色々あった日の翌朝。今日が旅行兼トレーニングも最終日だ。そんな日の早朝、ノーヴェはなんとなく早く起きてその辺を散歩していた。
「ノーヴェ」
そこに、早朝だというのに起きていたアキラがやってきた。
「おう。アキラか。昨日はギンガが大変だったんだって?」
昨日ギンガにとある事態が起きていた(R-18参照)。その話はノーヴェにも伝わっていた。だが、アキラは案外気にしていない。
「なんてことねぇよ。それより、お前にちょっと話がある」
「?」
ノーヴェはアキラに言われるままテラスのテーブルに案内された。立ち話で終わらないところをみると、長くなるのだろうと思った。
「コーヒーでも飲むか?」
「別にいい。で、話って?」
「ああ…お前があのガキ共のコーチやるって話だ」
「…」
少し、ノーヴェは目を反らした。ノーヴェは実力とセンスはあるが人に教えるという経験はない。
足りないのは経験だった。そんな自分が子供たちのコーチになるということに対して全くもって不安がないというわけではなかった。
そのことに対して誰かからなにか咎められるかも知れないという不安はあった。そのことを言われると思ったのだ。
「ああ、お前がコーチやるってことに関しては別に俺は気にしてねぇ。好きにやればいいさ………お前にとっても、ガキ共にとってもいい経験になるだろう」
「じゃあ、なんだよ?」
「……俺が気にしてるのは、コロナだ」
「コロナ?」
アキラの意外な発言にノーヴェは驚く。昔あったことがあるという話は聞いたが、それだけでアキラが動くとは思わなかったのだ。
「お前、あいつに何をどう教えようとしてる?」
アキラが聞いてきたのでそれに答えるべくノーヴェは密かに作っていたトレーニングメニュー手帳を取り出した。
「……まず、大まかにだが…決まってるのは「魔力抑制バンド」による魔力そのものの成長、それからゴーレムクリエイトの速度向上と、ゴーレムクリエイト阻止対策………こんなとこだな。あとは本人の成長に合わして工夫するって感じだ」
「………ノーヴェ。一日だけでいい。俺にあいつの監督を勤めさせてくれ」
「え?」
「俺も一応教導官だ。人の成長に関しては一般人よりかあるつもりだぜ。そんでもってもしその一日であいつが自身の可能性を見出した時、その後の監督は俺に一任してほしい」
「…」
ノーヴェの反応を見る限り、あまり乗り気でない様だ。
「オメェの言いたいことはわかる。ズリィって言いたいんだろ」
「…」
こくりとノーヴェは頷いた。確かにアキラは教えるのがうまいとギンガから聞いたことがある。名教師というわけではないが、経験もあるし少なくともノーヴェよりもうまく教えられるだろう。だが、ヴィヴィオとアインハルト、リオはどうなるのだという話だった。
「俺もその辺はあいつらに悪いと思ってる。だから、アイツらにはちゃんと話す………ただ、これだけは覚えておいてくれ」
◆◆◆◆◆◆◆
こうして激闘のオフトレツアーは終了し、一同はミッドチルダへ帰ってきた。スバル含め大人たちは帰宅、アキラとギンガ、そしてノーヴェと子供たちはともに喫茶店へ向かった。
-喫茶店-
喫茶店でアキラは先ほどノーヴェに話したことをコロナたちに話した。
「…とまぁ、そんな感じだ」
「…私が、アキラさんから直々に?」
予想はしていたがやはり困惑しているようだ。アキラの実力や実績は他人から聞かされた話でも、今回の合宿の中でも理解できていた。
「…嫌ならいい。本人と、その周りから嫌だって声が一つでもあるなら俺はノーヴェに一任する」
「…」
ノーヴェは困惑する子供たちの顔を見ながら、アキラに言われたことを思い出した。
(ただ、これだけは覚えておいてくれ。アインハルトはこの先、多分あいつらの中じゃ一番伸びていくだろう。リオもリオで基礎はできている。あいつの実家の戦い方を学んでいけば個性とともに強くなっていくだろう。ヴィヴィオはあまり戦闘向きじゃない。だがアイツなりの戦い方は身についてきている。ノーリは最初から戦い慣れてる。ほっといてもアインハルトに追いつくくらいになるだろう。つまりは………あまり言いたかないがコロナの現状は実力不足だ。工夫すりゃ伸びるだろうが、三人に追いつくかどうかってところだな)
