世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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大左衛門について、多くの反響がありました。感想やメッセージ、本当にありがとうございます!

そして今回は、大門寺の、そして総介の明確な『敵』の存在についてです。


71.大門寺と霞斑

「奴らの背後に、霞斑(かすみまだら)の存在が確認された」

 

 

 

 

 

 

 

「まだ生きてたか………あの蛇どもが」

 

 

 

 

 

剛蔵のその一言で、綾女と剣一以外の『懐刀』の面々が、目を見開いて驚く。

 

 

 

『霞斑』………その言葉が意味するものとは………

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お父様、お話の途中に失礼致します。それは確かな情報なのですか?」

 

 

「………ああ、剣一や、各地に置いてある者達の情報を照らし合わせ、ようやく証拠を得た。奴らはまだ、完全に息絶えてはいない」

 

恐る恐る聞いたアイナの質問に、剛蔵は厳しい表情のまま答える。アイナはそのまま、剣一の方を目を向けると、彼は沈黙したまま、静かに頷いた。

 

 

 

大左衛門の側近である『朧隠』片桐剣一の、『刀』という隊の中での役割は『潜入工作』『情報収集』『暗殺』等の、隊の中でも極めて危険で、繊細かつ結果の求められるという闇の任務を請け負い実行する、剣一はそのエキスパートであり、奇人揃いの『懐刀』の中でも、異色の役割を担っている。

 

つまり、何が言いたいかと言うと………

 

 

 

 

片桐剣一は、『侍』ではなく『忍者』なのである。

 

 

 

 

『忍者』なのである!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーモ、サクシャ=サン、片桐剣一デス。

 

 

 

アイエエエ!?

 

 

 

ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

 

 

 

 

 

………すんませんでした。

 

 

 

 

武器は一般的な忍者の手裏剣やクナイ、千本や小型等のオーソドックスなものから、鎖鎌や日本刀、銃火器まで何でもござれ、必要に応じて全ての武器、暗器を使いこなすハイブリッドというか、オールマイティな暗殺者(アサシン)なのだ。

無論、身体能力も抜群であり、自身の気配を消しての潜入や、困難な場所の移動、体術による身軽な行動や格闘技など、生身での戦闘力も『懐刀』らしく、常人を遥かに凌ぐ。

 

 

 

 

ちなみに彼の任務達成率は100%……即ち失敗はゼロ。

 

 

ただし、『懐刀』の中でも特に危険な環境に身を置いているだけあって、任務の失敗、それは彼自身の『死』へと直結している。

剣一が生きている限りは、彼の任務に失敗の文字は無く、大門寺にとって情報収集の生命線とも言えよう。

大左衛門もその能力を買っており、剛蔵ではなく、剣一を側近として側に置いていることこそ、彼への信頼度の表れなのである。

 

……よくめっちゃ無茶苦茶な頼みをするけど(とにかく強いやつを連れて来い、とか)

 

 

……さて、剣一のことはともかく、話を戻そう。

 

 

「んで、『霞斑』がまだ健在だとして、なんであの娘達を攫おうとしたんですかィ?」

 

続いて、明人が剛蔵へと質問する、

 

「一つはもちろん、オレ達大門寺への報復のために、人質として利用しようというのが動機だと推測するが………」

 

「それにしては、やってる事がリスキー過ぎる、って訳か……」

 

剛蔵の話の後に、刀次が補足を入れる。

 

 

確かに、『霞斑』と呼ばれる者たちが何故、大門寺への報復の第一歩として、わざわざ総介、海斗、アイナという『懐刀』3人の息がかかっている中野家の五つ子を標的にしたのか……そして、何故それに『捨て駒』を利用してまで実行へと移したのか……このことは、総介は昨日から考えてはいたが、未だ結論には至っていなかった。

 

 

 

その結論について、剛蔵は改めて話を続けた。

 

 

 

「………これは俺の勝手な推測だが………

 

 

 

 

 

 

 

奴らは大門寺へと報復するにあたり、『何か』を確かめたかったのだろう………

 

