世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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UA150000突破いたしました!ここまでご覧になってくださった皆様、本当にありがとうございます!

ここからは、ここまで空気と化していた五つ子たちと、風太郎の話です。


あと、今までで1番長いです。申し訳ございません。



72.感情

大門寺家総帥『大左衛門』への謁見を終えた一同。

 

残った『懐刀』の面々は、それぞれに部屋を出て行った。

 

剣一、綾女の二人は、自らが仕える主に付き従って後に続き、ショーンと厳二郎も、大左衛門のいないこの場所に用は無いと言わんばかりに、そのまま部屋を後にする。

 

そして、前回の最後でマルオとの会話を終えた剛蔵が、五つ子と風太郎へと近づいてゆく。

 

「いや〜こんな時間まで長くなってしまい、誠に申し訳ない諸君!そこでだ!今夜はここに泊まっていってもらうというのはどうだろうか?」

 

「え……いや、そのぉ……」

 

「なに、そう遠慮することはない。君たち5人と中野先生、そしてそこの上杉君とやらの部屋ならすぐにでも用意できる。この屋敷は客間の数も多いからな。

 

 

 

それに、君たちの顔を見るに、アイツらに聞きたいことは山ほどあるんじゃないのかな?」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

剛蔵の提案に少し戸惑う一同だが、最後の一言と、剛蔵が親指で何かを話し込む4人を差したことに、図星と言わんばかりに反応する。

 

「…………」

 

「学校が始まるまでもうすぐだ。それまでに君たちの思っていることを、腹の中を全て曝け出して、 君たちが納得いくまでじっくりと話し合うといいさ。その結果どうなろうと、俺からは何も言わんよ。ただし、君たちとアイツらの仲がどう転ぼうが、君たちを護衛するという任務は変わらんがな」

 

「…………」

 

それぞれに考え、少し黙り込んでしまうが、やがて長女の一花が剛蔵へと返答する。

 

 

「……わかりました。少しの間ですが、お世話になります」

 

「「「「!!!」」」」

 

一花が先に剛蔵に答えたことに、残りの姉妹達も顔を上げて驚き、彼女を見る。

 

「うむ!では早速部屋の手配をさせよう!屋敷には浴場もあるから好きに入って良い。それと、何か夜食や飲み物が必要なら、そういったものも運ばせるようにしよう。」

 

一花の返答を聞いた剛蔵は、そのまま総介たちの元へと向かい、彼らに何かを話しかける。

 

 

 

「………いいの?」

 

二乃が、一花へ声をかける。

 

「……今は甘えるしかないよ。それに、あの人の言う通り何も話さずこのまま家に帰るのも、違うでしょ?」

 

「………そうね」

 

「………」

 

やがて、総介達と話し終えた剛蔵はこちらに再び歩いてくる。

 

 

「では君たちの部屋へと案内しよう!あ、それと上杉君とやら!」

 

「は、はい」

 

突然呼ばれた風太郎が、少しどもりながら返事する。

 

「わかってると思うが、アイナちゃんの部屋に行こうものなら俺が許さないからな!アイナちゃんの部屋に入っていいのは、愛しい我が妻と父である俺!俺!!おーれ!!だけなんだか………ぐぺっ!!」

 

風太郎の顔にめっちゃ近くまで迫って警告する剛蔵だが、後ろからアイナのごドロップキックが見事に剛蔵の後頭部に直撃する。

 

 

「私の部屋には、お父様も出禁なのですが?」

 

「え!?嘘だろ!?何でだアイナちゃん!?」

 

「人の部屋に勝手に侵入して胸元ガッバガバで丈がギリギリの際どい給仕の衣装とネコミミを置いていくのですから、当然の処置です。それと、あの衣装は爆破しときました」

 

「そんなぁ!!アレ絶対アイナちゃんに似合うと思って買ったのに、あんまりだぁ!!」

 

「あなたは娘を何だと思ってるのですか………」

 

ゴミを見る目で父を睨むアイナ。剛蔵も父として娘への渾身のプレゼントを爆破されたことに、おいおいとむせり泣く。

 

 

「はぁ……では、御部屋までは私が案内いたします。上杉さんと中野様はこのゴリラ……父についていってください」

 

「アイナちゃん、今ゴリラって言ったよね?お父さんをゴリラ扱いしたよね?」

 

「まさか。実の父をゴリラ扱いだなんて、そんなことはしませんゴリ」

 

「ゴリって語尾になってるよね?完全に俺をゴリラと認識してるゴリね?………やべ、語尾がうつったゴリ」

 

ゴリラと美少女親子の会話もそこそこに、一同はそれぞれの部屋へと向かうこととなった。

 

 

「………」

 

その途中、三玖は総介を見るが、彼はこちらに背中を向けており、振り向くことはなく、三玖も彼の名を呼ぶことも出来ず、五つ子はアイナに連れて行かれて、『皇の間』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「……いいのかい?」

 

「今はアイナの話を全員に聞かせるのが先だ」

 

「………そうだね」

 

「……海斗、今年の『あそこ』はどうだ?」

 

「ああ、総介は今年はまだ来てなかったね……例年通り、今が1番綺麗な時期だよ」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

・上杉風太郎の場合

 

 

 

 

 

「………広いな」

 

風太郎はあの後、マルオと共に剛蔵に案内されて、自分が泊まる部屋へと案内してもらった。そこには12畳ほどの和室に座卓、座布団、テレビに小さな冷蔵庫まで置いてある。さながら旅館の一室だ。

既に布団は敷かれているという用意の速さに驚きながらも、風太郎は布団に仰向けに寝転がり、木目の天井をボーッと見つめる。

 

 

 

 

この半日、まるで数日過ごしたかのような時間の長さだった。

 

 

 

四葉に誘われて久しぶりにアイツらのマンションに行ったと思ったら、浅倉が現れて、いきなりワケの分からないことを言い出して、そのまま大門寺と外に出たら、大量の喧嘩が強そうな連中が待ち構えていた。

 

最初はそれに内心ビビりまくっていたが、浅倉と大門寺は全く恐れないどころか、バッタバッタとそいつらを倒していった。

 

 

あいつらを見て、『すげぇ〜』と、初めは観客気分でそう思っていた。途中で、何人かこっちに向かってきて、自分が観客ではないことを知ると、慌てて浅倉から渡された木刀を構えた。

