そしてこの話が、第七章の最終話となります。
奇しくもこの話の投稿日が3月9日、ミクの日………だからなんだという話。
とあるパーティー会場にて……
「中野君が五人もの子供を引き取ったと聞いた時は耳を疑ったが、まさかうちの学校を選んでくれるとはね」
「手厚いご配慮に感謝します」
「ほう、それは初耳ですな。中野医院長、ぜひ進学の際は、うちの高校でご一考くださいませ」
「残念だったね、武田君、うちは中高一貫でね。無論、その分だけ厳しくはしているが、君の選んだ子供たちだ。良い成績を修めてくれるに違いなかろう」
「…………」
恩師であり想い人だった『零奈』の死から間もなく、彼女の娘である五つ子を全員引き取り、彼女達の義父となった『マルオ』。彼と話すのは、小柄な壮年の男性と、『武田』というZガンダムのハヤト・コバヤシに似たふくよかな男性が、マルオと談笑していた。二人とも、学校の理事長であり、特に小柄な方は『黒薔薇女子』という名門の理事長をしている男だ。
五つ子の姉妹は、その中等部へと進学することが決まっていた。
………………………………
日にちと場所は変わり………
「えっ、一花!?」
「その髪どうしたの!?」
「ああこれ?部活の時邪魔だから切ったんだ」
五つ子の長女『一花』が、長かった髪を首元までバッサリ散髪したことに、他の四人は驚愕していた。
「わー、似合ってますね!」
「なんか新鮮」
「ありがとー」
「私も切ろっかな………二乃は?」
「ま、まぁ、前髪くらいなら………」
三玖が聞いてきたことに、バツが悪そうに答える二乃。すると……
「ほらほら、お喋りはそれくらいにして。
もうすぐ追試でしょ。勉強するよ!」
頭にリボンをつけた『四葉』が、皆に勉強を催促する。
「四葉だってそうでしょ?」
「追試といえば……あの噂知ってる?」
と、一花が自分達の学校『黒薔薇女子』のことについて説明を始める。
「この学校、赤点には特に厳しいらしくて、追々試までは不合格だったら、一発で退学になるんだって」
「退学って……」
「あ、あくまで噂ですよね……?」
『退学』というワードを聞き、一気に戦慄し出す姉妹達。
「もうだめ……私、今回の英語のせいで退学かも……」
自身の英語の成績のことを嘆く三玖に、四葉は……
「三玖、私が教えてあげる!このノートにわかりやすく書いてあるから、お手本にしてみて!」
四葉は、自分が書いたノートを三玖へと見せる。その様子を見た五月、一花、二乃は………
「お手本って……」
「監督に言われたのがよっぽど嬉しかったんだねー」
「確かにあれくらいから………四葉、変わったよね」
あの時、サッカーチームの監督に言われた一言。
『お前たちも四葉をお手本にしてしっかり練習するんだぞ!』
今の四葉は、まさにあの時の監督の『お手本』という言葉を実践するような子になろうと奮闘していたのだった。
………………………………
「お父さん、見てこれ!この前のテスト、五人の中で一番だったんだ!」
「よくやった」
「陸上部に誘われたんだけど断ったんだ。でも勉強に集中したいから仕方ないよね」
「これからも励みたまえ」
「…………」
四葉は嬉々として『お父さん』にテスト結果を見せに行っても、『お父さん』は彼女に素っ気ない返答をするばかりだった。
………………………………
「うーん、なんか冷たいなー。うちにもほとんどいないし………
お母さんだったらもっと褒めてくれるのに………
(褒めてくれる………よね?)」
と、家まで走って帰宅する中、四葉はあることを思い出す。
(風太郎君も、今頃勉強してるのかなぁ………)
………………………………
それからある時、四葉が勉強により一層集中するために、ゲーム機器を段ボールにしまっていた時のこと………
「四葉、これもうやらないの?」
「うん!ゲームはもう卒業!勉強の邪魔になっちゃうからね」
ゲームを箱にしまった四葉に、三玖が声をかけた。彼女はそれを手に取って………
「じゃあ、これ借りちゃおっかな………」
「もー、三玖はまだまだお子様だなー」
この時までは、ゲームをしようとする三玖を小馬鹿にしていた。しかし………
………………………………
3学期、中間テスト、社会、解答用紙、
なかのよつば 31点
(よしよし、順調に上がってきてる。元が悪いせいでまだまだだけど………これからもっと頑張ろう)
ゲームをやめたことにより、少しずつだが、成績が上がってきていることに手応えを感じた四葉。そんな彼女に………
「四葉!」
三玖が近づいてきた。
「歴史のテスト、初めてこんな点数取っちゃった。四葉に借りたゲームのおかげだよ」
「」
三玖の解答用紙に記されていた『42点』という点数を見て、四葉は一瞬言葉を失ってしまう。
「………そ、そっか。良かったね」
何とか取り乱さずに、返すことは出来たが、このことが四葉を焦らせてしまうことになってしまった。
いけない………思わずお父さんみたいな反応しちゃったな
三玖が良い点を取ったなら、私はもっと良い点を取ればいいんだ!
