数ある銀魂のOPの中でも、私が3番目に好きな曲です!
銀魂のOPって桜の舞い散る描写がよくありますが、あれめっちゃ好きなんです!てか作者は全部のOP及びEDが好きです。
あ、1位と2位は………またどこかでしれっと言おうと思います。
感想とかで好きなOPやEDがございましたら、是非語り合いたいです!
その木に咲いた花を、総介は毎年必ず見にきていた。
雲一つ無く、満月が白い光を照らす空の下、彼はその木の花びらが雪のように舞い散る中、その場にあぐらをかいて、その花を見上げている。
今、この時期にしか咲かない、その季節の象徴とも言える花。
日本全国、様々な場所で、今も咲き誇り、人々を魅了していることだろう。
それほどまでに、ありふれた花ではあるが、ここの桜だけは彼にとっては全く違うものでだった。
総介にとって、この場所に咲く桜は………
………………………………
「やはり、この場所におられましたか……」
先程、二乃との話を終えたアイナが、三玖を連れてその場所へとやってきた。
といっても、2人はあぐらをあぐら背を向ける総介までまだ20メートルほど距離はある。
「…………」
三玖は、ようやく総介を見つけたというにも関わらず、未だ複雑な表情をしたままだ。
「…………」
アイナは、連れてきた三玖の方へと振り向くと、彼女は未だ目線を下に下げて、何とも言えないような顔をしていた。そんな彼女に……
「………二乃と同じですね」
「………えっ?」
今の三玖を見て、アイナは少し前、海斗のことで思い悩む二乃を重ねていた。
「二乃も、若様のことで随分悩まれておりました。総介さんの事で迷われている今の三玖さんも、あの時の彼女そのままですが………
相違点があるとすれば、若様の事情を知らなかったことに悩んでいた二乃と、総介さんの事を知るが故に悩まれている三玖さん、でしょうか?」
「………」
「二乃にも同じ言葉をかけましたが………そう悩まれておられるのは、総介さんを心から愛しておられるという証拠です。そしてそれは、あの人もそう……
正直、羨ましいです」
「?」
アイナはそう漏らす。三玖も、彼女の発した言葉に、思わず顔を上げてしまう。
「10年以上、総介さんと過ごしてきましたが、総介さんがあなたのことをお話しされる時は、今までしてきたことのないようなお顔をされるのです。
あの人は、きっと自覚は無いのでしょうけれど………
あなたのことを、心の底から大切に想われていることが手に取る様に分かります」
「…………」
「まったく……普段はのらりくらりと煙に巻いて好き勝手されるくせに……三玖さんに与えるその優しさを、少しは私や若様にも向けて欲しいものです」
自嘲気味に笑うアイナを見て、三玖がふとこう尋ねてみる。
「……渡辺さんは」
「?」
「ソースケのこと……好きなの?」
そう聞かれたアイナが、一瞬目を開くが、すぐに元の表情に戻り……
「……ええ、好きですよ」
「!!?」
そう答えると、三玖は奇襲をくらったかのようにビクンと飛び跳ねるように肩を動かす。
彼女の様子を見て、アイナも少し三玖を理解できた気がした。
「………安心してください。その『好き』に恋愛感情では含まれていませんよ。
敢えて言葉にするなら……
『家族として』……でしょうか……」
「………家族?」
「……総介さん若様、明人とは、幼い頃に道場で出会い、そこから共に過ごし、遊んでいた仲ですが、総介さんのお母様が亡くなられ、彼が独りになられた後、しばらくしてその道場の師範が、天涯孤独となった彼の身を引き取り、彼を介して大門寺で過ごすこととなりました。
そこから私達4人は、ほとんど毎日を共に過ごすようになりました。
彼にとっては唯一無二の家族は、お母様だけでしたが………少なくとも、若様や明人、そして私も、それに近いような感情を、彼に持っております。
もっとも、そのご本人がどう思われてるかは解りませんが」
「………」
「きっとあの人も、私たちと同じようにそう思ってくれているのかもしれません。ですが、三玖さんのことを話される総介さんの様子は、それほどの長い付き合いの中でも見たことがございません。
本当に楽しそうな………それでいて、心にぽっかりと空いた巨大な穴が、ようやく満たされたようで、安心されたようなお顔をされてます」
「…………」
三玖にとってアイナは、自分の知らない総介を知っている人だが、それはアイナの方も然りだった。
初めにアイナが、三玖とのデート中で歩く総介を見た時、彼の表情が全く違うように見えた。
今までの死んだ魚の目こそそのままだったが、なんというか……見た目だけではわからない生き生きとした雰囲気をしているのを見て、内心驚愕していた。
