絢辻さんと、私と、『証明』と   作:#NkY

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番外:委員長のお仕事

 詞が創設祭実行委員長を降り、代わりに私が実行委員長に就任した初日。私はその日、創設祭関連の手続きの窓口にならなければならなかったため、特別教室に向かった。そこには……

 

「……詞って、委員辞めたんじゃないの?」

「辞めたけれど、ボランティアならいいでしょ?」

 

 いないと勝手に思っていた詞が普通にいた。しかも、他に人がいるにもかかわらずどうやら私の苦手な方の詞だ。

 どうやら、作業を裏で進めていたみたいだ。もちろん、一人で。

 

「いや、まあそうだけど。……というか、もう隠さなくてもいいの?」

「今更でしょ。あたしはもう、何をどう取り繕っても一人ぼっちだから」

「それは……」

「ううん、あたしはもう一人だけ。まあ、一応まだ接する人によってモードは変えるけど……ああほら、委員長さんに仕事が来たみたいよ」

 

 そう言うと、詞は教室の入り口を指す。そこには確かに人影があった。……私は詞に対してもっと言いたいことがあったけれども、仕事の方をこなさなければならない。

 

「えっと、手続きしたいって人は……」

 

 私はその人影が見覚えのあるものだったことに少し安心感を覚えた。

 

「あ、梨穂子じゃん」

「あれ? 純ちゃん……何でいるの?」

 

 ぽかんとしている梨穂子。一応梨穂子も私が創設祭実行委員になったことは伝えている。

 けれど、当然委員長にまでなったことは伝わってない。……ふふ、驚くはず。

 

「実は私、今日から委員長になりました」

「ええ~っ!? ウソでしょ~っ!?」

 

 私が驚くだろうって思った言動を仕掛けると、梨穂子はちゃんと私のイメージ通りに驚いてくれる。つくづく、一緒にいて楽しいし、元気になる子。

 

「ホントのホント。だから、創設祭のことなら私にどうぞお任せを」

「う、う~ん……純ちゃんにそんな仕事が出来るかなぁ……」

「まって梨穂子それ何気に酷くない?」

「まあいいや」

「良くない」

 

 ……その後がイメージ通りになるとは限らないが。

 

「えっとね、茶道部の出し物で必要なものの書類を出したいんだけど……」

 

 とはいえ、委員長になって一発目の仕事が私のよく知っている梨穂子からの申請なら好都合だ。私は心底ほっとして……。

 

「備品の申請書かな……はい、これ」

「えっと、これどうやって書けばいいのかな」

 

 ほっとして……。

 

「見せて? ……ここに名前、団体名、企画名。あと、ここに使いたい備品を書いてくれれば大丈夫」

「……んー……」

 

 ほっと……して……?

 

「……何がいるんだろう?」

「あっ……」

 

 

 

--※--

 

 

 

「何突っ伏してんの純奈、まだ書類を一つ受け付けただけよ?」

「詞……梨穂子に体力全部食われた……」

 

 

 ほっとできませんでしたむしろ絶望でした。

 

 梨穂子の理解力があまりにも壊滅している上、ド天然だから突拍子もないアイデアが突然出てきたりしてもう辛いのなんの。もし今の詞が梨穂子の対応をしてたら詞がブチ切れる未来が容易に想像出来る。

 

 

「あれ? 何でねぇねがそんなとこいんの?」

 

 

 そこに考えうる上で最悪の追い討ち。私の苦手な妹、美也も来るのは聞いてないよ。

 

「何でって……創設祭実行委員長になったから」

「えーっ!? 学校ぐるみでみゃーにドッキリ仕掛けてるの!?」

「仕掛けてるわけあるかって……で? 用事は?」

「えっと、これ! これ欲しいんだけど学校にある?」

 

 備品の申請書。梨穂子と違ってちゃんと必要事項は書くべき場所に書いている。で、問題のその中身だけど……。

 

 

