ってたけど…………
今日は金曜日なんだけど……………)
それからの3日間、三玖は彼の言葉を思い返し続けた。
……………………
『自分の好きなモンを好きって言うことに、何をそんなに躊躇する?何をそんなに恥ずかしがる?』
『自分に自信がもてねーからか?
んなモン勝手に笑わせときゃいいんだよ。』
『どんな趣味持ってても、そんなのは人それぞれ違うし
違ってて当然だろ。』
『今の自分を信じられるのは友達でも妹さんでもねー
自分自身だろうが』
……………………
側から見れば、ただの痛いセリフにしか聞こえないだろう。しかし三玖は、彼があの時言った言葉の数々に不思議な何かを感じていた。重いなにか……何か引きつけられる重力のような何かが言葉の節々にあった。
そして気がつけば、三玖は頭の中で彼のことを考えるようになった。今日のお昼に食堂に来ても、『メガネのひと』がいないかと周りを見渡してしまうほどだ。いないと知ると少し落ち込んでしまう。どうしてだろうか。
そして極め付けは、四葉に言われた言葉だった。
三玖はどう?好きな男子とかできた?
一瞬だった。三玖の頭の中がその『メガネのひと』で埋め尽くされてしまった。まだ名前すら知らないのに。まだ少ししかおしゃべりしてないのに。まだ彼のことを何も知らないのに………
あの場から逃げてきて正解だった。あのままいたらきっと、一花と四葉に問い詰められていただろう。
(………好き……なのかな……?)
まだ三玖には、自分の感情がどういったものか整理が出来ないでいた。恋愛などしたこともないし、ましてそれがどういうものなのかも分からない。ただ、彼女の中で『メガネのひと』が存在し続けているのは事実だった。
(…………また会いたい)
好きにしろそうでないにしろ、会ってこの感情が何なのか、確かめたい。はっきりさせたい。彼と色んな話がしたい。そのうち分かるはずだ。このよく分からない何かが。
そう考えながら、三玖は残りの抹茶ソーダを飲み干し、教室へと戻っていった。
放課後、三玖はスマホを開いていた。内容は先ほど、五つ子の末っ子でもある中野五月から届いたメールだった。
『上杉くんがどうやら家庭教師の助っ人を連れてくるみたいです。』
そのメールを見て、三玖はうんざりした。
(フータロー、まだ諦めてないんだ)
先日、二乃に睡眠薬入りの水を飲まされて追い返され、自分たち全員が赤点候補を知ってもなお、姉妹に食い下がってくる。彼女はそんな様を見て滑稽だと思っていた。そして彼が出した次の策は、助っ人を呼ぶということ。要は2人で姉妹を包囲して無理やりにでも勉強させるのが魂胆だろう。
(………毛利元就の三本の矢)
三玖はそれを思い出していた。一本の矢は容易く折られてしまうが、それが束になった場合は容易には折れない、という故事である。戦国武将マニアの彼女ならではの考えだった。しかし
(私たちは五人、あっちは二人。………戦力差は一目瞭然)
たとえ一人増えようとも、大して変わりはない。また二乃が風太郎にバレないように何か薬を持って追い返すだろう。そうこう考えていると
「三玖ー!一緒に帰ろー!」
四葉が声をかけてきた。どうやら彼女も帰宅するところらしい。
「わかった」
とりあえず、三玖はゆっくりと家路につくことにした。
…………………
帰宅中、自宅のマンションがあと少しのところで三玖は四葉に五月からのメールの話をした。
「そういえば四葉」
「ん、何ー?」
「フータローが連れてくる助っ人、どんな人か分かる?」
「え?助っ人⁈何の話⁈」
四葉、ここで助っ人の件を知る。
「……五月からのメール見てないの?」
「え?ちょっと待って!………」
そう言うと四葉はポケットからスマホを取り出して、画面を数回タップして確認した。
「あ!ホントだ!いつの間に五月からメールが!!しかも、上杉さんが助っ人を連れてくるんだって!?すごいね三玖!」
「それさっき私が言った」
「いや〜、どんな人なんだろうな〜!打率三割はキープできる人かなー!それとも抑えのエースかなー!楽しみだねー!」
「それ違う助っ人。家庭教師だよ家庭教師」
「うおっと、そっだった!こうしちゃいられない!早く挨拶に行かないと!いっくぞー!!」
そう言うと四葉は思いっきりダッシュをして走り去っていった。
「あ、ちょっと四葉…………はぁ……」
ため息をついて走っていく妹に呆れを見せる三玖。仕方ないのでそのままのペースで歩くことにした。
「………助っ人………」
どんな人なんだろう。フータローが連れて来ると言ってた訳だから、変な人ではないとは思う。多分……それでもだ。
(……勉強、嫌だな………)
分からない事をするのは、嫌いだ。四葉みたいにやる気があるわけでもないし、一花みたいに大人の対応で軽く受け流すこともできない。二乃のように強引にでも追い返せなければ、五月のようにしっかりしてるわけでもない。
(………やっぱり私は……)
落ちこぼれなのかな、と思いかけた時、あの言葉が頭に浮かぶ。
『萎縮なんてする必要全くねーよ。
自信なんて後からいくらでもやった分だけついてくらー』
『今の自分を信じられるのは友達でも妹さんでもねー
自分自身だろうが』
(…………)
彼の、『メガネのひと』の言葉。ただ口先から出たようには全く聞こえなかった、力強く、芯の通った言葉。
もし、私に、自分を信じる力があれば………
(……………自信なんて、後からいくらでもやったぶんだけついてくる………)
今はまだ何もやっていない。だから自信がわかない。自分を信じれない。でも、これからやれば………
彼がこの場にいれば、同じことを言っただろうか……それとも……
(………ふふっ)
笑ってしまう。彼は関係ないのに、思い出してしまう。それは私が、彼の言葉を信じようとしているからなんだろう。
(………信じて、みようかな)
彼を、
彼の言葉を、
自分自身を、
いろいろ考えるのは後からでいい。今はただ信じてみよう。
そう思い私は、自宅のマンションのエントランスまで、少し速く歩いていった。
すると、エントランスに何人かが立っていた。
「三玖ー!遅いよ〜〜!!」
四葉が手を振って私を待っていた。周りを見ると、フータローに二乃もいた。
「四葉がいきなり走るから………………………っ!!!!」
そして、フータローのとなりにいた人に、私は驚きを隠せなかった。
「……………うそ…………」
そこにいた人こそ
私が会いたいと思っていた『メガネのひと』だった
直後、私の世界が、全てが真っ白になってしまった
四葉もいない
二乃もいない
フータローもいない
周りの景色も全てなくなった
ただ一人
『メガネのひと』だけが、そこにいた。
こうして、中野三玖と、『メガネのひと』改め『浅倉総介』は三度出会った
続
原作キャラ、ましてやヒロインの視点はメチャクチャ難しいです。
今回もこんな駄文を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
次回更新は明日を予定しているのですが、更新されなかったらまた来週の火曜日になるかもしれません。