 

 

 

 

そして、『捨て駒』雇い、それらを使い捨てて確認をした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総介の………『鬼童』の生存をな」

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「!!」

 

 

「…………なるほど、俺ァまんまと連中の罠に引っかかってしまったって訳ってことか……」

 

アイナと明人が驚きの表情をしているのに対し、総介本人はいつものやる気の無い表情を崩さない。

 

 

「あくまで推測だ。しかし、『死亡説』すら流れていた『鬼童』の生死の確認を行うことは、奴らにとっても今後の動きが重要になってくるだろうからな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何せお前は、去年の抗争で、一番多くの武功を挙げたんだ。連中が警戒するのも無理はない」

 

 

 

 

「………とんだラブコールを受けちまった訳ですね、俺は」

 

 

ニヒルに笑う総介の眉間に、若干シワが寄り始める。

 

 

 

やられた。罠に嵌めたつもりが、逆に『霞斑』の罠に嵌められてしまった………

 

 

 

目的は五つ子ではなく、自分自身………餌に引っかかったのは、総介達の方だった………

 

 

そのことに、少しイラつきを覚えるが、あの場で何もせずにいれば、風太郎や五つ子姉妹、そして、何よりも大切な恋人を、護ると誓った大切な人を失うことは明白だった。あの場で動いたのは、総介にとっては間違えだとは言い切れない。

 

 

 

 

 

 

 

どこかで盗み見てたのかが知らねぇが、中々して粋なことをしてくれるじゃねぇか…………

 

 

総介から『鬼童』としての殺気が少し溢れ出したところで、剛蔵が総介へと声をかけた。

 

 

 

 

「………だがな総介。お前の、もとより『鬼童』の生存、健在をその目で確認したということは、奴らも早々に手は打てないことにも繋がる。

お前が生きてると確認した『霞斑』は今頃、気が気じゃねぇだろうよ。それに、ひょっとしたらその事に焦って尻尾を出すかもしれんしな。何も悪い事ばかりじゃねぇ。気にするな」

 

 

「………はい、ありがとうございます、剛蔵さん」

 

剛蔵のフォローに、総介は殺気を引いて、頭を下げて礼を言う。

すると、剛蔵の横で太々しく座る大男が、その口を開いた。

 

 

 

 

 

「………総介よぉ」

 

「!」

 

大左衛門が、総介へ向けて声を掛ける。

 

 

 

 

「お前の今の殺気………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………さては、『色』を知ったな?」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

大左衛門の言葉を受けて、総介は沈黙をもって答える。

 

 

 

「殺気の濃度が目に見えて濃くなってやがる………

 

 

 

 

 

 

 

 

それは男として、戦士として数段上のステージへ昇った証。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にお前のは、海斗のそれ(・・・・・)を遥かに上回る高さ、厚さ、上げ幅、純度、濃度、密度………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの日』に、お前の中の『鬼』が醒めた日から、もしやとは思っていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ククク………中々に、面白えことになりそうだ」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

不敵な笑みを浮かべ、総介を見下ろす大左衛門。

 

 

 

 

 

 

普段ならば、いくら総介でも顔を真っ赤にして別の話や皮肉を言いながら誤魔化したくなるほどのことだろう。

しかし、それを大左衛門に暴露された事に、総介は恥ずかしさや憤りなどを微塵も感じなかった。

 

 

 

 

いや、今はそんな暇など無かった(・・・・・・・・・・)

 

 

 

大左衛門はそのまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

「どうなろうが、何をしようが、それはお前の『自由』だ。

 

 

 

 

 

 

だがな、俺も久々に『鬼』と会えたんだ

 

 

 

 

 

 

 

もうちょいじっくりと楽しみてェ

 

 

 

 

 

 

 

 

失望させてくれるなよ」

 

 

昔に見つけた良質なおもちゃが、年月を経て、超強力な強化パーツ付属で目の前に現れた……

 

 

今の大左衛門の気持ちの昂りを表すとすれば、これが適切だろう。

 

 

