ようやくここにきて風太郎メインの話となっています。
あと、海斗に関しましてわけわからんものが出てきますので、読むのに行き詰まった方は大左衛門の時と同じくギャグで済ませてください。
大門寺親子はもはやチート通り越してギャグです。
風太郎、海斗、武田の3人の全国模試三つ巴の闘いが決まってから………
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………」
朝わ風太郎は登校中でも付箋だらけの参考書に目を通しながら、問題分と答えをブツブツ呟いている。体からは炎みたいな気迫が燃え上がっており、通行人が驚くほどに気合が入っていた。
武田はともかく、もう一人の相手はあの大門寺海斗。完全無欠、完璧超人、全知全能を体現したリアルチート人間。
父親が戦いにおける戦闘力チートならば、息子は全方位の万能型チート。
勉学、運動、容姿、出自、人間性、全てがオール100。これはこういうオリキャラの類の用語でよく使われる『メアリー・スー』もびっくりして逃げ出したくなるほどのチート男だ。てかチート言い過ぎてチーズに見えてきた。
しかし、今回の対決はあくまで試験だ。海斗との勝負もあるが。これはあくまで、自分の今までの勉学の腕が試される場。勝機が無いわけではない。
前回はしくじってしまったが、今まで学年一位をキープしてきた分、余計に負けるわけにはいかない。
勉強ならば、付け入る隙はこちらにもある!
「フータロー君、前見ないと危ないよ」
と、参考書を凝視しながら歩く風太郎に、聞き慣れた声が掛けられた。
「おっはー」
それは、ス◯バでフラペチーノ的なものを手に持ち、総介のものによく似た黒縁の伊達メガネをかけた一花だった。
「一花か。不自然なほどお前とは登校時に会うな」
この小説では表記していないが、三年生になる初日も、風太郎は登校中に一花に会った。その前も、ちなみに、それなりの頻度で遭遇している。
「えっ!あ〜、私はこれを買いにね!君に会えたのも偶然!あははは!」
と、フラペチーノ的なものを理由に誤魔化す一花。
「そだ、こっちはフータロー君に差し入れだよ」
「偶然会ったのに用意してくれてたのか」
と、一花は風太郎にホットコーヒーを差し出すが、早速ボロがバレてツッコまれる。
「だがコーヒーは飲めない……苦いし」
「じゃ、じゃあ私が飲んじゃお〜。おいし〜」
風太郎が飲めないので、ゴクゴクとコーヒーを飲む一花。
「遅刻する前に行くぞ」
と、そんな一花への対応もほどほどに、風太郎は歩きだし、一花もそれに続いた。
(あ〜あ、やっちゃった。貢ぎ物作戦失敗……)
風太郎と並んで歩きながら少し落ち込むが、また次があるとすぐに切り替える。
「……みんなから聞いたよ。お父さんとまたひと悶着あったみたいだね」
「まぁな、家庭教師を辞める辞めないってのもこれで何度目だ」
三つ巴の対決が決まった日、一花は一人だけ女優の仕事をしていた。それから帰宅した後、姉妹から事情を聞いた彼女が発した言葉とは……
「何その面白いイベント。女優なんてやらなきゃよかった」
あまりにも濃い内容の一部始終を聞いた後、自分がその場にいなかったことを後悔したそうな。
「相手が大門寺君と、もう一人があの武田君なんでしょ」
「!知ってるのか?」
「二年の時同じクラスだったからね。大門寺君程じゃないけど、彼も彼で人気だよ。あの時からザ・好青年って感じだったなぁ……あれはあれで大変そうだけどね」
最後に一応フォローを入れた一花だが、風太郎は無視。
「………相手が大門寺とはいえ、俺も負けるつもりは毛頭ない。これから月末まで勉強漬けだ、覚悟しろよ」
「わ、私たちもかぁ……」
(フータロー君の誕生日もうすぐなのになぁ……)