もっと頑張らないと!
たくさん勉強して………
うんと賢くなって
とびきりお給料のもらえる会社にに入って………
………………………………
数学、解答用紙
なかのよつば 29点
「…………」
私はなんのために勉強してるんだろう………
お母さんはもういない
楽をさせてあげたかったお母さんはもう………
『特別じゃなくていい
大切なのは五人でいることですから』
お母さん
五人でいることがなんで大切なの?
私、わかんないよ………
『四葉』の中に生まれたヒビが、徐々に大きくなり始めていた。
それはもう、取り返しがつかないほどに………
………………………………
それから時が流れて、五つ子達はそのまま『黒薔薇女子』の高校に内部進学した。
「私たち……本当に高校生になったのでしょうか……?」
「周りの顔ぶれが変わらないから実感ないね」
「その変わり………私たちは大きく変わったけど」
「え、そう?」
「そうよ」
全校集会の場………
そこには、ヘッドホンを首に巻いて前髪で顔の半分を隠している三玖、
星なら髪飾りを二つつけて、頭頂部にアホ毛のある五月
ショートヘアの一花
黒い二つのリボンをつけた姫カットの二乃がいた。
しかし、そこには何故か四葉がいない。彼女はというと……
『陸上部の皆さん、壇上にお上がりください』
「あ、来たよ」
『インターハイ進出、おめでとうございます!』
スポットライトの当たるステージの上に、長い髪の頭にリボンをした四葉はいた。
………………………………
「陸上部ってそんなに強かったっけ?」
「全ては中野さん加入のおかげですわ」
「へー!今度はぜひソフト部の助っ人もやってくださいよ」
「あはは、いいですよ」
「四葉、人気凄いですね」
「何個部活に入るつもりよ」
「申し出を全部受けてるらしいよ」
「………」
四葉は、様々な運動部を掛け持ちし、それぞれの部活で成果をあげていた。そしてその噂を聞いた他の部からも、オファーが来て、それらを全て二つ返事で受けていた。
しかし、それを見ていた三玖は、彼女に声をかける。
「四葉……」
「?」
「最近ずっと練習ばかりだけど平気?
勉強………できてる?」
「…………」
三玖は本心から、四葉を心配していた。部活に時間を使い過ぎて、勉強が疎かになってしまっている彼女に………
このままでは四葉は………
「良かったら、私が教えてあげようか?」
「私はもう皆と違う
一緒にしないで」
三玖の出した助け舟を、四葉は拒絶した。
自分は皆より優れている。運動では、自分が一番だ。自分は特別な存在なのだ。
姉妹の助けなど必要ない。と………
取り合おうとしない四葉の背中を、三玖は哀しそうな表情で見つめることしか出来なかった…………
………………………………
それから四葉は、一層部活に精進して、ありとあらゆる運動部で実績を積み上げた。バスケットボール部では全国大会に進出させ、ソフトボール部では優勝し……その度に、表彰され、壇上に上ることとなった。
自分を見上げる生徒たちの中に、他の姉妹がいるのを見て、彼女達を見下ろしながら、言葉な出来ないくらいの優越感に浸る四葉。
もはや今の彼女には、当初に夢描いていた目的など、はるか彼方へと消え失せてしまっていた。
お母さん、見てる………?
