「俺の、やりたいことか」
アインハルトのの質問をノーリが繰り返す。アインハルトは頷く。
「…はい」
「俺は、ベルカの天地に覇を成すこと……それが俺のやりたいことだ」
「!!」
同じだった。かつてのアインハルトの考えと。その答えによってアインハルトは確信した。今のノーリは自分が渡した記憶のせいでイングヴァルトの思想に染まってしまっていることを。
「ノーリさん…っ!」
「……アインハルト、これは俺の選んだ道だ」
アインハルトの話を遮ってノーリが話した。
「え…?」
「俺が選んで、俺が進む道なんだ。俺の、初めての決意なんだ。お前を覇王の呪縛から解いて、お前の成し遂げたかったことを俺が叶える………」
「…」
「数か月前の事件で俺は、恩人も大切な人も守れないどころか無闇にでしゃばって迷惑もかけた。だから俺はもっと力が欲しい。もっと!もうなにもなくさないために!いや!それだけじゃない…俺は……2年前…」
ノーリの瞳はいつの間にか、またオッドアイに変わっていた。
「2年前…?」
「いや、なんでもないさ………アインハルト、以前お前は自分の求める強さは表舞台にはないって言ってたらしいな。だがそれはお前の中の覇王の記憶に取ってってだけでお前自身は違う。そうだろう?」
「…」
「俺は、ヴィヴィオたちと一緒にいるから今はここにいる。だが最終的にはこの力でみんなを守りたい。そこが俺の終着駅。俺はそこに行きたいんだ」
「ですが…」
「…話は終わりだ。弁当、ごっそさん」
ノーリは念のため弁当の礼を言い、その場を立って屋上を出ていこうとした。少なくともイングヴァルトの思想に支配はされていなくとも、ノーリは普通ではないと感じアインハルトはノーリを引き留めようとした。
「待ってください!!まだ…」
アインハルトはノーリを追いかけようとする。しかし、その瞬間に世界中の時間が止まる。アインハルト以外の。
「………え?」
世界の時が止まり、アインハルトはその異変にすぐ気づいた。目の前のノーリが止まり、そして屋上の貯水槽の上に一人の男が立っていたからだ。
白い髪に白いローブを靡かせる男。リュウセイだ。
「…そう焦るな………」
「だ、誰ですか!」
アインハルトは突如として現れた男を警戒して構えを取る。しかし、リュウセイは一瞬でアインハルトの前から消え、背後に出現した。
「!」
「俺の名前はリュウセイ。この世界の管理人だ」
アインハルトがとっさに放った後ろ回し蹴り。それは空を切り、背後にいたはずのリュウセイはアインハルトの真横にいた。
「まぁ落ち着けよ」
「…」
アインハルトは攻撃の意思を見せるのをやめた。本能的に、勝てる気がしなかったのだ。その辺は実力者であるアインハルトだからこそ察したとでもいうべきか。
「………世界の管理人であるあなたが一体…なんの、様ですか?」
臨戦態勢は解除したが警戒は未だにしている。リュウセイは少しため息をつき、時間停止で止まっているノーリを見る。
「俺は、正直お前らはどうでもいいと思っている。俺が求めるのは、ギンガが良い未来をたどることだ」
「ギンガさん…?」
なぜ、こんな人物が一管理局員、なんなら特別な力を持たない一般人を気にするのかアインハルトは理解できなかった。それとも、ギンガ・ナカジマには何かあるのか?と、様々な考えが脳に浮かぶ。
「いや、そんなことは話すべきじゃなかったな。忘れろ。ともかくアイツには、ノーリには今は迷ってほしくない。あいつの信念を貫いてほしんだ」
「どうしてですか?」
「あいつは救いたい人間がいるんだ。そのためには今は強さを求めるしかない」
「救いたい…人?」
今のノーリに救いたいと思うくらいの人物がいるということに驚いた。いや、驚き以上に、なにか、ショックのようなもやもやした気持ちがアインハルトの中に生まれる。
「詳しくはアキラにでも聞け。ノーリに聞いても話しちゃくれねぇよ」
