第三回戦が始まるまであと5分を切っていた。
「もう準備時間に入ってます。これ以上遅れるとなると…棄権ということに…」
これ以上の遅れは待てないと大会側が保護者役であるギンガに説明する。だが、ギンガはアキラ達を信じ、何とか待ってもらうように頼み込んでいた。
「お願いです!もう少し待ってください!きっともうすぐ…」
「ですが…」
大会側の人間も困り果て、いったいどうしようかという風になったとき、廊下を駆けてくる音が聞こえてきた。
「申し訳ありません!遅くなりました!!」
アインハルトだ。
「アインハルト!」
「アインハルトさん!!」
駆けてきたアインハルトにチームナカジマの面々が集まった。
「大丈夫でしたか?」
「心配したんですよ」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。私は大丈夫ですので、さぁ試合をしましょう」
「アインハルト、大丈夫なの?」
ギンガが尋ねる。アインハルトは小さく頷いた。
「はい。むしろ身体から魔力がみなぎっています…」
◆◆◆◆◆◆◆
『さぁ!激戦区の予選1組で三回戦まで上がってきた初参加のルーキーはなんとゴーレムマイスター!しかし驚くべきはその戦闘力!ゴーレムマイスターを名乗りながら一度もゴーレムを使用していません!』
コロナは戻ってきたノーヴェとともにリングインした。
『同じく初参加古流格闘戦技「覇王流」の使い手!アインハルト・ストラトス選手!アインハルト選手はここまでの試合はいずれもほぼ無傷の1ラウンドKO!驚異のハードヒッターです!そして二人は同じ学校の先輩後輩!同じチームの研鑽しあう同士!運命の対決の結果は!?』
「アキラ君、アインハルトちゃん本当に大丈夫?」
観客席でギンガがアインハルトを救助し、ここまで送ってきたアキラに訪ねる。
「とりあえずやれるだけの検査はしたが問題はなかった。少なくとも命に係わる異常はないはずだ」
そうは言ってもアキラは少し心配だった。一応病院に行くことを勧めたが、それでもアインハルトはリングに上がることを選んだ。
そして両者がリングに上がり、試合開始のゴングが鳴った。ゴングが鳴ってすぐに、アインハルトはコロナに向けて空破断を放った。コロナのゴーレムクリエイトを防ぐためだ。
「ガイアプレート!!」
コロナはその空破断をリングの床から出現させた岩盤の盾で防いだ。しかし空破断の威力は高く、岩盤は砕て粉塵を放った。
(よしっ!コロナさんが受け身に入った!この隙を狙って!)
アインハルトが前に出るも、粉塵の中からコロナが飛び出してきた。
(でも!)
前に出てくる可能性は低いと思っていたがアインハルトは慌てず、すぐさま足技でコロナを牽制しようとした。
しかし足が上がらない。
(!?)
足にはいつの間にかロックバインドが施されていた。アインハルトが隙をみせた瞬間、コロナは掌をアインハルトに向けた。
「ブラスト!」
アインハルト・ストラトス LIFE15000→14700
小型の砂塵の竜巻がコロナの掌から発生し、アインハルトを吹っ飛ばした。足を封じられていてもガードはできる。アインハルトが受けたダメージは小さかった。アインハルトが反撃をしようと態勢を立て直したとき、その視界にコロナはいなかった。
「!!」
(コロナさんが消え…)
消えたわけではない。上に飛んだのだ。
-一か月前-
「コロナ、あらゆる武術に通じる基礎は分かるか?」
訓練中、アキラは体力を使い果たしバテバテのコロナに訪ねた。コロナは疲れた頭で考え、自分なりの答えを出した。
「……歩法、でしょうか?」
「中々いい答えだ。俺が見込んだだけのことはある。だが、残念ながらハズレだ」
「…」
「あらゆる武術は理と虚に従っている。理とは鳶飛魚躍構造と本質から導き出される必然のこと。虚とは避実撃虚、けして力まず相手の空隙を撃つこと。鳥が飛ぶように、魚が躍るように、自らの身体を正確に操作する。そして水の流れが自然と岩を避けるように、相手の攻撃を躱し………
(これがみんなで練習して、アキラさんに鍛えて貰った格闘戦技と私のゴーレム創成を重ね合わせた)
………正にその隙を突く」
コロナは空中でゴライアスの腕を自身の腕に装備し、アインハルトを殴った。
(私の創成戦技!!!)