私、皆にほめられてる
いろんな人に必要とされてる
姉妹の誰でもなく、私だからなんだよ
私が姉妹で一番なんだ!
特別なんだ!
………………………………
「追々試不合格
中野四葉さん、あなたを落第とします」
「………………
………………え?」
職員室に呼び出されて先生に告げられたことに、頭が真っ白になってしまう。
「そんな……嘘ですよね?」
「嘘ではありません」
「だって、あんなに部活で結果を出したのに!この前だってバスケ部で全国で……」
「関係ありません。
再三警告をしたはずなのに、あなたは多重入部をやめようとしませんでした。
荷物をまとめなさい」
先生の言葉が、いくつもの刃となって、自身を突き刺し続けた。
………………………………
「中野さん……本当に残念ですわ」
部活の仲間達からも、失望した目線を向けられた。
「まさかあなた、部活動だけで満足なされていたの?」
『四葉』の今まで積み上げたきた全てが、ガラガラと音を立てて崩壊していった………
………………………………
「四葉君、この結果を受け、内々で話をつけさせていただいた」
理事長室に呼ばれると、そこには小柄な理事長と、『お父さん』がいた。
「特例として、転校という形で済ませることができそうだ」
「転校………」
「私の知り合いが理事を務める男女共学の学校だ。夏休み明けから、君はそこに通うこととなる」
「私……だけ……」
「引っ越しの必要がないのが幸いだ。家では姉妹で一緒にいられる」
お父さんの言葉は、途中から聞こえてこなくなった。四葉の目の前が、真っ暗になっていく。
あれ………?
私は特別なはずなのに………
私がいる意味を作ろうとして、必死にやってきたけど
私、なんで一人なの………?
暗く、無人のトラックを延々と走り続けた四葉。自分が一番だと思い続けたまま、いつの間にか周りには誰もおらず、自分一人だけが意味もなく走り続けていた。
一人になったら私はどうしたらいいの?
どうしたら特別になれる?
どこに進んでいいのかわからないよ………
あの日出会った男の子も、最愛の母も、部活動の仲間も………
全てが闇に包まれ、消えていく………
四葉の全てが、真っ暗な闇に飲み込まれようとした
その時
ガチャっ
「待って」
誰かが、声をあげながら理事長室に入ってきた。その聴き慣れた声は、こう言った。
「四葉が転校するのなら
私たちもついて行くわ」
「!」
真っ暗な四葉の目の前に現れたのは、一花、二乃、三玖、五月の四人だった。
「な、何を言っているんだ!君たちは試験を通過したはず……」
「ええ、合格できたわ………」
そう言って二乃は、ポケットからある物を取り出す。
「カンニングのおかげで」
「!」
それは、手のひらサイズの紙切れに文字がいっぱい書かれていたカンニングペーパーだった。それを見て、四葉は目を見開いてしまう。
「そ、それは本当か!」
「私たちもでーす」
二乃以外の三人も、ポケットからカンニングペーパーを見せる。それを見た四葉は、絶句してしまった。
「皆………なんで………
なんで私のために………」
「四葉、あんたがどう考えてるのか知らないけどね
私はあんただけいなくなるなんて、絶対に嫌!」
「!」
「どこにいくにしても、皆一緒だよ」
「それが、お母さんの教えですから」
「四葉……どんなことも、私たち皆で五等分だから
困難も、五人でなら乗り越えられるよ」
二乃、一花、五月、三玖…………
四人の起こした行動と言葉に、四葉は感情を抑えられなくなってしまい、その場に泣き崩れてしまった。
姉妹はそんな四葉に、皆で寄り添う。
お母さん
お母さんが言ってたのは、こういうことだったんだね
もう誰が一番だなんて考えるのはやめよう
私は皆のために生きるんだ
それは、四葉を絶対に見捨てない五人への感謝と負い目から来たものなのか………
