自習が終わった頃には夕方になっていた。
今後の予定は1度部屋へ戻り、予定時間になってから食堂へ移動を開始。夕飯の後はクラスと秀吉毎に割り振られたスケジュールに従い、風呂に入り少しの自由時間を挟み、就寝となっている。
「詩乃、そろそろ行こう」
「そうね・・・」
だが、この二人はとある用事が有るため、息つく暇もなく所定の場所へ向かう。
「それにしても、皆と高校生活を過ごせるなんてね」
「ああ、嬉しい限りだよ」
「文月の皆が嫌ってわけでは決して無いけど、やっぱり気心知れた仲間は嬉しいわね」
「そうだな・・・。男女比以外は俺に文句は無いよ、男女比以外は」
「二回言っても変わらないものは変わらないわ。諦めなさい」
「だよな~・・・・・・」
会話の途中で和人が男女比について不満が有る様子だったが、そう思うのも仕方がないことなのだ。
なんと、Sクラスの男女比は驚異の1:10。
女子の会話が分からず、和人が肩身の狭い思いをすることは想像に難くない。
「まぁ、そこは菊岡さんに期待しとくか・・・」
「あの人ならむしろ面白がりそうね」
「・・・だよなぁ」
和人が溜め息を吐いた所で二人は目的の場所に到着する。ちなみに今の二人は体操着でも浴衣でもなく、制服を着ている。理由はこれから嫌でも分かることだろう・・・。
目的の部屋の前に到着した二人はノックをする。
「和人と詩乃だ。入ってもいいか?」
「いいわよー!」
中からの返事を聞いて二人はガチャリと扉を開けた。
「おお!似合ってるじゃないか」
「ええ。みんな素敵よ」
扉を開くと目に入るのは二人と同じ制服を身に纏った皆の姿だった。夏服は基本は生還者支援学校と同じとはいえ、少しずつ違いはあるから新鮮な事に変わりはない。それに、直葉や朋、虹架、琴音に関しては別の学校にいたのだから殊更新鮮である。
「それはどうもありがとう!二人ともこの間振りね!」
「ボク達は今朝会ったからなぁ」
「久しぶり!和人、詩乃、元気してた?」
「和人くん!しののん!オフ会ぶりだね!」
「「・・・あ、あははは(情報量が多い!!)」」
「まぁまぁ、皆落ち着いてよ。和人たち困っちゃってるよ?」
里香から始まった挨拶ラッシュを上手く聞き取ることができず苦笑いをしていると、困っていることに気づいてくれた咲智がどうにか止めてくれたので、二人はこれ幸いと一人一人に対応していく。
「里香、元気そうでよかったわ」
「皆といたからかしら?詩乃こそ元気そうで何よりよ!」
扉に一番近い里香に詩乃が話しかける。和やかに話す二人はにこにこと楽しそうだ。
「スグや木綿季たちが無事に到着してくれて安心したよ」
「皆のおかげだよ!!」
「咲智さんがちゃんと纏めてくれたからね」
「移動は少々疲れましたが楽しかったです」
「わたしとしても、三人ともちゃんと指示に従ってくれたから助かったよ」
和人は妹たちと咲智の方へ、直葉たちが元気そうな様子を見るとあからさまにホッとした表情をする。三人はそれを見ると、顔を合わせてリーダーの咲智のお陰だよと彼に伝える。咲智は少し照れ臭そうにしながら自分だけの成果ではないと謙遜するのであった。
「琴音は・・・、かなり久しぶりね」
「この間の集まりの時は学校だったんだっけ?」
「そうなの、オフ会楽しみだったんだけどなぁ~・・・」
話が一区切りつくと、二人はこの間は会えなかった友人のもとへ足を動かした。彼女は学校行事の一つが重なり来れなかったのである。なので、他の皆よりずっと長く会っていなかった。
「それじゃあ、合宿から戻ったら振替休日を利用して皆でダイシーカフェに行くか?」
