絢辻さんと、私と、『証明』と   作:#NkY

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創設祭、詞と一緒に

 忙しい日々というのは、本当にあっという間に過ぎていくもの。今までこういうことに全く参加してこなかった私が、経験したことのない感覚。創設祭実行委員長に電撃就任して不安がられた私もどこへやら、すっかり私も委員長が板についた。

 

『明日はいよいよ、創設祭当日です。来てくれる人たち、そして私達自身も思い出に残るような日にしましょう!』

 

 ……なんて、言っちゃったりしてさ。

 

「……私、もうすっかり別人だなぁ」

 

 電気を消した自室のベッドの上で、私は布団に入って今日のことを思い出す。思い出すというか……強制的に思い出される、というか。

 

 創設祭も、気がつけばもう明日。私は明日の、わずか数時間のお祭りのために……あんなに頑張ってきたのだ。

 ……つくづく、私が私でないような、そんな感じがする。

 

「ふふっ、これも全部詞のせい」

 

 詞と接触してからの一ヶ月半。あまりにも、色々ありすぎた。

 

 補習帰りに、ひょんなことから詞の仕事を手伝って一緒に帰ったこと。そこから、私と詞の関係は始まったんだっけ。それで、詞が過労で倒れたときにお見舞いに行って……お返しに、お弁当をもらった。詞があまりにも食べなさすぎたから、サラダを押し付けたのもしっかり覚えてる。

 

 あの時、本当に何で詞の仕事を手伝おうと思ったのだろう。今考えると、すごく不思議な行動だな、と私は思う。でも……それがないと、今の詞との特別な関係というのは存在しなくって。だから、多分……見えない力、運命の力みたいなものが私の気持ちをすり替えたのかもしれない、なんて……ファンタジーのような仮説を立ててみたりする。

 

 今思い返せば、長い一ヶ月半だったとも思う。詞の二面性を知って、ショックを受けて……でも、何とかして詞をもっと深く知ることで繋ぎ留めようと思って。あの時の私は、もう、悪あがきみたいな感じで。嫌だけど、立ち向かわなきゃ、みたいな。

 

 おかげで、私は詞をたくさん知れて……詞を好きになれた。あ、好きっていうのはラブじゃなくて、ライクのこと……でもない気もしなくもない……。

 

「……あの時の感覚、まだ覚えてる」

 

 私は自分の唇を人差し指でつーっとなぞる。想いを言葉でぶつけて、それだけでは足りない詞が要求した……女の子同士のキス。

 まるで夢のような感覚だけれど、確かに現実にあったこととして覚えていて……心のどこかで、もう一度詞としたい、なんて思っている私がいる。

 

 でも、キスはやたらめったらするものじゃなくて……もっとこう、特別でなければいけない、なんて思っている私もどこかにいて。いわば、特別な意味を持つ儀式みたいなもの。

 確かに友達以上の関係かもしれないけれど、決して恋人同士じゃないし。

 

「……っ……や、やめよう、これを思い出すのは」

 

 身体が何だか熱くなるのを感じて、私はその思い出を振り切るかのように左右に転がった。

 心臓が高鳴る。何だか胸が苦しい。モヤモヤする……。

 

 この状態をどうにかしたくって、私は枕を掴み、太ももに挟んでぎゅうっと抱きしめる。……ダメ、収まらない。感触が、温度が、詞じゃない。足りない……。

 

 決して嫌じゃない感覚、だけど……辛い……。

 

「はぁ……やっぱ、私おかしくなってる……」

 

 目を拭うと、涙が溢れてて。暗くした部屋、自室のベッド、私一人。まるで、私が私じゃないみたいになってて……どうして?

 

 詞……私、こんな感覚、わからないよ、怖いよ。

 

 どうしたらいいんだろう、何すれば楽になるんだろう。この気持ち、この苦しさ、一体……一体、何なの?