しかし、今の総介に、大左衛門の言葉が耳には入ってこそくるが、全く響かなかった。

 

 

 

存在感の塊のような漢を前にして、彼の頭の中は、『霞斑』の存命、その一点のみのことだけを考えていた。

 

 

 

「ちょっといいですかィ、剛蔵さん」

 

 

と、大左衛門の言葉がそこで途切れたのを見計らい、明人が剛蔵へと尋ねた。

 

「『霞斑』がまだ生きてんのは分かりましたが、実際のところ、あいつら何人が生き残ってんスか?そこらへんはまだハッキリしてないんですかィ?」

 

いつもの抑揚無いマイペースな口調で質問する明人。大左衛門を前にしても、顔色ひとつ変えずに話を変えるとは、図太いというか、逆に無神経なのかもしれない。

 

 

「………そうだな、向こうの残った連中の事も話さなければならん。

 

 

 

 

今のところ確認されてるのは、滅亡前の霞斑家当主『霞斑央冥(おうめい)

 

 

 

そしてその『4人の息子』のうちの中の四男『霞斑北斗(ほくと)だけだ』

 

 

 

 

 

 

『霞斑』とは、組織の名称ではなく、元々存在した一族の名前である。

 

 

 

一年前までは大門寺と双璧をなす名家として名が轟いていたが、双璧とは名ばかりで、実際は野心を抱いた残虐な集団でしかなかった。表では『大門寺』と同じく、幾つかの財閥や企業を傘下に置いているという名家としての存在だったが………

 

 

 

 

 

 

 

その裏では日本を含めた世界中での非合法の薬物や銃火器の取引、世界各地で紛争を仕掛けての利益の獲得、目にかかった容姿の良い人物を男女問わずを誘拐して凌辱を行い殺害、健康体の人間の拉致、それらの人身売買や人体実験、そして、何の関係も無い民間人を巻き込むことすら厭わずに敵対人物の暗殺や、見せしめとしての牽制でのテロ行為、気に入らない人物を親兄弟、飼われていた動物に至るまで躊躇なく惨殺、この世で思いつく暴虐の限りを尽くし続けた。そして、それらの外道の所業は全て、政界にも広く効く顔と、その界隈を自由に操れるという、『権力』という強大な力の名の下に、全てを不慮の事故や、原因不明ということにして揉み消してきた。

 

 

こうして、何ら関係のない善良な民衆の大量の血と命を引き換えにして得た巨万の富は、一時期は大門寺の倍以上を保有していたとの噂もある。

 

 

裏の世界でそれらを知る者は、霞斑一族を『蛇』、当主の央冥はその見た目と飽くなき欲望から『豚』という蔑称で呼ぶ者も少なくなかったという。

 

 

 

 

人の生き血を啜り、贅の限りを続けた霞斑が、何を血迷ったか、とうとう天下に『最強』と轟く大門寺に喧嘩を売った。理由はもちろん、彼らの全てを丸呑みして、更なる私腹を肥やそうしたのだ。その結果………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞斑は、大門寺家対外特別防衛局『刀』によって一切の容赦なく殲滅され、当主と4人の息子、一族ごと滅亡する羽目となった。

 

 

 

 

自らの腹を満たし続けた蛇は、自身の力量すら見誤った末に、『本物の化物』によって、無惨にも食い千切られてしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

「あの時に生死を確認出来なかった2人が、今になって姿を現した………彼らの行動は、何か勝算があってのことなのでしょうか?」

 

 

「さあな、そこんところは現在も調査中だ……しかし、あれだけの痛手を与えて、まだ何か企んでやがるとはな……蛇は胴体を斬れど、そのまま生き続けて咬みついてくるとは、よく言ったもんだ」

 

 

 

一年前、『大門寺』と『霞斑』に、今現在まででは実質最後と言える大規模な抗争が勃発した。

 

古よりこの両家は、相対していた仲ではあったものの、霞斑は滅亡前の最後の当主『霞斑央冥』の底の尽きない欲望の果てに、大門寺の全てを滅ぼして、その私財の全ての独占を企んだ。それが今から10年ほど前の話………

