「はぁ、はぁ…………」
島に生えた樹木、ファンタジーツリーは消滅を初めていた。アレスは倒され、完全に気絶していた。
「全部………終わったの?」
「ああ。終わったんだ」
アキラは肩の力が抜けていないアインハルトの頭に手を置いて気を落ち着かせる。成り行き且アキラがいるとはいえ、命の取り合いをしたのだ。気張る筈だ。
「ア、アキラさん………」
「もう終わった。大丈夫だ」
「は、はい……」
アインハルトは急に気が抜けてへなへなとその場に座り込んだ。アキラは意識を失ったアレスに魔力錠をかけて捕獲する。ギンガもアインハルトのそばでメンタルケアを行っていた時だった。ずっと気を失っていたファビアがようやく目を覚ました。
「ん………」
「………」
しかし、ファビアのすぐ近くにあった柱にひびが入り、崩壊を始めた。
「!!」
「ファビアさん!」
「魔女っ娘!?」
ヴィヴィオとジークの叫びでアキラたちも気づき、ギンガは走り出し、アキラはファビアに向けて結晶を飛ばした。
だがそれよりも早く、ファビアが瓦礫の下敷きになるより先にファビアを奪取した人物がいた。ノーリ、いや、ダズマだ。
「……良かった」
「え?」
救ったファビアを見るダズマの瞳は左右で違う色をしていた。ダズマだったときは両目とも赤だったが今は紫と、青色。
「今度は間に合ってよかった………クロゼルク」
「………クラウス?」
刹那、ファビアの脳内に記憶が蘇った。ファビアの先祖がクラウスたちと過ごした思い出。今まで夢に出ていた悲しい記憶ではなく、楽しかった思い出。
◆◆◆◆◆◆◆
-ノーリの精神世界-
まるで宇宙空間の様な、無限書庫の様な浮遊空間には三人の意識があった。一つは眠っているが、主人格であるノーリの意識、そして今ノーリの人格を支配しているダズマ、そしてアインハルトの先祖、クラウスの意識だった。
「誰かの意識があるのは知っていたが………お前か」
ダズマはクラウスの見て言った。
「………私が意思を持つには十分すぎる記憶が彼の中にあったからね」
「……だが、もういいのか。お前の子孫やクロゼルクの末裔に何か言わなくて………何より、オリヴィエの…」
「いい。この体は彼であり私ではない。今は彼らの時代だから、彼らで乗り越えていくさ。それくらいの強さを持っていることは彼を通してみてきた。それから、彼女は彼女であってオリヴィエではないよ」
「そうか………」
「これからも私たちの記憶で苦しむことがあるかもしれないが、彼なら乗り越えられるだろう……それに、世界も…任せられる相手が見つかったのだろう?」
「っ!………ああ。そうだな。時代遅れの人間が干渉するのはこれまでだ」
◆◆◆◆◆◆◆
「大丈夫か!?」
「ファビアさん!!」
すぐにその場にいた全員が駆け付けた。
「………アキラ・ナカジマ」
「!」
ノーリの瞳は再び赤になり、主人格はダズマに戻っていた。アキラはやや警戒しながらダズマに近付いた。
「なんだ?」
「お前がいてくれれば、世界は、安泰かもしれない」
「なに?」
「俺の力を打ち砕いたその鎧、その結晶、それは俺が止めて地球上に降り注いだ隕石を構成していた鉱石だ……宇宙産であれば俺が知らないのも無理はない」
エレミアの手記によるとダズマは隕石を止めたことで死んだとここに来る前に聞いた。そのことだろう。その隕石を構成していた鉱石がアキラの刀を成し、鎧を成していた。
故にダズマの力では突破できなかった唯一の壁だったのだ。
「……」
「その力と、お前の体内に眠る力……それがあれば…この世界はきっと青空のままだろう…」
「…そうかい」
「無理やり呼び出されたとはいえ、色々と迷惑をかけた。すまなかったな」
「ああ」
「この世界を、頼んだぞ」
その言葉を最後にダズマは瞳を閉じた。するとノーリの髪の色が元に戻り、全身に入っていた奇妙な模様は消滅した。主人格がノーリ戻り、ダズマの意識は消滅したのだ。