話には聞いてはいたが、まさかこれほどまでに、三玖の存在が彼を変えるとは思わなかった。
『霞斑』どの抗争が一年前に終結した頃の、抜け殻のような彼の心を、ここまで満たすとは………あの時アイナは、少し三玖に嫉妬した。と同時に、感謝もした。
「三玖さん……自覚はお持ちではないかもしれませんが、今の総介さんがおられるのも、ひとえにあなたがあの人のお側に居てくださったお陰です……
本当に、ありがとうございます」
「えっ……そ、そんな、私は……」
頭を下げて自分に感謝の言葉を述べるアイナに、三玖も戸惑う。
「大丈夫です。あなたのお気持ちを、全て総介さんに吐露して頂ければ、あの人も全てを受け入れてくれます。
そして、総介さんの『本当の思い』を、受け止められるのは、三玖さんしかおりません」
「……ソースケの……本当の思い?」
「……お恥ずかしながら、彼と10年以上の時を過ごしていた私達ですら、あの人の心の隙間を埋めることは叶いませんでした。
ですが、あなたはそれを数少ない時間の中で、総介さんを見違えるまでに変えてくださいました。
それは、三玖さんと総介さんが、本当にお互いを想い合う心が無ければ、決して出来はしなかったでしょう。
それはおそらく、今後も変わりはしないでしょう。
ですから……
勝手な願いですが……今の総介さんの隣には、あなたにいて欲しいのです」
「………」
「私でも、明人でも……若様でもない。
総介さんを心から愛してくださる三玖さんでしか、あの人の心の支えにはなれません」
「……心の、支え……」
アイナの真剣な願い、そして三玖自身の願っていること、それらが一致する。
ただ、護られるだけじゃだめだ。自分も、総介を護りたい。
クリスマスイブの日に、彼に言った言葉。それは決して、嘘ではない。
彼が辛い時には、自分を頼って欲しい。彼が弱っていたなら、それを側で支えたい。
それらは全て、三玖の本心から出た言葉だ。今もそれに変わりはない。
そしてアイナも、それを三玖に望んでいる。彼の弱さを理解し、支えることができるのは、三玖しかいない。
身勝手かもしれないが、自分達では……いや、世界中探しても、それができるのはここにいる『中野三玖』という少女以外いやしないだろう。
この先は、彼女に託すしかない。
護るべき人を亡くし、『鬼』として幾千もの血を浴び続けた男が、ようやく『人』として護りたいと思える存在に出逢うことができたのだ。
もう、あのような惨劇は繰り返したくない。
それはアイナも同じ思いだった。
「どうか、総介さんをよろしくお願いします」
そう言ってアイナはもう一度、三玖に頭を下げる。
彼女の本心を聞いた三玖も、そのまま黙ることは出来ず……
「………うん」
三玖は弱く、小さくではあるが、確かに頷いた。
「……ありがとうございます」
顔を上げて、三玖へとほんのわずかに微笑みかけるアイナ。
「……それでは、私はお食事を二乃達の元へとお持ちしてきますので、これにて失礼いたします」
「う、うん………
あ、あの!」
アイナが、三玖の横を通って、屋敷内に戻ろうとした時に、三玖が彼女に声をかけた。
「?どうされましたか?」
アイナがそう聞くと、三玖は頬を赤くさせながら、こう言った。
「二乃のこと……
本当にありがとう」
照れながらも、二乃のことをずっと気にかけてくれていたアイナに、三玖は感謝の意を表す。それにアイナは………
「………友達ですから」
微笑みながらそれだけ答えて、アイナはそのまま屋敷に戻っていった。
そしてその場に残されたのは、三玖と、少し遠くで座りながら桜を眺める総介の2人だけとなる。
「…………」
改めて、三玖は彼の背中を見つめ直すが………
遠い
こんなにも、遠い
距離だけで言えば、20メートル前後しか無いのに、三玖には、総介の背中が本当に豆粒ほどにしか感じ取れないほど離れていると錯覚してしまう。
「………」
それでも、彼女は意を決して、一歩、また一歩と、ゆっくりではあるが、段々と総介に近づいていく。
やがて、その物理的な距離も徐々に狭まっていくと、三玖の目線は、段々と近づく総介へと下がるのではなく………
彼が眺める、桜の木へと目線が『上がって』いった。
こうして近づいてみると、とても大きい。高さだけでも、10メートルはあるだろうか。それでいて、今でも花が雪のように散って、時折吹く風で流されているにもかかわらず、全く花びらが減る様子も無い。
やがて、三玖は完全に頭上にまできた桜の花がたくさん咲いている枝を見上げながら、思わず呟いてしまった。
「………きれい」
きれいでしょ?
