狂騒の花束   作:YOTUYA

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第二話

 

 渋谷拠点監視哨。

 渋谷の夜を見張るこの施設のシャワー室で、三宮三葉は戦いの汗を洗い流しながら憤っていた。

 

「いったいなんなんだあの百夜優一郎とかいうのは!!」

 

 彼女の怒りの始発点はいまから数時間前まで遡る。

 新しく配属される部隊にはどれほど優秀な人材が揃っているのかと期待しながら集合場所に向かってみれば、ド新人の黒鬼所有者三人と会うたびに茶化してくる女が組する新設部隊であった。

 それだけならまだ呑み込むことができた。

 しかし、月鬼ノ組の中佐から与えられた任務を遂行するため原宿駅まで足を運んだ時、彼女たちもまたどこかの怠け大尉と同じ目に遭っていた。そして、新人黒鬼所有者の一人が命令を無視し、独断で行動を起こしてしまった。

 新人にはよくあることだと笑える者もいるだろうが、三葉は許すことができない。できない理由があった。

 

「あんな奴が月鬼ノ組にいるだなんて、あたしは絶対認めないぞ!!」

「と、激しくぶつかり合った二人。ですが、次第に惹かれ合い、恋に……」

「落ちるかぁぁあああ!!」

 

 三葉は激しく振り返る。その先には、シャワーカーテンから顔だけをひょっこりと出すあの会うたびに茶化してくる女━━柊シノアがいた。

 彼女は悪戯っぽく微笑みながら三葉に言う。

 

「ですよねー。みっちゃんにはあの天才大尉がいますもんねー」

「はあ? なぜそこで稜花が出てくる」

「あらー? 私はてっきり二人はそういう関係なのだとばっかり」

 

 三葉は嘆息し、中断していた洗身を再開する。そして、シノアに背を向けながらも誤解を解くように話を続けた。

 

「冗談でも笑えないぞ、シノア。あたしとあいつがそんな関係なんて有り得ない。これからだって絶対に、な」

「私は結構お似合いだと思いますけどね。今朝だって起こしに行ったんですよね、彼の部屋まで」

「それはあたしがあいつの監視官だからだ。……そもそも、あたしたちがそうなる可能性が無いことはおまえが一番知っているはずだろう」

 

「あたしが彼の大切な人を死なせてしまったから……ですか?」

 

 シノアの言葉に三葉は手を止めた。

 

「いつも言いますけど、あれはみっちゃんのせいじゃありませんよ?」

 

 三葉は目を閉じる。

 ただそれだけであの日の出来事を鮮明に思い出せた。

 月が見えなかった闇夜の中、≪ヨハネの四騎士≫と呼ばれる怪物を対峙し、味方の一人が窮地に立たされた。その時、彼女は考えるよりも先に身体を動かした。

 敬愛する隊長の命令も無視して、独断で味方を救援に向かう。その結果、今度は自分自身が死の淵に立たされた。

 怪物の槍手が身体を貫く間際、彼女を庇ったのは、彼女が最後の最後で背を向けた隊長━━(あかざ)(れん)だった。

 彼こそ、藜稜花の兄であり、

 三宮三葉の初恋の相手だった。

 彼女はそれほど大切な存在が身体に穴を空けられ、食われる瞬間を目の前で見ている。

 

「みっちゃん」

「━━ッ」

 

 寄り添うような優しい声に、三葉は目を開けて我に返る。無意識に振り向くと、彼女の視界に心配そうにこちらを見つめるシノアの顔が映る。

 

「藜稜花。二年前、山梨県北杜市にて任務中に第十七位吸血鬼貴族と遭遇、十五人編成の舞台は二人を残して全滅。その生き残りの一人が彼でしたよね」

「……ああ。もう一人は戦意を喪失していたらしいから、実質は単騎で貴族と渡り合い、退けた。その功績が認められ、あいつは十四歳の若さで大尉に任命されたんだ」

「まさに、英雄。私は噂でしか聞いたことがなかったので、彼にそのような強さがあるとは正直思えません。……もう一人はどうしているんですか?」

「精神を壊して死んだよ」

 

 三葉はなんの躊躇も無く言い放った。それが死戦であると言わんばかりに。

 実際、月鬼ノ組では精神崩壊を起こす隊員は少なくない。戦場が苛烈であればある程、生き永らえれば永らえる程、多くの惨状を目撃する。運良く帰って来れたとしても、その記憶に耐えられる精神力を所持していなければ二日で壊れる。