 

 教えて、教えてよ……詞……っ。

 

 

 

 

--※--

 

 

 

 

 創設祭当日。最終準備に、イベントの直前リハーサル。様々な仕事を委員長としてこなしていった。昨日抱いていた変な気持ちも、仕事をしているうちに気にならなくなってしまったし。

 

 ……あれ、ほんとに一体何だったんだろ……夢、なのかな。そう思うと、確かにあの時の記憶はおぼろげで、ぼーっとしてて、霧のように掴みどころがなくて……夢じゃないってことは分かってるけど、それでも夢だと思える、みたいな。すごく、すごく微妙な感じ。

 

 

 

 そんなことを気にする間もなく、あっという間に日も傾き、お客さんも、TVカメラも入ってきて……。

 

 

 

「詞。私、行ってくるね」

「頑張って」

 

 私は詞に一言言って、私達が手作りで作った創設祭特設ステージに向かう。こんな大勢の人前で話すのは初めてで、すごく緊張してるけど……詞が私のためにアドバイスしてくれたから、きっと、大丈夫。

 

 胸に手を当て、深く吸って、深く吐く。震える足を、呼吸を、どうにかして落ち着かせる。

 

「――続いて、創設祭実行委員長の挨拶です。橘純奈さん、お願いします」

 

 出番だ! 私は表舞台に立つ。こういう時、恥ずかしいからそそくさと早歩きで出るのはカッコ悪いと詞が言っていた。出来る限り堂々と、いつもどおりの歩きで……。

 

 ……うん。大丈夫だ。私、ちゃんと出来てる。ステージ上で転ぶなんてこともないし。……それにこういうのって、やっぱり楽しんだもの勝ちだよね、詞。

 

 私はスイッチを切り替えて、笑顔を作ってマイクをギュッと両手で握った。

 

「皆さん、本日は第57回、輝日東(きびと)高校創設祭にご来場いただき、誠にありがとうございます!」

 

 

 

 ――緊張していた。ものすごくしていた。大勢の人はもちろん、それに遠くにはTVカメラまであるから……事実、そのプレッシャーに私は押しつぶされそうだった。

 

 けれど、会場をよくよく見たら見知った顔も多くて、それを見ると私はだいぶ気持ち楽になって。

 それに、詞がつきっきりで練習に付き合ってくれたから台本は間違えるはずもなくて。何よりも、一度話し出すと案外つらつら出てくるものなんだ、って話しながら思って。

 

 でも……今からやるこれは、ぶっつけ本番なんだけど。

 

「――それでは! 今年も私達生徒がデザインから飾り付けまで、全て手作りで行ったクリスマスツリーの点灯のカウントダウンをしたいと思います。……詞! こっち来てー!」

「えっ!?」

「いいから! 皆、待ってるよー!」

 

 私は、私の様子を観客席から見ていた詞を見つけて、手を振った。ざわつく会場。調子の良い男子生徒が「お? お?」なんて大声ではやし立てる。詞は戸惑いながらも前に来て、ステージ上に上がる。

 

「な、何してるのよ純奈」

「良いから良いから」

 

 オフマイクでちょっと詞と喋ってから、私は再び会場に向けて話す。

 

「毎年恒例となっているクリスマスツリーですが、今年は少し色々あって生徒主導のものではなくなるかもしれないという危機がありました。しかし、こちら私の隣に今立っている、前実行委員長である絢辻詞さんの活躍により、今年もツリーを私達の手で作ることが出来ました」

 

 やっぱり、詞は表舞台にいてほしいし、ちゃんと報われてほしい。自分勝手かもしれないけれど、でも私は心からそう思っていて。

 

「というわけで、クリスマスツリー点灯のカウントダウンを、今年は実行委員長の私ではなく、絢辻さんにやってもらおうと思います。……詞、お願いね?」

「あ、あたし?」

「嫌なんて言わせないよ?」

「も、もう……」

 

 私は詞にマイクを渡す。拍手が自然と湧き上がる。さすが詞、前に出てマイクを握ったらすぐにスイッチが切り替わった。

 

「皆様、こんばんは。前創設祭実行委員長の絢辻詞です。本日は輝日東高校創設祭にご来場賜り、誠にありがとうございます」

 

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、つらつらと挨拶が出てくる詞。……やっぱり、出来る人というのはオーラが違う。

 

