世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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今回は修学旅行準備の回その②です。
そして、後書きに突発の企画も書きましたので、お暇でしたらご覧ください。


81.誕プレは力入れ過ぎるとドン引きされる

修学旅行の班決めも決まってから、各々はそれぞれの準備に勤しんでいた。

 

「………上杉君」

 

その中で、五月は自宅のアパートのリビングにて、とある袋を見ながら、風太郎の名前を呟いていた。すると……

 

「あれ?五月だけ!?」

 

「!?は、はい!」

 

後ろから突然声をかけられた。振り返ると、四葉だった。

 

「ん?今何かカバンに入れてなかった?」

 

「え、ええ!修学旅行の準備です」

 

袋の中身を見せまいと、五月は少し慌てて抱きかかえる。

 

「そっか。もうすぐだよね。修学旅行、本当に楽しみだね!」

 

「………そう、ですね。ですが……」

 

当日に向けてテンションの上がっている四葉とは裏腹に、五月はどこか気が乗らない様子だった。

というのもやはり………

 

「浅倉さんが言ってたこと、まだ気にしてる?」

 

「………はい」

 

五月の胸に残るのは、先日、総介によって明らかにされた、『霞斑』が京都に本部を置いていたこと。既に壊滅しているとはいえ、また再び彼らが襲ってくる可能性もある。それを考えると、少し億劫になってしまうが………

 

 

「大丈夫だよ!浅倉さん達凄く強いし、私たちは旅行を楽しもう!大門寺さんもそう言ってたし(・・・・・・・・・・・・・)、ね!」

 

「………そうでしたね。彼らが味方でいてくれるのは、心強いことですから」

 

春休み、霞斑がよこした捨て駒達が五つ子を襲撃した際、総介と海斗は、たった二人とは思えないほどの圧倒的な力の差を見せつけて、彼らを撃退した。

その時は、襲われそうになったことや、大左衛門、厳二郎などの化物達の存在のせいで、五月は極度のパニック状態になってしまっていたが、姉妹の励ましや、総介の謝罪もあり、何とか正気を取り戻した(その際めっちゃビンタしてやった)。

冷静に考えてみたら、あそこにいる化け物達は全員味方である。総介、海斗、アイナ、明人の4人も『懐刀』と呼ばれる、現地球上で最強の人類の一角としての力をもっている。その内の二人が、姉2人と相思相愛の関係なのだ。

何かしない限り、こちらに危害を加えることは無い。寧ろ、この上なく強力な盾として護ってくれるのだ。

 

 

 

五月はそれを理解するのに、だいぶ時間がかかってしまったが………

ようやく落ち着いた五月も、四葉の言う通り、今は旅行を楽しもうと、気持ちを新たにするのだった。

 

 

 

ところで、四葉の『大門寺さんもそう言ってたし』とは……

 

それは、修学旅行の班が決定した日の放課後に遡る……

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

放課後、五つ子と風太郎は、アパートに集っていた。そこに現れたのは、総介、海斗、アイナの3人。

 

狭いアパートに9人は、流石に……と、

 

 

「みんな、総介から話は聞いてると思うけど、今回の班決めは、僕の方から提案させてもらったんだ。それぞれに一緒の班になりたい人がいたというのに、勝手をしてしまったことをここで謝らせてほしい。本当に、申し訳ない」

 

そう言って頭を下げて謝る海斗に……

 

「そ、そんな!謝らないでよ。海斗君は悪く無いわ。大変な状況なのに、私たちのことを考えてくれてのことだもの。仕方ないわ……」

 

「「「「…………ジーーーっ」」」」

 

そう言って海斗を庇う二乃を、他の姉妹は全員ジト目で見つめる。ホンっと現金な女ですねぇ〜。

 

「基本は班行動となりますが、一部の時間なら多少は個人での自由な時間も作れます。それに、違う班との合同での行動が許されていないわけでもありません。護衛という形でお供はしますが………私たちも皆さんと一緒に旅行を楽しみたいと思っております」

