Kayneth Must Die   作:一般時計塔学生A

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グレイ、ライネス、孔明で周回するのが滅茶滅茶楽しい。


不完全な憑依

「……が……殺、せ……ッ……殺し、て……」

 

 

ーーあぁ、またこの夢か。

 

目の前に映るのは、紛れも無い()だ。

指はへし折られ、身体からは夥しい程の流血。

誰からどう見ても助からない、間も無くしてこの()は死ぬ。

これでもう、この光景を見るのは百を超えている。

慣れたものだ。

身体を引きずり、情け無く命乞いをする様は到底私とは思えない。

 

ーー否、私はもう既に識っている。

 

これが、紛れも無い未来の私だと。

そして、夢はいつも。

 

「……わかりました。」

 

ーー振り下ろされた誉れ高き騎士王の刃で終わる。

 

 

 

 

「っ!!!」

 

いつもの様に、朝でベットを濡らして起きる。

いつもの様に鏡の前に立ち私は私である事の確認をする。

 

ーー私はケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 

正確には私はケイネスであってケイネスでは無い。

肉体はケイネスだが、魂は完全に別物だ。

つまりは別人の降霊。または憑依、というべきだろうか。

根源の影に過ぎないこの世界は何かを変質させ、何かを停滞させる。

詰まる所、私は変質されられた者なのだろう。

 

ーー未来視()

 

それが、私に与えられたモノだ。

空想じみていて、しかしこれは現実だと身体が感じ取る。

酷く馬鹿馬鹿しいがもう認めざるを得ない所まで来てしまった。

 

ーー幾多の可能性、そして幾多の自身の死を見た。

 

多くの私の屍が私の運命を感じ絡めにしていく。

始まりは10の頃。

当時、恩師であるルフレウス・ファザレ・ユリフィス氏の講義の後。

ふと、私の前世というのが気になった。

思えば、これが私の転換期だったのだろう。

思い立ったら行動するが基本であり更に研究肌だった私は、狂ったように研究を始めた。

そして2年後、自身の前世を持ち得るであろう霊を特定し降霊の儀式を行なった。

 

ーーそれが私の悪夢の始まりだった。

 

結果は失敗。同時に悪夢という対価を支払い。

(ケイネス)という人間は二つの魂が融合した類稀なる存在となった。

融合した当時は様々な変化に驚き、感動を覚え、様々な事を研究した。

 

私の傑作でもある月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)もその時の副産物だ。

しかし、そのどれもに既視感を持つ事に気付いたのはソレが完成した年の事。

 

ーー何をしても、どんな事をしてもそれがやっていた事になって死ぬ。

 

その時の私の様子は筆舌にし難いものだっただろう。

何かを成し、名声や地位を盤石にしていき遂には降霊学科の一級講師、鉱石科の君主(ロード)そして『色位』にまで到達した私は先代当主や恩師からみるならば。

成る程、『神童』と呼ばれるには相応しいのだろう。

 

だが、当の私はそれに恐怖した。

確かに、その功績は私が努力し研究を重ねて得たもので間違いは無い。

この功績も地位も名誉も、私だけの物だ。

 

しかしだ、その全てが後から自身が得て当然だったと。

それを得たとしても私の死は変えられないと告げられればどうなる?

 

ーー当然、精神は軋み始める。

 

講師である降霊術や元々秀でた錬金術、召喚術の更なる研鑽を寝るのを惜しむように行い、その影響か身体を鍛え始めた。

他にも工芸、彫刻、音楽、絵画など趣味にも没頭し、兎に角眠るという行為から目を背けた。

 

ーーここまでやれば、私は死なない筈だ!

 

そう信じ目を閉じれば待っているのは死の光景。

お前の努力など無駄なのだと、そう言われているようで私は年々と酷く消耗していった。

 

 

そんな私を見かねたのか。

はたまた自身と私。つまりはエルメロイ家とソフィアリ家の結び付きを強めようとしたのか。

 

20も間近に迫ったある日、恩師からある人を紹介された。

 

その人物こそ、私の死の一旦を背負う事となる女性であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。

当時の私は死に対して一種の諦めを抱いていた為これを承諾した。

 

 

婚約当初の彼女は正に人形だった。

私の後ろを唯無言で歩くだけの人形。

 

ーーこれがあのソラウなのか?

 

そう思ってしまうのも無理は無かった。

私が知っているソラウは私が召喚したランサー、真名ディルモッド・オディナを愛するばかりに私から令呪を奪い取った女だ。

断じて、話しかけても当たり障りの無い返事をする女では無かった。

 

だが、私はそんな事よりも気になる事が出来てしまった。

それは目だ。自分の人生の全てを諦めた目。

 

ーー私と同じだ。

 

そう考えてしまえば、私は居てもたってもいられなかった。

結局の所は偽善だ。

私の様な人間になってくれるなというお節介でもあった。

 

研究を中断し、週二回は彼女と共に街へと繰り出した。

机を並べて、ディナーを楽しみ。

時にはレジャーに行ってみたりして息詰まった権力闘争の環境から逃れようとした。

本来の貴族ならば贈り物を与えてアピールすべきなのだろうが、生憎と私の価値観はあの時に多少変わっているし、恋心なんてものも無い。

何よりも私の欲がそんなつまらない事で終わらせるつもりは無かったのだ。

 

彼女を決して背後に付けず、隣に立たせて手を繋いだ。

出来る限り彼女の要望には答えたし、此方も要望を言って

私達は平等だという事も伝えた。

彼女は酷く驚いて、私に尋ねた。

 

「私は貴方の世継ぎの為の道具じゃないのかしら?」

 

その認識は正しい。

彼女からすれば知りもしない男と急に夫婦になったのだ。

自分が世継ぎの為の商品として売られたのだと思っても仕方ないのだろう。

 

だが。

 

「何を言っている?私と君は政略こそあったもの紛れもなく夫婦だ。妻をその様に扱う程私は人間を棄ててはいないとも。」

 

私からすれば、彼女は唯の妻だ。

愛は無く、恋もない。

だとしても夫婦となった以上、私達は平等でなければならない。

 

そして。

 

「君を無下に扱うなど、私自身が許せんのでね。」

 

 

 

 

その後、彼女から少しずつ笑顔が増えていった。

他愛の無い話で微笑み、研究の成功を真っ先に認めてくれる様になった。

これは私としても嬉しい事であり、転機でもあった。

 

いつからか、彼女の横顔から目が離せなくなった。

いつからか、彼女の笑顔に目を背ける様になった。

 

ーー恋。

 

そう自覚するのに、時間はかからなかった。

 

そうなってしまうのも初めての私だ。

戸惑いもした、恐れもした。

意を決して指輪を渡したのがそれから約一年。

 

考えた台詞は頭から飛んでいき、けれどたった一言だけ彼女に伝えられた。

 

「君を愛している。改めて私と人生を共にして欲しい!」

 

 

彼女は微笑みこう言った。

 

「…喜んで。」

 

 

死の恐怖が消えた訳でも無い。

私の死は未だ決まったままだ。

 

それでも、諦めていた昔より足掻く今が私には愛おしい。

 

隣で幸せそうに眠る彼女を見ながら、今日も私は紅く輝いた右手の甲を撫でるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ケイネス先生の2次創作がもっと増えて欲しい。
結構、Fateキャラの中でも好きな方だったりするので。

頑張って完結まで書いてみたい。

では、次回まで御機嫌よう。

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