「――それでは皆様、準備はよろしいでしょうか。行きます!」

 

 10、9、8……会場が一斉にカウントダウンを始める。詞の登場というサプライズもあって、テンションは最高潮に達していた。

 

「……2、1、0!」

 

 0の掛け声と同時に、私達が一生懸命作ったクリスマスツリーが鮮やかにライトアップされた。巻き上がる拍手が、大歓声が、詞の裏での頑張りを認めたのだ。

 

 

 

 

--※--

 

 

 

 

「純奈、大胆なことするのね」

「いいじゃん、お祭りなんだし」

「おかげであたし、今までで一番緊張しちゃったじゃない……」

「一番緊張してあの挨拶なんだ……」

 

 詞の凄さの片鱗を垣間見つつ、私と詞は創設祭を回っていた。出場予定のミスサンタコンテストは創設祭の一番最後にあるのでそれまで時間もある。委員長の仕事は……ほら、創設祭のパトロールってことで。ね?

 

「あ、純ちゃん、詞ちゃん!」

 

 私と詞が出店の通りを歩いていると、横から昔から聞き慣れた声。声の方を向くと、そこには。

 

「梨穂子! ……うわ、すごく綺麗」

 

 茶道部所属の梨穂子が、着物を着て手を振っていた。

 

 私は梨穂子の着物姿に思わず見とれてしまう。特に派手さはない、山吹色の着物。でも、シンプルだからこそ梨穂子の内面的な可愛さが出てくる、って言うか。

 

「そ、そうかな?」

「ええ。着物似合ってるじゃない」

「えへへ……詞ちゃんもありがとう」

 

 褒められて、照れ笑いをする梨穂子。すぐに感情が外に出る梨穂子だから、ほんとに和む。

 でも、ちょっと事情があるみたいで……。

 

「それで、二人もゆっくりして欲しい……って言いたいところなんだけど」

「まさか、何か事件?」

 

 梨穂子の表情が曇る。お祭りだもんな、舞い上がって変な人とか出てきちゃうんだろうな……。

 

「そうなの。見たほうが早いかな」

「あぁ……アレ、ね」

「そう、アレなんですよ~……」

 

 『やれやれ』といった感じの詞。そう言えば詞と梨穂子は去年も創設祭にそれぞれ参加してたんだっけ。去年もあったのかな、こういうの。

 

「詞、何が起きてるのか知ってるの?」

「ええ、去年も茶道部であったから……全く、世話が焼けるわ」

 

 一体何が起こってるんだろう。梨穂子の案内で茶道部の出店のところに向かう。

 

「うわぁ……」

 

 そこで見た光景に、私は軽く引いた。よくよく見知った大人の女の人が、酔っ払って着物を着た女子生徒2人……茶道部の先輩に、面倒な絡みをしてるではないか。

 

「高橋先生、今年もダメだったよ……」

 

 その女の人とは、私のクラスである2-Aの担任であり、創設祭実行委員にも深く協力してくれている高橋先生だった……。

 

「きょ、去年もこんなんだったの……?」

「ええ……残念ながらね」

 

 私が戸惑いながら詞に聞くと、詞はため息をついた。普段はちょっとだけ頼りないくらいで、結構美人で男子からも人気のある先生。そんなちゃんと先生してる高橋先生だけど……イメージが……。

 

「絢辻さんごめんねー。去年の件があったから一回甘酒出すの断ったんだけど、りほっちが断りきれなくって出しちゃったんだ」

「この始末」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 茶道部の先輩2人が詞に助けを求める。ちなみに、私と先輩方との関係はたまにお話する程度。主に梨穂子の。

 

「あ、あはは……ごめんなさ~い」

 

 梨穂子は苦笑しながら手を合わせて詞に謝る。

 

「梨穂子はもうちょっと厳しさを身につけたらどうかしら。将来悪い人に騙されるわよ?」

「純ちゃんにも言われるよ~、それ」

「もう、世話が焼けるわね……」

 

 私も思う。梨穂子、将来がちょっと心配。悪い男に騙されなければいいのだが。

 