 

「アイナ………」

 

親友であるアイナのフォローもあり、二乃はだいぶ胸の奥につっかえていたものが取れかかっているようだ。

 

「班行動だけが全てじゃないからね。ほんの少しだけなら、無理は通ると思うよ。

 

 

 

それに、たとえ万が一、『霞斑』の残党が君達に何かしでかそうと動くものなら、僕たちは全身全霊をもって対処する。この『大門寺海斗』の名に於いて、君達には、指一本触れさせやしないと約束するよ」

 

「海斗君………♡」

 

いつものように穏やかに、それでいて力強く、自信に満ちたように断言する海斗に、二乃は瞳の奥にハートを浮かべてキュンキュンしてしまう。

実際、総介、海斗、アイナは作中でもアホみたいな強さを持っている。特に総介は、怠惰そうな見てくれに反して、この3人の中では頭ひとつ跳び抜けた異形の強さを有しており、その様は敵味方から『鬼』と喩えられるほどに恐れられている。彼の眼下で姉妹や風太郎、特に三玖に手を出そうものなら、その辺にいる雑兵ならば骨の一欠片すら残らないほどに蹂躙し尽くすだろう。

 

 

が、二乃からすれば総介などどうでもよく、自分たちの固く誓ってくれた海斗に、胸の前で手を組みながら乙女の表情を向けていた。

 

 

「……そうね!海斗君とアイナがいてくれれば、百人力よ!こっちも何も心配することは無いわ!せっかくの修学旅行だもの。私たちを護ってくれるのも頼もしいけど、どうせなら2人も一緒に楽しみましょう!」

 

「フフッ、ありがとう、二乃ちゃん」

 

「勿論、二乃の言う通り、我々もそのつもりですよ」

 

 

 

 

 

 

「オイもう一人どこ行った?」

 

総介のことを完全に勘定から外している二乃。彼女の言葉を発端にして、他の姉妹達も声を上げる。

 

「そうだね。大門寺君と渡辺さんが側にいてくれれば、だいぶ安心かな」

 

「長女さ〜ん、一人忘れてませんか〜?」

 

「大門寺さん!アイナちゃん!ありがとうございます!」

 

「コラ〜四葉〜、お前のそのリボンは節穴か〜?」

 

「………確かに、大門寺君と渡辺さんが同行するのであれば、それほど心配することでは無いと思われますね」

 

「お〜い肉まん娘ぇ?肉まんやるからせめて俺の名前呼んでくれ〜?」

 

殆どに総介を省かれ、彼が目を向けたのは、風太郎だった。

 

 

 

 

「………大門寺、すまん、班分けでのわがままを聞いてもらって」

 

「構わないよ。僕たちと一緒の班というのも、少しは期待したけど、既に決めていた人達に悪いからね。上杉君だけなら、霞斑に単体で狙われる可能性は限りなくゼロに近い。春休みのあの日に、僕たち一緒に戦っているように装えたおかげで、君も『刀』の一員だと敵にフェイクをかけることが出来たという点で言えば、嬉しい誤算だったかな。

上杉君も上杉君で、新しいクラスメイト達との交流を大事にした方が今後のためになるからね」

 

「………ありがとう、大門寺。それと……わ、渡辺さん」

 

「どう致しまして、上杉さん」

 

 

そんなやりとりを見て………

 

 

「…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖ぅぅぅぅううううう!!!!!!(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)ブワァッ」

 

 

「………よしよし」( T_T)\(・ω・`)

 

誰からも相手にされなかった総介は、たまらず滝のような涙を流して三玖の大きなお胸に飛び込んだ。三玖は総介の顔を他の姉妹と同じく立派に育った胸元で『ポヨン』と受け止めて、おいおい泣き喚く総介の頭を大っきくて柔らかいモノで挟みながら優しくなでなでして慰める。

ドSは打たれ弱かった………

 

 

 

まぁ、これも日頃の行いだよね………

 

 

 

 

それでも総介は爆発しろ!