自分に剣道の腕なんてある訳もなく、人1人倒せやしない。ましてやその道の連中数人を相手にするなんてもっての外だ。

 

 

 

それでも、五つ子(コイツら)を守らねば、と思った。

 

 

 

もうダメかもしれない。それでも、コイツらだけでも守り通さねばと、足をガクブルさせながら覚悟を決めたが、浅倉と大門寺がとんでもない速さで戻ってきて、そいつらを蹴散らした。

 

 

たった2人で、50人以上の男達を相手にして、無傷で立ち回って疲れも見せずに叩きのめすところを見て、単純に同じ男として凄いと思ったし、カッコいいとも感じた。

 

 

やがて、援軍として二乃の学校での友人や、もう1人の同じ年くらいの男がやってきた。

二乃は浅倉とその子が知り合いということにとても驚いていたが、俺はその子を少し見た程度しか知らないし、何かを言える立場じゃない。そこんところはアイツらで解決してほしい。

 

 

その後、大門寺の家に来て、浅倉達の正体や、浅倉の過去を知って絶句した。

前に少だけ聞いてはいたんだが、今回、大門寺から聞いたことは、それよりもさらに想像を絶していた。

 

 

 

 

浅倉がああも俺たちと違うように見えたのも、納得だった。

 

 

 

 

 

俺なんかとは、経験してきたことが違い過ぎる。

俺も事故で母親を亡くしているが、俺にはまだ親父とらいはが、そして五つ子たちにはそれぞれに姉妹が…………家族がいる。

が、浅倉には、母親しかいなかった。そのたった1人の肉親を目の前で殺された………

本人以外に到底理解できる筈がない。俺たち『一般人』が軽はずみで、浅倉に何かを言えるようなものではなかった。

そして、『刀』っていう組織や、二乃の友人……渡辺さんって言ったか?その人と、渡辺さんって人の父親。片桐っていうヤンキーみたいな浅倉達の上司。そして………

 

 

 

 

 

 

大門寺の父親。

 

 

 

あの人を見た時俺は人生終わったと思った。

 

何だよあれは?人間じゃないだろ………

思い出すだけで、手足の震えが蘇る。周りの空間が歪んで見えるほどの存在感を放つあの人を見た瞬間、自分の目線は真っ先に床の畳に下がっていた。そして気がついたら、人生で一度もたこともないような正しい姿勢で正座をしていた。

その後も、部下の1人の強面のオッサンがあの人にデッカい斧で斬りかかっていったが……まるで虫を相手にするように、手を払ったら吹き飛ばされていった。

死んだと思ったら、そのオッサンもすぐに戻ってきて、もう一度斬ろうとするけど、数十Kgはあるだろう巨大な斧を、あの人は指で挟んで止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指で挟んで止めた?何言ってるんだ俺は?

 

 

いや、嘘のように聞こえるかもしれないが、純然たる事実なのだ。

 

 

 

それを浅倉は、まるでテレビでも見ているかのように、いつものやる気無さそうな目で眺めている。他の人たちもそうだ。全く気にしていない。

 

 

 

 

はっきり言って、『異常』だ。

 

 

 

 

『夢』だ、『夢』だと、あんなのを見させられたら現実逃避もしたくなる。

 

 

 

 

そしてそれが『現実』だと知った時、初めて、心の底から………

 

 

 

『あ、死ぬ』

 

 

そう思った。

 

今すぐに逃げたいって何度も思った。

 

でもあんなに広い部屋に満ちている何かが、俺達に『動いたら殺す』と言ってるかのようにまとわりついて、一つも動くことができなかった。

 

その後も、何か話をしていたが、正直覚えていない。でも、一つ納得出来たことは……

 

 

 

 

 

 

 

『お前も見とくといいさ………【世界の頂】ってやつをな』

 

 

 

 

 

 

 

大門寺のお父さん。浅倉の言った通り、あの人は、本物の『頂』だった。

理由も意味も無く、一目で理解した。『これが【頂】なんだ。最強の人間なんだ』って。と同時に、『この人に少しでも逆らったら死ぬ』とも、自分の身体が、勝手にそう告げていた。

その後は、ただただあの人から漏れ出てくる怖い何かが、あの人のその怖い何かが、自分に向かないでほしいと祈るばかりだった。

 

 

 

 

 

え、小さい?そんなわかってる。でも、皆あの人を見たら、そうなるさ。

己が今まで、いかに小さな小さな存在だったかって。

 

 

 

 

 

あの人を地球の大きさに例えるなら、俺なんて蟻でさえもおこがましい。せいぜいミジンコもいいとこだ。それほどまで、あの人は巨大な存在だった。

 

 

 

 

 

 

でも、それでも……あの人を、大門寺のお父さんを見たことは、決して悪いことばかりじゃない。

 

 

浅倉や大門寺の時もそうだったけど、大門寺のお父さん。あの人を見て、自分がいかに小さく、愚かで卑しい存在だったか、ビビリ倒してる最中に再認識できた。

 

 

ようやく落ち着いた今、冷静になって考えれば、俺はただ勉強が出来るだけで、イキがって他人のことすら考えずに殻に閉じこもってた、ただただ嫌な奴だった。五つ子や浅倉、大門寺達ともであって、時々それを感じることもあったが、どこかでそれを認めたくない自分もいた。

 

 

 

 

でも、あの人を見て、それを全身で思い知ることができた。おれはなんてちっぽけな人間なんだと……あの人になす術なく屈していることではなく、みんなに会うまでの自身の人間性に。

 

 

 

 

 

 

それに、今思えば俺は、浅倉や大門寺に嫉妬もしてた。

 

 

浅倉には、やり方はどうであれ自分以上に五つ子をまとめ上げていたことに。

大門寺には、何でもできることと、その天才的な頭の良さに。

 

 

 

 

愚かしいにも程がある。

 

 

 

一般人である自分が、叶うはずないんだ。自分に無い物に対して、嫉妬心を抱いて、テストで毎回満点をとって心の中でマウントをとる程度の男が、『本物』であるアイツらに勝てるはずないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

今までの自分が、本当に恥ずかしい………

 

 

 

 

 

 

「………やべ、泣きそう」

 

 

 

