世界でたった一人の花嫁と銀ノ魂を持つ男   作:ハムハム様

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こんなはずではなかったのですが……本当にマジ嬉しいです!
こんな自己満足の駄作を読んでいただき、そしてお気に入りに登録していただき本当にありがとうございます。これからも頑張ります!


9.メタ発言のご利用は計画的に

「とりあえず上杉

 

 

 

お前やめた方がいいぞ」

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

突然だった。総介はしばらく黙り込んだと思ったら突然「やめたほうがいい」となんかもう、いろいろと根底を覆す発言をしてきた。

 

「ど、どう言う意味だよ浅倉⁈」

 

「どう言うって、そのまんまの意味だけど?」

 

あまりにも唐突な発言に立ち上がった風太郎の問いにも全く動じることなく、相変わらずやる気のない表情を一切崩さないまま淡々と答える総介。彼はその後に軽く首を回して周りを見渡す。

 

「や、やめた方がいいって、……家庭教師のこと、だよな?」

 

「この状況でそれ以外の何やめろっつーんだよ?あれか?お前のその髪型か?まぁやめてもらって角刈りにしても面白れーけどな」

 

「いや髪型じゃなくて……い、いきなりそんなこと言われても………そんなこと言う理由を説明してくれないと納得できないぞ」

 

「いや説明も何も、割に合わなさすぎだろこれ」

 

風太郎の説明を求める言葉に、間を空ける事もせず即答で答える総介。一瞬で帰ってきた答えに再び「え?」とポカンとしてしまう風太郎。

 

「昼休みにも言ったが、雇い主頭大丈夫なのか?これ完全に無理ゲーだぞおい」

 

「む、無理ゲー?」

 

「クリアさせる気のねー無理なゲームっつー意味だよ。」

 

余計な説明も交えて、総介は一呼吸置いて再び話し始めた。

 

「成績わりーっつーのはこの際話すことはねー。問題はその先だ。まずこの問題一通り見てみたが…………ほれ何か気付かねーか?」

 

そう言って総介は5人のテストの用紙を風太郎に見せる。風太郎はその神をそれぞれに目を配らせながら脳内で考えを走らせる。

 

「これが一体………………………!!!」

 

しばらく目を通していた風太郎が、何かに気付いた。

 

「………正解してる問題が一つも被ってない」

 

「そうだ。5人それぞれ点数は違えど、問題全てが綺麗に1人だけ正解している。他の4人は間違いでな。

 

 

……つーことは、だ。どういう意味か分かるか?」

 

「………全員得意不得意がバラバラ………」

 

「ああ。見事なまでにな。1人が国語の問題が出来れば他の4人は出来ない。数学、英語とかも然り。その組み合わせが5人分存在してるってことだ。」

 

「………で、でも、それだったら、他の4人にも」

 

風太郎は何か思いついたように話そうとするが、総介の抑揚のない言葉がそれを遮る。

 

「うまくやれば全員に可能性はあるって言いたいのか?まぁ気持ちは分からねーでもねー。

 

 

でもな、それは全員何かしらの科目に『特化』してたらの話だ。数理は全く駄目だが、文系、特に国語は70点取れるってくれーに特化してねーと話にならん。それがこの5人で可能性を感じられんのは、贔屓目なしに見て三玖だけだ」

 

総介の言葉に名を言われた三玖が一瞬ビクッとなるが、彼は三玖の方を見ることなく話を続ける。

 

「つってもまだ可能性の段階ってだけだ。得意科目って呼べるほどには毎回70点以上取れるような実力は欲しいが………」

 

総介はそこで三玖を見て反応を待つ。すると、70点という言葉が重くのしかかったのか、三玖は名前を呼ばれてから上げていた顔を再び下げて俯いてしまった。

 

「………どうやらそこまでには到達していないらしい。一番点数の高い彼女でこれだ。それ以下の4人は………聞いてみるか?」

 

そう言って目を他の4人に向けると、見事に逸らされ、皆明後日の方向を向いてしまった。

 

「………まぁわかってたけどな。そんなもんは得意科目って言わねー。『ちょっとぐらい出来る科目』だ。他の教科と同じぐらい伸ばさなきゃならんことに変わりはねー。それにそんなバラバラな5人の成績を上げるには、それこそ膨大な時間が必要になっちまう。………ここまで質問あるか、上杉?」