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

時は現在まで戻り、こちらは風太郎と、その妹のらいは。

二人は風太郎の修学旅行の備品を買いにショッピングセンターへとやってきていた。

 

「下着と靴下、歯ブラシは持っていくんだっけ?」

 

「おいらいは、わざわざ新調しなくていいだろ」

 

「えー、だってお兄ちゃんのパンツピロピロだもん、クラスの人に笑われちゃうよ!」

 

………くすくす

 

「今笑われてますけど」

 

買い物中に明るく大きな声でカミングアウトするらいは。当然周りにも聞こえるので、兄の下着事情が丸出しである。

 

「家庭教師に復帰できたんだから、少しくらい自分のために使ってもバチは当たらないよ。

 

あ、でも五月さんたちへの誕生日プレゼントをケチったら嫌われちゃうよ?」

 

「へぇ、あいつら誕生日なのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっ

 

 

 

 

 

 

もう過ぎてるけど」

 

「…………」

 

 

らいはにそう言われて暫し沈黙の風太郎。自分は誕生日を祝ってもらっておきながら、五つ子の誕生日を華麗にスルーするという偉業を達成………

 

少し考えを巡らせて………

 

「………ま……やらなくても……つーかあいつらも遅れてたし……いや、そもそもあっちから言わないということは」

 

「うわ〜〜………」

 

誕プレを渡さない理由探しに躍起になる風太郎にドン引きするらいは。

 

「頂いたらお返し!小学生でも知ってる常識だよ!」

 

と、至極真っ当な正論を突きつける出来た妹である。

 

「ちなみに『あさくらさん』はもうみんなにプレゼント贈ったみたいだよ」

 

「ふ〜ん………ん、待て?らいは、何で浅倉が誕生日プレゼント贈ったこと知ってるんだ?」

 

「四葉さんが『なんと!浅倉さんからみんなへプレゼントもらっちゃいました(≧∀≦)』ってメールが来たもん」

 

「四葉め……」

 

クソ、これではプレゼントを渡さない俺が最低みたいじゃないか……というケチの発想丸出しの風太郎。

 

ここで、総介が姉妹に渡した誕生日プレゼントはというと……

 

一花……映画観賞チケット

二乃……商品券(福引きでたまたま当てた)

三玖……大門寺に縁のある刀匠に打たせた脇差の模造刀

四葉……遊園地の一日フリーパス

五月……『特盛り万博』なるイベントへの招待券

 

 

 

 

………些か三玖への贔屓が過ぎる気もするが、まぁそこは総介だし、仕方あるまい。……しかしまぁ5人中4人がチケット……ってか二乃だけ福引きで当てた商品券て……まぁ二乃も二乃で、海斗からウン万するネックレスもらったみたいよ。んま〜幸せだこと………

 

ちなみに、総介は風太郎の誕生日にも、革の財布をプレゼントとして贈っていた。

 

 

 

『それなりの値段するが、売ったりとかすんなよ』

 

『しねぇよ!………いや、売ったりなんか……しねぇよ?』ソワソワ……

 

『おいコラテメェ』

 

 

………とにかく!総介が姉妹に誕生日プレゼントを先に贈ってしまった以上、風太郎も渡さないわけにはいかなくなったので……

 

タッタッタッ………

 

 

 

 

「やっぱあげたほうがいいかな?」

 

「ひゃあっ!」

 

ちょうど今気づいたので、そこにいる直接本人に聞いてみることにした。突然話しかけられた五月は驚きのあまり変な声を上げてしまう。

 

「……あ、誰かと思えば……」

 

「上杉さん!らいはちゃんもこんにちはー」

 

そこには四葉もいた。偶然会ったようにも見えるが、実はらいはが前日に五月とメールで一緒に買い物をする約束をしていたようだ。

 

 

 

………………………………

 

 

そんなこんなあって合流した四人だが………

 

「五月さん!これはいくらなんでもアダルトすぎるよ!」

 

「こここ高校生ですからね!これくらい普通です!」

 

 

 

五月はらいはを連れてランジェリーショップに行ってしまい、風太郎は四葉と近くのベンチでお留守番することとなった。

 

 

どんな際どいやつをらいはに見せていたのだろう………

 

 

 

 

やがて、らいはだけが戻ってきた。どうやら五月は店内の奥で採寸と試着をしているようだ。

 

「五つ子なんだから他の奴と同じサイズでいいだろ」

 

「あ!五つ子ハラスメントですよ!イツハラ!」

 

ピピーーっと笛を吹いて指摘する四葉。しかし……

 

「………でも採寸は確かに不自然です……はっ!

