オットーからの報告を聞いたアキラは必死に聖王教会を走っていた。その足は、とある部屋に向かっている。そしてたどり着いた部屋の扉を勢いよく開いた。
「イクス!!!」
開いた扉の先には、未だに眠っているイクスがいた。しかし、その上には小さなイクスが乗っていた。
「イクス………」
小さなイクスは浮かび上がり、アキラに手を振った。
「どうなってんだこりゃあ………」
アキラはその光景に呆然としつつもゆっくりと小さなイクスに近付く。「それ」が何なのかはアキラにはよくわからなかったが、感覚的にイクス自身であることは理解できた。
そして、イクスの起きている姿をみたアキラは意識せず涙を流した。アキラはイクス、マリアージュが起こしたマリアージュ事件に関わっていた。かつてイクスに代わってイクスが収めていた国を治めた「アガリアレプト」の遺伝子を基として作られた人造魔導士のアキラはイクスとの関わりが自然と深くなっていた。
「あれ、涙…」
イクスはクスリと笑ってアキラの涙を拭ってやる。アキラは何とも言えない表情で笑い、小さなイクスを抱きしめた。
-翌日-
昨日はノーリとアインハルトのこともあり、アキラはヴィヴィオ達にイクスのことは話さずに翌日に連絡させた。そして今日、ヴィヴィオとスバルはその連絡を受けて大急ぎで教会にやってきた。
「イクスが目覚めたって本当!?」
「あー目覚めたっていうか…」
「実際見てもらった方が速いかな?」
スバルとヴィヴィオがイクスの寝ている部屋に入ると、そこには既にギンガとアキラ、そしてアリスがいた。
「ギン姉!」
「アキラさん!」
そしてギンガの手の上には小さなイクスがいた。スバルとヴィヴィオに気付いたイクスはふわりと飛び上ってスカートの裾を持ち上げ、小さく頭を下げた。
「あはは…」
「ごきげんよう…」
その後、イクスの状態を説明し、とりあえずいつもの面子にイクスを紹介することとなった。とりあえずイクスを連れて全員が集合している公園へと向かった。
「というわけで、改めて紹介します。イクスさんで~す」
「…へぇ」
イクスに挨拶されたがノーリはいまいちな反応だった。
「あれ?ノーリさんあんま乗り気じゃない?」
リオに言われたノーリはリオの方をぐりんと向いてこれまた微妙な表情をする。
「これを見てもなんも思わねぇのか」
ノーリは杖をついて歩いていた。昨日の決闘ではクラッシュエミュレートが発動していたが、帰宅してからフェーズが上がったバックファイアが遅れてノーリを襲い、動けなくなったのだ。それは今朝になっても変わらず、なんとか集合時間には多少動けるようになったものの、今でも動きづらいのは変わらない。
「…」
イクスは飛び上りノーリの前にまで来た。
「……どした」
イクスはノーリに頭を下げて挨拶をする。
「……悪いが俺は、あんたのことを知らねぇんだ。オリヴィエのかすかな記憶やイングヴァルトの記憶全体を探ってもあんたとの関りは…」
「違いますよ」
ノーリの言葉を遮るようにヴィヴィオが言った。
「あ?」
「イクスさんはノーリさんに挨拶をしているんです」
「…」
それを聞いたノーリは少し驚いて姿勢を正した。
「そいつは悪かった。大した愛想もないが、仲良く………友達に、なってくれるか?」
ノーリが照れくさそうに言い、指を差し伸べるとイクスはにっこりと笑って頷き、ノーリの指に小さな掌を重ねた。ノーリはこれまでアインハルトやヴィヴィオ、ダズマの事件など自身の身体の中にある古代ベルカの王たちとの関りばかりだった。正直古代ベルカ関係ばかりでうんざりしていたのだ。
古代ベルカの血縁者としてではなく、ノーリ自身に目が向けられているのは割と珍しかったのだ。イクス自身も青空と笑顔を所望しているのだ。古代ベルカのあれこれを引っ張る理由はなかった。
その後、各メンバーの紹介が終わった後、イクスを連れてプールへ行く流れとなった。
「で、なんで俺まで連れてこられんだよ」
さっさと帰ろうとしたノーリは半ば無理やり引っ張られてプールに連れてこられていた。