一花は風太郎の誕生日のことを考えていた。姉妹全員で渡すつもりではいるが、なんとかして自分だけ特別感は出せないだろうか……しかし、彼は今試験に向けて勉学にしゃかりきになっている……これでは言い出しづらい。
「……とは言え」
と一花が考えていると、風太郎が前の言葉に付け足す。
「三玖の次に赤点から抜け出して、学年末試験でも働きながら勉強してきたお前だ。何も心配してないがな」
「………」
こちらの方を向かなくとも、そう言ってくれた風太郎に、一瞬時が止まる一花。
「……むふふ、乙女の扱いがお上手になりましたねぇ」
「ん?お前眼鏡とかしてたっけ?」
「今更!?……前言撤回、やっぱ鈍チンだね……」
眼鏡の存在にようやく気づいた風太郎に、一花も少し呆れてしまう。
「もっと早く気づいて欲しいな………どう?少しは知的に見えるんじゃない?」
と、伊達眼鏡のヨロイの部分を両指でクイッと上げる一花に風太郎は……
「浅倉を思い出すな」
「……あまり良い例えじゃないね」
と、進級するまで同じような黒縁伊達眼鏡を掛けてた総介のことを連想した風太郎。そう答えられた一花も渋い表情。
「一応変装なんだけどね」
「変装……」
「ほら、昨日私が出た映画の完成試写会があって……そこそこテレビで取り上げられたみたいだしさ……」
と、一花が頬を赤くしながら風太郎に話す。
「お、覚えてる……『あの時』の映画なんだけど……」
『ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです〜』
風太郎の脳裏に、あの場面が蘇ってくる。
「!」
「………」
一花が風太郎の顔を見ると、プルプルと震えながら笑いを堪えている。
「くくく……声をかけられないように変装してたのか。これは大女優様だぜ」
「もー!恥ずかしいから言わないで!」
赤くなった顔を手で隠しながら言う一花。
彼女には誠に残念な話ですが、後日映画を見に行った総介と三玖にイジり倒されるのは、そう遠くない話である……
「くくく………変装はお前らの十八番だもんな」
「あ、それいいかも……私たち、こういう時のために常備してるんだ。四葉や三玖だったらすぐ行けるかなー」
一花のカバンの中には、緊急時の姉妹への変装用に、三玖のヘッドホン、四葉のリボン、二乃のリボン、五月の髪飾りやウィッグも入っている。
「四次元ポケットかお前のカバンは」
「パララパッパラ〜♪四葉のリボ〜ン!(裏声)」
○(´・∀・`)
某猫型ロボットの声真似をしながら、丸い手で四葉のリボンを取り出す一花。
こうして、そのままド◯えもん的な会話をしながら二人は学校まで歩いて行った。
………………………………
「お前が猫型ロボットの真似しまくるから遅刻寸前じゃねーか!」
「こんな時は!どこでもドア〜!(裏声)」
◯(´・∀・`)
「あるか!」
案の定ふざけすぎたため、地味にギリギリになってしまった二人。教室まで走って、なんとか間に合った風太郎と一花。
「ギリギリセーフ!ふぅ…」
風太郎が間に合って安心しながら、教室のドアをガラガラとスライドさせる。
すると………
一花を視界に捉えたクラスメイト達が、一斉に彼女にドッと集まってくる。
「一花さん!朝のニュース見たよ!」
「女優ってマジー!?」
「びっくりした!」
「同じクラスにこんなスターがいるなんて!」
「ずっとこの話題で持ちきりだよ!」
一花のことをテレビで見た生徒たちが沢山いたようで、皆それに衝撃を受けて彼女に話しかけてくる。
(どこまで飲み物買いに行ってたんだろ……)
四葉がそんなことを思うが、彼女のように一花のところに集まらずに自分の机にいるのは、姉妹と総介(寝てる)、海斗(文庫本読んでる)、アイナ(スマホいじってる)、武田(ケツ押さえてる)くらいだった。