「うんっ、行く!楽しみにしてるよ!」
見るからに落ち込んだ様子の琴音を見かねて和人は琴音に提案をする。その提案を二つ返事で受け入れた琴音は嬉しそうに笑うのであった。
「プリヴィエート!二人とも!」
「やぁ、虹架。虹架も元気そうで良かったよ!」
「七色博士も元気?」
「ふふっ、姉妹揃って元気だよ!七色も最近はキッチリ休んでるから安心してね!」
次は最近は会う機会も減っていた灰色の髪の少女のもとへ向かう。相変わらずの笑みに二人も釣られるように頬を緩める。詩乃はふと気になって、幼い天才博士について聞く。虹架は妹の代わりに元気であることを伝えた。
という挨拶を一通りして、二人はようやく違和感に気付く。そう、あの日ダイシーカフェにいなかった琴音たちを抜きにしても一人多いのだ。
「よっ、二人トモ。元気してたカ?」
「その話し方はまさか・・・」
「これを取ればもっと分かりやすいダロ」
特徴的な口調の主がパサリと被っていたフードを外すと黄金色の髪と透き通るような黄色の瞳、イタズラっぽく笑う口元が現れた。
「自己紹介と行こうカ?オレっちは帆坂朋、かつてアインクラッド最速の情報屋、鼠のアルゴ、なんて呼ばれたアルゴでもアル。」
「マジか・・・」
「予想外ね」
数時間前の咲智たちと同じような反応をする二人に本人はまたか、と呆れる。
「というカ、さっきからオレっちはここにいただろーガ・・・」
先程の苦笑とは打って変わって半目でこちらを睨むアルゴ・・・、じゃなくて朋に二人は慌てて弁明をする。
「い、いや、違和感が無さすぎて」
「その通り!馴染み過ぎて疑問すら沸かなかったというか・・・」
「そうなのカ?」
「「そうなの!!」」
「ふーん?ま、そういうことにしておいてやろうじゃないカ」
やれやれと朋が肩を竦めた所で談笑していた皆へ咲智が声をかける。
「ね、そろそろじゃないかな?」
「あ、本当だ。」
備え付けの壁時計を見れば、予定時刻が直ぐそこに迫っていた。和やかな時間は終わりを迎え、和人達は気合いを入れ直す。
「みんな、準備はいいな?」
「ええ」「バッチリだよ!」「うんっ!」「「もちろん!」」「はい!」「いいよ~」「いいゾ」
廊下に他の生徒がいないのを確認して移動を済ませる。和人達以外の生徒は今頃食堂に集まっていることだろう。
最初に到着した和人が食堂のドアからチラリと中の様子を見ると丁度、高橋による連絡が終わったようだった。
そして、こちらへ戻る─入り口近くの壁際に教師が並んでいるため─高橋と入れ替わりで西村が出ていく。
「オレからは学園長に頼まれた用事だ。説明すると色々と長くなる・・・、まぁ見た方が早いだろう。入ってこい!」
西村が疲れたような顔をしながらも合図を出したので、和人達は強力なボスを前にした時のような真剣な顔付きで扉を開いた。
『・・・・・・Σ( ̄□ ̄;)!?』
和人と詩乃がまず入り、西村の方へ歩く。
それを生徒はざわざわと喋りながら迎え入れたが、二人の後ろにこの学園で二人しか着ることを許されなかった制服を見たこともない女子生徒たちが着用して現れたことにより、皆の口が一斉にポカンと開き、もれなく全員同じ反応を示す。もはやコントの域だ。
いつもはクールなあの久保や小山でさえも今は間抜けな表情を浮かべている。
「見ての通り、転入生が入ったのが一つだ。二つ目は・・・」
珍しく、少し言いづらそうに口ごもる西村から言葉を引き継ぎ、和人が喋る。表面上は何もない風を装っているが、これから知らせることはAクラスの人を裏切ったようなものなので心の中は冷や汗ダラダラだ。