そう呟いた直後、風太郎の上を向いた目線にあった木目の天井が、突然ガタガタと動き出し、そして……

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜〜〜え〜〜〜〜す〜〜〜〜ぎぃ〜〜〜〜」

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 

 

 

天井木目の天井の一部が外れ、そのからぬるぅ〜っと総介が体を出してきた。

 

 

 

それを突然見せられた風太郎は、今まで上げたことの無いような悲鳴を叫んで飛び起きるのだった。

 

 

 

 

 

 

「どっから出てきてんだ浅倉ぁぁあ!!?」

 

 

「いやこれな、大門寺の緊急事態の時に使う天井裏の通路なんだが、近年はほとんどこの家で緊急事態なんて起きねぇもんだから、最近は専ら剛蔵さんのアイナの部屋に侵入する通路になってんだ」

 

「どうでもいいわ!!!ってか普通に襖開けて入ってこいや!!」

 

「ちなみに、前にアイナの着替えを覗いてるのがバレた剛蔵さんは、ブチギレたアイナの銃で天井ごとハチの巣にされかけたそうだ」

 

「ホントロクな父親じゃねぇなオイ!!!」

 

よっと、っと綺麗に着地して話す総介。風太郎はいきなりやってきた彼にビックリしながらも、何とか平静を取り戻す。

 

「……で、何しに来たんだよ?」

 

「ああ、お前に確認を取りに来てな」

 

「確認?」

 

「ああ………

 

 

 

今後お前をどうするか、についてさっき海斗と剛蔵さんと少し話してな」

 

「!」

 

そう。総介、海斗、アイナ、明人の4人が剛蔵から下された命は『マルオとその娘5人を護ること』であり、悲しいかな、この中に風太郎のことは勘定に入ってはいなかった。何しろあの場では、彼のみがただ巻き込まれてやって来た『一般人』でしかなかったからだ。

 

 

 

 

そのため、大門寺と霞斑の抗争(とまではいかないが、その一端)に巻き込まれた風太郎も、このまま宙ぶらりんにさせておくわけにはいかないということで、総介と海斗は、剛蔵にこう嘆願した。

 

 

 

『上杉風太郎とその家族も、護衛対象に入れて欲しい』と。

 

 

 

「………」

 

「そう頼んではみたが、『同盟相手以外の護衛を、【刀】は請け負ってはいない』っつーことで、剛蔵さんには突っぱねられちまってな。だが、『俺たち個人で護衛を行うのなら、そこの干渉は行うつもりはない』『そしてお前達が困っていることがあれば、いつでも俺に相談して欲しい』とも言ってた」

 

つまり、剛蔵も風太郎を護る気満々ってことである。

 

「………じゃあ」

 

「とりあえずは、アイナと明人にも後で話はするが、とりあえずお前やらいはちゃんとヤンキー親父にも緊急時には護衛につくことにするが……流石にあの2人に色々バラすわけにはいかねぇ。そこで、現時点でのお前の答えを聞こうって訳だ」

 

「………」

 

総介の話に、風太郎は口を開けてぽかんとしてしまう。そして、ようやく彼の口から出た言葉は、なんとも彼らしいものだった。

 

 

 

 

 

 

「その……いくらだ?」

 

「……は?」

 

「いや、護衛がつくってことだから……3人分で、いくら金かかるのかなって……」

 

その一言を聞いた総介の目が点になり、やがて顔の前で手のひらをブンブンと左右に振る。

 

 

 

「いやいや、お前から金なんざとらねぇよ」

 

「は!?いや、だって……」

 

「お前を巻き込んじまったのは、完全に想定外のことだった。四葉のアホに万一のことがって考えときゃ、俺はもう少し別の形で話すつもりだったからな……本来ならお前は、ここにはいなかったんだ。

 

 

そうなってしまったのは何が原因であれ、俺の責でもあるしな。そんなお前に護衛の料金取り上げようとか、俺ただの腐れ外道じゃねぇか」

 

「いや、実際お前はだいぶ外道だけどな」

 

「霞斑の奴らががお前に目をつける……なんて可能性は限りなく少ないかもしれねぇが、念には念をってな。用心に越したこたぁねぇだろ」

 

「………」

 

 

「とりあえずは奴らとケリつけるまでは、何かあったらお前や親父も護衛対象に入るってことで、ひとまず安心はしてもらって………上杉?」

 

 

「………」

 

 

話している最中に風太郎を見ると、彼は再び口を開けたままぽっか〜んとしていた。

 

「……お〜い、上杉〜?死んだか〜?」

 

「!……あ、いや、悪い。あまりに驚きの連続すぎて……」

 

「驚くどころか、『無』だったぞお前」

 

「色々と驚きすぎて疲れたんだよ………」

 

はぁ〜、っとため息を風太郎を見て、総介が先程のことを尋ねてみる。

 

 

 

「………どうだった、俺らのトップは?」

 

 

「………今でも信じられるかよ。あんな人間本当にいるなんて……」

 

「人間かどうかも怪しいかもな。年明けなんてわざわざ北米まで飛んでグリズリー5体と遊んで全部ぶっ倒してたし」

 

 

「…………」

 

あっけらかんと話す総介に、もはや理解が追いつかない風太郎。

 

「ま、総帥を初めて見た人はほとんど逃げ出すか、動けなくなるのがほとんどだからな。そう気に病むこたぁねぇよ……それに、お前も(・・・)知れただろ?自分(テメェ)の小っこさをよ」

 

 

「!!………ああ」

 

今更総介に見栄を張っても無駄だ。あの時のことを思い出して、指先が震え始めたので、ただただ肯定するしかできない。

 

「俺も初めて会ったときゃマジで食われるってビビったな〜。まだ小学生に入ってすぐに出逢っちまって、一目散に猛ダッシュで逃げたのは鮮明に覚えてらぁ。今でもあの人に会うのはちと緊張するが、厳二郎のオッさんはよくあんな人に突っかかれるわな」

 

 

「………なぁ、浅倉」

 

「ん?どった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は………人を殺して、るんだよな」

 

 

「………」

 

風太郎が、唐突に尋ねたことに、総介も少し止まるが、そのまま口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「………海斗から聞いてんだろ?アイツはあの場で嘘は一つも言ってねぇよ」

 

「!!!………」

 