「そんなにデカい映画だったのか……」
「ま、まあね……」
本人そっちのけで騒ぐ皆を見て、言葉を失う一花と風太郎。どうやらしばらく穏やかな学校生活は送れそうにないようだ。
と、
「ま、どうでもいいけど……
オーディション受けてよかったな
もう立派な嘘つきだ」
「!!!」
振り向きざまにそう言った風太郎に、一花は自身の心臓が大きく脈打ったことを感じた。
(……こんな単純でいいのかな
君が私を気にかけて覚えていてくれた
たったそれだけが、クラスメイトの賛辞より
胸に響いてしまうんだ)
花火大会の日、自分と風太郎にあったことを思い出して、どこか懐かしさすら覚えながらも、昨日のように鮮明に思い出すあの日……
自分が初めて、彼を意識した瞬間を、一花は今でも体験しているように感じていた。
………………………………
その後、放課後
「おーい一花、図書室先に行ってるね」
「あ、私も……」
「えー!もっと話聞きたいなー」
「もうちょっといいでしょ?」
「有名人に会ったとか……」
「…………
ごめん!」
「あ!」
「待って、一花ちゃん!」
こんな風に、一花は一日中生徒たちの質問攻めにあっていた。それは、初日に女子生徒が海斗に集まっていた時のように、絶えず彼女の周りに何人か集まり、ひっぱりだこな一日を過ごしていた。
しかし残念ながら、彼女は海斗ほど器用に対応できず……
「あれっ?どっちいった?」
(………ごめんね〜)
行き詰まった時には逃亡し、姉妹の誰かに変装して難を逃れることが、今後しばらく続くのだった。
と、
「………ん?長女さんか。逃げ切ったなら図書室行くぞ〜」
「え!……ってなんだ、浅倉君か……」
「『なんだ』とは何だ『なんだ』とは。変装道具取り上げんぞ」
「さすがに今は死活問題だからそれだけは……」
自分を見分けたことにびっくりした一花だったが、今三玖に変装して、他の生徒はごまかせても、総介は三玖か三玖以外かを判別できるので、あまり嬉しくはない。
嬉しくはないが………
(………いいなぁ)
それほどまでに三玖を想い、そして三玖に想われている総介。もはやただの恋人を超越した二人の仲を、羨ましくなってしまう。
いや別に総介が好きとかじゃなくて、自分も風太郎とそういう関係になれればな〜ってことなのだが……
「おい、とっとと行くぞ〜」
「………は〜い」
(いつかは……ね)
改めて、一花は風太郎とそうなると決意を胸に、総介の後を追いかけるのだった。
「何で私の格好?」
「こ、これは!みんなから逃げるために!仕方なかったんだよ〜!」
その後、三玖の変装のまま図書室に総介と一緒にやってきたので、三玖本人にジト目で睨まれてしまった一花だった。
「………まさか、ソースケを……」
「狙ってない!狙ってないから!!」
「たとえ狙ってたとしても、俺は長女さんのことは性的対象としか見てねーから」
「性的対象!?」
「……ソースケ、後でお仕置き」
「…………しまった(´・ω・`)」
………………………………
「んで、何なんだよ相談って?」
翌日の昼休み、食事後に風太郎は相談があると総介を屋上に呼び、、互いに腰を下ろして柵にもたれかかっていた。
「………大門寺のことなんだが」
「ほう?」
「………勝てる自信が無くなってきた」
「はぁ?」
いきなりの風太郎の弱音発言に、総介は裏声で反応してしまった。
「本人の前で『勝つ』っつったのはどこのどいつだっての……」
「いやそうなんだが……『あんなもの』見せられたら……」
『あんなもの』とは……それは、本日の授業中に遡る………
授業中、風太郎がふと海斗の方を見ると、彼は授業を聴いてる様子はなく、何かをしていた。彼は一人、ノートパソコンを開いて、周りの邪魔にならない程度にキーボードを静かに叩いていた。
(………何やってんだ?)
