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さて、ここから第八章の始まりです。この章からは、最終章に向けての足掛かりとなっていきます。
89.
大きく育った草木や、竹藪に挟まれた一本道を歩いて行く。ここは少し、街中の景色とは隔絶された世界のように感じ取れる。
その道の先には、『柳流剣術武術道場』と達筆な字で木板に書かれた看板が掛けてある門を潜ると、そこには一階建ての古い瓦屋根の木造建築が姿を現す。
そこはかつて、現在の『懐刀』である総介や海斗、アイナや明人、綾女が竹刀を片手に、凌ぎを削り合い、『侍』として育った場所でもある。
「はっはっはっはっは!それはなんとまぁ………しかし私としては、君がそれほど楽しい日々を送っているようで何よりですよ、総介」
「………いや、楽しいっちゃ楽しくはあるんですけど、色々とめんどくせぇことにも巻き込んできやがるんですよ、奴らは」
「ですが、私には満更でもないように見えますが?」
「………まぁ」
道場とは違う茶の間にて、ちゃぶ台を挟んで会話をする黒パーカーの男、浅倉総介と、その師である
一見、女性を思わせるような穏やかで優しそうな雰囲気を持つ和服の男性だが、こう見えて元『刀』の一員であり、当時は剛蔵に次ぐ副長の地位にも就いていた。
しかし、争いを嫌っていた彼は、後世の育成という名目で、『刀』から身を引き、この道場を開いた。
普段は一般の道場としても開いているが、アイナや明人、海斗のように『大門寺お抱えの跡継ぎ』の面倒を見ることも兼任している。
総介のように、ここから育ち、『刀』となった者たちは皆、宗尊を慕っており、時折顔を見せることもある。
総介も定期的に、彼の所に顔を出しては、新しくなった日常の話を彼に聞かせている。宗尊はそれを楽しみにしており、
やがて、一通り身の回りの話を終え、湯呑みに入ったお茶で一休みした2人から、笑顔が消えていく。
「………剣一から聞きました。『
「…………」
申し訳無さそうに、宗尊は言葉を紡ぐ。
「…………君達には、本当に辛い思いをさせてしまうばかりです。我々が『
大左衛門でさえ、仕留めきれずに取り逃してしまったあの男を、何の因果か、君に………」
「………俺が望んだことです。ヤローをこの手で地獄に返すために………その為だけに、あの日からここで必死こいて
「…………」
罪の意識に心臓を貫かれる痛みのまま、宗尊は湯呑みの中を見つめる総介から目を離そうとはしなかった。
「………今の君には、既に護るべき存在があります。あの日とは違い、その命は君だけのものではありません。それは理解していますね?」
「もちろんです…………
しかし、『力』を持たない者は、護る権利すら与えられない。何をほざこうが、何をしようが…………
護るための力が無い奴の言葉は、ただのホラ吹き野郎の戯言でしかない。
誰よりも脳みその奥に、叩きつけています」
「………まだ、『お母さん』の事が、頭から離れない、ということですか………」
「離れる訳無いでしょう。キレイサッパリ忘れることが出来たら、ヤローを地べた這いつくばってでも殺そうとなんて考えもしませんよ」
「………それは私の、私達の、永遠の戒めでもあります」
「さっきも言ったように、先生達の責任でもありませんし、剛蔵さん達のせいでもありません。
『あの日の事』は、ヤローと俺の間に出来た
それ以外の誰の責任でも無いですし
誰の横やりも入れさせやしません」
「…………あの時とは違い、君にはもう、私が教える事は無い程の『力』があります。
ですが、あるとすれば、一つだけ…………
その『力』を、
それが、私の、君への最後の教え………願いです」
「………必ず護ります
先生の教えも
三玖や、アイツらも
俺自身に何があろうとも」
宗尊の目を見ながら、最後の教えを護ることを誓う総介。
「…………よろしい。その言葉、しかと聞きましたよ」
ようやく宗尊に、柔らかい表情が戻った時、総介が彼に一つ尋ねる。
「………ところで、先生
ここに来てから、国でも滅ぼすんか?ってぐれーの殺気をビンビンに感じるんすけど…………何で『あの人』がここに来てんすか?」
「………さあ、私も皆目…………」
二人が、同時に同じ方へと視線を向ける。
「よぉ
総介と宗尊が横、開いた襖の方を見ると、そこは広い石庭が広がっている。
そこにはいつの間にか、空間すら『グニャア』っと歪めんとするほどの濃い威圧感?いや存在感?のようなものを纏いながら、一人の男が佇んでいた。
逆立ち、うねる黒い毛髪
全てを破壊にのみ使われる、その筋骨隆々の五体
服装は簡素なもので、黒いTシャツとズボンのみ
そして、悪鬼、悪魔ですら形容するのに小さすぎる、この世のものとは思えないほどのしわくちゃに笑う顔面。
そこに君臨するは
大門寺の頂点、現総帥にして、
今この瞬間の地球上における、最強生物
『
「え〜…………何でここにいんの〜…………」
大左衛門は総介を見て、こう言った。
「なに、せっかくだ
ちょっくら
大左衛門からの
「…………次に生まれ変わるとすりゃあ鳥だな」
今世の生を諦め始めた。
………………………………
道場敷地内の石庭にて、向かい合う総介と大左衛門。総介の方は、宗尊から借りた真剣を携え、目の前の巨大な存在感を放つ
総帥直々の指名であるため、断るという選択肢を最初から断たれている総介。
いざとなれば、宗尊が止めに入ることで了承したため、彼から真剣を一振り借り、石庭へと出ていった。
「………で、何でここにいるんスか、総帥」
「アレから随分と、力をつけたみてェだしな。『味見』したくなっちまった」
不気味かつ、見た者が光の速さで逃げ出すような笑い顔をする大左衛門。
「………買い被り過ぎだっての。地球上で誰もアンタにタイマンでどうにかなる訳ないでしょう」
「何、簡単な話だ。俺ァお前と遊びたいだけだ。
プロ野球選手の親父が、我が子とキャッチボールをする様に
NBAプレーヤーが、子どもと1on1をする様に
ボクサーの親子が、息子のスパーリングに付き合う様に
『大人』ってのァ、どうも『ガキ』の成長、進化、飛躍から目が離せねェ
世の
「一番この世の理から外れてるような人間が言っても説得力が無ぇんですけど?
