絢辻さんと、私と、『証明』と   作:#NkY

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あの人物は、あまりにも完璧だった

 11月。もはや秋の涼しさは消え、冬の寒さを感じつつある時期。

 私は椅子の背もたれに体重を預け、先生の言葉を聞き流していた。

 

 創設祭。毎年、学校創設者の誕生日であるクリスマスイブに行われる、輝日東(きびと)高校の学校行事。全国的には学園祭と呼ばれるような行事で、地元TV局とかが取材に来ることもあるくらいの名物行事。

 ……正直私はあんまり興味ないから去年も行かなかったし、今年もまず行かないのだけれど。

 

「創設祭実行委員に立候補してくれる人はいるかしら?」

 

 担任の高橋先生が立候補を促すも、当然誰も手を挙げない。私、(たちばな)純奈(じゅんな)もその大勢のうちの一人だ。

 

 当たり前だ。クリスマス直前にあんな時間が取られる役、誰が好き好んでやるんだろう。

 しかも今年は市の協賛があるとのことだ。つまりそれは市が口出ししてくるということで、例年よりも色々と面倒なことになるのは明らかだ。

 こんな面倒な役を受けるより、自分の時間を増やしたほうが明らかに得だ。

 

「はい。私がやります」

 

 あと、この人がどうせやってくれるから。

 

 透き通るような柔和な声の持ち主へ、クラス中の視線が注がれる。

 黒く長い、しかしサラサラで美しく、私でも一度は指を通してみたいと思える髪の持ち主である女子は、にこやかな微笑みをたたえながら堂々と起立している。

 

絢辻(あやつじ)さん、一応聞くのだけれど……今回の創設祭実行委員は今までの行事よりも大変な仕事だと思うわ。それでも大丈夫かしら?」

 

 絢辻(つかさ)。2-Aのクラス委員かつ、ありとあらゆる行事の委員を引き受けている。もちろん文武両道で人当たりも良く、おまけに容姿端麗。

 普通人の短所は長所より指摘できるものだが、彼女に関しては長所を10個挙げるほうが短所を1個挙げるよりも遥かに難易度が低い。それくらい完璧な人物。

 

 この16年――あと1ヶ月もしないで17年目になるけれど――の人生で、周りの人より明らかに『出来ている』と感じる過去のクラスメイトはいるにはいた。

 けれどもこの絢辻さんはそれらとは格が違いすぎた。『出来すぎている』人だ。彼女を視界に捉えるたび、彼女のよく通る声を聞くたび。ああ、私は何をやっていたのだろう、と後ろめたさを感じてしまうほどだ。

 

 というか、なんでこんな化け物が同じ高校にいるのだろうか。今更だけど……。

 

「もちろん、大丈夫です。至らぬところもあると思いますが、一生懸命頑張ります」

 

 そんな、私の理解の範疇を越えた恐ろしい人間は、負の感情を全く出さずにそう言い切った。

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