毎年ピークになると、今と同じくらい咲くんだ」
「!!?」
突然、下から聞こえてきた声に、三玖は我へと帰り、その声の元へと視線を辿る。
そこには、すでに自分と2メートルほどの距離しかないほど近くに、最愛の人の背中があった。
三玖が見る彼の背中は、いつものような黒いパーカーを着た、少し緩めの雰囲気の自分と同一人物かと疑う程に違うものだった。
白で大門寺の家紋が背にあしらわれた黒い羽織を着て、左側には日本刀が寝かせられている。
よくいる時代劇の役者のようにも見えるが、生憎そこにある日本刀は本物であり、スパスパと斬り裂ける。
そしてその役者のような男も、地球上で10指に入る強さを持つ、本物の『侍』だ。
それでも………
三玖は、そのまま無言で総介の右側へ腰を下ろし、膝を抱える形で座り込んだ。
桜の花びらが散りばめられた地面に尻をつけ、チラッと総介の顔を横から見る。彼の目線は、未だこちらではなく、大きな桜の木を眺めていた。
「………昔ね」
「?」
「6才、小学校に入るくらい、だったかな。道場での稽古が終わって、母さんが迎えにきてくれた時に、海斗がこの家に遊びに招待してくれたんだ」
「………」
「その時に初めてこの屋敷に来て、敷地や、建物ん中の広さや、出てくる料理の豪華さに、俺も母さんも驚いてばかりだった。
それで、俺がトイレ言って戻ろうとしたら、案の定迷っちゃって……色々な所を歩き回ってたら、この場所にいた」
「………そうなんだ」
「後で母さんが、海斗と探しにきてくれて、そこでしばらくこの木を見てた。
母さんは『この家はどれも凄いものばかりだけど、私はこの桜が、一番好き』だって、そう言ってた」
「…………」
「それから、毎年この季節には、ここに来るようになった。最初は2人で見てたけど、次の年は海斗やアイナも一緒に見たり、その次の年は明人や剛蔵さんも入れて、ここで布敷いて花見をして………
それからは、俺一人で見に来てる」
「………」
最後の一言で、三玖は視線を落としてしまう。何故一人で……言わなくてもわかる。
総介の家で、家族について尋ねた時、姉妹や風太郎よりも先に、彼の母のことを教えてもらった。
頭が真っ白になった。
7年前、総介が小学四年生の時……隣町のショッピングモールにて起きた爆発事故が原因で亡くなった。
但し、総介の母の死は爆発が原因ではなく………
日本刀で背中から貫かれたことによる、失血死。
総介はその時、三玖にここまでの事を教えた。
犯人や、当時や今の総介の思いは、その時は聞いていない。
しかし、今日その一部を知った。
総介が復讐のために『刀』に入ったこと
そのために、たくさんの人間を殺したこと
その犯人を相手に、海斗達と共に壮絶な殺し合いをしたこと
犯人は死んだが、結局復讐を果たせなかったこと
その犯人のいた連中が、残党として動き出したこと
「………」
三玖は、膝を腕で抱えながら、今日起こった出来事を思い起こす。
思えば、ここまで長いようで短かった。
総介と海斗が、自分達を拐おうとした連中を撃退し、海斗の家のこの屋敷に来て、総介達の正体をしり、海斗の父『大左衛門』への謁見、そして、二乃とアイナの和解と、アイナの言葉……
「ごめんね」
「え?」
突然、総介が謝ったことに、顔を再び上げると、彼は、こちらを見ていた。
その顔は、いつも総介が三玖だけに見せる、愛する人への慈みに満ちた顔だった。しかし、どこか哀しい表情をしている。
「三玖やみんなを騙すような形にして、巻き込んでしまって………本当に、申し訳ないとしか思えない」
「ソースケ………」
「このことを俺には、ただ謝ることしかできない………
今まで、全部を隠し続けてたことも
君の気持ちも考えず、こっちで一方的に物事を決めてしまったことも
何の言い訳もするつもりもない
だから、この時が来たら
三玖に全てを話す時が来たら
君に、これからのことを聞くつもりでいた
全部、三玖の納得するようにしたい
三玖がこれから、どうするか好きに決めていい
