俺は職員室でこっぴどく叱られ、更にアキラたちまで学校に呼ばれることになった。俺の処分は保護者であるアキラたちと話合って決めることになった。
なぜ下級生に暴力を振るったのか、その理由を俺はかたくなに言わなかったからだ。教師にいじめのことが伝われば自動的にリンネの両親にも伝わるだろうと思ったからだ。あいつの気持ちは何となくわかった。
この判断が後に間違いだったことに気づくがその時の俺は知る由もなかった。
ともかくその時はそれが正解だと思い込んでいた。俺が守ってやればいいと、できもしないことをしようと考えていた。
「ノーリ」
一人で黙秘を貫き、結果保護者との話し合いが終わるまで個室に閉じ込められてたが、そこにギンガがやってきた。
「ギンガ…俺の処分は決まったか?停学?転校?何なら檻に戻るか?」
「そんなことにはならないわ。アキラ君も私も、理由なしにあなたが暴力を振るうような人じゃないって知ってるから………だから、私にだけ何あったか教えてもらえないかしら?私たちも先生方も、理由が無きゃかばいきれないのよ」
「……誰にもいわないか?」
「私が聞いて、納得できる理由だったらそれでこの話はおしまいってことで学校と話してあるわ」
俺はギンガにだけ真実を話した。その結果、俺は無罪放免となった。だが、最後に俺の居場所が悪くなるかもしれないと告げられた。
その言葉通り、それから俺の居場所は居心地が悪くなった。噂話が広がる速度というのは早いもので、俺の学年まで広がるのは訳なかった。
正直それが何だという感じで俺は無視した。俺なんかよりリンネの方がずっと辛い。だから俺は耐えられた。そもそも俺はクラスに友人は少なかったのだから、どうでもよかった。
それから俺はなるべくリンネのそばにいて周りににらみを利かせていた。俺自身がいくら嫌われようとかまわない。せめてリンネを守ってやりたかった。そのおかげか少し悪質ないたずらは減ったように思われた。
ー1ヶ月後ー
「ノーリさん!」
一ヶ月経ったある日リンネは珍しく笑顔で校舎裏にやってきた。
「どうした?」
「実は…」
リンネが言うには、いじめをして来た三人組の中の一人が他の二人を説得していじめをやめさせるように言ったらしい。リンネはやっと安心できると喜んでいたが、俺はそうは感じなかった。
人間はそう簡単に変われない。俺みたいな最初からほとんど空っぽだった人造魔導士はともかく、ついこの間まで悪意を向けていた人間がそう簡単に変われるだろうか。
奴らの悪質ないたずらに、対しリンネは何の反応も示さず、更に俺という邪魔者の介入でさぞ彼女たちにとって「面白くなかった」結果になったのではないかと俺は考えた。しかし、やっとほっとしたリンネに厳しい現実を突きつけるわけにもいかないと思った。
それに、彼女は純粋だ。あいつらが再び裏切るなんて信じたくないだろう。
「そうか、良かったな………リンネ」
「はい!なのでもう、ノーリさんにご迷惑はお掛けしません。安心してください」
「………リンネ」
「はい?」
「これ、やる」
俺はリンネに持っていた腕時計を渡した。ただの気休めだったがお守り代わりにと思った。
「腕時計…?いえ、そんな受け取れません!」
「いいから。持っとけ」
「は、はい…」
「………気を付けろよ」
「?」
ー翌日ー
俺の嫌な予感は当たってしまった。翌日の4時間目終わりの昼休み、リンネの母であるローリー・ベルリネッタから電話がかかってきた。
『もしもし!?ノーリさんですか?』
「ああ、ローリーさん。どうも」
『実は今、お父さんが…リンネの祖父が発作を起こしていて…』
「こないだの爺さんが!?」
『はい…それでリンネに連絡入れたんですが、あの子、通信に出なくて』
「!!!」
『学校にも連絡したんですが、リンネが見当たらないって……ノーリさん、なにかご存じではありませんか?………ノーリさん?ノーリさん!?』
俺はすぐに教室から飛び出していた。嫌な予感がしていた。そしてそれがきっと当たってしまったんだと察していた。
「リンネ…!」
校内をバタバタと駆けまわっていると、階段の踊り場に落ちている紙が目に入った。本当にたまたまそれに気を引かれ、拾い上げる。
そこには「四階西トイレ」と書かれていた。さらにはこの前リンネの家で見せてもらったスクーデリアのイラストも描いてあった。
「クソ!」
四階の西トイレに到着すると、そこにはリンネが倒れていた。
「リ………リンネェェェェェ!!!!!」
それから、俺は午後の授業を無視してリンネを抱えて病院まで飛んだ。その後、病院で爺さんは息は引き取ったが、唯一幸いだったのはリンネが途中で目を覚まし、最期のほんの数分でも爺さんと話せたことだった。
ー病院待合室ー
「………」
待合室で待っていると、リンネとローリーさんがやってきた。
「爺さんは…」
「先ほど息を引き取りました…ノーリさん、本当にありがとうございました。ノーリさんのおかげで……本当に一瞬でしたが、祖父と………話すことが出来ました…」
「そうか……なら、よかった。でも、すまなかった。俺、あんたらの使用人が迎えに来てるって知らなくて……そのせいで遅くなっちまった。本当にすまなかった…っ!」
「いいんです……何も話せなかったよりずっとマシでしたから……それに、私も申し訳ありません」
リンネは俺が渡した腕時計を差し出した。腕時計は壊れ、針は止まってしまっていた。
「突き飛ばされたときの衝撃で、壊れてしまったようです……弁償、もしくは修理してお返しします」