 

総介は一旦ここで言葉を切ってから風太郎の言葉を待った。彼の説明に口が閉じたままだったが、なんとか彼に言い返せる言葉を探した。

 

「………だ、だが、5人それぞれ違っていても、全く出来ない訳じゃないだろ?それに点数が低いということは、いくらでも伸びる可能性があるということだ!今はあんな成績でも、どうにか卒業までには5人全員伸ばして、赤点を回避させれば「その5人全員やる気ないのにか?」!!!???」

 

風太郎が言った言葉も、総介のたった一言の返しで黙らせられる。その返しに、何も答えることが出来なくなってしまう。

 

風太郎は知っていた。この姉妹は全員勉強が大嫌いだということを。その為なら薬を使って眠らせてでも家庭教師をさせないということを。

 

 

「別に上杉の言ってることは間違ってねーんだけどよ、なんというか、めんどくせーけど、5人の勉強嫌いってのを計算に入れなきゃいけねーんだよな。それがどの程度かさっきまでわからなかったんだが…………今わかったから聞く必要ねーわ」

 

「は?」

 

「さっき俺がお前に『やめた方がいい』って言ったろ?あの時、全員の顔が一瞬笑ったんだよ」

 

「なっ!?」

 

「「「「「!!!!!?????」」」」」

 

風太郎と姉妹全員が驚きの顔をする。総介は発言をした直後、4人と隣にいた三玖に目をやって表情を伺っていた。再び姉妹に顔を向けると、中には自覚がなくて笑っていたの私?という顔や、すぐに顔変えたのになんでバレたの?という顔、さらには、肉まんもう一個買っておくべきでした、という考えのやつもいた。うん、肉まんのやつ、今全く関係ないよね……。

 

「じゃあ、5人の表情を見るためにあんなことを言ったのか?」

 

「いや、あれはガチで言った」

 

「ガチなのかよ⁈」

 

風太郎は突っ込んしまう。

 

「まぁそれも含めてのアレだったんだけどな。思ったよりコイツらの勉強嫌いっぷりが深刻なのが分かっただけで、むしろマイナスだったわ。特に……」

 

総介は向かいのソファーに座る4人の中で、先程から全く表情を変えない彼女に目を向けた。

 

「俺がああ言ってからお前、笑った顔隠そうとすらしてねーもんな?」

 

「……悪いかしら?」

 

二乃は悪びれる様子もなく、ニヤニヤと総介と風太郎を見ながら笑っている。

 

「別にアンタらがここから出て行くならなんでもいいわよ。アタシはアンタの言ってることに賛成だし……やめたら?」

 

挑発するように言ってくる二乃だったが……

 

「上杉、見ての通り、全員勉強に対するモチベーションはゼロどころかマイナスだ。お前はそん中で5人全員のモチベーションを上げた上で、全員20点前後の成績を卒業出来るまでに持って行かなきゃなんねー。…………………これのどこが割に合ってるっつーんだよ?」

 

完全に無視されてしまった。声を上げて突っ込むのも疲れるので、悔しいが二乃は黙っておくことにした。

 

「……………もし、仮にだ。このまま家庭教師を続けて次のテストで赤点を回避できる可能性は」

 

風太郎が口を開いて、総介に聞いてみる。しかしその問いは愚問だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「0に決まってんだろ、んなもん」

 

即答で返された。そりゃそうだ。成績を上げる以前に、まず5人を勉強机に座らせるところから始めなければならない。しかしこの五つ子の勉強への後ろ向きすぎる姿勢。そこをクリアすること自体、どれほどかかることなのか……下手したらテストまで間に合わないかもしれない。

 

「1人や2人ならなんとかなるだろーな。でも5人だ。多分宝くじで1億円当てる方が優しいと思うね俺は」

 

「そ、そんなに……なのかよ」

 

 

天文学的な低い確率に、風太郎は言葉を失ってしまう。一方二乃は風太郎が家庭教師としてやる気が無くなってきていると見えたのか、先ほどにも増して顔のニヤけ具合が上がっている。他の姉妹も、もしかしたら、と思い顔を綻ばせる者も現れる。

 

「…………」

 