 もう一人の生き残りである彼女の事を三葉は思い出す。

 おっとりとして可愛く笑う子だった。一目見て誰もが、戦いには向かないと判断するような子だった。

 それでも大切な友達だった。

 

「…………ッ!」

 

 三葉はシャワーの水量を大にして、頭から排水溝へと水と共に記憶を洗い流した。その後、彼女は自身の肩にそっと手を置かれた感触に微かに身体を震わせる。しかしすぐに平静を取り戻し、振り向くことも無くその手の主を呼ぶ。

 

「おい、シノ━━」

「辛くないですか? 稜さんといるのは」

 

 いつもヘラヘラとしてからかってくるけれど、少なくともこの一言だけは純粋に私の身を案じてくれているのだと三葉は感じた。

 そのおかげで、微かに彼女は素直になれた。

 

「辛くない、とは言えないさ」

 

 現に今朝、本意ではないと理解はしているが彼の言葉に深く傷を抉られたばかりだ。これからだって何度も同じような事が起きる。

 しかし、それでも、三葉は彼といる事をやめない。

 なぜなら、

 

「言われたんだ、蓮隊長に。弟を頼む、と」

 

 彼女にとってはその約束だけが、あの日に唯一守れたものだったのだから。

 だから、やめられない。

 どれだけ傷を負おうと、三葉にとってはそれが贖罪であり、使命。

 

「……そう、ですか」 

 

 覚悟の強さを感じたのかシノアは視線を落とす。暫し沈黙し、それでも最後にと彼女は三葉に言う。

 

「でも、気をつけてくださいね。時々、稜さんは吸血鬼よりも怖い顔をしますから」

 

 

 

    ★    ★    ★    ★

 

 

 

「えっと、じゃあ、この子の事お願いしまーす」

「はい! かの神童の頼み、全力で務めさせていただきます!」

「お、ありがとうございまーす」

 

 渋谷拠点監視哨。吸血鬼たちに利用された少年を連れて俺は、日本帝鬼軍の中継拠点にやってきた。

 お外は真っ暗。早くシャワー浴びて眠りたい。

 少年を元気な隊員に預け、俺はシャワー室の方へと向かう。すると、その途中にある休憩ルームで年頃の男子三人がベンチに座って駄弁っていた。

 

「……ったく、女子どもはシャワー長ぇな、なにしてんだ」

 

 その内の一人がぶっきらぼうに呟く。それを隣で気弱そうな男があははと笑う。もう一人のメガネをかけた男は会話に入らず黙々と瓶牛乳を飲んでいた。

 こいつらが三葉の部隊なのか。

 

 ━━むさ苦しい部隊ね、その内彼女も寝取られるんじゃないかしら。

「はぁぁ!?」

 

 刀に向かってつい声を荒げてしまい、三人の視線を集めてしまう。

 

「あ、すいません……」

 

 謝った後、逃げるように彼らの前を通ると、

 

「おまえ、月鬼ノ組か?」

 

 あのぶっきらぼうな男子に呼び止められた。

 

「そ、そうだけど……キミたちも?」

「ああ、そうだよ。……おまえ、弱そうだな」

「…………」

 

 このクソガキ。

 なんて頭に血を上らせたけど、よく見ればこいつはなんか強そうに見える。

 

「ご、ごめんなさい……! 僕ら以外にも月鬼ノ組がここにいることに彼は驚いちゃってて……!」

 

 隣にいた気弱そうな男子が慌てて仲裁に入ってくるが、それでもあの男はじーっと俺の顔を眺めていた。

 なんでと訊こうとした時、遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「あ、痛たたたたた……」

「馬鹿が。シャワー室なんかではしゃぐから転ぶんだ」

「すいません……。みっちゃんのお胸があまりにも柔らかそうに見えたので……」

「や、やめろ……! 公衆の面前でそんなことを言うな……!」

 

 タオル片手に火照った女子二人が歩いてくる。

 一人はお馴染みの三宮三葉さんで、もう一人は肩ぐらいまでの髪をした小柄な女の子━━日本帝鬼軍元帥の娘、柊シノアだった。

 真っ先に彼女と目が合う。

 

「あら?」

「おーっす……」

 

 軽い挨拶をすると、シノアが悪戯っぽい笑みを浮かべ、いまでに俺の存在に気づいていない三葉の脇腹を小突く。

 

「ひゃぁ……! ふざけるなシノア! また転びたい……の、か……」

「よ、今朝ぶりだな三葉」

 