 

 

もしや五月……一人だけ抜け駆けしたんじゃ……」

 

何を抜け駆けしたかは知らないが、胸ね手を当てて戦慄する四葉。いや、お前さんも充分に備わってると思うぞ?何がとは言わないが……

 

「五つ子のみなさんも大変なんだね」

 

「そうなんですよ。最近なんて特に……」

 

「?」

 

「い、いえっ」

 

何かを言いかけたところでやめた四葉。

 

「とにかく、林間学校は散々な結果に終わってしまったので……今度こそ!

 

 

後悔のない修学旅行にしましょうね!」

 

元気いっぱいに言う四葉に、風太郎は、

 

 

「………どうでもいいがな。体調管理だけは気をつけるさ」

 

「もー、本当は楽しみにしてるくせに!」

 

そっぽを向く兄を見て、らいはは肘で小突く。

 

「家で何度もしおりを確認してるんだから」

 

「らいは!!」

 

と、林間学校のときと同じく、しわくちゃになるまで読み込んだ付箋まみれの修学旅行のしおりをにやけながら確認していた兄の本音をカミングアウトする、本当に出来た妹である。

 

「それに

 

 

 

写真の子にも会えるかもしれないしね」

 

「………」

 

 

「………それはないだろ」

 

「あれ?京都じゃなかったっけ?お父さんそう言ってたけど」

 

「だとしてもあっちも旅行者だから……」

 

 

「………写真の子ってなんですか?」

 

と、四葉が二人に尋ねるが………

 

「…………」

 

「ほら、見せてあげなよー」

 

何も言おうとしない風太郎に、らいはは兄の周りをくるくる周回しながら促す。

 

「……なんでもねーよ、写真ももうない」

 

と、そっけなく返しはしたが……

 

「むっ………なんだか怪しいですね!何もないなら言えるはずですよ!

 

 

なぜ話さないのか私にはわかります!それは未練があるからです!

 

 

さぁ話してすっきりしちゃいましょう!」

 

「ッッ…………」

 

(珍しくお兄ちゃんが押されてる……こういう話になると途端に弱いなぁ)

 

四葉の気迫に押されてしまう風太郎。それに彼女の言ってることも間違いではないので、仕方なく話すことにした。

 

 

 

「………京都で偶然会った女の子だ。

 

 

 

名前は『零奈』」

 

 

 

 

 

 

「えっ………

 

零奈って……」

 

 

「…………」

 

 

そこまで言って、暫しの沈黙の後に風太郎は………

 

 

 

「…………おしまい」

 

「おしまい〜!?」

 

名前だけ言って終わらせた。

 

「か、かなり気になるんですが……もう少し詳細を教えてくださいよー!」

 

と懇願する四葉だが、風太郎はそっぽを向いて取り合おうとしない。その代わりに……

 

 

 

 

「つまり、お兄ちゃんの初恋の人だよね」

 

「えっ」

 

出来た妹であるらいはが代わりに発表した。

 

「はっ、初恋!!」

 

「おい、誰もそんなこと……」

 

風太郎がやんわり否定しようとすると……

 

 

ぐ〜〜っ

 

「……えへへ、食べ物の話してたらお腹すいちゃった」

 

「一言もしてないけど」

 

「じゃ、じゃあ私がなんでも買ってあげちゃいますよ!」

 

四葉はらいはの腹の虫をおとなしくさせるために、今度は彼女とらいはがショッピングセンター内を回ることにした。

 