「俺みたいなぽっと出の奴が偉そうに決めれることじゃねーが、少なくともこんな無茶苦茶な条件を出してきた雇い主に文句ぐらいは言えるだろ。1人で5人相手にするだけでもめんどくせーのに、全員勉強嫌いときてらー。こんな無理ゲー寄越すのは、頭イかれてるか、お前に対する嫌がらせかのどっちかだな」

 

 

「ちょっと!パパのこと悪く言わないでくれる!」

 

二乃がなんか言ってきたが、総介は今は相手にするだけ無駄だと思い無視する。

 

「…………」

 

風太郎は自分がいかにとんでもない状況にいるのかを改めて思い知らされた。総介に指摘されるまではうまく行けると思っていた。しかし、それは自分だけの目線で見た主観でしかなかった。それが、外から見た客観的な目線でズバリ言われてしまった。ぐうの音も出ないまでに。

とは言え、総介の言ってることが全て正しいわけではない。5人の今後の気持ち次第では赤点を回避できないことでは無いからだ。だが、風太郎の見たところでは、今の5人からはそういったものは見られない。

少し考えれば、自分でも分かることだった。それを、妹のこと、借金のことを考えすぎてなりふり構わずに引き受けてしまった。雇い主の無茶苦茶な条件もあるが、何よりそれを無視して強引に受諾してしまったのは誰でもない風太郎自身でもあった。

 

(………何が学年1位だよ。何も分かってねぇじゃねぇか……)

 

そう打ちひしがれる風太郎に、総介は声を掛けた。

 

 

「上杉、悪いことは言わねー。もう一度考えてみろ。やめた方がいいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人でやんのは」

 

 

「……………え?」

 

総介が最後に付け足した一言に風太郎は顔を上げた。

 

「確かにこのまんま行けば、5人全員卒業どころか、次のテストは誰かが確実に赤点になっちまうだろうな。それどころか、お前の家庭教師のバイトも満足に出来ねーかもしれん。

 

 

 

 

でもそれは、お前1人だけでやったら(・・・・・・・・・・・)って話だ。」

 

「あ、浅倉?」

 

「でもな。お前は自分がそうなっちまうって思ったから、俺を助っ人として頼みにきたんだろ?」

 

「!」

 

そうだった。思えばそんな状況があまりにも苦しすぎたからこそ、総介に助っ人を頼んだのだ。

 

「俺がここに入ったところで、可能性が上がんのはほんのわずかだ。………まぁ5パーぐらいと思ってもらえりゃいいが、それでも0なんかよりよっぽどいいだろ?」

 

「そ、それは、そうだが………助っ人、やってくれるのか?」

 

風太郎の問いに、総介は一呼吸置いて目を瞬かせる。

 

「どこまで出来るかはわかんねーが、この船に乗りかかった以上、下船するときゃ一仕事終えてから下りるつもりだ。それに………」

 

言葉を一旦止めて総介は三玖と目を合わせるが、直ぐに離して風太郎へと向き直る。

 

「………いや、何でもねー。俺はそこの笑ってる性悪女が計算式や英文法で悶え苦しむ姿が見てみたいからな。その為には家庭教師だろうが何だろうがやってやろうじゃねぇか、ええ?」

 

総介はゲス顔で二乃を見下しながら言う。二乃も家庭教師の話が破綻する方向から一転して2人体制になったことと、総介への個人的恨みも込めて舌打ちをした。

 

「チッ………悪かったわね、性悪で。非モテ陰キャメガネ男くん」

 

「正直でいいこった。こちとら生半可でやってやるつもりねーからな。もしかしたらお前に教えるときだけ間違った知識与えるかも知んねーから気をつけな、時代遅れのツンツンアニメキャラ女」

 

「いや、そこはちゃんと教えてくれよ浅倉……」

 

風太郎の静かなツッコミも入ったところで、ここまでほとんど喋ってなかった四葉が口を開いた。

 

「じ、じゃあ、浅倉さんは助っ人として、正式に中野家の家庭教師に加入、ということですね!」

 

「俺はメジャーリーガーか!……まぁ、分かりやすく言やそうなるわな。もし異存があるなら、そこの黒リボン以外で言ってくれ。もうこいつとのやり取り、読者は飽きてしまってそうだしな」

 

「メタいわ!てかアタシだけ発言権無いってどういう「あーもうそういうのいいから。はい、こいつの出番ここまで!」ちょ、何すんのよ!まちな……!?……!!」

 

