詞が創設祭実行委員長を降り、代わりに私が実行委員長になった。その事実が伝わると、実行委員のみんなは最初こそ驚いていたけれど……私が少しずつ委員長の仕事に慣れていくにつれて、私のことを委員長として受け入れてくれるようになっていった。
当然、詞みたいに何でも出来る、完璧な委員長じゃない。けれど、私が委員長になったことを聞いた棚町や梨穂子が創設祭の準備を積極的に手伝うようになってくれたのが非常に大きくて。特に棚町は多くの友人たちを引っさげて協力してくれるので、結果的に人手が増え、創設祭の準備は詞が委員長の時よりも捗るようになった。
一方の詞は、まるで私とは対照的で……作業のやり方等を聞かれているのだろうか、他の実行委員の子にしばしば話しかけられはするのだけれど、一人で黙々と作業する姿が目立つようになっていった。
私はそんな詞の姿を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。まるで私が、詞の立ち位置を奪ってしまったかのような……そんな罪悪感が、私を襲う。
しかも、当の詞はというと……
「それでいいの。あたしは、本来あたしのいるべき位置に落ち着いただけよ」
……なんて、詞らしくない達観したセリフを吐いて。それに……虚構ではない、本当の詞なのに、なぜだか仮面を被っているような……そんな気がした。
委員長となり、周りに人が集まるようになった私。
委員長を降り、孤立するようになった詞。
……いつの間にか、立場は逆転して、詞との距離も広がっていく。
詞との時間も取りたいけれども、委員長の仕事が忙しい上、増えた人間関係を維持するのにも時間を取られてしまう。もはや、私の時間など全く無いといっても良い状況。
それに詞は、もう今の状況を完全に受け入れてしまっていて。他の子に私が取られるのを、遠目でずっと見ているような……ずっと、そんな感じだった。
私がその子の誘いを断れればいいんだけど、もし断ったとして、空気が悪くなってしまったとしたら……そう考えてしまうと、実行委員長としてそうするわけにはいかなかった。
私って……一体、何のために委員長を引き受けたんだろう……。
そんなモヤモヤとした思いと裏腹に、創設祭の準備はすごくスムーズに進んでいって。
そして、気がつけば創設祭の当日を迎え――創設祭は、大成功を収めた。
たくさんの仲間が出来て、たくさんの称賛を浴びて。私は、実行委員長としての最高の役割を果たした。
今までの自分最優先の私から、人のために頑張る私へ。上がりすぎた名声は、私なんかじゃ逆らえない激流となって……一般的には『成功』と呼ばれるルートへいざなっていく。
--※--
翌年。生徒会長になった私は、毎日学校のために奔走している。
夢小説を書いていた手帳は、びっしり埋まったスケジュール帳になっていて。
生徒、先生、多くの人に慕われ、頼られて……私は、期待という圧力に押しつぶされながら優等生を必死で演じている。
けれど……私の隣にいた詞は、昨年クラスの中心だった詞は……もはや、ただのいち生徒でしかなくなって。
詞の周りには誰も寄り付かず、誰も関わろうとしない。私は詞のクラスとは別々になり、もはや二人の時間を作ることも難しくなっていった。
そんな――そんな、ある日。私は、廊下でばったりと詞に出くわす。やっと見つけた、詞との時間。しかし、詞は……
「あ……詞! 会いたかった」
「橘さん」
……たちばな、さん……? 私は、嫌な予感がした。
「……詞……?」
「ごめんなさい……あたしに近づかないで」
「……え……?」
「あたしに近寄ると、あなたの評価が下がるから」
そう言って、詞は私の横を通り過ぎていった。そして……。
「……橘さんが頑張っているのを遠くから見ているのが、あたしの幸せだから。それじゃあね」
……そんな一言と、かすかな薫りを残して……詞は、行ってしまった。私は、立ち尽くす他なかった。
「橘! 悪い、頼み事があるんだけど……」
「……は、はいっ。何でしょう」
詞を呼び止める時間もなく、私は先生に呼び止められて学校のために働く。
きっとこの先……大学に行っても、社会人になっても……私は、人のために頑張り続ける。
みんなの期待に、私はひたすら応え続けなければいけない。
だって私はもう、そういう生き方しか出来ないし、そうやって生きることしか残されていないのだから。
そして、私の献身的な活躍が……世界のどこかにいる詞にとって、幸せであることを信じて。
『橘さんが頑張っているのを遠くから見ているのが、あたしの幸せだから』
❄BAD END