「上杉さんは五月を待ってる係です!」

 

「……はぁ……」

 

台風のように去っていった四葉と、それについていったらいはを見送り、ため息をついてから近くのベンチへと再び腰掛ける。

 

「疲れた………」

 

 

そう言ってドスンとベンチの左側に座った。

 

 

 

 

そして、チラっと右側に目をやり………

 

 

 

 

 

「………二回目は驚かねぇぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零奈」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんだ、残念」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

風太郎が『零奈』と再会する少し前………

 

 

 

「………何で俺が駆り出されにゃならねーんだ、ったく……」

 

「二乃も三玖さんもアルバイト中なんです。いつまでも文句を垂れないでください」

 

総介はアイナと一緒に風太郎達と同じく修学旅行の備品の買い出しに出かけていた。

 

その日の朝、アイナにいきなり呼び出しをくらい、そのまま荷物持ちとして同行させられるハメとなった。

今総介の両手には、パンパンに備品が詰まったビニール袋がぶら下がっている。すると………

 

 

「!………総介さん」

 

「んだよ?」

 

「あちらに居られるのは、上杉さんではありませんか?」

 

「ん?………ほんとだ。野郎も買い出しか?」

 

遠目だが、アイナの後に総介も風太郎を視界に捉えた。

 

「四葉さんと妹さんも御一緒のようですが………あれ、四葉さんが妹さんを連れてどこかに行かれました」

 

「どうせ上杉は待ち役なんだろ?二人で女しか入れねぇような店にでも行ったんじゃねーの?」

 

「そうかもしれませんね…………?あのお方は?」

 

「?………誰かと話してんな」

 

風太郎を観察していると、ベンチに座って誰かと話し始めた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

「………まさか、『女』か?」

 

総介の言う女とは、彼女の意である。 容姿を見る限り、女性のようだ。しかし、帽子のせいで顔はよく確認出来ない。

 

「実は女と待ち合わせていて、それを四葉に邪魔されたパティーンとか?」

 

「ですが妹さんもおられました。デートならば同行させるのは不自然かと……」

 

「………とりあえず、近づいて話聴いてみるか」

 

「えっ?……ちょ、総介さん?………もう……」

 

総介はそのまま、風太郎の方へと会話が聞こえる程度まで近づいて行き、気配を消した。

もちろん、荷物を全部彼が持っているので、アイナも総介について行き、同じく気配を消して風太郎と謎の女性に近づいていった。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

総介とアイナが気配を消してすぐそばにいるとも知らずに、風太郎は『零奈』と話をする。

 

「もう姿を見せないんじゃなかったのか?………なぜまた現れた」

 

そう聞かれた『零奈』は

 

「………君に会いたくて

 

 

 

 

 

って言ったらどうする?」

 

「………」

 

煙に巻くような言い方をして濁す『零奈』。しかし、風太郎には分かっていた。

 

 

 

 

 

 

「こんなことしなくても、いつも会ってるだろ?」

 

「え………えっ?」

 

 

 

突然のことに『零奈』は思わず声を上げてしまう。そして………

 

「『零奈』………

 

 

 

 

 

なぜ母親の名前を名乗った?」

 

風太郎は温泉旅行の最終日、五つ子の祖父の口から『零奈』という名前を聞いた。

そしてその名前の人は、もうこの世にはいないことも知った。

 

それだけでは情報不足なので、先程四葉に『零奈』と言う名前を出してみたら、案の定その反応をした。

 

 

間違いない

 

 

 

 

俺があの時会った『零奈』は

 

 

 

今ここにいる『零奈』は

 

 

 

 

 

 

「はは……そこまでバレちゃってるんだ……」

 

 

観念したのか、『零奈』はベンチから立ち上がり、風太郎と向き合って本当のことを話し始めた。

 

 

 

「あの時はとっさにね………

 

 

 

 

でも、今日伝えたいことを君から言ってくれて良かった

 

 

 

 

 