「新クラスの発足についてだ。今回転入してきた皆と俺と詩乃はSクラスに配属された」
「本来なら説明をしたいところだけれど、今日は時間がないからSクラスについての詳細な説明が聞きたければ、各クラスの担任の先生に質問してちょうだい」
そんな内心を露ほども見せず、和人は言葉を紡ぎ、詩乃は補足をする。
「ここに立っている俺たち以外の皆がSクラスに入ることは出来ない。まぁ、外部からの人は分かんないけどね。
振り分け試験を受けても皆の最高目標はこれまで通りAクラスのみ。
ただ、俺たちは設備とクラス確定の恩恵を受ける代わりに学園から高い学力を要求されているから舐めてかかると痛い目を見るだろう。まぁ、とりあえずはこれだけだ。
あと、元々Aクラス代表だった俺は今から別クラスになってしまうので、急で本当に申し訳ないが、霧島翔子さんに代表をバトンタッチする。」
『・・・・・・(´・ω・`)?』
急展開についていけないらしく、またもや一斉に生徒たちが『何を言ってるんだこいつらは?』みたいな顔をする。
何でそんなに息ピッタリなのか・・・、いつもはあんなに競いあっているのに。
「こほん・・・。混乱してるところ申し訳ないが、時間も押しているので、今回転入してきた皆の簡単な自己紹介をする」
和人は皆のリアクションに驚いたが、気を取り直して次に話を進める。皆の反応を待たない辺り、本当に時間が無いようだ。
自己紹介は咲智からスタートした。
並んでいる列から一歩前へ出て咲智は自己紹介を始める。
「皆さん、こんばんは」
『( ゚д゚)ハッ!こ、こんばんは・・・?』
穏やかな挨拶に数人が正気に戻ったらしく戸惑いつつも咲智へきちんと挨拶を返す。
「今回、転入してきた早見咲智です。さっき和人が言った通りSクラス所属になります。
不慣れな部分も多いので助けてくれたら嬉しいです。これからよろしくお願いします」
咲智の落ち着いた声に皆の混乱が少し収まったのか話が終わるとパラパラと拍手が起こる。咲智の声には人を落ち着かせるバフでも掛かってるのかもしれない・・・。
当の咲智は元の場所に戻ってホッと一息をついて、自分の次に発表する人物の声へ耳を傾けていた。
「次はあたしね!こんばんは!」
『こ、こんばんは・・・!』
さっきの咲智と大きく変わってパワフルな声が食堂に響く。その挨拶にさっきよりも多くの人が正(ry・・・。
「あたしは篠崎里香!こう見えてもまぁまぁ成績は良いから覚悟してちょうだいね!これからヨロシク!」
いい笑顔で堂々と自己紹介を終えた里香へ拍手が送られる。本人は言うことは言えたと満足げだ。まぁまぁなんて謙遜したが里香は普通に成績良いので騙されてはいけない。
「次はオレっちダ。」
『・・・・・・・!?』
朋はフードを被ったまま発表するようだ、彼女の特徴的なしゃべり方に多くの生徒がビクリと肩を揺らす。
「この中でゲームをしている奴ナラ、この口調で分かることだろウ。さて、そんなお前達にやさしーいオレっちからは自己紹介というヨリ、忠告を贈ろうじゃないカ。
知らない人も心して聞くとイイ」
深く被ったフードから辛うじて見える口元がニヤリと弧を描く。それを見た幾人かは顔を青くしてガタガタ震えだす。ちなみに、その中にはムッツリーニこと土屋康太もいる。
「オレっちに対して余計な詮索はしないことをオススメするヨ。我が身が惜しいなら尚更ナ・・・、このオレっちが無償で教えてやったんダ。無駄にしてくれるナヨ?
ま、オレっちとしては面白いから別に守らなくても良いんだがナ」
『誓って詮索はしませんっっっ!!!!!!