「でも、私はノーリさんを救いたいと…」
いつも間にかアインハルトの前には誰もいなくなっていた。時間も動き出し、ノーリは歩いて屋上から出て言っていた。
屋上に吹く風の音に交じってリュウセイの声が聞こえてきた。
「今はまだ、その時じゃない………」
「…」
(ノーリさんは、以前と比べて大きく変わった…それは……)
◆◆◆◆◆◆◆
-数日後 第一会場-
『4回戦のスタートとなります予選2組の試合!地区予選最大の注目試合は特別日程のプライムマッチで開催されております!』
会場内にはいつもに増して熱気が漂っていた。全試合一発KOで終わらせているスーパールーキーと無敗のチャンピオンとのプライムマッチ。盛り上がらないわけがない。
「なんや、注目されて恥ずかしいなぁ…」
控室でチャンピオンであるジークはもじもじとしていた。
「仕方ないでしょ。チャンピオンの試合なうえに相手はスーパールーキー。…あなたが負けるとは思ってないけど油断しないでね」
ジークの知り合いであるヴィクターが釘を刺した。
「うん…全試合秒殺なせいでほとんどデータがないけど、あれは間違いなく古流武術。この間負けちゃったアインハルトちゃんとおんなじやね。判断力、観察力、パワー、スピード、テクニック。どれをとってもずば抜けてる勝っても…笑わへん理由は何なんやろか」
「…あまり、相手に入れ込みすぎなようにね」
ヴィクターがジークの性格を考えて忠告する。
「うん大丈夫…。あ、もうこんな時間か…ありがとな、ヴィクター。行ってきます」
ジークはいつも通りに会場に向かっていった。そんな姿を見てヴィクターは仕方ないか、という表情を浮かべる。
-試合会場-
『予選2組4回戦プライムマッチ!ブルーコーナーからは4戦4勝!全試合が秒殺!正しくスピードスター!期待のスーパールーキー!!「覇王流」ノーリ・ナカジマ!!!」
「レッドコーナーからは前々回大会の覇者!未だ無敗の総合魔法戦技チャンピオン!!ジークリンデ・エレミアァァァァァァ!!!!」
「「「「「「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」」」」
会場が揺れ動くほどの歓声が響き渡った。
「凄いわね…」
まさかこれほどとは、という表情でウーノが驚く。
「飲まれるなよ。ノーリ!」
「問題ない。相手が誰だろうと叩き潰すだけだ」
いつも通り冷静に対応し、リングに上がろうとしたとき、背後から大きな、元気な叫び声が聞こえた。
「「「「「ノーリさん!ファイトーーーーー!!!!」」」」」
アインハルト、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、そしてミウラからの声援だった。ノーリは振り向かずに拳を上げて反応した。
『おおっと小さなチームメイトたちからの熱い声援!ノーリ選手の応援メンバーも豪華な顔ぶれ!ノーリ選手これは心強いでしょう』
その姿を見ながら二人はリングインをした。ジークのセコンドとなったエルスが今回の試合について相談した。
「さてチャンピオン、今回の試合はどういった組み立てで?」
「いつもと同じや。エレミアの技で楽しませてもらうよ。見てくれるみんなのことも」
ジークは向かいに立っているノーリのことを見た。
「あの子のことも!」
二人はリングの中央に向かい、試合開始の準備を進める。
『予選2組プライムマッチ!試合開始です!!』
試合開始の合図が鳴り響き、二人のライフが表示された。
ノーリ・ナカジマ LIFE 20000
ジークリンデ・エレミア LIFE 20000
「…」
ノーリとジークが構える。ノーリにとっては緊張の一瞬のはずだ。しかし今の彼にはそんなことは関係ない。ただひたすらに目の前の相手を叩き潰し、勝利を奪い取る。ノーリの心にあるのはその一点だけだった。
ノーリは先制を取り、ジークに突撃した。
(速い!)