改めて、目の前にいる男が、本物の『人斬り』であることを実感し、思考を通り越して鳥肌が立ってしまう。

 

 

 

「別に蔑みたきゃそうすりゃいいさ。『人殺し』だの『人間じゃない』だのって、言いたいことありゃ全部ぶつけりゃいい」

 

「………いや、俺は」

 

「………」

 

「今でも整理がつかないさ。お前も、大門寺も、只者じゃないって思ってはいたが……こんなの、想像つくわけないだろ」

 

 

「…………」

 

 

少し風変わりな同級生が、まさかそのような組織に入っていた…漫画やアニメでよくある展開だが、いざ実際そうなってみると、パニックでいつもの優秀な頭脳がパンクしてしまってうまく言葉に出来ない。

 

 

「………済まなかったな」

 

額から汗を流して困惑する風太郎に、総介は肩にポンポンと手を置いて落ち着かせる。

 

「さっきも言った通り、上杉にはもっと別の形で話をするつもりだった。俺や海斗に関わった者として………

 

 

 

 

 

ただの1人の『ダチ公』として……

 

 

 

 

 

お前になら、色々と理解してもらうようにと、順を追って話をするべきだったが……順番が逆になっちまった。

 

 

 

 

 

本当に……申し訳ねぇ……」

 

 

風太郎は、総介の見たことの無い複雑な表情のまま、自分に頭を下げる彼を見て、どうすればいいかわからなくなってしまう。

 

 

目の前にいるのは、復讐のためにこれまで多くの人間を斬り捨ててきた男『鬼童』。

 

しかし、自分が家庭教師の助っ人として幾度となく修羅場(?)をくぐり抜けてきた男『浅倉総介』。

 

 

どちらも同じ存在。同じ人間だ。

この男の謝罪を、そのまま受け入れるか……はたまた、人殺し達とは付き合えないと、拒絶するのか………

 

 

 

このまま拒絶すれば、どれほど楽だろうか……

 

 

 

 

今目の前にいる男と関わりを断ち切れば、自分は関係無い存在となり、この男達と敵対する組織に狙われることも無くなるかも知れない。

 

 

 

晴れていつも通りの日常にカムバックできるかも知れない。

 

 

 

そうならいっそ、目の前の同級生に今までの不満や罵倒を浴びせて、さっさとこの場から去ってしまえばいい。

 

 

 

 

 

そうだ、そうしよう。

 

 

 

 

 

 

もうあんな思いは沢山だ。

 

 

 

 

 

妹や親父も、危険な目に遭わせたくない。

 

 

 

 

 

 

そう考えれば、コイツと縁を切ることなんか容易いことだ。

 

 

 

 

 

よし、言おう。キッパリと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………一つ、聞かせてくれ」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

ん?待て。今なんて言ったんだ?

 

 

 

「お前が今まで人を殺して来たのは、お前達にとって敵となる奴らだけなのか?」

 

 

 

 

なんで俺はコイツに………

 

 

 

 

「浅倉や、大門寺がしてきたことは、その敵の奴らと同じような事なのか?」

 

 

 

 

 

こんな事を聞いてるんだ?

 

 

 

 

 

「………それを聞いてどうする?」

 

 

「………」

 

 

「どんな理由だろうが、誰を標的にしてようが、俺達が『霞斑』とやってることは大して変わりゃしねぇ。

 

 

 

どれだけ理由や意味をつけようと、『人殺し』に変わりゃあしねぇんだ。

 

 

 

そんなんで、何も濁りはとれねぇし、

 

 

 

 

俺達の業が失くなるわけじゃねぇ。

 

 

 

 

 

俺らはただ、

 

 

 

 

これからもその業や亡霊どもに全身絡みつかれながら、

 

 

 

 

大門寺や、大事なモンに手ェ出す連中を斬り捨てていくだけさ

 

 

 

 

 

 

 

生きてる内は、ずっとな」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

ほら、今だ、

 

 

 

 

 

全部吐いて、ここから出て行くんだ。

 

 

 

 

こんなのと関わっていたら、俺にも、家族にも危険が及ぶ

 

 

 

 

 

今がチャンスだ

 

 

 

 

 

「………浅倉………俺は……」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ、答えを出せない」

 

 

 

 

 

 

待て

 

 

 

 

 

何を言ってるんだ、俺は?

 

 

 

 

 

 

「お前や大門寺が人殺しなのが事実だっていうのは分かった。その事に俺はお前が怖くなってるし、何なら今すぐにでも拒絶して逃げ出したいまである。

 

 

 

 

 

でも、お前は、あの時俺たちやアイツらを守ってくれた。

 

 

 

 

 

それも大きな事実なんだ。

 

 

 

 

もしここで、それを棚に上げて逃げ出せば、すごい楽なんだろう。

 

 

 

 

 

でも、そうしてしまえば、今はせいせいしても、

 

 

 

 

 

俺は多分、10年後や20年後……遠い未来に、凄い後悔するかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの5人がどんな答えを出すかは分からないが

 

 

 

 

 

俺には、助けてもらった恩や、家族を守って欲しい気持ちもある

 

 

 

 

 

浅倉の過去に何かを言うことは出来ないし

 

 

 

 

 

 

お前達が今していることを、俺が言ってどうにか出来るわけじゃなければ

 

 

 

 

 

 

間違っているなんて殊更言える立場じゃない

 

 

 

 

 

 

でも俺は

 

 

 

 

 

 

 

今は、このまま、何も無かったように3年を迎えたいと思ってる」

 

 

 

 

 

おい、早くコイツを拒絶しろ。そうすればお前も、らいはも、親父も、危険なことと関わりが消えて、安心でき……

 

 

 

 

 

 

うるせぇ黙ってろ!!!