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル』
「それならいいのサ」
彼女の正体に心当たりの無い人も、子どもケータイのマナーモードくらいガタガタと震える人達から何かを感じたのかこれまた揃いも揃って同じリアクションをする。
愉快そうに口を歪めてその宣誓を聞き届けた朋は「じゃ」と言って彼ら彼女らに背を向け、ひらひらと片手を振った。
「あー、彼女のインパクトが強すぎてわたしのこと忘れられちゃいそうだなぁ・・・。
こほん!とりあえず皆、こんばんは!」
『こんばんは!』
朋の自己紹介のおかげで全員が混乱から覚めたのは良かったものの、今度は恐怖からか訓練されたのかってくらい大きな声でハッキリと挨拶を返す。しかも、マナーモード状態だった人は敬礼までしている。彼らに何があったと言うのか・・・。
そんな事は気にとめずに琴音はふわりと笑いながら自己紹介を続ける。
「わ!皆、元気良いね!うんうん、元気なのは良いことだ!あ、わたしは竹宮琴音って言います!髪の毛は地毛だからあんまり気にしないでね。これからよろしくね!」
『よろしく!』
フレンドリーな琴音は生徒たちと早く打ち解けることだろう。現に生徒達は皆『良かった』『優しそうな人だ!』を繰り返している。吊り橋効果?キノセイダヨ。
「こんばんは、みんな!」
『こんばんは!』
にこにこと可愛らしい笑みを浮かべて挨拶をする彼女は夢に向かって努力していることもあり、大衆の注目を集める不思議な魅力を持っている。
ちなみに言うと、ここに来てようやく二年生達からのマトモな挨拶である。
「ふふっ、わたしは枳殻虹架。知ってる人ももしかしたらいるかもだけど、今はただの学生だから普通に接してくれると嬉しいな。
これからよろしくお願いします!」
ペコリと綺麗なお辞儀をして締める彼女に大きな拍手が送られる。ついでに茶目っ気たっぷりにウィンクをすると男女関係なく『可愛い!』など称賛の声が上がった。
「次は私ね。こんばんは皆さん」
『こんばんは!』
長い栗色の髪を靡かせ里香に負けず劣らず堂々と前へ踏み出す。ただそれだけの仕草にどこか迫力めいたものがある。
一瞬、紅白の装備とレイピアを携えて立っているように見えたとゲーマー少年達は後に証言をする。
「私は結城明日奈。この学校で知ってるのは同じクラスになる皆と霧島さんと吉井くんくらいだと思います。この学校のシステムも完全に把握出来てるわけではないので教えてくれると嬉しいです」
『んん~?』
「どうぞ、よろしく」
パッパと手早く終わらせた明日奈は生徒の反応を待つことなく元の場所へ戻った。
大部分の生徒にとって、気になる単語が出てきたが当の本人達は素知らぬ顔で明日菜の自己紹介へ拍手を送っている。それが逆に白々しい。後で問い詰めよう、と彼らの親しい友人は決意した。
「ハイハーイ!次はボク達がやるよ!」
「こら、木綿季。落ち着きなさい」
『・・・・・・(な、和むっ!)』
元気な声と、それを諌める声が明日奈と代わって食堂に響く。現れた少女達は瓜二つの容姿をしていた。片方の少女はニコニコと楽しそうに、もう片方の少女はそれを見て頬を緩めている。
「ボクは紺野木綿季!それでこっちのボクそっくりな人が・・・」
「紺野藍子です。見ての通り私達は・・・」
「「双子です!」」
「ボクが妹で・・・」
「私がこの子の姉です。この子はお転婆なので皆さんに迷惑を掛けるでしょうが、根気よく付き合ってもらえればと思います」
「ちょっと~!それじゃ、ボクが問題児みたいじゃないか~!」
「文句は後で聞くから。それでは・・・」
「「これからよろしくお願いします!」」
『よろしく~!』
双子ならでは?のテンポの良い掛け合いは見るものを癒したし、楽しませた。そして、とある双子の姉弟は紺野姉妹と話してみたいと強く思うのであった。
「うぅ・・・。あたしが最後になっちゃった」
その声を聞いた瞬間、一部の生徒はババッととある座席に座る人物の方を見た。見られている本人も驚いており、最後の人物から目を離さない。
「お兄ちゃん、一緒に出て・・・。」
「おう、いいぞ」
声がDクラスの誰かさんと激似の人物は和人と共に前へ出る。
「ほら、頑張れ、スグ」
「はーい・・・。初めまして、皆さん。私は桐ヶ谷直葉と言います。名前の通り、桐ヶ谷和人の妹です。先に言っておきますが・・・」
さっきまでのおどおどしていた様子が嘘のように背筋はピンと伸ばされ、胸を張って立っている。
「部活関係で私のことを知ってる人もいるでしょうから簡単なことを一つだけ。」
『・・・・・・ゴクリ』
「私は剣道を誰かを傷つける為には使いませんが、大切な物や人を守るためなら使います。なので、くれぐれも私に竹刀を振らせないでくださいね?」
『は、はい・・・・・・!』
紺野姉妹達の流れから、ほのぼのと終わると思っていた自己紹介は最後に朋とは別の恐怖を与え、幕を閉じるのであった。
前回、ブクマお気に入り登録をしてくれた方々ありがとうございます!私のやる気に繋がります!