第四回戦が開始され3分も経っていないのにノーリとジークは大接戦を繰り広げていた。そしてノーリは試合中にジークになぜ笑わないかを聞かれた。
「…俺が?」
「君の試合、見せてもらったけど、勝っても、仲間の声援を受けても、君は絶対笑わない…それは、どうして?」
ジークに聞かれ、ようやくノーリは自身の身体に起きている異変に気付く。自身が笑ってない。記憶を辿ってこれまでの自分を思いだす。
いつから?
なぜ?
「…笑って……ない?」
ノーリは動揺を始めた。その動揺に気づきジークは深入りするべきではないと感じた。
「…試合中に話すことやなかったね。じゃあ、こうしよっか、ウチが勝ったら君の話を聞かせて?」
ノーリは深呼吸をしてからさっきまでのことを割り切り、構えた。
「勝手にしろ。勝つのは俺だ」
さっきまでの調子に戻ったようでジークは安心した。そしてぐりんと腕を回す。
「ほんならスパーンと殴り合おか!実はヴィクターともハリーとも、これで仲良くなったんや。さーいくよ?」
「…」
「鉄腕、解放」
ジークが自身の拳に口づけをすると、魔力があふれ出して拳からひじ上までを包む鎧が展開された。その魔力に当てられ、そして「鉄腕」を解放して構えたジークの姿を見て、ノーリの記憶が蘇る。
ノーリは胸を押さえてその場でぐらつく。
「うっ!ぐっ………あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「!?」
ノーリが叫ぶと足元に魔法陣が展開され、身体から虹色の魔力があふれ出した。
『おおっとぉ!ジーク選手の鉄腕開放とともにノーリ選手も魔力を放出!なにか奥の手があるのでしょうか!?』
「ぐ…うう…」
ノーリの眼は紫と赤のオッドアイになり、全身に虹色の魔力を纏う。
「ちょ…大丈夫?」
「君、大丈夫かい?」
ノーリは胸を押さえながら冷や汗を流している。ただならぬ状態に、レフェリーは当然ながら、対戦相手のジークも心配する。
「はぁっ……はぁっ…はぁっ………問題…ねぇよ…」
ノーリはレフェリーの腕を振り払い、ジークの前に立つ。
「調子が悪いなら、棄権した方がええと思うよ?ウチも、コレ出したからには加減が難しなるからな」
ジークがノーリのことを思って警告する。だが、ノーリは聞く気がないのか再び構えて動かない。
「……わかった。ならいくよ」
ノーリの意思を読み取ったジークは動いた。すべてを破壊するその拳を以て。
『チャンピオン動きました!そしてノーリ選手にラッシュラッシュ!』
ノーリはジークの攻撃をまずは腕のガードで受けた。しかし、鉄腕での攻撃はただのパンチすら破壊力は何倍にも膨れ上がらせていた。
「っ!」
ノーリLIFE16110→15130
CE 右腕中度打撲
「ふっ!」
「ぐぅ!」
ノーリLIFE15130→14020
ダメージでガードが甘くなったその一瞬を狙い、ジークはノーリの腹部に強めの一発を入れる。
「!!」
「シュペーア・ファウスト」
ノーリはその一撃で吹っ飛ばされ、リング外の壁に激突した。
『決まったー!ノーリ選手、動く暇すら与えられずにリングアウト!』
「…」
◆◆◆◆◆◆◆
一目惚れって訳じゃない。
そもそも、本当に好きなのかもよくわからない。
だが少なくとも、俺はアインハルト・ストラトスという少女を助けたいと思った。
彼女から記憶を受け取って、日々の中で見る夢はいつもイングヴァルトの記憶。彼と、彼が好意を寄せ、そして友として、戦友として関わり深かった聖王オリヴィエとの記憶。
彼女は生まれたときから腕がなかった。それでも一国の王として武術を身に付け、如何なる時も強くあった。最終的に、イングヴァルトすら敵わない程に。
だから、彼女は、オリヴィエは、ゆりかごの王となった。
だが、ひとつだけオリヴィエを王にしない方法があったかもしれない。
ある出会いさえなければ。
彼女は腕がない。だから当然義手をしていた。しかしそれは技術の未発達故に粗悪品と呼べるものだった。
そんな中、ある友が渡してくれた義手はとても良いもので、彼女はより強くなった。
それさえなければ、彼女はゆりかごの王にならなかったかもしれない。
それさえなければ、彼女は守られる存在として強さを得なかったかもしれない。
それさえなければ、何百年と後悔することもなかったかもしれない。
それさえなければ、ヴィヴィオが生まれ、ヴィヴィオ含め多くの人間が悲しんだJS事件も起きなかったかもしれない。
それさえなければ、もっと良い過去があった。
それさえなければ、よかった。
そいつさえいなければ
◆◆◆◆◆◆◆◆
「…」
ノーリは立ち上がり、リングに向かって歩く。
ノーリLIFE10490
CE 腹部強度打撲