 目が合うと、三葉は目を何度もパチクリさせ、次第に大きく開いて驚いた。

 

「おおおおおおおおおおまえがなぜここにいる……ッ!? サボりか……!? サボったんだな……ッ!! あれほど言ったのに……!!」

「落ち着けって。今回は任務だ、任務」

「にににににに任務……? おまえが……?」

 

 急に訝しげに見やがる。

 交差する視線を裂くようにシノアが俺の目の前にやってきた。

 

「お久しぶりです、稜さん」

「おう、確か半年振りくらいか」

「ええ、何せあなたは滅多に部屋から出てきませんからね」

「だったら、おまえが部屋まで来ればいいだろ。俺の部屋は一年中無施錠だぞ」

「あはは、それにはかなりの勇気が必要ですね」

「あ、あのー……」

 

 久方ぶりの知り合いと会話を弾ませていると、さっきの気弱そうな男子が困惑した表情で覗きこんできた。彼はシノアと三葉の方を見ながら言う。

 

「二人はこの人と知り合いなの?」

「いや、知り合いもなにもこいつは日本帝鬼軍の大尉だぞ」

『た、大尉……ッ!?』

 

 男子三人組が一斉に声を上げた。

 

「ちーっす! エリートでーす!」

 

 予想以上の反応に気を良くしてつい調子に乗った。

 

「す、すごい……。僕と変わらない歳なのに大尉だなんて……本当のエリートなんだ……」

「おい、いまなんかチクリときたぞ。なあ、シノア」

「はい、聞き捨てならない言葉が」

「え、えぇぇぇぇ……!? ぼ、僕そんなつもりで言ってないよ……!?」

 

 女子二人に詰め寄られ、気弱そうな男子━━早乙女与一くんが慌てふためいて何度も謝り始める。

 なんとも愉快なその光景を眺めていると、側で大きな舌打ちが聞こえた。見ると、あのぶっきらぼうな男━━百夜優一郎くんが面白くなさそうな顔をしていた。

 

「けっ! 俺だってもう少し早く鬼呪装備手に入れてりゃ、今頃……」

「バーカ。二級武装の吸血鬼相手に苦戦してた奴がなに言ってんだ」

 

 さっきまで一切会話に入って来なかったメガネ男子━━君月士方くんが彼の頭を軽く叩き、俺の腰にある刀に視線を向ける。

 

「それによく見ろ、ありゃ殲滅部隊で使う最低レベルの装備、明王シリーズだ。俺らの黒鬼と比べれば刀と木の棒ぐらい差がある」

 ━━はあ? なにこのメガネ。

 

 俺は二人にバレないように刀を叩く。

 

「大尉にまで成るってんなら、それ相応に吸血鬼と戦って生き残ってきたってことだろ。木の棒一本で」

「…………」

「はっきり言って化け物だよ、こいつは」

 

 躊躇しない物言いが凄くかっこいいと思った。まあ、化け物っていうのは過大評価すぎるけど。

 君月くんに諭された彼はそれでも納得していない表情で手に持った牛乳を飲む。

 

「まあ、俺としては黒鬼持ってるキミたちの方が十分化け物だけどね……」

「大尉は上位の等級には挑戦しないのですか?」

「あー、今朝もそんなこと言われたような気がする」

 

 思わず笑みが零れた。周りから見れば大尉が明王シリーズなのは不自然なのだろうか。

 

「俺には無理だ。挑戦したところで、昔と同じく色んなところから汚いもん出して終わりだ」

「自分で自分の過去に尾ヒレをつけるのはやめろ」

 

 早乙女くんを絞り終えた三葉が口を挟んできた。

 

「おー、汚いだけに汚ヒレ? 三葉ってそういうこと言うんだな」

「はあっ!?」

 

 彼女の顔が見る見るうちに赤く茹であがっていく。

 

「うわー、みっちゃんうわー」

「くそ寒いシャレかましてんじゃねぇよ」

「同感だな」

「あはは……僕も……」

「こ……こ……ッッ!!」

 

 仲間からの弄りで熱は最高潮に達し、三葉はわなわなと身体を震わせ、

 

「こぉんのバカ稜花ぁぁあああああああああああああああああああッッ!!」

「げっふぁっ!?」

 

 見事なハイキックを俺の右頬にぶち込んだ。

 

 

 

    ★    ★    ★    ★

 

 

 

「痛ぇぇぇ……」

 