「!!」
アインハルト LIFE14700→12000
クラッシュエミュレート:左右前腕 中度打撲
「く…っ!」
アインハルトはその攻撃を何とか防ぐもダメージは大きかった。さらに粉塵に囲まれ、コロナを見失ってしまった。
「ゴーレムクリエイト…………出でよ巨神、創成者コロナと魔導器ブランゼルの名において」
「させません!」
粉塵の中からアインハルトが飛び出し、コロナに攻撃を仕掛けた。
(コロナさんのゴーレム創成は速い!でも、この速度なら)
アインハルトはこのタイミングで邪魔をすれば創成は阻止できずとも必ずダメージは入れられると考えていた。
その様子を観客席で見ていたアキラはにやりと笑う。
「遅い」
「叩いて砕け!ゴライアス!!」
アインハルトの真下からゴライアスが出現し、アインハルトは飛び跳ねて避けた。コロナはゴライアス上に乗って操作を始めた。
「ゴライアス!ギガント!」
「ティオ!」
『にゃぁ』
「ナックル!」
コロナのゴライアスとアインハルトの拳がぶつかり合う。
(砕け……ないっ!?)
アインハルトはゴライアスの腕を砕く気概で拳を放ったのにもかかわらず砕けなかった。アインハルトは驚愕しながらいったん離れる。
アインハルトLIFE12000→11830
「ぐっ!」
アインハルトの拳に裂傷が発生していた。砕くどころか逆にダメージを受けていた。アインハルトは驚いた顔でコロナを見る。
(……此処までとは…!)
「ゴライアス!アースウェーブ!」
「はぁ!」
ゴライアスが地面を蹴り、それによって発生した物理的衝撃がアインハルトを襲う。アインハルトはジャンプでそれを躱し、ゴライアスの腕に乗りそのままゴライアスの破砕に移行しようとした。
「ゴライアス!アームパージ!!」
アインハルトがゴライアスの腕にのった瞬間、肩から腕を外した。
「!?」
ゴライアスの腕が外れたことで、バランスを崩したアインハルトの目の前にコロナが現れる。
「ハンマーアーム!」
コロナの腕には岩でできた球体が装備されており、それでアインハルトに殴りかかった。だが、アインハルトも一枚岩ではないとっさにけりを繰り出し、コロナの腕のハンマーアームを砕いた。
「砕牙っ!」
アインハルトLIFE11830→11700
コロナLIFE15000→14100
クラッシュエミュレート 右手首捻挫
コロナは右手をやられた時、すぐさま左手を前に出してブラストを放った。
命中はしなかったものの、目の前から離すことはできる。だがアインハルトは離れた直後に空破断をコロナに向けて放った。
「ふっ!」
コロナは空破断を蹴りで掻き消した。其のことにアインハルトはもちろんチームナカジマ全体が驚いた。
「…」
そこで、1ラウンド目が終了し、二人はインターバルに入る。
『ここでゴングが鳴りました!正しく接戦!なんと熱いバトルでしょうか!一進一退のバトルでした!』
「大丈夫ッスか?アインハルト」
「はい…」
セコンドのウェンディとディエチがやってきた。
「予想外でした…。コロナさんがまさか、ここまで強くなっているとは…。完全に油断してました」
此処までの試合の結果では、実力が僅かにコロナが上回っているようにも見える。
「…怖いのは具体的対策が練れないところです。まだコロナさんは本質を全然見せていない」
-観客席-
「コロナ…」
「あんなに強く…」
アインハルトは、チームナカジマの中では確実に実力が一番上だった。だがそれに食らいつけていけている。コロナは明らかに強くなっていた。
「…」
アキラはインターバル中のコロナをみながらここ2ヶ月の彼女の訓練を思い出していた。
◆◆◆◆◆◆◆
「まさかアレをいきなり起動させるとは、思ってなかったぞ」
訓練場には大量の岩の破片が転がっている。アキラが制御しきれなくなったコロナの召喚したゴーレムを止めた後だ。
「あ、ありがとうございます。それから、すいません」
「…大丈夫か?さすがに魔力回路に負荷がかかりすぎてんじゃないか?」
「す、少し辛いですけど…大丈夫です」
コロナは元気に振るまって見せるがアキラには空元気なことは見通されいた。
「無茶しやがって…まさか起動できるとは思ってなかった。そこそこのところで及第点が出せればよかったんだが…」
「……私は、ヴィヴィオ達と同じ速度で歩きたいんです」
「あ?」
「格闘技が大好きでいつかママを護れるくらい強くなりたいって話すヴィヴィオはいつも素敵で…春光拳と炎雷魔法をもっとマスターしたいって頑張っているリオは格好よくって頼もしくて……ご先祖様の意思を継いで本当の強さを手に入れたいって一生懸命なアインハルトさんはすごく立派で、いつも優しくて私たちの前に立って先導してくれて、誰かの為に尽くしているノーリさんは本当に格好良くて……、わたしはそんなチームの一員として恥ずかしくない一員でいたいんです!だからあと!あともう少しだけみんなと同じ目線で…っ!」
そこまで言ったところで、コロナの頭にアキラの大きな手が乗った。
「皆まで言うな。お前の気持ちはよくわかったよ」
「…アキラ……さん」
「正直、俺はお前に焦るなって言いてぇ。お前がそんな風に思ってるなら、このまま俺が教えないでノーヴェの指導に従ってほしい…が」
アキラはコロナの手を見る。コロナの手にはアキラが渡したゴーレムのコアが握られている。そして、先程そのコアを使ってゴーレムクリエイトを行ったことによって発生したダメージで所々から血が出ている。
「ここまでやらせちまったし、「アレ」を使えるならその才能を放っておくわけにはいかねからな明日から辛くなると思うが、頑張れるか」
「……はい!」
◆◆◆◆◆◆◆
インターバルが終了し、コロナとアインハルトは再びリングに上がる。
アインハルト
インターバル回復+4300
LIFE15000
コロナ
インターバル回復+900
LIEE15000
二人ともダメージは完全回復し、振り出しに戻ったところで試合再開のゴングが鳴った。
最初に動いたのはアインハルトだ。アインハルトはゴングが鳴っても動かず、瞳を閉じたコロナに容赦なく襲いかかる。
「コロナ!?」
「コロナ!!」
(上手くできなくて、楽しくないって思ったこともある。でも、ノーリさんが励ましてくれた、ノーヴェ師匠が導いてくれた、アキラさんが強くしてくれた!)