海斗は普段から、『大門寺』の経済面での仕事にもいくつか関わっており、何かしらの動きがあれば、彼のスマホに連絡が入り、すぐさま持参しているパソコンを開いてチェックが入る。それは昼夜問わずに送られてくるため、臨時での対応が急がれる際は、学校からも許可をもらい、作業をさせてもらっていた(試験や行事の際は例外)。作業はほんの数分で終わるのだが、その時の彼の表情は、いつもの穏やかな雰囲気とは違い、真剣そのものだ。風太郎は、ちょうどその時に海斗を見たのだ。
すると………
「えーっと、じゃあこの問題を……」
「うわ、当たりたくねー……」
「ここムズイもんな〜……」
と、生徒がボソっと嘆く。今の問題は、風太郎やアイナなら解けるが、一般生徒には中々難しい問題だ。高校三年生にもなれば、授業は応用の問題も多くなるので、ついていけない生徒も多数いる。
「今日の日付で……大門寺〜」
「!はい……」
と、先生が問題の答えを海斗に求めた。その瞬間に海斗は立ち上がり……
「〜〜〜〜〜……」
まるで今までちゃんと聞いていたかのようにペラペラと答えていった。
(はぁ!?お前パソコンいじってただろうが!?ってか答え調べたんじゃねぇのか!?)
と、パソコンで問題を調べた説で疑った風太郎だが、海斗は名前を呼ばれた瞬間にパソコンから目を離して、一度もそちらを見てはいない。
「……正解。完璧だ、大門寺。済まなかったな、時間をとらせて」
「いえ。僕の方こそ、緊急とはいえ、家の作業が重なってしまい申し訳ありません」
海斗は頭を下げてから、椅子に座る。その動作すら、美しいと思い見惚れてしまう。
そして再び、彼は数分パソコンに向かって作業を続けるのだった。
その後……
「……上杉君、さっきの授業中に、君の集中を妨げてしまったね。模試が近いというのに、本当に申し訳ない」
「え?……いや、でも、大門寺は俺の方見てなかったよな……?」
海斗は風太郎の方に、一度たりとも目を向けていない。風太郎本人も、海斗とは目が一つも合わなかった。にも関わらず、彼は風太郎がチラチラと自分を見ていたことを把握していた。
「わかるよ。作業中でも、教室の大体の気配は感じ取れるさ。四葉ちゃんが問題が難しすぎて頭を机につけてたこととか、三玖ちゃんが総介の方を見つめていたこととか、その総介も三玖ちゃんと目を合わせて微笑んでいたりとか、ね」
「………」
海斗は自身の視界の死角でも起こっている出来事を、寸分違わずに当てて見せる。そして今話した出来事は、全て『風太郎が授業中に目に入ったもの』だった。海斗は、それすらも把握して、自分に答え合わせをしてきたのだ。
つまり、先の授業中に海斗は………
・パソコンでの作業
・授業を聴き、当てられれば答える
・教室で現在起こっていることを把握
これら三つを、全て同時に行なっていたのだ。『頭が良い』とか、そんなレベルの話ではない………
次元が違う………
「ってことがあって……」
「ああ、海斗ははニュータイプ並みか、下手したらそれ以上の空間認識能力持ってっから。ファンネルとか使わせたら、多分宇宙世紀じゃ晩年のアムロかシャアにタメ張れるレベルで強ぇかもな」
「は?何て?」