 満天の星空の下。監視哨の屋上で俺は、蹴られた右頬をさすりながらフェンスにもたれかかった。

 夜空で煌めく流れ星の代わりに心地よい風が頬を撫でる。目を閉じて身を委ねれば委ねる程、その痛みがどこか遠くへ消え去っていった。

 

「稜さん」

 

 真っ黒な視界の中に、一筋の明るい声が差し込む。

 ゆっくりと目を開くと、目の前にはシャツにスカートの私服に着替えた柊シノアがいた。彼女は灰色に染まる髪を揺らしながら綺麗に微笑む。

 

「ずいぶんと深く黄昏ていましたね」

「まあ、独りがやられることはそれくらいしかねぇからな」

「独り? あなたにはみっちゃんがいるじゃないですか」

「…………だといいんだけどな」

 

 すぐ答えられない自分に落ち込んだ。

 周りにはよくセットで扱われるけれど、本当のところはどうだかいまでもわからない。それもこれもすべて【監視官】なんてものが曇らせている。

 いつの日か彼女がその任から解放された時、変わらずあいつが俺の傍にいてくれる自信がない。

 

「おまえも知ってるだろ、俺と三葉の間には兄貴がいること」

「ええ。グレン中佐や暮人兄さんが一目置いていた、あなたに負けず劣らずの強者。私も優しく頭を撫でられたことがあります」

 

 そう言ってシノアは思い出すように自身の頭を撫で、笑った。

 

「みっちゃんが心を持っていかれるのがわかります。あの笑顔は反則ですね」

 

 その瞬間、一際強く風が吹いた。

 

 ━━兄貴を超えたいなら、いま超えればいいわ。

 

 俺は必死に目を閉じる。

 

 ━━兄貴が彼女にできなかったことを、あなたがいまここでやればいい。あなたが唯一兄貴に勝てる【欲望】という名の【愛】で。

 

 心臓の鼓動が大きく脈打ち、呼吸が荒くなる。

 目を開けたら終わりだと思った。

 目を開けてしまったら、俺はシノアを__、

 

「そんなにみっちゃんの事が好きなんですか?」

 

 心臓が一段と大きく跳ねて、静まり返る。

 再び勢いを弱めた風が、もう大丈夫だと告げているように思えた。 

 

「稜さんが苦しそうな時、いつもみっちゃんの話をすると和らぐの私は知ってますよ」

 

 ゆっくりと目を開けると、絶えていなかった彼女の笑顔があった。それに少し安心して

、一歩でもいいから見えない距離を近づきたくなる。

 

「自分でもよくわかんねぇけど」

 

 だから、口に出した。

 

「兄貴の弟に生まれたことも、俺自身に生まれたことも、いままで何度も何度も泣きながら後悔してきたのに」

 

 誰にも教えたことがない本音を。

 

「三宮三葉を好きになったことには一度も後悔したことがないんだ」

 

 藜稜花(バケモノ)が踏み越えてはいけない禁忌を。

 

 シノアはそれでも笑顔で、ゆっくりと空を眺め始める。一緒になって眺めると、果てしなく広がる星々がさっきよりも近く、輝いているように見えた。

 

「時折、もの凄く稜さんが羨ましく思える瞬間があるんです。それ程までに想える相手に巡り逢えたあなたが」

 

 羨ましいなんて初めて言われた。

 早々に大尉なんてものに成り上がっても聞こえてくるのは、まだ子どもなのに、あんなガキが、なんて蔑むような言葉ばかり。

 兄貴より偉くなったのに、兄貴より凄くなれない。

 そんな俺には誰も成りたがらないし、憧れなんて以ての外だ。

 思えば思う程、部屋の中で独りになっていた方が楽だと感じた。

 

「……羨ましい、か」

「はい。私もいつか、そんな風に熱く想える人に逢いたいです」

 

 そこまで言われると恥ずかしくなってくる。

 すると、シノアが不意に視線を下ろし、俺の顔を見てニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。

 

「しかし、そうなると稜さんはかわいそうですねー」

「は?」

「いやー、私とみっちゃんはシャワーを浴びてる時に仲睦まじくガールズトークに花を咲かせていましてね。そりゃあもー、あんな話やこんな話まで」

 

 あいつガールズトークなんてするのか。チョーウケる。

 その時、屋内へ通ずる扉が開かれた。

 

「ここにいたのか、稜花。それにシノアまで」

 