信じてもらえなかったらどうしようかと思ってたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の考えてる通り

 

 

 

 

 

 

 

私は五つ子の一人

 

 

 

 

 

 

 

 

君に私がわかるかな?」

 

 

「わからん!早く教えろ」

 

「諦め早っ!」

 

謎解きミステリー風な展開になったにも関わらず、すんなりと投了する原作主人公。

 

 

 

一方、それを聴いていたオリ主はというと………

 

 

「五つ子の一人、ですか………どう思われますか?」

 

「三玖じゃねぇよ」

 

「え?」

 

アイナが小声で振ってきた話を、死んだ魚の目であっけらかんと答える総介。

 

「アイツが五つ子の一人ってんなら、ありゃ少なくとも三玖じゃねぇよ。見りゃわかる」

 

「………それほどまでに」

 

「つっても、あの女が誰かは知らねぇし、知りてぇとも思わねー。三玖じゃないってんならもうどうでもいい」

 

「………はぁ、本当に貴方は……」

 

小声で会話をしながら、アイナは総介のブレない姿勢に、感心とも呆れともとれるため息をついてしまった。

オリ主に関しては、三玖以外に全く関心を示さないという、謎解きもへったくれもない奴だった。

 

 

 

と、アングルは風太郎と『零奈』に戻る。

 

 

「そんな直球に聞くもんじゃなくない?ほら、成績優秀なんだから考えてみてよ」

 

「誰が誰とか……誰のフリした誰かとか……もうたくさんだ

 

 

 

楽しい修学旅行にケチつけんな

 

 

しっしっ」

 

と、風太郎は『零奈』を手で追い払う仕草をして彼女を突き放す。

 

「き、気にならないの?

 

 

 

……私のこと、どうでも良くなったの?」

 

 

 

 

「お前には……」

 

風太郎は話しだそうとすると、『零奈』は話も聞かずにそのままどこかへと去っていった。

 

 

「………」

 

残された風太郎は、小さくなって人混みに紛れる『零奈』の後ろ姿を見届けると、腕を組んでしばらく黙り込んだ。

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「………よろしかったのですか?」

 

「あ?何が?」

 

一方、総介とアイナは、既にその場を離れ、買い出しを続行していた。

 

「あの『零奈』と仰る方、後を追えば少しは情報を知れたかも知れませんよ?」

 

「さっきも言っただろうが。あの女が三玖じゃねぇってんなら、俺にとっちゃそれまでだ。そっから何か探るってのも野暮だし、それを知ったところで俺に何が返ってくるってんだよ」

 

「確かにそうですが………」

 

総介からすれば、『零奈』のことは三玖ではないと確信した時点でそれまでの話であったが、アイナにとっては万が一『零奈』の正体が二乃だったらと考えると、中々複雑な心境だった。

 

 

「それよりもだアイナ。今俺達がしなきゃいけねぇことは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろをずーっとついてくる『ゴリラ局長』にどう対処すれば良いのかってことだ」

 

 

 

「………そうですねぇ」ゴゴゴゴゴ

 

 

(げっ!バレてる!?何故だ!?)

 

と、後ろで隠れるアイナの父の剛蔵だが、いかんせん200cmの巨体が帽子とグラサンかけて物陰に隠れながら移動してたら、それはそれで目立つので仕方あるまい。

 

 

 

「………お父様」

 

「ウギョッ!アイナちゃん!?いつの間に!?」

 

と、どうしようかと考えている剛蔵の目の前には既にアイナが鬼のような形相で佇んでいた。

 

「あれほどついてくるなと申したはずですが?」

 

「だ、だってアイナちゃん!いくら総介が相手とはいえ、男二人でデートというのはお父さん心配になっちゃうもんで……」

 

「デートではありません。総介さんはあくまで荷物持ち、所詮は動けるバッグでしかありません」

 

「おい何でさりげなく俺のメンタルも抉りにきてんだ」

 

「で、ではお父さんならいくらでも荷物持ちをするぞ!総介なんかより容量は膨大だ!よし!それでいこry」

 