「悪いんだけど、今年もお願いできる?」

「秘密兵器」

「ええ、今年もばっちりスタンバイしてありますよ」

 

 先輩方2人の頼みを聞いた詞は、パチン、と指を一つ鳴らした。すると……。

 

「「お呼びでしょうか、絢辻様」」

 

 ……何かガタイのいい男子生徒が2人どこからともなく出てきた。まるで、漫画やゲームでよくある女王様の召喚のよう……。

 

「高橋先生を、保健室まで連れて行って」

「「はっ」」

 

 すると、男子生徒2人は酔っ払った高橋先生の腕を掴み、子供のように暴れてわめく高橋先生を全く意に介さず、引きずるようにして強制連行していった……。

 

「ありがとう。助かったよ!」

「感謝」

「お礼なら、彼らにあとで言って下さい」

「ああ、それもそうだったね。ちゃんと後でお茶菓子でも渡しとくよ」

 

 茶道部の先輩方2人も、梨穂子も全く今の件にノーリアクション。……あれ? この光景って普通のことなの? 受け入れきれてない私が変なだけ?

 

「ね、ねえ……さっきの2人って、誰……?」

「警備員役の実行委員よ?」

「それにしては、何か不気味なほどにしつけられてる気がするんだけど……」

「ふふっ。気のせいよ」

 

 詞のこの黒い笑顔……絶対、何かあるよ……。

 

 

 

--※--

 

 

 

「こんなので酔う方がおかしいんだけどなぁ……」

 

 つくづく思う。何で子供も普通に飲める甘酒で酔う人が出てくるのだろうか。名前に酒ってあるから身体の勝手な思い込みで酔ってるんじゃないか、みたいな推察を立ててみる。

 

「ふうっ。ごちそうさま、梨穂子」

「ごちそうさまでした。美味しかったわよ」

「お粗末さまでした~」

 

 私と詞は茶道部の出店にて甘酒を頂いて、再び通りを歩く。厄介事は高橋先生くらいのようで、それ以外は至って平和。友達のグループ、部活の先輩後輩にカップル。子どもたちに家族連れにお年寄り。みんながみんな、思い思いに創設祭を楽しんでくれている。

 

「純奈」

「なに、つか、さ……」

 

 暗がりに、出店の光で浮かび上がる詞の横顔。心を奪われるって、こういうことを言うのかもしれない。私ははっとして、思わず言葉を失ってしまう。

 だって、すごく、綺麗だったんだもん。

 

「……純奈? おーい」

「ふぇ? あっ、ううん。……それで?」

 

 詞の手が私の目の前で上下に動かされて、やっと正気に戻る。……心臓が跳ねちゃった……。

 

「こうして作る側になってみて眺める創設祭、どう?」

 

 詞は私に問いかける。私はお祭りの歩き方が分からなくて、何となくそういう催しは避けていた。けれど、こうして今日久しぶりにお祭りの会場に来て……しかも、私が途中からだけど実行委員長として中心的存在となって頑張った、そんなお祭りで。

 

「……不思議な感じがする」

「不思議?」

「うん。何か……このイベントを作るのに私が関わったってこと、幻みたいで」

「純奈は、こういう経験するの初めてだもんね」

 

 夢と表現するよりかは、幻と表現する方が何となくしっくりくる。何でかって言うのは……その、私の心の直感? みたいなやつで。

 

「……でも、嬉しいよ。一歩ずつ歩くたびに、満足感というか、達成感が身体に貯まってくる、みたいな」

「独特な表現するのね」

「でも、実際そうだからねっ」

 

 そうやってお話をしながら楽しく通りを歩いていくと、やけにすごくいい匂いに惹かれた。これは、多分おでん……かな。

 私は詞を誘って、おでんを売っている出店に向かう。そこで店番をしていたのは……。

 

「あ、美也ちゃんのお姉さん。それに、絢辻先輩」

 

 七咲(ななさき)(あい)。美也の友人で、水泳部所属。1年生にして県大会を優勝しているという、物凄い実力者だったりする。

 

「こんばんは、七咲さん。何か困ったことは起きてないかしら?」

「ええ、大丈夫ですよ先輩。備品を更新したおかげで、ちゃんと運営出来てます」

 