「リハビリ代わりにちょうどいいだろう。お前は次の試合までに身体を直しておかないといけないんだからな」
今のところDSAAで生き残っているのはチームナカジマの中ではノーリとコロナの二人だ。もうすぐ試合を控えている二人にとってもプールの運動は中々良い運動だった。
ノーリは寝ていたいようだがもうそんな悠長なことも言ってられなかった。
「それに、目の保養にもなるんじゃないか?」
そういってノーヴェはアインハルトを指さす。アインハルトは新しい水着を買い与えられていた。やる気のなさそうなノーリを見たアキラが機転を利かせて用意したものだった。
「…………俺は別に…」
ノーリは少し頬を赤らめて顔を反らした。
「ノーリさーん!」
しばらくプールサイドにいたノーリはヴィヴィオ達に呼ばれ、重い腰を上げてプールに向かった。
「へいへい」
◆◆◆◆◆◆◆
それから数日後、ノーリとコロナは準決勝へと向かった。このまま順調に勝ち進んでいけばノーリは都市本戦前の決勝でミウラとぶつかることとなる。
だが、そんなことはノーリにとって問題ではない。仲間から託された想いを背負い、前へ進むだけだ。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「はぁぁ!」
さすがに準決勝ともなるとノーリは秒殺はできなくなってきた。それはノーリの心情の変化の影響もあった。
『おおっと!ノーリ選手どうしたことでしょうか!今まで以上にやりづらい様子!』
「………っ!」
(射撃一本で鍛えた相手か………厄介だが………)
『ここでラウンド1が終了!インターバルに入ります』
ノーリはリングから降りて椅子に座る。コーチ役のウーノとディエチが駆け付ける。
「大丈夫?」
「厄介な相手ね。常に距離を保ってくる」
「いいや。これでいい」
「え?」
「最初はどんな奴かわからなかったが、どんな動きかは大体読めてきた。奴は次のラウンドも同じ手法を取って来るだろう…いや、別の手法を取ってきたって問題ない」
そういってノーリはリングに戻っていった。ノーリがこの試合に勝てば、次は決勝戦でミウラと戦うこととなる。都市本選に行けば大体知った顔になる。であればここで奥の手を見せても問題はないとノーリは考えていた。
「ノーリさん!頑張ってください!」
「ノーリさん!!」
(それに今は、アイツらの声援もある………)
以前はヴィヴィオ達の声援なんて聞こえてなかった。それが今はとても心地よく聞こえ、身体の奥底から力がみなぎって来る。
「行くぜ!」
ラウンド2開始直後、ノーリはデバイスのリューズを回し、スイッチを押した。ノーリのバリアジャケットは変化し、腕に鉄腕が装備された。
「フェーズ2………」
「!?」
対戦相手であるエリー選手はそれに驚きつつも戦法は変えずに射撃を放ってきた。しかしそれを気にせずノーリは姿勢を低くして構える。ノーリの腕には黒い魔力が溜まっていく。
「ガイスト・クヴァール」
対戦相手の視界からノーリが消えた。
「!」
次の瞬間、ノーリはエリー選手の背後に現れ、ガイスト・クヴァールを放った。その一撃はリングを抉り、エリー選手を場外までふっ飛ばした。ほぼノーダメージだったエリー選手だったが、その一撃でライフが全て削り取られた。
『決着~!ここまで不利に思われたノーリ選手でしたがここにきて奥の手が炸裂しました!』
「………はぁ!はぁ、はぁ、」
しかし、ノーリもその一撃にすべてを賭け、集中したために試合終了と共にノーリは緊張の糸が切れ、その場に座り込んだ。
「ふぅ…」
試合後、着替える為に更衣室に向かったが、その途中で観客席から移動してきたミウラが現れた。
「ミウラ」
「お疲れ様です。ノーリさん」
ミウラは試合を終わらせたノーリに労いの言葉を掛ける。
「ああ。次はお前だな」
「負けませんから」
「こっちだってな」
最初は仲間として、そして次の対戦相手として軽い交流を交わす。次の決勝戦、それは2週間後だがノーリやチームナカジマにはそれより前にやることがあった。