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「問題の先送りか、上杉?お前らしくもない」

 

「………分かっているさ。でも、今こうなっている以上、俺1人じゃどうしようも出来ないだろう?」

 

「………まぁな」

 

風太郎は、そのまま拳を握りしめて、吐き出すようにして総介へと頼みこむ。

 

 

 

 

 

 

「………浅倉、これだけは約束してくれ

 

 

 

 

 

どんなことがあっても、らいはと親父だけは………」

 

 

 

 

「………そのために俺は来たんだ」

 

 

「………」

 

 

 

「前にも言っただろう、上杉。

 

 

 

 

 

お前があの時、教室まで来てくれきゃ、

 

 

 

 

俺と三玖は、あの形でもう一度出逢えてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

それだけで充分だ。

 

 

 

 

 

 

 

お前には、感謝も、恩も、負い目も、申し訳なさもある

 

 

 

 

 

お前がこの場でどんな答えを出そうが

 

 

 

 

 

 

俺はお前の家族は護り通すと決めたんだ

 

 

 

 

 

 

どんな奴だろうが、

 

 

 

 

 

 

 

お前もあの3人にも

 

 

 

 

 

 

 

『鬼童』の名の下に、指一本触れさせやしねぇよ」

 

 

 

 

「……………ありがとう」

 

 

 

未だに風太郎は、総介に対しての考えは纏まらない。しかし、彼の言葉を聞き、風太郎もとりあえずは一段落はついた。状況も状況だ。彼らを頼りにするしか方法は無いし、拒絶したとて、いずれは自分自身の愚かしさに嫌気が差すだけ。

 

 

『大門寺』への疑念や不安は拭えてはいないが、今は総介達が味方である以上、この手の道に詳しい彼の言葉に従うしかない。

 

 

 

「お前の答えなら、いずれちゃんと聞くさ。嫌になったらいつでも言えばいい。そうなったとしても、お前を巻き込んじまった以上、『霞斑』とのケリまでは非常時の護衛だけは全うさせてもらう」

 

「………ああ」

 

「……さて、無理矢理だが、とりあえず話はつけたってことで、俺は剛蔵さんに報告してくらぁ。お前も、もう遅いからゆっくり休めよ」

 

そう言い残して、総介は風太郎の部屋から出て行こうとする。と、風太郎の脳裏に、あることが思い浮かび、それを尋ねてみる。

 

 

 

 

 

 

「浅倉……三玖には、どう話すんだ?」

 

 

それを風太郎に背中を向けながら聞いた総介が、ピタッと止まって、答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前と同じさ。

 

 

 

 

 

 

 

三玖がどんな答えを出そうが、俺はあの子を護り抜く

 

 

 

 

 

 

 

 

それだけだ」

 

 

 

 

「………そうか」

 

それだけを答えて、総介はそのまま襖を開けて、また明日な、と部屋を後にした。

 

 

 

 

「…………」

 

 

残された風太郎は、再び布団へと仰向けに寝転び、考える。

 

 

 

 

 

あの場で、総介を拒絶したければいくらでもできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を拒絶しようとも、家族は護ってくれると言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに、なぜ自分はそうしなかったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………寝よ」

 

 

 

 

 

それに対しての答えを、未だ持たぬままに、彼は一気に押し寄せてきた疲れに呑み込まれてしまい、大の字のまま意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

・五つ子の場合

 

 

 

 

 

一方、アイナの案内で五つ子姉妹は、本日泊まる部屋へと案内された。

 

 

「こちらが皆様のお部屋となります」

 

 

「ひ、広いね〜……」

 

五つ子が連れてこられた部屋は、風太郎の部屋の倍はある広さのある部屋だった。普段ここは数名の客人が泊まる部屋のため、まんま姉妹へと提供する形となる。

 

 

「すぐにお布団を用意させていただきますが、よろしければ、部屋を出て突き当たりを右に行って頂ければ、浴場もございますので、ご自由にお使い下さい。それと、何かご要望がございましたら、軽いお食事をお持ちします」

 

「お、お食事、ですか……」

 

怖がって一花の腕にずっとしがみついている五月が、少し反応する。

 

「じ、じゃあ、飲み物と食べ物を……」

 

「かしこまりました。皆様の分もご用意致しますので」

 

ペコリと頭を下げるアイナ。それを見た二乃が、彼女に小さく声をかける。

 

「………アイナ……」

 

「………ご覧の通りです。私は大門寺、若様に仕える給仕であり、『刀』の局長である『渡辺剛蔵』の娘、若様、総介さんと同様『懐刀』として『戦姫』の異名を持つ『渡辺アイナ』です……これ以上、何も言い訳することは出来ません」

 

 

「………ごめん、何言ってるのかほとんど分からないわ」

 

「………」

 

二乃のその一言を聞いても、アイナは何も弁明しようとしなかった。これ以上、自分の持つ言葉は無い。あとは二乃がどう判断するか。それを待つしか無い、と……。

 

 

「あ、あの……お食事を……」

 

「五月ちゃん、ごめん、もうちょっとだけ待とうよ」

 

五月を、一花が優しく宥める。

 

「………正直、今でも信じられないわよ……アイナが海斗君やアイツと幼なじみで、そんな危険なことをしてきたなんて………」

 

 

「………」

 

「あと、アイナのお父さんが中々の変態だなんて」

 

「それは……私もそう思います」

 

「………夢だって何度思っても、夢じゃないのよ……これが夢で、朝を迎えて、アイナに電話して、どこか遊びに行けたら、どれだけ良かったか………」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「………でも、現実……なのよね………」

 

 

「………」

 

搾り出すように言った二乃。今までの出来事を振り返りる。

 

 

アイナと出会い、親交を深め、風太郎が家庭教師としてやって来て、彼が総介を連れてきた。彼に口喧嘩では一切勝てず、言い負かされてばかり。おまけに妹の三玖が、総介と恋人同士となり、肉体関係にまで発展した。それに辟易していた時、林間学校で海斗と出逢い、一目惚れした。そして、2人っきりでダンスを踊ってひと時を過ごした。その後、試験前に家出をして、ひょんなことから総介と海斗が幼なじみであることを知った。なんやかんやあって、海斗と再会する事に成功したが、しばらく後に、彼の婚約者『九条柚子』から彼の本質を聞かされる。それに悩み苦しむ二乃だったが、アイナへの相談や、海斗の中にも確かにまだ人としての何かが残っていることを確信し、形式上恋人同士となった。

そして、今日起きた出来事。

 

 

 

総介が何者かは二乃にとってどうでもいい。海斗がそうだった事には少し驚いたが、何よりその場に現れたアイナに、言葉を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「………あなたがここにいるのが、今でも不思議でしょうがないわ」

 

「………」

 

「………今までのこと、アイツから聞いてたの?」

 

アイツとは、十中八九総介のことだろう。

 