「知らねぇのかよ……来週までに『逆襲のシャア』借りて見とけ」
某モビルスーツアニメネタに疎い風太郎。ド◯えもんは知ってるくせに……
「んで、改めて海斗がバケモノだって気づいたってわけか……」
「……正直、大門寺を舐めてた。絶対記憶持ってようが、勉強でなら俺でも勝てると、勘違いしてた……
だが、さっきのを見て、頭とかじゃなくて、体全体が感じたんだ
『俺と大門寺とじゃ、戦っている次元が違いすぎる』って」
「………」
風太郎の発言に、総介は何ら驚きを見せなかった。
よくあることだ。
彼は見てきたのだ。『完全無欠の男』の隣で、海斗に嫉妬し、そこから敵対して挑みかかってきた人物が敗れ、挫折し………
彼を尊敬していくところを。
初めはその完璧な人間性から、アンチもいくらかはいた。しかし、海斗の底を知れば知るほど、敗北した悔しさが生まれ、圧倒的な差から恐怖が生まれ……やがてそれは全能な彼に対する『敬意』へと行き着いてしまう。それでもさらに先に行き過ぎた場合は『崇拝』へと昇華され、まるで海斗が神の如く祀りあげられることもあった。
海斗をよく思わなかった人物すらも、敵対すればやがて必ず敗北し、尊敬や好意を集める。
まさに『大門寺海斗』のに備わった最大のオプションは、能力いかんではなく、何もかも彼とって都合が良くなっていく天然の『主人公補正』といっても過言ではないだろう。
ともすれば、いずれ風太郎も………
「………上杉、あんまし海斗を見過ぎねぇようにしな」
「?」
「あれを倒すべき敵として意識しすぎねぇってこった。別にあいつが何かお前に仕掛けてくるわけじゃねぇだろ?お前が言うように、今回は勉強の点数競ってんだ。殴り合う訳じゃあるめぇし、それに勉強は、お前の専売特許だろ?いつものようにテメェだけのこと考えときゃいいじゃねぇか。
競うものにもよるが、直接対決モノで海斗に勝てる奴なんざ、あいつの親父さんかお袋さんかアイナの親父か剣道の先生か俺くれぇだ」
「………最後自慢かよ」
「ああ自慢だ。あの完璧イケメン野郎に勝ったってだけで、その後の人生ウハウハ気分で過ごせるね」
「くそ……」
ドヤ顔を見せてくる総介に、風太郎は歯噛みする。言われずとも、集中はしている。しかし、海斗を意識するなと言われても、ああまで存在感を放つ相手だ。タダでさえ目立つというのに、今回の模試の結果を競う相手の1人として、どうしても視線が彼に引き寄せられてしまう。
これも、海斗の皆を引き寄せる不思議な力の一端なのだろうか……
そんな風太郎を見た総介が、相談を聞きながら目を通していたジャンプを閉じ、再び喋り始める。
「………別に海斗に勝つことが目的じゃねぇだろ」
「……え?」
「
「…………それは」
「お前の横にいる奴ら、それだけを見てろ。そうすりゃ、自ずとお前自身がやらなきゃいけねぇことが見えてくるだろうよ」
それだけを言い残して、総介はジャンプを脇に挟んで、風太郎より屋上を後にした。
キーンコーンカーンコーン……
その直後に、昼休み終了の予鈴が鳴った。風太郎は、総介の言葉を聞いて、横を見てみる。
「……俺の、横にいるやつら………?」
当然、そこには誰もいなかった。
いや物理的な話じゃねぇよ!