当時から既に『大左衛門』の名を継いだ総帥『陸號』はさほど気には留めていなかったが、8年前に事態は急展開を迎える……

 

 

 

 

 

 

それは、『ある男』が、『霞斑』に雇われたとの情報。

 

 

 

その男が霞斑に求めた見返りは金銭等のありきたりなものでは無く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺し』であった。

 

 

 

 

 

ただ、人を殺し続けられる環境。それだけを求めた結果、男は霞斑へと行き着いた。

 

 

 

 

『霞斑が、大門寺にとって最凶最悪の戦力を手に入れた』

 

 

それを耳にした大左衛門、剛蔵の2人は、直ちに霞斑の殲滅にかかったのだが、『その男』の入れ知恵により、霞斑は文字通り、霞の如く姿を消し、斑の如く各地へ点々と現れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして7年前、最悪な形での悲劇が起きてしまう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから6年の時が流れ、両者による最大規模の抗争が起き………

 

 

 

 

 

 

霞斑は、その存在を消された。

 

 

 

 

 

 

その中で、当主の央冥の4人の息子がいた。

 

 

 

長男の『南十(みなと)

 

 

次男の『東弥(とうや)

 

 

三男の『西哉(せいや)

 

 

四男の『北斗(ほくと)

 

 

 

 

いずれも知略、戦闘力においては常人のそれを遥かに凌駕していたが、

何せ相手が悪すぎた………

 

 

 

 

長男の『南十』は、戦車を持ち上げるほどの剛力を誇るパワータイプだったが………

 

 

 

 

 

『暴獣』長谷川厳二郎によって、たった一太刀で左右真っ二つにされて瞬殺された。

厳二郎曰く……「退屈で話にならねぇ」

 

 

次男の『東弥』は、目で見えず、消えてしまうほどのスピードを武器に、相手を翻弄し、その隙に一気に相手を殺す戦い方を得意としていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

『艶魔』今野綾女の『柳宗尊』仕込みの居合いにより、彼女の間合に入ったところを首チョンパで瞬殺。

綾女曰く……「確かに見えないわ……遅すぎて、消えてるところが」

 

 

三男の『西哉』は戦略タイプ。周到な準備と、地の利を使ったその知略によって、確実な勝利を収めることを旨としていたが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『狂聖』アルフレッド・ショーン・ケラードによって、鉄骨や瓦礫で急場でこしらえた十字架に両手足、そして眉間に釘を貫かれて磔にされ、十字槍を心臓に突き刺されて瞬殺、最後は火炙りで灰になった。

ショーン曰く「その空の脳で我が『神』の偉大さすら理解出来ぬ蛆虫めが……貴様など肥沃のための土となる資格も無い」

 

 

敵の幹部ポジションが、登場する間も無くあっという間に3人死にましたとさ……oh、さらば、モブキャラども……

 

 

 

というわけで、残ったのは四男の『北斗』のみなのだが、何故か戦場には現れず、姿を晦ましたまま抗争は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

そして、霞斑に雇われた『ある男』………

 

 

 

 

問題はこの男だった。

 

この男、何と数年前に大左衛門と殺し合いの末に、五体満足で生き残って姿を消すという偉業を成し遂げたのだ。当初は俯瞰するつもりでいたが、その男の存在を知るや、重い腰を上げて闘いに参戦したあの大左衛門が、息の根を止めにかかった攻撃を繰り出すも、与える傷は浅いものばかりで、致命的なものは一切負わせることが出来なかった。さらに、『その男』はあろうことか、『相対した者は必ず死ぬ』という大左衛門の前から姿を消した。

 

 

 

その事実は、霞斑の勢力にとっての士気を一気に高めることとなった。

 

 

 

ちなみに、大左衛門と『その男』が戦った場所には、直径500メートル程のクレーターが出来ていたという。

 

 

 

 

 

そして『その男』は、大左衛門と渡り合う実力を持つ、霞斑の切り札として、大門寺の最大の障害となった。

 