「……バニースーツなんて学校にあるわけあるかーっ!!」

 

 

 

--※--

 

 

 

「…………詞、私委員長辞める」

「馬鹿言ってんじゃないわよ、たった2つ書類を受けただけじゃない」

 

 委員長って、すごく大変なんですね……。

 

「じゃあ詞、さっきの2人の応対出来る?」

「それは……なるべく勘弁願いたいわね」

「でしょ」

 

 と、うだっている間にまたしても来客が。

 

「えっと……ここでいいのかしら?」

「ここでいいですよー!」

「あ……もしかして、森島先輩ですか?」

「ええ、そうよ」

「それと……何でまた美也がいるんだ」

「にしししし」

 

 創設祭で行われるミスサンタコンテストを2連覇している、言わば学校のマドンナ、森島はるか先輩。私は初対面だけど、名前と外見は知っている。何となく、雰囲気からハーフっぽいなって私は感じている。目の色も碧眼だし、肌の色もどことなく赤っぽいし、背も高めでスタイルいいし……。

 ……と、それに見事に懐柔されている美也。

 

 で、確か……森島先輩って、ド天然って噂が……

 

「えっと……それで、森島先輩。どういう用事で来たのですか?」

「わお! そうだったね」

 

 そうだったね、って……前途多難だ……。

 

「えっとね。美也ちゃんが可愛いから、ミスサンタコンテストに一緒に出ようって言ってるんだけど……」

「絶っ対嫌です」

「……見ての通り。だから、こう、最後の一押しをしてもらいたいなって!」

「えー……」

 

 最悪だ……最悪だ……。非常に、非常に気乗りしない上に面倒臭いぞ……。

 

「ねぇねが何を言ってもダメだからね。みゃー、ここだけは譲れないよ」

「別に私は美也のサンタ姿なんてどうでもいい……というかねぇねと呼ぶな」

 

 何で得意げにふんぞり返るんだ……。

 

「わお! もしかしてキミ、美也ちゃんのお姉さん?」

 

 あっ……森島先輩に食いつかれた。

 

「え、はい。美也の姉の橘純奈です。美也が迷惑かけてないといいんですけど」

 

 先輩だし、初対面だし、表面だけでもちゃんと挨拶はしておかないと。

 

「ううん、むしろ可愛くて可愛くて!」

「うにゃっ!」

 

 森島先輩は美也を片手で抱き寄せた。美也がまるで動くぬいぐるみのような扱いを受けている……。

 

「なんというか、小動物って感じで!」

「さ、さいですか……あはは……」

 

 美也を我が物にしてすごく楽しそうな森島先輩に私は呆れ笑いしか出てこない。

 

「で、どうすれば……詞? これ、何?」

 

 詞が横から何か、携帯ゲーム機? を2つ、私に渡してきた。

 

「テトリスよ」

「え? 何でテトリス?」

 

 いやほんとに何でテトリスなの? というか学校に持ってきて大丈夫な物なの? しかも何で丁寧に対戦することを見越して2台あるの?

 

「これで妹さんに勝てば、きっと納得してもらえるから」

「一応私、多分美也には楽勝出来ると思うんだけど……果たしてそれで上手くいくものなのかな……」

「絢辻詞のアドバイスよ? 信じられないかしら?」

「……まあ、やってみるよ」

 

 さすがの詞アドバイスでもこれは内心全く信じてないですけど。とりあえず、本当にとりあえず、美也にテトリスのゲーム機を見せる。

 一応、私は美也より圧倒的に強い……というか多分学校一強いと自負できるくらいの実力があるので、勝てるっちゃ勝てるのだけど……。

 

「美也。これ」

「えっと……え? テトリス? ……嫌だよ、ねぇねには勝てないしもしみゃーが負けたらコンテストに出ろーってことでしょ!」

「何でもいいけどねぇねって呼ぶな」

 

 予想通りの反応でした。まあ、負けると分かっている勝負にわざわざ挑むわけないよね。しかも、勝っても自分に大したメリットないし。

 