 現れたのは、パーカーにショートパンツ姿の三葉。髪を下ろしているから一瞬誰かわからなかった。

 本当にあいつかとマジマジ観察していると、横でシノアが口を尖らせる。

 

「みっちゃん、ひどいです。私が余計みたいな言い方」

「ん? いや、そういうわけじゃないぞ」

「ぷんぷん、もういいです。私は部屋に戻って寝ますよーだ」

 

 そう言って彼女はあからさまにドシドシ歩いて去っていく。その背中が見えなくなるまで、俺たちはなにも言わなかった。

 

「なんなんだあいつは……」

「六割くらいてめぇが悪いわ。ちゃんと後で謝っとけよ」

「な……そうか、わかった」

 

 三葉は扉を一瞥し、ため息を吐きながら俺の隣立ってフェンスに背中を預けた。

 俺の肩くらいまでしかない小柄な身長。横に並んで久しぶりに実感した。

 暫く街灯のない夜景を眺めた後、三葉が無表情のまま口を開く。

 

「シノアと何を話してた?」

「……まあ、兄貴の話とか」

「そうか……」

 

 兄貴の話題で珍しく彼女が表情を暗くする。けれど直ぐに、次に放たれる言葉の予想がついた。

 

「今朝はすまなかった……。おまえの言う通り、あたしがおまえの大切な家族を奪った」

「もういいって。今朝のことは全部俺が悪いし、兄貴が死んだのはあいつの自業自得だ」

「そんなことは……んっ!」

 

 反論してくる彼女の頭に手を置いて黙らせる。こうされると途端に大人しくなる癖は相変わらずだった。

 

「知ってると思うけど、あいつは自分で自分の身体に異形の生物を何体も埋め込んで強さを得てた。寿命が削れるのもお構いなしにな。だから、結局あいつは長く生きられなかったんだよ」

 

 呪術養成学校にいた頃も中佐や少将と派手になんかやってたみたいだし、死ぬ理由しかなかった。

 それに、

 

「戦えなくなって呪い死ぬより、誰か守って死んだ方が立派だった。家族として、そこだけは誇りに想う」

「…………」

 

 なんて言っても全然納得していない様子の三葉。その瞬間、頭の中のなにかが切れて、俺は彼女の髪を力いっぱいくしゃくしゃにする。

 

「うぎゃぁああああ!?」

「つうかさぁ! あいつに一番近かった家族(おとうと)が気にすんなっつってんだからもう気にすんなや! それでも引き摺るのは逆に罪だぞ!」

「わ、わかった……! わかったからもうやめて……!」

 

 強引に頷かせた俺は三葉を開放する。彼女は不機嫌そうな表情で慌てて自身の髪を整え始めた。

 

「くそぉぉ……変な癖ついたらどうしてくれるんだ……」

「すでにてっぺんくらいに変な癖ついてんだろうが」

「やめろ! 気にしてるんだ! まったく……デリカシーのない……」

 

 うだうだ俺の悪口言いながら三葉は髪を整え終える。しかし、終えた頃には交わした言葉の温度も冷めきってしまっていた。

 

「…………」

「…………」

 

 慣れきった沈黙。

 この時だけは言葉なんて探さず、ただ隣にしっかりと立ち尽くすだけでいい気がした。

 三葉もそう思ったのか、口を開こうとはしない。

 

 そして数刻。

 包み込む風も消え、煌めく星々も雲に隠れる。気温も少し下がってきたと思う。

 俺はもっともな刃で無音を抉る。

 

「風邪引くから戻るぞ」

「……ああ」

 

 そうして俺たち一緒に出入り口へ歩く。

 

「稜花」

「あ?」

「……ありがとう」

 

 悟られないように横目で見ると、少しだけ彼女は頬を赤く染めていた。

 

「そ、その……おまえに慰められるのは……結構心に効くから……」

「とか言って、また数日経ったら自分責めるんだろ?」

「それは…………そうかもしれない……」

 

 全然効いてねぇじゃねぇか。もうその瞬間的強がりには騙されねぇぞ。

 ドアノブを掴む手に無駄に力が入る。開ける前に俺は振り返り、頬の赤い三葉に目を合わせる。

 

「ど、どうした……?」

 

 彼女はぎこちなくキョロキョロと目を泳がせた。

 自分を責めたくなったら俺のとこに来い。とか言おうと思ったけど、そんな空気じゃねぇや。

 俺ははぁーっと息を吐いて適当に、

 

「おまえちょっと太った━━」

「ふんッッ!!」

 

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