 

 

 

 

 

しかし、当時はまだ『懐刀』では無かった総介、海斗、アイナ、明人、『新世代の刃』の『絆の力』……

 

 

 

 

……とかいうバトルモノでよくある都合のいいものではなく、大左衛門が闘った際にもたらした情報をもとに、4人が徹底的に対策と連携を行ったことと、『鬼』としての復讐心が極限に達し、一瞬だけ人智を越えた総介の覚醒により、4人がかりでやっとのことで追い詰め、総介が男の左腕を斬り落とした。その直後に、追い詰められた『男』は逃走用のヘリを事前に用意していたが、そのヘリをアイナが攻撃して墜落、男はそのヘリの墜落と、燃料に引火した爆発に巻き込まれて、爆炎の中へと消えた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、霞斑の残った戦闘員達は、総介によって皆殺しにされ、拠点は海斗、アイナ、明人を始めとした『刀』の局員達によって仕掛けられた爆弾を作動させて爆破。拠点は瞬く間に崩壊し、当主の央冥もそれに巻き込まれて死亡したかに思われたが………

 

 

 

 

 

 

「………どうやら、当主の『央冥』は四男の『北斗』によって密かに救出されていたようだ。そして報復の機会を虎視眈々と狙っていた、といったところか」

 

剛蔵は説明をそこで終える。

 

 

「あの欲にまみれた『豚』が……今度は現世への蘇生を欲したか」

 

「そりゃ困った話で。しかし片桐さん、奴は自分達が滅びるのが分かってて四男だけ隠してた、ってことですかね?」

 

「知らねぇよ、あの『豚』の考えることなんざ……『奴』を雇って勝算があったのかしんねぇが、万が一のためとして四男だけ見せなかったか……それとも、それすら央冥が考えたシナリオってことか……」

 

刀次と明人が央冥、北斗の話をするが、結局答えが出てこないため、そのまま自然と口を閉じる。すると、今度は厳二郎が珍しく声を発した。

 

 

 

 

 

 

「おい………ってこたぁ『奴』はまだ生きてんのか?」

 

その顔は、まるで失くした玩具を見つけたかのような喜びを表したような表情だ。しかし……

 

 

「いや、『奴』の情報は一切出て来てはいない。情報の有無と、状況から見て、あの日にそのまま死亡したという可能性が高いだろう……

 

 

 

 

それに、万が一生きていたとしてもだ、『奴』をやるなら総介に許可取れよ」

 

剛蔵はそう答え、目線を総介へと移す。総介は前を見据えたまま、厳二郎にこう言い放った。

 

 

 

 

 

 

「………『ヤロー』が死んだのなら、それはそれだ。もうどうもできねぇ。

 

 

 

 

 

だが、もし生きてたとしたら………

 

 

 

 

 

 

『ヤロー』を地獄に送んのは俺だ

 

 

 

 

 

アンタにゃ『ヤロー』指の一本、毛穴の先っちょすらもやるつもりもねぇよ」

 

 

 

 

 

「………あ゛ぁ?」

 

そう断られた厳二郎が、総介を鬼の形相で睨みつける。その視線を感じた総介も、その目を暗くしながら睨み返す。

 

 

 

「オイオイ、お前らはあん時に『奴』と殺り合っただろうが。こっちは準備運動にもならなぇ雑魚を相手にされてお預けくらってんだ。次は俺の番ってのが筋だろ?」

 

「アンタの狙いは総帥だろうが。人の獲物横取りしようとすんじゃねぇぞ、『マジで黙って総帥に殺されてろオッサン』、略してマダオ」

 

 

「んだと?………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よしな」

 

 

 

総介と厳二郎の言い争いを、大左衛門が一声で諌める。

 

「「!!」」

 

 

「『奴』が生きてようがいまいが、出遭えば殺りあえばいい。お前ら2人のどちらが『奴』と引き合っていたかの話だ。そうだろオイ?」

 

 

「…………」

 

「ケッ………」

 