二乃の言葉をメタフィクションの力で強引に遮り、黙らせた。そんな二乃に目もくれず、総介は残りの4人に意見を伺った。とりあえず、一番近くにいる三玖へと目を遣る。

 

「………私は、ソースケが助っ人で来てくれるなら、やってもいい。フータローだけじゃなくて、ソースケも教えてくれるなら、やる気出るかも……」

 

(もうこの子俺のこと好きなんじゃないかな、うん。あとかわいい)

 

そんなことも考えつつ視線を五月へと移す。

 

「……私は、まだ浅倉君の事は信用できません。二乃が言ってたように、いきなり助っ人と言われて来られても「俺の機嫌次第で肉まん奢ってやるぞ」浅倉君、これからよろしくお願いします!」

 

「チョロい!チョロすぎるぞ五月!?」

 

肉まんという餌に光の速さでかぶりつくほどの五月のチョロさに、風太郎は思わず突っ込んでしまった。まぁ協力してくれることは嬉しいのだが……

 

次に総介は四葉を見たが……

 

「はいはい!上杉さん、浅倉さん、私も頑張ります!!」

 

一瞬で終わった。これで3人。多数決を取れば、過半数は超えた。そして総介は最後に四葉と同じくほとんど黙っていた一花へと視線を向けた。

 

「ん?お姉さんの番?……そうだね〜。二乃以外みんなOKしちゃったしな〜。どうしよっかな〜?ね、浅倉君はお姉さんのことも教えてみたい?それとも三玖の専属かな?2人とも相性良さそうだもんね〜。ちょっと妬けちゃうな〜♪」

 

小悪魔的な笑みを見せて一花は総介を二乃とは違うタイプの挑発をする。三玖は顔を赤くしてしまったが、そんな陳腐なものが総介には効くはずもなく、

 

「ゴチャゴチャ言ってねーでさっさと答えろや。それとも横の女みてーに、アンタも声優ネタでイジってやろうか?アンタの中の人の手数はソイツの比じゃねーぞぉ?いいのか?……では手始めに、天使ちゃんマジてry」

 

「いやホントやめてくださいお願いします。それだけは勘弁してください。はい、協力します」

 

「わかればよろしい」

 

あっさりと一花は落ちた。

 

(それでいいのか一花……)

 

(ソースケ、それは反則………)

 

(ピピー!浅倉さん、イエローカードです!)

 

(手抜きが疑われてしまいますよコレ……)

 

(……!……!!…)発言権剥奪中につき、文字表記されず。

 

とまぁ限りなくアウトに近いセーフ(つかアウトだなコレ)な方法で一花を丸め込んだ総介だったが、一花にしても、面白そうなのと、彼の話を一通り聞いたこと、何よりあの三玖が、彼に全幅の信頼を寄せていることから、総介に協力することは決めていた。

少し風太郎みたいに遊んでみようと思ったが、いちいち焦れったいのでそれが総介の癇に障ってしまい、見事に返り討ちにあってしまった。そして一花は、今後は彼の前では挑発行為は控えることを心の中で誓った。

 

 

 

 

「うし!コレでそこのうるさい次女以外は認めてくれたってことでいいな」

 

「いや肉まん賄賂と完全に時空を超えた手段で無理やり協力させただけだよな?実質三玖と四葉だけだよな?」

 

「結果的に家庭教師として勉強教えれるんだ。人数も多いし、これぐらい強引な手段は必要だろうが」

 

「いやそれは………まぁ、ようやく浅倉の言う通りこいつらに勉強教えれるんだ。もうこの際なんでもいいわ」

 

 

風太郎はどんな形であれ、この五つ子たちにちゃんとした家庭教師として勉強ができることにひとまず安堵した。何しろ2人でこの5人を卒業まで持っていかなければならない。時間と労力はいくらあっても足りない。早速仕事に取り掛かろうと思ったのだが……

 

「んじゃ、助っ人やることも決まったし、帰るとするか」

 

「は!?」

 

突然の総介の帰宅宣言に、風太郎は声が裏返ってしまった。

 

「だってよ上杉、時間見てみろよ」

 

そう言われて風太郎は携帯の時計を見た。すると時刻は『18時30分』と表記されていた。

 

