絢辻さんと、私と、『証明』と   作:#NkY

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日常の風景

 登校して、授業を受け、適当に購買で買ったパンを食べ、また授業を受けて、帰る。

 その意味があるのか分からないルーチンを6日連続でこなさなければいけないことに、私は前々からずっと不満を募らせている。

 なんで大人は揃って勉強しろ、と言うんだろう。人を作るのは学校の勉強だけじゃないというのを、私は分かりきっているのに。

 

 けれど、私にはそんな行動を起こせるような力は当然ない。私にできることはその不満を心の奥底に隠して、決してクラスから浮かないように、けれど面倒事には巻き込まれないよう極力注意して過ごしていくだけ。

 何より大事なのは自分の時間……漫画や小説から刺激を受け取って、その夢満載の世界に自分を投影する……そんな時間なのだから。

 

 そう、私はいわゆる『夢女子』なのだ。学校内でも空き時間があれば、私は手帳に夢を書き連ねては満足感を得ている。

 

 ……と、まあ。確かに空き時間は私の世界に旅行に出かけ、その出来事を多少誇張しつつも忠実に記している私ではあるが、クラスの内情に疎いわけではない。

 旅行に出かけている間も世間話には耳を傾けているし、知れる情報は知っておくようにアンテナを敏感に張っている。少しでも世間知らずが知れ渡ると、元々高くない私の地位がさらに下がってしまうから。

 

「絢辻さん、この場所、ちょっとよく分からないのだけど……」

「うん? ちょっと見せてもらっていいかしら」

 

 ……あんな感じに私は人気じゃないし頭も良くないし。まったく、なんであんな化け物と一緒のクラスになってしまったのだろう……。

 

「橘。手、止まってる止まってる」

「ふぁあ!?」

 

 耳元で息混じりのからかうような声。思わず間の抜けた声が飛び出てしまった。あんな声を引き出しやがったもじゃもじゃ天パの犯人は、私だけの繊細な夢空間に土足でがしがしと踏み込んでいった。くっ……よりによってこいつの襲来を察知できないなんて……。

 

「ふーむ、なるほどなるほど……」

棚町(たなまち)やめろって!」

「『お前ってさ、おもしれー女だよな……』」

「やめろおおおお!!」

 

 棚町(かおる)は、土足で上がるどころか乙女のもろく儚い夢の一つを無理やり引き出し外にぶん投げやがった。みるみるうちに顔が燃え盛った私はとっさに奇声を上げることで流出を防止し、上半身を倒して手帳を覆い隠すことでこれ以上の大惨事を回避するので精一杯だった。

 ……そう。こいつのせいで、私の夢女子っぷりはすでにクラス全員に知り渡っている。非常に遺憾だが。

 

「はぁ、はぁ……棚町ぃ……!」

 

 最大限に恨みを込めた睨みを、そのうざったいことこの上ない棚町の弧に歪ませた双眸にぶつける。

 

「戦場では油断が命取り。知らなかったかしら?」

「どこが戦場じゃい!!」

 

 天才的に腹が立つ笑みを浮かべる棚町の、そのイカスミ焼きそばみたいな髪のてっぺんに夢密度1000%の手帳を思い切り叩きつける!

 

「ぐえぇ」

 

 頭頂部にクリーンヒット。想像の10倍ほど清々しい快音が教室内に響き渡る。

 

「ふう。すっきり。許す」

 

 腕から伝わる気持ちよさからくる満足感から、私は棚町のことを慈悲深く許してやることにした。まだ頬に熱は感じるけれど……。

 

 ちなみに、不本意ながらこのような棚町の悪ふざけは中学の時から日常茶飯事と化しているため、クラスメイトからは「またやってる」みたいな感じだったりする。別に奇特な目では見られていない。

 ……口が裂けても本人に言えないことだが、ここだけの話棚町の悪ふざけは学校が嫌いな私の唯一の救いだったりしている。あれ、何だかんだ嫌いじゃないし。今のやつだって、自分が嫌いになってたのを荒療治だけど一瞬で忘れさせてくれた。

 

 しかし、棚町のことを親友と呼ぶなんてことは100万年たってもありえないが。

 

「今度読ませてね、それ」

「……完結させたらね」

「あんた完結しないじゃん」

「まあね」

 

 そんなこんなで授業を始める合図のチャイムが鳴る。

 これが、6日連続でつまらないルーチンワークをこなす私たちの、たった10分の休息時間の一例だ。

 もちろん棚町の襲来がなく平和な休息時間もあるけれど……残念ながら、絢辻さんに劣等感を抱かない休息時間はない。

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