 そう言えば詞は前実行委員長だったから、詞がやった仕事もあるんだっけ。水泳部のおでんの備品を更新したなんて情報はたった今初めて聞いた。

 

「七咲さんってことは……あ、そっか。水泳部は確かおでんを毎年やってるんだっけ」

「そうですよ? もしかして、去年は創設祭に来てないんですか?」

「そうなんだよね。昔は私、今みたいに外に興味持てていなかったからさ」

「へえー、何だか意外ですね」

「そう? ってまあ、七咲さんは去年の私を知らないからそりゃそっか」

 

 私と七咲さんはこんな会話を交わした。去年の私はこの時期、ずっと家だったからなー……。

 

「そう言えば、お姉さんもミスサンタコンテストに出るんですよね?」

「え? 何で知ってるの?」

「美也ちゃんが言ってました」

「あー……」

 

 やれやれ、なんて妹だ……。前に聞いた話だけど、美也は結構私の話を友人にすることが多いらしい。恥ずかしいったらありゃしないんだから。

 

「まあ、確かに出るよ」

 

 ちなみに、詞が出るということは極秘である。ミスサンタコンテストに出るキャラじゃない詞は、まさかまさかのサプライズ登場がうってつけだ。

 

「本当だったんですね。お姉さんは綺麗ですから、すごく楽しみです」

「もう、七咲さん……お世辞にもほどがあるよ」

 

 私が綺麗? そんなこと、初めて言われた。梨穂子にも言われたことないし。……いや、付き合いが長い梨穂子だからこそ言われないのもあるかも。

 

「いいえ、お世辞じゃありませんよ。もしかしたら、優勝まで行けるかもしれませんよ?」

「優勝は難しいと思うんだけどなー……」

「どうしてですか? ……あ、森島先輩か」

「そう。最初から勝ってるようなものでしょ、あの人」

 

 森島先輩、実は当初は『受験生なのにこんなイベントに出て良いのか』って悩んでいた。でも、美也が出るとなったらやる気を出してくれたようで、結局今年も参加することになった。

 

「ふふ、そうですね。じゃあ2番目ですか」

「七咲さんは私のことを買いかぶりすぎだよ、もう」

 

 でも、嬉しくないわけなくって。私は照れ笑いを隠せなかった。そんな様子を見ていた詞も、私に笑顔を向けて話してくれる。

 

「純奈。あたしもあなたの衣装、楽しみにしてるからね」

「詞もそんなこと直前になって言われると、恥ずかしいんだけど……」

「ふふっ。ごめんなさいね?」

 

 もう。詞は絶対分かっててやってる。意地悪なんだから……。

 

「くすっ。お二人って、すごく仲が良いんですね」

「え?」

 

 七咲さんから突然そんなこと言われたから、ちょっと驚く。でも、私がこういう質問をされたときは、決まって素直に答えるんだ。

 

「うん……まあね。それは胸張って言える」

 

 やっぱり照れくささはあるんだけど、それでもちゃんと言う。私と詞は、仲が良いんだってこと。

 

「純奈って、仲が良いことを謙遜しないわよね」

「だって、謙遜するとその友達にとって失礼だから。ね?」

 

 友達は大事にする。どんなときも、困ったときに助けてくれるのは友達なんだ。梨穂子、棚町、そして詞。……みんなみんな、かけがえのない人たちだから。

 

「……ふふっ、ありがと」

 

 詞の声が、私の鼓膜を心地よく震わせた。何でもないような詞の声なのに、何だかすごく甘い響きに聞こえて……私の身体を、心を揺さぶる。

 

 ……私、やっぱり……おかしなことになってる……。詞の隣にいるだけで、身体に溜まっていく熱を自覚していく。そっか、そのせいで今日、あんまり寒くないのかな……。

 

「……お姉さん?」

「ふぇっ?」

 

 七咲さんの声に引っ張られて、私の思考は一気に戻される。そっか、おでん頼まないと……。

 

「あ……ごめんね、そろそろ注文しよっかな。私は……」

 

 

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