そんなことはわかっている。だからこその2か月の特訓がある。それにそんなこと、本人たちの前で口が裂けても言えるわけがない。ノーヴェは下唇を噛んで彼女たちに任せるしかなかった。
「…わ、私は…」
長い沈黙のあと、コロナが口を開いた。
「私は、受けて……みたい………です」
「…コロナ」
「この四人の中で私が一番実力がないってこと自分が理解してます…でも」
「お前がいいっていうならいいが、周りはどうだ?」
コロナの話を遮るようにアキラが言った。自身を否定するような、みじめにするような話をさせないようにしたのだ。
「異議なしだ」
ノーリが言った。
「私も、意義はないです」
「私も」
「もちろん私も」
「みんな…」
満場一致で決定した。だが、その直後にヴィヴィオが立ち上がる。
「ヴィヴィオ?」
「私は……ううん。私たちは。コロナがアキラさんに教わって強くなったとしても、それを卑怯だなんて思わない。でも、もしコロナと戦うことになっても、私たちは全力で戦ってコロナに負けないし、ならなくてもコロナと同じところに立ち続けて見せる!」
ヴィヴィオはそういってコロナに拳を差し出した。コロナは笑って拳を合わせた。
「うん♪」
その様子をみてノーヴェはずるずると椅子の背もたれを流れた。
「はぁ……ひやひやしたぜ…一時はどうなるかと…」
みんなでワイワイやっている状況を、ノーリは冷たい目で見ていた。そしてそっと立ち上がった。
「………………悪いがノーヴェもうちょいひやひやしてもらうぜ」
「あ?」
「お前らに大切な話がある。アキラがいるならちょうどいい」
「ん?」
なにやらアキラがいたほうがいい話らしいが、ノーヴェは当然、アキラもその話の内容はわからなかった。
ノーリはそんなアキラたちを尻目に、アインハルトの方を向いた。
「アインハルト」
「…はい」
「お前に決闘を申し込む。記憶をかけて」
「!?」
「!?」
「!」
その場にいた全員が驚愕した。当然である。突然の決闘の申し込み、しかも記憶をかけるという話だ。唐突すぎて誰も理解が追いついていない。
「…ノーリなんの冗談だ」
「冗談でこんなこと言うかよ。まぁ、安心しろ記憶をかけるって言っても当然全部じゃねぇ。覇王に関する記憶の部分だけだ。アキラならそれができるだろ」
アキラのISハッキングハンドを使えば確かに記憶を入れ替えることはできる。正しくはアキラの腕は基本上書きしかできないので、負けた方の記憶を元々なかったように上書きし、その分の記憶を買った方に植え付けるということだが。
「まぁ…な」
「アインハルト、お前も、俺が持っている記憶が欲しいだろう?」
「どういうことですか?」
「……お前と初めて戦った時から…いや、会ったときから、俺の中で覇王の記憶が蘇り始めていた……今の俺は、覇王イングヴァルトの記憶を持つ。お前と同じ覇王流の継承者だ」
「…っ!」
(アキラ!マジなのか!?)
(…ああ。大マジだ。あいつは覇王の遺伝子をベースに作られた人造魔導士だからな)
(あのとき…)
ヴィヴィオは昨日の模擬戦の初戦を思い出していた。セッテと戦ったとき、ノーリが放った技。やはりあれは覇王断空拳だったのだと再確認した。
「成る程…だから私と覇王流の名をかけて戦いたいと…」
「ああ。そうだ」
アインハルトは割りと乗り気な表情を浮かべていた。そこにノーヴェが割り込む。
「待て待て!いくらなんでもそんなのコーチとして認められないぞ!大体、古代ベルカの記憶なんかに縛られて戦うなんて…」
今を生きる若い者が過去の記憶に踊らされ戦うことはないとノーヴェは言った。だが、ノーリは真っ直ぐな瞳で返した。
「だからこそだ」
「は?」
「だから戦うんだ」
「???」
「それに、記憶はかけても技はかけてねぇよ。覇王流の技は使い続けても問題ねぇ」
ノーリの言ってることがわからず、ノーヴェが困惑してるとアキラがため息をついた。
「はぁ…別にいいじゃねぇか。好きなようにやらせろよ」
「アキラ…」
「記憶云々をどうするかは俺が決める。だから、とりあえず戦ってみたらどうだ?アインハルトととしても、記憶を託すに相応しいかどうか確かめるためにも」
アキラはアインハルトに提案する。何をするにしても、まずはやってみればいいだろうとアキラはいっていた。
「いえ…」
アインハルトは首を降る。
「もし私が負けるようであれば、ノーリさんの言う通り記憶を渡しましょう…」
