創設祭の準備も順調に進んで、私はすっかり実行委員長の仕事が板について。
「棚町さん、桜井さん、ありがとう。助かったわ」
「お安い御用よ!」
「いいえ~」
唯一心配していた詞の立場も、棚町と梨穂子のおかげでそこまで孤立せずに済んでいる。……まあ、裏で私がちょっと頼んでおいた上で、きっかけも作っておいたんだけどね。
梨穂子も棚町も、私のお願いをすんなり聞いてくれた。こういう友人を持てて、私は本当に恵まれている。
それに……棚町なんかは詞と結構相性いいんじゃないかと思ってる。勘だけどね。
「ね、ね。この後3人でどっか行かない? せっかくだし」
「え? あたしは、別にいいけれど……」
「私も行くよ~」
……私を差し置いてなんかすごくいい雰囲気になってない? 私はなんかモヤッとした。
「ちょっと。私を仲間外れにしないでよ」
「あ、委員長さんお仕事お疲れ様っ」
わざと不機嫌に話してるのに、棚町は何も分かってない感じで普通に返事する。
「何? あっ、もしかして嫉妬かしら?」
詞はもう仮面を被るのを完全にやめているようで、すごく意地悪な笑みを浮かべてきた。私も私で開き直るよ、もうっ。
「う……そ、そうだよそうですとも。ヤキモチ焼いちゃ悪い?」
「ふ~ん。絢辻さんと純ちゃんって、そういう関係なんだ……」
「「えっ!?」」
梨穂子が何か拗ねながら、本質をぶっこ抜いてきた。何で、何で妙に梨穂子は鋭いんだ……!
「ち、違うよっ、その……ちょっと仲が良いだけで。でしょ、詞っ」
「え、ええ。そうね……そう……!」
この前のこと思い出してきたじゃん……頬が熱い……!
「あんたたち、分かりやすいわねー」
「純ちゃん……む~……」
棚町はすごくニヤニヤしてるし、梨穂子はなぜか頬を膨らませて不満そうだし……!
「と、とにかく! 私、もうすぐ仕事終わるからまぜてよ! いいでしょ!?」
こういうときは強引に話題をぶった切るに限るっ!!
--※--
「……うわぁ」
私は運ばれてきた『それ』に、言葉を失った。
「わ~、すっごいね~!」
せっかく4人でお茶をするのだからと、梨穂子の希望で最近噂の
まあ、名前からして分かるかもしれないけれども……要するに、超超超大盛りのパフェである。1人で40分以内に完食出来たらタダらしいが、そんなの無理なので私達は最初から4人で一つを分け合う感じにした。
梨穂子の瞳はキラキラ輝いているけれど……。
「うわぁ、見ただけで胸焼けがするわね……」
「これ4人でも食べきれないでしょ、もっと仲間連れてくれば良かったわ」
厳しい表情を浮かべる詞に、激しく後悔している様子の棚町。
『せっかく女子高生の身分なんだから、たまには馬鹿なことやってみよう』って一体何が原因なのか分からないが明らかに頭のネジが軽く飛んでいる雰囲気の詞にみんな同意してしまって、興味本位で頼んでみたものの……。
「ちょっと詞……これはいくらなんでも……」
梨穂子以外の私を含めた3人は、食べる前から既に半分敗北していた。パフェの大きさは私達の予想を軽く超えていて……バケツよりも大きい、と言ったらそのスケールが分かるだろうか。
とにかく、私達に手に負える代物ではなさそうだった。
「あたしだって予想外よ。その、多く見積もっても普通のパフェ5人分くらいだと思っていたから……」
「絢辻さんも、計算が外れることあるんだ」
「うるさいわね。こういうところ、行き慣れてないのよっ!」
「あ痛っ! 足踏むなっての!」
棚町相手に全く容赦ない詞。確か前に、モードを接する人によって切り替えるとか言ってた気がするんだけど……何かもう、完全に吹っ切れてるよね、詞。
「じゃあ、いっただきま~す。……あれ? みんな食べないの?」
「そ、そうね、食べましょう。ほら、棚町さんも」
「あ、あはははは……」
「覚悟を決めるかぁ……」
幸せを詰め込んだような表情をしながら食べ始める梨穂子を横目で見つつ、私達3人は渋々スプーンを持って小皿に少しずつ、パフェの山を切り分けた。
