ノーリ・ナカジマ(予選2組)
1R 0分15秒 KO勝利
累計被ダメージ0
FB 覇王断空拳
第一試合が終わり、ノーリはさっさとリングを降りた。
「…お疲れ様」
「疲れてねぇ」
ウーノが差し出したタオルを手で避け、ノーリは選手控室へ向かっていった。
「……」
(身体が、疼く。この会場内に強い奴……古代ベルカと関わりが強い奴がいる)
ノーリは自身の中で上がり続ける魔力を感じ取りながらぐっと拳を握る。身体が欲している。人物を。そんなノーリの前に誰かが駆けてきた。
「待て!アインハルト!」
「アインハルトさん!」
ノーリの前に現れたのは、アインハルトだった。させて頂きます。さらにそれを追ってノーヴェ達も現れる。
「ノーリさん…」
「アインハルト?」
「ノーリさん、あなたは、何をしようとしているのですか?」
「あ?なにって…そりゃ」
突然のアインハルトの問。それに疑問を覚えながらも答えようとしたとき、突然ノーリの両目の色が赤と紫色に変わった。
「!」
そして、背後を振り向く。そこには、フードで顔を覆った少女がいた。
「…?」
少女もノーリに気づき、立ち止まる。
「君…」
「お前…」
「さっきの戦い見てたよ。君強いんやねぇ」
少女は笑ってノーリの戦いを評価した。どうやらさっきの戦いを観戦していたようだ。だが、それを見てただ「強い」という感想しかもっていない。語彙力がないのか、強いのか、はたまたノーリの強さを認知できていないのか。
「エレミア…」
少女は、エレミアという名前。そう、一昨々年の優勝者ジークリンデ・エレミアだった。ノーリとはシード戦で当たる予定だ。
「ん?ウチのこと知ってるの?なんやありがたいなぁ。君とは組が同じやったよね。三回戦、よろしくなぁ」
「ああ…」
ノーリが答えると、そこにもう一人の金髪の少女が来た。
「あ!見つけたわよジーク!」
「あ、見つかった!!じゃあ!次も頑張ってな!」
「待ちなさい!ジークそんなもの食べてないでもっとバランスよく!」
二人は走って行ってしまった。
「ノーリさん…」
アインハルトは、ノーリからあふれる覇王の魔力を感じていた。まるでついこの間までの自分を見ているようだった。
「うぐっ…」
ノーリは頭を押さえて少しよろめく。再び開けたノーリの眼はもとに戻っていた。
「すまねぇ…気分が悪い。控室で休んでくる」
「あ…はい…」
ノーリはふらふらとその場を立ち去る。追い付いたが行く末を見るために二人を見守っていたノーヴェたちが出てきた。
「いったいどうした…」
「私には、ノーリさんがかつての私…いえ、それ以上にイングヴァルトに近づいているように見えて……心配、なんです。ノーリさんが、ノーリさんでなくなってしまうような気がして…」
「…」
どことなく、いつも以上に感情が表に出ている気がしたアインハルトだが、ノーヴェはそれ以上に彼女のこの先の試合でのメンタルを心配した。ノーリを気にして試合に負けてしまっては目も当てられない。
「気持ちは分かるが、今は自分のことに集中しておけ。二回戦はすぐだぞ」
「…はい」
とは言ったものの、ノーヴェはやはりノーリのことも心配だった。
(なんとかしたほうがいいのか…)
◆◆◆◆◆◆◆
そして時は進み、チームナカジマは二回戦も難なく突破。そこまでは良かったが、この日…事件は起きる。ミカヤとのトレーニングが終わりアインハルトは一人、夜道の帰路を歩いていた。
「…ノーリさん」
相変らずアインハルトの頭にはノーリのことがあるらしい。ノーリが望んだこととはいえ、彼を覇王の悲願へと誘ってしまった。そのことに対する自責の念があったのだ。
更に彼女には悩みがもう一つある。明日がコロナとの試合ということだ。恨みっこなしとはいえ、自身へ好意を寄せている、いわゆる「友人」と戦わなければならない。そこにやや、心の揺らぎがあった。もし以前のアインハルトだったら迷いはなかっただろう。
だが、覇王の記憶から解放された彼女は違ったようだ。
そして…そんな彼女の背後に近付く怪しい影。色々考え、悩んでいたアインハルトは背後から近づく人間に直前まで気づかなかった。