「………はい」

 

「………そう」

 

二乃はそれを聞いて、何とも言えない気持ちとなった。

このままいけば、アイナに裏切られたという気持ちも出てくるだろう。しかし、先程、マンションの下で総介に言われたことが、頭の中を巡る。

 

 

『お前が俺に向けてた感情を考えろ。そんころに既にアイナに会ってたんなら、お前が俺の愚痴をアイナに言ってたんなら、それを『自分の幼なじみです』って簡単に言えんのか?え?』

 

 

………悔しいが、一理あった。そして、総介と三玖の恋愛の発展や、海斗との遭遇も相まって、ますます言い出せなくなってしまった。

それに、アイナには家のことをそうそう言ってはいけないという義務もある。

学校の中で海斗とアイナの関係を知る者は、自分たちだけだということも聞いた。

 

 

親友の子が、1番嫌いな奴、そして想い人と幼なじみである。これは中々アイナにとっても辛かった筈だ。

 

 

 

 

 

 

「………申し訳ありませんでした」

 

「!?」

 

それでも、先に謝ったのはアイナの方だった。

 

「二乃のこれまでの全てを裏切ってしまったのは、私の責任です。二乃から総介さんのことを聞いた時に、はっきりと言い出すことが出来なくなってしまった事から、若様との関係に至るまで、私の立ち回りの悪さ故に、二乃に苦しい思いをさせてしまいました。赦しを乞うなどということはいたしません。しかし、それでも若様や総介さんのことだけは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謝らないで……」

 

「!?……」

 

「謝らないでよアイナ……あなたが悪いんじゃないわ」

 

「二乃………」

 

目に涙を溜めながら、二乃はアイナの謝罪を止めた。

 

 

 

「海斗君との関係は、家のことで言い出せなかったのなら仕方ないじゃない……それに浅倉とのことも、そもそも私がアイツの悪口をペラペラと喋ったせいで、あなたが余計言い出し辛くなった……あなたに何の落ち度も無いわ」

 

 

「………でも」

 

「でもじゃない!……そんなことを考えずに、さっき私はアイナに裏切られたって思った。思ってしまったの。何も考えず、表面ばかり見て……みんな裏で繋がってて、私を嘲笑ってたのかって思っちゃったの」

 

「!………そんなことは!」

 

「わかってる!だから苦しいの。まだ混乱してるけど、アイナがアイツや海斗君と繋がってたことじゃない……それを勝手に間違った捉え方をしてしまったことが、アイナを少しでも裏切り者って思ってしまった私が、許せないの……」

 

「………二乃………」

 

 

「『刀』とか『戦姫』とか、私にはよくわからないわ。何も知らないくせに、そんなことまでズケズケと言うことなんて出来ない。

 

 

でも、今まで一緒に過ごしてきたのが全部嘘だって言うの!?

 

 

 

一緒に遊んで、ゲームをして、食事をして、プリクラとって、いろんなショップに行って……転校してきてから、これまでずっとアイナと過ごした日が、全部偽りだったって言うの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………嘘ではありません」

 

 

「!」

 

そう答えて、アイナは今までの二乃への思いを語り始めた。

 

 

「私にとっても、今まで二乃と過ごした日常は、本物です。それまで同性とは深い付き合いの無かった私に、よく話しかけてくれて、遊びに誘ってくださったのは二乃が初めてでした。

 

 

 

いつしか、その日常を守りたくなっていました。

 

 

このまま二乃と、友人の関係を続けたいと思ってました。

 

 

 

総介さんや若様のことを聞いて、打ち明けたいとも考えていました。

 

 

 

ですが、それを知った二乃が、失望する姿が浮かぶと、言葉にすることが出来なかったのです……

 

 

 

二乃との大切な日常を守りたいがために、私は隠し続けました。

 

 

 

総介さんとのこと、若様のこと……

 

 

 

あの二乃との本物の日常と、今まで生死を共にしてきたあのお二人の狭間で、私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイナ………」

 

 

手を震わせるアイナを見て、二乃はアイナへと近づき、彼女の両肩に手を置く。

 

 

 

「………もういいわ」

 

「!?」

 

「全部バレたことなんだし……アイナの気持ちも、今ちゃんと知れた。

 

 

 

 

今までのことは、無しにしましょう」

 

 

 

 

 

「!!それは!」

 

「いいから聞いて、アイナ。私は、学年末試験の時に、海斗君がどんな人だろうとも、必ず手に入れるって決めたの。

 

 

 

 

それが例え、彼が人を殺してても。

 

 

 

 

何があっても、海斗君の側にいて、彼を支えるって決めたの。

 

 

 

 

 

 

それは今のアイナにもそうよ」

 

「!!?」

 

 

「最初は、ずっと混乱してたけど、あなたの気持ちを聞いて、私は嬉しかった。

 

 

 

 

アイナがどんな人だろうが、アイツとどんな関係だろうが、そんなの私には関係無いわ。

 

 

 

 

どんなことがあっても、あなたとの今までの思い出が消えるわけじゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

話し合って、またやり直せばいいだけ。

 

 

 

 

 

 

 

あなたに色々と肩書きがあるみたいだけど、

 

 

 

 

 

あなたは私の親友『渡辺アイナ』。

 

 

 

 

私にとっては、それだけあれば充分よ」

 

 

その一言が、アイナの今まで溜め込んだ物を決壊させた。目から徐々に涙が溢れ出し、ポタポタとこぼれ落ちていく。

 

 

 

「……私も………人殺しなのに……」

 

 

「私もさすがにそれをいいとは思わない。でも、家のことなんでしょ?事情があるのも通らないことじゃないわ。それとも、まさかアイナは、街中の人達や、学校のみんなまで、誰でも殺したいって思ってるの?」

 

 

「……そんなこと、ありません……私たちが、戦うのは……若様や、大門寺を……二乃たちを脅かす存在、だけです……」

 

 

「そう。防衛部隊って聞いてたけど、やっぱりそうなのね………そこについては私は何も言えないわ。アイナのしていることが、全部良いとも言えない。でも、それでも私は、あなたの全部を否定したく無いの」

 

 

「……二乃ぉ………」

 

 

「柚子さんにも言われたわ………

 

 

 

 

『私がどうしたいかは、私が決めること』だって

 