味は悪くない。パフェ特有の甘い物をごちゃごちゃ混ぜたあの味、私はそんなに嫌いではない。でも、やっぱりその味が長く長く口の中で続くのは中々にキツイ。
「お~いし~……!」
梨穂子が幸せそうに食べる顔が、唯一の救いで清涼剤。
「……あー、もうダメ! あたし無理!」
「あれっ。もういいの?」
「あなたとは違うのよ……もう……」
詞が早々にダウンして突っ伏す。梨穂子が意外そうなリアクションを見せるけど、私達にとっては梨穂子が異常なんだって……。
「そういえば詞、少食だったっけ」
「ええ。それに、甘い物は別腹とは言うけれど、こんな大量にはいらないわよ……」
何か相当苦しそうな声。言い出しっぺは梨穂子だけど、それを後押ししてしまったのは詞だから……詞なりに責任を感じて、頑張ったのだろう。
「ちょっとあんた、無理しすぎてない?」
「大丈夫よ。帰る頃には多少楽になっていると思うから……」
「なら、いいけど」
棚町はまだ大丈夫そう。棚町は何だかんだで食べる方だろうし。
と、なると……次に脱落してしまうのは……
「はぁ、はぁ……やっぱり、私だよね……うっ」
私は詞の隣で机に突っ伏す。力なく机に投げ出したスプーンが虚しい金属音を奏でる。……胃が死んだ。
「純ちゃん!? ……まだ、パフェ結構残ってるよ?」
「え、嘘……」
ちらりと顔を上げると……まだ、3分の1も食べきってない様子だった。
「う……うぅ……」
私もどちらかといえば少食気味ではあるとは言え……あまりにも不甲斐ない戦績に絶望に打ちひしがれながら、力なく顔を落とした。
「あーあ。2人仲良く脱落しちゃったわね」
「ね~、もったいないよ~。……あ、この組み合わせ結構美味しいかも」
「え? どれどれ?」
棚町と梨穂子が楽しげにパフェを食べ続けているのが聞こえる。
「よくそんなに食べられるわね、あなた達……」
机に突っ伏したまま、ぼそりと詞がつぶやく。まだ相変わらず苦しそうだ。
「甘い物は別腹。でしょ、桜井さん」
「うんうん! はむっ……ん~、天国だよ~!」
梨穂子は何でそんなに楽しそうに食べ続けてるんだ……。
「梨穂子……私達にとっては地獄なんだけど……」
「天国だとか、信じられないわ……」
「「はぁぁ……」」
今の状況。片方のサイド、私と詞側は全滅して机に突っ伏している。もう片方のサイド、棚町と梨穂子側はまだピンピン。明暗はっきり分かれる。
「ふう、やっと半分、といったとこかしら。さすがのあたしもちょっとキツくなってきたかな……」
棚町のペースがここで落ち始める。スプーンが食器に当たる音の頻度が、明らかに減り始めた。
「あとは任せて~!」
なお梨穂子は全く落ちない模様。さすがというか、何というか……。それにしても。
「ほんと、梨穂子って楽しそうに食べるよね……」
「そうね。あたし、桜井さんのことが羨ましいわ」
時間が経って楽になり、机から起き上がった私と詞が梨穂子の様子を見て言う。
「えへへ、よく言われるんだ~。……はむっ。ん~……!」
パフェがどんどん梨穂子の中に消えていく。梨穂子は口元がクリームで汚れているのも気にせずに、ただただ食べるのを続けている。
ちらりと詞の横顔を見ると……頬が緩んで、表情が柔らかくなってた。
「ごめーん、あたしもギブアップ」
ついに棚町もスプーンを置き、背もたれに思い切り寄りかかって天井を見上げた。
「棚町さん、ありがとね~!」
「お疲れ様、棚町さん。かなり助かったわ」
「棚町、お疲れー」
私達は棚町の健闘を称えて、残る梨穂子を応援する。
「棚町が頑張ってくれたけれど……まだ結構残ってるね」
残りはだいたい4分の1くらいだろうか。梨穂子も梨穂子でだいぶ食べているだろうし、さすがに……
「おいし~!」
……全然大丈夫みたいだった。
「あなたの幼馴染、少し鍛えれば将来大食いで活躍できそうね」
「うん。梨穂子の新たな才能を見れたかも」
なんて、詞と話してたりしながら、梨穂子の奮闘……? を見守り。
「ごちそうさまでした~!」
……ペースが最後まで落ちることなく、ついに完食してしまった。すると、どこからともなく拍手が上がり、店内が拍手で包まれる。私達もそれに乗っかるように、梨穂子に拍手を送った。