「……詞。全力で拒否されたんだけど」

「何よ。まだ一人、いるじゃない」

「え? ……え、もしかして森島先輩? でも、あの子結構強いよ……?」

「勝っても負けてもいいから納得させるのが先決でしょ」

「あ、そっか」

 

 なるほど。森島先輩を使うのか、さすが詞。そして、詞が言った通りに、こちらが何か働きかけるまでもなく……。

 

「ねえ、美也ちゃん?」

「な、なんですか? 森島先輩からお姉ちゃんと勝負しろーって言っても、私は嫌ですからね?」

「ううん。美也ちゃんと勝負するのは、この私よ?」

 

 森島先輩は私からテトリスのゲーム機をひょいと取り上げて、ウインクして美也に挑戦状を叩きつけた。

 

「森島先輩がですか? にしし、いいですよ。言っておきますけど、みゃーはお姉ちゃんに鍛えられているので結構強いですから」

「ほんと? じゃあ正々堂々、勝負しましょう?」

「はい! 手加減しませんよー!」

 

 森島先輩に勝負を挑まれた美也は、ノリノリでテトリスの対戦を受けて立った。

 

「……ほらね?」

「さすが詞」

 

 さすがだけど……そもそも何でテトリスのゲーム機2台持ってるんですか詞さん。

 

 

 

--※--

 

 

 

「テトリス!」

「みゃっ!? ちょ、ちょっとタンマタンマっ!」

「ごめんね、私も負けられないの! 1列消して、開通させてから……もう一発、テトリス!」

「……うにゃあああああ!! みゃーが負けるなんてー……」

「私の勝ちね! 美也ちゃんのお邪魔ブロック、利用させてもらったわよ?」

 

 数分後、決着がついた。私の予想に反して、勝ったのは森島先輩だった。

 

「え……森島先輩、強いんだ……」

「あたしも前に勝負したことあるんだけど、全然勝負にならなかったレベルで強かったわ」

「え? そうなの? もしかして、それを知ってて……?」

「ええ」

 

 詞、一体どこで森島先輩と接触してたんだろ……しかも、テトリスを一緒にやるなんて、一体どういうシチュエーションでそうなるんだろう。

 テトリスの謎はますます気になるけれど、細かいことは気にするなってやつなんだろう。うん。

 

「にしても、強かったですね……何でそんなに強いんですか?」

「う~んと……この前ゲーセンにひびきちゃんと一緒に行ったときね?」

「ひびきちゃん……あっ、水泳部の部長の塚原先輩ですね?」

「ざっつらいと! それで、偶然見つけたテトリスのゲームに、お猿さんがいて。それが可愛くって、ひびきちゃんと一緒にテトリスやりこんじゃったんだ」

「へー……それで強かったんですね」

 

 というか森島先輩もゲームセンター行くんだ。……まあ、森島先輩も女子高生だからむしろ普通か。

 だけど……まさか、ゲーセンのテトリスの経験だけで、美也を倒してしまうなんて……もしかして森島先輩、かなりの実力者では。しかもやる動機がテトリスではなく、そのゲーム内演出の猿だというから驚き……。

 

「……何か、この人あたし苦手かも」

「え?」

「あの人……私の姉と、同じ匂いがする」

「あー……言われてみれば、詞のお姉さんそんな感じだった気がする」

 

 詞のお姉さん、本当に血がつながってるのかってくらいに、詞と正反対の性格をしているもんなぁ……超ド天然で、詞の思いにも全く気づいてないし言ったとしても気づかないまであるし。

 

「というわけで……美也ちゃん! 約束は約束よ? ミスサンタコンテスト、出場してね?」

「うっ……で、でも衣装は……あっ」

 

 美也は何か思いついたようだ。その顔は……多分、人を巻き込もうとしている顔だ……。

 