-St.ヒルデ魔法学院中等科-
「というわけで学園祭の出し物について厳正なる投票を行いました結果!我がクラスの出し物は「スポーツバー」に決まりました!」
ノーリ達のやること、それは学園祭だった。試合も大切だがそれ以上に学校生活も大切にすべきことだった。
(スポーツバーねぇ…まぁ悪くないかな)
基本的にノーリはこの手のイベントは乗り気ではなかったので進行はクラス委員に任せていた。
「あとアインハルトさんとノーリさんも!」
「んあ」
全く話を聞いていなかったノーリは急に名前を呼ばれて驚く。
「二人ともインターミドル選手なんだし格闘勝負のコーナーとかどうかな?」
「あ、そっか」
「すごい強いんだよね?」
「ノーリさんは決勝まで行ってるって…!」
数週間前に起きたダズマの事件は局が伏せたため、ノーリが関わっていたことはほとんどの人間が知らなかった。よってノーリはインターミドルの強い選手的な理解のされ方をしていた。
あの事件が明るみに出ていたらこんなに仲良くはしてなかっただろう。
「まぁ、腕っぷしに自信はあるが………」
「万が一お客様や私はともかくノーリさんが怪我をするといけませんし…」
「そっか、まだ試合控えてるんだよね…」
「ではこんなのはどうでしょう?」
-放課後-
「アームレスリングの選手!?」
「らしいぜ」
「なぜかそうなってしまいまして」
放課後、アインハルトとノーリはヴィヴィオたちにクラス内の出し物でアームレスリング係りになってしまったことを伝えた。
「私はともかく、ノーリさんはまだ試合が残っていますから、無理をしないようにという意味で私に勝てたらノーリさんへの挑戦権を得るという形です」
「それって…」
「ノーリさんに挑戦するの無理なんじゃ…」
「ある程度加減はしますよ」
そういってアインハルトはクスリと笑った。昔のアインハルトならこんな笑い方はしなかったろう。本当に変わったことが伺える。そんな時、遠くから手を振られる。
「おーい!」
手を振っている人物はヴィヴィオ達にとって知らない人物たちだった。
「アインハルトさーん!ノーリさーん!」
「お話し中ごめんね?こんにちは、皆さん」
「こんにちは!」
現れたのは黒髪の少女と桜色の髪の短髪の少女だった。
「私、アインハルトさんのクラスのクラス委員!ユミナ・アングレイヴです!」
「初めまして。私はただのストラトスさんとナカジマさんのクラスメイトだけど、ユミナの幼馴染のリード・S・ロノアです。よろしくね」
「今日はごめんね?急に話振っちゃって」
どうやらユミナはアインハルトとノーリに謝りに来るついでにスポーツファンなのでヴィヴィオ達に会いに来たらしい。リードはその付き添いみたいだ。
ユミナがアインハルトとノーリに話している時、リードがコロナのところへ歩み寄る。
「?」
「コロナちゃんだっけ?」
「は、はい…」
「なにか迷ってる?ううん、緊張してるのね」
「え?」
「自慢じゃないけど、私、目と記憶力がいいの。いつもと表情が違うとすぐにわかっちゃうの…………お節介だったかしら?」
「いえ………当たってるので…いいです」
「次は準決勝よね?頑張って。応援しているわ」
「ありがとうございます…」
話を終えたユミナとリードは「またね」といって去っていった。コロナが緊張しているわけ、それはもうじき行われる準決勝戦がヴィクターとの試合だからだ。
「……コロナ」
「はい」
「頑張れよ」
言葉ばかりだがノーリはそれを伝えた。コロナは小さく頷いた。ヴィヴィオ達のクラスの出し物は決まっている。魔法喫茶だが、午後の部でコロナを中心にかわいらしいゴーレムたちの出し物がある。
それに笑顔で参加するために、次の試合には勝たなければいけない。コロナは気合いを入れていた。
-数日後-
準決勝会場にコロナとヴィクターが入場する。
「さぁコロナさん、行きますわよ?」
「はい!ヴィクターさん!!」
続く