その責任は、全部俺がとるから
もしここで、三玖が本気で『別れたい』と言っても
俺はそれを受け入れるしかできない
今日で、三玖が俺を本気で拒絶しても
俺は二度と三玖の前に現れはしない
それで、君が納得できるのなら
死ぬほど辛いが、俺はそれでも構わない」
「………やめて」
覚悟を決めた総介の目を見て、自然と三玖の左手は、彼の羽織の右の裾を掴んで、大きく震えていた。
「やめて…………
別れるなんて………
拒絶するなんて………
言わないで………」
「…………」
やがて、彼女の頬を、大粒の涙がいくつも流れ、落ちていく。
「愛してるの………
全部知っても………
ソースケがどんな人でも………
私は、あなたを愛してるの………
ソースケのこと、愛してるの………」
「………三玖………」
三玖は、ゆっくりと総介の身体に手を伸ばし、絶対に離さないと言わんばかりに、反対の左腕まで手を回して、身体全てを使って抱きつく。
自分が総介をどう思っているのか……そんなの、彼の顔を見ただけで吹き飛んだ。
この人の側にいたい。
喜びも
悲しみも
憤りも
慈しみも
この人と分かち合いたい
生きている間、ずっと
それを、彼はいなくなることも覚悟していると言った
………いや
いやだ
そんなの
彼がいないこれからの人生になんて
もう何も………
「いや………いなくならないで………
私………ソースケ無しじゃ、もう……」
縋り付く三玖に、総介は改めて『鬼』の自分を突きつける。
「………俺は、ただの『人殺し』だよ。
ただ、自分の復讐のためだけに、何人も斬り殺してきた、醜い鬼だよ」
そう呟く総介に、三玖は腕の中で首を横に振り、こう返した。
「…………そんなの知らない
私が見たソースケは
今まで見てきたソースケは
『鬼』なんかじゃない
ソースケは
私達のために
花火大会のときも
さっきのマンションでも
どんなときも
命をかけて護ってくれた
『侍』だから」
「!!!」
その三玖の言葉に、総介も動揺してしまう。
そして彼は、かつての出来事と、彼自身の本当の願いを、思い出した。
母と昔、『大好きな人を護れるように強くなる』と誓った。
しかし、それも叶わず、目の前で大好きな人を惨殺されてしまった。
皮肉にもその後に、常人では到底及ばない程の、『鬼』と形容される程の力を手にした。
『刀』に所属してから常日頃、剛蔵から『大切なものを命を賭けてでも護ろうとする【侍】たれ』と言われてきた。
しかし、当時の総介は復讐のことしか頭にあらず、大好きだった『銀魂』も、新しい単行本を買わず、一度はクローゼットの奥に閉まっていた。
自分は、『あの人』にはなれなかった………
夢見ていた男の背中は、いつの間にか黒く塗りつぶされて、何も無い、ただ復讐のためだけに生き続ける『鬼』だけが残っていた。
それでよかった。
『あの男』を殺せるなら、もう何でもよかった。
斬った
斬った
斬った
斬った
斬った
斬った
斬り続けた
やがて、『あの男』に辿り着いた
全てを、自らの手で終わらせたかった
しかし、全てが、『勝手に』終わってしまった
もう、『あの男』はいない
どうすればいい
そのあと、明人とアイナと離れ
海斗と離れて、一人になった
途中何百人もの敵が俺を囲んだが
そんなの、もうどうでもよかった
誰一人と残らずに、殺した
しかし、いくら母の仇とて
誰を殺したとて
『あの男』が戻るわけでも無し
ましてや、母さんが戻るわけでも無し
その日から、俺は『抜け殻』になった
剛蔵さんや、総帥から功績を讃えられて、『鬼童』と異名を頂いて期待されても
俺には、もう『虚』しか残されていなかった
それから半年以上経ち、新しい単行本やDVDを買うほどに『人』としての俺が戻ってきた頃
三玖に出逢った
初めは、よくある学生の恋慕だと思っていた
が、違った
同じ時を過ごす中で
いつの間にか俺はこの子に、母さんを重ねていた
容姿や、性格が似ているわけじゃない
ただの一目惚れした女の子