「……いや、いい。それより、ちょっとだけ返してもらえるか?」
「………はい」
「あとで返す……少し待っていてくれ」
「………」
俺はこういう時の為にこの腕時計を用意していた。腕時計の内部に盗聴器を仕掛けておいた。無用な盗聴を防ぐために着けている人間の魔力周波数が不安定になったときに盗聴を始める仕組みだ。事件が起きたときの盗聴さえうまくいっていれば、証拠にはなる。
(証拠にはなるが………無断盗聴で少なくとも何かしらの処罰は受けるだろうな……リンネからの信頼も…)
だとしても、救いたかった。やつらに罰を与えたかった。だから俺は、すべてを敵に回す覚悟で腕時計のデータを取り出した。
ー翌日ー
俺はリンネのクラスの教室で朝から張り込んだ。予想通り、誰よりも早くリンネは教室にやって来た。
「よう」
「!」
俺の予想外の登場に、リンネは驚いているようだった。
「ずいぶん早いな」
「……いつもどおりです」
「お前が何をしようとしてるか、大体察しはついてる」
「なんの話ですか?」
「いまのお前の眼は、お金持ちのお嬢様の眼じゃねえ。血肉に飢えた野犬の眼だ」
「…」
俺は腕時計の盗聴器の話をした。うまく証拠は残っていた。そして腕時計は事故のタイミングで止まっている。これらがあれば少なくとも傷害罪で訴えられると伝えた。
しかし俺は甘く見ていた。彼女の復讐の炎の量を。
「ノーリさん私のために尽くしてくれて本当にありがとうございます。私は彼女たちに何も望みません。私が望むのは……彼女たちへの制裁です」
「…っ!」
そう言い残し去ろうとするリンネの前に俺は立ちはだかる。
「ばか野郎!あんな連中のためにお前がお前の居場所を削る必要はないんだ!俺がやつらに制裁を下す!自分のやったことがどれだけ重い罪だったか必ずわからせてやる!だからお前は動くな!俺の親は両方とも管理局でそこそこ高い地位にいる。必ず役に立つ!だからお前は…」
「……………申し訳ありません、ノーリさん」
次の瞬間、俺の腹に強い衝撃が襲った。
「がっ…」
「これは、私のケジメなんです。ごめんなさい」
俺の身体はその時、俺が暴れた事件の直後で弱っていた。普段ならいくらパワーが強いと言えど子供の力で気絶させられるほどやわではなかったはずだ。だがこの時ばかりは身体が付いていけなかった。
「ま………て……リン…ネ」
俺は薄れ行く意識の中、リンネの胸の中で歯ぎしりをした。
「ごめんなさい……」
「…」
それからしばらくして、俺は校舎裏で目を覚ました。いつもリンネと昼飯を食べていた場所に寝かされていた。身体を冷やさないためか、リンネの制服の上着を掛けられていた。そして手元には盗聴システムが外された腕時計が置かれていた。
「………リンネ!!!」
俺は大慌てでそこから動いた。どこに向かおうか考えながら走っていると何やら人だかりができていることに気付いた。そこに向かうと、救急車に運ばれる少女が見えた。
「!!」
運ばれているのは、リンネをイジメていた三人だった。状況はよくわからなかったが、少なくとも学校で負うような怪我ではなかった。
「………………」
(護れなかった……)
俺はその場に崩れ落ちた。手は尽くしたはずだった。それなのに、彼女を守ることができなかった。俺は力のなさを嘆いた。
◆◆◆◆◆◆◆
「それからだ…俺が力を求めるようになったのは」
ノーリとアインハルトの試合が終わり、ノーリはこれまでの経緯をチームナカジマや、仲間たちに話していた。ノーリは腕時計を取り出す。
腕時計は未だに壊れたままであった。
「あいつの時間は、きっとこの時計みたいに止まったままなんだ。だから、俺は…」
「そんなことが…あったんですね」
「ああ、あった。それからあいつはいろいろあってフロンティアジムに入って、この世界に入った。あいつの眼に以前のような優しさはない。あいつはまだ救われてない。だから俺はあいつを…」
「助けたい……のですね?」
ノーリの言葉をアインハルトが代弁した。
「ああ…」
「だったらなおさら、今やめるわけには行かなかったのでは…」
「力を求めた結果があの事件になっちまったって言っても過言じゃねぇ………これは俺の問題だ。これ以上、俺の事情にお前らを巻き込みたくなかった………だから俺は」
「水臭いです!ノーリさん!どうして今まで話してくれなかったんですか!?」
ノーリの態度に対して急に怒ったのはヴィヴィオだった。
「え?」
「私たちはまだまだ子供ですけど……少しはノーリさんの力になれると…思ってます。だから…」
話しているうちに気持ちが高ぶってしまったのか、ヴィヴィオの声は段々と嗚咽がかってきて来る。そんなヴィヴィオを慰めるように、ノーリはヴィヴィオの頭に手を乗せた。
「そうだな……そうだったんだよな、悪い……」
ー聖王教会 廊下ー
一通り話を聞いたアインハルトは、一旦お手洗いに行くために外に出ていた。すると、廊下でくつろぐようにたたずんでいたアキラを見付ける。
「アキラさん」
「おう、アインハルト」
「ノーリさんの…リンネさんことを、アキラさんは…」
「ああ。知ってたさ」
「…」
アインハルトの瞳には「知っていたのならなぜ助けなかった」という疑念が見えた。アキラは質問を見越して先に応える。
「だがあれはあいつの問題さ。俺は保護者だが、だからと言って全部に関わるべきじゃない。だから、お前があいつを助けてやってくれ」
アキラはアインハルトの肩に触れた。アインハルトは小さく頷いた。
「はい…っ」
「アキラさん!」
そこに、オットーが駆けてきた。
「大変です!」
続け