文月学園での新たな生活   作:Argo(不定期更新)

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 どうも、私です。例のごとく期間が空きましたがそれはおいといて、前回、ブクマやお気に入り登録をしてくださった皆さん、ありがとうございます!私の励みになります!


閑話.ある生徒のはなし

Side.S川

 

──Aクラスとの試召戦争に負けたあの日、俺たちは変わった。坂本たちに見限られたことも、島田に散々文句を言われたのもどうでも良かった。それを上回る衝撃でそれどころではなかったから。

 ・・・いや、嘘だ。島田は置いといて、坂本たちに見限られたのは正直ヘコんだ。自分達が原因だったとしても、1年生からの腐れ縁だったし。アイツらがいい奴だってのも知ってたから。

 だから、尚更ヘコんだんだ。

 そんないい奴らにすら見限られたから。

 それがわかった直後にいつものように騒ぐことなんてできなかった。

 せめて祝おうと思った。どうしようもない自分達に不可能とされた下克上を─流石にAクラスは失敗したが─成功させ、短い間夢を見せてくれた彼らがのしあがって、相応しい場に立つのだからと。

 

 

 そう思わせたのは、嫉妬に任せ、暴走したときに知った坂本の過去の話が大きい。

その話を思い出すと、自分達がどうしようもなく愚かに思えて祝うことすらできず部屋の隅で泣くしかできなかった。祝いたいのに体は動かなかった。そんなとき、奴は現れた。

 

「・・・うおっ、負のオーラとまるで我が子にめでたいことがあったかのようなオーラが混ざっててなんとも言えない。」

 

 的確に俺達の雰囲気を表現した声が聞こえ、俯けていた顔を上げると数週間前に転入してきた男が立っていた。

 

「う、うっ!っ!な、なんだ?桐ヶ谷か?」

「そうだ、それにしてもどうしたんだ?」

 

 桐ヶ谷の目にはどうにも俺たちが異質に写ったようだった。それも仕方がなかったと今では思える。2年に進級してから俺たちは暴走ばかりしていてそんな姿ばかりを見せられていた桐ヶ谷からすれば気味が悪いのもいいところだろう。

 少し引いてはいたが、桐ヶ谷は物怖じせずに話を聞こうとしてくれた。利用価値とかも考えていたかもしれない、それでも俺からすれば確かに、嬉しかったんだ。

 

「ずっ、そこは坂本に聞けば半分は分かる。もう半分は自分達が寂しい奴らだな、と思うと目から水が止まらなくて」

 

 とある団員がそう答えたが、それはFFF団の団員の全ての心の内を代弁していた。

 

「そうか、それなら俺がお前らの評判を上げて女子と仲良くなる方法を教えようか?」

 

 長らくそれが願いだったFFF団からすれば願ってもないことだった。だが、俺はそれよりもこれが変わるきっかけになると思った。

 

「なにっ!?本当か!?」「俺たちもお前らのようにリア充になれるのか!?」

 

 他のメンバーも同じ想いだったのか、桐ヶ谷の話に勢いよく食いついた。

・・・・・・いや、アイツらのことだからただ女子と仲良くなれる方法ってところ食いついただけという線も考えられるか。

 そんなことをポツポツと考えていると桐ヶ谷は苦笑いしながら先を続けた。

 

「ああ。だがお前ら次第だ。俺が言う方法は地道な好感度上げ。でも確実ではある。」

「何でも良い。やってやるぜ!」「独り身の俺達に失うものはなにもない!」

 

 メンバーは見るからに暗い雰囲気を捨て去り、立ち上がった。俺ももちろん立ち上がって意気込む。少々身構える俺たちを余所に桐ヶ谷が出した案は拍子抜けするほど当たり前であるべきことだった。

 

「簡単だ。お前らは人に対して敬意をもて、そして誠実でいろ。正直、嫉妬や私怨で動くお前らは見苦しかった。そのエネルギーを周囲のために使うことで今の評価からは確実に上がる」

「た、確かに。俺たちは一方的に感情を押し付けていた」「あんなことをしていれば普通は嫌われて当然だよな・・・」

 

 普通は当たり前過ぎて意識することすら無くなった考えだった。俺たちは果たして、FFF団として活動していたとき、カップルが相応の努力をして結ばれたということを1度でも考えたことがあっただろうか?その苦労を少しでも理解しようとしただろうか?

 坂本の話だって知ろうとして知ったわけではなくて、偶然耳にする機会があってようやく知れただけだった。

 

『俺はなにをしていたのだろうか?

 何がしたかったんだろうか?

 これからどう過ごせばいいのだろうか?』

 

 ぐるぐるとそんなことが頭の中をよぎる。

 それでも、少しずつ、自分なりに整理をしていく。解るように言葉を噛み砕く。

・・・最悪な俺たちを桐ヶ谷は見捨てずに気にかけてくれた。桐ヶ谷がどうしてここまでしてくれたのかは分からないが、俺たちに話をする間、真剣な表情を1度も崩さなかった。

多分、こういうことなのだと思う。

 下へ向けていた顔を正面へ戻す。見慣れた黒いローブを着た仲間がそこにいた。何に促されるわけでもなく、自然と頷き合う。

 バサリと一斉にローブを脱いだ。団長として、全体に声をかける。

 

「よし、お前ら!これからは人の為に動くんだ!」

「そうだな!今までの迷惑分も俺達の行動で払っていくぞ!」

『うおおおおーーー!!!』

 

 

 

─ ̄─_─ ̄─ ̄

 

 

 

 坂本たちがクラスを出たあと俺が代表となった。桐ヶ谷が言ったことを基にボランティアなどに積極的に参加したり、授業を真面目に受けたりした。

 最初は気味悪がられたし、怪しまれたし、授業についていけなかったが、徐々に変わっていった。やっと、人並みになれたのだ。

・・・・・・とはいっても、変われない奴(島田)もいた。今度は俺達が変えられるだろうか、間違ってることを理不尽な言葉でなく、相手に馴染むような言葉で伝えられるだろうか。

 

「今度は間違えねぇ!」

「団長!行こうぜ!」

「おう!」




 彼らはもう大丈夫。
初めて使う機能があるので、変だったら教えてもらえると有難いです。

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