それでも、俺はこの子を………
『鬼』になったとしても護りたい
再び、血に染まったとしても
独りになったとしても
この子は、この子だけは………
『失うもんがねぇ強さは、何も護れねぇ弱さと同じだ』
「…………三玖」
総介は、自身の腕ごと回されていた三玖の腕を、少し強引に広げて外して、やがて身体全体を彼女の方へと向けて……
護り通す
何が何でも
そのためなら、俺はもう一度
今後、この子に降り注ぐ悪意の全てを斬り殺す
『鬼』となり
かの日になりたいと夢見た
『侍』になろう
大切なものを、命を賭して護ろうとする
あの銀髪天然パーマのような
強い『侍』になろう
「………約束する
君は何があろうとも
俺が護る
どんな奴からだろうと護り通す
必ず」
回された腕を外し、三玖の背中へと回して、羽織の中に包み込む総介。
「うん………うん………」
三玖は、受け入れてくれた総介の中で、再び背中に手を回して涙を流しながら、何度も頷いた。
「どんなことがあっても、三玖のそばにいるよ
君が望むなら、いつまでもずっと」
「うん………そばにいてほしい
あなたが、どんな人でも
私は、ソースケの隣にいたい
ずっと、あなたと一緒に」
「………ありがとう、三玖
愛してる
今までも………これからも」
「………私も………愛してる
ソースケ………私も、あなたを護るから
ずっとそばにいるから」
男は、敵を蹴散らす『鬼』となり、女を護る『侍』となると
女は、何があろうとも男の側に寄り添い続けると
抱き合う二人に、いつくもの桜の花びらが周りを囲む。
月明かりに照らされた桜の木の下で、二人は固く誓い合った。
この夜を以って、浅倉総介と中野三玖の恋人関係は終了し
恋人のそれよりも短く、固い糸で、二人は離れないように互いを結び合った
………………………………
翌朝、といっても、いつもより遅い朝……
「絶対に嫌です!」
五月が、用意された朝食を食べながら、そう叫んだ。
彼から時は経ち、朝を迎えた五つ子達。
アイナや、他の給仕の人たち持って来てくれた朝食を食べながら、各々昨日のことについての結論を話し合った。
一花……元々総介達の正体に疑念を抱き、それを知り、自分達にメリットのある同盟のことも理解し、納得している。
二乃……茨の道だろうがなんだろうが重々承知の上で海斗について行く、アイナとの友人関係もやめるつもりはない。
三玖……どんなことがあっても、総介の側に寄り添い続けると誓う。
四葉……何より風太郎への申し訳なさと、謝罪の気持ちが頭から離れない。けれど、一花の説明で同盟や、護衛には賛成。
と、姉達4人が納得、賛成しているのに対し、末っ子の五月はというと……
「あんな怖い目になんてもう嫌です!それに、あ、あんなに怖い人たちにも、もう会いたくありません!」
「だからね、その怖い人たちは、私達を守るために護衛についてくれるって言ってるんだよ、五月ちゃん。世界一強いって言われてる人達なんだから、危険もほとんど無いって言ってたし」
「し、信用できません!あんな大きな斧を持った人(厳二郎)や、あの人間じゃない人(大左衛門)を見て、何にも動じないなんて正気じゃないです!そ、そんなのが、私達に向かって来たら」
「だぁかぁらぁ!味方だって言ってんでしょ!アイナのお父さんも『同盟相手に被害を与えることは御法度』って言ってたわ!あの人達の力が無かったら、私たちは今頃拐われて遥か遠くよ」
「で、でも、私は嫌ですよ!あんな………
あんな『化物』みたいな人たちと一緒になんかいられません!!」
「ちょ、こら!五月アンタ!アイナもいるのよ!」
「あっ……!!」
「………慣れておりますし、自覚もしています」
五月の化物発言に、二乃は大きい声で叫んで注意する。一方、襖に立って控えるアイナは、よく言われるのか、あまり気にしていない。
「す、すみません……」
さすがに目の前で言い過ぎた自覚があったのが、五月は俯いてしまい、小さく謝る。
と、その時、襖の奥から………
「入るぞ〜」