 

「あ………」

 

「世間的に言えば夕飯の時間だ。流石に一学生が腹ペコ状態で家庭教師出来るわけねーだろ。次回からにすりゃいいだろ?」

 

「いやでもテストまで時間が」ググぅ〜

 

いい続けようとしたところで、風太郎の腹が鳴った。彼は恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。

 

「ほれみろ。体は嘘つかねーからよ。今日のところは一旦帰ろうぜ。俺も腹減ってるし……」

 

「……し、仕方ない……」

 

「え、お二人とも、帰っちゃうんですか?」

 

四葉が寂しそうに言う。

 

「今日のところはな。次来た時から勉強教えるからな。ちゃんと学校の授業とかも聞いとけよ。特にお前は一番ドベなんだからよ」

 

「うぐっ!……が、頑張ります……」

 

ドベという単語が四葉の心臓に突き刺さる。

 

「じゃ、じゃあ、俺たちは今日は帰るから。次回からはちゃんと勉強するからな」

 

「「「はーい……」」」

 

風太郎の勉強発言に、何人かの元気なさげな返事が返って来た。やはり勉強嫌いはすぐには治りそうもないな、と総介は心の中で思った。

 

 

 

「……………」

 

 

ただ1人だけ、元気なく俯いている彼女がいることに気づいたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

総介と風太郎が部屋を出てエレベーターの前で待っている時、2人は特に会話をしていなかった。登りのエレベーターが到着して風太郎が先に乗り、それに続いて総介も乗ろうとした時、後ろから声を掛けられた。

 

 

 

 

 

 

「ソースケ!」

 

 

 

振り向かずとも総介には誰の声が分かった。しかしそれでも、総介は体ごとゆっくりと振り向いた。誰よりもその姿が見たかったから。

 

 

「………三玖………」

 

三玖はこのエレベーターがあるホールまでどうやら走って来たようで、間に合ったと見るや、膝に手をついて息を整えた。そんなに距離がないのに、結構疲れているように見える。おそらく体力が無いのだろう。女の子特有の走りでこちらに向かってくる彼女も、総介にとっては可憐な姿に見えていた。

 

「…………大丈夫?」

 

「ハァ……う、うん……ハァ……ハァ……」

 

相当ダッシュしてきたようなので、まだ息を整えるのに時間がかかっている。彼女が何故ここに来たかはまだわからないが、総介はここで決断した。

 

「………上杉、先行ってくれるか?」

 

「え?浅倉?」

 

「ちょいと三玖と話があるからさ。先に降りて帰ってくれ」

 

「あ、ああ………じゃあ、先帰るわ」

 

「おー、お疲れー」

 

そう言って風太郎が乗ったエレベーターが閉まるのを見ると、総介は三玖の方へ再び向き直った。

 

「…………落ち着いた?」

 

「………うん」

 

ようやく息を整えた三玖は、少し乱れた髪を手で直す。総介にとって、三玖の仕草のひとつひとつが、儚くもとても可愛く映ってしまう。顔が熱くなるのを感じ、少し振ってから彼女に話しかける。

 

「それで、どうしたの?」

 

「…………」

 

 

三玖は何も答えない。というより、答えを持っていないように思えた。指をもじもじとし、顔をキョロキョロさせては「あの……」や「その……」を繰り返してる。総介は三玖の行動から思いをいち早く察し、彼の方から優しく声をかけた。

 

 

 

 

「……俺はまだ時間あるから、ちょっとお話しようか?」

 

「!………う、うん!」

 

どうやら正解だったようだ。三玖は顔をぱあっと明るくしながら、総介の言ったことに頷く。

 

(かわいい。それに、今日三玖とあまり喋れなかったからな)

 

元々家庭教師の助っ人をする理由が彼女の存在なのだ。三玖がいたからこそ風太郎の頼みを聞いたようなものだ。その目的の子が、自分と話をしたがっているのだ。ここでそのまま帰ってしまってはただのアホだ。唐変木だ。鈍感系ラブコメの主人公だ。

そうなってたまるかと、総介は三度訪れた三玖との2人きりの時間を過ごすことを決断した。

 

 

 

 

 

 

次回、総介と三玖との、名を知り合った2人の初めての会話が始まる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もこんな駄文を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!



あと一話、今月中に書きたい……
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