「はぁぁぁぁ!!!」
ノーリはいつも通り一撃にて終わらせるべく、ジークの鳩尾を狙って覇王断空拳を放つ。
「覇王!断空拳!!!」
本気で、一撃で終わらせるために狙って放った断空拳はジークにガードされた。ガードされたどころかダメージすら入らなかった。
「…っ!」
ジークはノーリの腕を弾き、魔力弾を精製してノーリに打ち込んだ。ノーリはその攻撃を紙一重で躱し、反撃に出る。
その反撃を、ジークは受け止め次の技につなごうとした。ノーリはそれを瞬時に警戒し、掴まれた腕とは逆の腕でジークの顔を掴んだ。それにより、ジークは一瞬視界を塞がれる。その一瞬でノーリはジークの顎に膝蹴りを当てて脱出した。かと思われたがノーリが離れた瞬間に魔力弾をノーリに撃った。ノーリは脱出することに手いっぱいでそれは避けることも防ぐこともできなかった。
「…」
ノーリLIFE20000→19820
「…」
ジークLIFE20000→19820
ノーリは腕の魔力弾が命中し、焦げ付いた場所を払いながら思った。
(さすがに一撃では終わらなかったか…さすがはチャンピオンか……ジークリンデ・エレミア…)
『いきなり瞬きすら許されな接戦!ノーリ選手のこれまでの秒殺記録に泥を付けたのはチャンピオン!さすがチャンピオンです!』
「今の一瞬、判断できたのはさすがやな」
「…」
ジークはノーリに笑いかけた。しかしノーリは反応しない。
「君の試合を見たときから、君のこと気になっとったんよ。きっとウチ等は似てるって」
「黙れ」
ノーリは構え直してジークに告げた。
「お前は俺になんか似てない。いや、似ることなんて……できるものかっ!」
その言葉に、ジークは少し苦い表情をしたがいつもの笑顔に戻った。
「………まぁ、今は試合中やお話はあとでにしよか」
そう言ってジークは魔力弾を複数出現させた。
「エレミアの技、受けてもらおうかー」
「エレミア…」
その魔力弾は通常の魔力弾ではない。その密度は見ただけでもわかるほどの高密度。いうなれば紙のボールと鉄球くらいの違いだ。
「あれ、受ければ最悪ダウンしますよ」
ウーノが冷静に判断する。大丈夫なのかどうかを確認するようにノーヴェに言うが、ノーヴェは別に心配していない。それは会場で見ているヴィヴィオ達も一緒だ。
「ノーリさんにはあれがある!」
「…」
「ゲヴェイア・クーゲル………ファイアっ!」
複数の魔力弾がノーリのいた位置に撃ち込まれ、爆煙が舞う。そして、ジークは最後の一発を構える。
「カノーネ!」
トドメを刺そうとしたとき、爆炎の中から魔力弾が飛び出してきた。
「!!」
突然のことにジークはとっさにそれを弾く。
(返してきた…っ!?でも…)
爆炎が晴れたがそこにノーリはいない。
「!」
「おぉぉぉぉ!!!」
ノーリはジークの背後から襲撃した。ノーリはがら空きのジークのうなじに蹴りを放った。だがノーリの攻撃をジークはぎりぎりで防ぐ。
「くっ!!」
「……すげぇな。あのノーリとかいうの」
「そうね…」
観客席のハリーとヴィクターが二人の試合を見ながら話していた。
「攻撃の瞬間、ジークのあの高密度の魔力弾を投げ返し、爆煙に紛れて背後に回る…技術もさながら、スピードもまさかここまでだなんて……まぁ、ジークも十分に反応しているけれど…」
リング上のジークは、今度は逃れられないようにしっかりと受け止めた足を掴み、離さずに抱え込む。
「せぇーの!!」
ノーリは投げ技を食らい、倒された。
『投げぇーーー!!そしてそこから、関節技!!!』
さらに関節技を行われ、ダメージが上乗せされる。
ノーリLIFE19820→16110
「…っ!!」
ノーリは関節技を受けながらも拳に力を溜め、関節技の形の関係上目の前にあるジークの足の脛に向かって全力の一撃を加えた。
(突衝牙!)
「!!」
ジークLIFE19820→18750
ダメージ自体は大したことはなかったがジークが痛みで関節技を緩めるほどのダメージだった。その隙にノーリは逃げ出し、構えなおす。
だがジークも逃がさない瞬時の立ち上がりと同時にノーリに再度投げ技を食らわすために飛びつきに行く。しかし、ノーリはそのジークが身体に触れようとしたときにそれより早くジークの懐に入り込む。
「っ!」
「はぁ!」
鳩尾に一撃。ジークが反応する前に撃ち込んだ。そのダメージは中半端ながらも確実にジークの体内に響いた。
ジークLIFE18750→16110
「けほっ…あはは、やるなぁ…。中々目がいいやんね」
ジークは撃たれた鳩尾を押さえながら笑った。
「その笑みは強者故の余裕か」
その笑顔を見て、ノーリはほとんどダメージも入ってないことと、笑顔はごまかしでも何でもなく、本当に笑ってるだけだと感じた
「あ…ごめん失礼やったかな?ウチ、強い子との試合は楽しいし、君にも楽しんでほしいかなーって」
「楽しむ…?だったら今度はその薄ら笑いもできないように潰してやる」
「おー怖いなぁ…。ていうか逆に聞いていいかな?」
「…」
「なんで君は笑わへんの?」
続く
次回!(もしくは次々回)現在更新がなくなってはいますが連載中の「とあるギンガのPartiality」で大暴れしたあの人物が再登場!お楽しみに!