………………………………
放課後、近所の図書館で勉強している一同。と言いたいところだが、五月は用事があるので、この場にはいない。
「んで、みんな上杉にプレゼント渡すの?」
「そうしたい……けど、今は模試前だから、このタイミングで渡すのは勉強の妨げになるかもしれない」
「そうだね〜……じゃあ、この模試をフータロー君が無事乗り越えたらみんなで渡そうよ」
「そうだね!上杉さんにもう一度家庭教師してもらいたいし!」
「それがいい」
「私も別にいいわよ〜」
というわけで、風太郎への誕生日プレゼントは全国模試終了後に渡すことに決定した。
………のだが、
「じゃあ当日は何もなしか……」
「う〜ん……
そうだ!」
と、このまま誕生日当日をスルーするのもいかがなものかと思っていた彼女たちだったが、四葉が何やら思いついた。
「こんなのはどうかな!」
そして、四葉は皆に説明を始めた………
………………………………
そして迎えた風太郎の誕生日当日の4月15日。
彼は自身の誕生日にも関わらず、図書館で一人夜になるまで勉強を続けていた。
しかし、ここまでほとんど寝ずに勉強していたせいか、首がカクンカクンと揺れてうとうとし始めている。
そこに……
「まだ帰ってなかったのですね。こんな時間まで自習だなんて……」
後ろから声をかけられた。
「ご苦労様です。差し入れです」
「五月……」
五月が、風太郎のいる机にコトっと『眠◯打破』的な栄養ドリンクを置く。
「………何言ってんだ。苦労なんてしてねぇ。俺を誰だと思ってる」
強がりを言いながらも渡されたドリンクをゴクゴクと飲んでいく風太郎。そんな彼に、五月が話し始めた。
「……先日、塾講師をされてる下田さんという方の元へ出向いて参りました」
「!」
下田とは、五月が母の月命日に墓参りに行った際に出会った、教師だった母の教え子であり、現在は塾講師をしている人物。
「バイト……とは言えるのかわかりませんが……下田さんのお手伝いをしながら更なる学力向上を目指します」
「……俺じゃあ力不足かよ」
「拗ねないでください。そうではありませんよ」
若干ふて腐れる風太郎。五月も、少しそれをおかしく思うが、彼女はそのまま話を続ける。
「模試の先、卒業の更に先の夢のため、教育の現場を見ておきたいのです」
「………お前らのやることは予測不能だ」
風太郎が頭をかきながら、五月の言葉に応えようとするが……
「新学年になってから、四葉、二乃……はいつも通りで、一花は変だな、三玖……もいつも通り………」
「?何かあったので……」
「……………」
「……………」
「………すぴーーーっ」
「!」
眠気覚ましのドリンクを飲んだにも関わらず、風太郎はそのまま机に突っ伏して夢の世界へと旅立ってしまった。
目開けたまま眠ってるし……
「……貴方にはいずれ話しますから……」
果たして五月のその言葉は、風太郎に聞こえていたかどうか、本人にしか解らないことなのであった。
………………………………
ブー…ブー…ブー………
「ん………いつの間に……」
しばらく時間が経過し、風太郎は携帯のバイブレーションに起こされる。携帯を見てみると、妹のらいはからメールが来ていた。
『お兄ちゃんいつ帰ってくるの?
お誕生日会の準備してまってるよ』
そのメールと、添付されたらいはと奥にケーキと父親が映っている写真を見て風太郎は……
「あ、そういや今日だったな」
今更自分の誕生日に気がついた。
「帰るか……ん?」
風太郎が、椅子から立ちあがろうとすると、目の前にあるものが置いてあった。
「五羽………鶴?」
風太郎の目の前の机には、五つの白い折り鶴が翼を広げてあった。そしてもう一つ気づいたことが……
「?なんだこれ……なんの紙使って……」
白い折り鶴の裏に何か文字が透けて見えた。一羽を手に取り、元の紙へと広げていくと……
「!」
折られた紙を元に戻した後、風太郎は残りの鶴も紙へと戻していく。
それは、五つ子全員の答案用紙だった。最初やったテストの際は、チェックマークが大量生産されていたが、今広げている彼女たちの答案用紙は、明らかに◯の数の方が多いものばかり。
と、風太郎はまたまたあることに気づいた。
それは、三玖の答案用紙の端、解答欄ではない空白の部分に、何かが書いてあった。そこには……
『ま、横でも見て気楽にやんな』
風太郎は、三玖の解答した文字を見るが、筆跡からして明らかに彼女の文字じゃない。
いや、誰が書いたか、ほとんど目星はついていた。
『お前の横にいる奴ら、それだけを見てろ。そうすりゃ、自ずとお前自身がやらなきゃいけねぇことが見えてくるだろうよ』
「………俺の、横にいる奴ら………」
自分の遥か目の前を海斗ではなく、横で共に同じ道を、同じ歩幅で歩んでゆく『彼女たち』を………
「一人じゃない、か……」
うっすらと隈ができた目のまま、口角を少し上げる風太郎。
あいつらも頑張ってる
負けられねぇ
少し重荷がとれたような気がした
………………………………
こうして迎えた、全国模試当日の朝……
「お兄ちゃん!早くしないと学校おくれるよ!」
「あと五分……五分だけ復習させてくれ……」
「もーしっかりして!今日は大事なテストでしょ!」
らいはに引っ張られる風太郎は、登校ギリギリまで勉強を続けていた。しかも寝ずに。
「はい!パン!食べて!」
無理矢理食パンをらいはに詰め込まれる。
(……ここが限界か)
さすがに遅刻するわけにはいかないので、風太郎はここで勉強を切り上げることにした。
急いで着替え、鞄とテーブルに置いてあった牛乳を手に取って、そのまま玄関へと向かう。
「行ってくる!」
「頑張れー!」
「気張ってこい!」
らいはと父の勇也も風太郎を見送るが……
「……お?らいは?