「貴方が同行されると、如何わしい下着や、メイド服やナースや婦警等のコスプレを押し付けられてしまうので却下です」

 

「そ、そんな!お父さんは絶対似合うと思ってアイナちゃんに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「問答無用です。死んでください」

 

 

「あっいや、ちょっ、アイナちゃん?人体はそんな方向には曲がらな……ギャァァァアアアア!!!!」

 

 

剛蔵の言い訳も虚しく、彼は愛娘からの制裁を受けてしまうのだった。

 

 

「………南無阿弥陀、南無阿弥陀………」

 

上司のあられもない姿を見ることとなった総介は、せめて成仏できるようにと白目になって涙を流しながら、お経を唱えて合掌するのだった。

 

 

 

 

 

「いや、俺死んでないから!」

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「あらっ、ここで試着していたお客様は……」

 

「カバンしかないけど……」

 

そう店員が疑問に思う中……

 

 

「すみません」

 

 

試着室を借りていた女性が戻ってきた。

 

 

 

 

彼女はそのまま試着室へと入り直して、大きな白い帽子と、長いストレートのウィッグを頭から取り外す………

 

 

 

 

 

取り外すと、ピンっと特徴的なアホ毛が頭頂部から立ち上ったその女性………

 

 

 

 

 

五月の頬は、赤く染まっていた。

 

 

(思った通りにいかない……

 

 

 

しかし、楔は打ちました)

 

 

 

 

彼女が『零奈』として再び風太郎の前に現れた理由、それは………

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

そして日にちは経ち、いよいよ修学旅行当日の朝を迎えた。

 

 

新幹線の止まる駅に集合する一同。

 

それぞれがリュックと。大きなカバンやキャリーバッグを手に持ち、いかにも修学旅行生の出立ちをしながら新幹線が来るのをホームで待つ。

 

「いよいよ始まるね」

 

「おーい五月。新幹線乗るよー」

 

と、一人小走りで五つ子のいる場所に急ぐ五月。

 

「とりあえずは、海斗君とアイナの班に合流したいわね」

 

「完全に浅倉君が蚊帳の外……」

 

「…………」

 

二乃の思惑がダダ漏れする中、三玖は何故かいつも以上に眠たそうな顔をして、うとうとしている。徹夜で眠れなかったのだろうか……

 

 

と、そんな姉妹達を素通りして、五月がすぐそばにいた風太郎へと話しかける。

 

「上杉君………

 

 

 

 

 

清水寺行きましょうよ。私たちの班と一緒に!」

 

「は?」

 

何故か開口一番で、五月は修学旅行での同行を風太郎に提案する。

 

「いや、今回は班ごとに行動だろ?」

 

「まぁそう言わずに」

 

いつもよりグイグイと風太郎に行く五月に、姉妹は驚いている。

 

「えっ」

 

「なんで五月ちゃんが……」

 

その中でも特に、一花が一番びっくりしていたのだが、彼女はそちらを向くことなく、風太郎を誘おうとする……

 

 

 

(京都での思い出は大切なはずじゃなかったのですか?

 

 

 

 

 

あなたなら気づいてくれると信じてます!)

 

 

そんな唯一の妹である彼女を見た四葉は………

 

 

 

 

 

(…………五月までどうしちゃったのーーっ!?)

 

 

 

総介と三玖、二乃と海斗、そして風太郎と一花は……まだであるが、そういったカップル(一組だけ違う)どもの雰囲気に当てられ過ぎたせいで、五月もついに『目覚めてしまった』のでは!?と勘繰ってしまう四葉だった。

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、

 

 

 

 

 

 

「やだやだやだぁぁぁあ!!!!俺も修学旅行いくうううう!!!!アイナちゃんと一緒に京都回るううううう!!!!!」

 

「大の大人が何駄々こねてんだ!!!親のアンタが行けるわけねぇだろうが!………ったくよぉ。ほら、今日も仕事あんだから、ちゃっちゃと済ますぞ。アイナには土産だけ期待してろ」