 

 

 

 

ここで今、私がアイナを否定したら

 

 

 

 

 

私は、一生後悔するわ

 

 

 

 

だから、アイナの今までを

 

 

 

 

 

アイナとの今までを、絶対に否定しない

 

 

 

 

 

そして、アイナとのこれからも

 

 

 

 

 

 

絶対に断ち切ったりしないわ

 

 

 

 

元々、海斗君と恋人同士なんだから、当然だけどね」

 

 

 

「………二乃………うぅ」

 

 

二乃の言葉に、アイナはそのまま涙を流し続け、そんな『親友』を見た二乃も、アイナを受け入れて、ギュウっと抱きしめた。

 

 

数分間、アイナは二乃の胸の中で涙を流し続けた。

 

 

………………………………

 

 

「………申し訳ありません。取り乱してしまいまして」

 

「いいわよ。そんなことより、これから私たちは、どうなるの?」

 

ようやく涙が止まったアイナだが、目の下は少し赤く腫れている。だが、その表情は抱え込んでいたものを吐き出した故か、だいぶスッキリとしたようだ。

 

 

「中野先生が大門寺と同盟を結んだ以上、私達にはその家族を護衛する義務がございます。今後は学校に通い、いつも通りに過ごしながら、周囲を警戒する日々が続くでしょう」

 

「……それって、私達の日常も変わるのかな?」

 

ここで、アイナに一花が質問してきた。

 

「大きくは変わりはしませんが、敵の姿が確認された場合、皆様には私達の側にいてもらうこととなります」

 

「………また、あのような事になるのですか?」

 

続いて、五月が質問をする。

 

「……恐らく次に現れる時は、様子見ではなく『霞斑』の本命です。今までのようにただ気絶させるだけではすまないでしょう……最悪、私達は敵の抹殺という形で排除しなければなりません」

 

 

「そ、そんな……」

 

それを聞いた途端に、五月は震え出した。

 

先程の戦いでも人一倍怯えていた五月だ。次に戦いがある時は、間違いなく死人が出る。そんな事態に、自分達は巻き込まれてしまい、またその可能性もある事を考え、彼女は顔を青くさせてします。

 

「無論、こちらもそうなる前に徹底的に潰しにかかりますが……

 

 

 

恐らく、敵が仕掛けてくることは、暫くは無いでしょう」

 

 

「ど、どうしてそのようなことを言えるんですか……?」

 

次は四葉が、アイナに理由を尋ねた。

 

 

 

「皆様もご存知の通り、私達『懐刀』は、世界でも指折りの戦力の一つです。

 

その『懐刀』を4人、皆様の護衛に就けることになります。これほどの人数を護衛につけるのは異例ですが、それは相手方にとっても同じことです。この時点で敵は、迂闊には手出しは出来ません。

 

 

 

 

そして『鬼童』………総介さんの健在は、何よりの楔となっています」

 

 

「あ、浅倉君の?」

 

「…………」

 

 

「………私達『懐刀』の中で、最強とも言える人物の1人が総介さんなのです。

 

 

 

敵方から『鬼』とも畏怖されているあの人が目を光らせていれば、皆様に危害を加えること、それは即ち自殺行為と同義となります。

 

 

 

今の総介さんには私や明人はもちろん、若様でも勝つことができません」

 

「え!?海斗君でも勝てないの!?」

 

二乃が、信じられないと言わんばかりに、目を見開いて驚きの声を上げる。

 

「二乃にとっては複雑かもしれませんが、事実です。

 

 

 

ですが、昔は総介さんは若様はおろか、私達にも勝てませんでした。

 

 

 

ですが、お母様を殺害された時から、全てが変わりました」

 

「!?」

 

「恐らくは、それが直接の原因だと思われますが……

 

 

 

 

総介さんが、人間とは思えない程の信じられない『力』を持つようになったのは事実です。

 

 

 

 

それ以降、今日に至るまで、私も、明人も、そして若様も、誰も総介さんに『一度たりとも』勝利していません」

 

 

「…………」

 

 

「浅倉君が……そんな事があったんだね」

 

恐らく全員、総介がそうなったら理由は分かっている。

 

 

『復讐』

 

 

母を目の前で無惨に殺された事への憎しみ、怒り、悲しみがトリガーとなったのだろう。でなければ………

 

 

これ以上は野暮なため、言うことができない。

 

「……これ以上、私の口からは申すことは出来ません………総介さんに怒られてしまいますので」

 

「………分かったわ」

 

「………」

 

さすがの二乃も、総介の凄惨な過去には物申すことは出来なかった。そして……

 

 

 

今まで何も言葉を発してこなかった三玖。彼女も、未だ混乱の最中にいた。

 

 

 

「………ねぇ、渡辺さん」

 

と、そんな時に、一花がアイナに声をかける。

 

 

「何でしょうか?」

 

「浅倉君って、今どこにいるの?」

 

 

「!」

 

一花の聞いた質問に、三玖がビクン!っと大きく反応した。

 

「………総介さんでしたら、『あの場所』にいると思われます」

 

「あの場所?」

 

「敷地の奥の庭に、大きな桜の木が生えているんです。総介さんはこの時期になると、毎年必ずその場所を訪れます」

 

「………三玖、そう言ってるよ」

 

「………」

 

一花は、三玖に向かってそう言った。しかし、三玖は俯いたまま、何も答えない。それを見たアイナが、三玖にこう提案する。

 

 

「……私がその場所まで、案内いたしましょうか?」

 

「………え?」

 

三玖がアイナに向けて顔を上げる。

 

「この屋敷は複雑な造りのため、迷われる方が多いですが、私は敷地内の場所を把握しておりますので、そこまでご案内することができます」

 

 

「………でも……」

 

 

「行ってきなさいよ」

 

渋る三玖を見て、二乃が堪らず声をかけた。

 

「アイツに言いたいことあるなら、言えばいいじゃない。どんなことでも、アイツにぶつけてくればいいじゃない」

 

「…………」

 

「……私もそう思うな」

 

一花も二乃の援護をする。

 

「浅倉君、三玖にはすごく優しいから、ちゃんと最後まで聞くと思うよ。三玖の思っていること、全部言ってくればいいじゃん。それに、浅倉君の方も三玖と話したいと思ってるかもしれないし。ね?」

