文月学園での新たな生活   作:Argo(不定期更新)

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 どうも、お久しぶりです。前回、ブクマ等をしてくださった方々ありがとうございます。
 今回は登場キャラが多いので「」の横に名前を表記します。今後も登場キャラが多いときは同じようにします。



二日目 朝

 二日目の朝。欠伸を噛み殺しながら吉井明久は食堂へとやって来た。寝不足ながら思い出すのは合宿一日目である昨日のこと。短い時間ながらも驚きの連続だった。

 

 クラスメイトが突然別クラスに移動したと思えば、その隣に並ぶのは清涼祭の時に見たことのある少女たち。しかもその内一人はVRゲーム内で散々お世話になった情報屋。本名もアバター名も顔すら出さなかったがあの背丈と特徴的な喋り口調は間違いなくあの情報屋のもの。これからの学校生活が一気に不安になるのも仕方ないだろう。そして、友人の土屋康太ですらそれは同じ。曰く、『情報戦で彼女に勝てることはないだろう』とまで以前言っていた。あの情報屋の機嫌を損ねれば・・・、と考えれば身震いするのも致し方ない。

 

 寝惚けた頭でSクラス(主にアルゴ)への恐怖心を募らせながら、受け取った朝食を手に席に着くと隣の椅子がガタリと動いた。

 

「あれ?桐ヶ谷君だ、おはよう」

「おはよう、吉井。前にも言ったけど名前で呼んでいいぞ。敬称もいらない。もうAクラスの代表でもないし、気にすることは何もないしな」

「そういえばそうだったね。代表じゃなくなったのは残念だけどこれからもよろしくね、和人君。あ、僕も前に言ったけど明久って呼んでよ!」

「分かった。よろしくな、明久」

 

 和人としては昨日のことで怒鳴られても仕方ないよな、と思っていたが、終始和やかなムードで朝食はスタートした。

 そんな和人の心情を知らない明久はそれにしても、と呟く。

 

「和人は同じクラスの人と食べなくていいの?というか朝田さんは?」

「ああ、それはだな・・・」

 

 明久の疑問に和人は遠い目をしつつ答えようとしたが、その前に第三者が答えた。

 

「明久、あっちのテーブル見てみろ」

「あれ?雄二だ、おはよう。それにあっちのテーブル?」

 

 明久の向かいに座った雄二は明久の後ろの方を指差しする。素直に振り向くと、数あるテーブルの中で一際目立つテーブルがあった。

 

「あれ、吉井・・・、じゃなくて明久だったら入っていけるか?」

「い、いや、ちょっと無理かな。」

「坂本は?あ、俺のことは名前で呼んでくれ」

「じゃあ俺も雄二でいいぞ、きりが・・・・・・和人。ちなみに、俺はもちろん無理だ」

「だろ?つまり、そういうことなんだよ」

 

 苦笑いする和人に同情する二人。振り返ったとき、明久の目に入ったのはSクラスの女性メンバーが固まっているテーブルだった。そこへ一人で入っていくのはかなり勇気がいる。

Sクラスの構成は女性が大人数なのに対して、男子は桐ヶ谷和人ただ一人のみ、和人ならなんだかんだ楽しく過ごせるだろうが肩身が少々狭くなるのは必然とも言えた。それを同じ男子である二人が分からないハズもなく・・・。

 

「なるほどね・・・。そういうことなら、他のときも一緒に食べる?」

「いいのか?俺が言うのもなんだけど、俺たちはAクラスを裏切ったようなもんなんだぞ?」

「この学校じゃ日常茶飯事だよ。というか、学園の措置も仕方ないかなって思うんだ」

「仕方ない?」「ほう・・・?」

 

 焼き鮭を頬張りながら明久は考えを述べる。反応は返しつつも二人は特に口出しせず明久の言葉を待つ。

 

「だってさ、彼女たち全員が和人と同レベル・・・、小さく見積もっても久保くんや優子さんレベルなんでしょ?」

「まぁ、そうだな。Aクラス上位レベルは確実だ。」

 

 それに各自、得意科目は違う。彼女達が編入しても和人の学年首席の地位は揺らぐことがなかったが、一人一人の得意教科を見てみれば和人を上回る成績を叩き出している。

 

「そんな人達がもし、そのままAクラスに来てたら、Aクラスは過剰に戦力を得ることになるよね?」

 

 元も十分に大きな戦力をAクラスは持っている。だが、それはやり方さえ工夫すれば下位クラスでもギリギリ打ち勝てるはずだった。しかし、もしSクラスの彼らがAクラスに入っていればそのパワーバランスは大きく崩れていたことだろう。

 雄二の考えた変則的な試合形式も、上手く弱点を突いたこと、操作の技術に一日の長が有ったからこそ持ち込めた。

 だが『もし』だ。もし、あの時、和人や詩乃のように全ての教科が均等に高く、召喚獣の操作が彼ら並に上手い人間がいたら?