意外な回答だった。全員が驚いたが、アキラはアインハルトがおとなしく記憶を渡すと言った理由がなんとなくわかった。
「正統な血筋としてのプライドか?」
「…はい」
「なら決まりだな」
◆◆◆◆◆◆◆
ー三日後ー
アインハルトとノーリは再び アラル港湾埠頭に来ていた。周りには関係者一同が集まり、心配そうに二人をみていた。
「……今回の決闘を受けてくれたことに感謝はする。だが、手は抜かねぇ」
「はい」
「いくぞ」
「武装形態」
「戦闘形態」
二人は大人モードになり、バリアジャケットを装備した。今にも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、アキラが間に入る。
「おう、ちょっと待て」
「アキラ?」
「アキラさん?」
「お前らこれ付けろ。2ヵ月後に予選控えてんだろ」
アキラは腕輪を二人に渡した。
「これは?」
「DASSで使われてるクラッシュエミュレートシステムだ。疑似的にダメージが再現される。どれだけ痛かろうと、骨が折れようとそれは疑似的なダメージになる」
「…ありがとうございます」
アキラは観戦しているギンガたちのところまで戻った。アキラが戻ると、ノーヴェが質問してきた。
「アキラ、お前どこであんなもんを?」
「ん?ああ。まぁ、俺の手腕があればちょちょいとな」
「…」
二人がシステムを付け、沈黙が始まり、風の切る音だけがこの場に響いていた。二人は足に力を入れ同時に走り出した。
「「はぁぁぁぁぁぁぁ!」」
そしてほぼ同じタイミングで飛び上がり、同時に拳を放つ。二人の拳はぶつかり合い、二人は相討ちとなってともに吹っ飛ばされた。
「ぐぁ!」
「くぅ!」
二人は起き上がり、戦闘を再開する。
「はぁ!」
「あぁ!」
二人は戦いながら、様々なことを考えていた。
(俺の中で蠢く記憶……これはまごうことなき覇王イングヴァルトの記憶!だが、抜けている部分がある……。オリヴィエとの別れの時間…そこを持っているのはアインハルト、お前だぁ!)
ノーリの上段蹴りがアインハルトの頭に直撃する。アインハルトは一瞬体制を崩したが、すぐに反撃した。
(合宿の時に思ったことは間違いではなかった……やはりこの戦い方は覇王流………それも、たぶん私より上手い…!)
経験の差もあるだろうが僅かながらノーリがアインハルトを押している。そしてそこには、同じ覇王流でも、技術の差が確かに存在していた。
「おぉぉ!」
「空破断!」
「覇王!旋衝破!!」
「!」
アインハルトが放った空破断をノーリが旋衝破で返した。そのことに辺りがざわつく。
「あれは…旋衝破…」
「本当にノーリさんは…」
(…旋衝破……あれは…あれを……)
アインハルトは歯を食い縛った。
旋衝破習得まで、アインハルトはずいぶん長い時間をかけた。
苦しかった。辛かった。
なのに、ノーリは。
いま目の前にいる相手は全くの苦労をなしにそれを習得し、いとも簡単に操っている。
違う。お前のそれは、そう簡単に使っていい技じゃない。覇王の悲願を知らない人間が、覇王流を名乗って良い訳がない!
アインハルトの中に、嫉妬と怒りが混ざりあった感情が渦巻いた。
「はぁぁぁぁ!」
「ぐっ!」
急に、ノーリが頭痛を発生させる。アインハルトが負の感情を沸き立たせたことでノーリがそれを共鳴してしまったのだ。
どうあれ、隙を作ってしまったためにアインハルトの接近と攻撃を許してしまう。
「覇王!断空けぇぇぇぇぇぇん!!!!」
ノーリに断空拳が直撃し、土煙が舞い上がった。衝撃は後方のビルにまで影響した。
「…決まった………のか?」
全員が状況を確認しようと目を凝らす。土煙が晴れ、視界が良好になったとき一同が目にしたのは、ともに倒れていない二人だった。
アインハルトの拳を、ノーリが片手で押さえている。そして、彼の周りにはよく見ると虹色の魔力が出現していた。
「違う」
「……?」
「お前の拳は、こんな風に振るっていいもんじゃねぇ!!」
ノーリの瞳が紫と赤に輝き、足を地面に叩きつけた衝撃波でアインハルトを吹っ飛ばした。
「くぅ!」
ノーリは力業でアインハルトと距離を取ると、一度戦闘態勢を解除した。そして、アインハルトに語り掛けた。
「お前は……覇王流の悲願とやらを叶えてどうしたいんだ?」
「………」
続く