それとも、どう足掻こうとも、五つ子という『呪い』からは逃れることが出来ないことを知った絶望から来るものなのか………
その時の思いは、『四葉』本人しか知り得ないものだった。
………………………………
夏休みが明けて、五つ子は新しい学校での生活をスタートさせた。その食堂にて………
「おいしー」
「ここの食堂、レベル高い」
「前の学校にはこんなの無かったよね」
「試験とかも緩そうだし、そんなに必死に勉強しなくてもよさそうね。
転校して正解だったわ」
「………」
二乃の最後の言葉に、それまで長かった髪を切ってボブヘアになった四葉は、複雑そうな顔をする。
すると、彼女は床に折り畳まれた一枚の紙を見つけた。
「……!あれ、このテスト用紙誰の?」
「知らない〜い」
四葉はその紙を拾って広げてみると………
「100点だ」
「あ!まさか………」
100点の用紙だと知り、五月が何やら反応した。
「あー、さっきの男の子かな………ほら、向こうの角に座ってる地味目な子」
「届けてくるよ」
四葉は立ち上がって、落とし主の元まで届けることにした。
「四葉……お気をつけて………」
何故か四葉の身を案じる五月。どうやら何か知っているようだ。
「恐らく勉強中だと思いますよ」
「え?食堂で?」
姉妹の会話を背に聞いた四葉は、
(物好きな人もいるんだなぁ)
その程度の認識だったのだが………
これが、神の悪戯か、運命の歯車か…………
五年前に出会った『彼』との再会になろうとは、この時の彼女は思いもしなかった。
………………………………
(うわっ、やっぱり風太郎君だ!)
寝ているのか、考え事をしているのか、呼びかけても反応しないその男子の正面に座って、彼の顔をジーッと見る。
テスト用紙に書いてあった名前を見て「まさか」のと思っていた
間違いない
髪の色や雰囲気こそ変われど
四葉には顔を見て
あの時の男の子だ
(まさか同じ高校になるなんて!五年前とは雰囲気まるで違うけど、嬉しいなー)
最初は四葉も、神様は自分を見捨てていなかったと有頂天になり、そのまま声をかけようとした。
「風………!」
すると、四葉は風太郎のお盆の上にある単語帳が目に入ってしまう。
(ご飯中にまで勉強………
それに100点のテスト………
もしかして、あれからずっと頑張り続けていたの?)
彼女は驚愕した。五年前、あの日にした約束を、彼は今も実践し続け、テストで100点を取るまでに頑張っていた………なのに………
(それに比べ私は………)
自分はどうだ?向いていないと実感するや勉強を全くやろうとせず、運動部ばかりに逃げてしまった。その結果、『落第』という最悪の結果を招いてしまい、他の皆をも巻き込んでしまった。
(…………恥ずかしくて言えないよ…………)
「………『上杉………さん』………
上杉さーん」
今の自分に、あの時の名前を呼ぶ資格は無い………
彼は閉じていた目を開き、四葉を見た。
あの日以来に交差する姿勢。それに四葉は、思わずドキッとしてしまうが、なんとかそれを押し殺す。
「あはは、やっとこっち見た」
「……なんで俺の名前を知ってるんだ?」
これが、五年いう時が空いた二人の、初対面のような再会となった。
………………………………
それから………
彼は自分達の『家庭教師』として、我が家にやってきた。
誰もいないリビングに一人佇む彼に最初に声をかけたのは、四葉だった。
(………そうだよね。私のことなんか覚えたないよね)
再会した日に、自分を見た時の反応を見るに、おそらく自分のことは忘れているのだろう………
(私は知ってるよ、君のこと………ずっと前から………)
「みんな自分の部屋に戻りましたよ」
「!四葉……だっけ?0点の……」
「えへへ………」
………………………………
ギコ……ギコ……ギコ………