「あ、あれ?」
意外な展開に戸惑う梨穂子。どうやら私達が知らない間に、お客さんや店員さんから注目されていたようだった。
「えへへへへ……」
梨穂子は頭をかきながら照れ笑いした。私も拍手しておきながら、どことなく恥ずかしくて……どこに目を向ければいいのか困ってしまった。
--※--
日がギリギリ沈むか沈まないかという時間。この時間になると、辺りは加速度的に暗くなっていく。
「う~……結構、無茶してたのかな、私……」
「あんた、大丈夫? 少し休んどく?」
「棚町さん……ありがとう、歩けるから平気だよ~……」
私は梨穂子に肩を貸しながら家路についていた。もちろん、棚町と詞も一緒。
実は、驚天動地風林火山パフェは私達のように最初から分けて食べるグループも多いらしいのだが、それでも完食するのはかなり珍しいことらしい。特に女子中学生~女子大生グループの無茶な挑戦が多いとのこと。
そこで、何とお店の粋な計らいで完食祝いとして本来4000円のところを特別に半額の2000円にまけてもらった。つまり、4人で割り勘して1000円が500円になったということ。
「ほんと、梨穂子には感謝してもしきれないよ」
「そうね。桜井さん、無茶な後押しをしてしまってごめんなさい」
「ううん、元は私が言い出したんだから、むしろありがとうだよ」
私と詞の感謝の言葉に、苦しいだろうに笑顔で答えてくれる梨穂子。ほんと、梨穂子は純粋で……捻じくれた性格をしている私には、ちょっと眩しく感じてしまう。
「それに、棚町さんもありがとう」
「そっか、棚町も頑張ってくれたんだもんね」
「いいえー。おかげさまで馬鹿な思い出、作れたわよ」
棚町も予想以上の奮闘で支えてくれた。お礼の言葉に、棚町は右手の親指をぐいっと上げて笑った。
「はぁ……にしてもあたし、不甲斐なかったわ……」
「私もちょっとね。正直戦力にあんまりなれなくって悔しい」
だいぶ苦しさは無くなったし、棚町の言う通り確かに楽しい思い出にはなったけれど……あまり食べることが出来なかった詞と私は、ちょっと落ち込んでいた。
「どうしたのよ、そんな暗い顔してっ!」
「ひゃっ!?」
「ふぇあっ!?」
ばしん、と落ち込んでた私達の背中を思い切り叩かれた。棚町だ。
「あんたたち責任感じすぎよ。特に絢辻さん、だいぶはっちゃけてんなーって思ってたら結局お堅いんだから」
「だって、あたし……」
「もう、そういうのはナシ! 細かい貸し借りとか気にしなくったっていいのよ。ねー、桜井さん」
「えっ!? う、うん!」
棚町の急なフリに、大きく首を縦に振る梨穂子。そして……
「だって私達、もう友達……でしょ?」
「友達……?」
梨穂子は詞に、ニコリと純粋な笑顔を向けた。詞ははっとしたような顔を浮かべ、ぼーっと梨穂子の方を見る。
「うん、友達! そうだよね、棚町さん」
「そういうこと。あ、あたしのことは薫でいいよ?」
「じゃあ~、薫ちゃん!」
「てんきゅ、梨穂子」
「えへへ……」
棚町と梨穂子の距離も、何だかぐっと近くなって。
「じゃあ、今度は絢辻さん……ううん、詞の番」
「えへへ……詞ちゃん」
そして、今度は詞が2人に歩み寄る番。詞は大きく息を吸って、そして……
「分かった。……薫に、梨穂子。あたしの、友達……として、認めてあげるわ」
……認めてあげる、って……。暗くてよく見えないけど、詞の顔は多分真っ赤。
「あはは、『認めてあげる』って何よそれ! あんたって、ほんっと不器用ね!」
「でも、詞ちゃんらしいよね」
「うんうん。変なとこで意地張っちゃうとこが詞だよね」
「な、何よもう、3人とも……!」
そうやって、私達はガヤガヤと笑い合いながら帰っていく。すっかり距離も縮まって、私達4人の間に友達としての絆が生まれたような、そんな気がした。
今日という日は、色々と思い出に残るような……女子高生の青春らしい、素晴らしい一日だった。
その思い出の中に詞がいるということ。私はそれが……すごく、すごく嬉しかった。