要は早い者勝ち。『その男』と最初に会った者が、殺し合える権利を得るということ……

 

 

 

「……ま、『奴』が生きてりゃって話だがな」

 

「………」

 

「………まぁそうだな。無様に死んだ野郎のことで殺し合いなんざ、それこそ不毛だ」

 

厳二郎が総介への挑発も込めて、一言余計に言って引き下がるが、当の総介は意に返さなかった。

 

 

 

 

その後に、アイナが父の剛蔵へと尋ねる。

 

「………お父様」

 

「ん、どうしたんだい?」

 

 

「『霞斑』は再び二乃を………彼女達へ襲撃をかけると思われますか?」

 

アイナの何よりの心配は、五つ子達に再び、蛇の毒牙が襲いかかるかもしれないということ。もしも霞斑が総介への復讐も企てていれば、それを成すために五つ子へともう一度刺客を送り込むもしれない。

今回は、動きをいち早く察知できたため、姉妹を一つの場所に集めて捨て駒達を誘き寄せることに成功した。

しかし、もし彼女たちがそれぞれにばらけているところを狙われたら……

 

 

 

五つ子の内の1人でも向こうの手に渡ってしまえば、その時点で9割方こちらの敗北だと言わざるを得ない……

 

 

「……あまり考えすぎもいかんぞ、アイナちゃん」

 

険しい表情で考え込むアイナの肩に、剛蔵が優しく手を置く。

 

 

「先程も言ったが、向こうも総介が……『鬼童』が健在だと知った以上、下手に手を出すことは出来まい。奴らは総介を誘い出したつもりのようだが、それはむしろ、自身の首を締め付けることにもなってんだ。

今頃、連中を始めとした敵対組織どもは『鬼童』の存命に慌てふためいているだろうよ。

そして何より、それは強力な盾にもなる。総介や海斗、そしてアイナが周りについている事を知れば、今五つ子に手を出すことは裸で地雷を踏む事と同義だ。

 

よほどの自殺願望者でない限り、早々に手を出しはしないさ」

 

 

「お父様………」

 

アイナが普段は、父である剛蔵を煙たがっているが、こうした武人然とした振る舞いを目にする時は、心の底から尊敬している。

父としての包容力、大門寺の智将としての思慮深さ、時には獅子奮迅の剛力、個性豊かな『懐刀』を束ねるそのカリスマ性。

 

 

この男無くして、今の『大門寺』は成り立たない。

 

 

最も、普段の親バカっぷりが祟ったせいか、娘は絶対そんな事は目の前で言わないのだが……

 

 

 

「とはいえ、事態が急展開を迎えた以上、何が起こるかわからん。よってこちらも早めに手を打たねばな………

 

 

 

 

 

明人!」

 

 

「ん?何ですかィ?」

 

剛蔵は少しだけ考えを巡らせ、明人へと声をかけた。そして……

 

 

 

「この春から、中野先生の娘さん達が通っている高校に、お前も転校して、総介、海斗、アイナと一緒に護衛の任に就け!」

 

 

剛蔵は明人に、五つ子や風太郎、総介、海斗、アイナのいる学校への転校を指示した。

 

 

「………俺は旦那や若様とは一コ下なんですけど、そこんところどうするんですかィ?無理矢理合わせる、とか?」

 

「いやぁそんな面倒なことする必要は無い。学年も一つ下の方が、お前も自由に行動できるだろう?総介達は、些かあの子達に近すぎるからな。お前は外から様子を見ながら、周りも警戒してくれ

 

 

 

それにお前は、高校に行かずに『刀』に入ったんだ。少しは高校生活ってのも体験してみるといいさ」

 

 

「………わかりやした。俺も旦那達とまた同じ学校行けんのも、それはそれで楽しみですからね。

 

 

 

それに、どっかの腐れニコ中副長の副流煙を吸わずに済みますし、一石二鳥ってもんでさァ」

 

「お前はいちいち俺を攻撃しねぇと気が済まねェのか?」

 