ここは、とある小さな公園。四葉は時折この場所を訪れる。特にブランコは、落ち込んだり、何かあった日はこのブランコを立ち漕ぎで漕いだりするほどの、彼女のお気に入りスポットだ。
「まさか風太郎君が私たちの家庭教師になるなんて!運命の巡り合わせというのはわからないものですな」
転校した学校で風太郎と再会し、その彼が自分達の家庭教師となる………まるで漫画のような展開だ。
四葉はよほど嬉しかったのか、先程から立ち漕ぎをしながらの独り言が止まらない。
「勉強は苦手だけど、風太郎君となら大歓迎だよ!」
………………………………
ある日の図書室………
「ライスは『L』じゃなくて『R』!お前、シラミ食うのか!?」
「あわわわわ」
と、風太郎の怒号が飛び交うも、他の姉妹とは違い、一人彼に勉強を見てもらっている四葉は、どこか楽しそうだ。
「四葉……なんで怒られてんのにニコニコしてんだ?」
「えへへ………家庭教師の日でもないのに、上杉さんが宿題を見てくれるのが嬉しくって」
四葉が嬉しかった理由は『3つ』。一つは今彼女が言った通りのこと。二つ目は、風太郎と二人で勉強が出来ること。
(もしこのまま勉強を頑張れたら
風太郎君に私のこと言ってもいいのかな………)
今の自分では、恥ずかしくて到底言えなくても、成績を上げることができれば、あの日のことを打ち明けられるかもしれない。そう思って、彼から勉強を教われば、2倍楽しく思えてくる気がした。
そして『3つ目』は…………
数日前、風太郎が連れてきた『彼』のこと…………
………………………………
「ギャーギャーギャーギャー、やかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー?」
浅倉総介。風太郎が連れてきた家庭教師の助っ人。四葉は三玖を置いてマンションへとダッシュし、早めにエントランスに到着した。すると、風太郎と二乃、そして謎の男が二乃と話している。
どうやら彼が、例の助っ人のようだ。
それを隠れて聞いていると、風太郎からいいように逃げていた二乃が、その男に完全に手玉にとられていた。
頃合いを見計らい、四葉もそこに合流する。
「私、中野四葉って言います!助っ人さん、よろしくお願いします〜〜〜!!」
そして、その後にやって来た三玖が、いつもと様子と違っていた。
何やら時が止まったかのように静止してしまった三玖に、何かあったのか謝る男、浅倉総介。そして三玖の方は、顔を真っ赤にしながら自己紹介をする。
(え、この二人知り合いだったの!?それに………)
どこで出会ったか知らないが、二人は面識があったようだ。しかも、三玖の様子が明らかにおかしい………
頬を赤くし、何故かモジモジしている。
ピコーン!!
四葉のリボンセンサーが反応した。
まさか…………そのまさか!?
………………………………
時は流れて花火大会。それぞれが好きな屋台で買い物をしながら、四葉は一花とともに、三玖と総介を見ながら話す。
「浅倉さんに聞こうとしたけど逃げられちゃって、それで三玖は浅倉さんを『優しい人』って言ってたけど………一花さん、どう思います?」
「んー、好きでしょうね、間違いなく」
「やっぱり!」
仲良く話す二人の姿を見て、四葉はそれが確信に変わった。三玖は、総介のことが好きだ。そして総介も、三玖を………
「いや〜、青春ですなぁ〜一花さ〜ん」
「そうですねぇ〜四葉さ〜ん」
二人を見ながら、ニヤニヤする一花と四葉。すると………
「一花はどうなの?上杉さんとか?」
「ん、私?」
四葉は自然な形を装って、一花に聞いてみる。
「そうだな〜。フータロー君はいい奴だけど子供っぽくて。私はそんな感じだよ」
「………ふ〜ん」
(一花も忘れてるよね……そう、だよね………)
そっかそっか
ふーん………
本当に??
一花、なんで花火大会の日から、上杉さんを見る表情が変わったの?