俺の牛乳どこいった?」
「え?………
お兄ちゃんあれ持って行っちゃったの?」
気づいた時にはもう遅く、風太郎は道すがらその牛乳を飲みながら登校していた。
この牛乳のせいで、風太郎が文字通り『気張る』ハメになってしまうのは、数時間後の話………
「おはようございます」
と、ようやく学校の目の前に着いたころに、後ろから聞き慣れた声がかけられる。
「いよいよ試験当日ですね」
「頑張りましょー!」
「ってか目の隈酷いわね」
「人のこと言えない」
「どう?あの二人に勝てそう?」
そこにはいつも通りの五つ子姉妹がいた。
いや、実際は若干違うと、何人かの目下にある隈が物語っていた。
三玖はいつもと変わらずで、隈レベル0
一花はあくびこそしているものの、隈レベル1
二乃は『海斗君に褒められたい海斗君に褒められたい』と念のように呟きながら夜遅くまで勉強してたので、隈レベル3
四葉は元気いっぱいだが、空元気っぽい、隈レベル4
五月は真面目にやり過ぎてアホ毛も萎びてる、隈レベル4
ちなみに風太郎の隈レベルは10……連日徹夜での勉強三昧の結果である?
「勿論ry」
「はははは!!!」
風太郎が一花の質問に答えようとすると、近くの階段の上から朝っぱらからうるさい笑い声が聞こえてきた。
「上杉君!逃げずにここに来たことをひとまず褒めておこう」
「出た………」
そこにいたのは、案の定武田だった。その姿を見て、三玖がかわいそうな人を見る目で呟き、他の姉妹も若干引く。
「だがしかし、君は後悔することになるだろう!あの時逃げておけばよかったと!」
「朝からうるさいわね……」
「上杉さんは負けません!」
「君たちには話していない!」
四葉が武田に向かって言うが、武田が食い気味で吠え返してくる。
(………こんな人でしたっけ?)
と、五月は武田の以前の教室とは違った雰囲気に違和感を覚えるが、別にそんなことはどうでもいいので流すことにした。
と、武田は階段を降りてきながら、なんか喋り始める。
「上杉君、ここが僕と君の最終決戦。どちらが大門寺さんの隣に立つに相応しいか、一騎討ちで雌雄を決しry」
「お前ら急げ、まだ開始まで時間がある、少しでも悪あがきをしておくんだ」
「………」
と、なんか言ってる武田なんぞ無視して、風太郎はそのまま階段を登ってか彼の横をスっと素通りする。姉妹たちもそれに着いて行く。
そして階段を登り切ったところで、風太郎は武田にこう言った。
「悪いな。俺は最初から大門寺の隣に立つつもりは無い。
あいつの上に立つつもりだ」
「!!」
総介にも言われた通り海斗を意識するなとは思ってみたものの、やはり無理だった。
男ならば、頂に登りたいと思うのが性だ。それが自分の得意分野なら、尚のこと……
(すまんな浅倉。やっぱこれだけは………勉強だけは、大門寺を越えないと意味ねぇんだわ)
男ならば、頂点に君臨する『あの男』を、一度だけでも引き摺り下ろしたいと思うものだろう。
「それに、一騎討ちじゃない
こっちは六人いるからな」
「ふふふ………それが君の弱さだ」
そう言う風太郎を笑う武田だが……
ブロロロロ〜!!