「………どうぞ」
総介の声が聞こえ、アイナは今の状況を瞬時に判断して、彼なら大丈夫だと考え、襖の取手を引いて開けた。
「うぃ〜す、寝れたか〜?」
「ひっ!」
総介が姿を見せた途端、五月が声を上げてビクッと震えながら怯えだす。
彼は昨日の羽織ではなく、いつも黒いパーカーを着ていた。が、黒縁眼鏡はかけてはいない。
「随分と嫌われたもんだねぇ〜」
彼は五月の反応を見て、皮肉混じりに乾いた笑みを浮かべる。
「五月、失礼、謝って」
「…………」
三玖が注意するが、五月は聞こえてないのか、怯えたままだ。
「いや、三玖、いいよ。肉まん娘の反応も間違っちゃいないさ。
あんなん見せられて、怖がるのも無理もねぇからな」
武器を持った何十人という男に囲まれ、拐われかけたり、殺気全開の男や、地球上最強の生物の圧倒的な威圧感、その人間離れした小競り合い、それらを目にし、当てられたのだ。怖がるなという方が間違いだろう。
総介はそのまま、五月の方へと近づいていく。
「………」
「こ、こないでください!いや!」
逃げようにも、足が震えてうまく動けない五月。やがて総介は、自身のすぐそばまで来る。
「た、助けて!一花!三玖!二乃ぉ!」
五月はパニックになり、姉妹に助けを求めるが、総介が何か危険なことをするわけないとわかっている3人は、彼を止めない。
そのまま総介はしゃがみ、五月に手を伸ばす。
「こないでぇ!助けて!お母さん!お母さぁん!」
母を呼びながら、頭を抱えて泣き叫ぶ五月に、総介は………
頭にポン、と手を置いた。
「………済まなかった」
「!!?」
手を数秒置いた後、彼は震える頭から手を離し、五月に向かって正座をする。
そして、そのまま手を畳へとつけて………
頭を下げた。
「!!!」
「!!あ、アンタ!!?」
「そ、ソースケ……」
「あ、浅倉さん!?」
総介は五月に向かって、紛うことなき『土下座』の姿勢をとる。その様子を見て、他の4人は、驚愕の表情を浮かべる。
それは、アイナも同じだった。
「………」
彼がとった行動に、驚きのあまり、目を見開いて絶句していた。
「お前を、お前達姉妹を巻き込んでしまったのは、完全に俺の責任だ。こっち側のメリットばかりを考えて、お前達を『戦い』というものを知らない一般人だということを失念してしまっていた。
本当に、申し訳ない」
「………」
いつもとは違う重い声で、自分に頭を下げて謝る総介の姿に、五月の震えも徐々に止まっていく。
「お前が俺たちをどう思ってくれても構わない。裏で化物だろうが何だろうが言って叩こうが、何もするつもりはない。
なんなら、今ここで俺に全部ぶつけてもいい
殴ろうが、蹴ろうが、引っ叩こうが、お前の気が済むなら、何でもしてくれ」
「!!!」
「ちょ!さすがにそこまでは!」
頭を上げてそう言う総介に、二乃もそこまでは、と物申そうとするが、彼の顔は、五月を見たままだった。
「………」
「どうした、俺が怖いんだろ?ほれ、今ならやりたい放題だぞ。手も、足も、何も出さねぇからよ、自分を危険な目に合わせた張本人が、丸裸で目の前にいるんだ。怖いなら、それを全部怒りに変えて俺に全部吐き出せ」
総介の最後の一言を聞いた直後、五月の右手は、そのまま総介の頬へと一直線に伸びて……
パチン!
「………のせいで」
「………」
「………あなたのせいで」
そうキッと総介を睨む五月は、涙を溜めながら、次は左手で総介をぶつ、
パチン!
そこからは、もう止まらなかった。
「あなたのせいで!
あなたのせいで!!
あなたのせいで!!!
あんなに!!
こわかったんですよ!!
あなたのせいで!!!
あんな怖い思いをしたんですよ!!!
あなたがあんなことしたせいで!!!」
パチン!パチン!パチン!
幾度となく続く往復ビンタ。最初は確実に頬をとらえていたが、ある時顔面にヒットし、総介はそのまま後ろへと倒れる。
五月はそれでもやめず、泣きながら総介に跨り、ビンタをつづけた。
「あなたのせいで!!