………………………………
ギコ……ギコ……ギコ……
「いや〜、三玖が浅倉さんのこと好きだなんて。浅倉さんも三玖に優しいし、これは両想い待った無しだね。少し肩の荷が下りた気がするよ。
良かった良かった…………」
………………………………
林間学校が終わって、四葉は風太郎の入院している病院にいた。そこで林間学校で体調を崩した彼のお見舞いも兼ねて、皆で予防接種をしようということになったのだが、五月が見当たらずに探していた。
「えーっと、五月は………もしかして上杉さんの病室にいるのかな………」
もう一度風太郎の病室の前に来た四葉は、そこで耳にした。
「教えてください。あなたが勉強する、その理由を」
風太郎は五月に、あの日のことを事細かく話した。
その外で四葉が一部始終を聞いていたと気づかずに
………………………………
(まさか、私のこと覚えてたなんて!
どうしよう。私も言うべきかな………)
四葉も迷った。しかし………
(………でも
私だけ特別なんて、良くないよ)
あんなことをしたんだもん
私だけ特別になるだなんて…………
「この中で、昔俺に会ったってことがあるよって人ー?」
風太郎がそう聞くと、一花が四葉の方をチラッと見た。
四葉は、口を動かそうとする素振りすら見せなかった。
(今の私は、姉妹皆のおかげでここにいる………
あの思い出も、この想いも、消してしまおう)
四葉は、自身の過去を、『あの日』のことを全て封印することに決めた。
………………………………
そして、二乃と五月が大喧嘩をして家出した後の、満月の夜のこと。
「……あの茂みの音は、四葉だったのですね」
「学校の用意、持ってきたよ。家出するならちゃんと用意してからにしなよ」
四葉は五月に、通学カバンを渡しに来ていた。家出自体を否定しないあたり、彼女も五月に思うところがある様子。
と、
「すみませ……」
スカッ
四葉はカバンに伸ばしてきた五月の手から、カバンを遠ざけた。
「?」
「大変なところごめんだけど、五月にお願いがあるんだ」
そう言って四葉は、あるものを取り出した。
「この服を着て、上杉さんに会ってきてほしいんだ」
それは、白い衣服だった。それを見て五月が、少し戸惑う。
「ど、どういうことでしょう………?」
「最近知ったんだけど、私、嘘つくの下手みたいで、変装もすぐバレちゃうんだよね………」
そこから四葉は、五月に全てを話した。五年前の修学旅行のことも、自分の想いも………
「………やはりあなたでしたか。心当たりはありました」
五年前、京都駅で逸れたのが四葉だけだったこと。そんな彼女が、合流したと思いきや、面白い男の子にあったということ。
そして、風太郎の話。それらから五月は、風太郎に昔会ったことのある子が、四葉だと薄々勘づいており、やはりそのことは当たっていたようだ。
「しかし私こそ、変装は苦手でして、ご期待に添えるかどうか……」
「それなら大丈夫。誰かの真似をしなくたって
昔の五月のままでいいから」
こうして、五月は風太郎が五年前に京都で会った女の子『零奈』として、風太郎と偽りの再会を果たすこととなった。
二人の逢瀬を、茂みの中から見ていた。
しかし。何とも言えない複雑な表情が、この時の『四葉』を表していたのかもしれない。
そうして、自分が『零奈』ではないこと、風太郎にお別れを告げることには、一応は成功となった。
ごめんなさい、上杉さん
私だけが特別であっちゃいけない
上杉さんが誰を好きになったとしても
全力で応援できるように
………………………………
そして、時は現在。
夏休み前の学校、雲一つ無い太陽の独壇場となっている空と、ミーン、ミーンと喧しい蝉の声。
梅雨の時期も過ぎ、季節は『夏』入りたてである。
「あっつー」
「夏だねー。もうすぐ夏休みだねー」
「夏といえばやっぱり………」
「海よね」
「山だね」
と、教室で夏恒例『海山論争』を繰り広げる二乃と三玖。
「は?信じられない。山なんていつでもいいじゃない」
「夏にしかできないことがある。それに騒がしいところは苦手」
いつの時も、二人の意見は真っ向から対立する二人。本当五つ子?