「森島先輩! いいこと思いついたので、ちょっと友達を呼びに行ってきます!」

「えっ? ちょっと、美也ちゃん? どこ行っちゃうの?」

「すぐに戻ってくるので! それじゃ!」

 

 そして、美也は嵐のように去っていった……。

 

「……何か、うちの妹がごめんなさい」

「ううん、全然いいわよ。あれが美也ちゃんの良いところの一つなんだから」

 

 そっか。美也は愛されて育っているから、その愛を常時ずっと周りの人に振りまき続けているんだ。だから、あんなちょっと困ったところも、まるで愛嬌のある行動に思えてしまうんだろう。

 

「……純奈? 難しい顔してどうしたの?」

「あっ、詞……うん。ちょっと、考え事」

「そっか。お互い、大変ね」

「ええ……そうね」

 

 私も詞も、身内に劣等感を抱いている。詞の場合は家の事情がもっと重そうではあるのだけど。

 

 

 

--※--

 

 

 

「橘美也。ただ今戻りましたーっ!」

 

 美也が帰ってくるのは本当にあっという間だった。しかも、2人連れて。

 

「あっ……」

 

 私はこの2人、見覚えがある。

 

「あ……お久しぶりです、お姉さん」

「ひ、久しぶり、です……」

 

 美也に振り回されているからだろう、苦笑いしながら挨拶するショートヘアの子。そして、おどおどしているツインテールの子。たしか……。

 

「久しぶり。えっと……七咲(ななさき)さんと、中多(なかた)さん、だったっけ」

「はい。七咲(あい)です。美也のクラスメイトの」

「同じく、中多紗江(さえ)、です……」

 

 それはともかく。

 

「でね、ねぇね!」

「ねぇねと呼ぶな」

「こほんっ。……お姉ちゃん! この2人と一緒にサンタコンテストに出る、って言うのは出来る?」

「「えっ!?」」

 

 別に巻き込まなくてもいいのに……なんて思いながら、彼女に巻き込まれた二人に同情の目を向ける。まあ、美也に巻き込まれたら最後、あいつは竜巻のように捕まえて振り回して、かつ離さないからなぁ……。

 

 美也を説得することも考えたけど、面倒くさいことこの上ないので、とりあえず前委員長で昨年も創設祭に関わっている人物である詞に聞いてみる。

 

「……詞。それって、大丈夫なの?」

「もう委員長は純奈よ。純奈が考えて決めていいのよ?」

「あ、そっか……んー……」

 

 そういえばそうだった。私は委員長だから、強い権利を持っているんだった。とはいえ、いきなりそれを私だけで判断するのは中々に難しい。

 

「森島先輩」

「ん? なあに?」

 

 だから、ミスサンタコンテストをよく知るこの人の意見を聞いてみることにする。

 

「森島先輩は、ミスサンタコンテストにチームで出る、っていうのはどう思います?」

「それで可愛い子がたくさん見れるなら良し!」

 

 返ってきたのは単純明快なものだった。……何だろう。すごく納得してしまった私がいる。

 

「……美也。委員長である私が許可する」

 

 納得した結果、私は許可してしまった。森島先輩パワー恐るべし。

 

「やったー! やったよ紗江ちゃん! 一緒にミスサンタコンテスト出れるよ!」

「え、ええぇー……!?」

「もちろん、逢ちゃんも一緒!」

「えっ、私も!?」

「だって、逢ちゃんだけ出ないのはおかしいでしょ?」

 

 ……彼女に巻き込まれた2人には申し訳ないけど。

 

「な、なんで私が出る前提になってるの……?」

「引っ込み思案を治す特訓だよ! 確かに劇も特訓の一環だけど、ミスサンタコンテストとなれば学校中が注目する一大イベント! そこで皆の注目を浴びれば、きっと……!」

 

 そういえば前に体育館を借りることをお願いされたときも、引っ込み思案を治す特訓だ、とか言ってたっけ。

 なるほど、首謀者は美也か……納得した。

 