あなたのせいで!!
あなたのせいで!!!!
全部全部!!!
あなたのせいでぇぇえ!!!」
「もうやめて!五月!」
やがて、見るに耐えかねた三玖が五月を後ろから羽交い締めして止める。
「うわぁぁぁああああん!!!」
大声を上げて泣き叫ぶ五月。今まで溜めていた恐怖を、彼女は全て吐き出さんと、三玖の胸の中で泣き続ける。
「あ、浅倉さん!大丈夫ですか!?」
大の字に倒れた総介を心配した四葉が、総介へと駆け寄る。
「………ああ、痛ってぇ」
いくら『鬼童』として頑丈な体で出来ているとはいえ、総介もあれだけ打たれ続ければ顔も赤く腫れ上がる。
しかも、所々掌底のようなビンタも飛んできたため、総介も痛みのせいで顔をうまく動かせない。と、彼は部屋の入り口の襖に向かって……
「………これで満足か?
中野センセーよ」
「………僕が言うのもなんだが
少しはスッキリした」
「あ、浅倉、お前……」
「!!?」
「ぱ、パパ!!?」
「それに……フータロー君!?」
「それに!?」
入り口には、マルオと風太郎がいた。
総介は、2人に朝会い、五月のことで話をしていた。
「五月君は納得いかない様子だが……」
「ど、どうするんだよ、浅倉?」
「そうさなぁ………んじゃ、俺がヘイトを全部引き受けますかね」
というわけで、総介の提案で、五月の心に残った恐怖を、全て自分への怒りとしてぶつけてさせることにした。
「お、おい、それじゃ浅倉は」
「まぁ、殴る蹴るはされるだろうな。が、それも俺がしでかしたことだ。罰を受けて当然だ。とはいえ、さすがに殺されるとなっちゃ俺も嫌だから、あいつが満足しそうな良き所で止めてくれ。
後、キ○タマ蹴られるものごめんだから、そこは自衛する」
幸いだったのが、五月がビンタしかしてこなかったことと、三玖が途中で止めてくれたことだろう。
その様子を見てマルオと風太郎も、その流れで部屋に入って来た。
「い、今すぐ手当てをします」
「お〜、冷えたタオルくれぇ……ってて」
アイナはそのまま、手当ての道具を取りに一旦部屋を出ていく。
その後に、腫れた顔を押さえながら上半身だけ起き上がる総介。
「手ひどくやられたね、浅倉君」
「よく言うぜ、楽しみながら見てたクセに」
「………そう見えたかい?」
「ああ。ありゃ医者失格な顔だな」
「………そうか」
ヘッと笑う総介と、ほんのちょっとだけ口角を上げるマルオ。どうやら、彼の心の中で総介にあったしこりも、今のでとれたようだ。
………………………………
その後、アイナの持ってきた濡れタオルや氷嚢を顔に当てる総介に、ようやくパニックから正気に戻り泣き止んだ五月が謝罪する。
「ご、ごめんなさい、浅倉君。私、恐怖のあまり、なんてことを……」
「謝んじゃねぇよ、肉まん娘。お前もこれでようやく落ち着けたんだ。そうでなきゃなんも話出来ないだろ?」
「………はい」
「……それに、あっちも、あっちで色々とあるみたいだしな」
と、総介が目を向けた先には、総介と同じく土下座をしようとする四葉と、それを止める風太郎がいた。
「上杉さん、私のせいでこんなことになって本当に……」
「わ、わかったから!その気持ちはわかったから四葉!土下座しようとしなくていいから!」
マルオのいる手前、四葉に土下座だけはさせまいと必死で止める風太郎。
土下座したい四葉と、土下座させたくない風太郎。2人の攻防が続くそんな賑やかな中………
「あらあら、楽しそうね」
と、襖の影から現れた人物がいた。それは、なんと……
「お、奥様!?」
「………天城さん」
海斗の母『天城』だった。息子に受け継がれた星のような輝きを放つ銀髪と、万人を魅了するその美貌、そして、色鮮やかな着物だが、朝のため軽い着こなしが出来るものを着ている。
天城は、座りながら氷嚢を当てる総介に目を移すと、笑いながら声をかける。
「ふふっ、手ひどくやられたわね、総介」
「………ウス」
「『色』を知ったとはいえ、あなたもまだまだ『女』を知るには早いということね。気をつけておきなさい」