「……あ、よくよく考えたらアイナと同じ学校じゃねェか……それもヤだな〜。おいアイナ、お前俺と交代で学校辞めてくんね?」

 

「あなたは一度に何人敵を作れば気が済むのですか?」

 

刀次とアイナに挟まれて殺気を浴びる明人だが、本人は全く気にせずに上の空である。

 

 

 

「……決まりだな!よし、それじゃあ……

 

 

 

 

総介!海斗!」

 

 

「「!」」

 

剛蔵は次に、総介と海斗へ声をかけた。

 

 

「只今をもって、お前達の休養期間は終了だ!大門寺の『懐刀』として、再び任務を全うしてもらう!

 

 

 

そして早速だが、その両名とアイナ!そして明人!」

 

 

呼ばれた『新世代の刃』の4人は、崩していた体制を整えて、剛蔵と大左衛門に向かって片膝をつく態勢をとる。

 

 

そして剛蔵から、4人に指令が降った。

 

 

 

 

「2人が復帰して最初の任務だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何があろうとも、五つ子の姉妹を護れ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

この任務の失敗が何を意味するか、お前らなら理解出来るだろうが、そんなこと一切考えるな!崖の淵、常にそこにお前達はいる!

 

 

 

 

 

 

自分(テメェ)の魂に深く刻み、真の道を突き進めば、自ずと前は見えてくる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『侍』として、主の命、そして大切に想うモンは己の命を賭してでも、いかなる手段を使ってでも護りきれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「はっ!!!」」

 

 

 

「…………」

 

 

「俺ァさっきはお預けくらいましたからね。次かかってくんのなら、斬り刻むまででさァ」

 

 

 

海斗とアイナが声高く返答し、総介は黙ったまま剛蔵へと答えを送る。明人は、首をポキポキと鳴らしながら襲撃を今か今かと楽しみに待っている様子。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、『新世代の刃』と呼ばれる4人が、正式に中野家五つ子の護衛の任務に就くこととなった。

 

 

 

「海斗、細かいことはお前に任せる。何かあったらいつでも頼ってくれ」

 

「承知しました」

 

 

「………さて、こちらも後手に周り続けるわけにもいかん。ショーン!厳二郎!」

 

「あ゛?」

 

「……何用で?」

 

次に剛蔵は、ショーンと厳二郎へと指示を出した。

 

 

「各地で情報を集め、『霞斑』の残党どもを炙り出せ。必要とあらば、殲滅も許可する!」

 

「……しゃーねぇなぁ。少しは骨のある奴に会えるかもしんねぇからな、やってやるぜ」

 

「『神』の御為、愚かな蛆虫どもに光の裁きを与えて差し上げましょう」

 

「頼んだぞ!……厳二郎、働き如何によっては、もう一度大左に挑ませてやる!」

 

「………ケッ!今度はブッ殺してやるからな、大左衛門!」

 

「………やってみな、主に抗う狂犬よ」

 

 

それぞれへの指示を済ませて、剛蔵は大左衛門と目を合わせる。それを察した大左衛門も、少しだけクイっと顎を引いたため、剛蔵はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれにて!謁見は終了だ!!各々、与えられた任に着手してくれ!!!」

 

 

剛蔵のその一声を聞いた直後に、大左衛門は立ち上がり、自室へ戻ろうとした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待ちなさい、あなた」

 

「!!!」

 

 

今まで黙っていた大左衛門の妻『天城』が、氷のような冷たい声で夫へと声をかける。

 

 

 

「まさか私が気付いていないとでも思ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきあなたが厳二郎を吹き飛ばした方向………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の部屋がある場所の方なんだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしめちゃくちゃになっていたら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてくれるのかしら?」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

背中から妻の異様な気配を感じた大左衛門は、たちまち冷や汗を流し始める。

天城は、まるで腰から九本の尻尾を出しているかのような威圧感を出して、大左衛門を睨みつける。

 

 

 

 

 

 

「………すぐに確認に行くわ。綾女、ついてきなさい」

 

 

「………ええ」

 

 

 

 