「にゃぁ!!」
「!!」
ティオの叫びでアインハルトは背後の人物に気づいた。だが次の瞬間、アインハルトの視界は稲妻のような音と共に暗くなった。
-翌日 大会会場-
大会会場ではチームナカジマが大騒ぎをしていた。
「どうだ!?見つかったか!?」
『だめだ、見つからねぇ。連絡もつながらねぇ』
アインハルトが失踪したのだ。それが確認されたのは今日の朝だった。アインハルトの保護者役であるウェンディ達がアインハルトの家を訪ねたが反応がなく、アキラを緊急収集して家の鍵を開けるもそこにアインハルトはいなかった。
会場内やミカヤの道場など心当たりは探したが見つからなかった。
「アインハルトさん…」
「あいつが急にいなくなるなんて……あいつ自身が行うとは考えられねぇ。やっぱり何らかの事件に…」
ノーヴェは壁を殴った。
「クソっ!」
「大丈夫よノーヴェ。いまアキラ君やチンクたちも必死に探してくれてる。すぐに見つかるわ」
焦りを見せるノーヴェをギンガがなだめる。
「…ああ」
-とある廃倉庫-
アインハルトは足音で目を覚ます。瞳を開くとそこは知らない廃倉庫。
「ここは…」
「お目覚めですか?お嬢さん」
「……え?」
眼を覚ましたアインハルトは自身が鎖で縛られていることに気づく。そして目の前には見知らぬ男。自身の置かれている状況を理解するとアインハルトは暴れ始めた。
「これは…!誰ですかあなたは!どうしてこんなことを!!」
アインハルトは叫びながら腕力で鎖を破壊しようと試みる。
「ははは。まぁ落ち着きなさい。その鎖は特別製でね。魔力を抑え込みます。いくら君でもそのままじゃあ破壊は難しいですよ」
「私を…誘拐したんですか!?」
「ええ」
「何のために!」
「もちろん君が必要だったからですよ。覇王イングヴァルトの血と体質、そして記憶を引き継ぐ、アインハルト・ストラトス君?」
「…っ!」
アインハルトは驚く。チームナカジマ以外に話したことのない事実を知っている人間がいたことが驚きだったのだ。
「何千年と前に死んだはずの人間の魂、記憶、体質を持った人間が稀に生まれることはあるが、ここまで色濃く出ている人間は初めてですよ。アインハルト君」
「…何が、目的なんですか!私を返してください!!」
「目的……私は残念ながら末端の人間でね。細かい目的は知らないんですよ。ただ、我々のリーダーは「王」を作りたいと」
そう説明しながら男は何かしらの装置を取り出した。先端に電波受信のアンテナのような歪んだ円盤のついた銃をアインハルトに向ける。
「さぁ。覚醒の時間です」
「なにを…」
何をされるかわからないアインハルトの恐怖を他所に、男はその銃のトリガーを引いた。円盤から波動が照射される。
それを身に受けた瞬間、アインハルトは急激に苦しみ始めた。
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
両目の紫と緑の色がより濃く、はっきりと輝き、髪の毛は僅かに逆立ちながら全身に緑色の魔力を纏い始めた。
そう、ノーリが稀に陥る状態とよく似ていた。
-同時刻 大会会場-
「うぐっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ノーリ!?」
「ノーリさん!?」
大会会場でアインハルトを待っていたノーリが突然苦しみ始めた。頭を抱え、膝から崩れていた。
「くっ……なんだよこれ!」
ノーリの瞳は紫と赤のオッドアイに輝き、魔力があふれ始めている。
「大丈夫!?ノーリ!」
ギンガたちが駆け寄ろうとした瞬間、ノーリは顔を上げた。顔を上げたノーリはだれを見るでもなく、壁しかない方向を見つめていた。
「!?」
「あっちだ…」
「え…?ちょっと!?」
ぼそりと呟いた後、ノーリは突然立ち上がって会場の外へ向かって走り出した。
「ノーリ!!」
「あたしが追いかける!ギン姉はチビ共を頼むな!」
「う、うん!」
ノーヴェはノーリを慌てて追いかける。ノーリは凄まじいスピードと小柄な体で人込みを避け、会場を飛び出した。
(クソっ!全然追いつけねぇ!)