「ウス………ところで、総帥はどうしてますか、天城さん?」
「ああ、あの『筋肉ダルマ』は、案の定私の部屋をめちゃくちゃにしてくれたから、寝させずに修復させてるわ。あと私物も、今より高いものを全部買うよう言いつけてるから。しばらくアレも、自分でハントした猛獣の丸焼き生活ね」
「いや、それなんてトリコ?」
大左衛門に捕獲レベルがあれば、確実に6000は行くだろう。即ち『八王』レベルである。それを顎でこき使える天城は……捕獲レベル10000……『GOD』レベルかも……
「今何か変なこと言ったかしら?」
「………いや、何でも無いデス」
「あらそう?まぁいいわ、それよりも……
『二乃』って子は誰かしら?」
「!!」
突然名前を呼ばれた二乃は、ビクッと肩を震わせて、返事をする。
「……わ、私です」
「あら、あなたなの。それにしても五つ子を見るのも珍しいわね。お母さん頑張ったのねぇ。
ふ〜ん………」
天城は、二乃の前身を、値踏みするかのように見回していく。
「あ、あの……」
「黙ってて」
「は、はい」
何か言おうにも、すぐに天城に黙らせられる二乃。やがて、彼女の視線が外れる。
「………まぁいいわ。海斗が選んだ子だし、何も言うつもりは無いわ。
『育て甲斐』がありそうなところは、好きだけど」
「「!!」」
天城の言ったことに、アイナと総介が顔を青くする。
「あ、あの……」
と、二乃が恐れ多くも天城に話しかけた。
「……何かしら?」
「海斗君の、お母様、ですよね?」
「ええ、そうよ。『大門寺天城』。海斗は私のかわいいかわいい一人息子よ」
「……ほ、本当に、お母様、ですか?」
「………どういう意味かしら?」
天城が、目を細めて二乃を睨む。
「い、いえ!あまりにも若く見えたので……『お姉さん』かなぁって最初は思っちゃって……」
「………」
二乃の言ったことに、天城は沈黙する。総介とアイナは、冷や汗をかいて恐る恐る天城の言葉を待つ。すると、天城の口角が上がり……
「………ふふっ、お世辞かしら?
でも、そういうのを本心で言える子は好きよ」
「「……ふぅ」」
笑いながら二乃に返した天城に、『懐刀』の二人は安堵する。
「お、お世辞だなんて、そんな!」
「分かってるわ。中々素直な子なのね……
楽しみにしてるわ」
そう言って天城は、そのまま部屋を後にしようとする。
「……あ、あの!」
その背中に、二乃は大きく声をかけて、天城もそのまま止まった。
「……私、頑張ります!
海斗君の隣にふさわしい人になります!」
「………ふふっ」
天城は笑うだけで、再び歩き出して、部屋を後にした。
「……綺麗な人だったな〜」
「うん、でも、怖い人だった」
「あ、あの方が、大門寺君のお母さん、ですか」
「………」
姉妹がそれぞれの反応をする中、二乃は黙ったまま襖を見続けていた。
あの人だ。
あの人が認める女にならなくては。
そう心の内で、改めて決意するのだった。
「上杉さん〜〜!!私はいいのでこのまま土下座させてくださいいいい!!!」
「さ、せる、かぁぁあ!平謝りですませろぉぉ!!!」
「お前らまだやってたんかい!!!!」
一方、風太郎と四葉の謝罪抗争はまだ続いていた。
これは
一人の女を愛した『鬼』と
一人の『侍』を愛した女の
イチャイチャラブラブで
それでいて、イチャイチャラブラブな
イチャイチャラブラブも入った物語
ってイチャイチャラブラブしかねーじゃねぇかぁぁぁあ!!!!!
次回より、最終学年『3年生進級編』始動!!
あ、第六章はまだまだ続くよ。
大門寺の家紋……実はまだどんなのか決めてないんです……
作者は、物語のセンスの無さよりも、絵のセンスがお妙さんの卵焼きくらい無いんです……
得意な絵は『棒人間』ってくらい……
さて、これにて第六章は終了と………
なりません!
あと何話か続きます!
さあ、『奴』が出て来ますよ!
ああ楽しみ楽しみ(下衆な笑顔)
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!