108部隊のアキラ・ナカジマは、最近ミッドチルダを騒がせているストリートファイター、『覇王』とノーヴェの「喧嘩」に割り込んだ。
イングヴァルトと名乗る少女はアキラに全力の「覇王断空拳」を放つが、アキラはびくともしなかった。
-イングヴァルトが気絶する少し前-
イングヴァルトは自身の必殺技、「覇王断空拳」が効かないことに驚愕し、大急ぎで後ろに飛んだ。
刹那、アキラはイングヴァルトの真横に飛んだ。イングヴァルトとノーヴェが一瞬目を離した隙にだ。
イングヴァルトがアキラの存在に気づくか気づかないかくらいのタイミングで、アキラはイングヴァルトに声をかける。
「ちょっと痛かったぜ」
その声でアキラに気づいた瞬間、アキラはイングヴァルトの顔の目の前で手を叩いた。
死が訪れるかもしれない恐怖の中、極限まで緊張の糸は張りつめられ、脳はたくさんの情報を取り入れようと無意識のうちに五感を張り巡らせる。
そこに大きな音を目の前起こされると柏手の音でも脳に衝撃を与える。
イングヴァルトがその衝撃を食らって目の前が真っ白になった瞬間、間を開けず、アキラはイングヴァルトのうなじを手刀で叩いて気絶させた。
倒れかけたイングヴァルトをアキラは支えてやる。
「あい、いっちょあがり」
「はえぇ…」
ノーヴェは戦うまでもなく終わらせたアキラに驚いていた。
気絶したイングヴァルトは武装形態が解除され、少女の姿に戻る。
「やっぱ変身魔法だったか……おいノーヴェ」
アキラはノーヴェを呼んだ。
「ちょっとこいつの服とか漁れ。なんか身分証明になるものなきゃ家に届けられねぇ」
「へいへい」
相手はまだ少女なので男のアキラがやたらに触るものではないと、ノーヴェに任せる。
ノーヴェが身体チェックをするとポケットから鍵が出てきた。
「持ってんのはこれだけっぽいな…」
「貸しロッカーのキーか。このカラーと形…たぶん駅前の古い型やつだな。ちょっと荷物持ってくるから。その子俺の家に運んどいてくれ。ゲンヤさんには俺から連絡しておく」
「わかった」
「ああ、俺の買い物袋忘れんなよ」
「わかってる」
◆◆◆◆◆◆◆
-翌朝 10時42分-
「ん…」
イングヴァルトと名乗っていた少女は、知らない部屋の中で目を覚ました。
「……ここは?」
目を覚ました彼女は昨日の記憶が曖昧だった。なんとか思い出そうとしているとき、部屋の扉が開かれた。
「あら、起きた?」
赤ん坊をつれた髪の青い女性が部屋に入ってきた。ギンガだ。
「あの…ここは……いったい」
「ここは私と…」
「俺の家だ。お目覚めかい?覇王様?」
ギンガの後ろからアキラが顔を出す。
アキラの顔を見てイングヴァルトはすべてを思い出す。ノーヴェに勝負を申し込んだこと、そこに割り込んできたアキラに全く敵わなかったこと。
「アキラ…ナカジマ…」
「おう。覇王ハンディ・E・S・イングヴァルト改め、St.ヒルデ魔法学院中等科1年生、アインハルト・ストラトス」
「ごめんなさい。ロッカーに預けてあった荷物、回収させてもらったの。大丈夫。全部持ってきたから」
「…そうですか」
アインハルトはどこか気まずそうにしている。
「まさか正統派のイングヴァルトの子孫に会えるなんて思ってなかったぜ」
アキラにイングヴァルトの子孫だということを言われ、少しアインハルトは驚く。
「…どうしてそのことを」
「その髪の色と左右で違う色の瞳、俺に当てた技。イングヴァルトの血統を持つ者の特徴だ」
「……物知りなんですね。あまり一般常識ではないと思うのですが」
「ちょっとばかし古代ベルカについてはツテがあってな」
三人で話してると、部屋の扉がノックされ、セッテが入ってきた。
「アキラさん姉さん。朝食の準備が……あ、アインハルトさん。目を覚まされたのですね。おはようございます。初めまして、セッテ・ナカジマです」
セッテはアインハルトが起きてるのを確認すると、笑顔で挨拶した。
「ど、どうも…」
「まぁ事情やらなんやらはあとで聞かせてもらうからよ。とりあえず飯食って一緒に学校に行ってこい」
「……一緒に?」
アインハルトはアキラたちと一階の居間に降りて、扉を開けると既に一人、食卓に座っている少年がいた。ノーリだ。
「あ…」
「よっ」
「ノーリさんは……アキラさんのご子息だったんですか!?」
「んぁ?あー…まぁそんなとこだ」
本当は違うが、説明すると長くなるし色々複雑なのでアキラは流した。それから全員で席に着き、朝食を食べてセッテは管理局に、アインハルトとノーリは学校に向かった。
-登校中-
「にしても襲撃犯がお前だったとはな」
「…ご家族にご迷惑をおかけして…すいませんでした」
登校中、アインハルトとノーリは話していた。アインハルトはアキラたちに迷惑をかけたことに申し訳なさを感じているらしい。
「あ?気にするなよ。あいつらにとっちゃそれが仕事だからな」
「はい…」
ノーリはアキラたちが別に迷惑していないことをわかっていたから別にアインハルトを攻めたりもしなかった。それに、ノーリはそれ以上に気になっていることがあった。
-放課後-
放課後、授業を済ませたノーリとアインハルトはナカジマ家に帰ってきた。
