一回戦はFクラス。続く二・三回戦はAクラスが勝利を納めている。現状、リードしているのはAクラスだ。しかし、相手がとてもFクラスとは思えない程に戦いは白熱していた。
しかし、彼が動いた。Aクラス代表にして、第二学年首席。過去最高点数を叩き出したSAO帰還者の転校生──桐ヶ谷和人。
「来やがったか・・・」
冷や汗を垂らしながら呟くのはもう一人の代表、Fクラスの代表でありながら並みの生徒に凌ぐ学力の持ち主。
しかし、彼は動かない。彼が求める相手は和人ではない。その次だ。故に──
「──行け、姫路。」
捨て駒を差し出す。もとより設備になど興味はない。あるのはアイツだけ。
それを知るものはきっと気付いただろう。彼が変わろうとしないFクラスを完璧に捨てたことを。
「何で吉井君じゃ無いんですか。何で何で何で何で何で何で何で何でなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ・・・」
「うるさいな、黙ってくれ」
「・・・」ピタッ
「勝負は何にしますか?」
「総合点数で、お願いします」
「承認します!」
ヤバイ方向へケープアウトしそうになっている毒女に静かに言う和人。
「一つ問おう」
「ブツブツブツブツ」ピクッ
「何故お前は明久を傷付ける?何故お前は対話すれば済むことを暴力で訴える?」
「それは、吉井君が女の子にイヤらしいことをしているからです!」
「具体的には?」
「そ、それはジッと女の子を見つめたりするから、私達がお仕置きをしてあげてるんです!」
「その理論でいくならこの世のほとんどの人間が見つめた相手に対して邪な気持ちを抱いていることになるな、相手と大事な話をしている時も相手と目を合わせる。教師は生徒に異変が無いかを判断するために心配する生徒を見つめる。恋心を持っている子が焦がれる相手に少しでも想いが伝わるようにと相手をジッと見て訴える。
純粋な気持ちであってもお前はイヤらしいと判断するのだろう?そして、お仕置きと言う名の私刑を下す。
これからもずっとずっと人を傷つけ続けそして、とうとう人を殺す。
自分勝手な理由で、根拠も証拠もなく罪もない人間を、だ。」
「あ、あぁ・・・」
「実に愚かとしか言えないな、アンタ、レッド以下だよ。レッドの中には誰かを守るために、殺しをしてしまったヤツもいた、いきなり襲い掛かられて訳もわからず生きる為に殺してしまったヤツもいた、ソイツはずっと苦しんでたよ、自分が相手を傷つけた。相手を殺したってな。
だが、お前はどうだ?守るどころか傷つけ、奪うことしかできない。誰かの為って訳じゃない。全部自分の為じゃないか。傷つけても反省もしていない。
明久が観察処分者になりかけた理由は全部、人を想う気持ちが空回っただけだ。自分の為じゃない。見ず知らずの人間を庇って、助けて、自分の身を砕いて、笑顔で人の為に尽くしてる。それが真っ直ぐ評価に繋がらなかっただけだ。
そんな明久を、レッド以下のアンタがお仕置きだって?笑わせてくれるよ。」
「・・・・・・・」
「そのしおらしい態度も一時だけだ、そして、責任転嫁してまた明久が悪いからと暴力を再開するんだろうな。
これ以上は言わない。自分で答えを見つけろ。話すのも飽きた。秒で終わらす。せいぜい抵抗しろよ。・・・召喚」
「サ、召喚」
渦巻く怒りを隠そうともせず、淡々と話をした和人。SAOの時のことを思い出していたのだろう。あのエリアに突然放り込まれた少女の苦しみを知っているからこそ彼は怒っている、彼の最愛の彼女も幼き頃に巻き込まれた事件に真っ直ぐ向き合い、ずっと苦しんでいた。楽しく過ごせたハズの時を失い。最後には自分の罪をずっと背負うことを決意した。あの義妹も自分が生きているだけで周りに迷惑をかけると、薬や機械を無駄遣いしすると思い悩んでいた。
生きる意味について真剣に考え続けてる彼女達を想うとあまりにも簡単に他人を傷つける毒女達を許すことなど到底できなかった。
総合科目
Aクラス 桐ヶ谷和人 7302点
vs.
Fクラス 姫路瑞季 4208点
圧倒的な差にその場にいた者は均しく戦いた。在学中にこの点数にお目にかかることはそうそう無いだろう。
「アンタにソードスキルはもったいないし、腕輪も使う必要もないな。」
そう言うとしゃりんと黒の剣、エリュシデータを抜刀し、次の瞬間には姫路の後方に移動していた。剣を左右に払い、キンと高い音をさせながら納めた。
「派手にやったわね、和人」
そんな声が静かに響く。そのとき、誰かが気付いた。
総合科目
Aクラス 桐ヶ谷和人 7302点
vs.
Fクラス 姫路瑞季 0点
「み、見ろ!姫路が0点になってる!」
「は?はぁ!?本当だ!じゃあ召喚獣は?
ヒィッ・・・!」
もう一度姫路の召喚獣を見ると召喚獣は武器も含め輪切りとなり床に落ちていった。
バラバラと散らばるソレはどう見ても元が人型のモノだと一目で分かるものはいない。
「・・・先生、終わりました」
「は、はい。勝者、Aクラス桐ヶ谷和人!」
彼はゆっくりと舞台から降りて行った。彼の歩みを遮るものはおらず、真っ直ぐに最愛の彼女のもとへと戻った。
舞台に残るは、立ち尽くす敗者のみ。
第四回戦は圧倒的な差をつけ、Aクラスの勝利となった。
和人さんはあの世界にいたからこそ人を傷つけることを絶対に許さないと思うんですよね。