今までの訓練を思い出していた。そして瞳を開き、瞬時に構える。アインハルトの拳が当たるまでまだ余裕はあった。
アキラと訓練したとき、アキラはもっと速く迫っていた。それに比べれば、アインハルトの速度などまだまだ遅い。
(だから勝つんだ!)
アインハルトの拳を姿勢を僅かに低くすることでコロナは躱した。
「!」
「ハンマーアーム!」
(相手が誰だって!)
コロナの岩の球体付きの拳がアインハルトの腹部に直撃した。
(速いっ!ガードが間に合わなかった!)
アインハルトLIEE15000→12500
「クリエイション!」
「!」
吹っ飛んだアインハルトがまだ空中にいる間にコロナはすぐに術式を展開し、アインハルトの上空に石柱、いや、巨大な石の杭を作り出す。
「パニッシュメント・パイル!」
「っっっ!!!!」
石柱はアインハルトに直撃した。粉塵が巻き上がるがそれ以外に動きはない。アインハルトはまだ石の杭の下だ。
『なんとっ!カウンターからの岩石の杭!これはアインハルト選手、耐えられなかったかっ!』
「………」
少しすると、石の杭にヒビが入る。
「!」
そのヒビは杭全体に広がり、最終的に石の杭は砕け散った。そしてパニッシュメントパイルで発生したリングのクレーターからアインハルトが出てきた。
「助かりました…ティオ…」
『にゃー!』
アインハルトLIFE12500→6800
ティオのダメージ緩和とガードするのではなく逆に杭に向かって拳を打ったことが功を成し、ダメージはそこまで大きくならなかったようだ。
それでも大ダメージなことは変わりない。
(コロナさん……本当に、本当に強くなられました…でも、わたしも負けられません!これまで優しくしてくれた皆さんのためにも!)
「はぁぁぁぁぁ!」
「コメットブラスト」
向かってくるアインハルトに対し、コロナは冷静に魔力弾と小型の石の杭を飛ばした。
アインハルトはあえて旋衝波を使わずにコメットブラストを完全回避しながら突き進む。
「!」
「でぇぇぇぇい!」
「ガイアプレート」
アインハルトの目の前に再び岩盤が出現する。だが進撃の覇王にそんなものは関係ない。岩盤を破壊してコロナに襲いかかろうとした。
しかし岩盤の先にコロナはいない。
「!」
(しまっ…)
コロナがいない理由がすぐに思い当たり、急いで対策しようとしたときには遅かった。アインハルトにゴライアスの拳が命中した。
「ぐぅぅぅぅ!」
アインハルトLIFE6800→3800
とっさの判断で防御が間に合ったがダメージは大きい。
「まだです!ガイアプレート!デュアル!」
左右からアインハルトを挟むようにリングの床が捲り上がる。アインハルトはそれに挟まれた。
「…」
アインハルトLIFE3800→980
CE 脳震盪 左腕部骨折
2枚のアインハルトを挟んだ岩盤は砕けちり、アインハルトはその場に力なく倒れる。
「……」
『アインハルト選手ダウーン!カウント1!2!』
(敵の接近時に一瞬姿を隠すことで視界遮り、相手が岩盤を破壊することによってできる僅かな時間でさっき創ったゴーレムに乗って反撃。しかも最初から自分がリング縁にいることで最終的にガイアプレートデュアルを避ける場所を与えない……見事だな)
続く