「君、大丈夫かい!?」
「ノーリ!おいノーリ!」
心配して駆け寄ってきたレフェリーとノーヴェ達を無視してリングに上がる。
「ノーリ!」
「…」
ジークも黙ってノーリを見つめる。一応試合続行の意思はあると見て試合は再開された。
「エレミアの末裔」
「!?」
ノーリがようやく口を開いた。その言葉に魔力派がのせられているのではないかと言うくらいノーリには魔力が満ち溢れていた。
「これより、貴様を倒す。全力にて来るがいい。全力の貴様を倒した上で、その忌々しい腕の鎧を砕き、四肢を潰し、我が前に平伏させる。喜べ、絶滅タイムだ」
その言葉を口にしたのを皮切りに、ノーリの瞳は両方とも赤に変わり、全身を覆う魔力は色が虹色から黒へと変わった。
「……なるほど、ウチのご先祖様関係みたいやね…でも、全力のエレミアを相手にして五体満足で帰れると思ってもらったら困るよ」
刹那、ノーリの視界からジークが消えた。瞬時に移動し、ノーリ死角から攻撃を仕掛けた。
しかし、その攻撃をノーリは避ける。
「!」
「図に乗るなよ。塵芥」
完全なる奇襲を避けたことに全員が驚く。ノーリはジークが次の手を出す前に反撃した。
左のパンチ。ジークはそれを避けようとした。だがノーリはその拳を寸止めし、蹴りでジークを吹っ飛ばす。
「…っ!」
ジークLIFE16110→12630
「…はぁ!」
「…」
ジークの反撃。ノーリは再びそれを避け、カウンターを決めた。さらにほぼ同時にももに一撃入れ、バランスを崩した瞬間に膝蹴りをジークの顎に叩き込んで上にあげた。
「速い………筋肉の動きを最低限に、尚且つ最高の力で打撃を打ってる」
観客席のミカヤがノーリの動きを解析する。
「でもなんだか…」
「うん…」
「怖い…」
上空に飛んだジークが動く前にノーリは上空へ飛び、彼女をリングへ蹴り落とした。
『ダ、ダウーン!!なんということでしょう!今回初参加の新人がチャンピオンをリングに寝かしました!誰がこのような事態を想定できたでしょうか!』
ジークはダウン判定を取られ、カウントが数えられ始める。
「…まずいわね」
「え?」
「ああ、まずいな」
観客席にいたジークと関わりのある全員が眉を寄せた。
「今の一撃で、多分ジークが切り替わる。みんな、よく見ておくんだ。今からエレミアの神髄が見れるからね」
ミカヤがヴィヴィオ達に伝えた。
ダウンしたジークがゆらりと立ち上がる。その表情にはさっきのような気さくな笑顔はない。冷徹な瞳だけだった。
「ノーリ!ガードも反撃もなしだ!何が何でも避けろ!!」
セコンドのノーヴェが叫んだ。しかしノーリは返事も何もない。
「ノーリ!!!」
「ガイスト・クヴァール」
ノーリの前からジークが消えた。そして魔力を纏った鉄腕ですべてを破壊するべくノーリの背後に現れた。
「ノーリ!!!!」
「ノーリさん!!!」
「避けろ!!!!」
ジークを知る誰もが避けようともしないノーリを見て「終わった」と悟る。
だが結果は違った。
ノーリはジークの一撃を受け止めていた。片手で。全力で受け止めたわけでも、捨て身で食らったわけでもない。その証拠にダメージ判定が一切出ていない。
「…なるほど、イレイザーの魔法か。正しく破壊者にふさわしい魔法だ」
ジークはすぐにノーリから離れた。
「だが、まるでこの我を倒すには程遠い」
ノーリは一瞬でジークの目の前にまで飛び、腕を振り下ろした。ジークはガードではなく反撃で対応するが、弾かれたのはジークだった。
「!」
「終わりだ」
ジークがもう片方の腕でノーリに攻撃を仕掛けるが、それは目にもとまらぬ速さで放たれた裏拳で無力化された。しかも左腕が無力化されたことを悟り、飛んで逃げようとしたが同じ要領でジークは右足も潰される
ジークLIFE12630→11420
CE 左腕右足感覚麻痺
「極星撃」
そして動けなくなったジークに今まで見せたこともない技を放った。ジークはまだ動く右腕でガードを図ったがそのガードも虚しく、ジークはリング外の壁に叩きつけられた。
ジークLIFE11420→3210
CE 右拳粉砕骨折
『チャンピオン!リングアウトーー!!!!!ですが、ここで1ラウンドが終了!!勝負は次ラウンドに持ち越されます!』
「…まさかジークが………」
「んな…なんなんだよあいつ…」
観客席のハリー達がノーリを恐れを持った目で見た。ラウンドが終了し、壁まで吹っ飛ばされたジークにセコンドたちが駆け寄る。
ノーヴェは未だにリング状に立っているノーリの方を見た。しかし、ノーリは頭を押さえて俯いている。
「ノーリ…?」