キキィィイイイイ!!!
ゴスッ!!
「ギニャァァアアアアアアア!!!!!」
と、突然後ろからエンジン音とブレーキ音が聞こえたと思ったら、激突音と同時に武田が突然大きな悲鳴を上げて数メートル吹き飛ばされて地面に倒れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛お尻がぁぁあ!!!またまたお尻がぁぁあ!!!」
うつ伏せになって尻を上げながら強打した肛門を両手で押さえて悶絶する武田。何が起こったのかというと………もう言わなくてもわかるよね。
「またかよ……んだよ俺のバイク。ケツに激突する呪いでもかけられてんのか?」
「………知ってた」
「知ってました」
「こ、これがみんなが言ってたやつ?」
「そうだよ!あの時も浅倉さんがビューンって来て、ドカってなったんだよ!」
「いい気味よ。あとは浅倉が転倒したら100点ね」
「ソースケ!!」
ヘルメットに黒パーカー姿、下は学生ズボンを履いた総介が、何故か片手にピザを持って愛車の『ベスパ』で武田にぶつかった。
「いたたたた……… 何!?何なの!?君ホント何なの!?」
武田は尻を高く上げたうつ伏せで尻を両手で抑えたまま、総介の方を振り向いて言う。
「いやぁ、ピザ食ってたらよそ見しちまってよ」
「よそ見で敷地内でバイクを乗り回す奴がいるか!」
「違うんだよ、ピザが俺の口に吸い込まれるようにさ」ちゅるるるる〜(伸びたチーズを吸う音)
「明らかに君が吸い込んでるだろ!?」
「違うんだよ、コレ、アレ…………とろけそーだよ〜」
「とろけてるのは君の脳髄だろ!!」
やはり意☆味☆不☆明な言い訳を言いながらピザをもっちゃもっちゃと食べるという、全く反省していない様子の総介。
すると、ゴリラ顔の先生が出てきて……
「コラー浅倉!!原付で登校して良いとはいったが、学校内を乗り回して良いとは言った覚えはないぞ!」
「違うんスよせんせ〜。コイツのケツがワームホールに通じてるせいで、そこにこれごと吸い込まれてきたんス」
「だからどんな言い訳だ!人の尻の穴を勝手に異次元への扉にするな!」
「何!?武田!!あれほどケツからワームホールを開くなと口を酸っぱくして言っただろうが!!」
「………先生、僕転校します」
目を白くさせて、もはやツッコむことすら諦めた武田。もしかしたら、お前に新八ポジションは荷が重かったのかもしれない………
………………………………
そんなこんなで………
「机の中を空にして着席してください」
いよいよ『その時間』がやってきた……
「問題用紙は合図があるまで裏にしてお待ちください」
各々の席に座り、その時を待つ………
チッ、チッ、チッ、チッ………
カチッ
「それではただ今より、全国統一模試を開始します」
そして静かに、全国模試が………
凡人による『頂に立つ男』への最初で最後の挑戦が幕を開けた
次回、第六章最終話
『鬼と神の子と凡人』
ボツ案というか、NGシーン。
「だがしかし、君は後悔することになるだろう!あの時逃げておけば良かったと!」
「朝からうるさいわね……ん?『だがしかし』?なんだかすごく聞き覚えのある言葉……いったい何なのかしら?」
二乃は中の人が主演を務めていた駄菓子系アニメのことをぼんやりと思い出していた。
………………………………
主人公じゃないのに主人公補正を持つ男、それが大門寺海斗です。しかも、転生特典とかじゃなくてナチュラルで。まぁ『あの親父』の息子だから、これぐらいなくちゃマズイですよね〜(苦笑)。
今回も、こんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
次回が2020年最後の投稿と、第六章最終話です!