 

アイナが修学旅行に出かけたことで、子供のように地面にねころがってバタバタと暴れる剛蔵。それを見て、刀次は煙をふかしながらはぁ、とため息をついて呆れてしまう。

 

「やだぁぁあああ!!!じゃあ『刀』の局長なんて辞める!!刀次に局長の席譲るから行かせてくれぇええ!!!」

 

「んなんで局長の椅子もらいたかねぇわ!!!」

 

「そうですぜ剛蔵さん。京都に行きてぇ気持ちも分かります。俺も清水寺で片桐さん突き落としたくてウズウズしてるところですが、仕方ありやせん。今は我慢しましょう」

 

「お前は物騒なこと口にするのを我慢しろ!!」

 

「しかし、剛蔵さんが局長を俺に、刀次さんを俺の『犬』にしてくれるってんなら、俺もやぶさかではありませんぜ?」

 

「何勝手に俺の役職異動してんだ!!!ってか『犬』ってなんだ!どんな役職だ!」

 

「何!明人、それは本当か!?」

 

「安心してくださせェ。剛蔵さんが京都に行った暁には、俺が見事に片桐のヤローを使いこなして、世界一のお茶汲みにしてみせまさァ」

 

「………分かった!明人、俺がいない間、『刀』を頼んだぞ!刀次、お前も美味ぇ茶を淹れれるように頑張れよ!!」

 

「おう、任せときな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って色々ちょっと待てぇぇええぇえ!!!!」

 

 

 

 

結局、『刀』の良心であり苦労人でもある刀次に止められて、剛蔵は泣く泣く京都への突撃を諦めるのであった。

 

 

 

 

 

 

そして総介達も、1年ぶりの京都へと向かう………

 

 

 

新幹線に乗り、五つ子と風太郎、総介、海斗、アイナの修学旅行が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 




〜妄想企画〜
以前ご感想で『懐刀の強さの序列』についての質問がありました。そこで、大門寺家対外特別防衛局『刀』の中でも抜きん出た実力者達である『懐刀』を色々と数値化してみようと考えてみたんですが、これが中々面白くてハマっちゃいました。
というわけで、今回は少し前のジャンプの人気漫画『トリコ』の捕獲レベルで測って数値化してみました。もちろん、トリコの世界の猛獣はいません。あくまで普通のこの世界のレベルの尺度として測っていきますので、さすがにトリコの世界ほどは強くないです。それでは、現地球上最強生物の大左衛門も含めてどうぞ。
(捕獲レベル1……『トリコ』では猟銃を所持したプロのハンター10人でようやく捕獲できる数値)捕獲レベル≠戦闘力
※トリコを存じ上げない方、本当に申し訳ありません。飛ばしていいです。

『覇皇』大門寺大左衛門陸號……捕獲レベル30000
『金剛』渡辺剛蔵……捕獲レベル10000
『銀狼』片桐刀次……捕獲レベル6350
『暴獣』長谷川厳二郎……捕獲レベル6600
『鬼童』浅倉総介……捕獲レベル6590
『神童』大門寺海斗……捕獲レベル6550
『朧隠』片桐剣一……捕獲レベル6500
『狂聖』アルフレッド・ショーン・ケラード……捕獲レベル6300
『艶魔』今野綾女……捕獲レベル6240
『夜叉』御影明人……捕獲レベル6200
『戦姫』渡辺アイナ……捕獲レベル6000

大左衛門が『NEO』を吸収したアカシア、剛蔵が『GOD』、『懐刀』がそれぞれ『八王』の捕獲レベルですね。まぁあくまで普通の地球レベルの尺度で喩えたらばの話なんで。
一番低いアイナでも6000。トリコ世界では猿王『バンビーナ』クラスです。
わぁいインフレ!あ◯りインフレだぁい好き!

とまぁ妄想もここまでにして。こういうキャラクターの数値化って、作者は好きなんですけど、みなさんはどうですかね?

今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
次回から修学旅行スタートです!

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