 そんな存在からすれば、教科指定の優位など、取るに足らない問題だ。確実にFクラスはコールド負けしていただろう。

 その存在こそが、2年もの間、ゲームの世界に縛られ、そこで生きるか死ぬかの戦いをし、生還した彼らだった。多くのSAO生還者がゲームから離れた、それでもなお、ゲームから離れることを選ばなかった彼らだった。

 そこが分かれば後は簡単。感覚は違えどゲームで生きて順応した彼らからすればこの程度の操作は赤子の手を捻るようなものだ。点数・操作技術、どれを取っても高い素養を持つ人間が元から火力の高かったAクラスに集まれば、過剰という他ない。

 

「ま、確実にそうなるだろうな。ただでさえ、BクラスとAクラスの間には大きな壁がある。そこにAクラス上位レベルの生徒がプラスで9人も現れれば他クラスからしてみれば絶望しかないだろうな。

それに根本的な話だが、この学校は1クラス50人。それがA,B,C,D,E,Fの6クラス編成だ。

だが、今年Aクラスには+2で52人。これでも

十分に大きい差だが、さらに今回で+9人。もしSクラスを作らず、Aに放り込めば61人。他クラスよりも11人多くなっていた。

 それはあまりにアンバランスだ。」

「でしょ?そしたら、あまりの戦力差に元々やる気のない生徒は更にやる気がなくなるだろうし、やる気のあった生徒もほぼ萎えると思うんだ。そうなると試験召喚戦争も起こり得なくなる。学園の特性が殆ど出なくなると思わない?」

「つまり、それを防ぐ為に今までいた生徒と編入生で成績がいい意味で均一な和人たちを区切って一つのクラスとした。って明久は言いたいんだな?」

「うん、そういうこと!どう思う?」

 

 明久の意見にしっかりと自分の考えを付け加えてまとめた雄二の返しに頷きながら明久は和人の方へ意見を聞く。それに対して和人は一度箸を置いて返答を考えた。

 

(一応、帰還者学校ではない学校へ編入した人へ対する周りの対応を調べる、という名目もあるがそれ込みで考えても明久の考えも的外れってわけじゃない。

クラスのパワーバランスが偏りすぎるのも事実だし、それを回避するためにわざわざ調節し直すのも面倒な話だ。それなら新設して今までいた生徒と編入生で切り離して目標を高くした方が楽だしな。クラスを区切っても周囲との関わりという面は今回みたいな行事で十分に補えるし。

というか、学園長の性格から考えても面倒だから付け足した、っていう理由が8割を過ぎると思うけど・・・。)

 

 和人はチラッと明久の様子を見る。当の明久は目を輝かせながら今か今かと和人の口が開くのを待ち続けている。

 

(言えるのか?こんなに反応を期待しているやつに”学園長が楽をしたかったからだと思うぞ”なんて言えるのか?)

 

 明久のキラキラとした笑顔がチクチクと良心に刺さってる気分だ。まさか、笑顔に追い込まれることになろうとは、なんて思いながら和人はようやく心を決め、口を開く。

 

「うん、明久の考えで合っていると思うぞ」

(言えるわけがない!!!しかも、雰囲気が若干木綿季と被るから尚更言えない!!!)

 

 表面上は平然と食事を再開しているが、内心はかなり慌ただしい。だが、仕方ないのだ。純粋な笑みが木綿季とダブり、家族には殊更甘い和人に否定することができなかったのだ。

 

「ほんと!?嬉しいよ!」

 

 和人の内心を知ることなく、わいわいと騒ぐ明久を穏やかに保護者目線で見守っていると向かい側に座る男と目が合った。

 

(ようこそ、こちら側の世界へ)

(雄二もこの笑顔にやられたのか?)

(あれを冷たくあしらえるか?)

(ちょっと無理だな)

 

 アイコンタクトで会話して二人は頷く。

 和人と雄二の仲が深まった瞬間だった。

 

 

 

─深く頷く和人と雄二、未だに無邪気に喜ぶ明久。ちょっと意味のわからない状況ではあるが、そんな謎の状況が出来上がったカオス過ぎるテーブルを遠目に見ながらヒソヒソと囁く者たちがいた。

 

 

 

 

____

───────

 ̄ ̄

 

 

 

 

里香「・・・・・・ねぇ、あれってどういう状況なの?」

詩乃「私に分かるとでも?」

 

 少し引き気味にこそっと詩乃に耳打ちする里香、それに分かるわけないと答えながら件のテーブルへ呆れの視線を送る詩乃。

 

直葉「あたしも流石に分かりません・・・」

琴音「そうだよねぇ」

咲智「それにしたって不思議な状況だね」

虹架「全くだよ。ところで───」

 

 耳聡く二人の会話を聞いた直葉、琴音、咲智、虹架の四人は、あはは、と苦笑しながらもサッと切り替えて別の話題を始める。経験してきたことが経験してきたことなだけあり、この程度では動じないだけなのだろう。興味がないだけとも言える。

 

 

木綿季「なんだかあの3人、兄弟みたいだね」

 

 件の光景を目にした木綿季は唐突にそんな感想をこぼした。

 

藍子「兄弟?」

珪子「あー、分かる気がします!」

明日奈「ふふ、それなら坂本君が長男ね。」

藍子「末っ子は吉井さんですかね」

木綿季「なら、和にぃは必然的に次男だね!」

珪子「思ったより違和感ないかもです・・・」

明日奈「だね。しっかり者の坂本君と・・・」藍子「のんびり屋で頼れるお兄さん・・・」

木綿季「で!子供みたいに純粋なヨッシーだね!」

三人「「「うん?」」」

木綿季「え?何かボク可笑しなこと言ったかな?」

 

 単純に明久のあだ名についてと木綿季の自覚していない彼女自身の特徴を言ったからなのだが、当の本人は至って真面目にそう聞き返すばかり。

 

藍子「大丈夫、特に変なことは言ってないよ。ただ、吉井さんのあだ名に驚いただけ」

珪子「そ、そうですよ!」

明日奈「うん。でも、いいあだ名だと思う」

木綿季「でしょー!」

 

 どや、と胸を張る木綿季に温かく見守るメンバー。奇しくも、それは明久達のテーブルと同じ状況なのであった。

 

 

 

 

 ちなみにアルゴ()はというと。

 

 

「Zzzzzz」

 

 未だに部屋で眠っているのであった。




 アルゴはもうアルゴで統一するつもりです。
私が違和感あるのと、アルゴがキリト達以外のネット民に自分の顔と本名を出さないイメージがあるので。

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