「うぅぅ……ぐぁぁぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ノーリは上を向いて、吠えた。足元に魔法陣が展開され、大量の黒い魔力が上に向かって放出された。その魔力派は会場全体に影響を与えるほどだった。
「!?」
「なんだこれ!?」
「…ノーリっ!」
「…………これ…なん?」
ジークが自身の腕を見て驚く。自身の腕から魔力が流れ出し、それがノーリも元へ吸収されていた。
会場内を見渡すと同じような現象が起きているのはジークだけでなかった。ヴィヴィオ、ヴィクター、アインハルト、そしてアキラ。見知らぬ一般人数名が同じ状態だった。
「アキラ君…大丈夫?」
ギンガがアキラに訪ねる。
「………ギンガ、「黒星」出してくれ。さすがに止めたほうが良さそうだ」
「…うんっ」
ギンガはブリッツギャリバーから黒星を出現させた。これはギンガがカルナージでの模擬戦で使用した刀だ。この刀の本来の持ち主はギンガではなくアキラだったのだ。
「さてと…」
アキラはギンガから黒星を受け取ると、懐から拳銃を取り出し会場を撮影しているカメラを全て狙い撃つ。
一方リング上ではノーリがいまだに魔力放出とを続けていた。
「感じる…感じるぞ……この場に古代ベルカの血を、魔力を、記憶を引き継ぐものは大勢いるな…っ!」
ノーリは一通り会場内を見回した後、ジークを見た。
「だが、まずは貴様の息の根を止めなければな…」
「ノーリ!?」
ノーヴェが慌てて止めに入ろうとしたが、ジークに近付くノーリの背後に、黒い刃が煌めいた。
「アクセルスラッシュ」
ノーリはその気配にギリギリ気づき、回避した。攻撃してきたのはアキラだ。アキラの攻撃でノーリな魔力放出と吸収は止まる。
「何やってんだオメェ」
「…貴様……図が高い。平伏せ」
ノーリは腕を振り上げ、イレイサーの魔力砲を放った。イレイサーが放たれた瞬間、アキラはノーリの背後を取っていた。
「お前ノーリじゃねぇな。誰だ?」
背後から喉元に刀の刃を当ててアキラが尋ねた。
「はて……我は誰だ?」
「なに?」
その時、アキラに向けて魔力弾が飛んできた。アキラはすぐさまそれを避けた。すると、アキラとノーリの間に一人の男が上空から降ってきた。
「!?」
「…?」
「我が王。少々お眠りを」
男がノーリの方を向いて笑う。その瞬間ノーリの首に麻酔弾が撃ち込まれ、数秒後に意識を失って倒れかけるが、男が支えた。
「てめぇ!!」
アキラは黒星で男に切りかかったが男は瞬間移動で消えた。
「…どこに………」
「ここだよ。アキラ・ナカジマ」
男はノーリを抱えながら会場に設置されている大画面の上にいた。男だけでなく数人の同じ様な格好の仲間と思われる人間も数人いる。
「我々の名はアーク!クラウド・F・オーガスに支援をしていた組織である!結局管理局を潰せなかった彼女に代わって、今度は我々が宣戦布告しよう!」
二ヶ月前このミッドチルダで起こった黙示録事件。その首謀者であるクラウド・F・オーガス名前を出した。どうやら新たな犯罪者達のようだった。
「はっ!くだらねぇ!ノーリは返してもらうぞ!!」
アキラは刀を構え、翼を出した。そして大画面の上まで一気に飛んだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
「遅いよ」
男たちは次元転移魔法で消えた。ギリギリで間に合わずアキラの刀は空を切った。
「…くそっ!」
◆◆◆◆◆◆◆
数分後、会場には管理局員が集まっていた。前代未聞の事件であるDASS試合中の誘拐事件。大きなニュースになるだろう。
「にしても、あんたらほんと色々事件に巻き込まれるわねぇ」
事件担当捜査官としてギンガの同僚であるメグが来ていた。
「ほっとけ」
「アキラ、ギンガ。どーせあんたらは止めても、特にアキラは勝手に捜査するだろうって。これ渡せって上の人間に言われたわ」
呆れ顔でメグは二人に捜査許可証を渡した。
「…ああ。ありがとな」
「ありがとう…」
「それ持ったらさっさとあんたらは行きなさい。此処は私らで捜査するから」
「ん?どこに?」
「…………この事件を最も知ってるであろう人間のところよ。関わり深いあんたらの方が話を聞けるだろうって。許可証渡した最大の理由がそれよ」
-海上隔離施設-
アキラたちは久しぶりに海上隔離施設に来ていた。海上隔離施設のある部屋に来るのは、ナンバーズの更生授業を行っていた以来だろうか。
「…」
アキラとギンガは扉を開け中に入る。
「………待っていたぞ。久しぶりだな」
部屋の中で二人を待っていたのは、黙示録事件の首謀者、クラウドだった。
はい!前回言っていたのはクラウドのことでした!!無印(前作:とあるギンガのPartiality)を読んでない人向けに説明を作っておくかもしれません。次回もお楽しみに