「ただいま」
「お邪魔します…」
「お帰りなさい」
帰ってきた二人をギンガが迎えた。二人は居間のテーブルに座っているアキラの前まできた。居間には他にスバルとノーヴェがいた。
「よっ」
「あ…ノーヴェさん」
ノーヴェはこの騒動に巻き込まれた一人でもある。ティアナは一応連続傷害の一件を纏めるために、そしてスバルはティアナにくっついてきたのもあるが、妹を心配してっていうのもある。
スバルとティアナも非番なのでこれといって迷惑の被る話ではない。
三人が席に着くと、ギンガは焼いておいたクッキーと紅茶を持ってくる。
「はいどうぞ」
「あ、お構い無く…」
「食べながらでいいから、お話聞かせてもらえるかな?」
アインハルトは小さく頷いた。
「で、なんだ。自分の強さを知りたいんだっけか?あとは聖王と冥王について聞いてたらしいが?」
アキラはとりあえずノーヴェに聞いておいた情報を話して事実確認をする。
「強さを知りたい…。確かにその通りです。私は、古きベルカのどの王よりも強くあること……それを証明したいんです……」
「それは…どうして?」
ギンガが訪ねた。アインハルトは少し俯いてから話を続ける。
「……かつて、武技において最強を誇った一人の王女がいました。名をオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。後の「最後のゆりかごの聖王」と呼ばれる存在になった人です。覇王イングヴァルトはオリヴィエに勝利することができなかった……」
「……………それで?冥王はともかく、聖王はクローンだし、人格もたぶんまるで別物だ。今の時代の二人を倒したところで意味がないのはお前もわかってるんじゃないか?お前自身がイングヴァルトとは違うように」
アキラが指摘をする。アインハルトが知らない可能性もあるが、普通に考えてこの時代に生きてるクローン、ヴィヴィオが数百年前のオリジナル、オリヴィエと同じとは限らないのはアインハルトはなんとなくわかってるだろうと思ったのだ。
「確かに私はイングヴァルトとは違います。今の時代の二人に会ってどうしたかったかといわれても、自分でも、わからないのが現状です」
おそらくアインハルトも二人を叩きのめしたいのではない。どうにかして覇王が一番上なことを証明したかったのであろう。
「ですが………私はどうしても、強さを証明したかったんです…。覇王の血は、歴史の中で薄れてますが、時折その血が色濃く蘇ることがあります。アキラさんの指摘した通り、この目と、碧銀の髪、覇王の身体資質と覇王流(カイザーアーツ)…それらと一緒に少しの記憶も受け継いでいます」
「記憶?」
「はい……特に濃いのは、あの日の記憶…。私の記憶にいる彼の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せる…そんな王であること。弱かったせいであの日、彼女を救えなかった、守れなかった……そんな後悔が、数百年分、私のなかにあるんです…」
アインハルトは涙ながらに訴えた。今のアインハルトはアインハルトとしての人生を歩めていない。毎日のように見るかつての記憶に縛られ、イングヴァルトの生まれ変わりのような人生を送っている。
「……なるほどね」
話を一通り聞くと、場の空気はすっかり重くなっていた。ギンガは念話でアキラに相談する。
(アキラ君、どうしようか。このままもう街中で決闘しないようにって注意して終わらせるのは簡単だけど…)
(さすがにそれで終わりって訳にゃいかねぇだろうな。余計なお世話かも知れねぇが、関わっちまった以上放っておく訳にもいかねぇだろうよ)
どうしようか、スバルたちにも念話で聞きながら相談していると、ノーリが口を開いた。
「…だったら、とりあえず闘ってみるか?聖王と」
「え?」
「聖王のクローン、高町ヴィヴィオ。戦ってみたらどうだ?」
「い…いいのですか?」
「ノーヴェ。いいよな?」
ノーリは一応師匠的立場にあるノーヴェに尋ねた。
「そうだな…ヴィヴィオが何て言うかにもよるとは思うが…」
ノーリはアキラたちを見た。この提案になにか問題はないかと目で訴えたのだ。それにギンガが答える。
「アインハルトの問題は、正直なところ解決する術はないと思う。過去の歴史に介入はできないし……私たちが…ううん、あなたがとれる道は二つ」
「二つ…」
「私たちと一緒にやれることをやってみるか、イングヴァルトの記憶を消すか」
「記憶を消す…?」
ギンガの提案に、アインハルトは驚いた。当然だ。そんなことを気軽に提案できるわけがないからだ。驚いているアインハルトにアキラが説明を加えた。
「俺はちょっと特殊な魔法が使えてな。記録や記憶を書き換えることができる。もちろん人間の記憶に干渉もできる。どうする?俺は正直なところ、これは最終手段だと考えているが?」
「……」
アインハルトは答えを出すのに戸惑っているように見えた。その様子を見てアキラはそっと助け船を出す。
「まぁ、そんな焦って決めるもんでも…」
「いえ」
アキラの言葉をアインハルトが遮った。
「やらせてもらえませんか?聖王…いいえ。ヴィヴィオさんとの戦い」
続く