「もしもめちゃくちゃになってたら……

 

 

 

 

 

 

 

………わかってるわよね?」

 

 

 

 

「…………はい、なんでもします。なんでも買います。なんなら部屋をもっと豪華に直させていただきます」

 

 

天城のとんでもない殺気を感じながら、大左衛門は先程の威厳はどこはやら………情けなく答えることしか出来なかった。

 

 

 

「ならいいわ………あ、海斗!ごめんねこんな遅くまで。お母さん、先に寝るわね。もしこのバカに部屋が壊されてたら、久々に一緒に寝ましょうね♪」

 

「わ、わかった。準備しておくよ、母さん……」

 

 

なお、この天城、一人息子の海斗にはめちゃくちゃ甘い。

そう愛する息子へウインクをした天城は、綾女を伴って部屋を後にした。

 

 

 

 

大左衛門を追い越す際に「チッ!」っと舌打ちをして。

 

 

 

しばし沈黙が続いたが、やがて大左衛門も、

 

「……片桐、行くぞ」

 

「………御意」

 

と、剣一を連れて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「………相変わらず怖ぇな、天城さん。あの人ならフリーザくらい一捻りじゃね?」

 

「あ、あはは。まぁ、いつもの事だから……」

 

「総帥、ありゃ今夜は徹夜で修復作業ッスね」

 

「恐らくはそうでしょうね…………カッコ良い(ボソっ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、最後に天城に持っていかれた謁見は終了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、すみませんな中野先生!長くなってしまいまして!」

 

「いえ、大丈夫です………しかし、よろしいのですか?」

 

「ん?何がでしょう?」

 

「そちらの『懐刀』を4人も、娘達の護衛につけて頂けるなんて……」

 

「まぁ明人には指示をしましたが……他の3人は、私の命令が無くとも、娘さん達を護ろうとするでしょう。私はそれにただ発破をかけたに過ぎません」

 

「……本当に、なんと感謝の言葉を言えばいいのか」

 

「いやいや、何を言いますか!礼を言うのは、私もそうです」

 

「?」

 

「………あなたの娘さんに出会った総介が、あんなにも誰かを護ろうとする様を、初めて見ました。

アイツにとっても、この任務は特別な思いをもってあたってくれるでしょう。

 

 

 

実力は保証します。総介をはじめ、海斗も、明人も、アイナちゃんも、

あの若さで『懐刀』になった連中です。きっと娘さん達に降りかかる火の粉を、跡形もなく消しとばしてくれますよ」

 

「……分かりました。彼らのことは私も買っています。信用しております………それと、彼の転校手続きは、私の方から連絡しておきます」

 

「ん、明人のですか?よろしいのですか?」

 

「娘達を護ってもらっただけでなく、護衛までつけてくれるのです。この程度の事しか出来ませんが、学校には顔が効きます」

 

「そうですか……では、お言葉に甘えさせていただきます!今夜は娘さん達と一緒に、こちらに泊まっていってください!大きな浴場もありますし、部屋も腐るほど空いたますので、ご案内致しましょう!」

 

 

「……そうさせていただきます」

 

「あ、それと、あそこの『彼』も一緒にいいですかな?」

 

「上杉君ですか?私は大丈夫ですが……彼にも聞いてみては?」

 

「そうですな!」

 

 

 

 

 

 

こうした剛蔵とマルオの会話があって、一晩を大門寺邸で過ごすことになった五つ子と風太郎とマルオ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、まだ彼らの夜は終わらなかった………

 

 

 

 

 

 




海斗の母の『天城』のモデルは『ぬらりひょんの孫』の『羽衣狐』です。
あれを銀髪にした感じです。

そして『霞斑』に雇われている『あの男』という人物。
まだ詳しい情報は出せませんが、イメージ中の人だけ、セリフを一つヒントで書きます。


「是非も無し」


大左衛門(イメージCV『大○明夫』)と互角に渡り合うのは、この人しかいないでしょう!!!


今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!

次回は、五つ子、風太郎のそれぞれの心境です。
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