 

 

「………一花……」

 

「………如何されますか?」

 

2人の姉の言葉を聞いて、三玖は少し俯き、答えを出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ソースケに、会いたい」

 

ボソッと呟いた言葉だったが、皆には確かに聴こえていた。

 

 

「……では、ご案内いたします。私について来てください」

 

「………」

 

アイナは三玖の返答を確認すると、そのまま部屋の出口へと歩きだしてから、三玖がついて来るのを待った。

そして、三玖もゆっくりではあるが、アイナの後に続いて歩き始める。それを見守る4人の姉妹。

 

「三玖さんを総介さんの元へお送りした後に、食事をお飲み物をお持ちしますので、恐れ入りますが、それまでしばらくお待ちください」

 

「分かったわ。頼んだわよ、アイナ」

 

そう二乃がアイナに三玖を任せてから、彼女は三玖を連れて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私、上杉さんに謝らなくちゃ」

 

部屋を出た後に、真っ先に口を開いたのは、何と四葉だった。

 

「私、こんな事になるなんて知らなくて……上杉さんも巻き込んじゃって……謝るだけじゃすまないけど……私……」

 

「四葉………」

 

今度は四葉が、ボロボロと涙をこぼし始めた。

ここに来てから、四葉の頭の中は、ほとんどその事しかなかった。自分の身勝手のせいで、風太郎を危険な目に巻き込んでしまった事への罪悪感と自分自身への嫌悪感で、四葉は押し潰されそうになっていた。

できることなら、半日前に戻りたい。風太郎を誘ったときに戻りたい。

 

 

「……大丈夫だよ、四葉」

 

「グスっ……一花ぁ……」

 

一花が、四葉の頭を優しく撫でる。

 

「浅倉君や渡辺さんもきっと、フータロー君のことはちゃんとしてくれるよ。でなきゃここにフータロー君を連れて来てないもん」

 

「グスっそうかな……ズズッ」

 

「うん、そうだよ。それに、一緒のタイミングで正体を明かした方が、フータロー君を仲間はずれにせずに済むでしょ?」

 

一花の言ったことは、正直全部出まかせだった。確かに、総介は風太郎とその家族の護衛も視野に入れてはいたが、それを一花は知らない。彼女は、四葉を安心させるために、四葉を罪悪感で潰してしまわないために、どうにかそれっぽい嘘をついたまでだった。

一花も、少しは恐怖を覚えていたが、何より総介の正体にいち早く疑念を抱いていた彼女は、その正体を知れたことに、誰よりも早く理解、納得していた。そのおかげか、五つ子の中では終始冷静に振る舞えていた。そこは長女、みんなのお姉さんである。

まぁさすがに、大左衛門を見た時は後悔と恐怖が襲ってきたが……

 

「でも、後でちゃんとフータロー君に謝ろうね?」

 

「……うん、謝りたい。上杉さんに」

 

どうにか四葉が潰れるのは回避したが、次の人物はどうしたものか……

 

 

 

「………五月ちゃん、どうする?」

 

「………」

 

そう声を掛けられた五月は、未だ少し震えたままだった。

こういった怖いことには、人一倍敏感な末っ子の五月。ここまで、短い時間で様々な恐怖が彼女を襲っていた。

 

 

敵の集団に襲われそうになったこと。それを退けた総介達の『人斬り』としての正体。更には海斗の父『大左衛門』というバケモノチート人間。それに飛びかかり、吹き飛ばされた厳二郎。

彼女は終始、怯えていた。何度も心の中で「お母さん」と、今は亡き母を思い浮かべて精神の均衡を保っていた。

 

 

「………嫌です」

 

「「?」」

 

「もうあんなことは嫌です!経験したくないです!お家に帰りたいです!!」

 

溜めていた不安や恐怖を、一緒に吐き出すように大声で叫ぶ五月。それに一花は、

 

「……うん、そうだね。だから、浅倉君たちが守ってくれるって」

 

「そ、そんなの、分からないじゃないですか!1人になったところをもしも攫われたりしたら……」

 

「アイナも言ってたけど、浅倉が私達の側にいる以上、相手は手出しすら出来ないっていうことよ。それを信じるしかないでしょう?」

 

「そんなの信じられません!私達と同じ年の浅倉君がそんな影響のある人なんですか!?もしもあの人が浅倉君を買い被っていたら、私達の誰かが……」

 

「でも、五月ちゃんも見たでしょ?浅倉君や大門寺君は、とんでもなく強いよ。少なくともそこらへんの人達より、遥かに強い」

 

「悔しいけど、その通りね。それに、世界で一番強いって人たちがボディーガードしてくれるのよ。こうなった以上、アイツやアイナを頼るしか出来ないでしょ?」

 

「………そんな……」

 

一花と二乃が受け入れている様子を見て、五月は顔を真っ青にして項垂れてしまう。

 

 

「残念だけど、こればっかりはどうすることもできないわ……

 

 

 

 

これは現実で、時を戻すことなんて出来ないんだから」

 

 

 

 

5人、それぞれに思うところがありながらも、この時は止まらない。この時は戻ってはくれない。この現実は夢にはならない。

 

 

 

 

母が死んだ時もそうだった。

 

 

 

時間をかけて、受け入れていくしかないと、一花と二乃、四葉は、恐怖に絶望し、膝をついて涙を流し続ける五月のそばに寄り添うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてここは、大門寺邸の敷地の奥地にある庭。

 

 

 

 

 

 

 

そこには、雲一つ無い空からの月明かりに照らされ、美しく輝きを放つかのような、大きな一本の桜の木が、その咲いた花びらを雪のように散らせていた。

 

それでも、その木にはまだ多くの花弁が残り、いくつにも分かれた枝を彩っている。

 

 

 

 

 

そんな木を、数メートル離れて見つめる、黒い羽織を着てあぐらをかいて腰を下ろしている彼の横には、腰から抜いた日本刀が鞘に収められたまま寝かされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が無言でその木を眺めていると、その彼の10数メートル遠くではあるが、後ろに2つの影が、姿を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、73話『サクラミツツキ』

 

 

 

 




どうも風太郎のキャラは掴みにくい。
次回は、久しぶりに総介と三玖の会話です。
といっても、これ物語中では数時間しか経過してないんですけどね……


今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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