それに俺なんかよりも、海斗の方を見てやりゃいいでしょうがよ?」
「生憎だが、俺ァ『完成されたモン』に興味はねぇ。お前の方がアレよりもよっぽど楽しめそうだ。今後とも、な」
「…………ったく、世界で最も相手にしたくねぇオッサンに目をかけられてちまった……警察にでもストーカー被害で相談すっかな…………」
はぁ、と総介がため息をついたところで………
「無駄口の時間は終ぇだ…………
来い」
人差し指を曲げて挑発する大左衛門。総介はそれを合図に、口を開くのを辞めた。
直後、10メートルほどの距離にいた総介が、大左衛門の視界から消え………
「…………」
気づいた時には、左側から既に抜かれている日本刀が振り下ろされていた。
文字通り、真剣が大左衛門のこめかみ目掛けて、『真剣』に振り下ろされる。
「…………」
大左衛門は一切動じること無く、凄まじい速度の刀身を、そのまま左の掌で握って受け止めた。
「だろうな」
そう聞こえると同時に、大左衛門の顔面に、総介の左足のトーキックが直撃する。
「…………」
「!」
総介はそのまま刀から手を離し、大左衛門の懐に忍び込んで、次は渾身の右アッパーを顎に食らわした。
198cm、125kgという大左衛門の巨大な肉体が、宙へと浮かぶが、吹っ飛ばすには至らず、力の緩まった左手から刀を抜いて回収して、即座に距離をとる。
1メートルほど浮いた大左衛門が、地面へと着地し、両足の着いた地にヒビが入る。
「…………」
「………ククク
初動にしては見事だな、総介」
「………『普通の人間』なら、あの速さで振り下ろした刀で、左手は真っ二つ
顔面のど真ん中にトーキックくらえば、鼻はへし折れ
顎に渾身のアッパーカットをすりゃあ、脳みそはグラッグラ
のはずが、何も全部が全部無傷とか、そりゃねーだろ…………
アンタ、本当に人間かよ」
「何を言う、お前らしくもねぇ
この世に『妖怪』やら『魔物』の類なんざ存在しねぇ
四方八方どこからどう見ても
俺ァ紛うこと無き『人間』だぞ」
それだけでも殺せそうな殺気の塊のようなものを向ける大左衛門。彼の背後の空間が歪んでしまう幻覚?いや現実?を見ながら、総介は額から汗を一筋垂らす。
「………刀のみに拘らず、あらゆる
その意気や良しとしてやろう
だがよぉ、総介
今のがテメェの全力か?
『ガキ』でも出来る程度の拙い動きで、
俺を一泡吹かせられると………
そう見積もってでもいたのか?」
「…………何も今のでアンタに傷をつけれるたぁ思っちゃいねぇさ
アンタ以外なら、とっくに花畑に逝っちまってただろうがな」
「………ククク、遠慮は要らねぇ
今ここで殺す気で来な
仮にテメェが今ここで俺を討ち取ったらば、俺を縛る余計な地位も、金も、名誉も、『全部』くれてやるよ」
「いや、アンタが死ぬとこなんざ、考えもつかねぇし…………
それに、そうなったとしても、んなモンいらねぇよ
俺の欲しいモンは
とっくにこの手の中に収めてっからな」
周囲の空間の歪みが、一層広まった大左衛門。
刀を持った赤い『鬼』の殺気を剥き出しにする総介。
最強生物『覇皇』と、その懐刀『鬼童』の闘いは、まだ始まったばかり。
しかし、つい先程まで晴れていた空は、異様な雰囲気の灰色の雲に包まれてゆく。
「…………『天』さえも怯えさせますか
大左衛門…………
?
いえ、これは…………」
その空に目を向けながら、二人の闘いを縁側で眺めている宗尊が、小さく呟いた。
復帰回ということもあり、短めにしておきます。
次回も総介と大左衛門の私闘の続きからです。
※書いてて思ったこと………これ、『五等分の花嫁』が原作ですよね?
今回もこんな駄文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!