「う、ううぅぅ……私、変にならない、かな?」

 

 とはいえ、今回の特訓はいくら何でもスケールが違う。当然中多さんは萎縮している。かわいそうに。

 

「ううん、そんなことないわ」

「えっ? 森島先輩……?」

 

 そんな中多さんを見かねて、森島先輩が声を掛ける。中多さんは驚いた顔をして、森島先輩の方を見た。

 

「コンテストに出る子は、舞台に立った瞬間誰だってキラキラ輝くの。普段あんまり目立たない子も、コンテストに出たら『あれ、あの子あんなに可愛いんだ』ってみんな驚いていたわ。……だから、もしキミが舞台に立っても全然変じゃないわよ?」

「そ、そうですか……?」

 

 さすがミスサンタコンテストを2連覇した学園のマドンナ。説得力が段違い。しかもそれでいて、決して自分の成績をおごらない。

 

「うん! それにキミ、普段も可愛いから自信持って」

 

 そう言うと、森島先輩は中多さんに向けてウインクした。

 

「は……はっ、はい! 森島先輩、ありがとうございます……!」

 

 中多さんはちょっと顔が赤くなっている気がする。……そりゃそうだ、私も森島先輩にウインクされたらああなると思う……。

 

「にししし。良かったね、紗江ちゃん!」

「う、うん。嬉しかったし、ちょっとドキドキしちゃった……」

「森島先輩、綺麗だからね……」

 

 すっかり縮こまってしまった中多さんを、美也と七咲さんがフォローする。

 

「ということで! 紗江ちゃんと逢ちゃんと美也でサンタコンテスト出ることにしたから、書類お願い!」

「あ、やっぱり私も出るんだ……」

 

 ……どうやら美也はフォローではなく単に巻き込みたいだけだったようだ。私は一応、2人に改めて本当に出るのかどうかを聞いてみることにする。

 

「はいはい、じゃあ準備するけど……七咲さんに中多さん。2人とも、本当に大丈夫?」

 

 まずはじめに答えたのは七咲さん。

 

「私は、中多さんが出るのなら出ますけど……中多さん、無理しなくてもいいんだよ」

 

 七咲さんは中多さん次第のようだ。それにしても、七咲さんは美也と同い年とは思えないくらいに落ち着いたいい子だと思う。あいつも少しは見習って、落ち着きというものを覚えたらいいのに……。

 

「ううん、平気。せっかく森島先輩にあんなこと言われたんだもん……私は、森島先輩の言葉を信じてみたい」

 

 中多さんは、どうやらミスサンタコンテストに出る意志を固めてしまったようだ。さすが森島先輩だ、と思ったのと同時に、中多さんも見た目はおどおどしているけれど……多分、やるときはやる芯のしっかりしたいい子だと思う。

 自分からミスサンタコンテストに出場する、って言う子が、私にはもう引っ込み思案には思えないんだけどな。

 

「そっか。じゃあ……私も、出ますね」

 

 やれやれ、仕方ないな、って感じの苦笑を浮かべて、七咲さんも出場の意志を示した。……七咲さんが何だか保護者のように思えてきた。

 私は2人の言葉に頷きながら、巻き込んだ元凶の方を見る。

 

「分かった。……美也」

「なあに、ねぇね?」

「ねぇねって言うな。……せっかく巻き込んだんだから、2人が後悔しないように全力で頑張って」

「……言われなくてもっ!」

 

 ……じゃないと、2人がかわいそうだからね。別に美也はどうでもいい。

 

 

 

--※--

 

 

 

「ふー……お疲れ様、詞。何だかんだでまだ、詞の力が必要かもしれない……」

 

 その後も色々と手続きやら、書類整理やら、作業の手伝い及び進行状況の把握やら、とにかくたくさん働いた。もちろん、詞を始めとした友人たちに手伝ってもらいながら、だけど……。

 