-廃倉庫-
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
廃倉庫ではアインハルトの悲鳴が響き渡っていた。だが、それをみても男は実験をやめない。それどころかパソコンの画面を見ながら疑問符を浮かべている。
「…おかしい…予想反応値の半分もいかない。どういうことだ?彼女の体質、そしてこの反応。間違いなく彼女は「器」足り得る筈…」
男はパソコンの画面を睨みながら考えていた。
「ぐぅぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アインハルトが一際大きな声を上げた瞬間、廃倉庫の天井が破られる。
「!?」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
バリアジャケットを纏ったノーリの仕業だった。ノーリは廃倉庫に突入するなり男の持っている銃型の装置を蹴り壊す。
「!!」
「ノーリさん…?」
ノーリは既に覚醒状態に入っていた。ノーリは軽く振り返りながら横目でアインハルトを確認した。瞳に涙を浮かべ、明らかに疲弊しているアインハルトを見てノーリはさらに魔力を増加させる。
「お前が……お前がぁぁぁ!」
「チッ!」
男は緊急用のスイッチを押した。すると、壁を破壊して戦闘用に改造された警備用ロボが4機現れ、ノーリに襲い掛かる。
「有象無象がぁぁぁぁ!」
ノーリはロボに向けて拳を振るう。そこから放たれた空破断がロボ4機を一気にスクラップに変えた。
「なっ!」
「俺の大切な友達を……よくもこんな目に…」
ノーリは憤りながらさらに全身から魔力を噴出させる。
「だらぁぁぁぁぁ!!」
ノーリは容赦なく全力の断空拳を男に食らわせた。男は壁を貫き、地面をスライドしながらぶっ飛んだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ、はぁ…」
苦しみにもがく男をノーリは踏みつけ、拳を振り上げた。
「覇王…」
「この力……そうか、君が…真の器…」
「断空…」
「そのくらいにしておけ」
ノーリが殺意すら込めた一撃を振り下ろそうとしたとき、その腕を途中アキラのバイクに乗せられなんとか追いついたノーヴェが止めた。
「…」
ノーリはノーヴェに腕を掴まれながらもその腕を無理やり動かそうとする。
「ノーリ!」
「落ち着け馬鹿野郎」
ノーリの頭を、アキラの左腕が捕まえる。
「IS、ハッキングハンド」
アキラのISであるハッキングハンドを食らってノーリは気絶した。アキラは気絶したノーリを抱え、男に手錠をかける。
「たくっ……。ノーヴェ。アインハルトの安全を確認してこい」
「あ、ああ」
ノーヴェをアインハルトの確保に向かわせ、アキラは男を無理やり起き上がらせる。
「で、お前は何が目的だ?」
「……私は末端の人間さ。何もしらんよ」
「まぁいい。もう警邏も呼んである。てめぇはブタ箱域確定だ」
「…」
「アキラ!アインハルトは無事だ!ケガもない!」
ノーヴェはアインハルトを保護してやって来た。アキラはアインハルトの目線にしゃがみ、肩を掴んだ。
「大丈夫か?試合には出れるか?」
「はい。少々頭痛がしますが大丈夫です」
「オーライ。なら俺が会場まで送ろう。ノーヴェ、こいつとノーリ頼めるか」
ノーヴェは「やれる」と頷いた。それを確認するとアキラはアインハルトを連れて会場までバイクを走らせた。
「飛ばすぜ!しっかり捕まってろよ!アインハルト!」
「はい!」
続く