すると、五月が第三の意見を述べる。
「私たちは三年生なんですから、夏休みは受験勉強しかないでしょう………」
「うっ………考えたくもないわ」
その様子を、一歩引いて見守っている四葉だが、ここで三玖が、驚きの言葉を発する。
「私………大学行かないよ」
「え………」
その一言に、驚く3人。
「どうして………期末試験だって三玖が一番良い成績だったのに……」
この前行われた期末試験も、三玖は姉妹の中で見事に一位を獲得。もはや盤石と言えるほどの成績になっていた。にもかかわらず、三玖はどうして……
「………笑わないで聞いてほしいんだけど
私………
お料理の学校に行きたいんだ」
「お料理………」
「あんた正気!?」
そう打ち明けた三玖の言葉に、二乃が一番驚いている様子だ。
「それはまた………上杉君と浅倉君はなんて言うでしょうか……」
そう五月が話していると、ふと窓の外を見た四葉が渦中の人物を見つけたようだ。
「あ、噂をすれば……」
窓を開けて、ベランダへと出る。
「おーい、上杉さーん!」
「!四葉!そんな遠くから大声で呼ぶな!」
「あはは………怒られちゃった」
そう返されて笑っていると、五月がガラッと窓を開いて、ベランダに出てきた。
「四葉………本当にこのままでいいんですか?」
「…………
浅倉さん達がいたこともあるけど、それでもこれまで上杉さんと向き合ってきたのは、三玖たちだもん
今さら私の出る幕は無いよ」
「いいえ!」
四葉の言い分に、五月が物申す。
「三玖も二乃も、それぞれに恋人が出来て幸せそうです!三玖と浅倉君がそばで信頼し合うようにように、四葉だってずっと、彼のそばで見続けてきたじゃないですか!
誰にだって、自分の幸せを願う権利はあるはずです!
それに、浅倉君も言ってました!
『何も気負わず、テメーが望むまま【自由】にやればいい』と!」
「五月」
五月の説得を、四葉は途中で止めた。
「もう言わないで
つらい役を任せちゃってごめんね」
浅倉さんの言うことも、間違っていない
でもね
私は、『自由』にやり過ぎたんだよ
お母さんがいなくなってから
自由にやり過ぎて
風太郎君との約束を忘れて
何もかもを自分で壊しちゃって
みんなまで巻き込んじゃった
今の私が出来るのは
皆の幸せを願うことだけなんだ
………………………………
ギィコ………ギィコ………ギィコ………
「上杉さん」
ギィコ………ギィコ………ギィコ………
「風太郎君」
ギィコ………ギィコ………ギィコ………
好きだったよ
ずっと
ギィコ………ギィコ………ギィコ………
自分以外誰もいない公園から見える夜の街並みの景色を、目を揺らした瞳に映しながら、『四葉』は『風太郎』へ、『最後』の想いの言葉を告げた。
そこから音が消える最後まで聴こえたのは、悲しげにブランコを漕ぐ音だけだった。
世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男
第七章『漫画の修学旅行先は大体京都』
完
次回、第八章
『鬼が生まれた日』
これは、『鬼童』と呼ばれる男の
すべての始まりの日の話
これにて、五つ子の過去編、並びに第七章は終了となります。
四葉の過去は、やはり書いていて辛いものがありました。漫画では表面しか捉えられませんでしたが、こうして文章にすることによって、より彼女の苦しみや葛藤が感じられたように思います。
ネタバレになりますが、だからこそ原作で四葉が風太郎と結ばれたことに、報われて良かったと安堵しました。
いや、もしも三玖と結ばれたらこの『嫁魂』どうしようという意味での安心もありましたけど………
そして次回の第八章はその題の通り、いよいよ『あの話』へと入って行きます。
今回も、そしてここまで『嫁魂』をここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
第八章でお会いしましょう!!