◆◆◆◆◆◆◆
-三日後-
事件が収束し、三日が経った。
アークを名乗っていた組織の人間はファンタジーツリーに捕らわれたまま意識を失っていたのでそのまま捕獲された。
アレスは魔力を一切発動できないように拘束された。とはいえダズマの意識消滅と共にアレスの力も消滅した。これ以上の被害は出ないだろう。
そして、ノーリは既に大会には出られないであろうと考えていた矢先だった。
アキラ宅にヴィクターが訪問してきていた。事件の時、無限書庫で救出してもらった礼に来ていたのだ。
「それにしても命助けてやった礼が菓子折り一つとは、お嬢様も結構庶民的なところがあるんだな」
アキラはもらった菓子をいただきながら口を滑らした。
「ちょっと!アキラ君!」
「!」
アキラはとっさに口を押えた。
「すまねぇ……ちょっと疲れててな…」
「まぁ色々、ありましたからね。仕方ないとは思いますわ。でも、口を滑らしたということはそう思ってるってことでしょうね」
ヴィクターは席を立ってアキラの座ってる横に座り、腕を抱き込んだ。アキラの腕に柔らかい感触が触れる。
「なっ!」
「命一つ分のお礼ですものね。だったらダールグリュン家跡取り娘の純潔なんかでいかが?」
ヴィクターはアキラの耳元でささやく。
「ば、そこまで求めてねぇよ!やめろやめろ!!」
「私、身体には結構自身がありますわよ?」
アキラは慌ててヴィクターの手を振りほどく。ヴィクターはクスクスと笑いながら離れた。
「お嬢様。御戯れも程々に」
「フフ、冗談ですわ♪流石にまだ結婚したての旦那を狙うほど節操なしではありませんから。それに、奥さまも怖いですし」
「はっ!」
その一言でアキラは真横にいたギンガの殺気に気づく。
「アキラ君?」
ギンガはにっこり笑顔でアキラの頬を引っ張る。戦闘機人の怪力で引っ張られるのだ。ちぎれそうな位の痛みだった。
「なんでだぁ~~~」
夫婦漫才を横目に、ヴィクターは席に戻る。
「ですが、当然こちらも菓子折り一つで礼が済むとは思ってませんわ。こちらが本日お伺いした本当の理由。エドガー」
「はい」
ヴィクターに命じられたエドガーは懐から封筒を取り出し、アキラに渡した。
「……なんだこりゃ」
「来週再開されるDSAAの試合トーナメント表ですわ」
「………?何でそんなもん……」
アキラは疑問に思いながら封筒を開けた。そしてトーナメント表を見てみるとそこには、ノーリの名前が記されいていた。それも、ジークに勝って次の試合に進むことになっている。
「これは……」
「ダールグリュン家たるもの、受けた恩は何十倍にもして返しますわ」
「お前……これどうやって」
「ダールグリュン家はDSAAに多大な支援金を収めております。さらにお嬢様が名声のある有名選手を集めてちょっとしたストライキを起こしたのです。ノーリ選手が復帰できる前に大会を再開するのなら私たちはでないと。ジーク選手は怪我してるからもう次の試合は難しいということで不戦勝という形にしました。本人も了承済みです」
「そういうこと。これで借りは返したということでよろしいでしょうか?」
「ああ…ただ、その前に解決しなきゃいけない問題があってな…」
-喫茶店-
「試合に出ないってどういうことだよ!」
「どうもこうも、本人が言っていることよ。大会は辞退して、もう選手もやめるって」
喫茶店に集まっているのはノーヴェ以外の大人たちを除いた無限書庫を探索したメンバーだ。
新たに発生した問題、それはノーリが選手をやめると言い始めたことだった。
「まぁ、なんとなく気持ちは分かるような気はするけどね。自分のせいでかなりの人間に迷惑をかけたと思っているんだろう」
「あたし等があんなに頑張って大会にねじ込んだって言うのによぉ…」
ハリーもヴィクターと共にストライキに参加したメンバーだ。まぁ主な交渉はヴィクターだったが協力したのは確かだ。