「お疲れ様、純奈。初めての委員長にしては、中々悪くなかったわよ?」

「え……そう? ありがとう」

 

 何か色々言われるかもしれないと思っていたので、私はちょっと拍子抜けした。

 

「何よ。その顔、何か言われると思ってた顔でしょ」

「ま、まあ……だって、詞に比べたら全然働けていないし……」

「あたしはあたし、純奈は純奈よ。純奈が委員長に代わっても、皆の空気がいい感じみたいだからそれでいいのよ」

「……そっか。ありがと」

 

 詞は人のことをよく見ている。私には私の不器用なやり方があることも、詞は知ってくれている。

 私は小さな嬉しさを抱きしめながら、改めて今日もらった手続きの用紙を整理する。すると、美也が残したミスサンタコンテストの用紙に、何か違和感を感じた。

 

「ん? これ、一枚重なってる……」

「純奈? ……え」

 

 重なった用紙をずらして、2枚に分ける。1枚は美也達3人の応募用紙。そしてもう1枚は……。

 

 

「何で……何で私の分まで勝手に応募してるんだよおおお!!」

 

 

 勝手に私の名前が書かれていた。よし、帰ったらあいつの部屋に怒鳴り込みに行く。でも今は、とにかくこの用紙をなかったことにしなければならない。

 

「今すぐ、今すぐ破り……あれ? 紙は?」

「ここよ? ふふっ」

 

 いつの間にか紙は詞の手元に渡っていた。上で用紙をひらひらとはためかせて見せつける詞。

 

「詞っ、もしかしてお前裏切るつもりか……!」

「だって、純奈のサンタ姿見たいから?」

「ええぇ……」

「もし応募用紙を破ったら、あたしの力であなたを学校にいられなくさせてあげる」

 

 汚い、さすが詞汚い。私は諦めざるを得なかった。

 

「そりゃないよ詞ぁ……」

「いいじゃない。委員長自らミスサンタコンテストに出場するなんて」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべやがって。……こうなったら。

 

「……じゃあ私も勝手に書くね」

「え、あ、あたしは別に」

「委員長権限ってことで」

「ちょ、ちょっと!」

 

 今、私は創設祭の実行委員長になって一番良かったと思える瞬間を味わっている。あの、絢辻詞を、ミスサンタコンテストに強制出場させることが出来るという、まるで夢のような特権を発動しているのだ。

 

 ……まあ、でもそれだとちょっと詞が不憫なので。

 

「それとも……2人で一緒に出る?」

 

 サンタ衣装、二人でやれば怖くない。ってね。

 

「何であんた、いきなりノリノリになるのよ……」

「詞のサンタ姿見たいから?」

「あーもう……」

 

 詞って、強そうに見えるけど実はそんなに強くない。こちらが押せば、案外折れてくれることもままある。

 

「まあ、あなただけやるっていうのは不平等だし……」

「おー、話が分かる」

 

 ほらね?

 

「特別よ特別! その、純奈に委員長を押し付けた借りもあるから……」

「それは大丈夫。委員長を引き受けるって言ったのは私だから」

 

 詞はちょっと照れ隠し気味に言う。そういうところ、素直じゃないけれど……

 

「……それに、純奈と一緒に羽目を外して、忘れられない思い出を作るのも悪くない、かも」

 

 ……こういうところは、詞は素直なんだ。そんなこと言うのは、多分、私にだけ。

 

「いいね、それ。青春って感じする」

「ふふっ。あたし達……高校生だものね」

「あ、そっか」

「何を今更」

 

 私と詞は顔を合わせて笑いあった。結局私は美也に上手いこと乗せられた、って感じになるんだけど……こういうきっかけをもらったって言う意味では悪くない、かな。

 

 仕方ない、あいつの部屋に怒鳴り込みに行くのはやめてあげよう。面倒だし。




※補足

森島先輩はハーフではなくクォーターですが、当然純奈にそれを確かめる術はないので、勝手にハーフっぽいと思っています。
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