「あなたは大会役員にメンチ切ってただけでしょう」
「なんだとメガネコラ」
またハリーとエルスで喧嘩が始まりそうな雰囲気になる。ヴィクターは小さくため息をついて仲裁に入る。
「とにかく!今は彼をどうするか、よ。このまま終わりにするのか、それとも私たちでどうにかするのか」
「ウチは、このままノーリとお別れなんて嫌やと思う」
ジークが一番に言った。
「私もです!」
「私も!」
コロナとリオが続いた。それに関しては全員が同意するように
「それはきっとこの場にいる全員がそうだろうね。問題は、どうやって彼を引き戻すかだ誰かなにか考えはあるかい?」
ミカヤが先頭に立って考えをまとめようとした。そこにヴィヴィオが手を上げた。
「あの、それに関して私に考えがあります」
-病院-
「試合?」
ここはノーリの病室。そこにギンガが来てヴィヴィオ達から試合の提案があることを伝えた。
「ええ。ノーリと試合がしたいって」
「言っただろ。俺はもう選手をやめるって」
「そんなこと言わずに……」
病室の外ではルーテシアとアキラが待っていた。
「どう思います?」
「まぁ難しいだろうな。なんであんなこと言い出したか定かではねぇが、相当しょい込んじまってんだろうな」
しばらくするとギンガが病室から出てきた。表情を見るに説得はうまくいかなかったようだ。
「やっぱり本人が望まない限りは……」
「だとしてもこのままでいいわけがねぇ……無理矢理ってのは不可能じゃねぇがあんま気が乗らねぇしな……」
「説得に自信があるんですか?」
ルーテシアが聞いてきた。
「うーんまぁ、ないわけでもねぇな」
「だけど…」
アキラとギンガが話している横でルーテシアは少し考え、アキラの袖を引っ張った。
「?」
「ちょっといいですか?」
アキラはそのまま廊下の奥に引っ張られていく。
「なんだ?」
「どうぞ」
ルーテシアは顔を反らしたまま写真を二枚渡した。
「…」
アキラはその写真の内一枚を受け取り、そのまま病室まで歩いていく。そして病室の中から2人の声が聞こえてきた。
「あ、アキラ?」
「行くぞ」
「は?」
「ちょ、なにす…おおぁ!?」
病室の扉が開くとノーリを脇に抱えたアキラが出てきた。アキラはそのままノーリを連れてどこかへ歩いて行った。
「……ルーちゃんなに渡したの?」
「これを」
ルーテシアがニヤニヤしながら出したのはルーテシアの全裸の写真だった。
「!?」
「アキラさんはもう一枚のギンガさんの隠し撮りの写真を持っていきました」
「い、いつの間に…」
「えへへ、カルナージに来た時お風呂場で隠し撮らせていただきました。あ、安心してくださいアキラさんはギンガさんのしか取りませんでしたよ」
「犯罪よ…?」
ギンガは微妙な顔をしながらルーテシアに言った。
「あの日の夜のこと、正確にはギンガさんも犯罪者になりかねませんよ?おあいこです。そのうちアキラさんで遊ぶために取っておいたものですけど、まぁ今はノーリの復帰が最重要ですからアキラさんに無理矢理やってもらいました」
ルーテシアにとっては結構奥の手だったはずだ。それを使ってまでということは彼女もノーリの復帰を強く望んでいるということだろう。
-院内 トレーニングルーム-
アキラはトレーニングルームにノーリを投げ入れた。
「痛!」
「さぁ試合に向けて練習だ。もう時間がねぇんだからな」
「やらねぇよ俺は」
かたくなに断るノーリを見て、アキラはため息をついた。
「…お前が何を思ってるかなんて大体想像がつく。けどよお前が思ってる以上にみんなはお前を思ってるんだ」
アキラがそういうとノーリは少しばつが悪いような表情をした。どうやらそれくらいは分かっているようだ。
「お前が連中ともう関わりたくないってんなら勝手にすりゃいい。けどよ、ケジメ位はきっちり付けろよ」
「………わかった」
続く